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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) H02K |
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管理番号 | 1087872 |
審判番号 | 無効2001-35447 |
総通号数 | 49 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-09-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-10-15 |
確定日 | 2003-12-16 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2813556号発明「ステータコアへの巻線装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2813556号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯・本件発明 本件特許第2813556号の請求項1に係る発明(平成7年3月14日出願、平成10年8月7日設定登録)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「 【請求項1】 (イ) 一方から導入した導線を他方に設けたノズル(15a)から供出するガイド筒(12)と、 このガイド筒(12)を軸方向へ往復動作させる往復動作部(16)と、 このガイド筒(12)を軸周方向へ設定角度揺動させる揺動部(17)とを備え、 (ロ) ステータコア(1)に上記ノズル(15a)を臨ませると共に上記ガイド筒(12)の往復動作及び揺動により上記ノズル(15a)から供出する導線(4)をステータコア(1)の内歯(2)に巻付けてコイルを形成するステータコアへの巻線装置において、 (ハ) 上記揺動部(17)は、上記ガイド筒(12)に直交する方向へ配設され、上記往復動作部(16)と同期回転するカム軸(24)と、 このカム軸(24)の外周に周回状に形成されたリブ状のカム(26)と、 上記ガイド筒(12)の軸方向移動を許容し、上記ガイド筒(12)の回転に対して係合するように、上記ガイド筒(12)の外周に配置された揺動スリーブ(23)と、 この揺動スリーブ(23)に二股をなして取付けられ、上記リブ状のカム(26)をバックラッシ0の状態で挟持するカムフォロワ(27)とで構成されており、 (ニ) 上記カム(26)は、上記ガイド筒(12)を揺動させるカム曲線部(26a)と、反転の際に一旦揺動を停止させるカム直線部(26b)とを連続させて周回状に形成した形状をなし、上記カム直線部(26b)に上記カムフォロワ(27)が位置したときに、上記ノズル(15a)が上記ステータコア(1)の内溝(3)内を通過するように設定されていることを特徴とするステータコアへの巻線装置。」 (以下、「本件特許発明」という。なお、(イ)~(ニ)は分節のために付加した符号である。) 2.請求人の主張 これに対して、請求人日特エンジニアリング株式会社は、「特許第2816556号特許の請求項1にかかる発明は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その請求理由として、次のように主張している。 すなわち、本件の請求項1に係る発明の特許は、いずれも本件発明の出願前に公開された以下の甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定に該当し、無効とすべきものである。 記 甲第1号証:特開平5-64398号公報 甲第2号証:特開平2-305765号公報 甲第3号証:特開平3-40741号公報 甲第4号証:実公昭63-12269号公報 甲第5号証:特公昭63-65465号公報 3.被請求人の主張 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、答弁書において概ね以下のように主張すると共に、証拠方法として乙第1号証(試験報告書)を提出している。 