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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 無効としない F04B |
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管理番号 | 1087212 |
審判番号 | 無効2001-35389 |
総通号数 | 49 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2004-01-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-09-05 |
確定日 | 2003-11-12 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2941432号発明「圧縮機のピストン及びピストン式圧縮機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第2941432号の請求項1~27及び請求項29~31に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明27」及び「本件特許発明29」~「本件特許発明31」という。)についての出願は、平成8年(1996年)6月5日(優先権主張平成7年(1995年)6月5日、日本国)を国際出願日とするものであって、平成11年6月18日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。 請求人は、平成13年9月5日付けで、「特許2941432号の請求項1~27および請求項29~31に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求める審判を請求した。 これに対して、被請求人は、平成13年11月30日付けで答弁書を提出した。 II.請求人の主張 (1)請求人は、証拠として、甲第1号証(実公昭43-18930号公報)、甲第2号証(特開昭54-79807号公報)、甲第3号証(特開平5-302570号公報)を提出し、本件特許発明1~27及び本件特許発明29~31は、下記(2)の理由から甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、これらの特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものであると主張している。 (2)理由 甲第1号証に記載された発明のピストンの軸線方向に延びて潤滑油の通路となる「潤滑溝」は、スコッチヨークのクロススライド部に設けた透孔と同じ方向に設けられており、甲第2号証に開示されている「スコッチヨーク形ピストンにおいて面圧の作用による摩耗の発生箇所がスライドに設けたクランクシャフト偏心部の挿入される透孔と直交する面であって、該透孔と同じ方向には面圧がかからない」との技術的事項からみて、往復駆動時にピストンに対して面圧のかかりにくい箇所に設けられていることが明らかである。 また、甲第3号証には「シリンダボア及びクランク室を有するハウジングと、ハウジングに回転可能に支持された回転軸と、クランク室内において回転軸に装着された斜板と、シリンダボア内に収容された片頭ピストンとを備え、回転軸の回転に伴い、斜板及びシューを介して片頭ピストンがシリンダボア内を上死点と下死点との間で往復動する片頭ピストン型斜板式圧縮機において、斜板により片頭ピストンが圧縮駆動される際に受けるモーメントによりシリンダボア内周面に押圧される箇所が、片頭ピストンを斜板回転軸の軸方向にみた状態で、斜板回転軸の中心軸線と片頭ピストンの中心軸線とを通る直線を仮想的に設け、この直線と片頭ピストンの外周面との交点のうち斜板回転軸の中心軸線から遠い方の交点を12時の位置としたとき、12時の位置と6時の位置であり、当該位置に摺動リングを設けて局部摩耗を防止するようにした圧縮機のピストン或いはそのようなピストンを備えた片頭ピストン型斜板式圧縮機。」の発明が記載されている。 そして、本件特許発明1における「ピストンの軸線方向に延びる溝」の設置位置である「ピストンの周面上において12時の位置と6時の位置を除いた位置」の技術的意義は、面圧の作用する箇所を避けた位置に溝を設けるということである。 そこで、本件特許発明1と、甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「圧縮機のピストンにおいて、ピストンの軸線方向に延びる溝を設けるに、駆動時ピストンに対して面圧のかかる位置を除いて溝が設けられている圧縮機のピストン」である点で一致し、圧縮機の駆動形式が、本件特許発明1では「回転軸の回転に伴い、クランク室内において回転軸に装着された斜板及びシューを介して、シリンダボア内を上死点と下死点の間で往復動する圧縮機」であるのに対し、甲第1号証に記載された発明では「スコッチヨーク形圧縮機」である点で相違する。 しかしながら、両者はともに同一技術分野に属し、駆動形式の相違により前記溝の作用が変わるわけではないのであるから、甲第1号証記載の発明におけるピストンに設けた「潤滑溝」を本件特許発明1のような斜板駆動型圧縮機のピストンに転用することは、当業者が容易に成し得ることである。 