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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1089956 |
異議申立番号 | 異議2001-70533 |
総通号数 | 50 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-02-14 |
確定日 | 2004-01-05 |
異議申立件数 | 5 |
事件の表示 | 特許第3105020号「熱可塑性分解性ポリマー組成物」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3105020号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 |
理由 |
[1]手続きの経緯 本件特許第3105020号は、平成3年5月10日に出願された特願平3-105673号の出願に係り、平成12年9月1日にその設定登録がなされたものであり、その後5件の特許異議の申立てがあり、当該申立てに基づく取消理由の通知に対し、平成13年10月2日付けで訂正請求がなされ、当該訂正請求に対する訂正拒絶理由の通知に対し、平成14年11月11日付けで、先の訂正請求を取り下げた上で改めて訂正請求書を提出する旨の手続きがなされたところ、当該手続きについて却下の決定がなされ、その決定は確定したものである。 [2]本件訂正請求 本件訂正請求は、特許第3105020号の明細書を本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、これによる特許請求の範囲の訂正は、請求項1中の「残存モノマーを該主成分に対して0.9%以下で含み」を「残存モノマーを該主成分に対して0.5%未満で含み」に訂正し(以下、この訂正を「訂正1」という。)、また、「60℃、20日間の温水中重量減少率が10%を越えない」の限定を加入する(以下、この訂正を「訂正2」という。)訂正を含むので、これら訂正が、訂正前の明細書(以下、単に「本件明細書」という。)に記載した事項の範囲内の訂正か否かについて、以下検討する。 (1)本件明細書の記載 本件明細書には、「本発明者らは、以上の問題点を解決するために鋭意検討した結果、L-乳酸、・・・またはL-ラクタイド・・・またはそれらの混合物を開環重合させて得られた、残存モノマー量が0.9%以下のポリマーに、可塑剤を加えることによりポリマーに柔軟性を与えることができ、さらに十分な柔軟性を与える量だけ添加量を増やしても、透明なポリマー成形物が得られることを見出し本発明を完成した。」(段落【0016】)と記載され、実施例1~7、比較例1~4においては、使用したモノマーの種類とその量、得られたポリマーの平均分子量、残存するモノマーの種類とその量(%)、添加物(決定注:ここでの「添加物」は「可塑剤」と解される。)の種類と添加量、これから得られたフィルムの弾性率と60℃、20日間による温水中重量減少率(%)の測定結果が示され、【発明の効果】において、「本発明により、良好な柔軟性と加水分解性を持ったポリ乳酸を主成分とする熱可塑性樹脂組成物が得られる。」(段落【0039】)と記載されている。 (2)訂正1について 本件明細書には、上記したとおり、ポリ乳酸系の熱可塑性分解性ポリマー組成物について、残存モノマーを0.9%以下とした、可塑剤(特定のオリゴマー類は除かれている。)を含有する組成物の発明が記載されているが、残存モノマー量をさらに進めて「0.5%未満」とすることは一切記載されておらず、【実施例】(段落【0029】~段落【0038】)においても、実施例1~7、比較例1~4の記載から、これが0.5%をわずかにでも下回れは、それにより何らかの有利な効果が奏される等のより好ましい結果をもたらすことを窺わせる記載は全く見出せない。 したがって、訂正1は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正と認めることはできない。 (3)訂正2について 本件明細書には、「60℃、20日間による温水中重量減少率」の数値をどの程度とすべきかについての記載は全くなされておらず、ましてこれを「10%を越えない」数値とすることは全く記載のない事項である。 【実施例】(段落【0029】~段落【0038】)において、実施例1~7として可塑剤としての添加物を含むものが、比較例1~4とし可塑剤としての添加物を含まないものが、それぞれ記載され、その評価として、添加物を加えないで作成したフィルムは添加物を加えたものに比べて柔軟性に劣っていたとし、「本発明により、良好な柔軟性と加水分解性を持ったポリ乳酸を主成分とする熱可塑性樹脂組成物が得られる。」(段落【0039】)と記載されているものの、実施例及び比較例には、同数値について、10%より多いものも少ないものも共に記載されており、この数値が10%を境として「10%を越えない」ものをより好ましいとする記載は見出せない。 してみれば、訂正2についても、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正と認めることはできない。 (4)訂正適否の結論 以上の次第で、本件訂正請求は、特許法第120条の4第3項で準用する平成5年法律第26号による改正後の特許法第126条第1項ただし書に規定する要件を満たしていない、とする他はない。 [3]本件特許異議申立てについて [3-1]本件発明 本件特許第3105020号の請求項1~4に係る発明は、設定登録時の明細書の記載からみて、その請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、順次「本件第1発明」、「本件第2発明」・・・「本件第4発明」という。)と認める。 「【請求項1】ポリ乳酸、または乳酸と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸のコポリマー、またはポリ乳酸と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸のポリマーの混合物を主成分とし、これらポリマーまたはコポリマーの残存モノマーを該主成分に対して0.9%以下で含み、かつ、可塑剤〔但し、グリコール酸オリゴマー(重合度1~30)、乳酸オリゴマー(重合度1~30)、グリコール酸-乳酸オリゴマー(重合度1~30)、グリコリドおよびラクチドを除く。〕を含む柔軟性および透明性に優れた熱可塑性分解性ポリマー組成物。 【請求項2】可塑剤〔但し、グリコール酸オリゴマー(重合度1~30)、乳酸オリゴマー(重合度1~30)、グリコール酸-乳酸オリゴマー(重合度1~30)、グリコリドおよびラクチドを除く。〕が、フタル酸エステル、脂肪酸二塩基酸エステル、リン酸エステル、ヒドロキシ多価カルボン酸エステル、脂肪族エステル、多価アルコールエステル、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤〔但し、グリコール酸オリゴマー(重合度1~30)、乳酸オリゴマー(重合度1~30)、グリコール酸-乳酸オリゴマー(重合度1~30)、グリコリドおよびラクチドを除く。〕またはそれらの混合物である請求項1記載の組成物。 【請求項3】ポリ乳酸がL-乳酸、D-乳酸、またはそれらの混合物から得られるものであることを特徴とする請求項1記載の組成物。 【請求項4】乳酸以外のヒドロキシカルボン酸がグリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸であることを特徴とする請求項1記載の組成物。」 (なお、【請求項4】の末尾の『」である。』は、誤記と認められるので、これを削除して上記のとおり認定した。) [3-2]平成13年8月3日(発送日)付けで通知された取消理由に引用された刊行物とその記載事項 刊行物1:米国特許第1995970号明細書(吉田恵子の甲第1号証) 刊行物2:Journal of Biomedical Materials Research V.13(1979) p.497-507(林栄太郎の甲第2号証の1、訳は同甲第2号証の2) 刊行物3:米国特許第3636956号明細書(小林慎子の甲第3号証) 刊行物4:POLYMER 1988, V.29, December p.2229-2234 (小林慎子の甲第4号証) 刊行物5:米国特許第4057537号明細書(小林慎子の甲第1号証) 刊行物1には、「ラクチドポリマー樹脂及びその樹脂を含む組成物に関する」発明が記載され、「私の新規樹脂は、乳酸又はラクチドモノマーのいずれからも製造し得る。乳酸溶液からのこれらの樹脂の製造は、その溶液から水を蒸留除去する濃縮、ヒドロキシ酸の分子間縮合、及び最後に樹脂物体から低分子量化合物類の除去を包含する。ラクチドモノマーからのこの樹脂を製造する場合は、高分子量樹脂の製造と得られた樹脂からの低分子量物質の除去を包含する。」(1頁左欄16~27行)、「私の工程の重要な部分である最終段階は、減圧下で、その特定の圧力下で目的の物質を蒸発除去するに十分な温度での、低分子量物質の除去にある。この工程では、低い圧力が用いられる。それはラクチド(沸点255℃)を主成分とする目的の低分子量物質の沸点を低下させ、できるだけ速やかに除去し、またそれにより高分子量物質の分解を防止する為である。」(1頁左欄48行~1頁右欄5行)、「樹脂から減圧下の加熱によるラクチドモノマーの除去は、樹脂から得られたフィルムの寿命の目立った改善をもたらす。・・・この樹脂のフィルムは、揮発性の低分子量ラクチドが総て除去されている時には、全く水に抵抗性がある。」(2頁左欄18~34行)と記載されている。 刊行物2には、「ポリ(DL-乳酸)」と題して記載され、「ポリ(DL-,L-乳酸)をベースとする種々の薬剤放出方式が記載されているが、・・・例えばクエン酸トリブチルやフタル酸エステルなどの可塑剤には、ポリマーのTgを低下させることによって浸透率を増大させる能力が潜在的にある。」(506頁)と記載されている。 刊行物3には、ポリ乳酸からなる外科用縫合糸についての発明が記載され、この縫合糸には、可塑剤を添加できること、その可塑剤としてグリセリルトリアセテート、エチルベンゾエート、ジエチルフタレートなどが利用されること、可塑剤の添加によりフィラメントはより柔軟になり、より取扱がし易くなること、が、記載されている(7欄6~16行)。 刊行物4には、「ポリラクチドの熱安定性」と題して記載され、「主鎖のヒドロキシル末端基に加えてポリマーに関連する低分子量化合物も高温で分子量を低下させる重要な役割を演じていると考えられる。該低分子量化合物は、水、モノマー、オリゴマー及び重合触媒を包含する。」(1頁上欄)と記載され、精製による効果を示した図9、図10(2232頁)について、精製、すなわち触媒とモノマーの除去により耐熱性が向上することが説明されている(2233頁右欄)。 