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審決分類 |
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F22B |
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管理番号 | 1060502 |
審判番号 | 審判1998-7292 |
総通号数 | 32 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1990-03-15 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1998-05-15 |
確定日 | 2002-05-30 |
事件の表示 | 昭和63年特許願第227182号「炉筒水管ボイラ」拒絶査定に対する審判事件[平成 2年 3月15日出願公開、特開平 2- 75803、平成 7年 9月 6日出願公告、特公平 7- 81682、請求項の数2]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
本願は、昭和63年9月10日に出願され、平成7年9月6日に出願公告(特公平7-81682号公報)されたものであって、出願公告後の平成10年6月8日付けの手続補正書および平成11年8月24日付けの手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明および請求項2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の通りのもの、および、請求項2に記載された次の通りのものにあると認める。 なお、平成8年8月13日付けの手続補正書によりなされた手続補正は、平成10年3月16日付けで特許法第54条により却下された。 また、平成11年8月24日付けの手続補正書による補正は、出願公告された明細書に記載された請求項2を削除し、同明細書に記載された請求項3を新たに請求項2とするものである。 「【請求項1】炉筒水管ボイラにおいて、炉筒内の燃焼火炎中を含む全空間に複数の収熱水管を配設するか又はボイラのバーナ近傍の収熱水管の一部分を省いて空間部を設け炉筒内に燃焼火炎中を含んで炉筒内に複数の収熱水管を設けたことを特徴とする炉筒水管ボイラ。」 「【請求項2】炉筒内収熱水管において、高伝熱面熱負荷部には裸管を使用するか、収熱水管の内面に溝を設けたり、外面に断熱被覆を行い、低伝熱面熱負荷部には外面にフィンを設けた請求項1記載の炉筒水管ボイラ。」 これに対し、当審において通知した平成11年6月10日付けの拒絶の理由で引用した、この出願の日前の出願であって、この出願後に出願公開された実願昭63-107336号(実開平2-28902号公報、本件特許出願の発明者はこの実用新案登録願に係る考案をした者と同一ではなく、また、本件特許出願時において、本件特許出願人はこの実用新案登録出願人と同一ではない。)の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、引用例という。)には、「複数本の水管を実質上平行に配置し、これら水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させる形式の多管式貫流ボイラーにおいて、燃焼ガスの流れ方向上流側から下流側に向けて、伝熱面密度の異なった2以上の水管群を、該密度の小なるものから大なるものの順に配置したことを特徴とする角型多管式貫流ボイラー。」が記載されており、この「角型多管式貫流ボイラー」に関し、上記引用例には、「(1)は水管壁、(2)、(3)、(4)は水管壁(1)、(1)間に2列に配列した水管群、(5)はバーナを示す。上記の水管壁(1)は、略直管状の水管(1a)を等間隔で1列に整列配置して成るもので、各水管(1a)同志をフィン状部材(6)で連結することにより、水管(1a)同志の間隔を塞いだ状態とし、これを図示する実施例では、缶体の両側に、両者が互いに略平行をなすように配置してある。各水管群(2)、(3)、(4)は、2列状態で、所定本数ずつ略等間隔で配列してあり、その各々を構成する水管(2a)、(3a)、(4a)は夫々直管、ヒレ付水管、エロフィン管としている。