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審決分類 |
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07C |
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管理番号 | 1057483 |
審判番号 | 審判1999-7337 |
総通号数 | 30 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1998-02-03 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1999-05-06 |
確定日 | 2001-12-19 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第 42855号「新規な官能化ペルフルオロポリエーテルとその製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 2月 3日出願公開、特開平10- 29955]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.本願は、昭和61年11月14日(優先権主張 1985年11月20日 イタリア)に出願した特願昭61-270001号の一部を平成9年2月13日に新たな特許出願としたものであって、その発明の要旨は、平成10年11月20日付けの手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された、次のとおりのものである。 「【請求項1】 下記類 【化1】 I)RfO(CF2CF2O)nRf II)A(CF2CF2CF2O)nB III)E(CF2CF2O)m(C3F6O)p(CF2O)q(CFO)rD | CF3 [ここでn、m、p、qおよびrは整数にして、nは2~200範囲、m、p、qおよびrは1~100範囲で夫々変動し、そしてm+p+q+rの和は4~400範囲であり、 RfはCF3又はC2F5であり、 AはF又はORfであり、 BおよびDは炭素原子1~3個のペルフルオロアルキルであり、 EはF又はOR'f(R'f=炭素原子1~3個のペルフルオロアルキル)である] のペルフルオロポリエーテルを分断するに当り、前記第(I)類、第(II)類又は第(III )類のペルフルオロポリエーテルを、V、Mn、Ni、Cu、Zr、MoおよびZnの遷移金属、Sn並びにSbの群から選ばれる元素の弗化物、オキシ弗化物、酸化物又はこれらの混合物或はこれらの先駆物質よりなる触媒の存在下150~380℃範囲の温度に加熱することを含む方法。 【請求項2】 分断を弗素の存在で実施することを特徴とする、請求項1記載の方法。 【請求項3】 触媒を出発物質ペルフルオロポリエーテルに関して0.1~10重量%範囲とすることを特徴とする、請求項1記載の方法。 【請求項4】 分断物を反応混合物から蒸留により連続的に除去する、請求項1記載の方法。 【請求項5】 低分子量の中性ペルフルオロポリエーテルが取得される、請求項1又は2記載の方法。 2.これに対して、原査定の拒絶理由の概要は、本願明細書には、本願発明における触媒の使用について当業者が容易に実施できる程度に記載されていないから、本願は、特許法36条3項に規定する要件を満たしていない、というものである。 そこで、本願明細書に、当業者が本願発明を容易に実施できる程度に記載されているか否かについて検討する。 i)本願発明は、高分子量のペルフルオロポリエーテルを分断して低分子量のペルフルオロポリエーテルを製造する方法に関するものであるから、製造方法発明に該当する。 ii)製造方法発明を当業者が実施するには、原料出発物質(高分子量ペルフルオロポリエーテル)と生成物(低分子量ペルフルオロポリエーテル)、及び製造手段(処理手段)のそれぞれの要素が明らかにされていることが必要である。 原査定が、触媒の使用についての記載を拒絶の理由としていることから、触媒の使用に関わる本願発明の製造手段についての記載を摘記すると次のとおりである。 ii-1)「用いられる触媒の量は出発物質ペルフルオロポリエーテルの重量に関し0.1~10重量%範囲で変動する。