3.1 甲第1~3号証には、導線を案内するガイド筒の揺動機構に介在するギヤのバックラッシや、揺動機構に介在する摺動部材やリンクによるタワミやガタに起因する振動騒音の発生、各部材の摩耗による耐久性の低下、更には巻線速度をより高速化させることへの障害等について、何ら問題点が提起されていない。すなわち、導線を案内するガイド筒の揺動機構において、バックラッシを避けることができないギヤ伝達をなくすと共に、伝達機構をできるだけ単純化してガタやタワミの発生を防止し、高速巻線に適した滑らかな伝達機構を採用するという技術的課題については何ら着眼されていない。(答弁書10頁11行~18行参照) 3.2 甲第4,5号証に記載された技術は、各種の自動工作機械等に用いられるカム装置あるいは、工作機械における自動工具交換装置に関する技術であり、本件発明の対象であるステータコアへの巻線装置とは技術分野が全く異なっている。(同10頁3行~10行参照) 3.3 導線を案内するガイド筒の揺動機構として採用し得る構造は、ほぼ無限に近いほどあるのであって、甲第1~3号証に記載された巻線装置において、ガイド筒の揺動機構として、甲4,5号証に記載されたカム機構を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとは到底言えない。(同10頁25行~11頁9行参照) 3.4 本件発明を用いた装置(参考資料に記載のSW36-3型)によれば、乙第1号証の試験報告書のとおり甲第1号証と同一構成の装置(参考資料1に記載のSW34-2型)に比べて、巻線速度を飛躍的に向上させることができ、海外も含めて業界最高速であり、本件発明は、甲第1~5号証に対する上記構成上の相違から、当業者が予期し得なかった優れた作用、効果をもたらすものである。(同11頁10行~12頁末行参照) 4. 甲第1号証ないし甲第5号証に記載の発明 甲第1号証ないし甲第5号証の書証である各刊行物(公開公報または公告公報)には、それぞれ以下のような発明(以下、「甲第1発明」ないし「甲第5発明」という。)が記載されているものと認める。 4.1 甲第1号証 甲第1号証の公報には、以下の記載がある。 (1)段落0004~0005には、 「【0004】 すなわち、図示しない駆動装置によって回転する主動軸11には、クランク12が装着されている。このクランク12に取付けられたクランクピン13は、ガイドバー14、15によって上下動可能に支持されたスライドブロック16のガイド溝17に、コロ18を介して挿入されている。したがって、主動軸11およびクランク12が回転すると、クランクピン13が円運動を行ない、スライドブロック16が上下方向に往復動するようになっている。 【0005】 スライドブロック16には、ガイド筒19が挿通支持されており、スライドブロック16と共に図中矢印Aで示す如く軸方向に往復動するようになっている。ガイド筒19は、下端部から導線が導入され、上端部に取付けられたヘッダー38に設けられたノズル20から導線が繰出されるようになっている。」 と記載されている。 これらの記載及び図8によれば、 「導線が下端から導かれ、上端のノズル20から繰り出されるガイド筒19を備え、このガイド筒19をスライドブロック16及びクランク12などにより軸方向に上下動させ」る往復動部の構成(イ’-1)が認められる。 (2)上記記載に続く段落0005には「なお、ガイド筒19は、スライドブロック16に軸方向の移動を固定されつつ回転可能に支持されている。ガイド筒19の中間部外周にはスプライン溝21が形成されており、このスプライン溝21に嵌合してガイド筒19の外周にピニオン22が装着されている。ピニオン22は、ガイド筒19の軸方向の移動を許容し、かつ、スプライン溝21を介してガイド筒19に対して回転運動を与えるようになっている。」と記載され、 さらに段落0006,0007には「【0006】 一方、主動軸11とほぼ平行に従動軸23が配置されており、従動軸23は、主動軸11に設けられた主動ギヤ24、アイドルギヤ25、従動軸23に設けられた従動ギヤ26を介して、主動軸11に連動して回転するようになっている。従動軸23の先端には、ベベルギヤ27が取付けられている。