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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない B66C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない B66C
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効としない B66C
管理番号 1080759
審判番号 無効2000-35581  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-02-19 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-10-20 
確定日 2003-07-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第2833674号発明「重量物吊上げ用フック装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 【1】手続の経緯
(1)本件特許第2833674号の請求項1〜5に係る発明(以下、「本件特許発明1〜5」という。)についての出願は、平成3年8月2日に特許出願され、平成10年10月2日にそれらの発明について特許の設定登録がなされた。
(2)請求人株式会社スーパーツールは、平成12年10月20日付けで、本件特許発明1〜5についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求した。
(3)これに対して、被請求人は、平成12年12月26日付けで答弁書を提出した。

【2】請求人の主張および提出した証拠方法
[請求人の主張の概要]
請求人は、証拠として、甲第1号証〜甲第13号証を提出するとともに、以下に示す理由(1)、(2)により、本件特許発明1〜5に係る特許を無効とすべきである旨、主張している。
(1)第1の理由
請求項1には、「(iv)-1」として、「前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32,32’)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、」と記載されており、また、「(iv)-2」として、「前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、」と記載されている。
ところが、本件特許明細書及び図面(「甲第1号証」参照)には、仮想略平行線が実際どのように引かれるのか記載されていない。
そして、本件特許明細書及び図面の記載をみると、フックの後端部(32,32’)は、フック先端部(31)の反対側のフックの湾曲部分から後方に屈曲した二股構造のみを指すと解せられるところ、二股構造(32,32’)の内側、及び、フックの先端部(31)の内側に接する仮想略平行線は存在しない。
それゆえ、仮想略平行線が存在しない以上、仮想略平行線と略平行となる、ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分も存在しない。
すなわち、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には、(iv)-1及び(iv)-2の事項を具体的に実現する手段が記載されていないから、本件特許発明1は、(イ)発明の詳細な説明に、当業者が容易に実施できる程度に構成を記載していないばかりか、(ロ)特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、(ハ)特許請求の範囲の記載が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでもない。
したがって、本件特許発明1についての特許、及び本件特許発明1の構成を構成の一部とする本件特許発明2〜5についての特許は、特許法第36条第4項及び第5項第1〜2号の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(2)第2の理由
請求項1に記載の「(iv)-1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32,32’)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、」及び「(iv)-2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設される」ことは、平成10年7月23日付け手続補正により追加された事項であるが、当該事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていない。
したがって、上記手続補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものであるから、本件特許の出願は、上記手続補正書提出時の平成10年7月23日にしたものとみなされるべきものである。
ところで、甲第8号証(本件特許発明に関連するフック装置シリーズの最初の特許出願である特許第2833671号の願書に最初に添付した明細書及び図面をコピーした1991年7月13日付けファクシミリ)の図1には、上記(iv)-1及び(iv)-2の事項が示されている。
