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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08G 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) C08G |
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管理番号 | 1067643 |
異議申立番号 | 異議1998-74968 |
総通号数 | 36 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-06-15 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-10-06 |
確定日 | 2002-06-12 |
異議申立件数 | 3 |
事件の表示 | 特許第2740990号「低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2740990号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第2740990号の発明は、平成3年11月26日に特許の出願がなされ、平成10年1月30日に特許権の設定登録がなされ、その後、石井睦子、東芝ケミカル株式会社、有広巌より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年6月15日付けで特許異議意見書が提出されると共に訂正請求がなされ、その後、訂正拒絶理由が通知され、それに対して意見書が提出されたものである。 II.訂正の適否についての判断 1.訂正事項 平成11年6月15日付けの訂正請求は、特許請求の範囲の請求項1中および段落番号【0005】中の「0.3×10-5/℃の範囲にある」を、「0.3×10-5/℃の範囲にあり、金型温度180℃、圧力70kg/cm2及び時間1.5分で測定したスパイラルフローは、充填剤80vol%のとき45インチ以上、充填剤85vol%のとき24インチ以上、充填剤90vol%のとき12インチ以上である」と訂正するものである。 2.訂正の適否 上記訂正事項により、訂正前の請求項1に係る低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物が、「金型温度180℃、圧力70kg/cm2及び時間1.5分で測定したスパイラルフローが、充填剤80vol%のとき45インチ以上、充填剤85vol%のとき24インチ以上、充填剤90vol%のとき12インチ以上である」という特徴を有することとなる。 この点につき、特許権者は、訂正請求書において、「本件特許公報の第4頁右欄第11行~第15行及び第5頁の表1(実施例1~3)に開示されている。すなわち同表1には、フィラ配合量が80vol%のときスパイラルフローは45,53インチ、フィラ配合量が85vol%のときスパイラルフローは24,30インチ、フィラ配合量が90vol%のときスパイラルフローは12,18インチと記載されている。」と述べ、実施例を根拠に、訂正が認められるべきである旨主張している。 しかし、訂正前の明細書には、充填剤の量に応じて、スパイラルフローを特定するということに関する、明文の記載はない。また、実施例の組成物が、訂正前の請求項1に係る樹脂組成物よりも狭い範囲のものであるからといって、前者に記載された事項を、直ちに、後者に記載された事項ということはできない。しかも、実施例におけるスパイラルフロー値、45,53インチ(フィラ配合量が80vol%のとき)は、それより広範な45インチ以上という値と一致しない。同様に、スパイラルフロー値、24,30インチ(フィラ配合量が85vol%のとき)は、それより広範な24インチ以上という値と一致せず、スパイラルフロー値、12,18インチ(フィラ配合量が90vol%のとき)は、それより広範な12インチ以上という値と一致しない。 以上の点からみて、特許権者の上記指摘箇所には、上記訂正事項が記載されているとは認められない。 また、その他の記載をみても、上記訂正事項が、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものとは認められない。 なお、特許権者は、訂正拒絶理由に対する意見書において、特願平9-165711号の審査において補正が認められたことからみて、本件訂正は認められるべきである旨主張しているが、訂正の可否は、事案ごとに判断されるべきであるから、本件とは事案の異なる特願平9-165711号の審査における判断を、本件の訂正の可否の判断に当たり、参酌すべき必要は認められず、したがって、この特許権者の主張は採用できない。 したがって、上記訂正事項は、平成5年法律第26号により改正された、特許法第126条第1項ただし書の要件を満足しないから、本件訂正は、平成6年法律第116号の附則第6条第1項により、なお従前の例によるとされる訂正の要件を満足せず、したがって、本件訂正は認められない。 III.特許異議の申立てについての判断 1.