そして、従動軸23とほぼ直交する方向に軸28が配置されており、軸28の一端に取付けられたベベルギヤ29がベベルギヤ27と歯合している。また、軸28の他端には、円筒カム30が取付けられている。したがって、従動軸23が回転すると、ベベルギヤ27、ベベルギヤ29を介して軸28が回転し、軸28に固着された円筒カム30が回転するようになっている。 【0007】 前述したピニオン22には、ラック32が歯合して配置されており、ラック32にピン33を介して取付けられたコロ34が、上記円筒カム30のカム溝31に嵌合している。したがって、円筒カム30が回転すると、ラック32が図中矢印Bで示す如く往復動し、これによってピニオン22が回動し、それに伴なってガイド筒19が図中矢印Cで示す如く往復回動するようになっている。この結果、ガイド筒19は図中矢印Aと矢印Cとで合成された運動を行なう。」と記載されている。 これらの記載によれば、ガイド筒19を所定角度回動させる回動部(イ’ー2)であって、「前記ガイド筒19の中間部外周にはスプライン溝21が形成され、該スプライン溝に嵌合してピニオン22が装着されており、このピニオン22はガイド筒の軸方向の移動を許容しつつ、スプライン溝を介してガイド筒19に対して回転運動を与え、前記ピニオン22と噛み合うラック32を往復動させる円筒カム30を含む前記ガイド筒19を回動させる」回動部の構成(ハ’)が認められる。 また、ガイド筒19を回動する回動部には、「ガイド筒19と直交し、かつ、往復動部と同期して回転するカム軸28を備え、該カム軸28には円筒カム30が取り付けられ、前記ガイド筒19にスプライン嵌合するピニオン22にラック32が噛み合い、ラック32にピン33を介して取り付けたコロ34が円筒カム30のカム溝31に嵌合する」構成(ニ’)も認められる。 (3)段落0009に記載の「【0009】 ステータコア35の内周には複数の内歯36が形成されており、これらの内歯36の間に溝37が形成されている。前述したガイド筒19の合成された運動により、ガイド筒19の上端部に取付けられたヘッダー38のノズル20は、離れた位置にある2つの溝37に交互に挿入され、それらの間に位置する内歯36に導線39を巻付けてコイルを形成する。その動きの一例を示すと、ノズル20は、溝37aに上方から挿入され、溝37a内を上方から下方に移動する。ノズル20は、溝37a内を下方に抜けると、回動して溝37bの下方に移動し、溝37bの下方から挿入されて溝37b内を下方から上方に移動する。さらに、ノズル20は、溝37b内を上方に抜けると、今度は逆方向に回動して、再び溝37aの上方に位置する。そして、上記の運動を繰返すことにより、溝37a、溝37bの間に位置する内歯36に導線39を巻付けてコイルを形成することができる。・・・」によれば、 「前記ガイド筒19の軸方向(上下)運動及び回動運動により、前記ガイド筒19の先端に設けられたノズル20は、ステータコア35内周の内歯間の一つの溝37aの間を上方から下方に抜けると、周方向に回動して他の溝37bの下方に位置し、そのまま上方に抜けると今度は逆方向に回動し、再び溝37aの上方に位置することにより、ステータコア内周の内歯36に導線29を巻き付けてコイルを形成す」る構成(ロ’)が認められる。 (4) また、図8の記載からみて、ラック32に設けられているコロ34は、嵌合するカム溝31が円筒カムの軸方向に変化する部分により移動させられ、そのためにガイド筒19及びノズル20が回動させられることは明らかであり、さらに、段落0009の「なお、実際には、ノズル20の軸方向運動および回動運動は、同時に進行しつつ行なわれるため、合成された運動は、ステータコア35の上下端面の外方部分において曲線的に変化するループを描くようになっている。」の記載によれば、 「上記円筒カム30にはその周面上に周回状をなすカム溝31を設け、該カム溝31は少なくともガイド筒19を回動させる部分を備えて連続的な周回状をなし、前記カム溝31に嵌合するコロ34が、カム溝31の前記回動させる部分に位置する間、ノズル20がステータコア35の上下端の外方部分において溝37aと溝37b間を移動するように設定されている」構成(ニ’)が認められる。 (5) したがって、甲第1号証の公報には、以下の発明が記載されていると認められる。 「(イ’ー1)、導線が下端から導かれ、上端のノズルから繰り出されるガイド筒19を備え、このガイド筒19はスライドブロック16及びクランク12などにより軸方向に上下動させる往復動部と、 (イ’-2)ガイド筒19を所定角度回動させる回動部と、 (ロ’)前記ガイド筒19の軸方向(上下)運動及び回動運動により、前記ガイド筒19の先端に設けられたノズル20は、ステータコア35内周の内歯間の一つの溝37aの間を上方から下方に抜けると、周方向に回動して他の溝37bの下方に位置し、そのまま上方に抜けると今度は逆方向に回動し、再び溝37aの上方に位置することにより、ステータコア内周の内歯36に導線29を巻き付けてコイルを形成する巻線装置において、 (ハ’)上記回動部は、ガイド筒19と直交し、かつ、往復動部と同期して回転するカム軸28を備え、該カム軸28には円筒カム30が取り付けられ、前記ガイド筒19にスプライン嵌合するピニオン22にラック32が噛み合い、ラック32にピン33を介して取り付けたコロ34が円筒カム30のカム溝31に嵌合してなり、 (ニ’)上記円筒カム30にはその周面上に周回状をなすカム溝31を設け、該カム溝31は少なくともガイド筒19を回動させる部分を備えて連続的な周回状をなし、前記カム溝31に嵌合するコロ34が、カム溝31の前記回動させる部分に位置する間、ノズル20がステータコア35の上下端の外方部分において溝37aと溝37b間を移動するように設定されている巻線装置。」(なお、(イ’)~(ニ’)は、本件特許発明に付加した符号に対応させて付加した符号である。) 4.2 甲第2号証 甲第2号証の公報には、本件特許発明のイ、ロの構成と関連する構成を備えたステータ巻線機についての発明が記載されている。 すなわち、ステータSを巻線するために、スピンドル14にはワイヤwを走行させるノズル19が取り付けられ、スピンドル14は揺動軸11に連動する揺動ブロック13と、昇降アーム23とにより、回転運動と上下運動が与えられ、この合成運動により、ノズルから繰り出されるワイヤが巻線を行うステータ巻線機が記載されている。。 4.3 甲第3号証 甲第3号証の公報は、本件特許発明のイ、ロの構成と関連する構成を備えたステータの巻線機にについての発明が記載されている。 すなわち、スピンドル16の先端にワイヤを繰り出すノズル30が設けられ、スピンドル16に揺動運動と往復運動を行わせる機構が備え、揺動運動機構はモータ1に連動する4節リンク機構14であり、また往復運動機構はスライダクランク機構28から構成され、スピンドル16の揺動運動と往復運動により、ノズル30がステータ内で長円形軌跡を描き、ステータにワイヤを巻線する直巻機が記載されている。 また、揺動運動機構としては、4節リンク機構に限らず、他の機構でも良いことが明示されている。(3頁左下欄1行~2行参照) 4.4 甲第4号証 甲第4号証の公報には、本件特許発明のハ、ニの構成と関連して、出力軸に回転運動と往復運動の複合運動を行わせるカム装置が記載されている。 図1~3に関する記載によれば、回転運動と往復運動の複合運動を行うように支持された出力軸9に対して直交する方向に入力軸2が設けられ、この入力軸2の外周面にはテーパリブ3aを周回状に形成したグロボイダルカム3が設けられ、出力軸9に対して軸方向に摺動自由であり、かつ回転方向にスプライン係合する従節ターレット11に、前記テーパリブ3aを両側から挟持する一対の二股をなすカムフォロワー12が設けられ、グロボイダルカム3のテーパリブ3aは出力軸9(カムフォロワー12)を回転させる曲線部分と、出力軸の回転を停止させる直線部分とが連続して周回状に形成され、前記グロボイダルカム3の端面には無終端状に溝4が形成され、前記入力軸2の回転により、この溝4に嵌合する転子7を介してアーム5が揺動し、アーム5の先端に係合する案内部材16を介して出力軸9を入力軸2の回転に同期して、軸方向に往復動させるカム装置の発明が記載されていると認められる。 さらに、テーパーリブ3a、溝4の形状を変更することにより、出力軸9の上下動、揺動回転運動のみならず、上下動を伴う間欠回転運動など様々な複合運動をさせることが可能であることも記載されている。