バーナ(5)としては、例えば表面燃焼バーナ等の予混合バーナを用いることができるが、このようなバーナは、水管群(2)の水管壁(1)端部間(図中上方)に配置する。従って、バーナ(5)からの燃焼ガスは、水管壁(1)、(1)間を図中上方から下方に向けて流れることになり、これに関連して上記の水管群(2)、(3)、(4)は、この流れ方向に沿って伝熱面密度(燃焼ガスの単位流路長さ当たりの伝熱面面積)の小さいものから大きいものへと配列された状態としてある。」(第5頁第10行~第6頁第12行)こと、「燃焼ガスは、前述したように上流側では高温で体積も大きいが下流側では水管への伝熱により低温となり、体積も減少し、伝熱効率も減少するけれども、この考案に係る缶体によれば、下流側ほど伝熱面密度を高めてあるため、各水管(1a)、(2a)、(3a)、(4a)における伝熱量は、上流側の水管(2a)から下流側の水管(4a)にかけても低下することなく、全体的に略均一となる。」(第7頁第6~13行)こと、「前述したような構造の缶体で、燃焼面負荷が600~1200×104kcal/立法mhのバーナを用いた場合、図中A点で約1200℃、B点で約550℃、C点で約370℃という結果が得られている。従って、この考案の缶体においては、上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても、燃焼ガス温度が低くおさえられ、下流側の外密度の大なる水管群においては、徐々に低下していくため、NOx特にthermal NOxの発生が防止でき、しかも上流側においても燃焼ガス温度が1200℃程度であるため、COが発生していても上流側でCO2(二酸化炭素のこと。以下同じ。)に酸化されてしまい、以下下流側では徐々に温度が下がるため、CO2が再び分離してCOとなるのも防止できる。」(第8頁第3~17行)こと、および、「この考案においては、バーナ(5)に空気比1.3の予混合気を供給して燃焼させた場合、NOxは、従来のものに比べて1/3~1/2程度まで低減し、またCOは十数ppm以下までに低減するという結果が得られた。」(第8頁第18行~第9頁第2行)ことが記載されている。 (1)そこで、先ず、本件の特許請求の範囲の請求項1に記載されたもの(前者)と上記引用例に記載されたもの(後者)とを対比検討する。 本願明細書には、「従来の炉筒煙管や炉筒水管ボイラは炉筒や水管が燃焼火炎を外から囲む設計になっており、火炎形状に合わせた燃焼空間が確保されていた。」(第2頁第19行~第3頁第1行)こと、「このように大きな空間で燃料を燃焼させると火炎の中心部に高温部が形成され、そのためNOxの発生が増大し公害問題を惹き起こすことがある。」(第3頁第6~9行)こと、「炉筒内に配設された収熱水管に火炎をぶつけると水管表面1mm以内では確かに火炎が冷却され未燃分やCOの発生があるが、水管と水管の間に数十mmの間隔をとることによって、この部分で未燃分やCOが燃焼して消滅すること。」(第4頁第5~10行)、および、「バーナヘッドから未燃分やCOが消滅するまでの距離(火炎長さ)」(第4頁第15~16行)であること(第4頁第17~18行)ことの記載が認められ、これらの本願明細書の記載からみて、前者における「燃焼火炎」とは、未燃分やCOが燃焼して消滅する部分をいうものと解されるし、その燃焼火炎の長さは、バーナヘッドから未燃分やCOが消滅するまでの距離をいうものと解される。 一方、上記の引用例の記載からみて、後者は、水管壁(1)端部間にバーナを配置すると共に、缶体の両側に両者が互いに略平行をなすように配置した水管壁(1)、(1)間において、バーナからの燃焼ガスの上流側には水管群(2)を構成する各水管(2a)を2列状態で所定本数ずつ略等間隔で配列し、その中流域にも水管群(3)を構成する各水管(3a)を2列状態で所定本数ずつ略等間隔で配列し、更に、その下流側には水管群(4)を構成する各水管(4a)を2列状態で所定本数ずつ略等間隔で配列し、この上流側では、燃焼ガス温度が1200℃程度であるため、COが発生してもその上流側でCO2に酸化してしまい、下流側では、徐々に温度が下がるためにCO2が再び分離してCOとならないようにした多管式貫流ボイラであると言うことができるから、少なくとも後者の上流側には、未燃分やCOが燃焼して消滅する部分、即ち、前者にいう燃焼火炎が存在し、後者の水管群(2)を構成する各水管(2a)の少なくとも一部はこの燃焼火炎中に配設されていると解することができる。 