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審決分類 審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正する H01M
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する H01M
審判 訂正 2項進歩性 訂正する H01M
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する H01M
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する H01M
管理番号 1071154
審判番号 訂正2002-39187  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-02-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-09-10 
確定日 2002-11-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3146439号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3146439号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 I.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第3146439号発明(平成3年8月12日特許出願、平成13年1月12日設定登録)の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり、即ち、下記a~eのとおり訂正することを求めるものである。
a.特許請求の範囲の請求項1に「導電性芯体」とあるのを「単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)」と訂正する。
b.明細書段落【0010】の「導電性芯体」を「単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)」と訂正する。
c.明細書段落【0013】の「導電性芯体」を「単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)」と訂正する。
d.明細書段落【0051】の「金属網、金属繊維の焼結体などを用いる」を「金属網などを用いる」と訂正する。
e.明細書段落【0052】の「導電性芯体」を「単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)」と訂正する。
II.当審の判断
これらの訂正事項について検討する。
1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否について
前記aの訂正は、特許明細書段落【0051】の「パンチングメタルを導電性芯体に用いて・・・導電性芯体として、パンチングメタルの代わりに、エキスパンデッドメタル、金属網、金属繊維の焼結体などを用いる」との記載に基づいて、導電性芯体を単一のものに限定し、更に、本件特許に係る特許異議の申立てにおいて提出された甲第1号証に記載の発明と同一になるのを避けるために、導電性芯体としてニッケル繊維の焼結体を除く点を限定するものであるから、前記aの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、前記b~eの訂正は、訂正後の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、前記b~eの訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。更に、前記a~eの訂正は、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2.独立特許要件について
(1)訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載される次のとおりのものである(以下、訂正明細書の請求項1に係る発明を「訂正発明」という。)。
「【請求項1】活物質を坦持する部分と、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分とを備える単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)を、加圧用ロールによって加圧する電池用電極の製造方法において、活物質を実質的に坦持しない該帯状の部分の長手の方向を、加圧用ロールの回転軸に垂直な方向に配置することなく、加圧用ロールの回転軸に平行な方向に配置することを特徴とする電池用電極の製造方法。」
