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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない F27D
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない F27D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない F27D
管理番号 1100665
審判番号 審判1999-35209  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-12-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-05-07 
確定日 2004-07-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2135799号「シャフト状装填材料予熱装置付き溶解プラント」の特許無効審判事件についてされた平成12年10月30日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成12年(行ケ)第483号、平成15年6月19日判決言渡)があり、この判決に対し、上告受理の申立て(平成15年(行ノ)135号)があったが、最高裁判所において上告審として受理しないとの決定(平成15年(行ヒ)第270号、平成15年11月13日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

特許出願(特願平2-504164号)平成 2年 2月28日
出願公告(特公平6-46145号) 平成 6年 6月15日
設定登録 平成10年 4月10日
無効審判(平成11年審判35209号)
平成11年 5月 7日
審決(不成立) 平成12年10月30日
出訴(平成12年(行ケ)483号) 平成12年12月18日
訂正審判(訂正2001-39134号)
平成13年 8月15日
審決(訂正容認) 平成13年 9月18日
東京高裁判決(審決取消) 平成15年 6月19日
上告受理申立(平成15年(行ノ)135号)
平成15年 7月16日
訂正審判(訂正2003-39153号)
平成15年 7月31日
最高裁決定(平成15年(行ヒ)270号、上告審として不受理)
平成15年11月13日
訂正についての審尋(請求人に対し) 平成16年 1月 7日
回答書(請求人提出) 平成16年 3月15日
審決(訂正容認) 平成16年 5月18日

2.本件発明
本件特許の請求項1〜12に係る発明は、東京高等裁判所係属中になされた平成13年8月15日付け訂正審判(訂正2001-39134号)を容認する審決により訂正され、更に上告受理の申立て中になされた平成15年7月31日付け訂正審判(訂正2003-39153号)を容認する審決により訂正された特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された次のとおりのものと認める。
「1.炉床(4)、炉容器壁(5)および移動可能な炉容器蓋(6)を具えた炉容器(3)を含む電気アーク炉(1)と、
炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極昇降旋回装置(8)と、
前記炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し、
該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており、前記予熱装置は、さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する溶解プラントにおいて、
前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、前記装填材料予熱装置(2)の壁は、その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され、その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されており、
かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能であることを特徴とする溶解プラント。
2.前記容器蓋(6)は解放可能に前記保持構造体(27)に取り付けられていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の溶解プラント。
3.前記保持構造体(27)が昇降装置(56)によって前記炉容器に対して上昇可能であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の溶解プラント。
4.前記炉容器(3)が前記保持構造体(27)に対して下降可能であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の溶解プラント。
5.前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)が相互に水平方向に変位可能であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
6.前記相互の水平方向の変位の方向が前記炉容器蓋(6)の中央と前記シャフトの中心線との間を結ぶ線に平行であることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の溶解プラント。
7.前記シャフト(10)中には、少なくとも1個のブロッキング部材(51)が、該部材が前記装填材料の支持手段を形成する閉成位置から前記装填材料を前記炉容器(3)内へ装填するための解放位置へ移動可能な様に配設され、該解放位置においては前記ブロッキング部材は前記装填材料が前記シャフト(10)を通過させることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第6項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
8.電極昇降旋回装置(8)が前記炉容器(3)の傍で前記装填材料予熱装置(2)と反対側に配設されていることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第7項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
9.前記シャフト(10)の保持構造体(27)を移動させるための手段(23)が前記炉容器(3)の傍の前記装填材料予熱装置(2)の側に設けられていることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第8項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
10.前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、前記支持構造体(63)が移動可能であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第9項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
11.前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、昇降部材(70,71)は装填材料予熱装置(2)の中央線と炉床(4)の中心を結ぶ線(22)の両側に配置され、一方の側の1個または複数の昇降部材(71)はフレーム(61)および支持構造体(63)中で線(22)に平行な回転軸のまわりに旋回可能に取り付けられ、一方、他方の側の1個または複数の昇降部材は垂直案内部材を有することを特徴とする請求の範囲第10項に記載の溶解プラント。
12.前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、前記支持構造体(63)が二つの平行横断受台(67,68)および該横断受台と接続する縦断受台(69)を含むことを特徴とする請求の範囲第10項あるいは第11項に記載の溶解プラント。」
(以下、特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された発明をそれぞれ「本件発明1〜12」という。)

