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審決分類 審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) H01L
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) H01L
管理番号 1081113
審判番号 無効2001-35319  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-03-12 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-07-17 
確定日 2003-08-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第2877997号発明「半導体ウエハの処理方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2877997号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2877997号に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、平成3年8月29日に特許出願され、平成11年1月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成12年10月31日に訂正審判(訂正2000-39132号)が請求され、平成13年2月7日に訂正を認める旨の審決が確定したものである。
(2)これに対して、請求人は、上記訂正審判による訂正(以下、「本件訂正1」という。)は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであり、特許法第126条第2項及び第3項の規定に違反してされたものであり、本件特許発明は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきであると主張している。
(3)当審では、平成13年12月14日付で、本件訂正1は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものとは認められないから、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書きの規定に違反してされたものである。との無効の理由を通知した。
(4)被請求人は、平成14年1月29日に訂正請求書を提出して訂正(以下、「本件訂正2」という)を求めた。
(5)当審は、平成14年3月4日付で、本件訂正2は、実質上特許請求の範囲を拡張したものであるから、平成6年法律第116号による改正前の特許法第134条第5項で準用する同法第126条第2項の規定に違反する。との訂正拒絶の理由を通知した。
(6)被請求人は、平成14年5月2日付で、本件訂正2は、訂正前記載が意味していた事項を適正ないし明確な表現にあらためたものであり、本件訂正2は認められるべき旨の意見書を提出した。
2.本件訂正2について
(1)訂正の要旨
本件訂正2は、誤記の訂正を目的として、特許請求の範囲の請求項1を訂正前の
「半導体ウエハの表面に保護粘着テープを貼付けて裏面を切削・研磨するバックグラインド工程と、バックグラインドされた半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントし、前記マウントされた半導体ウエハをカッテイングして個々の素子を分断するダイシング工程とを順に処理していく半導体ウエハの処理方法において、前記ダイシング工程で半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントした後に、前記粘着テープを介して半導体ウエハをリング状のフレームに支持したウエハマウントフレームを、前記リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル上に載置して、前記粘着テープを介してリング状のフレームにマウントされた半導体ウエハを吸着テーブル上に吸着保持した状態で、前記半導体ウエハの表面に貼付けられた前記保護粘着テープに剥離テープを貼付け、この剥離テープを介して前記保護粘着テープを剥離することを特徴とする半導体ウエハの処理方法。」から、
「半導体ウエハの表面に保護粘着テープを貼付けて裏面を切削・研磨するバックグラインド工程と、バックグラインドされた半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントし、前記マウントされた半導体ウエハをカッテイングして個々の素子を分断するダイシング工程とを順に処理していく半導体ウエハの処理方法において、前記ダイシング工程で半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントした後に、前記粘着テープを介して半導体ウエハをリング状のフレームに支持したウエハマウントフレームを、一側面から見ると前記リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ長さをもった吸着テーブル上に載置して、前記粘着テープを介してリング状のフレームにマウントされた半導体ウエハを吸着テーブル上に吸着保持した状態で、前記半導体ウエハの表面に貼付けられた前記保護粘着テープに剥離テープを貼付け、この剥離テープを介して前記保護粘着テープを剥離することを特徴とする半導体ウエハの処理方法。」
と訂正する訂正事項、つまり、
訂正前の「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」を、
訂正後の「一側面からみると・・・粘着テープの全体にまで及ぶ長さをもった吸着テーブル」
と訂正する訂正事項を含むものである。
(2)訂正拒絶の理由
当審における、平成14年3月4日付の訂正拒絶の理由は、次の通り。
「訂正前における吸着テーブルは、一側面からみて、リング状のフレームの下面に貼付けられた粘着テープの全体にまで及ぶ長さを具備しているばかりでなく、奥行き(図5における紙面と直角方向)についても、該粘着テープの全体にまで及ぶ長さを具備していることを必須の構成要件とするものであった。これに対して、訂正後における吸着テーブルは、リング状のフレームの下面に貼付けられた粘着テープの全体にまで及ぶ長さを具備していれば構成要件を満足し、奥行きについてまでは、該粘着テープの全体にまで及ぶ長さを具備していることを必須の構成要件としないものとなる。このことは、特許請求の範囲の構成要件の一部を削除し、その結果、実質上、訂正前においては含まれないところの、吸着テーブルが、奥行きについては粘着テープの全体にまで及ぶ長さを具備していない特開平3-132056号公報に記載されたものまでも、訂正後においては、これを含むものとなる。」
