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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G02C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02C |
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管理番号 | 1096324 |
異議申立番号 | 異議2001-73222 |
総通号数 | 54 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-07-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-11-28 |
確定日 | 2004-04-30 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3171629号「マルチフォーカル眼用レンズおよびその製作方法」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3171629号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 同請求項6ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
【1】手続の経緯 特許第3171629号の請求項1~10に係る発明は、平成3年12月28日に出願され、平成13年3月23日にその設定登録がなされ、その後、申立人 斎藤順一より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年4月5日に特許異議意見書が提出されたものである。 【2】特許異議の申立ての概要 特許異議申立人は、本件の出願前に公知の刊行物である甲第1~8号証、甲第1号証の翻訳文、参考図及び参考資料を提示し、本件特許の請求項1~4に記載の発明は甲第1号証に記載の発明と同一であるか、少なくとも甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、請求項5に記載の発明は、甲第1号証に基づいて、又は、少なくとも、甲第1号証と甲第5~8号証とに記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、さらに、請求項6~10に記載の発明は、甲第1号証に記載の発明に基づいて、又は、少なくとも、甲第1号証と甲第2、3号証とに記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件特許の請求項1~10に係る発明は、特許法第29条第1項又は少なくとも同第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、特許法第113条第2号に該当するものであるから取り消されるべき旨主張している。 【3】本件の発明 本件の請求項1~10に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】眼球或いは眼内に装着または埋殖されるレンズであって、同心円上に複数の度数が存在する同時観察型のマルチフォーカル眼用レンズにして、遠用視力補正域と近用視力補正域およびそれらの間の中間視力補正域を、該遠用視力補正域がレンズの中心部分に位置し、また該近用視力補正域が外周部分に位置するように、それぞれ径方向に所定幅をもって互いに同心的に設け、更に該遠用視力補正域の直径が2~6mmとなるように設定する一方、それら各補正域を、各々径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すと共に、各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状と為し、且つ、前記遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率を、前記中間視力補正域における径方向の度数変化率よりも小さくしたことを特徴とするマルチフォーカル眼用レンズ。 【請求項2】 前記遠用視力補正域が、レンズの光学部全体の面積の10~30%を占めるように、また前記近用視力補正域が、レンズの光学部全体の面積の20~50%を占めるように、構成されている請求項1に記載のマルチフォーカル眼用レンズ。 【請求項3】 前記遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率が、1D(ディオプター)/mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のマルチフォーカル眼用レンズ。 