(2)甲第1号証記載の発明
本件特許に係る特許異議の申立て(異議2001-72559号)において提出された甲第1号証には次の事項が記載されている。
甲第1号証(特開昭63-4550号公報)には、
「びびり振動切削法にて作成したニッケル繊維を、不織布化および焼結してなる長尺状電極基板に、長尺と直角方向に一定間隔にて、細いニッケル板あるいはニッケルメッキを施した鋼板からなる金属板を、面溶接により取付ける工程と、ついで水酸化ニッケルを主成分とするペースト状活物質を充填する工程、乾燥工程、さらに基板をロールプレスする工程、切断加工する工程を一貫した連続工程で行なったのち・・・ペースト式ニッケル正極の製造法。」(特許請求の範囲)、
「かかるニッケル繊維不織布の製造法としては、例えばニッケルインゴットをびびり振動切削法で、・・・短繊維状に切削し、この短繊維を分散等により不織布状に加工し、ついで還元雰囲気中で焼結することによって得られる。このような方法で得られたニッケル繊維不織布をニッケル正極の基板として用いた場合、多孔度が・・・大きいため活物質である水酸化ニッケルを多量に充填でき、大容量のニッケル正極が得られる。しかしこのような基板は焼結式におけるパンチドメタルのような芯金を持たないため、電極として使用する場合必要な集電体の取付けが、とりわけ渦巻状に巻回した電極の上端に円板状集電体を溶接することが、非常に困難であった。」(第2頁左上欄第6~20行、以下、「摘示イ」という。)、
「本発明は従来のかかる問題を解消し、びびり振動切削法によって作成されたニッケル繊維からなる基板に、ペースト状の水酸化ニッケルを充填してなるペースト式ニッケル正極の製造法であって、一貫した連続工程を採用しているため、容易に大量生産ができ、作業性も簡易であり、また集電体の取付が可能で、かつ良好な集電性能を有するペースト式ニッケル正極の提供を目的とする。」(第2頁右上欄第1~8行)、
「本発明のペースト式ニッケル正極の製造法は、びびり振動切削法によって作成されたニッケル繊維を不織布化および焼結してなる長尺状の基板に、長尺と直角方向に一定間隔に、細いニッケル板あるいはニッケルメッキを施した鋼板からなる金属板を面溶接したのち、ペースト状活物質を充填、乾燥し、長尺に平行な方向にロールプレスによる加圧を行ない、電極の上端に該金属板が位置するように切断加工を行なったのち、・・・電極群とすることを特徴とするものである。」(第2頁右上欄第19行~左下欄第11行)、
「本発明のペースト式ニッケル正極の製造法の実施例について説明する。まず基板としては、ニッケルインゴットをびびり振動切削法によって線径数10~100μmに切削したニッケル短繊維を、分散等の方法で不織布状に加工し、ついで還元雰囲気中で焼結し、しかるのち所定厚さにプレスしたものである。これに溶接取付するニッケル板あるいはニッケルメッキ鋼板からなる金属板は巻回時の柔軟度および強度の観点から、0.02~0.10mm厚が望ましく、巾は活物質充填の有効面積を減少させぬよう、1~5mm程度が望ましい。該金属板とニッケル繊維基板とを長尺と直角方向にはさみ加圧しつつ、接触部を面溶接する。面溶接することで接触部分は非常に薄くなり、円板状集電体の溶接時の抵抗となるペースト状活物質の付着を最小限に抑えることができる。該金属板同志の間隔は、電極寸法における巾寸法か、もしくは第2図に見られる両面取り構造とした場合は、巾寸法の倍にする。金属板を溶接後、水酸化ニッケルを主成分とするペースト状活物質を充填、乾燥し、ついで長尺と平行な方向にロールプレスを順に一貫して行なう。これは基板の伸びによる歪み、反り、切れを防ぐためである。ついで金属板が電極の上端に位置するように、極板を所定寸法に切断加工する。以上の方法で得られたニッケル正極を、セパレータを介して負極と該金属板が巻回群上端に露出するように巻回する。・・・
本発明によるニッケル正極の製造法の概略を第1図に示す。Aはロール状のニッケル繊維不織布の焼結基板である。Bは金属板の面溶接工程、Cはペースト状活物質の充填工程、Dは極板の乾燥工程、Eはロールプレス工程、Fは切断加工工程を示している。このように本発明は1ラインで一貫して連続的に製造できるものである。
