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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G11B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G11B
審判 全部申し立て 発明同一  G11B
管理番号 1099703
異議申立番号 異議2000-70639  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-14 
確定日 2004-07-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第2935418号「記録媒体の光学読取装置」(発明の数1)に対する特許異議申立事件についてされた平成14年5月31日付け決定に対し、東京高等裁判所において取消決定を取り消すとの判決(平成14年(行ヶ)第533号、平成16年4月20日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり決定する。 
結論 特許第2935418号の特許(発明の数1)を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2935418号の発明(発明の数1)は、昭和62年3月31日に出願された特願昭62-502219号(パリ条約による優先権主張外国庁受理1986年4月11日仏国を国際出願日とする出願)の一部を平成8年7月8日に新たな特許出願(特願平8-178194号)としたものであって、平成11年6月4日にその特許の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人池田繁次、特許異議申立人岡部洋一から、それぞれ特許異議の申立てがなされたところ、取消理由が通知され、平成14年4月19日付けで訂正請求がなされ、平成14年5月31日にこの訂正を認めて取消決定され、平成14年10月18日に当該取消決定の取消を求める訴えが東京高等裁判所に提起された。
その後、平成15年1月15日付けで本件特許について訂正の審判が請求され、平成15年2月19日に訂正を認める審決がなされ、当該審決が確定し、平成16年4月20日に東京高等裁判所において、前記取消決定を取り消す旨の判決があったものである。

第2 本件特許発明
本件特許発明(発明の数1)の要旨は、平成15年2月19日に本件特許について訂正の審判が請求され、その後確定した訂正特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載されたとおりの、以下のものである(以下、「本件特許発明」という。)。

「トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置であって、
読取ビーム(F1,F2,F3,F4)を放射するレーザ源(1)と、
少なくとも第1及び第2の光検出デバイス(6,7)と、
前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された位相格子ビーム分離器(2)であって、該位相格子ビーム分離器(2)により偏向されないビームを前記読取ゾーンに読取ビームを放射し、戻って来る検出ビームを受け取り、該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る、該位相格子ビーム分離器(2)と、
前記位相格子ビーム分離器と前記読取ゾーンとの間に配置された集束デバイス(4)とを備え、
前記光検出デバイス(6,7)は、前記レーザ源から放射される読取ビームの伝搬方向(YY’)に垂直な平面上に該レーザ源の両側に該レーザ源に近接して配置されており、前記第1及び第2の光検出デバイスは、記録媒体の平面に関し共役でない同一の面に配置され、前記位相格子ビーム分離器は、前記検出ビームを受け取って前記光検出デバイスに同じ強度の回折ビームを提供し、各回折ビームは該位相格子の共通のエリアから放射されることを特徴とする記録媒体の光学読取装置。」

第3 特許異議申立てについて
1.特許異議申立人池田繁次は、以下の甲第1号証を提出し、訂正前の特許請求の範囲に記載された発明(発明の数1)は、甲第1号証の出願の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものである旨、また、以下の参考資料を提出し、訂正前の特許請求の範囲に記載された発明(発明の数1)は、特許36条第3項及び第4項の規定に違反するから特許を取り消すべきの旨を主張する。

甲第1号証:特願昭61-243281号(特開昭62-97141号公報)
参考資料:「光メモリー光磁気メモリー総合技術集成」(第94,95頁) 発行所、サイエンスフォーム 発行日、昭和58年10月31日

2.特許異議申立人岡部洋一は、以下の甲第1号証を提出し、訂正前の特許請求の範囲に記載された発明(発明の数1)は、甲第1号証の出願の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものである旨、また、訂正前の特許請求の範囲に記載された発明(第5,6,9~11、16,17,20~24項)、(発明の数1)については、以下の甲第2号証及び甲第3号証の周知技術を参酌すると、甲第1号証の出願の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものである旨主張する。さらに、訂正前の特許請求の範囲に記載された発明(発明の数1)は、特許法第36条3項及び第4項(異議申立人は、特許法36条6項としているが、同条3項及び4項の誤りであることは明らか。)の規定に違反するから取り消すべき旨を主張する。

