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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) A23L
管理番号 1067210
審判番号 審判1999-35483  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-09-13 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-09-07 
確定日 2002-11-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2866690号発明「茹うどんの製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2866690号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2866690号は、平成2年1月12日に特許出願され、平成10年12月18日に特許の設定登録がされた。
(2)請求人 日本製粉株式会社は、無効審判を請求すると同時に甲第1~10号証を提出して、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲第1号証、又は甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法第29条第2項の規定によって、また甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明と同一であるから同法第29条の2第1項の規定によって、特許を受けることができないものである旨主張した。
(3)被請求人 日清製粉株式会社は、平成11年12月6日付けで答弁書と共に訂正請求書を提出して、訂正明細書のとおり訂正することを求めた。
(4)請求人は、平成12年5月16日付けで弁駁書を提出して、たとえ今般の訂正によっても、訂正請求に係る請求項1の発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張し、新たに参考資料1~18を提出した。
(5)被請求人は、平成12年9月12日付けで第二答弁書を提出して、訂正請求に係る請求項1の発明には格別の効果が存する以上、当該請求項1の発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張し、新たに実験成績証明書(乙第1号証)を提出した。
(6)請求人は、平成12年9月12日付けで第二弁駁書を提出して、訂正請求に係る請求項1の発明は、周知技術の組み合わせにすぎず、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張し、新たに参考資料19~40及び表3を提出した。
(7)当審の合議体は、平成12年9月12日に口頭審理を実施して、両当事者の主張を整理した。
(8)請求人は、平成12年10月11日付けで上申書を提出して、本件出願前、当業者において、流通販売用茹うどんが加熱調理時に水分を吸収することを考慮に入れて、流通販売用茹うどんの水分含量が低めとなるように製造し、即ち硬めの状態に茹でて製造することはよく知られていることである等主張し、新たに参考資料41~45を提出した。
(9)被請求人は、平成12年10月12日付けで上申書を提出して、減圧下で生地混練を行うと共に、茹歩留りをそれぞれ215%(比較例)及び263%(比較例)とした場合の結果と、243%(実施例)とした場合の結果とに有意の差が認められる等主張し、新たに実験成績証明書(乙第2号証)及び乙第3~5号証を提出した。
(10)当審の合議体は、平成13年1月4日付けで訂正拒絶理由を通知した。
(11)被請求人は、平成13年3月23日付け訂正拒絶意見書において、
訂正請求に係る請求項1の発明は、当業者といえども容易に想到し得るものではない旨主張した。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
(a)特許請求の範囲の請求項1中、「原料粉を用いて製麺し、」とあるのを「原料粉を用い、生地混練を減圧下で行って製麺し、」と訂正する。
(b)明細書第3頁第1行(特許公報第2頁第3欄第6~7行)に「タピオカ澱粉を使用すると共に、」とあるのを、「タピオカ澱粉を使用すると共に、減圧下生地混練して製麺し、」と訂正する。
(c)明細書第3頁第8行(特許公報第2頁第3欄第13行)に「原料粉を用いて製麺し、」とあるのを、「原料粉を用い、生地混練を減圧下で行って製麺し、」と訂正する。
(d)明細書第4頁第11~14行(特許公報第2頁第4欄第11~14行)に「この製麺方法は………好ましい。」とあるのを、「この製麺に際し、特に滑らかで粘弾性の良好な茹うどんを得るために、生地形成のための混練を減圧下で行う必要がある。」と訂正する。
(e)明細書第7頁第10行(特許公報第2頁第4欄第38行)に「本発明を例により」とあるのを、「本発明を例(試験例及び実施例)により」と訂正する。
(f)明細書第7頁第12行(特許公報第2頁第4欄第40行)に「例1~6」とあるのを、「例1~6(試験例)」と訂正する。
(g)明細書第10頁の表ー2(特許公報第3頁の表ー2)に「例1(比較例)」、「例2(実施例)」、「例3(実施例)」、「例4(比較例)」、「例5(比較例)」、「例6(比較例)」とあるのを、それぞれ「例1」、「例2」、「例3」、「例4」、「例5」、「例6」と訂正する。
(h)明細書第11頁第1行(特許公報第3頁第5欄第32行)に「本件発明方法(例2~3)とあるのを、「例2~3」と訂正する。
(i)明細書第11頁第6~7行(特許公報第3頁第5欄第36~37行)に「低い場合(例1)および285%を越える場合(例6)」とあるのを、「低い例1の場合および285%を越える例6の場合」と訂正する。
(j)明細書第11頁第11行(特許公報第3頁第5欄第40~41行)に「本発明の方法(例3)」とあるのを「例3」と訂正する。
(k)明細書第11頁第13~14行(特許公報第3頁第5欄第42~43行)に「本発明以外の茹うどん(例1と例6)」とあるのを、「例1と例6の茹うどん」と訂正する。
(l)明細書第11頁第13~14行(特許公報第3頁第5欄第42~43行)に「例7~13」とあるのを「例7~13(試験例)」と訂正する。
(m)明細書第13頁の表ー3(特許公報第4頁の表ー3)中、「例7(比較例)」、「例8(実施例)」、「例9(実施例)」、「例10(実施例)」、「例11(実施例)」、「例12(実施例)」、「例13(比較例)」
とあるのを、それぞれ「例7」、「例8」、「例9」、「例10」、「例11」、「例12」、「例13」と訂正する。
(n)明細書第14頁第1行(特許公報第4頁第7欄第42行)に「例14」とあるのを、「例14(実施例)」と訂正する。
(o)明細書第14頁第6行(特許公報第4頁第7欄第46行)に「この茹うどん」とあるのを、「この本発明方法で製造した茹うどん」と訂正する。
(p)明細書第15頁第1行(特許公報第5頁第9欄第4行)に「例15~19」とあるのを、「例15~19(試験例)」と訂正する。
(q)明細書第16頁の表ー5(特許公報第5頁の表ー5)中、「例3(実施例)」、「例15(比較例)」、「例16(比較例)」、「例17(比較例)」、「例18(比較例)」、「例19(比較例)」とあるのを、それぞれ「例3」、「例15」、「例16」、「例17」、「例18」、「例19」と訂正する。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
上記(a)の訂正は、「原料粉を用いて製麺し」を「原料粉を用い、生地混練を減圧下で行って製麺し」と限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記(b)~(q)の訂正は、上記特許請求の範囲の減縮に伴い、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合するようにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、生地混練を減圧下で行って製麺することについては、願書に添付した明細書に「………この製麺方法は通常行われている方法でよい。特に、生地形成のための混練を減圧下で行うと、滑らかで粘弾性の良好な茹うどんになるので好ましい。」(特許公報第2頁第4欄11~14行)及び「例10において、生地の混練を減圧ミキサーを用い、減圧度-600mmHg(常圧から600mmHg減圧)で行った」(特許公報第4頁の例14)と記載されていることから、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ.独立特許要件の判断
(1)本件訂正発明
訂正請求に係る請求項1の発明(以下、本件訂正発明という。)は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものとものと認める。
「小麦粉を主体とする穀粉に対してα化されておらず、かつ油脂加工されていないタピオカ澱粉を内割で5~40重量%配合した原料粉を用い、生地混練を減圧下で行って製麺し、これを茹でてその茹歩留りを220%ないし260%未満に調整することを特徴とする流通販売用茹うどんの製造法。」