そして、上記の引用例の記載からみて、缶体の両側に両者が互いに略平行をなすように配置した水管壁(1)、(1)の間は、ボイラの炉筒内部に当たると言うことができる。 そうすると、後者は、炉筒内の前者にいう燃焼火炎中を含む全空間に複数の収熱水管を配設したボイラであると言うことができるから、前者と同一のものである。 審判請求人は、平成11年8月24日付け意見書において、「前者(上記の引用例に記載された発明のこと)は、一般に『燃焼ガス』といえば燃焼が完結したガスのことを指す。これに対して、後者(本件発明のこと)は、文字通り、燃料と空気が混合し光と熱の発生を伴い激しい連鎖的酸化反応をしている燃焼中の状況(燃焼反応部と呼んでもよい)を意味し、前者の、連鎖的酸化反応の燃焼がほぼ完結してしまった燃焼ガスとは、時間的に燃焼中と燃焼後とでは、全く、物理的状態が大きく異なっている。」(第2頁第31~37行)と主張している。 しかしながら、「燃焼ガス」といえば、必ず、燃焼が完結したガスのことを指すとは限らず、火炎を含む高温のガスのことを指すこともあり(この点、必要ならば、例えば、熊谷清一郎著「燃焼」岩波全書、1980年9月10日株式会社岩波書店発行、第2頁;中井多喜雄著「一問一答 ガスだきボイラーの実務」昭和61年11月25日日刊工業新聞社発行、第30乃至31頁;河村長司著「燃焼とエネルギ変換の工学」昭和62年8月28日日刊工業新聞社発行、第75乃至76頁等、参照。)、しかも、上記引用例の記載からみて、上記引用例には、上記引用例に記載されたものの燃焼ガスは、燃焼が完結したガスのこと或いは連鎖的酸化反応の燃焼がほぼ完結してしまった燃焼ガスのことであると解さなければならない旨の記載も見当たらないから、上記の審判請求人の主張は採用することができない。 また、審判請求人は、同意見書において、「引用例は、燃焼終了後の燃焼ガス内でのCO自体の酸化であり、燃料が空気と混合して激しく燃焼している燃焼火炎内の現象ではない。………一般に、COは、燃焼時に空気(酸素)が不足して必ず生じる中間物であり、燃焼が完結すれば、殆どがCO2になる。残留したCOは、水管(対流伝熱面)に流入し、徐々に酸化する。その酸化する過程は、燃焼温度が1300K以下にして、滞留時間を十分に与えれば行えることが知れている(甲第12号証)。例えば、引用例で従来例として挙げている特開昭60-78247号公報(甲第16号証)には、燃焼完結後の燃焼ガスで発生するCOを、温度を調整してCO2に酸化反応させる旨の記載があり、燃焼はこの場合終了し、温度上昇や光の発生もないために酸化としており、本例をもっても、燃焼火炎中に水管がある場合とは限らない証拠である。なお、拒絶理由では、COの酸化を燃焼としているが、燃焼とは、酸化反応が高温で光と発熱を伴いながら、自動的に進行するものであるので、この場合、燃焼とするのは適正ではない(甲第14号証)。つまり、1000~1500℃での高温状態では、燃焼が終了したガスの中で、COはその温度自身の為にCO2へ酸化するのであって、燃焼火炎の中で、燃料の燃焼と共にCOが消滅する本件発明のメカニズムとは明らかに本質的に作用が相違する。」(第3頁第19~40行)、「COが酸化してCO2となるから、燃焼火炎中に水管が置かれ管群内で燃焼と伝熱を行っていると推論するのは、明らかな誤りである。」(第4頁第14~15行)、「引用例では、バーナは、実施例の記載では、予混合バーナを使用している。同バーナでは、予め空気を混合してあるので、実際ではバーナの燃焼火炎の長さは実に短くなるので、あたかも、燃焼火炎の中にあるかのように誤解される可能性があるが、実際はその燃焼火炎は水管群内に入ってはいない。」(第4頁第30~34行)と主張している。 よって検討するに、審判請求人が同意見書に添付した甲第12号証(小林清志外2名著「機械工学基礎講座 燃焼工学ー基礎と応用ー」1988.8.31理工学社発行)の第151頁には、「COは、燃料過濃条件でしかも燃焼ガス温度が2000K以上となると、平衡組成でかなりのCOが生成されるので、COの生成量の低下のためには、燃料希薄条件で燃焼させればよいということになる。しかし、これではNOxの生成が助長されるため、問題の解決とはならない。そのため、高温状態で生ずるCOを排出までに完全燃焼させうるように、燃焼ガス温度を1300K以下にしつつ、火炎後流でもCOの酸化反応が進行しうるように水素分(または水分)の存在する雰囲気をつくり出し、充分な滞留時間を与える必要がある。」