甲第1号証:特願昭61-243281号(特開昭62-97141号公報)
甲第2号証:特開昭56-57013号公報
甲第3号証:特開昭60-171644号公報

3.特許法第29条の2違反について
異議申立人の提出した各甲号証を、重複等を考慮して、以下のように整理して検討する。
引用例1:特願昭61-243281号(特開昭62-97141号公報)(以下、「先願明細書」という。)
引用例2:特開昭56-57013号公報
引用例3:特開昭60-171644号公報

(1)先願明細書には、次の技術事項が記載されている。
イ.「1.放射線源と、情報平面に走査スポットを形成するため放射線源により放射された放射線ビームを集束する対物系と、前記情報平面により反射されたビーム通路に、前記放射線ビームを2個のサブビームに分割するため配設された回折格子とを具え、該回折格子は2個の格子部分並びに2個の検出器対を具える放射線感知検出系とを具え、各検出器対は、1個のサブビームと関連するようにした情報平面を光学的に走査する光学走査装置において、前記格子部分は同一の格子間隔を有し、第1格子部分の格子線は2個の格子部分の境界線に対し第1の角度で延在し、第2格子部分の格子線は第1の角度と等しいが前記境界線の反対側に第2の角度で延在し、各検出器対における検出器の間の境界線は、関連する格子部分の格子線を横切って延在するようにしたことを特徴とする光学走査装置。
2.前記検出器がフォトダイオードである光学走査装置において、フォトダイオードを単一の基板に集積するようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の光学走査装置。
3.前記放射線源がダイオードレーザである光学走査装置において、前記ダイオードレーザである光学走査装置において、前記ダイオードレーザおよび前記フォトダイオードを単一の基板に集積するようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の光学走査装置。」(特許請求の範囲)
ロ.「第1図は、放射線(光線)を反射する情報平面2を有する光学的記録担体1の半径方向の縦断面図である。この情報平面に配置されたトラック3は第1図の図面平面を横切って延在する。情報平面は、放射線源4、例えばダイオードレーザにより放出されたビーム5により走査される。このビームは、単一レンズにより図式的に表現される対物(レンズ)系6により集束され、情報平面に小さな放射線スポット7を形成する。記録担体1は回転軸8につき回転するため、トラック3は走査され、読取ビームは、このトラックに含まれる情報により変調される。この記録担体1と、放射線源4および対物系6を具える読取り装置とを、放射方向に相互に移動させることにより、情報平面全体を走査している。」(公報第3頁左上欄第2行~第16行)
ハ.「これがため、本発明の装置では反射ビームを2個のサブビームに分割するビームスプリッタを設け、さらに、例えば一直線上に配設された、例えば4個の検出器を設ける。第1に一対の検出器は第1のサブビームと共働し、第2の一対の検出器は第2のサブビームと共働する。これらの検出器の出力信号は処理されて、特にフォーカスサーボ信号を形成する。
「ノイエス アウス デア テクニク」第6号・・・・・・・・・ように、ビーム分離およびビーム分割を単一素子、即ち透過形回折格子により行うことができる。この回折格子は入射ビームを回折されていない零次ビームと、複数の回折された1次ビームおよび高次ビームに分割する。この格子パラメータ、特に格子間隔、格子の溝の深さおよび格子の溝の形状を、入射光の大部分が回折されて1次ビームの1つになるように、選択することができる。格子パラメータの1つが各々異なる2個の格子部分に回折格子が分割されるため、格子部分により形成された1次ビームは異なる配向を有し、換言すれば、ビームを分割することができる。
本発明により、回折格子9は、2個の格子部分(Sub-grantings)10および11を具え、これら格子部分は、同一の格子間隔を有するが、格子細条(即ち格子線)13および14が格子部分10および11の間の境界線26に対し夫々β1およびβ2の角度で延在する。」(公報第3頁右上欄第8行~左下欄第17行)
ニ.「サブビーム5aおよび5bの通路において、放射線感知検出器16,17および18,19を適宜配設して、情報平面2にビーム5が正確に集束される場合に、サブビーム5aおよび5bにより形成された放射線スポット20および21が、検出器16,17および18,19夫々に対し対称に配置されるようにする。」(公報第3頁右下欄第2行~第7行)
ホ.「検出器16,17,18および19の出力信号はS16,S17,S18およびS19で夫々現される場合に、フォーカス・サーポ信号Srは、
Sr=(S16+S19)-(S17+S18)で与えられる。
読取る情報に比例する信号または情報S1は、
S1=S16+S17+S18+S19で与えられる。
第1図に示されるように、2個の格子部分10および11の境界線は、読取るべきトラック3の方向に対し平行に延在するならば、同一の検出器によりトラッキングエラー信号Srを発生することができる。この信号は
Sr=(S16+S17)-(S18+S19) で与えられる。」(公報第4頁左上欄第1行~第15行)
ヘ.「最後に、検出器対16,17および18,19を互いに近接させて配置して、4個の検出器を1個の基板に集積し得るようにすることができる。放射線源がダイオードレーザである場合には、このダイオードレーザを第1図にしめすように、同一の基板25に形成することができる。」(公報第4頁右上欄第10行~第16行)、検出器対16,17および18,19は、放射線源6の発行面よりもディスクから離れた位置にあることが、図1に記載されている。

