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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60R
管理番号 1093209
異議申立番号 異議2002-70727  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-03-22 
確定日 2004-03-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第3212053号「エアバッグ式乗員保護装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについてした平成15年1月28日付取消決定に対し、東京高等裁判所において取消決定取消の判決(平成15年(行ケ)87号、平成15年12月15日判決言渡)があったので、さらに審理したうえ、次のとおり決定する。 
結論 特許第3212053号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続の経緯
(1)本件特許第3212053号は、平成5年10月25日に出願され、平成13年7月19日に特許権の設定登録がなされた。
(2)その請求項1に係る発明について、特許異議申立人・杉崎筆雄、特許異議申立人・湯口保浩より、それぞれ特許異議の申立てがなされ、平成14年7月9日付けで取消の理由が通知され、その指定期間内である平成14年10月11日に訂正請求がなされ、平成15年1月28日付け(発送日平成14年8月16日)で、「訂正を認める。特許第3212053号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定がなされた。
(3)これに対して、本件特許の特許権者は、平成15年3月14日に、東京高等裁判所に上記決定の取り消しを求める訴え(平成15年行(ケ)87号)を提起するとともに、平成15年6月13日付けで、明細書について訂正を求める訂正審判(訂正2003-39118号)を請求したが、同請求を平成15年8月26日に取り下げ、新たに、平成15年8月26日付けで、明細書について訂正を求める訂正審判(訂正2003-39177号)を請求したところ、平成15年10月29日付けで、「特許第3212053号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決がなされ、平成15年12月15日に、前記平成15年行(ケ)87号特許取消決定取消請求事件について、「特許庁が異議2002-70727号事件について平成15年1月28日にした決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決の言渡があった。

【2】本件発明
本件の請求項1に係る発明は、訂正審決により訂正された訂正明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、その訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「ガス発生用インフレータと、該インフレータが発生するガス圧によって膨張するエアバッグと、該エアバッグを収納するべく車体に固定されたリテーナとを有し、所定値を超える減速度が車両に作用した際に、通常はリッドにて塞がれたインストルメントパネルの開口から、前記リッドを押しのけて前記エアバッグが車室内に膨出するようにしてなるエアバッグ式乗員保護装置であって、
前記リテーナは、互いに対向する一対の壁のそれぞれに略J字形をなすフック部材を有するものであり、
前記リッドは、その外縁部との間に前記インストルメントパネルの開口の互いに対向する内縁部を挟み込むことによって前記インストルメントパネルに対する位置の確定を行うための挟持部としての爪部と、前記フック部材のそれぞれに弾性変形して係合する係合手段として当該リッドの前記開口を臨む蓋部の内面に設けられた係合片とを有するものであり、
前記係合片は、前記リテーナの互いに対向する一対の壁との間の位置調節手段として前記フック部材のそれぞれを遊びをもって受容する孔を備え、
前記一対の壁の一方に対応する前記係合片は、これに対応する側の前記爪部から前記開口の中心側へ向けて離間していることを特徴とするエアバッグ式乗員保護装置。」(以下、「本件発明」という」)

【3】特許異議申立てについて
1.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人・湯口保浩は、米国特許第5135252号明細書(甲第1号証、以下「刊行物1」という)、実願平4-18374号(実開平5-68754号)のCD-ROM(甲第2号証、以下「刊行物2」という)を証拠として提出して、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第2号証(刊行物1ないし刊行物2)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである旨主張している。
特許異議申立人・杉崎筆雄は、特開平3-86653号公報(甲第1号証、以下「刊行物3」という)、実願昭62-175278号(実開平1-81153号)のマイクロフィルム(甲第2号証、以下「刊行物4」という)、米国特許第5211421号明細書(甲第3号証、以下「刊行物5」という)、特開平5-646号公報(甲第4号証、以下「刊行物6」という)、米国特許第5145207号明細書(甲第5号証、以下「刊行物7」という)を証拠として提出して、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証(刊行物3ないし刊行物7)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである旨主張している。

