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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07B
管理番号 1079775
異議申立番号 異議2000-70303  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-08-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-25 
確定日 2000-06-27 
分離された異議申立 有 
異議申立件数
事件の表示 特許第2925753号「光学異性体の分離方法」の特許に対する特許異議申立てについてした平成14年7月1日付け取消決定に対し、東京高等裁判所において決定取消の判決(平成14年(行ケ)第407号、平成15年4月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり決定する。 
結論 特許第2925753号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2925753号は、平成3年1月22日(国内優先権主張:平成2年2月23日)に特許出願され、平成11年5月7日にその特許権の設定登録がなされたところ、日本練水株式会社(後に取下げ)、岩部英臣及び長谷川栄二より特許異議の申立てがあり、平成14年7月1日付けで請求項1ないし14に係る特許を取り消すとの決定がなされた。その後、請求項6ないし10、13及び14を削除し特許請求の範囲を減縮する訂正を求める訂正審判(訂正2002年第39235号)が請求され、平成15年3月25日付けで訂正を認める審決がなされ、この審決は平成15年4月7日に確定した。

2.本件発明
本件特許の請求項1ないし請求項7に係る発明は、前記訂正審決により訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項7に記載された以下のとおりである。

「【請求項1】内部に光学分割用充填剤を収容し、かつ前端と後端とが流体通路で結合されて無端状になっていて液体が一方向に循環している充填床に、光学異性体混合物含有液及び脱離液を導入し、同時に充填床から分離された1種類の光学異性体を含有する液ともう一方の種類の光学異性体を含有する液を抜き出すことからなり、充填床には、脱離液導入口、吸着されやすい光学異性体を含有する液(エクストラクト)の抜出口、光学異性体混合物含有液導入口、吸着されにくい光学異性体を含有する液(ラフィネート)の抜出口を流体の流れ方向に沿ってこの順序で配置し、かつこれらを床内の流体の流れ方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動することによりなる擬似移動床方式を用いる光学異性体の分離方法であり、光学分割用充填剤が、担体に担持された光学活性高分子化合物又は担体に担持された光学分割能を有する低分子化合物で、かつ粒子の形態であり、粒子径が20~50μmであることを特徴とする光学異性体の分離方法。
【請求項2】光学分割用充填剤が、担体に担持された光学活性高分子化合物又は担体に担持された光学分割能を有する低分子化合物で、かつ粒子の形態であり、粒子径が30~50μmである請求項1記載の光学異性体の分離方法。
【請求項3】光学分割用充填剤が担体に担持された光学活性高分子化合物である請求項1又は2記載の光学異性体の分離方法。
【請求項4】光学活性高分子化合物が多糖誘導体である請求項3記載の光学異性体の分離方法。
【請求項5】多糖誘導体がセルロースエステル、アミロースエステル、セルロースカルバメート又はアミロースカルバメートである請求項4記載の光学異性体の分離方法。
【請求項6】脱離液がアルコールと炭化水素の混合物である請求項5記載の光学異性体の分離方法。
【請求項7】脱離液がイソプロパノールとヘキサンの混合物である請求項6記載の光学異性体の分離方法。」

3.特許異議申立ての理由の概要
(1)特許異議申立人岩部英臣は証拠として下記の甲第1号証ないし甲第8号証を提出し、訂正前の本件請求項1ないし請求項12に係る発明は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの発明の特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであると主張している。


甲第1号証 ケミカル・エンジニヤリング,1988年3月号,49~53頁
(以下、「刊行物3」という)
甲第2号証 ケミカル・エンジニヤリング,1989年9月号,46~50頁
(以下、「刊行物4」という)
甲第3号証 化学工業,1984年10月号,65~70頁
(以下、「刊行物5」という)
甲第4号証 化学の領域,第36巻,1982年,305~316頁
(以下、「刊行物6」という)
甲第5号証 日化協月報,1990年7月号,10~15頁
甲第6号証 ケミカル・エンジニヤリング,1988年5月号,44~48頁
(以下、「刊行物7」という)
甲第7号証 化学経済,1988年2月号,52~62頁
(以下、「刊行物8」という)
甲第8号証 化学工学論文集,第16巻,第5号(1990),907~914頁

なお、上記甲第5号証及び甲第8号証は、本件特許出願の優先日後に頒布されたものと認められる。

(2)特許異議申立人長谷川栄二は証拠として下記の甲第1号証ないし甲第16号証を提出し、訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第1項あるいは第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正前の本件請求項2ないし請求項14に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証、並びに甲第10号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、これらの発明の特許は特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであると主張している。