(2)引用例記載の発明
上記訂正拒絶理由において引用した特公昭62ー49018号公報(以下、引用例という。請求人が提出した甲第2号証参照)には、下記a~dに示す事項が記載されている。
a.「小麦粉または小麦粉とそば粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉およびハト麦粉からなる群から選ばれる異種穀粉との混合物に対してタピオカ生澱粉を、小麦粉または該混合物とタピオカ生澱粉の合計重量に基づいて3~50%の割合で配合してなる原料粉を使用して製麺することを特徴とする麺類の製造法。」(特許請求の範囲)
b.「したがって、本発明でいうタピオカ澱粉とは、実質的にα化されていないタピオカ澱粉をいう。」(1頁2欄7~9行)
c.「本発明方法は……………、従来の麺類に比べて優れた食味を呈し、しかもこの食味は茹上げ後1日以上放置しても実質的に劣化しない。また特に麺類の食味として重要な茹上げ後における麺類の性質である滑らかさおよび粘弾性についても非常に優れた効果を示す。さらに本発明に係る麺類は従来のものに比べて茹で時間が短縮され且つ茹上げ時の煮崩れが少ない利点を有する。」(1頁2欄25行~2頁3欄6行)
d.「実施例1
小麦粉80重量部(以下部と略する)、タピオカ生澱粉20部、水35部および食塩2部を用い、常法により生うどん(幅3mm、厚さ2.5mm)を製造した。なお…………………生うどんを製造し、下記評価基準に従って比較試験した。…………………(D)茹上げ時間 生うどんを茹でて麺中の水分が75%になった時点をもって茹上がりとした。」(2頁3欄7行~4欄25行)