(2)対比・判断
A.本件特許発明と先願明細書に記載された事項を対比すると、先願明細書の「記録担体」は、本件特許発明の「記録媒体」に相当し、先願明細書の「記録担体1は回転軸8につき回転するため、トラック3は走査され、読取ビームは、このトラックに含まれる情報により変調される。この記録担体1と、放射線源4および対物系6を具える読取り装置とを、放射方向に相互に移動させることにより、情報平面全体を走査している。」(摘示ロを参照))は、記録担体のトラックに追従操作及び焦点合わせおこない、記録担体から情報を読取る装置を記載しているから、本件特許発明の「トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置」に相当する。
B.先願明細書の「放射線源」「読取ビーム」「2個の検出器対を具える放射線感知検出系」及び「放射線ビームを集束する対物系」は、それぞれ本件特許発明の「レーザ源」「読取ビーム」「少なくとも第1及び第2の光検出デバイス」「集束デバイス」に相当し、
先願明細書の「2個の検出器対を具える放射線感知検出系」は、「放射線源」の発行面よりもディスクから離れた位置にあるから共役でなく、かつ「1個の基板に集積し得るようにすることができる。放射線源がダイオードレーザである場合には、このダイオードレーザを第1図にしめすように、同一の基板25に形成」(前記摘示(ニ)(ヘ))に配置されており、本件特許発明の「少なくとも第1及び第2の光検出デバイス」が、放射線源から放射される読取ビームの伝搬方向に垂直な平面上に該放射線源の両側に放射線に近接して、記録媒体の平面に関し共役でない同一の面に配置されている点でも一致する。
C.先願明細書の読み取りビームが放射される「記録担体」と「放射線源」の間の空間は、本件特許発明の「読取ゾーン」に相当する。
D.先願明細書には、情報平面により反射されたビーム通路に反射ビームを2個のサブビーム(本件特許発明の「回折ビーム」に相当)に分割し、第1のサブビームは第1の一対の検出器へ、第2のサブビームは第2の一対の検出器へとビームを2つに分割する回折格子を具えること点が前記摘示(イ)、(ニ)に大略記載されているが、この点は、本件特許発明の「前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された位相格子ビーム分離器(2)であって、該位相格子ビーム分離器(2)により偏向されないビームを前記読取ゾーンに読取ビームを放射し、戻って来る検出ビームを受け取り、該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る、該位相格子ビーム分離器(2)」に相当するものである。