【請求項4】 前記同心的に設けられた遠用視力補正域、中間視力補正域及び近用視力補正域の中心が、レンズ中心から偏心させられている請求項1乃至3に記載のマルチフォーカル眼用レンズ。 【請求項5】 請求項1乃至4の何れかに記載のマルチフォーカル眼用レンズを製作するに際して、前記遠用視力補正域、近用視力補正域および中間視力補正域における度数分布曲線を決定すると共に、レンズにおける一方の側の面形状を決定した後、該レンズにおける他方の側の面形状を、前記度数分布曲線に対応した度数が得られるように、光線追跡法によって定めることを特徴とするマルチフォーカル眼用レンズの製作方法。 【請求項6】 眼球或いは眼内に装着または埋殖されるレンズであって、同心円上に複数の度数が存在する同時観察型のマルチフォーカル眼用レンズにして、遠用視力補正域と近用視力補正域およびそれらの間の中間視力補正域を、該近用視力補正域がレンズの中心部分に位置し、また該遠用視力補正域が外周部分に位置するように、それぞれ径方向に所定幅をもって互いに同心的に設け、更に該近用視力補正域の直径が1~5mmとなるように設定する一方、それら各補正域を、各々径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すと共に、各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状と為し、且つ、前記遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率を、前記中間視力補正域における径方向の度数変化率よりも小さくしたことを特徴とするマルチフォーカル眼用レンズ。 【請求項7】前記近用視力補正域が、レンズの光学部全体の面積の5~20%を占めるように、また前記遠用視力補正域が、レンズの光学部全体の面積の60~90%を占めるように、構成されている請求項6に記載のマルチフォーカル眼用レンズ。 【請求項8】 前記遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率が、1D(ディオプター)/mm以下であることを特徴とする請求項6または7に記載のマルチフォーカル眼用レンズ。 【請求項9】 前記同心的に設けられた近用視力補正域、中間視力補正域及び遠用視力補正域の中心が、レンズ中心から偏心させられている請求項6乃至8に記載のマルチフォーカル眼用レンズ。 【請求項10】 請求項6乃至9の何れかに記載のマルチフォーカル眼用レンズを製作するに際して、前記遠用視力補正域、近用視力補正域および中間視力補正域における度数分布曲線を決定すると共に、レンズにおける一方の側の面形状を決定した後、該レンズにおける他方の側の面形状を、前記度数分布曲線に対応した度数が得られるように、光線追跡法によって定めることを特徴とするマルチフォーカル眼用レンズの製作方法。」 【4】甲第1~8号証刊行物の記載事項 これに対して、当審が通知した取消理由において引用した甲第1~8号証には、以下の事項が記載されている。 【4-1】 甲第1号証: 英国特許第939,016号明細書 甲第1号証第2頁の特許請求の範囲に、「1.コンタクトレンズの外側のレンズ曲率が連続的または実質上連続的に変化することを特徴とする、異なる曲率の同心帯からなる角膜コンタクトレンズ。 2.レンズの中心点(the centre point)と保持周緑部との間でレンズ曲率が連続的に変化することを特徴とする請求項1に請求された角膜コンタクトレンズ。」とあり、第1頁左欄第8~第11行に、「本発明は、異なるレンズ曲率をもつ結果、異なる焦点距離を有し、装着者に異なる距離ではっきりした視野を与える角膜コンタクトレンズに関する。」とあり、第1頁右欄第83行~同第2頁左欄第21行に、「図面には、本発明により構成される角膜コンタクトレンズが、軸断面の尺度を大きく拡大して図示している。レンズの中心鎖線の左に、さまざまな環状線がミリメートルで直径の値を付して示される。コンタクトレンズの想定される全直径は9.3mmであり、その結果、幅0.9mmのレンズ保持周縁部が連続的に延長する。レンズの右半分には、さまざまな環状帯に対応するジオプターが、これらのさまざまな環状帯に対して平均値で示される。図示された例は、曲率が中心(the centre)から保持周緑部へ、2ジオプターから4ジオプターまで連続的に増加するようにしたものである。あるいは、中心の曲率は±0ジオプターか、マイナスの値から始めてもよい。それぞれの場合にたとえば0.5ジオプターずつ増加が付随する環状帯は、互いに異なる幅を有し、たとえば幅を増やしたり減らしたりすることも可能である。