また、本件特許発明18は、「ピストン式圧縮機」ではあるが、本件特許発明1である「圧縮機のピストン」と実質的に異なるところはない。 さらに、本件特許発明2~17、19~27及び29~31は、本件特許発明1及び18の構成を特定するための事項に加え、さらに他の構成を特定するための事項を付加したものに相当し、当該付加した事項については、甲第1号証ないし甲第3号証に記載されているか、甲第1号証ないし甲第3号証から容易に導き出せるか、周知・慣用技術であるか、又は設計的事項であるか、に過ぎない。 (平成13年9月5日付け審判請求書、平成14年1月23日付け口頭審理陳述要領書及び平成14年2月5日第1回口頭審理調書) (3)また、請求人は、平成14年2月25日付け上申書とともに甲第4号証(実願昭56-18738号(実開昭57-132090号)のマイクロフィルム)、甲第5号証(特開昭53-49316号公報)、甲第6号証(特開昭63-65180号公報)、甲第7号証(実願平3-13020号(実開平4-109481号)のマイクロフィルム)、甲第8号証(実願平3-59459号(実開平5-12673号)のCD-ROM)、甲第9号証(実願昭57-60804号(実開昭58-162287号)のマイクロフィルム)及び甲第10号証(米国特許第2102403号明細書)を提示し、甲第1号証に記載された発明の「潤滑溝11」への潤滑油の供給手段として、「冷媒に潤滑油を混在させること」が含まれることを主張している。 III.被請求人の主張 (1)一方、被請求人は、上記請求人の主張に対して、「本件特許発明1~27及び本件特許発明29~31は、甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、特許法第29条第2項に違反するものではないと主張している。 (平成13年11月30日付け答弁書、平成14年2月5日付け口頭審理陳述要領書及び平成14年2月5日第1回口頭審理調書) (2)また、被請求人は、平成14年2月5日付け口頭審理陳述要領書とともに乙第1号証(特公昭37-7540号公報)、乙第2号証(実願昭51-119874号(実開昭53-38014号)のマイクロフィルム)を提示し、これらは甲第1号証に記載された発明の「潤滑溝11」に対して潤滑油が気筒外から供給されることを裏付けるものであると主張している。 (3)さらに、被請求人は、平成14年3月15日付け上申書とともに乙第3号証(森田均著「実教理工学全書 機構学」、実教出版株式会社、1982年8月10日発行、156~157頁)、乙第4号証(米国特許第2102403号(甲第10号証)の翻訳文)を提示している。 IV.当審の判断 1.本件特許発明 本件特許発明1~27及び29~31は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1~27及び請求項29~31に記載された次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】回転軸(6)の回転に伴い、クランク室(5)内において回転軸(6)に装着された斜板(9)及びシュー(12)を介して、シリンダボア(2a)内を上死点と下死点との間で往復動する圧縮機のピストンにおいて、 前記ピストン(11)はシリンダボア(2a)の内周面と摺接する外周面を備え、その外周面には、ピストン(11)の軸線(S)方向に延びる溝(17;44;46)を設け、 前記ピストン(11)を回転軸(6)の回転方向(R)が時計の回転方向になる側から見た状態で、回転軸(6)の中心軸線(L)とピストン(11)の中心軸線(S)とを通る直線(M)を仮想的に設けるとともに、この直線(M)とピストン(11)の外周面との交点(P1),(P2)のうち、回転軸(6)の中心軸線(L)から遠い方の点(P1)を12時の位置としたとき、溝(17;44;46)は、ピストン(11)の周面上において、12時の位置と6時の位置とを除いた位置に設けられている圧縮機のピストン。 【請求項2】前記溝(17;44;46)は、ピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間に存在する潤滑油をクランク室(5)内に導くために、ピストン(11)が少なくとも下死点に移動したときにはシリンダボア(2a)内からクランク室(5)内に露出する請求項1に記載の圧縮機のピストン。 【請求項3】前記溝(17;44;46)は、ピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間に存在する潤滑油をクランク室(5)内に導くために、クランク室(5)と常に直接的に接続されている請求項1に記載の圧縮機のピストン。 【請求項4】前記溝(17;44;46)は、ピストン(11)の周面上において、シリンダボア(2a)の内周面に対して強く押し付けられる位置を除いた位置に設けられている請求項1に記載の圧縮機のピストン。 【請求項5】前記溝(17;44;46)は、ピストン(11)の周面上において、9時から10時半までの範囲(E)に設けられている請求項1に記載の圧縮機のピストン。 