上記AからDを総合すると、両者は、以下の発明で一致する。
「トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置であって、
読取ビーム(F1,F2,F3,F4)を放射するレーザ源(1)と,
少なくとも第1及び第2の光検出デバイス(6,7)と、
前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された位相格子ビーム分離器(2)であって、該位相格子ビーム分離器(2)により偏向されないビームを前記読取ゾーンに(読取ビームを)放射し、戻って来る検出ビームを受け取り、該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る、該位相格子ビーム分離器(2)と、
前記位相格子ビーム分離器と前記読取ゾーンとの間に配置された集束デバイス(4)とを備え、
前記光検出デバイス(6,7)は、前記レーザ源から放射される読取ビームの伝搬方向(YY’)に垂直な平面上に該レーザ源の両側に該レーザ源に近接して配置されており、前記第1及び第2の光検出デバイスは、記録媒体の平面に関し共役でない同一の面に配置され、前記位相格子ビーム分離器は、前記検出ビームを受け取って前記光検出デバイスに同じ強度の回折ビームを提供し、各回折ビームは該位相格子の共通のエリアから放射されることを特徴とする記録媒体の光学読取装置。」

一方、本件特許発明においては、検出ビームを受け取って放射される各回折ビームが、位相格子の共通のエリアから放射されるのに対して、先願明細書に記載のものは、各回折ビームは位相格子の別のエリアから放射されるものである点で相違する。

したがって、本件特許発明は先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。

4.特許法第36条第3項及び第4項違反について
本件特許発明(発明の数1)は、平成15年2月19日に本件特許について訂正の審判が請求され、その後確定した訂正特許明細書及び図面のとおりであり、本件明細書の記載に不備はない。

第4 取消理由通知について
1.本件特許発明(発明の数1)は、刊行物1ないし刊行物2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項に違反してなされたものである、とするものである。
刊行物
1.特開昭60-129942号公報
2.特開昭60-171644号公報