本発明の方法は、・・・第(III)類のペルフルオロポリエーテルに対しても用いることができる。この場合、触媒の使用量は多くなり、処理時間も長くしまた温度も高くなる。」(【0005】) ii-2)「分断に付されるフルオロポリエーテルとして・・・第(II)類の化合物を用いることができる。・・・反応時間は例えば、1分~数時間好ましくは3分~5時間程度の広い範囲にわたって変動しうる。それゆえ、作動条件および使用触媒の特性値を選ぶことにより、高分子量ペルフルオロポリエーテルから出発して主に所定の平均分子量を有する化合物を得ることができる。」(【0006】)。 ii-3)「製造プロセスには、最終製品の粘度および蒸気圧特性を左右する所定の分子量を有する化合物の取得に重要な高い融通性が付与される。」(【0007】) ii-4)「この目的を達成するための限定条件は、a)温度を、触媒の種類および量を関数として150~380℃範囲に保つこと、そして、b)使用触媒の種類および濃度である。本発明に従った方法に適する触媒は、前記元素の、弗化物又はオキシ弗化物以外の化合物からも取得しうるが、但しそれら化合物は反応条件下、対応する弗化物若しくはオキシ弗化物に少くとも部分的に添加し得、更には処理すべきペルフルオロポリエーテルから弗素を放出しうるものとする。」(【0008】) ii-5)「ニッケルの場合、効果的触媒は、酸化度の最も高い金属弗化物により代表されることが確かめられた。また、良好な結果は、酸化度が最高値より低いNiのハロゲン化物を用いても達成される。但し、その場合、反応容器には基体弗素流れを導入し、該流れによって最も高い酸化状態にある対応弗化物を現場形成させるものとする。また、弗化物およびオキシ弗化物は、弗素の存在で対応するハロゲン化物から現場製造することができる。」(【0009】) ii-6)平成10年11月20日付の手続補正書により追加された実施例1「油浴で加熱せる20mm1容量のハステロイオートクレーブに、米国特許第4,523,039号の例1に従つて製造した構造CF3(OCF2CF2)5OC2F5のペルフルオロポリエーテル10gとイタリア国特許出願21,052A/84の例1に従つて製造したγ-AlF30.1gを導入し、240℃の温度に10分間加熱した。次いで、得られた生成物を減圧下蒸発させ、ドライアイス/アセトンで-80℃に冷却せるトラップ内に集めた。生成物は9g量で、酸および中性分子の20:80比混合物よりなった。この混合物を分析した結果、それがA(OCF2CF2)nOB(ここでAとBは同じか又は別異で-CF3、CF2CF3又は-CF2COFであり、nは0~3範囲である)の分子類よりなるとわかった。」 iii)これらの記載は、触媒の種類と濃度(量)は、本願発明の目的を達成するための重要な条件であり(【0008】)、その触媒の種類と量に応じて反応温度が定まり(【0008】)、また、各触媒の特性値と作動条件(反応条件)を選ぶことによって、所定の平均分子量を有する化合物が得られる(【0006】)として、本願発明においては、触媒の種類、特性、量が反応条件及び生成物化合物に影響を与える重要な要素であることを示している。 このことは、当業者が所定の(目的とする)平均分子量を有する化合物を得るためには、触媒の種類、使用量及び反応条件についての情報が不可避的に必要であることを意味するものと認められる。 しかし、 iii-1)本願明細書には、触媒の種類について、 特許請求の範囲の記載と同様な、「V、Mn、Ni、Cu、Zr、Mo、Znの各遷移金属、Sn及びSb群から選ばれる元素の弗化物、オキシ弗化物、酸化物又はこれらの混合物あるいはこれらの先駆物質」という広範かつ包括的な記載があるだけで(Niについては、「金属弗化物により代表される」旨の記載がある。)、目的にかなった特定の触媒を着想し、あるいは、製造ないし入手する手がかりとなる説明はなく、その使用量も、原料ペルフルオロポリエーテルに対し0.1~10重量%(第(III)類のポリエーテルの場合は多い)、反応温度は150~380℃、反応時間は1分~数時間好ましくは3分~5時間程度、という、ともに広範な変動範囲が示されるに止まり、当業者が実施に必要な条件設定の手がかりとすべき具体的な説明が一切なされていない。 