2.引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:米国特許第5135252号明細書(特許異議申立人・湯口保浩の提出した甲第1号証)
刊行物2:実願平4-18374号(実開平5-68754号)のCD-ROM(特許異議申立人・湯口保浩の提出した甲第2号証)
上記の刊行物1及び刊行物2には、それぞれ以下の事項が記載又は示されている。
(1) 刊行物1の記載事項
上記刊行物1には、エアバッグ式乗員保護装置に関して、第1図~第5図と共に、
ア)「折り畳まれたエアバッグ及びエアバッグインフレータ装置がエアバッグハウジング14に封入され、エアバッグハウジング14はエアバッグハウジングブラケット20によって自動車支持構造物18に固定され、センサシステムで衝撃を検出し、エアバッグインフレータ装置が膨張ガスを発生し、即座にエアバッグを乗員の前に膨張させる」旨(第2欄第37行~第3欄第6行)、
イ)「壊れやすいドア36を設けたフランジ34及び乗員側周縁が該フランジ34で囲繞される中空のシュート部分32を含むエアバッグ展開シュート16は、乗員側の計器パネル12に設けられた開口30内に装着され、展開シュート16の一部分である壊れやすいドア36を設けたフランジ34は、第1図に示されるように計器パネル12の外部表面と高さが等しい」旨(第2欄第37行~第3欄第6行)、
ウ)「各々に細長い調整スロット62、64を有する一対のレッグ46、48を備えるコネクタブラケット42、43がエアバック展開シュート16の両側部に各々に固定される」旨(第3欄第24行~第3欄第41行)、
エ)「エアバッグ展開シュート16の両側の各レッグに設けられた細長い調整スロット62、64に、エアバッグハウジング14の互いに対向する一対の壁の外部から延在するキャッチ70、72及び74、76が受け入れられ、エアバックハウジング14とエアバッグ展開シュート16の分離を防止し、かつ位置の変化に対応する」旨(第1欄第46行~第2欄第2行、第3欄第42行~第4欄第5行)
が記載されていると認められる。
ここで、記載事項イ、記載事項ウ及び第4図から、調整スロット62、64を有する各レッグ46、48はコネクタブラケット42、43の一部分であり、コネクタブラケット42、43はエアバック展開シュート16の両側部に各々に固定され、該エアバッグ展開シュート16は壊れやすいドア36を設けたフランジ34を含んでいるので、これらの全部材が一体であると認められる。(以下、一体であるこれら全部材を「蓋部材」という。)
よって、記載事項ア~エ及び第1図~第5図から、上記刊行物1には、
「エアバッグインフレータ装置と、該エアバッグインフレータ装置が発生するガス圧によって膨張するエアバッグと、該エアバッグを収納するべく自動車支持構造物18に固定されたエアバッグハウジング14とを有し、センサシステムで衝撃を検出し、蓋部材にて塞がれた計器パネル12の開口から、前記蓋部材を押しのけて前記エアバッグが乗員の前に膨出するようにしてなるエアバッグ式乗員保護装置であって、
前記エアバッグハウジング14は、互いに対向する一対の壁のそれぞれに凸状のキャッチ70、72及び74、76を有するものであり、
前記蓋部材は、一対のレッグ46、48を備えるコネクタブラケット42、43を有するものであり、
前記一対のレッグ46、48を備えるコネクタブラケット42、43は、細長い調整スロット62、64を備えるエアバッグ式乗員保護装置。」(以下、「刊行物1に記載の発明」という)
が記載されているものと認められる。