(3)対比・判断
本件訂正発明と引用例に記載の発明を対比すると、両者は、小麦粉を主体とする穀粉に対してα化されておらず、かつ油脂加工されていないタピオカ澱粉を内割で5~40重量%配合した原料粉を用い、生地の混練を行って製麺し、これを茹でることを特徴とする茹うどんの製造法の点で一致し、(i)前者は、生地混練を減圧下で行って製麺するのに対して、後者には、生地混練を減圧下で行って製麺することについて記載されていない点、(ii)前者は、茹うどんの茹歩留りを220%ないし260%未満に調整するのに対して、後者は、茹うどんの水分量を75%に調整する点、及び(iii)前者は、茹うどんを「流通販売用」に限定しているのに対して、後者には、茹うどんを「流通販売用」に供することについて記載されていない点、で両者は相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(i)について
生地混練を減圧下で行って製麺すること、及びかかる製麺方法を実施することにより、滑らかさ、粘弾性等の食感が良好な茹麺が得られることは、本件特許の出願前に当業者において周知の事実である(必要なら、平成12年5月16日付け弁駁書に添付の参考資料1~18参照)ことから、製麺に際し生地混練を減圧下で行うことは当業者が容易に想到し得ることである。

相違点(ii)について
茹うどんを包装して流通販売に供する際に、消費者の嗜好、喫食形態(例えば、つけうどん、煮込みうどん等)などを考慮して、うどんの茹歩留り(水分量)を調整することは、当業者なら当然に行うことであり、また茹歩留まりが「220%ないし260%未満」の範囲内にある茹麺も、本件特許の出願前に当業者において周知のものである。(必要なら、特開昭63ー79569号公報、「ジャパンフードサイエンス」第28巻第5号5月号(1989)23~24頁、平成12年9月12日付け第二弁駁書に添付された参考資料38及び39参照。)
加えて、流通販売用の茹うどんを消費者が喫食する際に、加熱調理をすることでうどんの水分量が増えることを考慮して、茹うどんの水分含量を低めにしておくこと、言い換えると流通販売用茹うどんの製造において、水分含量を低めにしておき、消費者が家庭などで加熱調理するときに茹うどんが水分を吸収することで、喫食時に最もおいしく食べられるようにすることは、本件特許の出願前当業者において周知の事実である。(例えば、平成12年10月11日付けの上申書に添付の参考資料41~45参照。)
してみれば、タピオカ澱粉を上記特定量配合した原料粉を用いて流通販売用の茹うどんを製造する際に、うどんの茹歩留まりの最適な範囲を実験により決定し、その茹歩留まりを「220%ないし260%未満」とすることは、当業者において格別の創意を要することではない。

相違点(iii)について
茹うどんを流通販売に供することは本件特許の出願前ごく普通に実施されていること、及び引用例には、製造された茹うどんを流通販売に供することを否定する記載はないことを合わせ考えると、引用例に記載の茹うどんを流通販売用とすることは、当業者なら容易に想到し得ることである。