甲第1号証 特開昭62-210053号公報
(以下、「刊行物1」という)
甲第2号証 化学経済,Vol.23,2月号,54~60頁(1976年)
(以下、「刊行物9」という)
甲第3号証 ケミカル・エンジニヤリング,第33巻,第3号,49~53頁
(1988年3月号)
(以下、「刊行物3」という)
甲第4号証 ケミカル・エンジニヤリング,第29巻,第7号,86~92頁
(1984年7月号)
(以下、「刊行物10」という)
甲第5号証 化学技術誌 MOL,第22巻,昭和59年6月号,47~51頁
(以下、「刊行物11」という)
甲第6号証 化学工学,第45巻,第6号(1981)第391~398頁
(以下、「刊行物2」という)
甲第7号証の1 化学工学シンポジウムシリーズ,15,「移動層技術の現状
と新展開」,48~55頁(昭和63年2月25日,化学工学協会
発行)
(以下、「刊行物12」という)
甲第7号証の2 化学工学シンポジウムシリーズ,15,「移動層技術の現状
と新展開」,120~125頁(昭和63年2月25日,化学工学協
会発行)
(以下、「刊行物13」という)
甲第8号証 化学経済,Vol.23,3月号,54~59頁(1976年)
(以下、「刊行物14」という)
甲第9号証 化学機械技術41,「高度分離技術の新しい展開」,163~195頁
(1989年5月20日,さんえい出版発行)
(以下、「刊行物15」という)
甲第10号証 特開昭60-142930号公報
(以下、「刊行物16」という)
甲第11号証 特開昭61-176538号公報
(以下、「刊行物17」という)
甲第12号証 特開昭60-214749号公報
(以下、「刊行物18」という)
甲第13号証 有機合成化学協会誌,第42巻,No.11,995~1004頁(1984年)
(以下、「刊行物19」という)
甲第14号証 日本化学会編「光学異性体の分離」,季刊化学総説,NO.6,
132~141頁,167~174頁,212~224頁
(1989年10月10日学会出版センター発行)
(以下、「刊行物20」という)
甲第15号証 JOURNAL of CHROMATOGRAPHY,Vol.400,p.68,1987
(以下、「刊行物21」という)
甲第16号証 JOURNAL of CHROMATOGRAPHY,Vol.405,p.148,1987
(以下、「刊行物22」という)

4.証拠の記載
刊行物1には、以下の記載がある。
1-イ:「光学活性な脂溶性クラウン化合物を、表面疎水性充填剤に吸着担持させたことを特徴とする光学異性体分離用充填剤。」(特許請求の範囲)
1-ロ:従来技術について、「従来、アミノ酸等の光学異性体の分割法としては、ジアステレオマー形成法、結晶接種法、酵素法、分離膜法、カラム法等が知られている。これらのうち、カラム法は、光学異性体を完全に分割することが可能であり、ソーベックスの手法を用いれば連続操作も可能になる利点を有している。」(公報第1頁左下欄第13行~第18行)
1-ハ:実施例として、「実施例1・・・B:光学異性体の分離 高速液体クロマトグラフ装置(日本分光DIP-I型ポンプ、相馬光学S-3101A型UV検出器、レオダインサンプルインジェクター装置)に上記の光学異性体分離カラムを接続して、アミノ酸及びアミンのラセミ体を分離させた例を表-1に示す。」

刊行物2には、「果糖製造技術の工業化」に係る記述があり、連続クロマトグラフィーに関して下記の記載がある。
2-イ:疑似移動床式連続分離法について、「このような欠点を解決した方法が図5-C)に示した“擬似移動床式連続分離法”である。これは移動床式連続分離法において,分離剤の循環を停止すると,図のように各成分の濃度分布曲線は実線の状態から点線の状態へと移動していく。この濃度分布曲線の移動に合わせて原料,脱離水の供給口および果糖,ぶどう糖の抜出し口を移動させれば,分離剤を移動させなくても,全く移動床式連続分離法と同じ分離成績を得ることができる。このため,この方法は“擬似移動床式連続分離法”(Simulated Moving Bed Separation Method)と呼ばれている。・・・・・以上述べてきたクロマトグラフィー分離法のうち,擬似移動床連続分離法は分離効率が最も優れ,また工業化に適している。」(第396頁右欄下から18行~下から4行、及び図5)
2-ロ:パイロットプラントでの果糖分離結果について、「参考までに,パイロットプラントでの果糖分離結果を表3に示した。この結果は図3に示した回分法と比較すると,分離剤量は2/3,脱離剤の水使用量は1/5に減少した。とくに脱離剤の水使用量が大幅に低減できたことは近年の燃料代高騰の折,果糖の製造コスト低減に大いに寄与している。」(第398頁左欄下から2行~右欄第4行、及び表3)