そして、甲第10号証に記載される請求人と被請求人とのやりとりの経緯をみると、平成3年9月下旬に、甲第8号証に関する特許発明の実施許諾をめぐる両者の交渉は決裂している。
それゆえ、遅くとも平成3年10月1日には、請求人は、甲第11号証に記載されるところの「特定人」から「不特定人」へ転換しているから、請求人は甲第8号証の内容に関して秘密を保持すべき義務をもはや有しておらず、したがって、甲第8号証記載の発明は、平成3年10月1日時点では公然知られた発明である。
よって、本件特許発明1は、甲第8号証、及び、甲第13号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許発明2〜5は、甲第8号証、及び、甲第12号証或いは甲第13号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜5についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[請求人の提出した証拠方法]
・甲第1号証;特許第2833674号公報
・甲第2号証;新村出編「広辞苑」第2版、[株式会社岩波書店、昭和47年10月16日発行]、第1249頁
・甲第3号証;本件特許第2833674号(特願平3-216524号)の願書に最初に添付した明細書及び図面
・甲第4号証;(本件特許に関する)平成7年12月27日付け意見書
・甲第4号証の1;(本件特許に関する)平成7年12月27日付け手続補正書
・甲第5号証;(本件特許に関する)平成10年2月17日付け補正案のファクシミリ
・甲第5号証の1;(本件特許に関する)平成10年2月19日付けの応対記録
・甲第5号証の2;(本件特許に関する)平成10年3月18日付け手続補正書
・甲第6号証;(本件特許に関する)平成10年6月29日15:07〜15:08付け補正案のファクシミリ
・甲第6号証の1;(本件特許に関する)平成10年6月29日16:24〜16:25付け補正案のファクシミリ
・甲第6号証の2;(本件特許に関する)平成10年7月1日付けの応対記録
・甲第7号証;(本件特許に関する)平成10年7月23日付け手続補正書
・甲第8号証;本件特許発明に関連するフック装置シリーズの最初の特許出願である特許第2833671号の願書に最初に添付した明細書及び図面の1991年7月13日付けファクシミリ
・甲第9号証;本件特許発明に関連するフック装置シリーズの最初のフックの見積図面
甲第10号証;被請求人作成の、請求人及び被請求人間のやりとりの時系列説明
甲第11号証;吉藤幸朔著「特許法概説」第8版、[有斐閣、昭和63年5月20日発行]、第74頁〜第77頁
甲第12号証;特開昭55-82814号公報
甲第13号証;意匠第870522号公報

【3】被請求人の主張
被請求人は、上記理由1、2に対し、以下のとおりの旨主張している。
(1)理由1に対して
本件特許の明細書に記載不備は存在しない。
(2)理由2に対して
請求項1に記載の(iv)-1及び(iv)-2の事項は、本件特許の願書に最初に添付した明細書又は図面に実質的に記載されていたから、平成10年7月23日付け手続補正は明細書又は図面の要旨を変更するものではなく、本件特許の出願日は繰り下がらない。
また、請求人は甲第8号証の内容に関して秘密を保持すべき義務を有しており、甲第8号証記載の発明は、本件特許の出願前に公然知られた発明ではない。
さらに、本件特許発明1〜5は、甲第8号証、及び、甲第12号証或いは甲第13号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

【4】本件特許発明1〜5
本件特許発明1〜5は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 吊上げ装置のワイヤー先端部に取付けられ、重量物を吊上げるためのフック装置において、前記フック装置が、
(i).先端部に脱落防止部(11)、後端部にワイヤー固定部(12)を有するフック支持体(1)、
(ii).フック(3)の後端部(32,32’)が二股構造であり、前記後端部(32,32’)の二股空間内に前記フック支持体(1)の略中央部(13)が遊嵌され、かつ、前記フック(3)の後端部(32,32’)と前記フック支持体(1)の略中央部(13)を貫通する接合ピン(2)を介して前記フック支持体(1)の略中央部(13)に回動自在に配設されたフック(3)、
(iii).前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)と前記フック(3)の先端部(31)が略当接関係にあるときにロック状態とする前記フック(3)の後端部(32,32’)の二股空間内に配設されたロック(4)、及び、
(iv).前記フック(3)と前記フック支持体(1)は、前記フック(3)と前記ロック(4)のロックが解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、
(iv)-1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32,32’)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、
(iv)-2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、
を特徴とする重量物吊上げ用フック装置。