本件発明 本件の請求項1~4に係る発明(以下各々「本件発明1」~「本件発明4」という)は、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び充填剤を必須成分とする低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物において、前記エポキシ樹脂がビフェニ-ル骨格あるいはナフタレン骨格を有する2官能型のエポキシ樹脂から選ばれるものであり、前記硬化剤が分子内にフェノール性水酸基を2個以上含むフェノール系化合物であり、前記エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分は、150℃における粘度が3ポイズ以下にあり、前記充填剤は、その95%以上が粒径0.1~100μmの範囲にあると共に平均粒径が2~20μmの実質的に球状の溶融シリカ粉末であり、且つ、この充填剤は、組成物全体に対して80vol%を超え92.5vol%以下の範囲で配合されて成り、当該樹脂組成物は、加圧成形過程における最低溶融粘度が3000ポイズ以下であると共に加圧後は熱膨張係数が1.0×10-5/℃以下から0.3×10-5/℃の範囲にあることを特徴とする低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物。 【請求項2】 請求項1において、硬化促進剤はエポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分に0.1~5wt%の範囲で配合され、加圧成形温度の150~200℃で硬化反応を促進させた場合に、硬化反応の活性化エネルギ-が17kcal/mol以上の値を示すリン系化合物、含窒素系化合物またはその有機酸塩または有機ボロン塩であることを特徴とする低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物。 【請求項3】 請求項1又は2において、充填剤はあらかじめその表面がシラン、アルミキレ-トまたはチタネ-ト系のカップリング剤の単分子層以上の厚みで被覆処理されていることを特徴とする低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物。 【請求項4】 請求項1~3のいずれかにおいて、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分の0.1~20wt%がシリコ-ン系化合物、ポリブタジエン系ゴム、熱可塑性エラストマ-又は熱可塑性樹脂で変性または改質されることを特徴とする低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物。」 2.対比、判断 2-1.本件発明1について 取消理由で引用した、特開昭63-108021号公報(石井睦子が提出した甲第1号証:以下「刊行物1」という)には次の記載事項がある。 ▲1▼「エポキシ樹脂に変性剤としてシリコーン重合体、充填材として球状の溶融石英粉を配合した半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、充填材の90重量%以上が0.5~100μmの粒径をもち、その粒度分布をRRS粒度線図で示した場合に、勾配nが0.6~1.5の範囲で直線性を示す球状の溶融石英粉であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1) ▲2▼「充填材として90重量%以上が0.5~100μmの粒径をもち、・・・を示す球状の溶融石英粉と、変性剤としてシリコーン重合体を配合したエポキシ樹脂組成物で封止され、かつ封止樹脂の線膨張係数が1.3×10-5℃-1以下、・・・であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて封止した半導体装置。」(特許請求の範囲の請求項3) ▲3▼「本発明におけるエポキシ樹脂組成物とは、現在半導体封止用成形材料として一般に用いられている・・・等に、硬化剤としてフェノールノボラックやクレゾールノボラック等のノボラック樹脂、・・・等を用い、さらに硬化促進剤・・・等を配合した組成物である。」(第3頁右下欄第18行~第4頁左上欄第7行) ▲4▼「このエポキシ樹脂組成物は・・・、半導体の封止作業も全く同様に行うことができる。すなわち、各素材は70~100℃に加熱した・・・で混練し、トランスファプレスで金型温度160~190℃、成形圧力30-100kg・cm2・・・で成形することができる。」(第4頁左上欄第7~15行) ▲5▼「本発明によれば、半導体封止用樹脂組成物の線膨張係数を小さくし、しかも、弾性率は余り大きくならないので、半導体装置の各構成材の線膨張係数の差によって生じる熱応力を小さくすることができる。」(第5頁右下欄第10~14行) 記載事項▲1▼からみて、刊行物1には、「エポキシ樹脂に充填材として球状の溶融石英粉を配合した半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、充填材の90重量%以上が0.5~100μmの粒径をもつ球状の溶融石英粉であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物」が記載されているといえる。 そして該半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、半導体封止の際に加圧成形が行われるから(記載事項▲4▼参照)、加圧成型用樹脂組成物ということができ、また、記載事項▲5▼からみて、低熱膨張性のものである。また、記載事項▲3▼からみて、該組成物は、硬化剤、硬化促進剤を成分としており、また、該組成物中の溶融石英粉は充填剤であるから、該組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び充填剤を必須成分とするものといえる。そして、その硬化剤としては、フェノールノボラックやクレゾールノボラック等のノボラック樹脂が使用でき(記載事項▲3▼)、このノボラック樹脂は、分子内にフェノール性水酸基を2個以上含むフェノール系化合物である。また、記載事項▲2▼に、「封止樹脂の線膨張係数が1.3×10-5℃-1以下」と記載されていることからみて、該組成物は、加圧後の線膨張係数が1.3×10-5℃-1以下であるものと認められる。 