刊行物3には、「擬似移動層型吸着分離装置」に係る記述があり、下記の記載がある。
3-イ:装置の概略について、「そこで,実際には吸着剤を移動させることなく,固液(または気固)の向流接触を実現する方法が,Universal Oil Products (UOP)社によって開発された擬似移動層型吸着分離装置であり,一般にソーベックス法と呼ばれている.擬似移動層型吸着分離装置では,いくつかの吸着塔を環状に配置し,流体の供給・取り出し口を所定の周期で流体流れ方向に吸着塔1本分づつ移動することにより,相対的に吸着剤と流体の向流接触を実現する.」(第49頁左欄下から6行~右欄第4行)
3-ロ:原理及び操作法について、「擬似移動層型吸着分離装置は,図1に示すように,最少4本の吸着塔で構成することができる.・・・フィードより分配係数の異なる2成分A,Bの混合物(分配係数はmA>mBとする)を連続的に供給すると・・・分配係数の小さい成分Bは成分Aより速く移動するので、ゾーンII左端に達した成分Bはラフィネートとして分画される.・・・つぎに,ゾーンIIの吸着塔をゾーンIII に移す(または,流体の供給・取り出し口を流体流れ方向に移す).このとき塔内は成分BとAによって満たされている.そこで両成分の移動速度の差を利用して,周期Tの間に成分Bは全てゾーンIIに戻されるが,成分Aの大部分はゾーンIII 内に留まるように操作する.・・・このようにして成分Bを含まなくなった吸着塔はゾーンIVに移され,ここでゾーンIVの右端より導入される溶離剤により脱着され,エキストラクトに回収されるとともに,吸着塔が再生される.・・・以上の操作を同時に行うことにより,回収される成分の希釈率を抑えて,2成分を連続的に分離することができる.」(第49頁右欄下から6行~第50頁右欄第7行、及び第1図)
3-ハ:装置の適用例について、「擬似移動層型吸着分離装置を開発したUOP社は,同装置をC8 炭化水素混合物からのp-キシレンの分離など多くの分離プロセスに適用している.また,同装置は多くの研究者により種々の分離プロセスに適用されている.」(第51頁右欄第22行~第27行)

刊行物4には、「擬似移動層による連続クロマト分離」に係る記述があり、下記の記載がある。
4-イ:擬似移動層について、「擬似移動層は,図2に示すように通常4つのゾーンから成っている.第Iゾーンは弱吸着性の成分Bを回収し,溶出液を再生するために設けられている.第IIゾーンは強吸着性の成分Aと成分Bを分離し,ラフィネートから成分Bを回収するためのゾーンである.第III ゾーンでは成分Bが脱着され,成分Aが精製される.精製された成分Aは第IVゾーンで脱着され,エキストラクトより回収される.Universal Oil Product (UOP)社では,Sorbex 法と呼ばれる擬似移動層吸着分離操作によって,軽ナフサからn-パラフィンの回収,C8 炭化水素化合物からp-キシレンの分離等が工業的規模で実施されている.また,液糖製造プロセスにおけるグルコース,フラクトースの分離にも擬似移動層は広く適用されている.」(第46頁左欄第1行~第16行、及び図2)

刊行物5には、「液体クロマトグラフィーによる分離精製」に係る記述があり、下記の記載がある。
5-イ:LC(液体クロマトグラフィー)の利用について、「分析用LCの普及によって,LCの優れた分離機能が広く理解されるようになったことを背景として,最近では工業的分離精製の手段としての期待と関心が強くなってきた.LCによる工業的分離精製の適用例としては,・・・・・また,医薬,農薬などの生理活性物質をはじめ種々の光学異性体の分割についても最近の進歩は目ざましいものがある.」(第65頁右欄第8行~第22行)
5-ロ:移動床方式及び擬似移動床式分離法の特徴について、「この欠点を解決する方法として移動床方式が開発された.移動床方式は図2に示すように分離剤を下方より上方に一定速度で循環させ,溶離液を上方より下方に流す.・・・移動床方式は分離剤の利用効率の向上,溶離剤の使用量の減少といった特徴があり,抗生物質の工業的精製などに利用されている.・・・移動床方式の欠点を克服する方法がUOP社の開発した擬似移動床式分離法である.移動床方式では分離剤の循環移動を停止すると各成分の濃度分布曲線は液流の下流側へ移動する.この濃度分布曲線の移動に合わせて,原料および溶離液の供給口の位置および製品の抜き出し口の位置を移動させると,分離剤を移動させることなく,移動床式分離法に近い分離効果が達成される.・・・この方式は,設備費が高いとか操作が複雑であるなどの欠点があるが大規模分離に適している.」(第67頁左欄下から4行~第68頁左欄第13行)
5-ハ:分離塔の塔径と分離能の関係について、「一般の高速LCに使用されている分離カラムをスケールアップした場合の分離塔の塔径と分離能の関係を図4に示す。」(第68頁左欄末行~右欄第2行、及び図4)
5-ニ:分離能の粒径,塔径依存性について、同じ塔径においては粒径20~40μmの分離剤の方が粒径30~60μmの分離剤より分離能に優れていること(第68頁右欄図4)。