3.請求人の主張及び証拠方法
3-1.請求人の主張
請求人は、本件発明1〜12についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、甲第1〜4号証を提出し、次の無効理由1及び2を主張している。
(1)無効理由1
本件発明1〜12は、本件の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるから、本件発明1〜12に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
(2)無効理由2
本件特許明細書は下記の点で記載が不備であるから、本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第3号の規定により無効とすべきものである。
(i)訂正前の特許明細書の特許請求の範囲の請求項10に記載の発明について、移動ポータル組立部品、支持部材、昇降装置の関連構成が不明であり、特許請求の範囲の請求項10に発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない。
(ii)訂正前の特許明細書の特許請求の範囲の請求項11について、移動ポータル組立部品、容器蓋、支持梁、保持構造体の関連構成が不明であり、特許請求の範囲の請求項11に発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない。

3-2.証拠方法
甲第1号証:ヨーロッパ特許公開第0291680号公報、
甲第2号証:特開昭61-134578号公報、
甲第3号証:特表昭56-501810号公報、
甲第4号証:日本鉄鋼協会編「第3版 鉄鋼便覧 第II巻 製銑・製鋼」(昭和54年10月15日)丸善株式会社 第534,535頁、

4.被請求人の反論と証拠方法
4-1.被請求人の反論
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、本件発明1〜12に係る特許には、請求人が主張するような無効理由は存在しない旨主張している。

4-2.証拠方法
参考資料1:欧州特許第385434号明細書、
参考資料2:米国特許第5,153,894号明細書、
参考資料3:「工業加熱」Vol.18,No.6(昭和56年11月15日)日本工業炉協会 第49〜56頁、
参考資料4:米国特許第4,385,889号明細書、
参考資料5:ドイツ国実用新案第8412739号明細書、
参考資料6:本件特許の国際段階における国際調査報告書、
参考資料7:「Iron and Steel Engineer」(1984年7月)p.27〜32、An eccentric bottom taping system-18-month experience及び中国定期刊行物の写真、