以上の点からみて、刊行物1には、「エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び充填剤を必須成分とする低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物において、前記硬化剤が分子内にフェノール性水酸基を2個以上含むフェノール系化合物であり、充填剤の90重量%以上が0.5~100μmの粒径を持つ球状の溶融石英粉であり、当該樹脂組成物の加圧後の線膨張係数が1.3×10-5℃-1以下であるる低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物」の発明(以下「刊行物1の発明」という)が記載されているといえる。 そして、本件発明1における「球状の溶融シリカ粉末」は、石英粉を溶融して球形化することにより製造されるから(この点について必要ならば、特開平2-290030号公報参照)、刊行物1の発明における「球状の溶融石英粉」に対応していると認められる。 そこで、本件発明1と、刊行物1の発明を対比すると、両者は、「エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び充填剤を必須成分とする低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物において、前記硬化剤が分子内にフェノール性水酸基を2個以上含むフェノール系化合物であり、充填剤が特定の粒径を持つ球状の溶融シリカ粉末である低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物」の発明である点で一致しており、次の▲1▼~▲5▼の点で相違している。 ▲1▼前者におけるエポキシ樹脂が、「ビフェニ-ル骨格あるいはナフタレン骨格を有する2官能型のエポキシ樹脂から選ばれるもの」であるのに対して、後者にはこれらの樹脂を使用することが記載されていない点。 ▲2▼前者において、「エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分は、150℃における粘度が3ポイズ以下にある」のに対して、後者にはこの点が記載されていない点。 ▲3▼充填剤である球状の溶融シリカ粉末が、前者においては「その95%以上が粒径0.1~100μmの範囲にあると共に平均粒径が2~20μm」であるのに対して、後者のものは、「90重量%以上が0.5~100μmの粒径を持つ」ものであって、平均粒径の特定はなされていない点。 ▲4▼充填剤である球状の溶融シリカ粉末が、前者においては「組成物全体に対して80vol%を超え92.5vol%以下の範囲で配合されている」のに対して、後者では組成物全体に対する配合量は特定されていない点。 ▲5▼樹脂組成物が、前者においては、「加圧成形過程における最低溶融粘度が3000ポイズ以下であると共に加圧後は熱膨張係数が1.0×10-5/℃以下から0.3×10-5/℃の範囲にある」のに対して、後者では加圧成形過程における最低溶融粘度を特定する記載がなく、また、「加圧後の熱膨張係数は1.3×10-5/℃以下」である点。 そこで、これらの相違点について検討する。 (1)相違点▲1▼について 取消理由で引用した、特開平2-224360号公報(石井睦子が提出した甲第7号証:以下「刊行物2」という)には、半導体封止用に使用されるエポキシ樹脂として、4-4’-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニルを使用することや、該樹脂の溶融粘度が低いことが記載されており(特許請求の範囲第2項、第3頁右上欄8~14行、第3頁左下欄第9行~同下から第2行等参照)、該化合物は、本件発明1におけるビフェニ-ル骨格を有する2官能型のエポキシ樹脂に相当している。また、取消理由で引用した、特開平3-177416号公報(平成3年8月1日発行、東芝ケミカル株式会社が提出した甲第1号証:以下「刊行物3」という)にも、半導体封止に使用されるエポキシ樹脂として、ビフェニ-ル骨格を有する2官能型のエポキシ樹脂を使用することや、該樹脂を使用した樹脂組成物の効果が記載されており(特許請求の範囲、第10頁左上欄参照)、取消理由で引用した、特開平3-255154号公報(平成3年11月14日発行、有広巌が提出した甲第2号証:(以下「刊行物4」という)にも半導体封止に使用されるエポキシ樹脂として、ビフェニ-ル骨格を有する2官能型のエポキシ樹脂を使用することが記載されている(特許請求の範囲、第3頁左下欄下から第2行~第3頁右下欄第12行参照)。 また、取消理由で引用した、特開平3-220227号公報(有広巌が提出した甲第8号証:平成3年9月27日発行:以下「刊行物5」という)には、半導体封止に使用されるエポキシ樹脂として、ナフタレン骨格を有する2官能型のエポキシ樹脂を使用することとその効果が記載されており(特許請求の範囲、第2頁右下欄下から第2行~第3頁左上欄第5行参照)、同じく引用した、特開平2-110958号公報(有広巌が提出した甲第1号証:以下「刊行物6」という)にも、半導体封止に使用されるエポキシ樹脂として、ナフタレン骨格を有する2官能型のエポキシ樹脂を使用することが記載されている(特許請求の範囲参照)。 以上の点からみて、刊行物1の発明において、エポキシ樹脂として、「ビフェニール骨格あるいはナフタレン骨格を有する2官能型のエポキシ樹脂」を使用することは、刊行物2~6の記載に基づいて、当業者が容易になしうることと認められる。 (2)相違点▲2▼について 刊行物1の第3頁左上欄第8~9行の「上記目的は、樹脂の粘度上昇や流動性を損なわずに充填剤を多量に配合させ」なる記載や、第4頁左上欄第17行~同右上欄第6行の「エポキシ樹脂に・・・樹脂組成物は、充填剤配合量が多いにもかかわらず比較的粘度が低く、流動性が優れ、・・・。それゆえ、Au線をボーデイングした半導体素子を封止してもAu線の変形や断線が起こりにくい。」