ことが記載されており(この記載内容は、審判請求人が同意見書に添付した甲第18号証(神戸商船大学教授 西田修身氏の宣誓供述書)において、供述者が、添付資料2参照と注して述べた供述内容に符合しているし、大竹一友外1名著「燃焼工学」1992年8月31日株式会社コロナ社発行、第189頁の記載とも符合している。)、この記載からみて、NOxの発生を抑制しつつ火炎後流でもCOの酸化反応が進行しうるようにするには、火炎後流の燃焼ガス温度を1300K以下にしつつ、水素分(または水分)の存在する雰囲気をつくり出し、充分な滞留時間を与える必要があると解されるところ、上記引用例に記載されたものは、上記引用例の記載からみて、NOx特にthermal NOxの発生を防止するものであって、その上流側での燃焼ガス温度を1200℃程度(図中A点では1200℃、即ち1473K)とし、COが発生していてもその上流側でCO2に酸化してしまうとするものであるから、上記引用例に記載されたものの「燃焼ガス」の温度は、火炎後流の燃焼ガスにおいてNOxの発生を抑制しつつCOの酸化反応が進行して完全にCO2になるガス温度条件、即ち1300K以下を相当越えているものになっている。 また、審判請求人が同意見書に添付した甲第16号証(特開昭60-78247号公報))には、「1は理論空気量以上の空気を予混合した燃料ガスが燃焼するガスバーナ、2は前記ガスバーナ1の上部周囲をとり囲むようにして設置した内胴、3はこの内胴2内であって、前記ガスバーナ1に形成された火焔の先端に殆ど接する位置に設置された冷物体としてのフィン群であって、このフィン群3内には冷水が通るチューブ4が挿通してあり、火焔が通過する際にその温度を約1000℃以上、約1500℃以下に制御するように設定してある。5は前記フィン群3の上部において、熱交換器6との間に形成した断熱空間にして、前記温度制御された火焔(燃焼ガス)はこの断熱空間5内においてその温度が維持されて酸化反応が進行し、火焔中に残留したCOをCO2に酸化させるものである。」(第2頁左下欄第2~17行)こと、および、「理論空気量以上の空気が予混合されたガスは、ガスバーナ1において高負荷燃焼を行う。なお実施例の場合における火焔温度は1800℃である。通常、火焔温度がこのように高温の場合、火焔中のCO2が解離して生成した高濃度のCOは、熱交換器6において直接、急速に冷却されると共にこの冷却(吸熱)が連続すると、残留COの酸化反応は進行せず、熱交換器6から出る排ガス中には高濃度のCOが含有されることになるが、高負荷燃焼によりガスバーナ1に形成された火焔は、先ずフィン群3内を通過する際に約1000℃以上、1500℃以下に冷却され、この温度範囲を持続しながら断熱空間5を通過する。このため、この段熱空間5内を通過するときの条件は、COがCO2に酸化する最良の条件となり、COは速やかに酸化され、該火炎の温度における平衡値まで低下する。COの平衡値は、温度に極めて強い相関を有しており、本発明の条件である約1000℃以上、約1500℃以下においては極めて低い値である。かくして該断熱空間5を通過した火焔(燃焼ガス)中には極めて低い濃度のCOしか含有されていないので、該燃焼ガスを次に熱交換器6に導いて吸熱するに当たり、いかなる急速な冷却があっても熱交換器6から出る排ガス中にCOが残留することはない。」(第2頁右下欄第10行~第3頁左上欄第14行)ことが記載されており、これらの甲第16号証の記載からみて、理論空気量以上の空気が予混合されたガスの燃焼により形成された1800℃の火焔は、その火焔先端が接するフィン群3内を通過する際に、その火焔温度が約1000℃以上、1500℃以下に冷却され通過し、火焔(燃焼ガス)となって断熱空間5内において約1000℃以上、1500℃以下の温度を維持するものと解されるが、上記引用例に記載されたものは、上記引用例の記載からみて、上流側での燃焼ガス温度を1200℃程度(図中A点では1200℃、即ち1473K)とするものであって、上記引用例に記載の1200℃程度は、甲第16号証に記載された約1000℃以上、1500℃以下の火焔温度の範囲内に入っているのであるから、この甲第16号証の記載をもって、上記引用例に記載されたものは燃焼火炎中に水管があるとは限らないことの証拠とすることはできないというべきである。 更に、小林清志外2名著「機械工学基礎講座 燃焼工学ー基礎と応用ー」1990.12.25理工学社発行)の第58頁には「速度が小さい領域では、火炎の表面が滑らかな層流火炎が形成される。