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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01H
管理番号 1074216
審判番号 審判1999-17560  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-05-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-11-04 
確定日 2003-03-13 
事件の表示 平成9年特許願第299888号「ミニポテト」拒絶査定に対する審判事件[平成11年5月18日出願公開、特開平11-127712]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年10月31日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成11年7月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次の事項により特定されるものである。

「多様な形及び色を有する一口大のミニポテトを製造する方法であって:
アンデス原産栽培2倍体バレイショであるソラヌム・ステノトーマム(Solanum stenotomum)、ソラヌム・フレヤ(Solanumphureja)およびソラヌム・ゴニオカリックス(Solanum goniocalyx)から、混合受粉による交配を行って遺伝的変異に富む雑種集団を形成する工程と、
上記雑種集団を育種栽培し、その際のミニポテトの収量を含む選別基準に基いて選抜することにより、前記雑種集団の再構成を行う工程と、
この再構成された雑種集団を実生栽培する工程とを具備し、該実生栽培に際しては、根圏を制御し、短日日長条件下で栽培し、イモの肥大期にはやや低温で管理する方法。」

2.刊行物に記載の事項
これに対して、原査定の拒絶理由で引用された刊行物1[ポテトサイエンス,vol.11,p.1-9(1990)、米田勉ら訳]には、以下の事項が記載されている。
(1)「バレイショがアンデスの山中で、栽培されてきた8,000年もの 間、現地の農民はそれぞれの地域のニーズや好みに合いさらに4,00 0kmにもおよぶアンデス山脈のさまざまな環境に適したタイプを選抜 ・育成したきた。この長い育種作業が何千もの変異を生み出したのであ る。」(第1頁第1~3行)
(2)「多くは目が深く不規則な形をしており、整形のものより商業的な取 り扱いがむずかしい。またすべてではないが長日性が強く、芋形成には 短日が必要なため、長日温暖地域では収量が少ない。」(第1頁第25 ~27行)
(3)「北アメリカでは食品産業が小型の野菜の開発に熱心であり、とくに 小粒でカラフルなバレイショの需要が増加している。1986年にはメ イン州でゴルフボールからビリヤードまでのサイズの芋が、4,000 tも売られている。」(第1頁第13~15行)
(4)「カリフォルニアのある企業は、合衆国の隅々まで特殊野菜として黄 金色や濃紫色のバレイショを売り、目ざましく成功した。」(第1頁第 17~19行)
(5)「アメリカ合衆国において特殊野菜が何十億ドルもの産業を生み出し つつあり、アンデスポテトの市場評価も上々である。黄金色や濃紫色の バレイショは、すでに高価で取り引きされており、より個性的なものに 対する要求は終わりがない。・・・・北アメリカでは各種小型野菜の開 発が熱心に行われており、小粒でカラフルなバレイショの需要が増加し つつある。」(第7頁下から第2行~第8頁第3行)
(6)「特にandigenaは、このような市場に最適と思われる。しか しこれらの種は短日条件下で芋をよく形成するので、高度地方(たとえ ばヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリア)では秋の冷涼な気候は問 題とならないが、夏の長日条件下では大きな支障がある。」(第8頁第 3~6行)
(7)「このような日長感応性の制限は、他の作物では選抜により克服され ており、バレイショでも可能であろう。このような種の長日型のものは 、分布範囲の制限において発見できるであろう。また真正種子の利用に よって、長日性を変異させることも有効な方法である。新しく生み出さ れた作物にとっておもしろく覚えやすい名前(たとえばキーウィフルー ツ)は、消費者に受け入れられるカギである。ほとんど知られていない バレイショにとって、市場に受け入れられる名前とは、輝く色、堅い肉 質、独特の形ち、栄養豊かな品質を強調したものであろう。」(第8頁 第6行~同頁末行)
(8)「アンデスのジャガイモは、形、色、大きさ、そして風味が、多種多 様である。これらはアンデス以外で栽培されている普通栽培種(S.t uberosum)とは異なる種のジャガイモである。」(第5頁第1 ~3行)
(9)第4~5頁には、アンデスのバレイショとして、ソラヌム・ステノト ーマム、ソラヌム・フレヤ及びソラヌム・ゴニオカリックスが紹介され ており、ソラヌム・ステノトーマム及びソラヌム・フレヤは、小粒であ ると明記されている。また、ソラヌム・ゴニオカリックスが、ソラヌム ・フレヤと同程度の大きさであることが写真に示されている。( 第5 頁に掲載された上側の写真)

3.当審の判断
刊行物1の第4~5頁の記載及び第5頁に掲載の写真から見て、ソラヌム・ステノトーマム、ソラヌム・フレヤ及びソラヌム・ゴニオカリックスは、多様な形及び色を有する小粒なバレイショであると認められる。
請求項1に記載された「一口大のミニポテト」とは、本願明細書の[0036]欄における1.5センチ~4.0センチの大きさの芋をミニポテトとする旨の記載からして、1.5センチ~4.0センチの大きさの芋のことを意味するものと認められる。