2.刊行物に記載された事項
〈刊行物1:特開昭60-129942号公報〉
イ.「半導体レーザ光源と、該光源の像を記録媒体上に絞り込む結像レンズとを具備し、該光源の両脇に2分割した光検知器をそれぞれ配置し、該光源と結像レンズの間に、該結像レンズを経て来た該記録媒体からの反射光を該反射光の光軸を境に2分割して、該光検知器上に導くビーム分割素子を配置したことを特徴とする光ヘッド装置。」(特許請求の範囲)
ロ.「〔発明の概要〕
すなわち、本発明による光ヘッドは、半導体レーザ光源のすぐ脇に、自動焦点用、あるいはトラッキング用の光検知器をハイブリッドあるいはモノリシック配置し、光ディスクからの反射信号光を偏向プリズムとλ/4波長板あるいはハーフプリズムのみにより該光検知器に導くものである。
〔発明の実施例〕
以下、本発明の実施例を説明する。
第1図は、本発明による光ヘッドを、デイジタルオーディオディスク、ビデオディスクなどの再生用、あるいは、DRAM(Direct Read After Write)ディスク用記録、再生ヘッドへの適用例を示すものである。光ディスク再生ヘッドは、ディスク上下ぶれに対し、絞り込みスポットが常にフォーカスしていなければならないこと。
ディスクの偏心によるトラックずれに対し、絞り込みスポットが常にトラックを追随していなければならないこと。が条件となる。以下、本発明による自動焦点検出、およびトラッキングの方法を詳述する。
半導体レーザチップ1からのビームは、ウインドを経て、変形偏光プリズム2を通過する。変形偏光プリズム2は本発明のキーエレメントである。半導体レーザ1からのビームは、このプリズム2に対し、p-偏光として入射し、99%以上の透過率で通過する。その後λ/4板3を経て円偏光となり、微少レンズ4により情報記録媒体である光ディスク10上に回折限界のスポットを形成する。微少レンズ4としては、非球面レンズ、GRINレンズ、ホログラムレンズなどが有効に用いられる。特に、本出願人が特願昭58-134325号で提案した球面ホログラムレンズを用いれば、収差量を格段に少なくすることができ、極めて有効である。ディスク10からの反射光は、微少レンズ4に戻り、波長板3を再び通過し、円偏光はS-偏光となって、変形偏光プリズム2に入射する。この時、第2図に示すように、変形偏光プリズム2の反射面5に、S-偏光で入射したビームは光軸を対称に左右に反射され、半導体レーザチップ1の両脇に配置した左右2対の光検知器6-1,6-2上にそれぞれ集光する。左右2対の光検知器6-1,6-2は、さらに分割されて、それぞれ受光部D1,D2及びD3,D4からなり、光ディスクの上下ぶれ(デイフォーカス)に対し、各2分割デイテクタの両受光部の受光する光量が変動するため、この差信号をもって、フォーカスずれの検出信号とする。すなわち、合焦位置ではもどり光の共役結像位置が、2分割デイテクタ6-1,6-2のそれぞれの分割線上にくるように調整し、各2分割デイテクタの両受光部の光出力の差信号を零とする。ディスクがレンズから遠ざかる方向にずれた場合には、共役点は検知器上からプリズム2側にシフトする。この時、プリズムの中心に入射した光線は不動であるため、共役点はこのビーム上で移動することを考えれば、2分割検知器のそれぞれの外側の受光部D1,D4にくる光量が増加する。・・・・・・・・・・・ディスクのフォーカスずれの方向および量を検知することができる。
一方トラッキングのずれ信号は、ディスク上での絞り込みスポットがトラック位置からずれるともどり光の強度分布にアンバランスが生じることを利用し、プリズム2で2つに分けられたビームの強度比が変わるため、レーザ1の両脇の光検知部6-1,6-2の出力信号に差が生じる。・・・・・・・・・・・・・・・・より、トラックのずれの方向も検知することができる。
ディスク上の信号は、やはり、光検知器6-1,6-2にいたる光量の総和(V(D1)+V(D2)+V(D3)+V(D4)をとることにより検出することができる。
なお、第1図において、9は半導体レーザ1の後方出力光を受光するモニタ用の光検知器であり、この検出器の出力は半導体レーザ1の出力調整等に利用できる。」(第2頁左上欄第13行~第3頁左上欄第19行)(微少レンズ2の一カ所の誤記については微少レンズ4と認定した。)