レンズ表面の曲率は連続的または実質上連続的であることが不可欠である。本発明にとって、光学中心がコンタクトレンズの数学的中心そのものに置かれるか、またはそこからいくらかはずれるかは、重要ではない。」とある。 また、甲第1号証の添付図面及びその説明によれば、レンズ中心(0 mm)を中心とする直径3.0mmの円内の領域(0~3.0mm)の平均度数が2.0ジオプターである。また、直径3.0mmから直径3.5mmまでの間の輪帯状領域の平均度数が2.25ジオプターである。以下、同様に、3.5~4.0mm→2.5ジオプター、4.0~4.5mm→2.75ジオプター、4.5~5.0mm→3.0ジオプター、5.0~5.5mm→3.5ジオプター、5.5~7.5mm→4.0ジオプター」である。 このことから、上記レンズは、いわゆるプラス度数のレンズであり、中心(the centre)が度数が小さく(2.0ジオプター)、保持周緑部が度数が大きく(4.0ジオプター)、かつ、中心から保持周緑部に向かって、径方向に連続して度数が変化していることがわかる。 すなわち、正の度数の小さい直径3mmの領域は遠くを見るための領域であり、正の度数の大きい直径5.5mmから7.5mmの輪帯状の外周部は近くを見るための領域であり、かつ、これらの中間領域は遠・近の中間を見るための領域であることは明らかである。 【4-2】 甲第2号証(A Colour Atlas of CONTACT LENSES & PROSTHETICS Second Edition 第83頁)及び甲第3号証(特開平2-240625号公報) 甲第2、3号証は、多焦点コンタクトレンズ等においては、遠用視力矯正領域を中心部に設け、外周部に近用視力矯正領域を設けるようにする代わりに、中心部に小さい近用視力矯正領域を設け、外周部に遠用視力矯正領域を設けるようにしたものもあることを記載している。 すなわち、甲第2号証第83頁左欄第8~12行に、「同心二焦点及び多焦点屈折力レンズ-中心部が遠用視力矯正領域で、外周部が近用視力矯正領域であるが、中心部を小さい近用視力領域にし、外周部を遠用視力領域としたものもある。」また、甲第3号証は、多焦点のコンタクトレンズ等に関するものであるが、その第4頁右下欄第18行~同第5頁左上欄第1行(実施例の項)に、「第1図に影をつけて概略的に示したように、有用領域10は、四つの別々の同心環状視野領域、すなわち、遠方視野領域ZVL、二つの中間視野領域ZVI1及びZVI2、及び至近視野領域ZVPから成っている。」とある。ここで、第1図によれば、遠方視野領域ZVLは外周部に設けられ、至近視野領域ZVPは中心部に設けられていることが明らかである。第3図、第3B図によれば、ジオプタPが軸線Aからの距離hの変化に対して滑らかに変化していることが読みとれる。 【4-3】甲第4号証(特開平3-11315号公報) 甲第4号証のFig6~Fig18は、眼球内インプラント(眼内レンズ)に関する実施例の、物体の距離(度数)と入射高(H)との関係を示すグラフである。この図において、横軸にジオプトル(度数)をとり、縦軸に光軸からの距離Hをとっている。遠方視に対応する部分TIと近方視に対応する部分TIIの間に部分TIIIが描かれている。これらグラフから、その直径方向の度数の変化率についてみるに、遠方視に対応する部分TIにおいて、他の部分に比べて度数の変化率が小さいことが読み取れる。 【4-5】甲第5~8号証 甲第5号証(米国特許第5,050,981号明細書(参考文献;特開平6-201990号公報参照))、甲第6号証(日眼会誌93巻5号 平成元年5月10日発行 第539~574頁)、甲第7号証(OPTMETRY AND VISION SCIENCE Vol.67、No.4 第277~282頁(1990))、甲第8号証(OPTMETRY AND VISION SCIENCE Vol.67、No.9 第679~683頁(1990)) 甲第5~8号証は、コンタクトレンズ等の設計の過程で、レンズ曲面形状を光線追跡法を用いて定める方法について記載している。 