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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) B65G
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B65G
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効とする。(申立て全部成立) B65G
管理番号 1068789
審判番号 無効2001-35041  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-03-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-02-02 
確定日 2002-12-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第3122924号発明「バケットエレベータ用バケット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3122924号の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3122924号の請求項1〜4に係る発明(平成6年8月19日特許出願、平成12年10月27日設定登録。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4にそれぞれ記載された以下のとおりのものである。
【請求項1】前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベータ用バケットにおいて、前記上底を弾発性材料によって形成し、上底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、且つ、前記上底の厚さを、バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾き飛ばすことができる程度の厚さに形成したことを特徴とするバケットエレベータ用バケット。(以下、「本件特許発明1」という。)
【請求項2】前記底板に1又は複数個の開口部を設けた、請求項1記載のバケットエレベータ用バケット。(以下、「本件特許発明2」という。)
【請求項3】前記開口部を前記底板の左右方向に貫通させて、前記底板を前後方向複数個に分割した、請求項2記載のバケットエレベータ用バケット。(以下、「本件特許発明3」という。)
【請求項4】前記底板を格子状の材料によって形成した、請求項1記載のバケットエレベータ用バケット。(以下、「本件特許発明4」という。)

2.請求人の主張
請求人アオイ産業株式会社は、本件特許発明1〜4の特許を無効にする、との審決を求め、その理由として、
(理由1)本件特許発明1及び2は、本件出願前に日本国内において、甲第2〜3号証、甲第4〜5号証、もしくは甲第4、6〜7号証に示される公然実施をされた発明であり、
(理由2)本件特許発明1は、本出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であり、もしくは、
(理由3)本件特許発明1〜4は、本件出願前に日本国内において、甲第2〜3号証、甲第4〜5号証、もしくは甲第4、6〜7号証に示される公然実施をされた発明、及び、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜4の特許は無効とされるべきである旨主張し、証拠方法として下記の甲第1〜7号証を提出している。
なお、請求人は、平成13年5月15日付け手続補正により、本件特許発明2の特許についての無効理由として、被請求人が、本件特許発明2の発明者でも、その特許を受ける権利を承継したものでもないことを追加するとともに、証拠方法として、甲第8号証、甲第9号証及び甲第10号証の1〜2を追加することを求めている。ところで、上記手続補正は、無効理由の該当条文及び証拠となる主たる公知事実を追加するものであることが明白であるから、請求の理由を変更するものであり、請求書の要旨を変更するものである。したがって、上記手続補正は、特許法第131条第2項の規定に違反するものであって、採用することができない。

【請求人の提出した証拠方法】
甲第1号証の1:「DOROーCARRIER」カタログ写し、日立機材株式会社発行
甲第1号証の2:甲第1号証の「コンベヤー縦断面図」の拡大図写し
甲第2号証:「DORO CARRIER」カタログ写し、日立機材株式会社、1996年2月作成
甲第3号証の1〜42:佐藤、戸田共同企業体(JV)営団地下鉄駒込作業所向けの設計図面写し、日立機材株式会社、平成4年3月〜4月作成
甲第4号証:「SKIP HARRYOR」カタログ写し、レンドー工機株式会社作成
甲第5号証の1〜8:飛島建設 豊島園作業所向けの設計図面写し、レンドー工機株式会社、昭和63年9月作成
甲第6号証の1:上村 正三氏の名刺写し
甲第6号証の2:同氏の名刺に書かれたメモ写し
甲第6号証の3:同氏のバケット底部に開口部を設けた際のメモ写し
甲第7号証の1〜7:横浜治水事務所の帷子川の工事の設計図面写し、レンドー工機株式会社作成