刊行物6には、種々の光学活性ポリマーを用いた光学分割に係る記述があり、下記の記載がある。
6-イ:キラルなクラウンエーテルを用いた例について、「クラウンエーテルの溶液を用いて,ラセミ化合物の液相間の移動や液-液クロマトグラフィーを利用する光学分割が試みられているが,これを担持させたシリカゲル,あるいは化学結合させた架橋ポリスチレン(16)のカラムによるクロマトグラフィーも行われている.」(第307頁右欄第2行~第7行)
6-ロ:光学活性なポリメタクリル酸トリフェニルメチルを重合させたポリマー(PTrMA)を用いた例について、「ポリマーをカラムにして,ヘキサンを溶媒に用いてクロマトグラフィーを行うと,・・・表1のようにそれぞれの鏡像体が得られた.・・・このカラムはまた1-フェニルエチルアルコールやメントールのような極性化合物に対しても分割能を示したが,ヘキサンの代りにメタノールを溶離液に用いると分離能が大きく向上し,広範囲な種々のラセミ化合物の光学分割が可能になる.粒径を20~44μmにそろえた(+)-PTrMAの細粒を充填剤にして,高速液体クロマトグラフィーを用いて2,2’-dihydroxy-1、1’-binaphthyl を分割すると図1のクロマトグラムに見られるように完全分割が行われる.」(第310頁左欄第9行~下から2行)
6-ハ:シリカゲルに担持させた充填剤について、「粉砕した(+)-PTrMAを充填剤にしたカラムはポリマーの粒径をできるだけ細かくし,しかも均一にしないと十分な分割結果が得られない.これは大変困難な上にカラムの耐久性も必ずしも良くなかった.この点を改善する目的でポリマーをシリカゲルに担持させたところ,性能のさらにすぐれた高速液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤が得られた.ポリマーとしては可溶性の(+)-PTrMA・・・を用い,これをジクロロジフェニルシランで処理した大孔径の全多孔性シリカゲル(粒径10μm,孔径1000Å)の表面に塗布したものである.」(第312頁右欄下から4行~第313頁左欄下から12行)

刊行物7には、「クロマトグラフィーによる光学活性体の分取」に係る記述があり、下記の記載がある。
7-イ:現在市販されている光学分割用カラムについて、充填剤として「β-and γ-Cyclodextrin 」及び「CHIRALCEL OA」「CHIRALCEL OB」「CHIRALCEL OC」「CHIRALCEL OD」「CHIRALCEL OK」(第46頁表2)
7-ロ:工業的に実施することについて、「液クロによる光学活性体の分取を工業的に実施する上で重要なことは、単位時間当りに目的成分を希望純度でいかに多く生産できるかであり、そのために、今多くの様々な研究が行われている。」(第45頁左欄下から2行~右欄下から13行)
7-ハ:溶離液の決定について、「標準的な溶離液での分析から得られる分離度と分離係数を指標に,溶離液の最適化を行う.溶離液の選択は極めて重要であり,適切な選択を行うと思いがけない分離の改善が達成される.図1に,4-ヒドロキシ-2-シクロペンテノンを分取する際の検討例を示す.すべてヘキサン-アルコール系であるが,添加するアルコールによって分離度が大きく変化している.」(第47頁右欄第2行~第9行、図1)

刊行物8には、「液体クロマトグラフィー法による光学分割技術の開発と応用」に係る記述があり、下記の記載がある。
8-イ:光学異性体分離用カラムについて、「実用的なキラル固定相としては光学活性な化合物が用いられ,具体例としては,合成高分子,天然の高分子であるセルロース誘導体,アミノ酸,アミノアルコール,牛血清アルブミンなどが使用されている。当社は昭和57年から,光学異性体分離カラムを上市しており,現在,第2表に示すように,合成高分子系2種,セルロース誘導体系6種,アミノ酸およびアミノアルコール系3種の合計11種類の分析用、分取用カラムを販売している。」及び「CHIRALCEL OA」「CHIRALCEL OB」「CHIRALCEL OC」「CHIRALCEL OD」「CHIRALCEL OK」(いずれもシリカゲル系コーティング型)(第56頁右欄第2行~第11行、及び第57頁第2表)