この層流火炎の間の火炎長さは、噴流速度にほぼ比例して単調に増加するが、ある臨界の速度に達すると火炎の先端から乱れはじめ、乱流火炎となる。」ことや「図3.19 噴流速度による拡散火炎の変化(都市ガス、ノズル直径:3.2mm」が記載されており(この記載内容は、平野敏右著「燃焼学ー燃焼現象とその制御ー」平成3年4月20日海文堂出版株式会社、第82頁、83頁の記載内容とほぼ符合する。)、この記載を参酌すると、予混合バーナの燃焼火炎の長さは、審判請求人のいうように実に短いものとなるではなく、相当に長いものとなることがわかる。 そうすると、上記引用例に記載されたものも、上記引用例の記載からみて、予混合バーナを使用しており、その火炎長さは相当長いものになるといえなくはない。 そして、上記引用例に記載されたものの図中A点よりもバーナに近い部分の燃焼ガス温度は、図中A点の燃焼ガス温度1200℃よりも高いということができる。 更に、燃焼火炎中では、CO2が分離してCOとなったり、発生したCOがCO2に酸化する燃焼反応が生じており、燃焼が完結すれば殆どがCO2になることも周知のことである。 以上のことを総合勘案すると、引用例に記載された燃焼ガス内でのCO自体の酸化は、燃焼終了後の燃焼ガス内でのCO自体の酸化であり、燃料が空気と混合して激しく燃焼している燃焼火炎内の現象ではない旨、および、引用例に記載されたものの燃焼火炎は水管群内に入ってはいない旨の審判請求人の上記主張は採用することができない。 平成11年6月10日付けの拒絶理由では、上記の引用例の記載からみて、少なくとも上記引用例に記載されたものの上流側には、未燃分やCOが燃焼して消滅する部分、即ち、本件発明にいう燃焼火炎が存在するとしているのであって、審判請求人のいうように、単に、COの酸化を燃焼としているのではない。 更にまた、審判請求人は、同意見書において、「伝熱面密度を小から大なるものへ水管群を配置した事と有害排出物の発生との作用上の相関関係が何も開示されてなく不明である。」(第4頁第51~53行)、「NOxの発生は、『下流側の外密度の大なる水管群においては、(温度が)徐々に低下していくため、NOx特にthermal NOxの発生が防止でき』(同8頁10~12行目)とあるが、一般に、1427℃以下では、NOxの発生は殆どなくなるので、なぜ、上流側が1200℃程度であるにも拘わらず、『下流側の外密度の大なる水管群においては、(温度が)徐々に低下していくため』NOx特にthermal NOxの発生が防止できるのか不明である。」(第5頁第1~7行)、「このような未完成発明か又は作用効果不明の引用例に本件発明が記載されているとは到底考えられない。」(第5頁第15~16行)と主張している。 しかしながら、上記引用例には、「上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても、燃焼ガス温度が低くおさえられ、下流側の該密度の大なる水管群においては、徐々に低下していくため、NOx特にthermal NOxの発生が防止でき、」との記載、および、「上流側においても燃焼ガス温度が1200℃程度である」との記載が認められる。 そして、日本バーナ研究会編「図解燃焼技術用語辞典」昭和57年8月30日日刊工業新聞社発行、第107頁には「反応機構についてはZeldovich機構または拡大Zeldovich機構が提案されており、火炎後流で生成されるthermal NOについて説明づけられている。これらの理論や実験によるとthermal NOの生成速度は温度、酸素濃度および高温場での滞留時間によって影響を受けるが、特に温度に関しては指数関数的であり、約1300℃以上になると急激に増大する。」ことが記載されている。(この記載内容は、小林清志外2名著「機械工学基礎講座 燃焼工学ー基礎と応用ー」1990.12.25理工学社発行、第139乃至140頁の記載内容とほぼ同じである。ただし、小林清志外2名は、「ゼドビッチNOの生成では温度依存度が大きいため、1700K(1427℃)以下では実用上NOの生成を抑制できる。」(第140頁第10乃至11行)としている。) 上記引用例の記載を上記「図解燃焼技術用語辞典」の記載を照らし合わせてみると、上記引用例に記載されたものにおいては、上流側および下流側の燃焼ガス温度が、NOxの生成が急激に増大するといわれている約1300℃よりも低い1200℃に抑えられていることを意味するものであり、そのため、NOx特にthermal NOxの発生が防止できることを意味するものであると解することができる。 