(6欄28行~32行参照) 4.5 甲第5号証 甲第5号証の公報には、本件特許発明の構成ハ、ニと関連して、アーム軸に間欠回転と直進の複合運動を行わせる機構に関する発明が記載されている。 すなわち、回転及び軸方向に摺動自由に支持されたアーム軸20に対して直交する駆動軸2にローラギヤカム10が設けられ、、このローラギヤカム10の周回状に形成したリブ9には、ターレット14の従節ローラ13が両側から係合し、ローラギヤカム10の回転よりターレット14がバックラッシュの少ない状態で間欠運転する。ターレット14の間欠回転は歯車機構15(増速用)を介してアーム軸20に伝達される。駆動軸2には平面溝カム8が設けられ、この平面溝カム8に従節ローラ24を介して係合するレバー23がカム回転により揺動し、レバー23の動きによりアーム軸20のシフトローラガイド21がアーム軸20の軸方向に往復運動する。(図1~3に関する記載参照) この構成に基づき、アーム軸29の間欠回転はローラギヤカム10とそのリブ9間に案内される従節ローラ13をもつターレット14とにより行うため、バックラッシが極めて小さく(6欄8~11行参照)、また、ローラギヤカムはリブ間に挟持されているため、特に正確な回転位置決めができる(6欄29行~31行参照)との効果が得られる点も記載されている。 5 当審の判断 5.1 対比 本件特許発明と甲第1発明を対比すると、甲第1発明の「溝」「往復動部」「回動部」は、本件特許発明の「内溝」「往復動作部」「揺動部」にそれぞれ相当するから、両者は 「(イ)一方から導入した導線を他方に設けたノズルから供出するガイド筒と、このガイド筒を軸方向へ往復動作させる往復動作部と、このガイド筒を軸周方向へ設定角度揺動させる揺動部とを備え、 (ロ)ステータコアに上記ノズルを臨ませると共に上記ガイド筒の往復動作及び揺動により上記ノズルから供出する導線をステータコアの内歯に巻付けてコイルを形成するステータコアへの巻線装置。」で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 揺動部の構成として、本件特許発明が「(ハ)上記揺動部は、上記ガイド筒に直交する方向へ配設され、上記往復動作部と同期回転するカム軸と、このカム軸の外周に周回状に形成されたリブ状のカムと、上記ガイド筒の軸方向移動を許容し、上記ガイド筒の回転に対して係合するように、上記ガイド筒の外周に配置された揺動スリーブと、この揺動スリーブに二股をなして取付けられ、上記リブ状のカムをバックラッシ0の状態で挟持するカムフォロワとで構成されており」の構成を備えているのに対し、甲第1発明が「上記回動部は、ガイド筒19と直交し、かつ、往復動部と同期して回転するカム軸28を備え、該カム軸28には円筒カム30が取り付けられ、前記ガイド筒19にスプライン嵌合するピニオン22にラック32が噛み合い、ラック32にピン33を介して取り付けたコロ34が円筒カム30のカム溝31に嵌合してなり」の構成である点(相違点1)。 (相違点2) 本件特許発明がカムの形状として「(ニ) 上記カム(26)は、上記ガイド筒(12)を揺動させるカム曲線部(26a)と、反転の際に一旦揺動を停止させるカム直線部(26b)とを連続させて周回状に形成した形状をなし、上記カム直線部(26b)に上記カムフォロワ(27)が位置したときに、上記ノズル(15a)が上記ステータコア(1)の内溝(3)内を通過するように設定されていること」の構成を備えているのに対し、甲第1発明はノズルがステータコア上下端の外方部分において、溝37aと37b間を移動するための構成を備えているものの、円筒カム30を用いているために、本件特許発明におけるこのような構成を備えていない点(相違点2)。 5.2 相違点等の検討 (1) 相違点1について 巻線装置におけるノズルの回動(揺動)機構として、甲第1号証には、円筒カム(図8参照)や、ハートカム(図7参照)を用いるものが記載されており、また、甲第2号証には、カム10により往復動する振角軸11の動きを揺動ブロック13により変換するものが記載されており、さらに甲第3発明には、4節リンク機構を用いることや、他の機構でもよいとも記載されているように、種々の機構を用い得ることが認められる。 