【請求項2】 二股構造のフック(3)の後端部(32,32’)の空間内に配設されたロック(4)の端部(41)が、バネ体(5)の弾発によりフック支持体(1)の略中央部(13)に当接するものである請求項1に記載の重量物吊上げ用フック装置。
【請求項3】 ロック(4)の端部(41)が、フック支持体(1)の略中央部(13)に設けた凹部(14)に係合してロック状態となる請求項2に記載の重量物吊上げ用フック装置。
【請求項4】 フック支持体(1)の脱落防止部(11)とフック(3)の先端部(31)がロック(4)によりロック状態となったとき、ロック(4)の操作レバー(42)がフック(3)の後端部(32,32’)から突出するものである請求項1に記載の重量物吊上げ用フック装置。
【請求項5】 フック支持体(1)の脱落防止部(11)とフック(3)の先端部(31)がロック(4)により係合解除され、かつ、フック(3)の背部(33)がフック支持体(1)の側部(15)の方向に反転回動されたとき、フック(3)の後端部(32,32’)から突出しているロック(4)の操作レバー(42)が二股構造のフック(3)の後端部(32,32’)に収納するものである請求項1に記載の重量物吊上げ用フック装置。」

【5】甲第1、11号証の記載事項
(1)甲第1号証(特許第2833674号公報);
甲第1号証には、
(イ)上記「【4】本件特許発明」の欄に記載の【請求項1】〜【請求項5】の記載内容、
(ロ)「【問題点を解決するための手段】 本発明を概説すれば、本発明は、吊上げ装置のワイヤー先端部に取付けられ、重量物を吊上げるためのフック装置において、前記フック装置が、
(i).先端部に脱落防止部(11)、後端部にワイヤー固定部(12)を有するフック支持体(1)、
(ii).フック(3)の後端部(32,32’)が二股構造であり、前記後端部(32,32’)の二股空間内に前記フック支持体(1)の略中央部(13)が遊嵌され、かつ、前記フック(3)の後端部(32,32’)と前記フック支持体(1)の略中央部(13)を貫通する接合ピン(2)を介して前記フック支持体(1)の略中央部(13)に回動自在に配設されたフック(3)、
(iii).前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)と前記フック(3)の先端部(31)が略当接関係にあるときにロック状態とする前記フック(3)の後端部(32,32’)の二股空間内に配設されたロック(4)、及び、
(iv).前記フック(3)と前記フック支持体(1)は、前記フック(3)と前記ロック(4)のロックが解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、
(iv)-1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32,32’)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、
(iv)-2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、を特徴とする重量物吊上げ用フック装置に関するものである。」(段落【0006】)、
(ハ)「【0008】 図1は、本発明の第一実施態様のフック装置の構造を説明するための正面図である。‥‥(中略)‥‥なお、図1は、後述するようにフック(3)の後端部が二股構造になっているために、その一部を切欠いて二股空間部の構造を示しており、更にフック(3)がロック状態にあるときと略180°反転回動させたときの状態を示している。」(段落【0008】)、
(ニ)「【0010】 本発明のフック(3)は、ロック状態時に前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)と共働して鉄板などの重量物が脱落しないようにするフック先端部(31)、フック背部(33)、及び前記フック支持体(1)の略中央部(13)を遊嵌させ、かつ後述するロック(4)を収納することができる十分な空間を有する二股構造のフック後端部(32,32’)から成るものである。図示されるように、フック(3)は、二股構造の後端部(32,32’)から背部(33)、先端部(31)に至る形状が所望のフック形状をしているものである。」(段落【0010】)、
と記載されている。
また、これらの記載等を参酌すると、甲第1号証の【図1】には、
(ホ)「フック先端部31の内側に接して描いた線分と、フック先端部31と対向するフックの内側に接して描いた線分とは、仮想略平行線をなしており、フック3とフック支持体1は、前記フック3とロック4の係合が解除されて前記フック3が前記フック支持体1の脱落防止部11に対して反転回動されたとき、前記フック支持体1の脱落防止部11が、前記仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、ワイヤー固定部12の中心と接合ピン2の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されている。」こと、
(ヘ)「ロック4を収納するフック後端部32,32’の二股空間に、該空間の底面を示す実線が引かれている」こと(以下、該実線を、『【図1】の線分A』という。)、
が示唆されているものと認める。

(2)甲第11号証(吉藤幸朔著「特許法概説」第8版、[有斐閣、昭和63年5月20日発行]、第74〜77頁);