iii-2)本願明細書には、前記のとおり、”実施例1”として、第(I)類のペルフルオロポリエーテル原料から、γ-AlF3を触媒としてA(OCF2CF2)nOB(AとBは同じか又は別異で-CF3、CF2CF3又は-CF2COFであり、nは0~3範囲である)を得たとする製造例が追加されたが、γ-AlF3は、本願発明とは無関係の触媒であるから、”実施例1”が、本願発明の具体例に相当しないことは明らかである。 iii-3)一般に触媒の関与する反応において、触媒の種類(構成元素・組成等)が、反応の成否と密接に関係するものであることは、当業者のよく知るところであり、本願明細書においても、前記のとおり、触媒の種類、特性、量が反応条件及び生成物化合物に影響を与える重要な要素である旨の記載がなされている。しかも、Alは遷移金属ではなく、Sn及びSbと近い関係にある金属元素でもないことからすれば、γ-AlF3を使用する”実施例1”が本願発明の実施における手がかりとなるものとは認めがたい。 iii-4)出願人は、平成10年11月20日付の意見書において、”実施例1”は、本願のもととなる出願(特願昭61-270001号)の出願時の明細書に記載されていたものであり、”実施例1”と同様の操作をすれば同じ結果が得られることを当業者は容易に理解できる、旨主張したが、本願ともとの出願とは別個独立のものであるから、本願明細書における発明の開示と理解にもとの出願の明細書の記載が参酌されることはない。 実際、出願人が同意見書に添付した実験報告書の試験1及び試験2の反応条件(触媒の対原料重量%、反応温度、反応時間)を、”実施例1”と対比すれば、次のとおりであり、 ”実施例1”;(1重量%、240℃、10分) 試験1;(1重量%、280℃、2時間) 試験2;(0.4重量%、160℃(2気圧)、5時間) 生成物もそれぞれ異なっていて、実験報告書の内容が、「”実施例1”と同様の操作をすれば同じ結果が得られる」ことを裏付けるものとはなっていない。 iii-5)すなわち、”実施例1”は、当業者が本願発明を実施するための手がかりとなる具体的な説明とはなり得ないから、結局、本願明細書に、当業者が発明を容易に実施できる程度に記載されているものと認めることはできない。 iii-6)前記実験報告書の内容は、特許請求の範囲に記載された金属元素のうちのV、Mn、Ni、あるいはSbの弗化物について具体的な金属化合物と具体的な反応条件を示して、これらの金属化合物が、本願発明の製造方法において触媒として所期の目的・効果を達成し得るものであることを明らかにするものではあるが、明細書の記載自体でないことはいうまでもない。 このような実験報告書は、もともと代表的な具体例等とともに発明が開示された明細書において、具体例のない発明範囲についても同等の技術として実施できることを補足的に確認する場合に評価されるものであっても、本願明細書のように、もともと何らの具体的説明のない明細書において、本来あるべき具体的説明に変わるものとはなり得ない。 すなわち、実験報告書が提示されたからとって、本願明細書の記載自体が修復されるわけではなく、当業者が明細書の記載に基づいて発明を実施することに困難があることに変わりはない。 iii-7)出願人が、もとの出願の出願当初明細書と同じ特許請求の範囲と実施例の関係において他国では特許成立したとの事実を引用してなした、実施例と特許請求の範囲の関係についての主張は、元の出願の審理においてなされるべきものであって、本願明細書の記載の問題とは関わりがない。 4、以上のとおりであるから、本願明細書には、当業者が発明を容易に実施できる程度に記載されているものとは認められないから、本願は、特許法第36条第3項の規定を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2000-04-04 |
結審通知日 | 2000-04-18 |
審決日 | 2000-05-01 |
出願番号 | 特願平9-42855 |
審決分類 |
P
1
8・
531-
Z
(C07C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤森 知郎 |
特許庁審判長 |
花田 吉秋 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 谷口 操 |
発明の名称 | 新規な官能化ペルフルオロポリエーテルとその製造方法 |
代理人 | 風間 弘志 |
代理人 | 倉内 基弘 |