【5】対比・判断 【5-1】本件発明1と甲第1号証刊行物に記載された発明との対比・判断 甲第1号証の記載からみて、同号証には、「眼球に装着される角膜コンタクトレンズであって、同心帯上に複数の度数が存在する、異なるレンズ曲率をもつ結果異なる焦点距離を有し装着者に異なる距離ではっきりした視野を与え、レンズ中心と保持周緑部との間でレンズ曲率が連続的に変化し、曲率が中心から保持周緑部へ、2ジオプターから4ジオプターに連続的に増加するように度数分布した、径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すと共に、レンズ中心(0mm)を中心とする直径3.0mmの円内の領域(0~3.0mm)の平均度数が2.0ジオプターで、直径3.0mmから直径3.5mmまでの間の輪帯状領域の平均度数が2.25ジオプターで、以下、同様に、3.5~4.0mm→2.5ジオプター、4.0~4.5mm→2.75ジオプター、4.5~5.0mm→3.0ジオプター、5.0~5.5mm→3.5ジオプター、5.5~7.5mm→4.0ジオプターとなる径方向の度数変化率とした、異なる焦点距離を有し装着者に異なる距離ではっきりした視野を与え、光学中心がコンタクトレンズの数学的中心からいくらかはずれることを許容する角膜コンタクトレンズ。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 ここで引用発明の角膜コンタクトレンズは、同時観察型であることは明らかである。そして、引用発明の「眼球に装着される角膜コンタクトレンズ」及び「異なるレンズ曲率をもつ結果異なる焦点距離を有し装着者に異なる距離ではっきりした視野を与える」ことは、本件発明1の「眼球或いは眼内に装着または埋殖されるレンズ」及び「マルチフォーカル」であることに相当する。 よって、両者は「眼球或いは眼内に装着または埋殖されるレンズであって、複数の度数が存在する、径方向の度数変化率を有する同時観察型のマルチフォーカル眼用レンズ。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本件発明1は同心円上に複数の度数が存在し、各補正域を径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すと共に、各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状と為しているのに対して、引用発明は同心帯上に複数の度数が存在し、径方向に連続して変化する度数分布曲線を示す点。 相違点2:本件発明1は遠用視力補正域と近用視力補正域およびそれらの間の中間視力補正域を、該遠用視力補正域がレンズの中心部分に位置し、また該近用視力補正域が外周部分に位置するように、それぞれ径方向に所定幅をもって互いに同心的に設け、該遠用視力補正域の直径が2~6mmとなるように設定し、それら各補正域を、各々径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すと共に、各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状と為し、且つ、前記遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率を、前記中間視力補正域における径方向の度数変化率よりも小さくしているのに対して、引用発明は、レンズの中心と保持周緑部との間で、レンズ曲率がレンズの中心から保持周緑部へ、2ジオプターから4ジオプターに連続的に増加するように、レンズ中心(0mm)を中心とする直径3.0mmの円内の領域(0~3.0mm)の平均度数が2.0ジオプターで、直径3.0mmから直径3.5mmまでの間の輪帯状領域の平均度数が2.25ジオプターで、以下、同様に、3.5~4.0mm→2.5ジオプター、4.0~4.5mm→2.75ジオプター、4.5~5.0mm→3.0ジオプター、5.0~5.5mm→3.5ジオプター5.5~7.5mm→4.0ジオプターとなる度数分布を有する点で相違する。 相違点1について検討するに、甲第1号証には、第1頁右欄第83行~同第2頁左欄第17行に、「図面には、本発明により構成される角膜コンタクトレンズが、軸断面の尺度を大きく拡大して図示している。レンズの中心鎖線の左に、さまざまな環状線がミリメートルで直径の値を付して示される。コンタクトレンズの想定される全直径は9.3mmであり、その結果、幅0.9mmのレンズ保持周縁部が連続的に延長する。レンズの右半分には、さまざまな環状帯に対応するジオプターが、これらのさまざまな環状帯に対して平均値で示される。図示された例は、曲率が中心(the centre)から保持周緑部へ、2ジオプターから4ジオプターまで連続的に増加するようにしたものである。あるいは、中心の曲率は±0ジオプターか、マイナスの値から始めてもよい。それぞれの場合にたとえば0.5ジオプターずつ増加が付随する環状帯は、互いに異なる幅を有し、たとえば幅を増やしたり減らしたりすることも可能である。レンズ表面の曲率は連続的または実質上連続的であることが不可欠である。」と記載され、図に示されたジオプターの値は多数の環状帯に対して平均値で表されたものであるから、図上の異なる度数値を示す箇所の間には複数の環状帯が含まれていることは明らかであり、拡大された図の描き方をみても、径方向にジオプター、すなわち曲率が滑らかに変化していることが読みとれる。 