〈刊行物2:特開昭60-171644号公報〉
イ.「従来、この種の装置として第1図に示すものがあった。図において、半導体レーザなどの発光源1より出射された出射光束2を平行光束4にするコリメートレンズ3、四分の一波長板5、平行光束4を集光し、情報記録媒体である光ディスク7の面上に集光スポット8を形成させる対物レンズ6、光ディスク面上の集光スポット8から対物レンズ6、四分の一波長板、コリメートレンズ3を経た主反射光束9と出射光束2を分離するビームスプリッタ10、主反射光束9を第1,第2の反射光束12と13に分ける光束分離器であるハーフミラー11、ハーフミラー11で分離された第1の反射光束12の集光点P1より近い光軸位置におかれた第1の光検知器14とハーフミラー11で分離された第2の反射光束13の集光点P2よりも遠い位置に配設され第1の光検知器14と同一の第2の光検知器15で構成されていた。」(第2頁左上欄第1行~第17行)
ロ.「しかし、以上の構成になる従来の装置では、第1,第2の光検知器14,15の位置をそれぞれ独立して3軸調整しなければならず、調整が複雑で調整コストが高くなるという欠点を有していた。
〔発明の概要〕
この発明は、上記のような従来のものの欠点を除去することを目的とするもので、主反射光束を2分割する光束分離器としてグレーティング手段を用い、2つの光検知器を同一平面上に配設することにより、特性のよいフォーカス誤差信号を簡単な調整によって得られる光ディスクヘッドのフォーカスずれ検出装置を提供するものである。
〔発明の実施例〕
以下、この発明の第一の実施例を第10図~第15図について説明する。第10図において第1図と同一符号は同一または相当部分を示し、ビームスプリッタ10からの主反射光束9を振幅の等しい第1,第2の反射光束12,13に2分割する光束分離器としてグレーティングレンズ17を配置し、2分割された一方の第1の反射光束12を点Q1に、他方の第2の反射光束13を点Q1とは異なる点Q2に集光させる。また、第1の反射光束12の集光点Q1よりは近く、第2の反射光束13の集光点Q2よりは遠い位置の面上に光検知装置18を配置し、第1図の第1,第2の検知器14,15と同様の第1,第2の光検知器14,15を光検知装置18の同一平面上に配設し、第11図に示すように有感領域I,II,III,IVの4分割に構成したものである。
次に、グレーティングレンズ17について詳しく述べる。第12図において、点Pはグレーティングレンズ17がないときの主反射光束9の集光点を示し、Z0をグレーティングレンズ17の位置Aから点Pまでの距離とする。第1の反射光束12の中心光線19を主反射光束9の光軸20に対して角度θだけ上向きに偏向し、点Pから光軸20の正方向(+Z’方向)に△Zずれた点Q1に第1の反射光束12を集光するのに必要なグレーティングレンズ17の位相シフト関数Φは
Φ=Φ1+Φ2 Φ1=2π/λ・(sinθ)y
Φ2=-(2π △Z)/(λ 2Z0(Z0-△Z))・(x2+y2)
λ:入射角度
で与えられる。・・・・・・・・・・・・・・・。また、第2の反射光束13の中心光線21を光軸20に対して角度θだけ下方に偏向し、点Pから光軸20の方向手前に△Zずれた点Q2に第2の反射光束13を集光するのに必要な位相シフト関数Φ’は
Φ’=-Φ
で与えられる。なお、第10図,第12図中で、グレーティングレンズ17の位置はビームスプリッタ10と光検知装置18の間であるが、第13図に示すようにビームスプリッタ10上にあってもよく、また、光検知器の窓上にあってもよい。
次に位相シフト関数Φ,Φ’の実現方法について述べる。グレーティングレンズ17に
Φ(xm,ym)=mx(m:整数)