したがって、上記の審判請求人の主張も採用することができない。 更に更にまた、審判請求人は、同意見書において、「前者(上記引用例に記載された発明のこと)は、燃焼ガスが最後部の水管(4a)を通過するまでの時間を長く設定して、COの酸化を促すのに対して、後者(本件発明のこと)は、燃焼火炎を水管内に入れ、その管群内で燃焼を行わせるもので両者は技術思想が全く相違している。」(第2頁第8~10行)と主張している。 しかしながら、これまでに述べたとおりであって、上記引用例に記載されたものは、炉筒内の本願発明にいう燃焼火炎中を含む全空間に複数の収熱水管を配設したボイラであると言うことができ、NOx特にthermal NOxの発生が防止でき、しかも上流側においても燃焼ガス温度が1200℃程度であるため、COが発生していても上流側でCO2に酸化されてしまい、以下下流側では徐々に温度が下がるため、CO2が再び分離してCOとなるのも防止できるようにしたものであるということができるから、上記の審判請求人の主張も採用することができない。 (2)続いて、本件の特許請求の範囲の請求項2に記載されたもの(前者)と上記引用例に記載されたもの(後者)とを対比検討する。 本願明細書には、「本発明による収熱水管まわりの伝熱面熱負荷分布を第8図に示す。第8図において(9)は対流伝熱(Qc)、(10)は輻射伝熱(Qr)で全伝熱面熱負荷(Qr+Qc)はバーンアウトは起さない限界伝熱面熱負荷以下で収熱水管の全周にわたってほぼ均一になっている。」(第5頁第5~9行)の記載が認められ、この本願明細書の記載からみて、本発明の「伝熱面熱負荷」とは、限界伝熱面熱負荷以下で収熱水管の全周にわたってほぼ均一に分布する熱負荷であって、対流伝熱と輻射伝熱とが加えられた熱負荷をいうものと解され、前者の「高伝熱面熱負荷部」及び「低伝熱面熱負荷部」とは、それぞれ、収熱水管の上記熱負荷が高かくなる炉筒内部分、及び、収熱水管の上記熱負荷が低くなる炉筒内部分をいうものと解される。 しかしながら、上記の引用例の記載からみて、後者は、缶体の両側に両者が互いに略平行をなすように配置した水管壁(1)、(1)端部間にバーナを配置すると共に、これら水管壁(1)、(1)間において、バーナからの燃焼ガスの上流側には水管群(2)を構成する各水管(2a)を2列状態で所定本数ずつ略等間隔で配列し、その中流域にも水管群(3)を構成する各水管(3a)を2列状態で所定本数ずつ略等間隔で配列し、更に、その下流側には水管群(4)を構成する各水管(4a)を2列状態で所定本数ずつ略等間隔で配列した多管式貫流ボイラであって、その水管(2a)、(3a)、(4a)は夫々直管、ヒレ付水管、エロフィン管としているものであり、少なくとも後者の上流側は、そこに未燃分やCOが燃焼して消滅する部分、即ち、前者にいう燃焼火炎が存在するから、水管の上記熱負荷が高くなった炉筒内部分、即ち、ボイラの炉筒内の高伝熱面熱負荷部に当たり、少なくとも後者の中流域、及び、下流側は、上流域に比べてそこの温度が徐々に下がった部分であるから、水管の上記熱負荷が低くなった炉筒内部分、即ち、ボイラの炉筒内の低伝熱面熱負荷部に当たると解することができる。 そうすると、後者は、炉筒内の前者にいう燃焼火炎中を含む全空間に複数の収熱水管を配設したボイラであって、その高伝熱面熱負荷部には裸管を使用し、その低伝熱面熱負荷部には外面にフィンを設けた収熱水管を使用したボイラであると言うことができるから、前者と同一のものである。 以上のとおりであるから、この出願の請求項1に係る発明および請求項2に係る発明は、いずれも、上記引用例に記載された考案と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2000-02-24 |
結審通知日 | 2000-03-07 |
審決日 | 2000-03-24 |
出願番号 | 特願昭63-227182 |
審決分類 |
P
1
8・
161-
WZ
(F22B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村本 佳史、清田 栄章、鈴木 敏史 |
特許庁審判長 |
寺尾 俊 |
特許庁審判官 |
冨岡 和人 大槻 清寿 |
発明の名称 | 炉筒水管ボイラ |
代理人 | 本田 紘一 |