したがって、本件発明1の同心円上に複数の度数が存在し、各補正域を径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すと共に、各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状と為していることと、引用発明の同心帯上に複数の度数が存在し、径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すこととの間には、実質的な相違が認められない。 この点に関し、特許権者は特許異議意見書において、『この刊行物1は、確かに、角膜コンタクトレンズについて明らかにしておりますが、その実施例でも、「various annular zones 」なる表現が用いられている如く、それは、concentric zones(同心帯)であるannular zones(環状帯)の複数にて構成される、コンセントリック型2焦点(バイフォーカル)レンズ、3焦点(トリフォーカル)レンズの延長線上にある、多焦点(マルチフォーカル)レンズと考えるべきものであって、本件発明の対象とする、径方向に連続的に度数分布が変化するプログレッシブ型マルチフォーカルレンズとは、技術的に一線の画されるものであります。』と主張するが、上記理由により当該主張は認められない。 また、引用発明が本件発明1の対象とする径方向に連続的に度数分布が変化するプログレッシブ型マルチフォーカルレンズではないと仮定しても、甲第3、4号証において、径方向に度数分布が連続的に変化するマルチフォーカル眼用レンズが公知であるから、径方向に連続的に度数分布が変化するプログレッシブ型とした点に格別の創作力を要したとは認められない。 次に、相違点2を検討するに、引用発明のマルチフォーカル眼用レンズは、レンズ曲率が中心から保持周緑部へ、2ジオプターから4ジオプターまでの範囲で連続的に増加するのであるから、平均2ジオプターの領域(直径3.0mmの円内)が遠用視力補正域に相当する領域であり、保持周緑部に近い平均4ジオプターの領域(直径5.5mm以上7.5mmの輪帯状の領域)が近用視力補正域に相当する領域であることは明らかである。そして、それらの間の領域が、本件発明1の中間視力補正域に対応することも明らかである。してみると、引用発明の遠用視力補正域に相当する領域の直径は3mmであり、各領域は各々径方向に連続して変化する度数分布曲線を示し、各領域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状(この点は、相違点1についての判断を参照)である。 引用発明では、レンズの中心から保持周辺部へ2ジオプターから4ジオプターまでの範囲で連続的に増加するから、レンズの中心の度数は2ジオプターであり、直径3mmの遠用視力補正域に相当する領域の平均のジオプターが2ジオプターと図示されているのであるから、遠用視力補正域における径方向の度数変化率はほぼ0とみなしてよい。同様に、レンズの中心から保持周辺部へ2ジオプターから4ジオプターまでの範囲で連続的に増加するから、保持周辺部の近傍で度数は4ジオプターであり、直径5.5mm以上7.5mmの輪帯状の近用視力補正域に相当する領域の平均のジオプターが4ジオプターと図示されているから、近用視力補正域における径方向の度数変化率もほぼ0とみなしてよい。 また、引用発明の中間視力補正域に相当する領域は直径3.0mm~5.5mmの部分であるから、その度数変化率を、図の直径5.0mm~5.5mmのほぼ中間の円(直径5.25mm)上での度数(3.5ジオプター)と、直径3.0mm~3.5mmのほぼ中間の円(直径3.25mm)上での度数(2.25ジオプター)とに基づいて、上記2つの円周上の点の距離((5.25-3.25)/2)と2つの円上の度数の差(3.5-2.25)とから中間視力補正域近傍の度数変化率を推定すると、約1.25ジオプター/mmとなり、引用発明においても、遠用視力補正域および近用視力補正域に相当する領域における径方向の度数変化率(ほぼ0)は中間視力補正域における径方向の度数変化率(約1.25)よりも小さくなっていることが分かる。 なお、直径5.5mm~7.5mmの輪帯のほぼ中間の円(直径6.5mm)上の度数はその輪帯の平均の度数である4ジオプターであり当該輪帯の内側の輪帯(直径5.0mm~5.5mm)のほぼ中間の円(直径5.25mm)上の度数はその輪帯の平均の度数である3.5ジオプターであるから、上記2つの円上の点の距離((6.5-5.25)/2)と2つの円上の度数の差(4-3.5)とから近用視力補正域近傍の度数変化率を推定することもでき、この推定値は、約0.8ジオプター/mmとなる。