【請求項6】前記溝(17;44;46)は、ピストン(11)の周面上において、7時半から9時までの範囲(E3)に設けられている請求項1に記載の圧縮機のピストン。 【請求項7】前記ピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間に存在する潤滑油は、シリンダボア(2a)内の圧縮冷媒ガスがピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間を介してクランク室(5)に漏れることを抑制し且つ、ピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間に密着力を生じさせるものであり、前記溝(17;44;46)の深さは、冷媒ガスの漏れを抑制するという潤滑油の機能を損ねない範囲で、前記密着力を極力低減できるような深さに設定されている請求項1に記載の圧縮機のピストン。 【請求項8】前記ピストン(11)は中空形状である請求項1に記載の圧縮機のピストン。 【請求項9】前記溝(17;44;46)におけるピストン(11)の尾部側の端部の内底面は、ピストン(11)の外周面に対してなだらかに繋がる斜面をなしている請求項2に記載の圧縮機のピストン。 【請求項10】前記ピストン(11)の外周面には更に、シリンダボア(2a)の内周面に付着した潤滑油を掻き集めるための回収手段(16)が、シリンダボア(2a)内から常に露出しない位置に設けられ、回収手段(16)内の潤滑油は、ビストン(11)の軸線(S)方向に延びる溝(17)を介して、クランク室(5)内に導かれる請求項1に記載の圧縮機のピストン。 【請求項11】前記回収手段は、ピストン(11)の外周面に形成された回収溝(16)である請求項10に記載の圧縮機のピストン。 【請求項12】前記回収溝(16)はピストン(11)の周方向に沿って延びている請求項11に記載の圧縮機のピストン。 【請求項13】前記回収溝(16)はリング状をなしている請求項12に記載の圧縮機のピストン。 【請求項14】ピストン(11)の軸線(S)方向に延びる溝(17)は回収溝(16)と切り離されており、両溝(16),(17)は、ピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間の狭いクリアランス(K)を介して連通する請求項11に記載の圧縮機のピストン。 【請求項15】ピストン(11)の軸線(S)方向に延びる溝(17)は回収溝(16)と接続されている請求項11に記載の圧縮機のピストン。 【請求項16】ピストン(11)の軸線(S)方向に延びる溝(17)は、ピストン(11)の周面上において、シリンダボア(2a)の内周面に対して強く押し付けられる位置を除いた位置に設けられている請求項11に記載の圧縮機のピストン。 【請求項17】前記ピストン(11)を回転軸(6)の回転方向(R)が時計の回転方向になる側から見た状態で、回転軸(6)の中心軸線(L)とピストン(11)の中心軸線(S)とを通る直線(M)を仮想的に設けるとともに、この直線(M)とピストン(11)の外周面との交点(P1),(P2)のうち、回転軸(6)の中心軸線(L)から遠い方の点(P1)を12時の位置としたとき、溝(17)は、ピストン(11)の周面上において、12時の位置と3時の位置と6時の位置とを除いた位置に設けられている請求項16に記載の圧縮機のピストン。 【請求項18】シリンダボア(2a)及びクランク室(5)を有するハウジング(1,2,3)と、ハウジング(1,2,3)に回転可能に支持された回転軸(6)と、クランク室(5)内において回転軸(6)に装着された斜板(9)と、シリンダボア(2a)内に収容されたピストン(11)とを備え、回転軸(6)の回転に伴い、斜板(9)及びシュー(12)を介してピストン(11)がシリンダボア(2a)内を上死点と下死点との間で往復動するピストン式圧縮機において、 前記ピストン(11)はシリンダボア(2a)の内周面と摺接する外周面を備え、そのピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との一方には、ピストン(11)の軸線(S)方向に延びる溝(17;44;46)を設け、 前記ピストン(11)を回転軸(6)の回転方向(R)が時計の回転方向になる側から見た状態で、回転軸(6)の中心軸線(L)とピストン(11)の中心軸線(S)とを通る直線(M)を仮想的に設けるとともに、この直線(M)とピストン(11)の外周面との交点(P1),(P2)のうち、回転軸(6)の中心軸線(L)から遠い方の点(P1)を12時の位置としたとき、溝(17;44;46)は、ピストン(11)の外周面上又はシリンダボア(2a)の内周面上において、12時の位置と6時の位置とを除いた位置に設けられているピストン式圧縮機。 【請求項19】前記溝(17;44;46)は、ピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間に存在する潤滑油をクランク室(5)内に導くために、ピストン(11)が少なくとも下死点に移動したときにはシリンダボア(2a)内からクランク室(5)内に露出する請求項18に記載のピストン式圧縮機。 【請求項20】前記溝(17;44;46)は、ピストン(11)の周面上において、シリンダボア(2a)の内周面に対して強く押し付けられる位置を除いた位置に設けられている請求項19に記載のピストン式圧縮機。 