等の記載からみて、刊行物1の発明は、樹脂組成物の封止時の、すなわち加熱時の流動性を優れたものとすることを目的としているものと認められる。一方、組成物を構成する成分の粘度が組成物全体の粘度に反映することや、粘度が低いほど流動性が優れることは一般常識であるから、刊行物1の発明において、樹脂組成物の加熱成形時の流動性を高めるために、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分の加熱成形時の粘度を低く設定することは当業者が容易に考慮し得ることと認められる。そして、刊行物1の記載事項▲4▼からみて、刊行物1の発明における樹脂組成物は、70~100℃に加熱して混練され、160~190℃で成形されるものであるから、樹脂組成物に対しては、成型時に70~190℃の範囲の加熱が行われることになる。してみれば、70~190℃の範囲内の温度である150℃という温度を目安として採用し、その温度におけるエポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分の粘度を、樹脂組成物の流動性が十分であるような低い値に設定することは、当業者にとって容易であり、粘度の好適な値は、実験によって容易に見出すことができるから、150℃における粘度を3ポイズ以下とした点に困難は認められない。 (3)相違点▲3▼について 刊行物1の発明におけるシリカ粉末は、「90重量%以上が0.5~100μmの粒径を持つ」ものであるから、その中から、95重量%以上が粒径0.5~100μmのものを採用することは容易である。そして、粒径0.5~100μmのものが95重量%以上存在すれば、粒径0.1~100μmのものは当然に95重量%以上存在することになる。したがって、本件発明1のように、その95%以上が粒径0.1~100μmの範囲にあるシリカ粉末を採用することは容易である。 また、取消理由で引用した、特開昭64-11355号公報(石井睦子が提出した甲第2号証、有広巌が提出した甲第5号証:以下「刊行物7」という)には、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物に配合される球状の溶融シリカ粉末の平均粒径を5~15μmとすることが記載されている(特許請求の範囲等参照)。5~15μmという値は、2~20μmに含まれる値である。 してみれば、刊行物1の発明において球状の溶融シリカ粉末として、その95%以上が粒径0.1~100μmの範囲にあるとともに、平均粒径を2~20μmとすることは、刊行物1、7の記載から容易なものと認められる。 なお、この点に基づく効果(本件特許公報の【0010】参照)は、刊行物1の第3頁左下欄第17行~第3頁右下欄第5行の記載、刊行物7の第2頁右下欄第19行~第3頁左上欄第4行の記載から予測できるものにすぎない。 (4)相違点▲4▼について 取消理由で引用した、特開平3-66151号公報(平成3年3月20日発行:有広巌が提出した甲第3号証:以下「刊行物8」という)には、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物に配合される球状の溶融シリカ粉末を組成物全体に対して88重量%(80体積%)とすることが記載されており(特に第6頁左上欄第14~15行参照)、しかも、刊行物8の請求項2には、85~94重量%の使用量も記載されている。85~94重量%の使用量は、88重量%が80体積%と換算されることからみて、約77~88体積%の使用量に相当する。これらの使用量からみて、80vol%を超え92.5vol%以下の配合量は、当業者が容易に採用できるものと認められる。 なお、該配合量に基づく本件発明1の効果(本件特許公報【0010】参照)は、刊行物1の第2頁右上欄第18行~第2頁左下欄第1行の記載から予測できるものにすぎない。 (5)相違点▲5▼について 刊行物1の実施例1~3には、高架式フローテスターを用いた180℃における最低溶融粘度(7min)(poise)が、それぞれ、360、220、280であることが記載されている(特に第4頁右下欄の第1表と第5頁左上欄第2~3行参照)。ところで、刊行物1の実施例1~3における最低溶融粘度は、高架式フローテスターを用いた180℃における測定値であって、加圧成形過程において測定した値そのものではない。しかし、高架式フローテスターにおいては、加熱加圧が行われ(この点は、特許権者が、特許異議意見書の巻末に添付した参考資料1の『高田重久著「熱硬化性材料成形加工編」昭和46年2月28日(丸善)p.4~13』や、参考資料2の『島津製作所製「島津フローテスタCFT」の取扱説明書』を参照)、180℃という温度は、本件発明1における加圧成形過程において採用される温度である(本件特許公報の【0011】参照)。してみれば、刊行物1に記載された最低溶融粘度を加圧成形過程における最低溶融粘度として採用することは容易なものと認められる。そして、360、220、280ポイズは、3000ポイズ以下であるから、刊行物1の発明において、加圧成形過程における最低溶融粘度を3000ポイズ以下とすることは容易である。 次に、加圧後の熱膨張係数について検討するに、刊行物1には、加圧後の熱膨張係数を「1.3×10-5/℃以下」とすることが記載されているから、その範囲内の値である「1.0×10-5/℃以下から0.3×10-5/℃」という範囲を選択することは容易なものと認められる。 なお、この範囲を選択したことに基づく格別の効果は認められない。 以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物1~8の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 2-2.