(2) 刊行物2の記載事項
上記刊行物2には、図面第1図~第5図と共に、
オ)「次に、従来のエアーバッグモジュールの取り付け構造の具体例を図4に基づき説明する。図4は従来のエアーバッグモジュールの取り付け構造を示す断面図である。図4において、エアーバッグモジュール2は、蓋体3、クリップ18及び取り付け部6を有し、インストルメントパネル4の開口14に嵌入され、調整ブラケット5を介して、車体メンバー8に設けられたメンバーブラケット7に取り付けられている。開口14の断面には段15が設けられ、この段付き開口面に蓋体3が嵌合するようになっている。クリップ18はバネ状でありエアーバッグモジュール2の位置を開口14に対して保持するものである。そして、エアーバッグモジュール2の取り付けに際しては、まずエアーバッグモジュール2をインストルメントパネル4の開口14に挿入し、その後クリップ18などによりインストルメントパネル4と蓋体3との隙間16の合わせが行われ所定の状態に調整される。さらに、蓋体3のフランジ3aの4辺のうち2辺が高精度に成形された突出部3bを有しており、この突出部3bが段15に当接することによって表面段差17が所定精度に維持されつつ仮り止めされる。この合わせ作業に続いて次に述べる取り付け作業が行われる。」(段落番号【0003】)
カ)「この取り付け作業においては、合わせ作業で調整された隙間16及び表面段差17が狂わないことが求められる。ところが、車体メンバー8への取り付けに際して、この隙間16及び表面段差17は、インストルメントパネル4と蓋体3それぞれの精度のみならず、エアーバッグモジュール2と蓋体3との取り付け精度、エアーバッグモジュール2と車体メンバー8との取り付け精度、及びエアーバッグモジュール2、車体メンバー8それぞれの単品精度と多くの精度の積み重ねの影響を受ける。そのため、エアーバッグモジュール2と車体メンバー8との位置関係を設計的に押さえることは困難である。そこで、エアーバッグモジュール2とメンバーブラケット7間に調整ブラケット5を介在させエアーバッグモジュール2の位置を調整可能としている。すなわち、調整ブラケット5は高さ調整部5aと水平位置調整部5bとを有するくの字形板状体であり、高さ調整部5aには取り付け穴9が設けられ、ボルト12によってエアーバッグモジュールの取り付け部6と締結されている。そして、該取り付け穴9は長穴になっており、高さ方向に位置調整可能である。また、水平位置調整部5bには取り付け穴10が設けられメンバーブラケット7とボルト13で締結されているが、該取り付け穴10はボルト13の径に対してバカ穴となっており、水平方向に位置調整可能である。そして、メンバーブラケット7は板状体であり、溶接11により車体メンバー8に固着されている。これらの構造により、前記状態でのエアーバッグモジュール2とメンバーブラケット7の取り付け穴位置、取り付け面角度等のバラツキによるアンマッチを調整ブラケット5で高さ及び水平位置を調整して吸収し、インストルメントパネル4と蓋体3の良好な合わせを維持した状態でエアーバッグモジュール2とメンバーブラケット7が固定される。」(段落番号【0004】)
キ)「【考案の効果】本考案のエアーバッグモジュールの取り付け構造は、上述のように、メンバーブラケット又は調整ブラケットを角度可変としたので、エアーバッグモジュールの取り付けに際して、部品及び取り付けの精度に起因する角度のバラツキがあってもインストルメントパネルと蓋体の合わせ部が狂わない。従って、エアーバッグモジュールと蓋体との取り付け精度、エアーバッグモジュールと車体メンバーとの取り付け精度あるいはそれらの単品精度等に影響されずにインストルメントパネルと蓋体の合わせ部の品質を確保できる。」(段落番号【0013】)
と記載されている。