【請求項21】前記溝(17;44;46)は、ピストン(11)の周面上において、9時から10時半までの範囲(E)に設けられている請求項18に記載のピストン式圧縮機。 【請求項22】前記溝(17;44;46)は、ピストン(11)の周面上において、7時半から9時までの範囲(E3)に設けられている請求項18に記載のピストン式圧縮機。 【請求項23】前記ピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間に存在する潤滑油は、シリンダボア(2a)内の圧縮冷媒ガスがピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間を介してクランク室(5)に漏れることを抑制し且つ、ピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間に密着力を生じさせるものであり、前記溝(17;44;46)の深さは、冷媒ガスの漏れを抑制するという潤滑油の機能を損ねない範囲で、前記密着力を極力低減できるような深さに設定されている請求項18に記載のピストン式圧縮機。 【請求項24】前記溝(17;44;46)におけるピストン(11)の尾部側の端部の内底面は、ピストン(11)の外周面に対してなだらかに繋がる斜面をなしている請求項18に記載のピストン式圧縮機。 【請求項25】前記ピストン(11)の外周面には更に、シリンダボア(2a)の内周面に付着した潤滑油を掻き集めるための回収溝(16)が、シリンダボア(2a)内から常に露出しない位置に設けられ、回収溝(16)内の潤滑油は、ピストン(11)の軸線(S)方向に延びる溝(17)を介して、クランク室(5)内に導かれる請求項18に記載のピストン式圧縮機。 【請求項26】前記回収溝(16)はピストン(11)の周方向に沿って延びているとともに、リング状をなしている請求項25に記載のピストン式圧縮機。 【請求項27】ピストン(11)の軸線(S)方向に延びる溝(17)は回収溝(16)と切り離されており、両溝(16),(17)は、ピストン(11)の外周面とシリンダボア(2a)の内周面との間の狭いクリアランス(K)を介して連通する請求項25に記載のピストン式圧縮機。 【請求項29】前記ピストン(11)は中空形状である請求項25に記載のピストン式圧縮機。 【請求項30】前記ピストンは一端に頭部を備えた片頭ピストン(11)であり、前記駆動体は回転軸(6)に一体回転可能に装着された斜板(9)を含み、その斜板(9)とピストン(11)の尾部との間にはシュー(12)が配置され、斜板(9)の回転運動がシュー(12)を介してピストン(11)の往復運動に変換される請求項25に記載のピストン式圧縮機。 【請求項31】前記ピストンは一端に頭部を備えた片頭ピストン(11)であり、前記駆動体は回転軸(6)に傾動可能に支持された斜板(9)を含み、その斜板(9)はクランク室(5)内の圧力と吸入室(3a)内の圧力との差に応じて回転軸(6)に対する傾斜角度が変化し、斜板(9)の傾斜角度に応じてピストン(11)の移動ストロークが変化して吐出容量が調整される請求項25に記載のピストン式圧縮機。」 2.甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項 (1)甲第1号証(実公昭43-18930号公報) 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。 (イ)「更に又他の例としてピストンの表面にて気筒内に位置する端面より螺旋状溝を設け、ピストンが上死点に位置する時に前記溝の他端が気筒内に位置する如く設けられる事により、ピストンの停止位置が上死点にない限り気筒内の圧縮された冷媒が前記溝を通じて徐々に放出されて冷媒圧力を低下せしめ、且運転時に於ては前記溝内に潤滑油の存在により圧縮冷媒の漏洩を防止せしめた構造も提案されている。」(1頁右欄4~12行) (ロ)「又圧縮機の運転時に於てはピストンの潤滑溝内に潤滑油が存在する事により圧縮冷媒の漏洩抵抗が大で且環状溝及び潤滑溝内に存した冷媒は圧縮又は膨張を繰返す事なく、かくして圧縮機の起動時軽負荷とすると共に運転時の圧縮効率を低下しないものである。」(1頁右欄27~32行) (ハ)「1は気筒、2はピストン、3,4は気筒1の端部に装着された弁板及び気筒頭部、5,6は弁板3の両側に夫々設けられた吸込弁及び吐出弁である。而して前記ピストン2はスコツチヨーク式ピストンを示すもので、端面を閉鎖した円筒状ピストン部7と同じく円筒状をなし上下対向面に透孔8,8を有したクロススライド部9を一体に鋳造形成している。10は前記ピストン部7の表面にて気筒1内に位置した端面より所定の間隔lを存して設けられた環状溝11は前記環状溝10より気筒1外に位置した端面に向つて延びる潤滑溝、12は前記潤滑溝11の気筒外側端部に位置しピストン部7の中子抜取用孔である。」(1頁右欄33行~2頁左欄3行) (ニ)「而して第1図に示す如くピストン2が気筒1内にて圧縮時に停止した場合、気筒1内にある圧縮冷媒は矢印にて示す如く気筒1とピストン2との間隙を通じて所定の間隔lを徐々に漏洩し環状溝10に至り、該溝より潤滑溝11及び中子抜取用孔12よりピストン部7の円筒中空部13内に流出し、気筒1内の冷媒圧力が低下するものである又圧縮機の運転時には潤滑溝11内に潤滑油が適当な手段にて供給されるものであり、圧縮冷媒の漏洩抵抗を大ならしめて気筒内の圧縮冷媒を吐出弁6を通じて完全に吐出せしめるものである。」