を満たす曲線をフリジンとするバイナリ・グレーティングで構成することができる。特に、位相型のバイナリ構造で、主反射光束9に与える位相シフト量が、0°,180°の2つの値である場合、主反射光束9の80%が第1,第2の反射光束12と13に等しく分配され、かつ、P点に集光する光量は0となり、最も感度がよい。」(第2頁右下欄第12行~第3頁右下欄第3行)
ハ.「第14図,第15図は、表面の凹凸で位相型バイナリ・グレーティングレンズ17を構成した例であり、前述の位相シフト量0°,180°を実現するために必要な溝17aの深さtは
t=λ/2(n-1)
で与えられる。ここで、nはグレーティングレンズ部の屈折率である。グレーティングレンズ17は、ガラス基板上に塗布した透明レジストにレンズパターンを露光・現像することにより、または、上記のレジストをマスクにガラス基板をエッチングすることにより作製できる。なお、位相型のグレーティングレンズの動作、その一作製法については、藤田,西原,小山著「電子ビーム描画作製マイクロフレネルレンズ」電子通信学会論文誌、volJ-64c.No.10,P.P.652-657(1981)を参照されたい。
次に動作を詳しく説明する。第12図に示されているように、第1の反射光束12の集光点Q1と第2の反射光束13の集光点Q2は光軸20の方向に2ΔZずれた位置にある。従って、光ディスクが合焦点位置にあるときのQ1とQ2の間のある位置(点P付近)において、それぞれの反射光束12,13の断面光束が等しくなる所がある。その位置で、光軸20の点で垂直に2分割された第1,第2の光検知器14,15からなる光検知装置18を配置し、光検知装置18の出力、すなわち、フォーカス誤差信号Efが、Ef=(II-I)+(III-IV)=0となるように設定すれば、光ディスクが合焦点位置より遠ざかる方向に動くとEfは負、また逆に近づく方向に動くとEfは正となる。・・・・・・・・この発明の装置では同一平面上に配設された・・・・1つの光検知装置18を3軸調整するだけで足りることになる。」(第3頁右下欄第3行~第4頁左上欄第20行)
ニ.「第17図はかかる第三の実施例で、第18図,第19図に示す透過型のグレーティングレンズ30を用い、光検知装置18は集光点Q1,Q2間に傾けて配置する。」(第4頁左下欄第3行~第6行)
ホ.「すなわち、第四の実施例とし第20図に示すように、・・・・・・・・・・。光検知装置24の受光面は、グレーティングレンズ31がないときの主反射光束9の焦点面上に置かれる。そうして、第21図は合焦点時の検知器上の光スポット形状を示し、・・・・・・・・フォーカスサーボのオフセットを軽減できる利点を有している。
また、上記実施例においては主反射光束9の波面を分離して第1、第2の反射光束12,13を得ているが、第五の実施例として第22図に示すように、主反射光束9をその断面で分割することにより同様の効果が得られる。図中34は主反射光束9の上半分を点Q1に集光し、下半分を点Q2に集光するグレーティングレンズであり、レンズ効果を高く維持するためには、鋸歯状の位相構造もしくは体積的同期構造が望ましい。さらに、第六の実施例として第23に示すように、分離された第1の反射光束12についてyZ’面内の焦点位置が第1の光検知器22上に、xZ’面内の焦点位置が検知装置後方のS点になるように、第2の反射光束13についてはyZ’面内の焦点位置が第2の光検知器23上に、xZ’面内の焦点位置が検知器手前のS2点になるようにグレーティングレンズ35を設計することも可能である。」(第4頁左下欄第10行~第5頁左上欄第5行)
グレーティングレンズの表面の凹凸の形状については、第14,15,18,19図に図示されている。