3.被請求人の主張
これに対し、当審は、被請求人に審判請求書副本を送達し、期日を指定して答弁の機会を与えたが、被請求人は、答弁を行わなかった。

4.甲第1〜7号証
(1)甲第1号証には、
排土専用垂直搬送機DOROーCARRIERについて、
(イ)「バケットエレベーター」(甲第1号証の1の2枚目左欄2行)、
(ロ)「バケット底部をゴムライナーとしているため、バケット内側への泥土の付着はありません。」(甲第1号証の1の2枚目右欄の「特長」の項)
と記載され、
また、甲第1号証の1の3枚目の「コンベヤー縦断面図」及び「主務チェンとバケットの取付図」、並びに、甲第1号証の2には、
(ハ)「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベーター用バケットにおいて、前記上底をフレキシブルゴムライナーによって形成し、上底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、且つ、バケットエレベーターの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、フレキシブルゴムライナーが底板から離れること」が示されている。
そして、甲第1号証の1の5枚目右下には、
(ニ)「KZ-C-29-C/9308(O)1」
と記載されている。

上記(イ)〜(ハ)の記載からみて、甲第1号証には、
「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベーター用バケットにおいて、前記上底をフレキシブルゴムライナーによって形成し、上底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、且つ、バケットエレベーターの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、フレキシブルゴムライナーが底板から離れることで、バケット内側への泥土の付着がない、バケットエレベーター用バケット」の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)甲第2号証には、
排土専用垂直搬送機DORO CARRIERについて、
(ホ)「バケットエレベーター」(第1頁2行)、
(ヘ)「バケット底部をフレキシブルゴムライナーとしているため、バケット内側の泥土付着が少ない構造に設計されています。」(第2頁の「特長」の項)
と記載され、
また、第3頁の「ドロキャリヤ全体構造図(バケット軌道図)」及び「バケット・主務チェン取付図」には、
(ト)「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベーター用バケットにおいて、前記上底をフレキシブルゴム板によって形成すること」が、
第4頁「仕様・寸法」の項には、
(チ)「搬送能力150m3/hを有する固定式ドロキャリヤ/下降式ドロキャリヤの型式がHDC150であること」が、
第10頁納入実績表の項番1には、
(リ)「型式がHDC150固定式であるDORO CARRIERが、1992年9月に営団地下鉄駒込作業所向けに佐藤・戸田JVに納入されたこと」が、それぞれ示されている。
そして、最終頁右下には、
(ヌ)「1996年2月作成 KZ-C-29-D/9602(O)4」
と記載されている。

(3)甲第3号証の1には、
(ル)「150m3/HのDORO CARRIER(R)の注文主が、佐藤・戸田JVである」ことが、
甲第3号証の30には、
(ヲ)「バケットの上底をゴムによって形成し、上底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定すること、また、ゴム板の厚みは3P(プライ)×3×1.5(mm)、すなわち、3枚の芯材の厚みも加えると約8mmであること」が、
甲第30号証の31には、
(ワ)「バケットの底板に切抜孔を設けること」が、それぞれ示されている。

(4)甲第4号証には、
垂直土砂搬送機「スキップハリヤー」について、
(カ)「バケットは土質の変化に対応できるように、特殊な形状にクリーナーゴムが取り付けてあります。礫土(300m/m)、汚水土、粘土、土砂、シルトを簡単に排出できます。(中略)投入されたものは、粘土、硬度にかかわらずスムーズに搬送します。(中略)従来の凡用バケット・エレベーターを、土砂搬送の専門機として開発改良したものです。」(4枚目の「「スキップハリヤー」構造上の特長」の項)
と記載され、
また、2枚目の「「スキップハリヤー」の御使用実績」の項には、
(ヨ)「昭和63年に型式SKH80のスキップハリヤーが飛島/鉄建の豊島園作業所向けに、平成3年に型式SKH65のスキップハリヤーが鹿島建設の横浜向けに納入されたこと」が、
4枚目の「「スキップハリヤー」構造上の特長」の項の写真及び図面には、
(タ)「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベーター用バケットにおいて、前記上底をバケットクリーナーとして形成し、バケットクリーナーの前記後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、前記底板に開口部を設けた、バケットエレベーター用バケット」
が、それぞれ示されている。