(3)被請求人の主張
被請求人は、平成14年5月2日付の意見書において、
「審判官殿は、訂正前記載中の「前記粘着テープの全体にまで及ぶ」という文言を解釈する上で、明細書および図面並びに訂正2000-39132で述べた特許権者の主張を何ら参酌することなく、この文言が、吸着テーブルを一側面からみた場合のみならず、奥行きについても特定している、というように断定的に拡張解釈しておられます。そのように拡張解釈する根拠が、どこにあるのか理解できません。「前記粘着テープの全体にまで及ぶ」という文言は、上記の拡張解釈を許すほどに明確ではありません。なぜなら、「前記粘着テープの全体にまで及ぶ」という文言は、吸着テーブルを平面視した(上からみた)場合に限り使われる表現でなく、吸着テーブルを一側面からみた場合にも使われる表現だからです。「上からみて吸着テーブルが粘着テープの全体にまで及んでいる」という文言に矛盾がないのと同様に、「一側面からみて吸着テーブルが粘着テープの全体にまで及んでいる」という表現にも文章として矛盾はありません。つまり、「前記粘着テープの全体にまで及ぶ」という文言は、吸着テーブルを上からみた場合のみならず、吸着テーブルを一側面からみた場合にも使えるので、その文言自体からは、上からみた場合を言っているのか、あるいは一側面からみた場合を言っているのか、不明なのであります。それにもかかわらず、審判官殿が、「前記粘着テープの全体にまで及ぶ」という文言が、吸着テーブルを一側面からみた場合のみならず、奥行きについても特定している、というように解釈されたとしたら、その解釈は不当であると言わざるを得ません。あるいは審判官殿は、訂正前記載中の「・・・範囲の広さをもった吸着テーブル」という文言が、吸着テーブルの奥行き情報を特定していると考えられたのかもしれません。しかし、吸着テーブルである以上、何らかの拡がり(奥行き)をもっていることは自明でありますから、この文言が、吸着テーブルの奥行きを特定していることにはなりません。」(第4頁第2〜25行)
「「訂正後の吸着テーブルは、リング状のフレームの下面に貼付けられた粘着テープの全体にまで及ぶ長さを具備していれば構成要件を満足し、奥行きについてまでは、該粘着テープの全体にまで及ぶ長さを具備していることを必須の要件としないものとなる」という認定に対しては異論ございません。元々、願書に添付した図5を根拠とした訂正前記載は、吸着テーブルの奥行きについて何ら特定するものではないからです。この点は訂正前も訂正後も変わりありません。」(第5頁第3〜8行)
と主張している。
(4)当審の判断
訂正後の特許請求の範囲の請求項1の「一側面からみると・・・粘着テープの全体にまで及ぶ長さをもった吸着テーブル」という記載において、吸着テーブルは、「長さ」のみで特定されており、その「奥行き」については特定されていない。
つぎに、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」の「奥行き」について検討する。
訂正前における吸着テーブルは「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さ」を具備していることから、単に「長さ」が特定されているのではなく、「広さ」について特定されているものと解される。
ところで、「長さ」は一次元の大きさを表す文言であり、「広さ」は二次元の大きさを表す文言である。そして、大きさを比較する場合に次元を合わせる必要があること、つまり「広さ」を特定する場合、別の「広さ」を基準にしなければ、「広さ」の特定はできないことは自明である。
したがって、テーブルの「広さ」という二次元の大きさを特定する場合には、「長さ」という一次元の大きさを二つ(例えば、「長さ」と「奥行き」)使用して特定する必要があること、そして、粘着テープが長さと共に奥行き(幅)を持っていること、すなわち、何らかの「広さ」を持っていることも自明である。
つまり、「粘着テープ全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」の「広さ」は、粘着テープの「長さ」ではなく「広さ」を基準に特定されているものと解されるから、結局、訂正前の吸着テーブルは、「長さ」とともに「奥行き」についても特定されているものと認められる。
よって、訂正前の請求項1では、吸着テーブルについて、長さとともに奥行きの限定を有する構成を特定しているのを、訂正後の請求項1では、長さの限定だけで奥行きの限定を有しない構成を特定するものに訂正することとなり、結局、本件訂正2は、特許請求の範囲を実質的に拡張する訂正を含むものと認める。
(5)むすび
したがって、本件訂正請求は、その余の訂正事項について検討するまでもなく、平成6年法律第116号による改正前の特許法第134条第5項で準用する同法第126条第2項の規定に適合しない。
3.無効の理由について
(1)請求人の主張
請求人は、平成13年7月17日付の審判請求書において、
「第5図は側方断面図であって、吸着テーブル30は奥行きが不明である。すなわち、第5図では、吸着テーブルの断面が、側方から見て矩形であることしか示されていないので、第5図の吸着テーブルの面形状が、上方からみて、円形であるのか、方形であるのか、または細幅の板状であるのかについては全く示されていない。」(第3頁末行〜第4頁第4行)
「本件特許明細書の第5図の側方断面図からは、確かに訂正事項の「リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル上に載置して」という場合も含むが、参考図2、参考図3および参考図4に示すように、吸着テーブル30が、リング状のフレームFの下面に貼付けられた粘着テープ15の全体に及んでいない場合をも明確に含んでいるのである。」(第6頁第1〜6行)
「従って、上記訂正事項における「リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル上に載置して」なる訂正内容は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項から直接的かつ一義的に導かれるものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、新規事項の追加に該当する。」(第6頁第20〜24行)
と主張している。
(2)無効の理由
当審における、平成13年12月14日付の無効の理由は、次の通り。