同様に直径3.0mmの輪帯のほぼ中間の円(直径1.5mm)上の度数はその輪帯の平均の度数である2ジオプターであり当該輪帯の外側の輪帯(直径3.0mm~3.5mm)のほぼ中間の円(直径3.25mm)上の度数はその輪帯の平均の度数である2.25ジオプターであるから、上記2つの円上の点の距離((3.25-1.5)/2)と2つの円上の度数の差(2.25-2.0)とからから遠用視力補正域近傍の度数変化率を推定することもでき、この推定値は、約0.29ジオプター/mmである。 なお、甲第1号証には、角膜に接する側のジオプターが示されていないが、周知のレンズのように一定の値であるものと認められるので上記のとおり、度数変化率が推定される。 したがって、引用発明のレンズの領域を、本件発明1のように3種類の補正域として定義し、それら補正域の度数変化率の関係を規定し、補正域の直径を規定することは、引用発明に基づいて当業者が容易に定義又は規定できたものと認められる。 そして、本件発明1の構成が奏する効果は甲第1、3、4号証の記載から予測される範囲のもである。 よって、本件発明1は、甲第1、3、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 【5-2】本件発明2と甲第1号証刊行物に記載された発明との対比・判断 本件発明2は、本件発明1の構成に、さらに、「前記遠用視力補正域が、レンズの光学部全体の面積の10~30%を占めるように、また前記近用視力補正域が、レンズの光学部全体の面積の20~50%を占める」構成を付加したものである。 そこで引用発明の、遠用視力補正域と近用視力補正域のレンズの光学部全体の面積に占める割合を検討する。引用発明において、レンズの光学部全体の直径は7.5mmであり、遠用視力補正域に相当する領域は、直径3mmの円形部であり、近用視力補正域に相当する領域は、直径5.5mm~7.5mmの輪帯である(【5-1】参照)。よって、前記遠用視力補正域に相当する領域がレンズの光学部全体の面積に占める割合は、((3×3)/(7.5×7.5))×100(%)、また、近用視力補正域に相当する領域が、レンズの光学部全体の面積に占める割合は、((7.5×7.5-5.5×5.5)/(7.5×7.5))×100(%)となり、本件発明2の範囲に含まれる値である。 よって、引用発明と本件発明2とを対比すると、前記「【5-1】」に記載した相違点1及び相違点2において相違し、その余の点で一致し、相違点1及び相違点2についての判断は、前記「【5-1】」に記載したとおりであるから、本件発明2は、甲第1、3、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 【5-3】本件発明3と甲第1号証刊行物に記載された発明との対比・判断 本件発明3は、本件発明1の構成に、さらに、「前記遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率が、1D(ディオプター)/mm以下であること」を付加したものである。 そこで引用発明の、遠用視力補正域と近用視力補正域の度数変化率を検討する。引用発明において、これら補正域の度数変化率は「【5-1】」に記載したようにほぼ0とみてよい。また、直径5.5mm~7.5mmの輪帯のほぼ中間の円(直径6.5mm)上の度数である4ジオプターと、当該輪帯の内側の輪帯(直径5.0mm~5.5mm)のほぼ中間の円(直径5.25mm)上の度数である3.5ジオプターとから近用視力補正域の度数変化率を推定し、同様に、直径3.0mmの輪帯のほぼ中間の円(直径1.5mm)上の度数である2ジオプターと、当該輪帯の外側の輪帯(直径3.0mm~3.5mm)のほぼ中間の円(直径3.25mm)上の度数である2.25ジオプターとから遠用視力補正域の度数変化率を推定した場合にも、それらの領域の径方向の度数変化率は、1D(ディオプター)/mm以下である。 (「【5-1】」参照) よって、引用発明と本件発明3とを対比すると、前記「【5-1】」に記載した相違点1及び相違点2において相違し、その余の点で一致し、相違点1及び相違点2についての判断は、前記「【5-1】」に記載したとおりであるから、本件発明3は、甲第1、3、4号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 【5-4】本件発明4と甲第1号証刊行物に記載された発明との対比・判断 本件発明4は、本件発明1の構成に、さらに、「前記同心的に設けられた遠用視力補正域、中間視力補正域及び近用視力補正域の中心が、レンズ中心から偏心させられている」ことを付加したものである。 