(イ)「特定人であったから発明を知ることができた場合においても、その後において秘密を守る義務が解除されたときは、彼はそのときから不特定人となり、したがって、彼の知っている発明は公然知られた発明となり3)、また彼がそれを使用すれば、公然実施をされた発明(次述(iv)参照)となる4)。特定人から不特定人への転換ということができよう。」(第75頁第18〜21行)
(ロ)「秘密にすべき関係 その発明について特に黙秘の義務を課せられた場合だけでなく、社会通念上又は商慣習上、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、これを期待することができると認むべき関係又は状況にある場合をも含むとすべきである。東京高判昭30.8.9行裁集6巻8号2007頁(精紡機事件)。特許庁審決昭44.5.10参考集(2)81頁(遠隔同調方式事件)は、上記趣旨を判示する。後者は、発注会社と受注会社の担当者のみが出席し、特別の技術内容を討議した打合会での出席者は、守秘義務があるとする。」(第75頁第25〜30行)
(ハ)「4)判決 東京高判昭49.6.18無体集6巻1号170頁(壁式建造物事件)は、「調査研究委託契約に基づき、委託者(出願人)が委託者に発明を実施して建てた住宅の所有権を譲渡するとともに各種の調査研究資料をも提供したことにより、それまでに有していた委託者の守秘義務は消滅したと認めるのが相当である。したがって、本願発明は本件住宅の譲渡及び使用により公然実施されたものであることが明らかである」旨を判示する。最高裁もこれを支持する(昭50.6.12取消集昭50年91頁)。」(第75頁第34行〜第76頁第2行)

【6】無効2000-35582号(特許第2833679号無効審判事件)の口頭審理調書の記載事項
本件無効審判事件と関連する、無効2000-35582号(特許第2833679号無効審判事件)に関し、平成13年2月27日に特許庁審判廷で行われた第1回口頭審理において作成された口頭審理調書(「参考資料1」として添付)には、以下の事項について、請求人及び被請求人(それぞれ、本件審判事件の請求人及び被請求人と同一)の間に争いのないことが示されている。
(イ-1)無効2000-35582号の甲第10号証(本件審判事件の甲第10号証)の内容。
(イ-2)請求人側より、無効2000-35582号の甲第10号証で示される書類(本件審判事件の甲第10号証)の提出を、実施許諾の検討等のために、被請求人側に求めたこと。 その際、無効2000-35582号の甲第8号証(本件審判事件の甲第8号証)の内容に関し、守秘義務についての取り決めはなかったこと。

【7】対比・判断
(1)第1の理由(特許法第36条第4項、第5項違反)について
(イ)フック「後端部」、及び、「仮想略平行線」について
本件特許発明のフックの「後端部」が示す範囲について、請求人は、【5】(1)の箇所で定義した『【図1】の線分A』より上部の「二股構造」のみがフック後端部であると主張し、被請求人は、フック後端部は『【図1】の線分A』の上部の部分から『【図1】の線分A』より下部の部分まで及ぶと主張している。(前記「口頭審理調書」参照、「参考資料1」として添付。)
また、請求人は、特に、【図1】等で示される本件発明の第1実施態様では、構成要件(iv)-1の「フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32,32’)の内側に接して描いた仮想略平行線」が存在しない旨主張している。
そこで、これらの点につき、以下検討する。
[フック「後端部」について]
本件特許明細書及び図面には、フック後端部が「二股構造」であることは記載されているが、フック後端部の範囲が、『【図1】の線分A』の上部に限定されるか、それとも、その下部にまで及ぶかについて明確に説明している記載はない。
しかし、『二股』とは、一般的に「もとが一つで、末の二つに分れたもの」を指すと認められる。(新村出編「広辞苑」第1版、[株式会社岩波書店、昭和33年7月15日発行]、第1978頁)
また、上記『二股』と同義である『二又』が、(a)一つの状態である『もと』の部分と、(b)間に空間を有して二つに分れた『末』の部分とから構成されるものであることは、当業者にとって技術常識である。(財団法人日本規格協会編「JIS用語辞典 機械編」第2版、[財団法人日本規格協会、1984年8月25日発行]、第482頁の番号5910「二又」及び第493頁の付図57、参照)
そうすると、「二股構造」とは、(a)二つに分かれた「末」の部分と、(b)二つに分かれた「末」の部分を統合する「もと」の部分を有する構造と解される。
そして、当該構造を【図1】に当てはめてみると、『【図1】の線分A』の上部は、後端部(32,32′)の二つに分かれた「末」の部分であり、『【図1】の線分A』より下部(ただし、「背部(33)」は除く)は、二つに分かれた「末」の部分を統合する「もと」の部分であると認められる。
つまり、「二股構造」は、フック(3)の『【図1】の線分A』の上部から『【図1】の線分A』を越えて下方に延びた部分までを含む範囲であると云うべきであって、当該範囲がフックの「後端部」となるものであると解するのが相当である。
[「仮想略平行線」について]
このように、フックの「後端部」は、『【図1】の線分A』よりも下部にまで及ぶものであると認められるから、後端部の『【図1】の線分A』より下部であってフックの先端部(31)と対向する部分であるフックの後端部の内側に引いた接線と、フックの先端部(31)の内側に引いた接線とは、仮想略平行線を形成するものと認められる。