「吸着テーブルの広さをウエハマウントフレームの下面に貼り付けられた粘着テープの全面にまで及ぶ範囲とする訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものとは認められないから、本件訂正1は、特許法第126条第1項ただし書きの規定に違反してされたものである。なお、特開平3-132056号公報を参照すると、吸着テーブルの形状は、円形または正方形に限られるものではなく、また、特開平1-125947号公報を参照すると、本件特許発明のごとき、保護粘着テープの剥離装置において、吸着テーブルの広さをウエハマウントテーブルの大きさ以上にすることが、必然的であったとすることもできないから、前記訂正が、願書に添付した明細書の第5図をもとに、一義的に記載されていたと認定することはできない。」
(3)被請求人の主張
被請求人は、平成13年10月3日付の答弁書において、
「本件訂正は、本件特許明細書の第5図から導き出せたものであるから、特許明細書に記載された事項の範囲を何ら超えるものではない。」(第3頁第15〜16行)
と主張している。
また、当審の無効の理由の通知に対し、平成14年5月2日付の意見書において、
「審判官殿は、訂正2000-39231の審決書の第3頁第4〜6行において、「また、この訂正事項における「リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル上に載置して」については、願書に添付された第5図に基づくものである。」と認定されておられます。願書に添付された図5は明らかに一側面図であるので、図5からは「吸着テーブル30」の奥行き情報を特定することはできません。」(第3頁第17〜22行)
と主張している。
(4)本件訂正1の要旨
本件訂正1は、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1を訂正前の
「半導体ウエハの表面に保護粘着テープを貼付けて裏面を切削・研磨するバックグラインド工程と、バックグラインドされた半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントし、前記マウントされた半導体ウエハをカッテイングして個々の素子を分断するダイシング工程とを順に処理していく半導体ウエハの処理方法において、前記ダイシング工程で半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントした後に、前記バックグラウンド工程で半導体ウエハの表面に貼付けられた前記保護粘着テープに剥離テープを貼付け、この剥離テープを介して前記保護粘着テープを剥離することを特徴とする半導体ウエハの処理方法。」から、
「半導体ウエハの表面に保護粘着テープを貼付けて裏面を切削・研磨するバックグラインド工程と、バックグラインドされた半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントし、前記マウントされた半導体ウエハをカッテイングして個々の素子を分断するダイシング工程とを順に処理していく半導体ウエハの処理方法において、前記ダイシング工程で半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントした後に、前記粘着テープを介して半導体ウエハをリング状のフレームに支持したウエハマウントフレームを、前記リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル上に載置して、前記粘着テープを介してリング状のフレームにマウントされた半導体ウエハを吸着テーブル上に吸着保持した状態で、前記半導体ウエハの表面に貼付けられた前記保護粘着テープに剥離テープを貼付け、この剥離テープを介して前記保護粘着テープを剥離することを特徴とする半導体ウエハの処理方法。」
と訂正する訂正事項を含むものである。
(5)当審の判断
登録時における願書に添付した明細書には、吸着テーブル30について、「図5に示すように、粘着テープ15を介してリングフレームFにマウントされたウエハWを吸着テーブル30上に吸着保持する。」(段落【0016】)と記載されているのみであって、吸着テーブルの広さについては、何らの記載もない。また、願書に添付した図面には、第5図、第6図及び第7図に、保護粘着テープの剥離方法の例を説明する図面が示されており、吸着テーブルを側面から見た図が示されているが、紙面に対する奥行き方向について記載した図面はない。また、吸着テーブルの側面図のみから、奥行き方向の寸法が特定されるわけではない。
そうすると、登録時における願書に添付した明細書又は図面に吸着テーブルの奥行き情報が記載されていたと認めることは出来ない。
ところで、本件訂正1の訂正は、上記2.(4)で検討したとおり、吸着テーブルの奥行きについて、「粘着テープ全体にまで及ぶ範囲の広さ」との限定を付加するものと認められる。
しかしながら、前記のとおり、登録時における願書に添付した明細書又は図面には、吸着テーブルの奥行き情報が記載されていたとすることはできないから、「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」は、願書に添付した明細書又は図面に記載されておらず、かつこれらから、直接的かつ一義的に導き出される事項でもない。
したがって、本件訂正1は、その余の訂正事項について検討するまでもなく、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書きの規定に違反するものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第123条第1項第7号に該当し、無効とすべきである。また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
 
審理終結日 2002-05-30 
結審通知日 2002-06-04 
審決日 2002-06-17 
出願番号 特願平3-244884
審決分類 P 1 112・ 854- ZB (H01L)
P 1 112・ 841- ZB (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小野田 誠加藤 浩一  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 宮崎 侑久
高山 芳之
登録日 1999-01-22 
登録番号 特許第2877997号(P2877997)
発明の名称 半導体ウエハの処理方法  
代理人 牧村 浩次  
代理人 高畑 ちより  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 鈴木 亨  
代理人 杉谷 勉  

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