ここで引用発明は、光学中心がコンタクトレンズの数学的中心からいくらかはずれることを許容するのであるから、引用発明は、遠用視力補正域に相当する領域、中間視力補正域に相当する領域及び近用視力補正域に相当する領域の中心が、レンズ中心から偏心させられている角膜コンタクトレンズを含むものである。 よって、引用発明と本件発明4とを対比すると、前記「【5-1】」に記載した相違点1及び相違点2において相違し、その余の点で一致し、相違点1及び相違点2についての判断は、前記「【5-1】」に記載したとおりであるから、本件発明4は、甲第1、3、4号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 【5-5】本件発明5と甲第1号証刊行物に記載された発明との対比・判断 本件発明5は、本件発明1のカテゴリーを物から製作方法に変更し、さらに、「マルチフォーカル眼用レンズを製作するに際して、前記遠用視力補正域、近用視力補正域および中間視力補正域における度数分布曲線を決定すると共に、レンズにおける一方の側の面形状を決定した後、該レンズにおける他方の側の面形状を、前記度数分布曲線に対応した度数が得られるように、光線追跡法によって定めること」を付加したものである。ここで、発明のカテゴリーの変更自体は何ら技術的差異をもたらすものではない。 したがって、両者を比較すると、前記相違点1及び2で相違し、さらに引用発明は、一方の側(角膜が接する側)の面形状が決定され、前記遠用視力補正域に相当する領域、近用視力補正域に相当する領域および中間視力補正域に相当する領域における度数分布曲線が決定されてはいるものの、「該レンズにおける他方の側の面形状を、前記度数分布曲線に対応した度数が得られるように、光線追跡法によって定めること」が記載されていない点(相違点3)で相違する。 相違点3を検討するに、甲第5~8号証に記載されているように、コンタクトレンズ等の設計の過程で、レンズ曲面形状を光線追跡法を用いて定めることは周知である。そして当該周知の光線追跡法を、角膜が接する側から遠い側の面、すなわち他方の面の形状を定めるために適用することは当業者が容易に想到できたものと認められる。 ここで、相違点1及び相違点2についての判断は、前記「【5-1】」に記載したとおりであるから、本件発明5は、甲第1、3、4号証刊行物に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 【5-6】本件発明6と甲第1号証刊行物に記載された発明との対比・判断 前記【5-1】で説明したように、引用発明の角膜コンタクトレンズは、同時観察型であることは明らかである。そして、引用発明の「眼球に装着される角膜コンタクトレンズ」及び「異なるレンズ曲率をもつ結果異なる焦点距離を有し装着者に異なる距離ではっきりした視野を与える」ことは、本件発明1の「眼球或いは眼内に装着または埋殖されるレンズ」及び「マルチフォーカル」であることに相当する。 よって、両者は「眼球或いは眼内に装着または埋殖されるレンズであって、複数の度数が存在する、径方向の度数変化率を有する同時観察型のマルチフォーカル眼用レンズ。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1: 本件発明6は同心円上に複数の度数が存在し、径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すと共に、各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状と為しているのに対して、引用発明は同心帯上に複数の度数が存在し、径方向に連続して変化する度数分布曲線を示す点。 相違点4:本件発明6は遠用視力補正域と近用視力補正域およびそれらの間の中間視力補正域を、該近用視力補正域がレンズの中心部分に位置し、また該遠用視力補正域が外周部分に位置するように、それぞれ径方向に所定幅をもって互いに同心的に設け、該近用視力補正域の直径が1~5mmとなるように設定し、それら各補正域を、各々径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すと共に、各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状と為し、且つ、前記遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率を、前記中間視力補正域における径方向の度数変化率よりも小さくしているのに対して、引用発明は、レンズの中心と保持周緑部との間で、レンズ曲率がレンズの中心から保持周緑部へ、2ジオプターから4ジオプターに連続的に増加するようにレンズ中心(0mm)を中心とする直径3.0mmの円内の領域(0~3.0mm)の平均度数が2.0ジオプターで、直径3.0mmから直径3.5mmまでの間の環状領域の平均度数が2.25ジオプターで、以下、同様に、3.5~4.0mm→2.5ジオプター、4.0~4.5mm→2.75ジオプター、4.5~5.0mm→3.0ジオプター、5.0~5.5mm→3.5ジオプター、5.5~7.5mm→4.0ジオプターとなる度数分布を有する点で相違する。 