(5)甲第5号証の1には、
(レ)「型式SKH-080の垂直土砂搬送機スキップハリヤーが飛島建設の豊島園現場向けのものであること」が、
甲第5号証の2には、
(ソ)「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベーター用バケットにおいて、前記上底をバケットクリーナーとして形成し、バケットクリーナーの前記後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、前記底板に開口部を設けた、バケットエレベーター用バケット」が、
甲第5号証の8には、
(ツ)「バケットクリーナーは、2プライ、厚さ8mmのベルト用ゴムであること」が、それぞれ示されている。

(6)甲第6号証の1には、上村正三氏がレンドー工機株式会社に在籍していたことが、甲第6号証の2には、SKH-30の据付スケジュールが、甲第6号証の3には、スキップハリヤー検討事項に関するメモが、それぞれ記載されている。

(7)甲第7号証の1、2には、
(ネ)「型式SKH-065のスキップハリヤーが帷子川(作)向けのものであること」が、
甲第7号証の3には、
(ナ)「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部とを前記底板に固定したバケットエレベーター用バケットにおいて、前記上底をクリーナーゴムとして形成し、クリーナーゴムの前記後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、且つ、バケットエレベーターの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、クリーナーゴムが底板から離れること」が、
甲第7号証の4には、
(ラ)「バケットエレベーター用バケットの底板に開口部を設けること」が、
甲第7号証の5には、
(ム)「クリーナーゴムは、2P(プライ)、8.1t(厚さ8.1mm)のゴムベルトであること」が、それぞれ示されている。

5.理由1について
(1)公然実施をされた発明
甲第2号証及び甲第3号証の記載並びに請求人の主張の全趣旨によれば、
「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定し、前記上底を厚さ約8mmのフレキシブルゴム板によって形成し、上底の後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして底板に固定し、底板に切抜孔を設けた、バケットエレベーター用バケット」の発明(以下、「公然実施をされた発明1」という。)が、「日立機材株式会社製、型式HDC150固定式のDORO CARRIER」として、本件出願前の1992年9月に日本国内において公然実施をされたものと認めることができる。

また、甲第4号証及び甲第5号証並びに請求人の主張の全趣旨によれば、
「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定し、前記上底を厚さ8mmのゴム製バケットクリーナーとして形成し、バケットクリーナーの前記後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、前記底板に開口部を設けた、バケットエレベーター用バケット」の発明(以下、「公然実施をされた発明2」という。)が、「レンドー工機株式会社製、型式SKH80のスキップハリヤー」として、本件出願前の昭和63年に日本国内において公然実施をされたものと認めることができる。

さらに、甲第4号証及び甲第7号証の記載並びに請求人の主張の全趣旨によれば、
「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定し、前記上底を厚さ8.1mmのゴム製バケットクリーナーとして形成し、バケットクリーナーの前記後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、前記底板に開口部を設けた、バケットエレベーター用バケット」の発明(以下、「公然実施をされた発明3」という。)が、「レンドー工機株式会社製、型式SKH65のスキップハリヤー」として、本件出願前の平成3年に日本国内において公然を実施されたものと認めることができる。

(2)対比・判断
(2-1)公然実施をされた発明1との対比・判断
本件特許発明1ととして公然実施をされた発明1とを対比すると、後者の「フレキシブルゴム板」は前者の「弾発性材料」に相当する。
してみると、両者は、
「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベータ用バケットにおいて、前記上底を弾発性材料によって形成し、上底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定した、バケットエレベータ用バケット」で一致し、以下の点で相違する。
【相違点】上底の厚さに関して、前者では、バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾き飛ばすことができる程度とするのに対して、後者では、約8mmとする点。
上記相違点につき検討するに、後者の上底が、厚さ約8mmもの弾発性材料から形成されていること、しかも、その弾発力を発揮し易い、上底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定されるという固定構造からみて、後者の上底も、バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾き飛ばすことができる、と解すべきである。
してみれば、公然実施をされた発明1は、本件特許発明1の構成に欠くことのできない事項をすべて具備している。
したがって、本件特許発明1は、本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明1である。