ところで、被請求人は、平成12年9月12日付け第二答弁書において、甲第1~5号証はもとより、参考資料1~18を参酌しても、茹うどんの製造に当たり、本件訂正発明の如く、「タピオカ澱粉を内割で5~40重量%配合した原料粉」(構成Aという。)と「茹うどんの生地混練を減圧下で行って製麺すること」(構成Bという。)及び「茹歩留りを220%ないし260%未満に調整すること」(構成Cという。)とを組み合わせると云う技術的発想はそもそも全く生じる余地のないものである旨主張する。
しかしながら、上記構成A~Cは、上述のとおり公知あるいは周知の事項であり、しかもこれら構成はいずれも食感の良好な茹うどんを製造することを目的として選択された技術的手段であって、流通販売用茹うどん製造における原料粉、製麺工程、及び茹で工程にそれぞれ係わるものであることからして、これら構成A~Cを組み合わせることを阻害する要因はないというべきである。
してみると、各構成A~Cのもつ各効果の総和を期待して、構成A~Cを組み合わせることは、当業者において格別困難なことではなく、被請求人の上記主張は採用しない。

そして、本件訂正発明の効果を検討しても、以下に示すとおり、本件訂正発明は、格別の効果を奏するものとはいえない。
茹うどんにおいて、「茹上げ直後の外観」、「茹上げ直後の食感」及び「茹上げ後における経時的変化」は、当業者にとって当然の評価項目である。(必要なら、例えば「食品と科学」第28巻第3号、昭和61年3月号、128頁参照。)
したがって、タピオカ澱粉を特定量配合した原料粉を用いる引用例に記載の発明に、「茹うどんの生地混練を減圧下で行って製麺する」及び「茹歩留りを220%ないし260%未満に調整する」という処理条件を適用した場合に、茹うどんにおける上記のような評価項目を実施して、その効果の程度を確認することは当業者であれば当然に行うことであると解されるから、そのような評価項目における効果は、当業者が予測し得る範囲内のものと解すべきである。(平成5年(行ケ)第84号判決、平成7年6月22日判決言渡参照。)
しかるところ、本件特許明細書の作用効果についての記載から、本件訂正発明は、「茹上げ後時間が経過しても茹うどんの外観、粘弾性、滑らかさ等の食感が低下しない」という効果を奏するものと認められ、また、被請求人が提出した平成12年8月21日付け実験成績証明書(乙第1号証)の記載から、本件訂正発明の方法がタピオカ澱粉を添加しない方法および歩留りを高めに設定した方法に比べ、外観、食感(粘弾性、滑らかさ)において優れていることが認められ、さらに、被請求人が提出した平成12年10月2日付け実験成績証明書(乙第2号証)の記載から、茹で歩留まりが243%の本件訂正発明の茹でうどんは、茹であげ直後、茹で上げ後1日経過後、及び4日経過後のいずれの場合も外観、食感ともに優れていることが認められるが、このような効果は当業者が予測し得る範囲内のものである。
被請求人は、平成12年9月12日付け第二答弁書において、本件訂正発明は、冷凍せずとも、茹で上げ直後の外観・食感を長期安定に保持することに成功したものであり、この点からしても従来には見られない格別の効果を奏するものであることは明らかである旨主張する。
しかしながら、流通販売用茹うどんは、通常茹上げ後時間が経過して消費者の手に渡るものであり、このような流通販売用茹うどんにとって、茹上げ後に時間が経過しても外観、食感等の品質低下が少ないことは当然に求められることであり、茹上げ後一定時間が経過したときの外観、食感等の品質を評価することは当業者であれば当然に行うことであるから、被請求人の主張する上記効果は、当業者が予測し得る範囲内のものである。
加えて、引用例には、タピオカ澱粉を特定量配合することに基づく効果について「従来の麺類に比べて優れた食味を呈し、しかもこの食味は茹上げ後1日以上放置しても実質的に劣化しない。」(1頁2欄26行~2頁3欄1行)と記載されており、かかる記載からみても、被請求人の主張する上記効果は、当業者の予測を越える顕著なものということはできない。
また、被請求人は、平成12年10月12日付け上申書において、乙第3~5号証を提出して、乙第2号証の実験成績証明書に記載のデータは特許性を裏付けるものである旨主張している。
しかしながら、発明の進歩性については、構成の容易性と効果の顕著性を総合して判断するのであり、本件訂正発明とは全く構成の異なる乙第3~5号証に記載の発明に関する進歩性の判断は、本件訂正発明の進歩性の判断に何らの影響を与えるものではなく、被請求人の上記主張は採用しない。