(2頁左欄4行~右欄2行) これらの記載事項及び図面の記載からみて、甲第1号証には、 「スコッチヨーク式であって、気筒1内を上死点と下死点との間で往復動する圧縮機のピストン2において、 前記ピストン2は気筒1の内周面と摺接する外周面を備え、その外周面には、ピストン2の軸線方向に延びる潤滑溝11を設け、 潤滑溝11は、ピストン2の周面上において、上側に設けられている圧縮機のピストン。」の発明(以下、「甲第1号証発明A」という。)及び、 「スコッチヨーク式であって、ピストン2が気筒1内を上死点と下死点との間で往復動するピストン式圧縮機において、 前記ピストン2は気筒1の内周面と摺接する外周面を備え、そのピストン2の外周面には、ピストン2の軸線方向に延びる潤滑溝11を設け、 潤滑溝11は、ピストン2の外周面上に設けられているピストン式圧縮機。」の発明(以下、「甲第1号証発明B」という。)が記載されているものと認められる。 (2)甲第2号証(特開昭54-79807号公報) 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 (ホ)「…スコッチヨーク方式圧縮機構を採用した全密閉形電動圧縮機に於て、そのシリンダ及びピストン間に負荷するスコッチヨーク方式圧縮機構特有の局部面圧による摺動面摩耗対策として、その応力の集中する必要最小部を硬度アップし摩耗対策手段を講じたピストンを使用したことを特徴とする全密閉形電動圧縮機。」(特許請求の範囲第1項) (ヘ)「第2図に示す様な面圧の分布を示し、第3図に示す様な部分に摩耗が生じるのが例である。」(1頁右下欄18~20行) (3)甲第3号証(特開平5-302570号公報) 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 (ト)「さらに、従来の圧縮機として図7に示すように片頭ピストン36の首部36aに対し、斜板33の両面をシュー34を介して係留した片頭ピストン型斜板式圧縮機がある。(特開昭61-171886号公報)上記の圧縮機においては、斜板33が圧縮行程を開始する際、圧縮力F1とそれと直交する方向への分力F2とが作用したとき、片頭ピストン36は図7に示すように反時計周り方向へのモーメントMを受けることになる。このため片頭ピストン36の外周面と、シリンダボア31aの端部内周面との接触部P1において前記モーメントMにより集中押圧力FM1が作用することになる。このためシリンダボア31a内周面あるいはピストン36の外周面が早期に摩耗するという問題があった。又、片頭ピストン36の先端部外周面とシリンダボア31a内周面との接触部P2にも集中押圧力FM2が作用するので、この部分での摩耗も前記接触部P1側ほどではないが問題となる。」(2頁右欄5~21行) (チ)「この片頭ピストン13による圧縮行程途中においては、図2に示すように片頭ピストン13の首部13aが斜板7の揺動によりシュー14を介して軸線方向の圧縮力F1を受けるとともに、それと直交する方向の分力F2を受ける。このため、片頭ピストン13はシリンダボア1a内で反時計周り方向へのモーメントMを受ける。このモーメントMにより片頭ピストン13の外周面13cが摺動リング18の内周面18aに局部的に押圧され、この押圧部に集中押圧力FM1が作用する。ところが、この押圧力FM1は弾性を有する摺動リング18の内周面18aにより支持されるので、押圧部における局部摩耗が抑制され、ピストン13の耐久性が向上する。」(3頁右欄29~41行) (リ)「従って、この実施例においては圧縮行程において前述したモーメントMによりピストン13の先端部がシリンダボア1aの内周面に局部的に接触して集中押圧力FM2を受けた場合に、シリンダボア1a内周面及ピストン13の局部的な摩耗が抑制され、耐久性が向上する。」(4頁左欄4~9行) 3.対比・検討 (1)本件特許発明1について <対比> 本件特許発明1と甲第1号証発明Aとを対比すると、その技術的意義からみて、後者の「気筒1」は前者の「シリンダボア」に、後者の「ピストン2」は前者の「ピストン」に、それぞれ相当するものと認められる。 また、前者の「溝」と後者の「潤滑溝11」とは、外観上において「細長いくぼみ」の限度において一致していると認めることができる。 そうすると両者は、「シリンダボア内を上死点と下死点との間で往復動する圧縮機のピストンにおいて、前記ピストンはシリンダボアの内周面と摺接する外周面を備え、その外周面には、ピストンの軸線方向に延びる細長いくぼみを設けている圧縮機のピストン。」である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。 (a)ピストンが用いられる圧縮機の形式が、前者では「回転軸の回転に伴い、クランク室内において回転軸に装着された斜板及びシューを介して、シリンダボア内を上死点と下死点との間で往復動する圧縮機」(以下、「斜板式圧縮機」という。)であるのに対し、後者では「スコッチヨーク式圧縮機」である点。 (b)ピストンの軸線方向に延びる細長いくぼみが、前者では「溝」であるのに対し、後者では「潤滑溝11」である点。 (c)ピストンの軸線方向に延びる細長いくぼみの位置が、前者では「前記ピストンを回転軸の回転方向が時計の回転方向になる側から見た状態で、回転軸の中心軸線とピストンの中心軸線とを通る直線を仮想的に設けるとともに、この直線とピストンの外周面との交点のうち、回転軸の中心軸線から遠い方の点を12時の位置としたとき、12時の位置と6時の位置とを除いた位置に設けられている」のに対し、後者では「上側に設けられている」点。 ここで、上記相違点について検討する。 <相違点(a)、(b)について> 本件特許発明1に係る願書に添付された明細書の記載「本発明の目的は、ピストンがスムーズに移動し、しかもピストンを駆動するための部材に対して潤滑油を十分に供給できる圧縮機のピストン及びピストン式圧縮機を提供することにある。 発明の開示 上記の目的を達成するために、本発明の圧縮機におけるピストンは、回転軸の回転に伴い、クランク室内において回転軸に装着された駆動体を介して、シリンダボア内を上死点と下死点との間で往復動する。ピストンはシリンダボアの内周面と摺接する外周面を備えている。ピストンの外周面には、ピストンの軸線方向に延びる溝が設けられている。 従って、本発明によれば、ピストンの往復動に伴って、シリンダボアの内周面に付着している潤滑油が溝内に溜まる。そして、例えばピストンの往復動に伴い溝がシリンダボア内からクランク室内に露出すれば、溝内の潤滑油はクランク室内に供給され、その潤滑油によってクランク室内の駆動体等が潤滑される。ピストンの軸線方向に延びる溝はシリンダボアの開口縁と干渉しないので、ピストンはスムーズに移動する。また、この溝は、ピストンとシリンダボアとの摺動抵抗を減少させる。」(本件特許公報4頁8欄13~33行)からみて、本件特許発明1の斜板式圧縮機のピストンの軸線方向に延びる溝は、斜板式圧縮機の作動時において、ピストンの往復動に伴って、シリンダボアの内周面に付着している潤滑油を溝内に溜め、ピストンの往復動に伴い溝がシリンダボア内からクランク室内に露出したとき、溝内の潤滑油をクランク室内に供給し、その潤滑油によってクランク室内の駆動体等を潤滑し、しかも、ピストンの軸線方向に延びる溝はシリンダボアの開口縁と干渉しないので、ピストンがスムーズに移動する機能を有するものであると解される。そのため、本件特許発明1の溝は、圧縮機の作動時において必ずしも潤滑油に満たされる必要がなく、ピストンとシリンダボアとの摺動において、潤滑のために機能する必要がないものということができる。 これに対し、甲第1号証の記載事項(イ)、(ロ)及び(ニ)からみて、甲第1号証発明Aのスコッチヨーク式圧縮機のピストン2の軸線方向に延びる潤滑溝11は、スコッチヨーク式圧縮機の作動時において、潤滑溝11に供給された潤滑油が圧縮冷媒の漏洩を防止し、該圧縮機の停止時において、圧縮冷媒を通過させる機能を有するものであって、少なくとも、圧縮機の作動時において、潤滑溝11内の潤滑油をピストンと異なる箇所に供給したり、圧縮冷媒の漏洩を意図する機能を有するものではない。そのため、甲第1号証発明Aの潤滑溝11は、圧縮機の作動時において必ず潤滑油に満たされる必要があることから、ピストンとシリンダボアとの摺動において、潤滑のために機能又は寄与する必要があるものということができる。 さらに、甲第1号証発明Aのようなスコッチヨーク式圧縮機においては、ピストンの往復動を行うための駆動部の潤滑は、ピストンの駆動軸を介して行なわれることが一般的であって、通常、ピストンの軸方向を縦断して供給する必要がないものである。 してみると、本件特許発明1の溝と甲第1号証発明Aの潤滑溝11は、形状としては「軸線方向に延びる細長いくぼみ」の限度において一致するものの、その技術的意義は、全く別異のものというほかない。 したがって、相違点(a)及び(b)は、密接不可分のものであって、該相違点(a)及び(b)に係る本件特許発明1の構成要件は、甲第3号証に記載されるような斜板式圧縮機に甲第1号証発明Aを適用することにより、当業者が容易に想到することができたものということができない。 なお、請求人の提示した甲第4号証ないし甲第10号証及び被請求人の提示した乙第1号証及び乙第2号証に基づいて甲第1号証発明Aのスコッチヨーク式圧縮機の技術的背景を検討しても、甲第10号証及び乙第1号証の記載や、乙第2号証の従来技術についての記載からみて、スコッチヨーク式圧縮機における潤滑油の供給がクランク室側からの滴下又は飛散により行われていることが看取できるが、甲第4号証ないし甲第9号証に記載された冷媒中の潤滑油を用いる手段は全て、必ずしもスコッチヨーク式圧縮機に採用されたものではないので、上記相違点(a)及び(b)に関する判断を覆す根拠が見当たらない。 <相違点(c)について> 相違点(c)に係る本件特許発明1の構成を特定するための事項「ピストンの軸線方向に延びる溝が、前記ピストンを回転軸の回転方向が時計の回転方向になる側から見た状態で、回転軸の中心軸線とピストンの中心軸線とを通る直線を仮想的に設けるとともに、この直線とピストンの外周面との交点のうち、回転軸の中心軸線から遠い方の点を12時の位置としたとき、12時の位置と6時の位置とを除いた位置に設けられている」は、本件特許発明1に係る願書に添付した明細書の記載からみて、ピストンの軸線方向に延びる溝を過大な力を受ける側に設けられることが不利であることを前提として、過大なサイドフォースを受ける側を避けるように溝の位置を設定するためと解される。 