本件特許発明2は、本件特許発明1の構成に欠くことができない事項に加えて、「底板に1又は複数個の開口部を設けた」ことを、その発明の構成に欠くことができない事項とするものであるが、公然実施をされた発明1も底板に開口部を備えている。
したがって、本件特許発明2も、本件特許発明1と同様の理由から、本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明1である。

(2ー2)公然実施をされた発明2、3との対比・判断
本件特許発明1と公然実施をされた発明2、3とを対比すると、後者の「ゴム」は前者の「弾発性材料」に相当する。
してみると、両者は、
「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベータ用バケットにおいて、前記上底を弾発性材料によって形成し、上底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定した、バケットエレベータ用バケット」で一致し、以下の点で相違する。
【相違点】上底の厚さに関して、前者では、バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾き飛ばすことができる程度とするのに対して、後者では、8mmないしは8.1mmとする点。
上記相違点については、上記の「(2-1)公然実施をされた発明1との対比・判断」で検討したとおりである。
また、後者は、「底板に開口部を設けた」点も具備している。
してみれば、本件特許発明1、2は、ともに本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明2、3である。

(3)むすび
したがって、本件特許発明1、2は、ともに本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定に該当し、特許を受けることができない。

6.理由2について
(1)甲第1号証記載の発明との対比・判断
本件特許発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、後者の「フレキシブルゴムライナー」は、前者の「弾発性材料」に相当する。そして、後者は、「バケットエレベーターの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、フレキシブルゴムライナーが底板から離れることで、バケット内側への泥土の付着がない」ものであって、フレキシブルゴムライナーが底板から離れるのは、フレキシブルゴムライナー自身の有する弾発力によるものであることは明らかであるから、後者においても、上底を形成するフレキシブルゴムライナーの厚さは、本件特許発明1と同じように、「バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾き飛ばすことができる程度の厚さ」であるものと認めることができる。
してみれば、甲第1号証記載の発明は、本件特許発明1の構成に欠くことができない事項をことごとく具備している。

(2)甲第1号証の発行時期
甲第1号証には、その発行時期を直接示す記載はないものの、5枚目の右下に「KZ-C-29-C/9308(O)1」と記載されている(上記の摘記事項(ニ)参照)。
ところで、甲第2号証には、その最終頁右下に「1996年2月作成 KZ-C-29-D/9602(O)4」と記載されている(上記の摘記事項(ヌ)参照)。そして、甲第2号証が、甲第1号証と作成者を同じくし(ともに、被請求人である日立機材株式会社が作成者である)、しかも甲第1号証と同じく「DORO CARRIER」についてのカタログであることを考慮すると、甲第1号証の上記「・・・9308・・・」との記載は、本件出願前の1993年8月の作成、発行を意味するものと認めることができる。そして、この認定を覆すに足る証拠は提出されていない。
してみれば、甲第1号証は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物であると認められる。