次に、びびり振動切削法によって作成されたニッケル繊維を不織布化し、ついで焼結して得られた巾200mm、厚さ1.5mmのロール状基板1に、80mmの間隔で、巾6mm、長さ200mm、厚さ0.1mmのニッケル板2を長尺と直角方向に当てがい、B工程で加圧しつつ全面を電気溶接する。これを第2図に示す。続いて水酸化ニッケルを主成分とするペースト状活物質をC工程で充填し、D工程で乾燥する。つづくE工程でロールプレスにて厚さ0.7mmに調整後、F工程で第2図に示した両面取り方法にて、巾40mm、長さ200mmのニッケル正極3を得た。」(第2頁左下欄第20行~第3頁右上欄第7行、以下、「摘示ロ」という。)と記載され、第1、2図には、長尺状電極基板に該電極基板の長尺方向と直角方向に巾の細い帯状の金属板を面溶接することが記載され、また、第1図には、活物質を充填、乾燥した電極基板をロールプレスする際、加圧用ロールの回転軸が電極基板の長尺方向と直角方向になるよう加圧用ロールを配置することが記載されており、これらの記載から、刊行物1には、ニッケル繊維を不織布化および焼結してなる長尺状電極基板に、該基板の長尺方向と直角方向に一定間隔にて巾の細い帯状の金属板を面溶接により取付け、水酸化ニッケルを主成分とするペースト状活物質を充填、乾燥し、一定間隔にて巾の細い帯状の金属板を面溶接により取り付けた部分を有し、活物質を坦持させた電極基板を長尺方向に平行な方向にロールプレスによる加圧を行ないニッケル正極を製造すること及び電極基板をロールプレスする際、加圧用ロールの回転軸が電極基板の長尺方向と直角方向になるよう加圧用ロールを配置することが記載されているものと認められる。
(3)対比・判断
訂正発明と甲第1号証に記載の発明を対比する。
甲第1号証に記載の「ニッケル正極」は訂正発明の「電池用電極」に相当し、また、甲第1号証に記載の「電極基板」は活物質を坦持するものであるから、訂正発明の「導電性芯体」に相当する。甲第1号証に記載のものは、長尺状電極基板に、該基板の長尺方向と直角方向に一定間隔にて巾の細い帯状の金属板を面溶接により取付けるものであるが、摘示ロによれば、電極基板に金属板を面溶接により取り付けた部分は集電体の溶接のために活物質の付着を最小限に抑えた部分、すなわち、活物質を実質的に坦持しない部分であるから、甲第1号証に記載の電極基板の「巾の細い帯状の金属板を面溶接により取り付けた部分」は、訂正発明の「活物質を実質的に坦持しない帯状の部分」に相当し、また、甲第1号証に記載の電極基板に取り付けられた金属板と金属板との間の部分は、活物質が坦持されているから、訂正発明の「活物質を坦持する部分」に相当し、更に、甲第1号証に記載のものは、ロールの回転軸と巾の細い帯状の金属板の長手方向とが平行に配置されている。
そうすると、両者は、活物質を坦持する部分と、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分とを備える導電性芯体を、加圧用ロールによって加圧する電池用電極の製造方法において、活物質を実質的に坦持しない該帯状の部分の長手の方向を、加圧用ロールの回転軸に垂直な方向に配置することなく、加圧用ロールの回転軸に平行な方向に配置する点で一致し、訂正発明は、導電性芯体がニッケル繊維の焼結体を除く、単一のものであるのに対し、甲第1号証に記載のものは、導電性芯体がニッケル繊維の焼結体からなり、金属板を面溶接したものである点で、相違する。
相違点について検討する。
甲第1号証に記載のものは、ニッケル繊維の焼結体からなり、パンチドメタルのような芯金を持たない電池用電極を前提にするものであるから(甲第1号証、摘示イ)、甲第1号証に記載のものをニッケル繊維の焼結体を除く導電性芯体の電池用電極に適用することは当業者が容易に想到しうるものであるとすることができない。
そして、訂正発明は、請求項1に記載の事項により、「本発明によれば、実質的に活物質を坦持しない帯状の部分を有する単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)をロールで加圧する際に、極板の撓みが抑制されるという効果が得られる。」(特許明細書段落【0052】)という特許明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものと認められる。
以上のことから、訂正発明は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
(4)まとめ
したがって、訂正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明であるとすることができない。