一方、甲第1号証発明Aのピストン2では、潤滑溝11を設ける位置をどのように設定したかは不明である。 これに対して、請求人は甲第1号証発明Aに関し、「甲第1号証における潤滑溝11は、ピストン外周面の上下に配設されており、即ち、サイドフォースの作用しない個所に設けられている。(中略)甲第1号証には「圧縮機の運転時には潤滑溝11内に潤滑油が適当な手段にて供給されるものであり、」と記載されている(第2頁左欄11~12行)。したがって、甲第1号証には、運転時のサイドフォースを考慮して、サイドフォースの作用しない特定の個所に潤滑溝を配置し、潤滑油の流通を確保するという技術手段を開示している。」(平成14年1月23日付け口頭審理陳述要領書3頁12~28行)と主張し、「甲第1号証における潤滑溝11は、ピストン外周面の上方に配設されており、即ち、サイドフォースの作用しない個所に設けられている。」との主張の根拠として甲第2号証を提示している。 しかしながら、甲第1号証において、潤滑溝11をピストン外周面の上部の方に設けた意味合いについて全く記載されていないこと、甲第2号証には、その記載事項(ホ)、(ヘ)から、「スコッチヨーク式圧縮機において、水平方向に往復動するピストン2の外周面の左右側に局部面圧による摺動摩耗2b、2cが発生する」ことが示唆されているが、該ピストン2の外周面の左右側に局部面圧が、本件特許発明1のサイドフォースと同種のものと必ずしも言えないばかりでなく、この局部面圧による摺動摩耗による問題点の解決を本件特許発明1のサイドフォースによる問題点の解決と異なる応力の集中する必要最小部の硬度アップによっていること、また、乙第2号証に記載された技術的事項を参酌すれば、甲第1号証における潤滑溝11がピストン外周面の上方に配設されているのは、上方より供給される潤滑油を受け入れやすくしたものとも解されること、さらに、乙第2号証に記載された技術的事項を参酌すれば、潤滑溝に保持された潤滑油はシリンダボアとピストン間の対摩耗性を向上するのであるから、甲第2号証に記載されるような「スコッチヨーク式圧縮機において、水平方向に往復動するピストン2の外周面の左右側に局部面圧による摺動摩耗2b、2cが発生する」ことの問題点の解決には、水平方向に往復動するピストン2の外周面の左右側に潤滑溝を設けることがよいとも解されること、を総合すれば、甲第1号証には、請求人が主張するように、「甲第1号証における潤滑溝11は、サイドフォースの作用しない個所に設けられている」ことが記載されていないばかりか、示唆もされていないので、上記請求人の主張は採用できない。 また、甲第3号証には、斜板7の揺動によって片頭ピストン13に働くモーメントMが生じ、このモーメントMにより片頭ピストン13が局部的に押圧されて集中押圧力FM1が発生することが記載されている(上記摘記事項(チ))。そして、この片頭ピストン13にかかる集中押圧力FM1の位置が、揺動する斜板の向きに伴って変化するモーメントMの方向に追随してピストンの外周面上を移動することは、当業者には容易に理解されるものと認められる。そうすると、当業者は甲第3号証の記載から、集中押圧力FM1がピストンの全周にわたって作用することまでは認められるが、ピストン外周のどの位置に最大の集中押圧力が発生するかということまでは、甲第3号証に記載された発明では考慮されておらず、不明であると言わざるを得ない。さらに、そのような集中押圧力の強さと位置との関係についての解析を行って最大集中押圧力の位置を求めることが、当業者に容易であるという根拠も特に認められない。 したがって、これらのことを総合して勘案すると、相違点(c)に係る本件特許発明1の構成要件は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証発明Aに基づいて、当業者が容易に想到することができたものということができない。 <効果について> そして、本件特許発明1は、上記相違点(a)、(b)及び(c)に係る構成要件を備えたことにより、(1)斜板とピストンとの連結部等のクランク室内の各部位が良好に潤滑され、(2)溝の部分がシリンダボアに強く圧接されることが防止され、ピストン及びシリンダボアの磨耗や損傷がより確実に防止される、という明細書に記載された顕著な効果を奏するものである。 なお、請求人は、上記(2)の効果については、本件特許発明1の構成を特定するための事項に「第1溝16」が規定されていないから、本件特許発明1による効果ではないと主張する(平成14年1月23日付け口頭審理陳述要領書2頁最下行~3頁6行を参照。)が、上記(2)の効果は、本件特許発明1の「ピストンの軸線方向に延びる溝」においても奏されるものであるから、上記請求人の主張は採用できない。 <むすび> したがって、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 よって、本件特許発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、特許を無効とすべきである、とすることができない。 (2)本件特許発明18について 本件特許発明18と甲第1号証発明Bとを対比すると、その技術的意義からみて、後者の「気筒1」は前者の「シリンダボア」に、後者の「ピストン2」は前者の「ピストン」に、それぞれ相当するものと認められる。 また、前者の「溝」と後者の「潤滑溝11」とは、外観上において「細長いくぼみ」の限度において一致していると認めることができる。 そうすると両者は、「ピストンがシリンダボア内を上死点と下死点との間で往復動するピストン式圧縮機において、前記ピストンはシリンダボアの内周面と摺接する外周面を備え、そのピストンの外周面には、ピストンの軸線方向に延びる細長いくぼみを設けているピストン式圧縮機。」である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。 (a)ピストン式圧縮機の形式が、前者では「シリンダボア及びクランク室を有するハウジングと、ハウジングに回転可能に支持された回転軸と、クランク室内において回転軸に装着された斜板と、シリンダボア内に収容されたピストンとを備え、回転軸の回転に伴い、斜板及びシューを介してピストンがシリンダボア内を上死点と下死点との間で往復動するピストン式圧縮機」であるのに対し、後者では「スコッチヨーク式ピストン圧縮機」である点。 (b)ピストンの軸線方向に延びる細長いくぼみが、前者では「溝」であるのに対し、後者では「潤滑溝11」である点。 (c)ピストンの軸線方向に延びる細長いくぼみの位置が、前者では「前記ピストンを回転軸の回転方向が時計の回転方向になる側から見た状態で、回転軸の中心軸線とピストンの中心軸線とを通る直線を仮想的に設けるとともに、この直線とピストンの外周面との交点のうち、回転軸の中心軸線から遠い方の点を12時の位置としたとき、12時の位置と6時の位置とを除いた位置に設けられている」のに対し、後者では「上側に設けられている」点。 (d)ピストンの軸線方向に延びる細長いくぼみが、前者では「ピストンの外周面上とシリンダボアの内周面上との一方」に設けられるのに対して、後者では「ピストンの外周面上」にのみ設けられる点。 ここで、上記相違点について検討すると、相違点(a)ないし(c)については、上記6.(1)で説示したのと同様の理由によって、上記相違点(a)ないし(c)に係る本件特許発明18の構成要件は、甲第1号証発明B及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものということができない。 そして、本件特許発明18は、上記相違点(a)ないし(c)に係る構成を備えたことにより、(1)斜板とピストンとの連結部等のクランク室内の各部位が良好に潤滑され、(2)溝の部分がシリンダボアに強く圧接されることが防止され、ピストン及びシリンダボアの磨耗や損傷がより確実に防止される、という明細書に記載された顕著な効果を奏するものである。 したがって、上記相違点(d)について検討するまでもなく、本件特許発明18は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 よって、本件特許発明18についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、特許を無効とすべきである、とすることができない。 (3)本件特許発明2~17、19~27及び29~31について 本件特許発明2~17は、本件特許発明1の構成を特定するための事項を全て含み、さらに他の構成を特定するための事項を付加したものに相当するから、上記6.(1)で説示したのと同様の理由により、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 また、本件特許発明19~27及び29~31は、本件特許発明18の構成を特定するための事項を全て含み、さらに他の構成を特定するための事項を付加したものに相当するから、上記6.(2)で説示したのと同様の理由により、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 したがって、本件特許発明2~17、19~27及び29~31についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、特許を無効とすべきである、とすることができない。 V.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提示した証拠方法によっては、本件特許発明1~27、29~31に係る特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-04-09 |
結審通知日 | 2002-04-11 |
審決日 | 2002-04-23 |
出願番号 | 特願平9-500306 |
審決分類 |
P
1
122・
121-
Y
(F04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 尾崎 和寛 |
特許庁審判長 |
舟木 進 |
特許庁審判官 |
飯塚 直樹 栗田 雅弘 |
登録日 | 1999-06-18 |
登録番号 | 特許第2941432号(P2941432) |
発明の名称 | 圧縮機のピストン及びピストン式圧縮機 |
代理人 | 中村 友之 |
代理人 | 恩田 博宣 |