エ.むすび
したがって、本件訂正発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成11年12月6日付けの訂正は、特許法第134条第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

3.特許無効についての判断
(1)本件発明
本件請求項1に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「小麦粉を主体とする穀粉に対してα化されておらず、かつ油脂加工されていないタピオカ澱粉を内割で5~40重量%配合した原料粉を用いて製麺し、これを茹でてその茹歩留りを220%ないし260%未満に調整することを特徴とする流通販売用茹うどんの製造法。」(以下、本件発明という。)
(2)請求人の主張
請求人は、平成11年9月7日付け審判請求書において、「特許第2866690号を無効とする、審判費用は被請求人とする」との審決を求めている。
そして、上記審判請求書において、以下の特許無効の理由を挙げて、本件特許は、特許法第123条の規定により無効とされるべきであると主張している。
ア.本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
イ.本件発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
ウ.本件発明は、本件特許出願前に出願され本件出願後に出願公開された出願に係る甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明と同一であるので、特許法第29条の2の規定に該当し、特許を受けることができない。
そして、請求人は、平成11年9月7日付け審判請求書と同時に次の証拠方法を提出している。
甲第1号証 特開昭63ー79569号公報
甲第2号証 特公昭62ー49018号公報
甲第3号証 「80年代のめん類」食品出版社 昭和54年7月10日
発行、59頁
甲第4号証 特開平3ー35766号公報
甲第5号証 特開平3ー195466号公報
甲第6号証 「めんの本」食品産業出版社 1980年9月25日発行
72~76頁
甲第7号証 特開昭54ー41341号公報
甲第8号証 特開昭56ー131358号公報
甲第9号証 特開昭61ー216651号公報
甲第10号証 特開平1ー168250号公報

また、平成12年5月16日付け弁駁書と同時に次の証拠方法を参考資料として提出している。
参考資料1 「めんの本」食品産業新聞社 1986年5月10日発行
54~57頁
参考資料2 「ジャパンフードサイエンス」日本食品出版株式会社
1984年6月5日発行、2頁、39~42頁
参考資料3 「ジャパンフードサイエンス」日本食品出版株式会社
1985年8月5日発行、23~27頁
参考資料4 「食品と科学」食品と科学社 1987年5月10発行
94~97頁
参考資料5 「食品と科学」食品と科学社 1988年7月10発行
107~111頁
参考資料6 特開昭59ー156260号公報
参考資料7 特開昭56ー78570号公報
参考資料8 特開昭58ー190362号公報
参考資料9 特開昭60ー176554号公報
参考資料10 特開平2ー27955号公報
参考資料11 特開昭61ー177955号公報
参考資料12 特開昭61ー28334号公報
参考資料13 特開昭60ー244269号公報
参考資料14 特開昭60ー87726号公報
参考資料15 特開昭60ー75244号公報
参考資料16 特開昭59ー213373号公報
参考資料17 特開昭59ー2666号公報
参考資料18 特開昭58ー51859公報

さらに、平成12年10月11日付け上申書と同時に次の証拠方法を参考資料として提出している。
参考資料41 「食品と科学」昭和61年12月号
参考資料42 特開昭52ー51045公報
参考資料43 特開昭60ー259154公報
参考資料44 特開昭61-31054号公報
参考資料45 特開昭62ー134053号公報