相違点1について検討するに、【5-1】において説明したように、両者に実質的な相違が認められない。 なお、引用発明が本件発明の対象とする径方向に連続的に度数分布が変化するプログレッシブ型マルチフォーカルレンズではないと仮定しても、甲第3、4号証において、径方向に度数分布が連続的に変化するマルチフォーカル眼用レンズが公知であるから、径方向に連続的に度数分布が変化するプログレッシブ型とした点に格別の創作力を要したとは認められない。 次に、相違点4を検討するに、引用発明のマルチフォーカル眼用レンズは、レンズ曲率が中心から保持周緑部へ、2ジオプターから4ジオプターに連続的に増加するのであるから、中央部の平均2ジオプターの領域(直径3.0mmの円内)が遠用視力補正域に相当する領域であり、保持周緑部に近い平均3.5~4ジオプターの領域(直径5.5mm以上7.5mmの輪帯状の領域)が近用視力補正域に相当する領域であることは明らかである。そして、それらの間の領域が、本件発明6の中間視力補正域に対応することも明らかである。 してみると、両者は、近用視力補正域に相当する領域と遠用視力補正域に相当する領域の、レンズ上の配置が異なっており、本件発明6においては、上記配置、近用視力補正域の直径を1~5mmとすること、及び各補正域における度数変化率の関係を特定することにより明細書記載の効果を奏するものと認められる。 そこで、甲第2~8号証を検討しても、上記配置、近用視力補正域の直径を1~5mmとすること、及び各補正域における度数変化率の関係を特定することについて記載がない。甲第2、3、4号証には、近用視力補正域に相当する領域を中央部に、遠用視力補正域に相当する領域を周辺部に配置するものが示されているが、遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率を、中間視力補正域における径方向の度数変化率よりも小さくする点について記載がなく、添付された図を参照してもそれを示唆するとは認められない。なお、甲第4号証のものは、遠用視力補正域における径方向の度数変化率が中間視力補正域における径方向の度数変化率よりも小さくなっているが、近用視力補正域における径方向の度数変化率が中間視力補正域における径方向の度数変化率よりも小さくなっているとはいえない。 よって、本件発明6は甲第1~8号証に記載された発明とは認められず、また、それらに基づいて当業者が容易に発明できたものとも認められない。 【5-7】本件発明7~10と甲第1号証刊行物に記載された発明との対比・判断 本件発明7~10は、本件発明6の構成に、さらに、発明を特定する技術事項を付加したものである。したがって、本件発明7~10と引用発明とを対比すると、少なくとも前記相違点4が存在する。 よって、【5-6】に記載した理由によって、本件発明7~10は甲第1~8号証に記載された発明とは認められず、また、それらに基づいて当業者が容易に発明できたものとも認められない。 【6】むすび 以上のとおり、本件の請求項6~10に係る発明は、異議申立の理由及び証拠方法によっては取り消すことができず、他に取り消すべき理由を発見しない。 また、本件の請求項1~5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対して特許されたものである。 よって、本件の請求項1~10に係る発明の特許について、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-07-16 |
出願番号 | 特願平3-358651 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZC
(G02C)
P 1 651・ 113- ZC (G02C) |
最終処分 | 一部取消 |
前審関与審査官 | 峰 祐治 |
特許庁審判長 |
森 正幸 |
特許庁審判官 |
國島 明弘 北川 清伸 |
登録日 | 2001-03-23 |
登録番号 | 特許第3171629号(P3171629) |
権利者 | 株式会社メニコン |
発明の名称 | マルチフォーカル眼用レンズおよびその製作方法 |
代理人 | 中島 三千雄 |