一方、カム機構を用いて回転運動を直交する軸の回動運動に変える機構として、一方の軸に設けたリブ状のカムと、前記リブ状のカムのテーパ部分を挟持するように二股状に設けられたカムフォロワを直交する他方の軸に取付たものは、グロボイダルカム(あるいはローラギアカム)として甲第4,5号証及び請求人が弁駁書で提示した参考資料(特開昭55-4978号公報)に記載のように周知のものであり、しかも甲第4号証には、グロボイダルカム等を用いて出力軸を往復動及び回動させる装置として、「回転運動と往復運動の複合運動を行うように支持された出力軸9に対して、回転運動を行う機構が、前記出力軸9に直交する方向に入力軸2が設けられ、この入力軸2の外周面にはテーパリブ3aを周回状に形成したグロボイダルカム3が設けられ、出力軸9に対して軸方向に摺動自由であり、かつ回転方向にスプライン係合する従節ターレット11に、前記テーパリブ3aを両側から挟持する一対の二股をなすカムフォロワー12が設けられ、グロボイダルカム3のテーパリブ3aは出力軸9(カムフォロワー12)を回転させる曲線部分と、出力軸の回転を停止させる直線部分とが連続して周回状に形成されたカム装置」が記載されている。 そして、巻線装置においても、より高速化、低振動化、高耐久性等の性能向上は、当然の技術課題にすぎないと認められ、しかも、一般に、装置を改良しようとする際、同じ分野に限らず、用途・機能等何らかの点で共通する種々の分野からより適するものを採用すべく試行錯誤することは当然の創作活動にすぎず、甲第4号証の発明の「カム装置」は運動変換機構を用いた一般的な機械の技術分野であり、また甲第5号証に記載の「自動工具交換装置」も工作機械の一分野であって運動変換機構を応用する分野として知り得ない分野でもない。したがって、このような装置における構成を、巻線装置に採用することに関して格別に阻害される理由も存在しない。 したがって、甲第1発明における巻線装置においても、性能を高めるために、ノズルの回動部に代えて、回動機構として周知の機構であるグロボイダルカムを用いている上記甲第4発明の回動機構を用いることは、当業者が容易に考えられるものと認められる。 なお、回動機構を具体的に適用する際、甲第4発明の「出力軸9」は本件特許発明の「ガイド筒(12)」に相当し、甲第4発明の「出力軸に対して直交する方向に入力軸2が設けられ、」は本件特許発明の「カム軸(24)」に相当し、甲第4発明の「出力軸9に対して軸方向に摺動自由であり、かつ回転方向にスプライン係合する従節ターレット11」は、本件特許発明の「揺動スリーブ(23)」に相当し、甲第4発明の「グロボイダルカム3のテーパリブ3aは出力軸9(カムフォロワー12)を回転させる曲線部分と、出力軸の回転を停止させる直線部分とが連続して周回状に形成され」は、本件特許発明の「カム軸(24)の外周に周回状に形成されたリブ状のカム(26)」に相当し、さらに、甲第4発明の「テーパリブ3aを両側から挟持する一対の二股をなすカムフォロワー12」は、このように挟持することにより前記甲第5号証の記載(「ローラギヤカムはリブ間に挟持されているため、特に正確な回転位置決めができる」(6欄29行~31行参照))との効果が得られ、この効果は本件特許発明の明細書に記載の効果と同じであるから、実質的に本件特許発明の「この揺動スリーブ(23)に二股をなして取付けられ、上記リブ状のカム(26)をバックラッシ0の状態で挟持するカムフォロワ(27)」に相当するものと言える。したがって、甲第1発明の回動部に甲第4発明の回動機構を適用することにより本件発明の(ハ)の構成が得られることは明らかである。 (2) 相違点2について 甲第1発明は、図8の記載から、円筒カム30のカム溝31は、軸方向に変化する部分に連続して円筒面の周方向に延びている部分も備えている。そして該円周方向に延びている部分にコロ34が位置すれば、該コロ34は円筒カム30の軸方向には変位が少なく、ラック32とピニオン22を介し回動されるノズル20の回動量も少ないものと認められる。したがって、図8の記載のよれば、ノズルの回動部は、前記円筒カムの一周中にノズル20の回動量の少ない部分(もしくは無い部分、図8からはいずれであるかは明確ではないが)と多い部分が設けられていると言える。