(3)むすび
したがって、本件特許発明1は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

7.理由3について
(1)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、
「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベータ用バケットにおいて、前記上底を弾発性材料によって形成し、上底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、且つ、前記上底の厚さを、バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾き飛ばすことができる程度の厚さに形成した、バケットエレベータ用バケット」で一致し、以下の点で相違する。
【相違点】前者では、底板に、底板の左右方向に貫通させて、前記底板を前後方向複数個に分割する開口部を設けているのに対して、後者では、開口部について明らかではない点。
該相違点につき検討するに、バケットエレベータ用バケットの底板に開口部を設けることは、本件出願前に日本国内において「日立機材株式会社製、型式HDC150固定式のDORO CARRIER」、「レンドー工機株式会社製、型式SKH80、SKH65のスキップハリヤー」として公然実施をされた発明1〜3も備えている(「5.理由1について (1)公然実施された発明」参照)。
ところで、上記公然実施をされた発明1〜3と甲第1号証記載の発明とは、「バケットエレベータ用バケット」という技術分野を同じくするものであって、両者を組み合わせることは当業者にとって容易になし得ることであり、またその際、開口部の形状、構造は当業者が適宜選定できる程度の設計事項であるから、甲第1号証記載の発明の底板に、底板の左右方向に貫通させて、前記底板を前後方向複数個に分割する開口部を設けることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本件特許発明3は、「搬送物の流動性や粘着性のいかんを問わず、常に高い搬送効率を得ることができるバケットエレベータ用のバケットである。」という作用効果を得ているが(本件特許明細書の【発明の効果】の項参照)、甲第1号証記載の発明及び本件出願前に公然実施をされた上記各発明においても同様の作用効果を得ているものと認められるから(上記の摘記事項(ロ)、(ヘ)、(カ)参照)、上記本件特許発明3の作用効果は、甲第1号証記載の発明及び本件出願前に公然実施をされた上記各発明から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものではない。

(2)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、
「前後方向に凹状に湾曲した底板を、左右一対の側板間に掛け渡し、前記底板の上面に上底を掛け渡して、該上底の前端部と後端部を前記底板に固定したバケットエレベータ用バケットにおいて、前記上底を弾発性材料によって形成し、上底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定し、且つ、前記上底の厚さを、バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出したときに、自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾き飛ばすことができる程度の厚さに形成した、バケットエレベータ用バケット」で一致し、以下の点で相違する。
【相違点】前者では、底板を格子状の材料によって形成しているのに対して、後者では、底板が格子状の材料で形成されていることが明らかではない点。
該相違点につき検討するに、バケットエレベータ用バケットに開口部を有する底板を用いることは、本件出願前に日本国内において「日立機材株式会社製、型式HDC150固定式のDORO CARRIER」、「レンドー工機株式会社製、型式SKH80、SKH65のスキップハリヤー」として公然実施をされた発明1〜3も備えている。
ところで、上記公然実施をされた各発明と甲第1号証記載の発明とは、「バケットエレベータ用バケット」という技術分野を同じくするものであって、両者を組み合わせることは当業者にとって容易になし得ることであり、またその際、開口部の形状、構造は当業者が適宜選定できる程度の設計事項であるから、甲第1号証記載の発明の底板を、格子状の材料によって形成し、開口部を多数規則的に設けることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本件特許発明4は、「搬送物の流動性や粘着性のいかんを問わず、常に高い搬送効率を得ることができるバケットエレベータ用のバケットである。」という作用効果を得ているが(本件特許明細書の【発明の効果】の項参照)、甲第1号証記載の発明及び本件出願前に公然実施をされた上記各発明においても同様の作用効果を得ているものと認められるから(上記の摘記事項(ロ)、(ヘ)、(カ)参照)、上記本件特許発明4の作用効果は、甲第1号証記載の発明及び本件出願前に公然実施をされた上記各発明から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものではない。

(3)むすび
したがって、本件特許発明3、4は、ともに、甲第1号証記載の発明及び本件出願前に日本国内において「日立機材株式会社製、型式HDC150固定式のDORO CARRIER」、「レンドー工機株式会社製、型式SKH80、SKH65のスキップハリヤー」として公然実施をされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2の規定により特許を受けることができない。

8.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1についての特許は、特許法第29条第1項第2号及び同法第29条第1項第3号の規定に、本件特許発明2についての特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に、本件特許発明3、4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に、それぞれ違反してなされたものであり、いずれも同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-08-08 
結審通知日 2001-08-13 
審決日 2001-08-24 
出願番号 特願平6-218193
審決分類 P 1 112・ 112- Z (B65G)
P 1 112・ 121- Z (B65G)
P 1 112・ 113- Z (B65G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 清田 栄章
田村 嘉章
登録日 2000-10-27 
登録番号 特許第3122924号(P3122924)
発明の名称 バケットエレベータ用バケット  
代理人 井垣 弘  
代理人 西 良久  

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