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1に、「硬化促進剤はエポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分に0.1~5wt%の範囲で配合され、加圧成形温度の150~200℃で硬化反応を促進させた場合に、硬化反応の活性化エネルギーが17kcal/mol以上の値を示すリン系化合物、含窒素系化合物またはその有機酸塩または有機ボロン塩である」という構成要件を付加したものであるから、この構成要件について検討する。 本件特許明細書には、硬化促進剤として、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートを使用した実施例が記載されている(本件特許公報の第4頁第7欄第17~19行参照)。この化合物は、本件特許明細書に、本件発明2で特定された特性を有する硬化促進剤の具体例として、リン系化合物のボロン酸塩が挙げられている点からみて(本件特許公報の【0013】参照)、本件発明2で特定された特性を有する硬化促進剤の具体例と認められる。 そこで、本件発明2のうち、硬化促進剤として、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートを、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分に0.1~5wt%の範囲で配合するものについて検討する。 まず、硬化促進剤として、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートを使用することは、刊行物3(第7頁左上欄第15行~第7頁右上欄第16行の記載のうち、特に第7頁右上欄第5~6行を参照)、刊行物7(第4頁左下欄第1表参照)、および、特開昭63-128020号公報(有広巌が提出した甲第4号証:以下「刊行物9」という)(第5頁上欄第1表参照)に記載されている。 また、その配合量として、刊行物3には、エポキシ樹脂総量に対して通常0.1~5重量%と記載され、また、刊行物7、8に記載された配合量は、計算上、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分に対して、0.1~5wt%の範囲内の値である。 してみれば、本件発明2は、刊行物1~9の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 2-3.本件発明3について 本件発明3は、本件発明1または2において、「充填剤はあらかじめその表面がシラン、アルミキレ-トまたはチタネ-ト系のカップリング剤の単分子層以上の厚みで被覆処理されているを付加したものである」という構成要件を付加したものであるから、この構成要件について検討するに、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物に配合される溶融シリカ粉末の表面をカップリング剤で被覆処理することは、特開平2-209949号公報(石井睦子が提出した甲第3号証、有広巌が提出した甲第7号証:以下「刊行物10」という)(特に第3頁左下欄第9~12行参照)、特開平1-101363号公報(石井睦子が提出した甲第8号証:以下「刊行物11」という)(特に特許請求の範囲参照)に記載されているから、この構成要件を採用することは容易である。 したがって、本件発明3は、刊行物1~11の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 2-4.本件発明4について 本件発明4には、本件発明1~3のいずれかにおいて、「エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分の0.1~20wt%がシリコ-ン系化合物で変性または改質される」という構成要件を付加したものが含まれるから、この構成要件について検討する。 まず、刊行物1には、変性剤としてシリコーン重合体を配合することが記載されており(記載事項▲1▼参照)、このシリコーン重合体は、本件発明4のシリコ-ン系化合物に相当しているから、刊行物1の発明は、樹脂成分がシリコ-ン系化合物で変性されたものといえる。また、刊行物1の実施例に記載された、シリコーン重合体の配合量は、実施例1において、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分の6.6wt%と計算され(第4頁右下欄の第1表参照)、この値は、本件発明4における、0.1~20wt%の範囲内の値である。 してみれば、上記構成要件は、刊行物1の記載に基づいて、当業者が容易に採用できるもの認められる。 したがって、本件発明4は、刊行物1~11の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもの認められる。 IV.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-01-04 |
出願番号 | 特願平3-310868 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZB
(C08G)
P 1 651・ 841- ZB (C08G) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 小林 均 |
特許庁審判長 |
柿崎 良男 |
特許庁審判官 |
柿澤 紀世雄 石井 あき子 |
登録日 | 1998-01-30 |
登録番号 | 特許第2740990号(P2740990) |
権利者 | 日立化成工業株式会社 株式会社日立製作所 |
発明の名称 | 低熱膨張性加圧成形用樹脂組成物 |
代理人 | 吉岡 宏嗣 |
代理人 | 諸田 英二 |
代理人 | 鵜沼 辰之 |
代理人 | 鈴木 康仁 |