刊行物9には、「ソーベックス法による連続向流吸着技術」に係る記述があり、下記の記載がある。
9-イ:擬似移動床-ソーベックス法の技術について、「この原理を実装置に具体化したのが第4図に示されている。ここでは吸着剤は固定床であり,液循環ポンプが備えつけられ,液を吸着室の底部より塔頂部へ循環させている。・・・すなわち,脱着剤はライン2からライン3へ移り,同時に,エクストラクトはライン5からライン6へ,原料はライン9から10へ入り,ラフィネートはライン12から1へと移る。」(第59頁左欄下から12行~右欄第8行、及び第4図)
9-ロ:ソーベックス法の適用について、「ソーベックス法を適用して工業化に成功しているものとしては,高純度のパラキシレンを製造するパレックス法,ノルマルパラフィンを製造するモレックス法,オレフィンを製造するオレックス法がある。ソーベックス法の技術,あるいは操作に関する事柄のいくつかを以下に紹介するが,それは,すでに開発された装置のみならず,まだ開発されていない種種の分離や精製プロセスへの適応性をも示唆するものである。」(第55頁左欄第6行~第14行)

刊行物10には、「クロマト分離法の工業プロセス化」に係る記述があり、下記の記載がある。
10-イ:クロマト分離の工業的利用について、「クロマト分離を工業的に利用するためには (1)分離剤の利用効率,すなわち分離剤容積当りの生産量を高める (2)溶離剤の使用量を減らす (3)目的成分を高純度かつ高収率で生産する 等を主眼に各種操作法が提案されている.これらの方法は大きく分けると回分法と連続法とに分けられる.」(第87頁下から10行~下から3行)
10-ロ:連続法について、「連続法の考え方は図4で示す移動床方式が,次いで図5に示す擬似移動床方式が提案されたが実用化されているのは後者の方式で,1964年米国のユニオンオイルプロダクツ(UOP)社によりMOLEX PROCESS(ナフサよりパラフィンの分離)が開発,実用化された。」(第89頁左欄下から5行~右欄第1行)
10-ハ:連続法の特徴について、「この連続法は回分法に較べ分離効率が非常に優れており,分離剤および溶離剤の使用量が大幅に低減できるとともに製品の純度,回収率がさらに向上できる.」(第90頁左欄第2行~第5行)

刊行物11には、「クロマト分離の工業プロセスへの応用」に係る記述があり、下記の記載がある。
11-イ:擬似移動床式連続プロセスについて、「クロマト分離をもっとも効率よく行う方法として擬似移動床(Simulated Moving Bed)という方法がある.・・・分離塔内には分離剤が充てんされており,この分離剤は上方に一定速度で移動させるものとし,上方から抜き出した分離剤は直ちに下部から補給してゆくものとする.一方,液は分離塔の上方から下方にポンプにより循環しているものとする.この分離塔の中央に原料を供給してやると,果糖は分離剤に吸着しやすいので,分離剤の移動に合わせて上方に移動しようとし,一方ぶどう糖は吸着しにくいので,液流により下方に押し流されようとする.この分離剤の移動速度と,液の流速および上下の抜出口からの抜出量を非常にうまく合わせてやると,カラム内の両成分の濃度分布は図3のような形で一定に保つことができるのである.・・・この欠点を除き,分離剤を移動させないで移動床とまったく同じ結果を得る方法として考えられたのが「擬似移動床法」である.・・・この擬似移動床の原理は,図3の移動床において分離塔内の濃度分布が所定の形状になっているものとし,この状態で分離剤の上方移動を停止すると,図4のように分離塔内の濃度分布は分離剤を移動していたのと同一の速度で下方に移動することになる.したがって,この濃度分布の移動速度に合わせて供給および抜出しの位置を順次移動させてやればよいというわけである.」(第49頁左欄第2行~右欄17行、及び図4)

刊行物12には、「擬似移動層による吸着分離」に係る記述があり、下記の記載がある。
12-イ:疑似移動層操作について、「粒子をいくつかの小さい塔に分けて充填し、流体の入口および出口を所定の周期で塔1本づつ移動させれば、相対的に固体粒子を移動したことになる。このような操作では、実際には固体粒子は移動しないが、粒子を移動させたのとほぼ同等の機能があり、擬似移動層(simulated moving-bed)操作と呼ばれる。この擬似移動層操作が適用されて大きな成功を収めている例に、固液(または気固)の向流接触による2成分の連続分離を目的とする擬似移動層型吸着分離装置がある。この装置は最初、Universal Oil Products (UOP)社により開発され、一般にSorbex法と呼ばれている。」(第48頁第9行~第16行)
12-ロ:擬似移動層型吸着分離装置について、「この装置では、図2に破線で示したように、各ゾーンは数本の塔(層)に分割される。吸着剤と流体を向流接触させる方式には、流体供給・取り出し口を固定しておいて吸着塔を流体流れと逆方向に動かす方式と、吸着塔は固定しておいて流体供給・取り出し口を流体流れ方向に塔1本づつ動かす方式がある。後者の方式は工業的規模の操作に適しており、巧妙に製作されたロータリーバルブを用いる方式と多くのON-OFFバルブを使用して流路を切り替える方式がある。ロータリーバルブを使用するSorbex Processの構成を図3に示す。」(第49頁下から6行~第50頁第2行、及び図2、図3)

刊行物13には、「擬似移動層によるグルタチオンの分離」に係る記述があり、擬似移動層の模式図が記載されている。(第121頁Figure 1.)