III.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例とされる、改正前の特許法126条第1ないし3項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電池用電極の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 活物質を坦持する部分と、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分とを備える単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)を、加圧用ロールによって加圧する電池用電極の製造方法において、活物質を実質的に坦持しない該帯状の部分の長手の方向を、加圧用ロールの回転軸に垂直な方向に配置することなく、加圧用ロールの回転軸に平行な方向に配置することを特徴とする電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、活物質を坦持する部分と、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分とを備える導電性芯体を、ロールによって加圧する電池用電極の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電池用電極には、種種の構成のものがある。それらのうちでも、活物質を坦持する部分と、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分とを備える導電性芯体を、ロールによって加圧してなる電池用電極は、長尺の電極を連続的に製造し、その後に、これを所望の大きさに切断して電池に組み付けることができるので、量産性に優れている。従って、この手段によって、多くの種類の電池用電極が工業的に製造されている。
【0003】
活物質を実質的坦持しない帯状の部分は、導電性芯体が露出しているので、電極を充放電して化成する際の集電や、電池を組み立てる際の電極への集電体の取り付けに利用される。
【0004】
この電極の具体例には、次のようなものがある。すなわち、例えば、アルカリ蓄電池のカドミウム電極では、ポリビニルアルコールの高粘性水溶液に水酸化カドミウムなどの活物質粉末を分散してペーストを調製し、このペーストを、ニッケルメッキした穿孔鋼板、ニッケル網、ニッケルのエキスパンデッドメタルなどからなる長尺の導電性芯体に塗着し、乾燥してから、その長尺方向に導電性芯体を走行させて、ロールでプレスする方法がある。この方法では、ペーストを塗着する際に、長尺の導電性芯体の長手の方向に沿って、帯状にペーストの未塗布部分を形成しておく。
【0005】
このようにすると、プレスした後に、このペースト未塗布部分に沿って極板を切断すると、活物質が実質的に坦持されない導電性芯体が端部で露出している極板が得られる。活物質未塗布部分が、もともと長尺の極板の端部である場合には、切断するまでもなく、端部に導電性芯体が露出している。
【0006】
もしも、このような帯状の活物質未塗布部分を予め設けておかない場合には、プレスした後の極板から活物質層を除去するという煩雑な作業が必要になるばかりでなく、除去した活物質が無駄になるという不都合も起こる。
【0007】
このように、活物質の粉末をペースト状にして長尺の導電性芯体に塗着し、長尺の方向に帯状の活物質未塗布部分を設け、基板をその方向に走行させてプレスする手段は、そのほかに、酸化亜鉛を含有するペーストを例えば銅や銀からなる穿孔板、エキスパンドメタル、あるいは網に塗着する亜鉛電極でも採用されている。
【0008】
また、ペーストの代わりに、混練することによって微細な繊維になるフッ素樹脂粉末の分散液を用い、活物質粉末をフッ素樹脂の繊維からなるマトリックスに保持してシート状にし、このシートを、金属性の穿孔板、エキスパンデッドメタル、あるいは網からなる長尺の基板に張り付けて坦持させる方法もある。この場合にも、長尺の基板の長尺の方向に、帯状の活物質の未坦持部分を設けて、基板を長尺の方向に走行させてロールでプレスする。
【0009】
以上の方法は、水素吸蔵合金、酸化亜鉛、水酸化カドミウム、酸化カドミウム、2酸化マンガン、水酸化ニッケルなどの粉末状活物質を用いる電池用電極を製造する際に、広く行われている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、活物質を坦持する部分と、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分とを備える単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)を、加圧用ロールによって加圧してなる電池用電極において、活物質を実質的に坦持しない該帯状の部分の長手の方向を加圧用ロールの回転軸に垂直な方向に配置する従来の電池用電極の製造方法では、加圧力を特に数t/cm2以上の大きい値にした場合に、次のような不都合が発生することがわかった。
【0011】