そして、本件特許明細書及び図面の【図1】をみれば、フック(3)がフック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、脱落防止部(11)が上記仮想略平行線の内側に存在しないように配設されていること、及び、ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と上記仮想略平行線とが略平行になるように配設されていることは明らかである。
このことは、願書に最初に添付した明細書の段落【0014】に記載されていた「ロックを解除し、第4図のように脱落防止部(11)とフック先端部(31)との開口幅を大きくさせる」(特許公報第7欄第44行〜第8欄第2行参照)という技術的事項を、先行技術との相違及び発明の構成に欠くことができない事項を明確にすることを目的として、最終的に(iv)-1及び(iv)-2記載の事項に補正したという、本件特許の願書に最初に添付した明細書から本件特許明細書に至る審査経過(「甲第3号証」〜「甲第7号証」参照)からも窺える。
(ロ)特許法第36条第4項、第5項第2号違反;
前記(イ)の箇所で述べたように、本件特許発明1〜5の構成に欠くことができない事項である、(iv)-1及び(iv)-2は、発明の詳細な説明及び【図1】に当業者が容易に実施できる程度に具体的かつ明確に記載乃至示唆されている。
したがって、本件特許発明1〜5が、発明の詳細な説明に、当業者が容易に実施できる程度に構成を記載したものでないとも、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでないとも、することはできない。
(ハ)特許法第36条第5項第1号違反;
本件特許明細書の段落【0006】には、本件特許発明1〜5の構成に欠くことができない事項である、
「(iv).前記フック(3)と前記フック支持体(1)は、前記フック(3)と前記ロック(4)の係合が解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、
(iv)-1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32,32’)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、
(iv)-2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、」が記載されている(「【5】(1)甲第1号証」の摘記事項(ロ)参照)。
したがって、本件特許発明1〜5が、発明の詳細な説明に記載されたものではない、とすることはできない。
(ニ)むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜5についての特許は、特許法第36条第4項及び第5項第1、2号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである、とする請求人の主張は採用できない。

(2)第2の理由(特許法第29条第2項違反)について
(イ)要旨変更(平成10年7月23日付け手続補正の適否)
本件特許の願書に最初に添付した明細書及び図面の、【図1】及びこの図を説明する段落【0008】、【0010】の記載は、本件特許公報の【図1】、段落【0008】、【0010】と同じであって、なんら異なる箇所はない。
してみれば、上記【7】の「(1)第1の理由(特許法第36条第4項、5項違反)について」の箇所で述べた如く、(iV)-1及び(iv)-2として記載された、本件特許発明の構成に欠くことができない事項は、本件特許の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載乃至示唆されていたものと認められるから、平成10年7月23日付け手続補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものではない。
(ロ)本件特許の出願日
以上で述べたように、平成10年7月23日付け手続補正は、明細書又は図面の要旨を変更することなく適正になされたものであるから、本件特許の出願の日は、平成3年8月2日であるものと認める。
(ハ)甲第8号証の公知性
本件特許の出願の日が平成3年8月2日であり、一方、甲第8号証は平成3年7月13日付けのものであるから、甲第8号証は、本件特許の出願前に、被請求人から請求人に送付されたものである。
そして、請求人は、甲第8号証記載の発明が、平成3年9月下旬、遅くとも平成3年10月1日時点には日本国内で公然知られた発明となったとして、甲第8号証の記載内容に関する秘密保持義務の有無につき主張している。
しかし、この主張がなされたとしても、本件特許の出願の日(平成3年8月2日)は、甲第8号証記載の発明が、日本国内で公然知られた発明となった平成3年9月下旬より以前であることに変わりはない。
したがって、甲第8号証記載の発明を、本件特許の出願前に日本国内で公然知られた発明であるとすることはできない。
なお、この点をさらに検討するに、被請求人作成の、請求人及び被請求人間のやりとりの時系列説明書(甲第10号証)及び参考資料1(無効2000-35582号の口頭審理調書)からみて、
(i)本件特許の願書に最初に添附した明細書及び図面のファクシミリ(甲第8号証)は、平成3年7月13日に、被請求人から請求人に送付されたこと、
(ii)上記明細書及び図面のファクシミリは、請求人が、実施許諾の検討等のために、被請求人に求めたこと、その際、上記明細書及び図面の内容に関し、守秘義務についての取り決めはなかったこと、