刊行物5には、L-(-)-ラクチドとε-カプロラクトンの共重合体について記載され、「多くの例では、共重合は、実質的に完全に行われ、未反応モノマーは存在しないが、もしモノマーが重合体中に存在しておれば、望むなら、減圧下に加熱するかまたは未反応モノマーに対して選択的な溶媒を使用する等の通常の方法により容易に除去される。」(5欄下から4行目~6欄4行)と記載されている。 [3-3]対比・判断 (1)本件第1発明について 可塑剤とは、「プラスチック、合成ゴムに塑性を与え、またはそれを増大せしめるために加える物質」(「化学大辞典2」共立出版株式会社、1963年8月25日、縮刷版第1刷発行、「かそざい」の項)としてプラスチック等の成形などの際に塑性を与え、或いはこれを増大させる物質として用いられていることは周知の事項であり、しかも刊行物2,3には、フタル酸エステル等の可塑剤がポリ乳酸に添加されることが記載されているところである。 本件第1発明と刊行物2,3に記載された発明とを対比すると、刊行物2,3には、該組成物中に残存モノマーが当該主成分に対して、0.9%以下であること、該組成物が柔軟性、透明性に優れた分解性のポリマー組成物であることが記載されていない点で相違し、その余の点で実質上一致しているものと認められる。 よって、この相違点について更に検討するに、刊行物1,4,5に記載されているとおり、ポリ乳酸系のポリマー中にモノマーが存在していることは好ましいことではないとの観点から、これを重合後に除去することが記載されており、刊行物2,3に記載されている組成物に関しても、このことは当然にいえることであるから、当該ポリマーからモノマーを極力除去しておくことは当業者にとって容易になし得ることであり、少ない方がいいことが望ましく、存在しないにこしたことはない成分なのであるから、これを0.9%以下とすることに格別の困難性はないといわざるを得ない。 また、「分解性」とはポリ乳酸が本来的に有している性質にすぎず(本件明細書の段落【0006】)、「柔軟性、透明性に優れた」点についても、当該組成物とすることにより必然的に得られる性質を規定したものと認められるから、これらの点の記載の有無をもって、本件第1発明が進歩性を有するということにはならない。 以上のとおりであるから、本件第1発明は、刊行物1~5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとする他はない。 (2)本件第2発明について、 本件第2発明は、本件第1発明において、可塑剤を特定のものに限定したものと認められるところ、その一つである例えばフタル酸エステルは、上記したとおり、刊行物2,3に明記されているものであるから、この発明も結局のところ、刊行物1~5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件第3発明について 本件第3発明は、本件第1発明において、ポリ乳酸がL-乳酸、D-乳酸、またはそれらの混合物から得られるものであるとの限定を付すものであるが、刊行物2には、具体的にポリ(DL-、L-乳酸)として、かかる限定事項が記載されているのであるから、この発明も、刊行物1~5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)本件第4発明は、乳酸以外のヒドロキシカルボン酸がグリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸であるとするものであるが、本件第1発明を引用していることから、ポリマーがポリ乳酸である場合が排除されているわけではなく、そうである以上、本件第1発明と全く同様に刊行物1~5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)まとめ 以上の次第で、本件請求項1~4に係る発明は、いずれも刊行物1~5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、そうである以上、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとせざるを得ない。 [4] むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求は認めることはできず、設定登録時の明細書の請求項1~4に係る発明は、拒絶をしなければならない出願に対して特許されたものであり、平成6年法律第116号附則第14条の規定に基づく、平成7年政令第205号第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-05-01 |
出願番号 | 特願平3-105673 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Z
(C08L)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 中川 淳子、佐々木 秀次 |
特許庁審判長 |
柿 崎 良 男 |
特許庁審判官 |
舩 岡 嘉 彦 中 島 次 一 |
登録日 | 2000-09-01 |
登録番号 | 特許第3105020号(P3105020) |
権利者 | 三井化学株式会社 |
発明の名称 | 熱可塑性分解性ポリマー組成物 |
代理人 | 高橋 勝利 |
代理人 | 森本 義弘 |
代理人 | 鳥居 洋 |
代理人 | 苗村 新一 |