3.対比・判断
[発明の対比]
本件発明と刊行物1に記載の発明とを対比する。
刊行物1に記載の発明の「エアバッグインフレータ装置」、「自動車支持構造物18」、「エアバッグハウジング14」、「計器パネル12」、「乗員の前」は、それぞれ、本件発明の「ガス発生用インフレータ」、「車体」、「リテーナ」、「インストルメントパネル」、「車室内」に相当する。
そして、刊行物1に記載の発明の「蓋部材」も、本件発明の「リッド」も、通常インストルメントパネル(計器パネル)の開口を塞ぐという意味で、リッドということができる。
また、刊行物1に記載の発明は、「センサシステムで衝撃を検出」するものであり、所定値を越える減速度が車両に作用した際についてまでは示されていないものの、エアバッグ展開のために衝撃検出手段が減速度を検出しその検出値が所定値を越えた際にエアバッグを展開させることが技術常識であるから、刊行物1に記載の発明も、センサシステムで衝撃である減速度を検出しその値が所定値を越えた際にエアバッグを展開することが実質的に行われているといえるので、上記刊行物1に記載の発明の「センサシステムで衝撃を検出し」た際は、本件発明の「所定値を超える減速度が車両に作用した際に」に相当する。
刊行物1に記載の発明の「凸状のキャッチ70、72及び74、76」及び本件発明の「略J字形をなすフック部材」は、いずれのものも、係合する機能を有しているものと認められるから、共に「係合部材」であると認められる。
刊行物1に記載の発明の蓋部材(リッド)の一部を構成する「一対のレッグ46、48を備えるコネクタブラケット42、43」は、弾性変形して、一対のレッグ46、48にそれぞれ設けられた細長い調整スロット62、64に、係合部材としての凸状のキャッチ70、72及び74、76をそれぞれ受け入れて、係合するものと認められるから、係合部材に弾性変形して係合する係合手段であるという意味において、本件発明の「係合部材のそれぞれに弾性変形して係合する係合手段としてリッドに設けられた係合片」に相当する。
記載事項ア及び記載事項エを参酌すると、刊行物1に記載の発明の蓋部材(リッド)のコネクタブラケット42、43の一対のレッグ46、48に設けられたそれぞれの細長い調整スロット62、64は、高さ方向に隙間を有した状態で、エアバッグハウジング14の互いに対向する壁のそれぞれに設けられた係合部材である凸状のキャッチ70、72を、それぞれ受け入れているから、蓋部材(リッド)が、車体に固定されるエアバッグハウジング14(リテーナ)に対して、高さ方向に相対的に移動して車体に対する位置調節を行うことができるものと認められるので、刊行物1に記載の発明の「それぞれの細長い調整スロット62、64」は、本件発明の「リテーナの互いに対向する一対の壁との間の位置調節手段として係合部材のそれぞれを遊びをもって受容する孔」に相当する。
したがって、両者は、
<一致点>
「ガス発生用インフレータと、該インフレータが発生するガス圧によって膨張するエアバッグと、該エアバッグを収納するべく車体に固定されたリテーナとを有し、所定値を超える減速度が車両に作用した際に、通常はリッドにて塞がれたインストルメントパネルの開口から、前記リッドを押しのけて前記エアバッグが車室内に膨出するようにしてなるエアバッグ式乗員保護装置であって、
前記リテーナは、互いに対向する一対の壁のそれぞれに係合部材を有するものであり、
前記リッドは、前記係合部材のそれぞれに弾性変形して係合する係合手段として当該リッドに設けられた係合片を有するものであり、
前記係合片は、前記リテーナの互いに対向する一対の壁との間の位置調節手段として前記係合部材のそれぞれを遊びをもって受容する孔を備えるエアバッグ式乗員保護装置。」
で一致し、次の3点で相違している。
<相違点1>
リテーナ(エアバッグハウジング14)の係合部材が、本件発明は、「略J字形をなすフック部材」であるのに対して、刊行物1に記載の発明は、凸状のキャッチ70、72及び74、76である点。
<相違点2>
リッド(蓋部材)が、本件発明は、「その外縁部との間に前記インストルメントパネルの開口の互いに対向する内縁部を挟み込むことによって前記インストルメントパネルに対する位置の確定を行うための挟持部としての爪部」を有しているのに対して、刊行物1に記載の発明は、そのような構成を有していない点。
<相違点3>
リッド(蓋部材)の係合片(一対のレッグ46、48を備えるコネクタブラケット42、43)が、本件発明は、「係合部材のそれぞれに弾性変形して係合する係合手段としてリッドの開口を臨む蓋部の内面に設けられ、一対の壁の一方に対応する前記係合片は、これに対応する側の爪部から前記開口の中心側へ向けて離間している」のに対して、刊行物1に記載の発明は、弾性変形して係合する係合手段に留まる点。