しかも、前記段落0009の「なお、実際には、ノズル20の軸方向運動および回動運動は、同時に進行しつつ行なわれるため、合成された運動は、ステータコア35の上下端面の外方部分において曲線的に変化するループを描くようになっている。」の記載からみて、円筒カムの一周中にノズル20が回動するのは、該ノズルがステータコア35の上下端面に出ている間であることが明かであるから、結果として、ノズルがステータの上下間を移動する間、すなわち、ステータの溝37a,37bを通るときは回動しないかほとんど回動しない状態になることも明かである。 しかも、クランク機構による往復動でノズルがステータ溝37aまたは37b間を上下に通る際にも前記円筒カムにより回動運動を行っていると、往復動と回動運動の合成でノズルの移動が曲線状になり、ノズルがステータの内歯36に衝突する恐れが大となることは当然予想されることであるから、ノズルがステータの溝37a,37b間の上または下を移動して反転する際、ノズルがステータの溝37aまたは37b間を上下に往復動のみをするように回動用カムによる駆動を停止させることは、当業者が巻線操作を確実に行わせようとするときに適宜実施しうることにすぎない。 したがって、甲第1発明において、「上記相違点1について」で記載のように回動部を甲第4発明の回動機構に代えた場合でも、ノズルの往復動と回動運動が合成されることは同じであり、かつ、グロボイダルカムにおいてカムフォロワを回動させないためには直線部を設ければよいことは、甲第4号証の「f~g区間・・・この区間ではカムフォロワー12はテーパリブ3aの直線部分に入るため、回転運動は停止している。」との記載(5欄35行~30行)及び図3の記載から明かであるので、ノズルが回動方向では反転し、往復同方向では溝37aまたは37bを通過する際は、出力軸9(カムフォロワー12)を回転させる曲線部分と、出力軸の回転を停止させる直線部分とが連続して周回状に形成されグロボイダルカムの形状を回動を停止するように直線部分にカムフォロワーが位置するように設定することは、適宜実施しうる程度のことにすぎないと認められる。 (3)本件特許発明の効果について 以上のとおり、本件特許発明と甲第1発明との相違点に係る構成は格別なものではなく、本件特許発明により得られる効果は、甲第1発明ないし甲第5発明から予測しうる程度のものにすぎないと認められる。 特に、巻線速度を飛躍的に高速化できるとの被請求人の主張する本件特許発明の効果は、甲第1発明におけるラックとピニオン及び円筒カム等によって揺動させていた揺動部を、甲第4発明のように往復動する出力軸9と、該出力軸9の下方にてスプライン部13とで該出力軸9と一体回転を強制される中空円筒状の従節軸10をグロボイダルカムによる揺動機構で揺動させることにより、ギヤによるバックラッシがなくなり、さらに、バックラッシをゼロにしたグロボイダルカムを採用することにより、カムでのバックラッシもなくなることから、その分余計な振動(騒音)が無くなって、より高速に駆動できるようになることは当然予測しうる効果にすぎない。 5.3 むすび 以上のとおり、本件特許発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 なお、審判の費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-05-10 |
結審通知日 | 2002-05-15 |
審決日 | 2002-05-31 |
出願番号 | 特願平7-81840 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
Z
(H02K)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 平田 信勝 |
特許庁審判長 |
三友 英二 |
特許庁審判官 |
菅澤 洋二 紀本 孝 |
登録日 | 1998-08-07 |
登録番号 | 特許第2813556号(P2813556) |
発明の名称 | ステータコアへの巻線装置 |
代理人 | 松井 茂 |
代理人 | 松田 嘉夫 |
代理人 | 後藤 政喜 |