(3)被請求人の主張
被請求人は、上記訂正請求書を提出すると共に、請求人の主張する無効の理由ア~ウは、いずれも理由がない旨主張し、これを立証する証拠方法として、次の書証を提出している。
なお、上記無効理由イに対する被請求人の具体的な反論は、上記「ウ.独立特許要件の判断」で取り上げた。
乙第1号証 実験成績証明書(日清製粉株式会社 明石 肇 作成)
乙第2号証 実験成績証明書(日清製粉株式会社 明石 肇 作成)
乙第3号証 特公平7ー79643号公報
乙第4号証 特許第2971193号公報
乙第5号証 特許第3047303号公報

(4)当審の判断
先ず、上記「イ」の無効理由について検討する。
請求人の提出した甲第2号証には、上記「ウ.独立特許要件の判断」の項の「(2)引用例記載の発明」において、a~dとして摘示したとおりのことが記載されている。
本件発明と甲第2号証に記載の発明を対比すると、両者は、小麦粉を主体とする穀粉に対してα化されておらず、かつ油脂加工されていないタピオカ澱粉を内割で5~40重量%配合した原料粉を用いて製麺し、これを茹でることを特徴とする茹うどんの製造法の点で一致し、(i)前者は、茹うどんの茹歩留りを220%ないし260%未満に調整するのに対して、後者は、茹うどんの水分量を75%に調整する点、及び(ii)前者は、茹うどんを「流通販売用」に限定しているのに対して、後者には、茹うどんを「流通販売用」に供することについて記載されていない点で、両者は相違する。
上記相違点について検討すると、相違点(i)については、上記「ウ.独立特許要件の判断」の「(3)対比・判断」の「相違点(ii)について」の項に記載したとおりの理由で、その茹歩留まりを「220%ないし260%未満」とすることは、当業者において格別の創意を要することではない。 また、相違点(ii)についても、同上箇所の「相違点(iii)について」の項に記載したとおりの理由で、甲第2号証に記載の茹うどんを流通販売用とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件発明の効果を検討しても、以下に示すとおり、本件発明の効果は、格別のものとはいえない。
茹うどんにおいて、「茹上げ直後の外観」、「茹上げ直後の食感」及び「茹上げ後における経時的変化」は、当業者にとって当然の評価項目である。(必要なら、例えば「食品と科学」第28巻第3号、昭和61年3月号、128頁参照。)
したがって、タピオカ澱粉を特定量配合した原料粉を用いる甲第2号証に記載の発明に「茹歩留りを220%ないし260%未満に調整する」という処理条件を適用した場合に、茹うどんにおける上記のような評価項目を実施して、その効果の程度を確認することは当業者であれば当然に行うことであると解されるから、そのような評価項目における効果は、当業者が予測し得る範囲内のものと解すべきである。(平成5年(行ケ)第84号判決、平成7年6月22日判決言渡参照。)
しかるところ、本件特許明細書の作用効果についての記載から、本件発明は、「茹上げ後時間が経過しても茹うどんの外観、粘弾性、滑らかさ等の食感が低下しない」という効果を奏するものと認められるが、このような効果は当業者が予測し得る範囲内のものである。
加えて、甲第2号証には、タピオカ澱粉を特定量配合することに基づく効果について「従来の麺類に比べて優れた食味を呈し、しかもこの食味は茹上げ後1日以上放置しても実質的に劣化しない。」(1頁2欄26行~2頁3欄1行)と記載されており、かかる記載からみても、本件特許明細書に記載の上記効果は、当業者の予測を越える顕著なものということはできない。
したがって、本件発明は、甲第2号証に記載の発明に比べて格別の効果を奏するものとは認められない。
そうだとすると、請求人の主張する他の無効理由ア及びウについて検討、判断するまでもなく、本件発明は特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は、本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-05-30 
結審通知日 2001-06-12 
審決日 2001-06-25 
出願番号 特願平2-3566
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 冨士 良宏引地 進  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 大高 とし子
田村 明照
登録日 1998-12-18 
登録番号 特許第2866690号(P2866690)
発明の名称 茹うどんの製造法  
代理人 中村 稔  
代理人 有賀 三幸  
代理人 中島 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 小川 信夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 的場 ひろみ  

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