3.刊行物1の発明
上記「2.」で摘記した刊行物1の記載事項によれば、半導体レーザチップから光ディスクへ放射されるビームは、変形偏光プリズムを直進し、ビームは変形偏光プリズムに偏向されていないというものである。
してみれば、刊行物1には下記の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されていると認められる。
「トラッキング用及び自動焦点用の光検知器を有する光ディスク用記録、再生ヘッドであって、
ビームを放射する半導体レーザチップと、
2つの光検知器と、
半導体レーザチップと光ディスクの間に配置された変形偏光プリズムであって、変形偏光プリズムに偏向されないビームを光ディスクに放射し、光ディスクにスポットを形成した光ディスクからのビームを2つの光検知器に集光する変形偏光プリズムと、
変形偏光プリズムと光ディスクとの間に配置された微少レンズとを備え、
2つの光検知器は、半導体レーザから放射されるビームの方向に光ディスクの平面と共役である同一の面に配置され、変形偏光プリズムは、ディスクからの反射光を光軸を対称に左右に2つの光検知器に集光させ、ビームは変形偏光プリズムの反射面で反射される光ディスクの光ヘッド装置。」

4.対比・判断
本件特許発明と刊行物1の発明を対比する。
刊行物1の発明の「半導体レーザチップ」「光ディスク」「光検知器」「微少レンズ」は、本件特許発明の「レーザ源」「平坦な記録媒体」「光検出デバイス」「集束デバイス」に相当し、
刊行物1の発明の「半導体レーザチップ」と「光ディスク」で形成される領域は、本件特許発明の「レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーン」であり、
刊行物1の発明のビームと本件特許発明のビームを比較すると、刊行物1の発明のビームの「半導体レーザチップ」から「光ディスク」へのビーム、「光ディスク」からの反射光のビーム、「光検知器」に集光されるビームは、それぞれ本件特許発明の「読取ビーム」、「検出ビーム」、「回折ビーム」に相応し、刊行物1の発明の「光検知器」に集光される「ビーム」は、光軸を対称に左右に反射されていることから、同じ強度で「光検知器」に集光されており、
刊行物1の発明の変形偏光プリズムは、半導体レーザチップのビームを光ディスクに偏向しないで放射する点、及び半導体レーザチップと光ディスクで形成される領域に配置されている点で、本件特許発明の「偏向されないビームを前記読取ゾーンに放射し、戻って来る検出ビームを受け取り、該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る」点で一致し、レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された部材に対応する。

そうすると、両者は、以下の点で一致する。
「トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置であって、
読取ビーム(F1,F2,F3,F4)を放射するレーザ源(1)と、
少なくとも第1及び第2の光検出デバイス(6,7)と、
偏向されないビームを前記読取ゾーンに放射し、戻って来る検出ビームを受け取り、該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る、前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された部材と、
レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された部材と前記読取ゾーンとの間に配置された集束デバイス(4)とを備え、
前記光検出デバイス(6,7)は、前記レーザ源から放射される読取ビームの伝搬方向(YY’)に垂直な平面上に該レーザ源の両側に該レーザ源に近接して配置されており、前記第1及び第2の光検出デバイスは、記録媒体の平面に関し同一の面に配置され、レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された部材は、前記検出ビームを受け取って前記光検出デバイスに同じ強度の回折ビームを提供し、各回折ビームはレーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された部材から放射されることを特徴とする記録媒体の光学読取装置。」

そして、以下の点で相違する。
〈相違点〉
1.レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された部材が、検出ビームを受け取って前記光検出デバイスに同じ強度の回折ビームを提供し、放射する際のエリアが、本件特許発明では、共通のエリアからであるのに対し、刊行物1の発明では、この点が示されていない点。
2.光検出デバイスの配置が記録媒体の共役な平面に対し、本件特許発明では共役でないのに対して、刊行物1の発明には、このことが示されていない点。

そこで、上記相違点1について検討する。
検出ビームを受け取って共通のエリアから2つの光検出デバイスに回折ビームを放射する部材として、グレーティングレンズが刊行物2に記載されている。
そこで、刊行物1の発明に、刊行物2のグレーティングレンズを採用できるか検討する。
刊行物1に記載の変形偏光レンズは、半導体レーザチップ、λ/4板、微少レンズが一つの光軸上に配置されることを前提とし、変形偏光ビームを光ディスクからの反射光と光ディスクへの入射光が通過するのに対して、刊行物2には、第10図ないし第15図、その他の図面等を精査しても、レーザー源、レンズ、4分の1波長板、グレーティングレンズが一つの光軸上に配置され、その結果、光ディスクからの反射光だけでなく、レーザー源からの放射光も、上記グレーティングレンズを通過する構成は、開示されていない。そうすると、単に、刊行物1の発明において変形偏光レンズを、グレーティングレンズに置き換えただけでは、回析ビームが共通のエリアから2つの光検出デバイスに放射されるようにすることは当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって、相違点2について判断するまでもなく、本件特許発明は、取消理由で通知された刊行物1ないし刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠、取消理由によっては、本件特許発明の特許(発明の数1)を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-05-31 
出願番号 特願平8-178194
審決分類 P 1 651・ 113- Y (G11B)
P 1 651・ 121- Y (G11B)
P 1 651・ 161- Y (G11B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川嵜 健山田 洋一  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 川上 美秀
相馬 多美子
登録日 1999-06-04 
登録番号 特許第2935418号(P2935418)
権利者 トムソン・エス・アー
発明の名称 記録媒体の光学読取装置  
代理人 船山 武  
代理人 川口 義雄  
代理人 中村 至  

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