本願明細書の[0008]欄には「根圏を制御する手段としては、ポットや育苗箱を用いることができる。」と記載された上で、実施例において、10.5センチ径の黒色ポリポット、5号乃至6号の素焼き鉢(15乃至18センチ径に相当する)、及び育苗箱(510×365×82mm)に植えることが記載されているものの、「根圏を制御し」が、ポットや育苗箱を用いて具体的にどのような状態でバレイショを栽培することなのか明記されていない。
しかし、畑でバレイショを栽培する際の株間が、一般には25~30センチ程度であるのに対して上記実施例では明らかに株間の狭い状態に相当することから、「根圏を制御し」とは、畑における株間を広くした状態での栽培ではなく、ポットや育苗箱での栽培を意味するものと解される。

なお、以下、「バレイショ」を、ポテトと表記する。

以上のことを踏まえて、本願発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、両者は、多様な形及び色を有するポテトに関するものである点で一致し、前者が、
(イ)一口大のミニポテト
(ロ)アンデス原産栽培2倍体バレイショであるソラヌム・ステノトーマム (Solanum stenotomum)、ソラヌム・フレヤ(S olanum phureja)および ソラヌム・ゴニオカリック ス(Solanum goniocalyx)から、混合受粉による 交配を行って遺伝的変異に富む雑種集団を形成する工程と、
(ハ)上記雑種集団を育種栽培し、その際のミニポテトの収量を含む選別基 準に基いて選抜することにより、前記雑種集団の再構成を行う工程と、
(ニ)この再構成された雑種集団を実生栽培する工程とを具備し、
(ホ)該実生栽培に際しては、根圏を制御し、短日日長条件下で栽培し、イ モの肥大期にはやや低温で管理する方法であるのに対して、後者では そのことが記載されていない点で、相違している。

以下、上記相違点について検討する。
(イ)~(ハ)について
刊行物1には、アメリカではカラフルなアンデスポテトが高価で取り引きされていること、各種小型野菜の開発が熱心に行われ小粒でカラフルなポテトの需要が増加していること、及びメイン州でゴルフボール(約4センチ)からビリヤードぐらいの大きさのポテトが大量に販売されたこと等が記載されていることから、小粒なアンデス産ポテトを親とした小型野菜の開発は、当業者が容易に着想し得ることである。

その際、ポテトを作出する手法として、ポテトを交配させた後に選抜する方法は周知慣用の手法(刊行物としては、「野菜園芸大事典」、野菜園芸大事典編集委員会著、第1022~1030頁、昭和52年1月10日発行、株式会社養賢堂などを参照されたい。また、アンデス産ポテトを遺伝資源とし交配等により作出された具体的な品種としては、「アンデス赤」、「ドクタージョハンセン」、「ベニアカリ」、「インカのめざめ」、「ジャガキッズレッド」、「ジャガキッズパープル90」等がある。)であることから、刊行物1に記載された小粒なポテト、例えば「ソラヌム・ステノトーマム」、「ソラヌム・フレヤ」および「ソラヌム・ゴニオカリックス」を適宜交配し、その後、一口大の大きさのものを選抜することは、当業者が適宜なし得る設計的事項と認められる。

(ニ)について
実生による栽培は、品種改良を行う際に一般的に採用される方法であり、また栄養繁殖に比べてイモの小さくなることもよく知られたことである。(上記の「野菜園芸大事典」の他に、「バレイショ増収1000問答」、吉田稔著、第104~105頁、昭和52年10月15日発行、財団法人いも類振興会、育種第31巻第2号(1981)第203~206頁の「種子播バレイショ研究の動向」、農業および園芸第60巻第8号(1985)第1023~1026頁の「種子播きバレイショ(TPS)の実用化」などを参照。特許公報としては、特開昭59-183634号公報などを参照。)

(ホ)について
ポテト等を育苗箱などの容器内で栽培することは、本願出願前に周知(例えば、特開平2-16922号公報、特開昭62-158436号公報、特開昭61-149026号公報、特開昭61-78333号公報、特開昭51-114226号公報、特開昭51-45026号公報、特開昭58-13322号公報等を参照。)のことであり、また株間を狭くするほど株当たりの収量の低下することも栽培上よく知られたことであるので、より小粒のアンデス産ポテトを得るために、育苗箱などの容器内で栽培することは、当業者が容易になし得ることと認められる。
また、ポテトの芋の形成適温は約17℃であることや芋の発育時はやや短日条件がよいこと等は良く知られた栽培条件(例えば、「蔬菜園芸ハンドブック」、秋谷良三、第384~395頁、昭和43年1月10日発行、株式会社養賢堂)であることから、当業者が適宜決定し得るものと認められる。

そして、本願発明の効果についても、刊行物1の記載及び周知技術から予測し得るものと認められる。

4.むすび
以上のとおりであるので、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-08-31 
結審通知日 2000-09-12 
審決日 2000-09-26 
出願番号 特願平9-299888
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 星野 浩一
藤田 節
発明の名称 ミニポテト  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 河野 哲  
代理人 坪井 淳  
代理人 中村 誠  
代理人 村松 貞男  
代理人 橋本 良郎  

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