(iii)平成3年9月下旬に、請求人及び被請求人に間で行われてきた実施許諾についての交渉が決裂したこと、
(iv)平成4年4月27日及び平成4年5月13日に、被請求人は、請求人に対して、上記明細書及び図面のファックスの返却を求めたこと、
以上の事実を認めることができる。
ところで、発明の内容が、発明者のために秘密を保つべき関係にある者に知られたとしても、特許法第29条第1項第1号にいう「公然知られた」には当たらないことは明らかであるが、この発明のために秘密を保つべき関係は、法律上又は契約上秘密保持の義務を課せられることによって生じるほかに、社会通念上又は商慣習上、発明者側の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待される場合においても生じるものであったというべきである。
なぜなら、本件特許発明の実施許諾の交渉が行われていた当時においても、他者の営業秘密を尊重することは、一般的にも当然のこととされており、まして、発明の実施許諾交渉に臨む当事者間においては、そのことがより妥当するものであったとされていたからであり、発明の実施許諾交渉の際に、発明者側において、その発明につき秘密を保持すべきことをいちいち相手側に指示又は要求し、相手側がそれを理解したことを確認するような煩雑な過程を経ることで、当該発明の内容を相手側にはじめて開示できるものであるとすれば、このようなやりとりは発明の実施許諾交渉の円滑迅速な遂行を妨げ、ひいては当事者双方の利益にも反することになったからである。
したがって、発明の実施許諾交渉を行う際には、当事者間において格別の秘密保持に関する合意又は明示的な指示や要求がなくとも、当事者が互いの立場を尊重して当該発明の内容を第三者に開示しないことが暗黙のうちに求められることは、十分あり得ることであるから、このような場合には、双方の当事者は、社会通念上又は商慣習上、当該発明の内容につき秘密を保つべき関係に立つものといわなければならない。
このことを本件に照らしてみるに、被請求人が、本件特許に関連する特許第2833671号(特願平3-53112号)の願書に最初に添付した明細書及び図面をファクシミリにより請求人に送付した平成3年7月当時、上記明細書及び図面の内容は、当該特許出願の出願公開前のものであるから、公然知られていない発明に当たるものである。
また、本件特許出願発明の実施許諾の交渉に際して、請求人及び被請求人の間で、上記明細書及び図面の内容についての秘密を保つ旨の取り決めはなかったものの、秘密を解除してよいとの合意や確認もなく、しかも、上記明細書及び図面の送付は、請求人が、実施許諾等の検討を目的として、被請求人に要請したことからみると、社会通念上又は商慣習上からも、当該内容を請求人が秘密扱いとすることを期待し信頼して、被請求人が、上記明細書及び図面を請求人に送付したものと推認するのが相当である。
また、実施許諾の交渉決裂後、被請求人が請求人に対して、当該明細書及び図面のファクシミリの返却を求めたことからも、被請求人は請求人に秘密扱いとすることを期待していたことが窺える。
したがって、本件特許の実施許諾交渉の決裂後においても、請求人は秘密保持の義務を有していたものと認められる。(なお、この点に関しては、東京高裁平成11年(行ケ)第368号判決参照)
(ニ)甲第13号証の公知性
本件特許の出願の日は平成3年8月2日であり、一方、甲第13号証は平成5年6月17日発行のものであるから、甲第13号証は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物ではない。
(ホ)むすび
甲第8号証記載の発明が本件特許の出願前に日本国内で公然知られた発明でなく、甲第13号証が本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物ではないから、本件特許発明1は、甲第8号証、及び、甲第13号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができないことは云うまでもない。
また、本件特許発明2〜5は、本件特許発明1を引用する発明であって、本件特許発明1の構成を構成の一部とするものであるから、本件特許発明2〜5は、甲第8号証、及び、甲第12号証或いは甲第13号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができないことは明らかである。
よって、本件特許発明1〜5についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、とする請求人の主張は採用できない。

【8】むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2001-03-29 
結審通知日 2001-04-13 
審決日 2001-04-24 
出願番号 特願平3-216524
審決分類 P 1 112・ 531- Y (B66C)
P 1 112・ 534- Y (B66C)
P 1 112・ 112- Y (B66C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 清田 栄章
栗田 雅弘
登録日 1998-10-02 
登録番号 特許第2833674号(P2833674)
発明の名称 重量物吊上げ用フック装置  
代理人 水野 喜夫  
代理人 森 義明  
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