5.甲第1〜4号証の記載事項

甲第1〜4号証には、それぞれ、次の事項が記載されている。

甲第1号証(ヨーロッパ特許公開第0291680号公報)
(摘示1-ア)「本発明の課題は、請求項1の上位概念に従ったアーク炉の場合、装入物への熱の輸送を可能な限り拡大し、それによって、装入物の加熱時間を短縮することである。装入物を加熱する場合に、発生した高温炉ガスをより十分に利用可能とすべきであり,またそれによって熱効率を向上すべきである。その他、装入物のための収容空間から炉床への連続的な材料の流れを可能にすべきであり,それと共に一様な運転条件を可能にすべきである。溶融池の温度の変動及び化学組成の変動を減少すべきである。」(第1欄第47行〜第2欄第7行)、
(摘示1-イ)「図1及び2に垂直断面と平面図で示された炉装置は,炉容器2と取り外し可能な蓋3からなるアーク炉1を含み、3つの電極4/1,4/2及び4/3によって実行される。炉容器2は、耐火性のレンガ積からなる炉床5及び好ましくは液体で冷却される転換装置成分6によって形成されている。前述の場合,図2に示すように円形の断面を有する炉容器の側面に、装入物のための収容空間(内部空間)8を有する縦穴状の装入物予熱器7が配置され、該収容空間8は、底9に隣接した領域において、接続ゾーン10を介して炉容器2の内部空間11に接続している。装入物予熱器7は、その上方領域で気密の装入装置12、例えば、公知の構造の二重の釣鐘状蓋と並びにガス排出口13とを備える。ガス排出口13に、図示されていない吸引装置が接続されている。
図2に示すように装入物予熱器7は、炉容器2の周囲のほぼ4分の1を超えて延び、その際、炉容器の方に向いた、装入物予熱器の縦穴壁14は、炉容器の外形に適合している。装入物予熱器7の内部空間8の断面が下方に向かって拡大していることは図1から明らかである。それによって、装入物予熱器への装入物の妨害のない降下が可能になる。接続ゾーン10において、酸素のような気体、又は石炭ないしは添加剤のような固体を吹き込むためのバーナ15及びノズルが接続されている。
装入物予熱器7に装入された投入物16は、金属のスクラップ、特に鋼のスクラップ、及び銑鉄塊、海綿鉄のような他の鉄含有物、並びにフラックス(Zuschlagen)からなる。装入物予熱器7に、装入円柱状物17として示されている気体透過性のばら積円柱状物(Schuettsaule)が形成されている。アーク炉1に形成された金属溶融物(ため)は18で、及び溶融鏡が19で示されている。
好ましくは、炉床5まで傾斜して形成された装入物予熱器7の床9は、融解プロセスの本質的な部分によって炉床に形成された液体だめ18が、装入円柱状物17の最下部ゾーン20に延び、及びそこで、直接的な物質の交換及び伝導による熱交換を可能にするような深さで配置される。炉床5の底に、偏心の溶融池湯出し21が設けられ、図2に断線で示されている。炉容器2は、前述の場合回転可能に形成されている。回転面,即ち、回転運動が行なわれる平面が22で示されている。装入物予熱器7が、炉容器の回転面に対し交差して延びた方向に配置されている。
電極4/1ないし4/3の夫々は、液体で冷却される金属製の上部23と、電極先端を形成する下部24とを含み、下部24は、黒鉛のような消散可能な材料からなり、上部23に取り外し可能に固定されている。夫々の電極4/1,4/2及び4/3の上部23は、電極担持体25/1,25/2及び25/3に繋がれている。該電極担持体は、電極押し上げ具26/1,26/2及び26/3によって、押し上げ可能且つ降下可能である。電極押し上げ具26/1,26/2及び26/3は、装入物の収容空間,即ち、縦穴状の装入物予熱器7に対向した側で、炉容器2の近くに配置されている。」(第3欄第10行〜第4欄第25行)
(摘示1-ウ)「[請求項1] 炉容器(2)の側面に備えられた装入物の収容空間(8)を具備し、該収容空間は炉容器(2)の内部空間(11)に接続しており、及び少なくとも部分的にアーク炉の照射領域において、少なくとも1つのアーク電極(4/1,4/2,4/3)が存在し、その際、装入物(16)のための収容空間(8)として、炉容器(2)の側面に配置された縦穴状の装入物予熱器(7)の内部空間が備えられており、及び該内部空間がその底(9)に隣接する領域で、接続ゾーン(10)を介して炉容器(2)の内部空間(11)に接続しており、装入物予熱器(7)に存在する装入円柱状物(17)の下方部分から炉床(5)に装入物が供給可能であり、及び高温炉ガスを装入物予熱器(7)に入れることが可能であり、更に、装入物予熱器(7)がその上方領域で、装入物のための装入装置(12)と、装入物との熱交換で冷却される炉ガスのための吸引装置を備える排出口(13)とを有したアーク炉であって、接続ゾーン(10)の領域で、少なくとも1つのバーナ(15)及び/又はノズルが配置されていることを特徴とするアーク炉。」(特許請求の範囲請求項1)

甲第2号証(特開昭61-134578号公報)
(摘示2-ア)「炉体2には溶融物4を排出する出鋼口12が設けられ、・・・溶融物4を排出するようになっている。この出鋼口12側の炉体2には排ガスダクト13が設けられ、その排ガスダクト13の上部にシュート14を介してスクラッププリヒータ15が設けられる。このスクラッププリヒータ15内には炉体2内に装入するスクラップ原料16が収容され、排ガスダクト13からシュート14を介して炉体2内の高温排ガスが、スクラッププリヒータ15内に導入されるようになっている。」(第2頁右上欄第13行〜左下欄第4行)
(摘示2-イ)「溶解製錬を終えた溶融物4は出鋼口12から排出され、次にこのスクラッププリヒータ15で予熱したスクラップ原料16を炉体2内に装入する。この場合、先ず溶解炉1の炉蓋11、電極3を外し、次に炉体2を二点鎖線の位置から実線で示した前方の位置まで移動し、その状態でスクラッププリヒータ15のゲート・・・を開いて予熱したスクラップ原料16を炉体2内に投下し、その後、再び炉体2を図示の二点鎖線の位置まで後方に移動させると共に三相アーク電極3を炉蓋11と共に炉体2に装着し、そのスクラップ原料16の溶解製錬を行う。」(第2頁右下欄第2〜13行)
(摘示2-ウ)第1図〜第3図の記載内容に照らすと、引用例2においては、炉容器からの熱ガスが排ガスダスト13、シュート14を介してスクラッププリヒータ15内の装填材料を予熱するものとされていることが明らかであり、装填材料を予熱する装置のうち、スクラッププリヒータ15及びシュート14は、溶解炉に対してその炉体上端縁の高さのところで、互いに水平移動自在に設けられていることが明らかである。
(摘示2-エ)第3図の記載内容に照らすと、引用例2においては、溶解製錬を止めてシュート14を炉体上に移動させてから予熱したスクラップ原料を炉体に投入することが読み取れる。
(摘示2-オ)「溶解炉の側部上方に排ガスダクトを介してスクラッププリヒータを設け、そのプリヒータから直接予熱原料を溶解炉内に装入すべく溶解炉の炉体又はプレヒータを水平移動自在に設けたことを特徴とする溶解製錬炉」(特許請求の範囲)
(摘示2-カ)「第1図において、1は三相アーク電極3によりスクラップ原料を溶解する溶解炉で、その炉体2上に炉蓋11が設けられ、その炉蓋11に三相アーク電極3が炉蓋11と共に炉体2に対して取外し自在に設けられる。」(第2頁右上欄第8〜13行)
(摘示2-キ)第1図の記載内容に照らすと、炉体は、炉床、炉壁を具えていることが読み取れる。