すなわち、ロールでプレスすると極板の伸びの量が不均一になって極板に撓みが発生し、極板の平面性が損なわれて、極板を捲き取る際に、緊密に捲き取ることが困難になったり、活物質の脱落が起こりやすくなった。
【0012】
そこで、このような不都合を解決する手段が求められていた。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上述の課題を解決するために、活物質を坦持する部分と、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分とを備える単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)を、加圧用ロールによって加圧する電池用電極の製造方法において、活物質を実質的に坦持しない該帯状の部分の長手の方向が、加圧用ロールの回転軸に垂直な方向に配置することなく、加圧用ロールの回転軸に平行な方向に配置する電池用電極の製造方法を提供する。
【0014】
【作用】
従来の電池用電極の製造方法において、特に加圧力を大きくした場合に、上述のような不都合が起こる原因を調べた結果、次のことが明らかになった。
【0015】
すなわち、活物質を坦持する部分と、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分とを備える導電性芯体を加圧すると、圧力の大部分は、活物質を坦持した部分に印加される。そして、加圧力が大きいほど、被加圧物は加圧面と平行な方向へ伸びるという変形が起こる。従って、活物質を坦持した部分では、活物質を実質的に坦持していない部分と比較して、加圧によって発生する極板の伸びの量が、大きくなる。
【0016】
さらに、加圧用ロールで加圧する場合に、活物質を坦持した部分の極板の伸びの量は、ロールの回転軸に垂直な方向で大きく、ロールの回転軸に平行な方向で小さくなり、活物質を坦持した部分の極板の伸びの量に異方性が生ずることがわかった。
【0017】
ちなみに、このような極板の伸びの量の異方性は、平板でプレスする場合には顕著でなく、ロールでプレスする場合に顕著になることもわかった。プレスの方法が極板の伸びの異方性にこのような影響を及ぼす原因は、定かでないが、次のことが考えられる。
【0018】
すなわち、ロールでプレスする場合に、加圧面はロールの回転軸に平行な方向に長く、ロールの回転軸に垂直な方向に短い。そして、加圧面と平行な方向へ極板の変形が起こる際に、ロールの加圧面と極板との間に摩擦力が作用し、加圧面の長さが大きいほど変形の大きさの総量が大きくなるから、加圧面の長さが大きい方向では、摩擦力が大きくなって、極板の単位長さ当たりの変形が抑制される。その結果、加圧面の寸法の異方性が小さい平板プレスの場合には、極板の伸びが抑制されると共に、伸びの異方性も抑制される。一方、ロールでプレスする場合には、加圧面の長さの異方性が著しいので、ロールの回転軸に垂直な方向では、加圧面の長さが著しく短いので、極板の伸びが抑制され難くなり、ロールの回転軸に平行な方向では加圧面が長いので、極板の伸びが抑制され、その結果、極板の伸びの異方性が顕著になる。
【0019】
従って、従来の電池用電極の製造方法では、活物質を実質的に坦持していない帯状の部分の長手の方向を、ロールの回転軸に垂直な方向に配置しているので、活物質を坦持した部分がロールの回転軸に垂直な方向へ伸びるにもかかわらず、活物質を坦持したこの部分と一体になった実質的に活物質を坦持しない帯状の部分の伸びの量が小さいままである。このような極板の伸びの量の不均一の結果、極板の撓みが起こる。
【0020】
さて、本願発明では、上述のようなロールプレスにおける極板の活物質塗布部の伸びの異方性と、プレスの際に伸びの量が小さい帯状の部分の方向との関係を巧妙に利用することによって、実質的に活物質を坦持しない帯状の部分を有する導電性芯体をロールで加圧する場合に、極板の撓みの発生を抑制する。
【0021】
すなわち、本願発明の方法では、ロールの回転軸に垂直な方向に、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分の長手の方向を配置しないので、この方向には、伸びの量が少ない部分が実質的に存在しない。従って、活物質を坦持する部分の伸びの量が大きくなっても、ロールの回転軸に垂直な方向への極板の伸びの量に不均一が発生しない。
【0022】
さらに、本願発明の手段では、活物質を坦持する部分の伸びの量が小さくなるロールの回転軸に平行な方向に、活物質を実質的に坦持しない帯状の部分の長手の方向を配置するので、この方向への極板の伸びの量の不均一性も小さくなる。
【0023】