[相違点についての判断]
上記各相違点について以下で検討する。
<相違点1について>
本件発明の、リテーナの係合部材を、「略J字形をなすフック部材」とした構成は、刊行物1ないし2には記載も示唆もされていないし、その形状とすることが、固着一般の係合部材としては、周知の技術であったとしても、上記フック部材の構成を有することで、本件発明は、リテーナからのリッドの分離が困難になるため、エアバッグ展開時にリッドの飛散を防止することができるというエアバッグの技術分野に独自な効果が得られるものであり、刊行物1に記載の発明に上記周知技術を適用することが容易であるとはいえない。
<相違点2について>
上記一致点で説示したように、刊行物1に記載の発明の蓋部材(リッド)は、エアバッグハウジング14に対して相対的に高さ方向に移動して位置調節ができるので、刊行物1に記載の発明は、車体に固定されたエアバックハウジング14(リテーナ)と計器パネル12(インストルメントパネル)との間に相対的な位置誤差が存在していても、蓋部材(リッド)の前記位置調節機能により前記位置誤差が吸収されて、蓋部材(リッド)のフランジ34が計器パネル12の外部表面と高さが等しくなるように位置確定できるものと認められる。
刊行物2には、記載事項オ、記載事項カ、記載事項キ及び第1図~第5図から、車体メンバー8に対して蓋体3を有するエアバッグモジュール2の位置調節が可能であり、蓋体3の外縁部に設けた挟持部である突出部3b及びクリップ18によりインストルメントパネル4の開口内縁部を挟持することで、エアバッグモジュール2のリッド(塞ぐという意味での蓋部材)である蓋体3部分をインスツルメントパネル4に対して、取り付け精度や単品精度等に影響されないで位置確定できる技術が記載されている。
刊行物1及び刊行物2に記載されたものは、リッド(蓋部材)のインストルメントパネルに対する位置確定を行う場合に、車体のエアバッグ固定部分とリッド(蓋部材)との間の位置を調節することで、車体のエアバッグ固定部分とインストルメントパネルとの間の位置誤差を吸収するという点で共通の機能を有する。
したがって、リッド(蓋部材)のインストルメントパネルに対する位置確定手段として、インストルメントパネルの開口内縁部を挟持する刊行物2に記載のような挟持技術を、刊行物1に記載の発明に適用して、刊行物1に記載の発明の蓋部材(リッド)の一部であるフランジ34の外縁部に挟持部を設けて、挟持部を有するリッドを構成し、上記相違点2で示した本件発明の構成に到ることには格別の困難性はない。
<相違点3について>
上記相違点3に示した本件発明の係合片が、「係合部材のそれぞれに弾性変形して係合する係合手段として当該リッドの開口を臨む蓋部の内面に設けられ、一対の壁の一方に対応する係合片は、これに対応する側の前記爪部から前記開口の中心側へ向けて離間している」構成は、刊行物1ないし刊行物2には、記載も示唆もされておらず、周知の技術であるともいえない。
そして、上記構成を有することにより、本件発明は、係合片を含むリッド全体が弾性変形し易い構造となり、組み付け作業や位置調節作業を、より簡単に行うことができるという独自の効果を有するものと認められる。
これに対して、刊行物1に記載の発明は、弾性変形が容易な構造であると考えられる一対のレッグ46、48を備えるコネクタブラケット42、43が、その形状等からして弾性変形が困難であると考えられる中空の展開シュート部分32を介して、展開シュート16の壊れやすいドア36(リッドの蓋部分)に固着されているから、本件訂正発明のようにリッド全体が弾性変形し易いものとは認められないし、この刊行物1に記載の発明に上記刊行物2に記載の技術や周知の技術を適用しても、上記相違点2で説示したようにリッドに挟持部としての爪部を設ける構成が容易に想到されるに留まり、上記相違点3に記載した本件発明の構成を想到することは、容易であるとはいえない。
<作用効果について>
上記相違点1及び3についての判断で説示したように、上記相違点1及び3に記載した本件発明の構成を有することにより、本件発明は、リテーナにリッドを装着した後に、リテーナからのリッドの分離が困難になるため、エアバッグ展開時にリッドの飛散を防止することができると共に、リッドの組み付けにおいては、係合片を含むリッド全体が弾性変形し易い構造となり、組み付け作業や位置調節作業をより簡単に行うことができるという独自の効果を有する。
そして、本件発明の有するこれらの作用効果は、上記刊行物1ないし2に記載された発明から予測できるものの総和を超える顕著な作用効果であると認められる。

なお、特許異議申立人・杉崎筆雄の提出した甲第1ないし5号証(上記刊行物3ないし7)についても併せて検討すると、上記刊行物7(第3図参照)には、エアバッグ装置において、リテーナの係合部材を略J字形をなすフック要素54,56(フック部材)とする構成は認められるが、このフック部材の適用の容易性について論じるまでもなく、上記相違点3で示した本件発明の「係合部材のそれぞれに弾性変形して係合する係合手段としてリッドの開口を臨む蓋部の内面に設けられ、一対の壁の一方に対応する前記係合片は、これに対応する側の爪部から前記開口の中心側へ向けて離間している」構成は、上記刊行物1ないし7のいずれにも記載も示唆もされていないし、周知技術等を考慮しても容易に想到し得たものとはいえない。
そして、この構成を有することにより、本件発明は、リッドの組み付けにおいて係合片を含むリッド全体が弾性変形し易い構造となり、組み付け作業や位置調節作業をより簡単に行うことができるという独自の効果を有する。

したがって、本件発明は、特許異議申立の証拠として提出された上記刊行物1ないし7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

【4】むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-01-28 
出願番号 特願平5-289955
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60R)
最終処分 維持  
特許庁審判長 八日市谷 正朗
特許庁審判官 鈴木 法明
出口 昌哉
登録日 2001-07-19 
登録番号 特許第3212053号(P3212053)
権利者 本田技研工業株式会社
発明の名称 エアバッグ式乗員保護装置  
代理人 大島 陽一  

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