刊行物14には、「ソーベックス法による連続向流吸着技術」に係る記述があり、下記の記載がある。
14-イ:ソーベックス法について、「ソーベックス法とは,UOPによってつけられた名称であり,それは,固体吸着剤を使ってある成分,あるいはグループ成分を,擬似移動床操作により抽出する数々のUOPプロセスに対する総称である。1964年にソーベックス法による最初の工業装置が稼働した時点では,同法は以前の吸着技術からの急激な技術飛躍を意味した。しかし,その後1975年5月までの11年間に,合計16基のソーベックス法による工業装置が稼働し,その稼働日数は延べ60年間にも及ぶ。その経験量の大きさからいえば,ソーベックス法はもはや“新技術”として呼ばれるべきではない。ソーベックス法は種々の抽出操作に対して高効率で,信頼性が高く,運転が容易な設計技術であることが実証されている。ソーベックス法は,適当な選択性を持った吸着剤と,それに見合う脱着剤があれば,本質的には同じ設計技術で広範囲の分離法に適用され得る。たとえ吸着剤が目的抽出成分に対して小さな選択性しか有さなくても,良好な分離が達成されることが本法の特徴である。」(第54頁右欄下から6行~第55頁左欄第15行)

刊行物15には、「擬似移動層による吸着分離」に係る記述があり、上記刊行物12における記載12-イ、ロと同じ記載がある(第167頁~168頁参照)

刊行物16には、下記の記載がある。
16-イ:「芳香族環を含むセルロース誘導体を主成分とする分離剤。」(特許請求の範囲)
16-ロ:従来技術について、「クロマト法による光学異性体の分離の研究は以前より行われている。例えばセルロースまたは一部のセルロース誘導体はカラムクロマトグラフィー用分離剤として光学分割に用いられている。」(公報第1頁右下欄第4行~第8行)
16-ハ:分離剤の形状について、「クロマト用分離剤は粒状であることが好ましいことから、・・・芳香族環を含むセルロース誘導体を破砕するか、ビーズ状にすることが好ましい。粒子の大きさは使用するカラムやプレートの大きさによって異なるが、・・・好ましくは1μm~300μmで、粒子は多孔質であることが好ましい。」(公報第3頁左上欄第7行~第15行)

刊行物17には、芳香族アルコール誘導体を多糖誘導体を有効成分とする分離剤によって光学分割することを特徴とするアラルキルアルコール類の光学分割方法が記載されており(特許請求の範囲参照)、分離剤はそのままあるいは担体に保持させてカラムに充填させること、また、分離剤は1μm~300μmの粒状であることが好ましいことが記載されている(公報第3頁左下欄第8行~第20行参照)。また、実施例においては溶離液としてヘキサン-2-プロパノール(9:1)を用いることが記載されている(公報第5頁左上欄第4行~第5行参照)。

刊行物18には、多糖の置換芳香族エステル誘導体を有効成分とする分離剤が記載されており(特許請求の範囲参照)、分離剤は好ましくは1μm~300μmの粒状で、担体に保持させることが好ましいことが記載されている(公報第3頁右上欄第6行~第13行参照)。また、この分離剤は、従来分離が非常に困難であった光学異性体の分離に極めて有効であることが記載されている(公報第4頁左上欄第4行~第7行参照)。

刊行物19には、「光学分割機能をもつ高分子」に係る記述があり、液体クロマトグラフィーの固定相に用いられるセルロースおよび多糖の誘導体、光学活性なポリアクリルアミドとポリメタクリルアミド、光学活性ポリメタクリル酸トリフェニルメチル等について説明されている(第995頁~第1002頁参照)。

刊行物20には、「クロマトグラフィーによる光学分割」に係る記述があり、低分子系キラル固定相、高分子系キラル固定相、市販されているキラルHPLCカラム等の具体例について記載されている(第135頁、第136頁、第141頁参照)。

刊行物21には、液体クロマトグラフィーによる光学分割に係る記述があり、溶離液として硫酸銅溶液を用いたことが記載されている(第68頁第13行~第14行参照)。

刊行物22には、液体クロマトグラフィーによるアミノ酸の光学分割に係る記述があり、溶離液として過塩素酸水溶液を用いることが記載されている(第146頁第27行~第28行、第147頁下から10行~下から9行参照)。