結局、本願発明の手段によれば、ロールの回転軸に平行な方向および垂直な方向のいずれにおいても、極板の伸びの量の不均一性が小さいので、極板の撓みが効果的に抑制される。
【0024】
【実施例】
本発明を好適な実施例によって図面を用いながら説明する。
【0025】
この実施例では、水素吸蔵合金粉末を分散したペーストをパンチングメタルに塗着し、乾燥してから加圧する電池用電極の製造方法の場合について説明する。
[本発明の製造方法による電池用電極(ア)]
本発明の製造方法による電池用電極(ア)は、次のようにして製造した。
【0026】
水素吸蔵合金を、その組成が原子比でLmNi3.8Co0.7Al0.5になるように、その構成元素を金属の状態で真空にした高周波誘導炉中で溶解し、鋳造してから粉砕した。ここでLmは、Laを約90重量%含有する稀土類金属の混合物であるランタンリッチミッシュメタルである。この合金粉末100重量部と、導電助剤たるアセチレンブラック3重量部とを、増粘剤かつ結着剤の機能を果たすポリビニルアルコールの3wt%水溶液約40重量部に分散してペースト状にした。
【0027】
そして、厚さが約50μmのニッケルメッキを施してある厚さが0.08mmで巾が140mmの鉄製のパンチングメタルのフープの両面にこのペーストを塗着し、乾燥して板状体を製作した。このペーストの塗着工程において、パンチングメタルの両端及び中央では、それぞれ巾が10mmで、フープの長手方向にその長手方向を一致させた帯状のペースト未塗着部分すなわち活物質未坦持部分(C)を形成し、それぞれ巾が55mmの帯状のペースト塗着部分すなわち活物質の坦持部分(B)を2条残した。ペースト塗布部分の単位面積当たりの水素吸蔵合金坦持量は、約0.2g/cm2である。
【0028】
次に、この板状体をロールプレスによって加圧した。極板のペースト塗布部分1cm2当たりに印加される圧力は、約5tであった。
【0029】
この加圧時のロール周辺部の要部を斜視した模式図を図1に示す。
【0030】
図1において、(A)は、間に通した極板の加圧に用いる2本のロールである。(E)は、この試験におけるロールの回転の方向を表している。(D)は、これら2本のロールの回転軸の方向である。(B)は、帯状の2本の活物質坦持部分である。(C)は、帯状の活物質未坦持部分であり、その長手方向は、パンチングメタルのフープの長手の方向に一致している。そして、(B)の長手方向がロールの回転軸の方向(D)と平行になるように極板を配置した。
【0031】
この構成で加圧ロール(A)が回転して加圧すると、極板はロールに対して矢印(F)の方向へ移動することになる。
【0032】
この構成で長尺の極板を加圧するためには、極板の長尺方向への移動を停止させ、ロールによる加圧が極板の一方の端部から他方の端部に至ったのちに、ロール間の距離を大きくして、極板を矢印(D)の方向および矢印(F)の逆の方向へ移動させて停止させてから、再度ロールによる加圧を行うという間欠的な動作を繰り返すとよい。そのほかに、極板の長尺方向への移動を停止させて、ロールによる加圧が極板の一方の端部から他方の端部に至ったのちに、ロール間の距離を大きくするか、極板をロール間隙から脱出させ、その後に極板を矢印(D)の方向に移動させてから停止させ、今度はロールを逆転させて、ロールに対する極板の移動の方向が矢印(F)の逆になるようにし、このような間欠的な操作を繰り返すことによっても、長尺の極板を加圧することができる。
【0033】
長尺の極板をローラーで加圧するこれらの方法において、極板を移動させる代わりに、加圧ローラーを逆の方向へ移動させても実現できることはいうまでもない。
[本発明の製造方法による電池用電極(イ)]
本発明の製造方法による電池用電極(イ)は、次のようにして製造した。
【0034】
電池用電極(ア)で用いたものと同じ組成のペーストを、厚さが約50μmのニッケルメッキを施してある厚さが0.08mmで巾が600mmの鉄製のパンチングメタルのフープの両面にこのペーストを塗着し、乾燥して板状体を製作した。このペーストの塗着工程において、巾が10mmで周期が65mmになるように、パンチングメタルフープの長手の方向と垂直な方向にその長手の方向を一致させた帯状のペースト未塗着部分すなわち活物質未坦持部分(C’)を形成した。そして、このことによって、巾が55mmで周期が65mmの帯状のペースト塗着部分すなわち活物質の坦持部分(B’)を形成した。ペースト塗布部分の水素吸蔵合金坦持量は、電池用電極(ア)と同じく約0.2g/cm2である。
【0035】
次に、この板状体をロールプレスによって加圧した。極板の活物質塗着部分1cm2に印加される圧力は、約5tであった。
【0036】
この加圧時のロール周辺部の要部を斜視した模式図を図2に示す。
【0037】