5.対比・判断
(1)請求項1について
(特許法第29条第1項について)
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、疑似移動床方式を用いる光学異性体の分離方法に係るものであるが、上記刊行物1には疑似移動床方式を用いる光学異性体の分離方法については具体的な記載がない。すなわち、上記刊行物1には光学異性体分離用充填剤に係る発明が記載されており(上記記載1-イ参照)、分割方法としてカラム法が例示され、ソーベックスの手法を用いれば連続操作も可能であることが記載されている(上記記載1-ロ参照)が、実施例において実際用いられているのは高速液体クロマトグラフ装置に光学異性体分離カラムを接続したものであって(上記記載1-ハ参照)、疑似移動床方式を用いるものではない。
したがって上記刊行物1には疑似移動床方式を用いる光学異性体の分離方法は記載されておらず、また、実質的に記載されているに等しいとも認めることができないことから、本件発明1は上記刊行物1に記載された発明ではない。

(特許法第29条第2項について)
本件発明1において特定されている「擬似移動床方式」とは、具体的には「内部に充填剤を収容し、かつ前端と後端とが流体通路で結合されて無端状になっていて液体が一方向に循環している充填床に、2成分混合物含有液及び脱離液を導入し、同時に充填床から分離された1種類の成分を含有する液ともう一方の種類の成分を含有する液を抜き出すことからなり、充填床には、脱離液導入口、吸着されやすい成分を含有する液(エクストラクト)の抜出口、2成分混合物含有液導入口、吸着されにくい成分を含有する液(ラフィネート)の抜出口を流体の流れ方向に沿ってこの順序で配置し、かつこれらを床内の流体の流れ方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動することによりなる」ものであると認められる(本件【請求項1】、段落【0005】参照)。
これに対して、刊行物2に記載された「擬似移動床式連続分離法」、刊行物3に記載された「擬似移動層型吸着分離装置(ソーベックス法)」を用いた分離法、刊行物4に記載された「擬似移動層吸着分離操作」、刊行物5に記載された「擬似移動床式分離法」、刊行物9に記載された「ソーベックス法」、刊行物10に記載された「擬似移動床方式」、刊行物11に記載された「擬似移動床法」、刊行物12に記載された「擬似移動層型吸着分離装置」を用いた分離法、刊行物13に記載された「擬似移動層」による分離法、刊行物14に記載された「ソーベックス法」、刊行物15に記載された「擬似移動層による吸着分離」方法は、装置の構成やその操作方法、図面の記載等を参照すると、いずれも分離剤を充填した吸着塔の両端部を流体通路で結合して流体を一方向に循環させ、流体の流れ方向に沿って溶離液供給口、エキストラクト取出口、原料供給口、ラフィネート取出口を順番に配置し、かつこれらの供給口及び取出口を流体の流れ方向に順次移動させて特定成分の分離を行う方法であって、連続式の液体クロマトグラフィー分離方法として位置づけられているものと認められる(上記記載2-イ、3-イ、ロ、4-イ、5-ロ、9-イ、10-ロ、11-イ、12-イ、ロ、14-イ参照)。またこれらの方法は、公知技術として本件特許明細書段落【0005】に記載され、かつ本件発明1において特定されている「擬似移動床方式」に係る分離方法と同じものであると認められる(以下、これらをまとめて「刊行物記載の分離方法」という。)。
そこで、本件発明1の分離方法と上記刊行物記載の分離方法とを比較すると、上述したように「擬似移動床方式」を用いた分離方法である点で両者は一致しており、一方、本件発明1においては、「光学分割用充填剤」を用いて「光学異性体混合物含有液」を「吸着されやすい光学異性体を含有する液(エクストラクト)」と「吸着されにくい光学異性体を含有する液(ラフィネート)」に分離する「光学異性体の分離方法」として特定されているのに対して、上記刊行物記載の分離方法は、光学異性体の分離方法としては特定されていない点(相違点1)、及び、本件発明1においては、「光学分割用充填剤が、担体に担持された光学活性高分子化合物又は担体に担持された光学分割能を有する低分子化合物で、かつ粒子の形態であり、粒子径が20~50μmである」のに対して、上記刊行物記載の分離方法は光学分割用充填剤については特定されていない点(相違点2)で相違している。
上記相違点1について検討するに、刊行物4、5、9、14には「擬似移動床方式」による分離方法がさまざまな物質の分離方法として広く利用されていることが記載され(上記記載4-イ、5-イ、9-ロ、14-イ参照)、特に刊行物14には「ソーベックス法は,適当な選択性を持った吸着剤と,それに見合う脱着剤があれば,本質的には同じ設計技術で広範囲の分離法に適用され得る。」として、新たな分野への適用の可能性が示唆されている(上記記載14-イ参照)。さらに刊行物5には、「医薬,農薬などの生活物質をはじめ種々の光学異性体の分割についても最近の進歩は目ざましいものがある.」として、「擬似移動床式分離法」を含む液体クロマトグラフィーによる分離精製技術が、光学異性体の分割にも応用されていることが記載されている(上記記載5-イ参照)。