図2において、(A’)は、間に通した極板の加圧に用いる2本のロールである。(E’)は、この試験におけるロールの回転の方向を表している。(D’)は、これら2本のロールの回転軸の方向である。(B’)は、帯状の活物質の坦持部分である。(C’)は、帯状の活物質未坦持部分であり、その長手方向は、パンチングメタルのフープの長手の方向と垂直な方向に一致している。そして、(C’)の長手方向がロールの回転軸の方向(D’)と平行になるように極板を配置した。
【0038】
この構成で加圧ロール(A’)が回転して加圧すると、極板はロールに対して矢印(F’)の方向へ移動することになる。
【0039】
この構成では、加圧時の極板の進行の方向は、パンチングメタルフープの長手の方向と一致するので、長尺の極板を加圧しながら連続的に移動させて製造することができる。
[従来の製造方法による電池用電極(ウ)]
従来の製造方法による電池用電極(ウ)は、次のようにして製造した。
【0040】
電池用電極(ア)で用いたものと同じ組成のペーストを、電池用電極(ア)と同じパンチングメタルに、電池用電極(ア)と同じパターンで、同じ坦持量だけ塗着し、乾燥した次に、この板状体をロールプレスによって加圧した。極板の1cm2に印加される圧力は、約5tであった。
【0041】
この加圧時のロール周辺部の要部を斜視した模式図を図3に示す。
【0042】
図3において、(A”)は、間に通した極板の加圧に用いる2本のロールである。(E”)は、この試験におけるロールの回転の方向を表している。(D”)は、これら2本のロールの回転軸の方向である。(B”)は、帯状の活物質の坦持部分である。(C”)は、帯状の活物質未坦持部分であり、その長手方向は、パンチングメタルのフープの長手の方向と一致している。そして、(C”)の長手方向がロールの回転軸の方向(D”)と垂直になるように極板を配置した。
【0043】
この構成で加圧ロール(A”)が回転して加圧すると、極板はロールに対して矢印(F”)の方向へ移動することになる。
【0044】
この構成では、加圧時の極板の進行の方向は、パンチングメタルフープの長手の方向と一致するので、長尺の極板を加圧しながら連続的に移動させて製造することができる。
【0045】
以上の3つの極板を、加圧ロールによってプレスした後に、3列の帯状の活物質未坦持部分、およびそれらと交互に並ぶ2列の活物質坦持部分からなり、帯状の活物質未坦持部分の長さが60cmになるように切断した。この切断した電池用電極(ア)および(イ)の外観の斜視図を、図4に示す。また、電池用電極(ウ)の外観の斜視図を図5に示す。
【0046】
図4において、(B”’)は、本発明の電池用電極(ア)および(イ)の活物質坦持部分であり、(C”’)は、これらの電極の活物質未坦持部分である。また、図5において(B””)は、従来の電池用電極(ウ)の活物質坦持部分であり、(C””)は、これらの電極の活物質未坦持部分である。これらの3種類の極板の体積当たりの活物質坦持部分の水素吸蔵合金坦持量は、約4.6g/cm3であり、加圧の方法による顕著な差は認められなかった。
【0047】
しかし、これらの極板をボビンに捲き取るときには、著しい差異が発生した。
【0048】
すなわち、本発明の電池用電極(ア)及び(イ)は、図4からわかるように、加圧後にも撓みがほとんど認められず、これらの極板を直径が20cmのボビンに巻きとると、緊密に巻くことができて、活物質の脱落も認められなかった。
【0049】
一方、従来の電池用電極(ウ)は、図5からわかるように、活物質坦持部分(B””)の伸びの量が、活物質未坦持部分(C””)の伸びの量よりも著しく大きいので、極板が太鼓の腹のような形状に撓んでいる。このような形状になると、極板に巻き癖がついているのと似た状態になるので、この長尺の極板をボビンに捲き取る際に、次のような不都合が起こった。
【0050】
すなわち、この極板の凹面が内側になるようにして、曲率半径がその凹面の曲律半径よりも小さい場合には容易に捲き取ることが可能である。しかし、極板の捲き取りが進んで、このような撓んだ極板の極率半径よりも極率半径が大きい円周上に捲き取る必要がある場合には、極板の凸面の方向へ折り曲げる必要が生ずる。その結果、その折れ曲がりの位置で活物質層の脱落が起こった。また、その折れ曲がりの位置で極板が屈曲するので、捲き取った極板間に隙間が生じるので、直径が2mになるまで1つのボビンに捲き取れた電池用電極(ウ)の量は、電池用電極(ア)および(イ)の場合よりも約20%少なかった。
【0051】
以上の実施例は、水素吸蔵合金粉末を活物質とし、パンチングメタルを導電性芯体に用いて、これに活物質ペーストを塗着乾燥してからプレスする場合について説明した。しかし、本発明の作用効果は、この実施例の場合にのみ奏するものではなく、活物質粉末として、水素吸蔵合金粉末のほかに、酸化亜鉛、水酸化カドミウム、酸化カドミウム、2酸化マンガン、水酸化ニッケルなどを主体とするものを用いる場合や、導電性芯体として、パンチングメタルの代わりに、エキスパンデッドメタル、金属網などを用いる場合や、活物質ペーストを導電性芯体に塗着乾燥する代わりに、微細な繊維状のフッ素樹脂によって活物質粉末を交絡保持したシート状物を導電性芯体に圧着する場合にも、上記の実施例と同様の作用効果を奏するものである。また、活物質の形状としては、粉末だけではなく、例えば、リチウム電池の負極に用いる金属リチウムシートのような無孔質連続体や、酸化銀電池の化成前の正極に用いる金属銀焼結体のような多孔質連続体の場合にも、上記の実施例と同様の作用効果が得られる。
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、実質的に活物質を坦持しない帯状の部分を有する単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)をロールで加圧する際に、極板の撓みが抑制されるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】活物質を実質的に坦持しない帯状の部分の長手の方向を、加圧用ロールの回転軸に垂直な方向に配置することなく、加圧用ロールの回転軸に平行な方向に配置して、加圧ロールの軸の方向と長尺の導電性芯体の長手方向とを一致させた本発明の構成の加圧ロール周辺の斜視模式図。
【図2】活物質を実質的に坦持しない帯状の部分の長手の方向を、加圧用ロールの回転軸に垂直な方向に配置することなく、加圧用ロールの回転軸に平行な方向に配置して、加圧ロールの軸の方向を長尺の導電性芯体の長手方向と垂直にした本発明の構成の加圧ロール周辺の斜視模式図。
【図3】活物質を実質的に坦持しない帯状の部分の長手の方向を、加圧用ロールの回転軸に垂直な方向に配置して、加圧ロールの軸の方向を長尺の導電性芯体の長手方向と垂直にした従来の構成の加圧ロール周辺の斜視模式図。
【図4】本発明の方法で製作した電池用電極の斜視外観図。
【図5】従来の方法で製作した電池用電極の斜視外観図。
【符号の説明】
A,A’,A” 加圧ロール
B,B’,B”,B”’,B”” 活物質坦持部分
C,C’,C”,C”’,C”” 活物質を実質的に坦持しない帯状の部分
D,D’,D” 加圧ロールの軸の方向
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3146439号発明の明細書の記載を次のとおり訂正する。
a.特許請求の範囲の請求項1に「導電性芯体」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)」と訂正する。
b.明細書段落【0010】に「導電性芯体」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として、「単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)」と訂正する。
c.明細書段落【0013】に「導電性芯体」とあるを、明瞭でない記載の釈明を目的として、「単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)」と訂正する。
d.明細書段落【0051】に「金属網、金属繊維の焼結体などを用いる」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として、「金属網などを用いる」と訂正する。
e.明細書段落【0052】に「導電性芯体」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として、「単一の導電性芯体(ニッケル繊維の焼結体を除く)」と訂正する。
審決日 2002-10-31 
出願番号 特願平3-228397
審決分類 P 1 41・ 851- Y (H01M)
P 1 41・ 121- Y (H01M)
P 1 41・ 853- Y (H01M)
P 1 41・ 856- Y (H01M)
P 1 41・ 113- Y (H01M)
最終処分 成立  
特許庁審判長 三浦 悟
特許庁審判官 綿谷 晶廣
柿沢 恵子
登録日 2001-01-12 
登録番号 特許第3146439号(P3146439)
発明の名称 電池用電極の製造方法  
代理人 ▲高▼木 芳之  
代理人 後呂 和男  
代理人 高木 芳之  
代理人 後呂 和男  

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