一方、刊行物1、刊行物6~8、及び刊行物16~22には液体クロマトグラフィーを用いて光学異性体を分割する技術が記載されており、分割剤の種類(上記記載1-イ、6-イ、ロ、7-イ、8-イ、16-イ、ロ、刊行物19、20参照)や形状(上記記載16-ハ、刊行物17、18参照)、溶離剤の選定(上記記載6-ロ、7-ハ、刊行物17、刊行物21、刊行物22参照)などについても検討がなされ、かつ、工業的規模での光学分割を行うことについても記載されている(上記記載7-ロ参照)。また刊行物1には、分割方法についての記述の中で「ソーベックスの手法を用いれば連続操作も可能になる利点を有している。」と記載され(上記記載1-ロ参照)ており、この「ソーベックスの手法」は、上述した「擬似移動床方式」による分離法と同じものであることから、刊行物1には、液体クロマトグラフィーを用いて光学異性体を分割する際に「擬似移動床方式」による分離法を用いれば有利であることが示唆されているものと認められる。
このように、「擬似移動床方式」による分離方法が、連続式の液体クロマトグラフィー分離方法の一形態として例えば刊行物2~5、9~15に示されるように公知であって、かつ、さまざまな分野に適用できる可能性が示唆され、特に刊行物5には液体クロマトグラフィー分離方法が光学異性体の分割にも用いられていることが示唆されており、また、液体クロマトグラフィーを利用した光学異性体の分割方法が、例えば刊行物1、6~8、16~22に示されるように本件出願前に広く知られており、特に刊行物1には、上記「擬似移動床方式」による分離方法を採用することの有利性についても記載されていることを考え合わせると、「擬似移動床方式」による分離方法を光学異性体の分割にも適用すること、すなわち上記相違点1に挙げられた構成を導き出すことは、当業者であれば容易になし得たことである。
次に、上記相違点2について検討するに、担体に担持された光学活性高分子化合物又は担体に担持された光学分割能を有する低分子化合物で、かつ粒子の形態である分割剤はこの出願前に知られており(上記記載1-イ、6-イ、ハ、7-イ、8-イ、刊行物16~20参照)、その粒径として1~300μmのものが好ましいことが知られているが(上記記載16-ハ、17、18参照)、実際にどの程度の大きさの充填剤が一般的であるのかについては記載がない。また、刊行物6には、高速液体クロマトグラフィーを用いた光学分割において、粒径を20~44μmにそろえた(+)-PTrMAの細粒を充填剤として用いて完全分割が行われたことが記載されているが(上記記載6-ロ参照)、この充填剤はポリマーを粉砕したものであって、ポリマーが担体に担持されたものではない。さらに刊行物6には、(+)-PTrMAを粒径10μmの全多孔性シリカゲルに担持させた充填剤が高い光学分割能を示したことが記載されているが(上記記載6-ハ参照)、これより大きな粒径のシリカゲルを用いることについては記載されておらず示唆もなされていない。したがって、「擬似移動床方式」による分離方法を光学異性体の分割に適用する際に、上記刊行物6を参照すれば、充填剤として粒径20~44μmの光学活性高分子化合物を用いることは想到できるとしても、担体に担持された光学活性高分子化合物又は担体に担持された光学分割能を有する低分子化合物であって粒径20~44μmのものを充填剤として用いることまでは想到できず、上記相違点2に挙げられた構成を導き出すことは、当業者が容易になし得たことではない。
そして、本件発明1は、上記相違点1、2に挙げられた構成を合わせて備えることにより、「光学異性体の混合物を連続的に効率よく分離でき、用いる脱離液は少なくてすみ、かつ大量処理できる」という明細書記載の効果を奏するものであると認められる。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1~22に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)請求項2ないし7について
本件請求項2ないし請求項7に係る発明は、いずれも本件発明1の構成をその主たる構成として含むものであり、上述したとおり本件発明1は、上記刊行物1~22に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、同様な理由により、訂正後の本件請求項2ないし請求項7に係る発明もまた、上記刊行物1~22に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1ないし請求項7に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし請求項7に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、本件請求項1ないし請求項7に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めないから、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-07-01 
出願番号 特願平3-5669
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C07B)
P 1 651・ 121- Y (C07B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西川 和子  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 鈴木 紀子
後藤 圭次
登録日 1999-05-07 
登録番号 特許第2925753号(P2925753)
権利者 ダイセル化学工業株式会社
発明の名称 光学異性体の分離方法  
代理人 持田 信二  
代理人 古谷 馨  
代理人 古谷 聡  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 義経 和昌  

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