甲第3号証(特表昭56-501810号公報)
(摘示3-ア)「1.炉室(2,22)を有し、この炉室の側壁を通して溶解面(9,23)の下方に燃料を放出する少なくとも一つの第1ノズル(6,24)が支持され、・・・溶解面(9,23)の上方に燃料を放出する少なくとも一つの第2ノズルが支持され、さらに溶解のための横方向のタップ口(10)が前記炉室の底部領域に設けられて成る金属溶解精製装置(1,21)において、前記炉室(2,22)が・・・丸い炉床を持つ炉であり、且つ・・・ノズル用ベンチ(7,23)が設けられて成る金属溶解精製装置
・・・
10.装入材料を予備加熱するために前記炉室の上方に設けた予備加熱器の床部が開閉可能な鉄格子によって形成され、この鉄格子が閉じられているとき、溶解室の排出ガスが前記予備加熱器中に流れるようにされ、且つ前記鉄格子がその閉止状態にて溶解装置の中心にて互いに接合する複数の鉄格子部分(30,31,50〜54)を有して成ることを特徴とする請求の範囲第1〜9項に記載の金属溶解精製装置
・・・
13.装入材料を予備加熱する予備加熱器の全体が横方向に動き得るように設けられていることを特徴とする請求の範囲第1〜12項に記載の金属溶解精製装置」(特許請求の範囲請求項1,10,13)、
(摘示3-イ)「・・・金属溶解精製装置21は炉室22を有し、この炉室22内に向けて第1のノズル24が1点鎖線23で示した溶解面の下方以下に向けて燃料を噴射し、また第2ノズル25が溶解面の上方に向けて燃料を噴射する。・・・炉室22の上方には溶解精製装置内に装入される物質をあらかじめ予備加熱するための予備加熱装置27が設けられており、この場合この予熱加熱装置は排気ガス用煙突29に接続したフード28を備えた鉄くず用予備加熱装置である。なお、予備加熱装置は炉室の全充填に要する容積を有する。
鉄くず用予備加熱装置27の床部は2つの部分30、31より成る鉄格子によって形成され、これらの部分30,31は同構造のもので油圧シリンダー32によって内方及び外方に移動される。炉室に充填される鉄くずが各鉄格子の内側にて保持され、炉室内の溶解工程中に生じる温度の高い排ガスにより所望の温度に予備加熱される。油圧シリンダー32の働きによって鉄格子部分30,31を後退させることにより800〜1000℃に予備加熱された鉄くずが炉室に装入される。これにより鉄くずの予備加熱に要するエネルギーが節約される。かくして、鉄格子部分30,31が引き離されると中央に間隙ができて広がり、鉄くずが予備加熱装置から炉室内に制御されて落下する。」(第3頁左下欄第21行〜第4頁左上欄第2行)

甲第4号証(日本鉄鋼協会編「第3版 鉄鋼便覧 第II巻 製銑・製鋼」(昭和54年10月15日)丸善株式会社 第534,535頁)
(摘示4-ア)「(iv)炉蓋開閉装置 スクラップを炉頂から装入するための炉蓋開閉装置には、炉蓋移動式と炉蓋旋回式とがある。・・・炉蓋旋回式は、炉蓋および電極装置を炉殻側方に旋回させる方式で、さらに機構的に、油圧ラム式と電動キングピン式に分けられる。これらの機構を備えた炉体の概要を図10・13に示す。油圧ラム式は、ラムが油圧により炉蓋と電極装置を上昇旋回させる。電動キングピン式は、上昇と旋回のそれぞれに電動駆動機構があり、炉蓋上昇後、炉蓋および電極装置がキングピンを中心として旋回する。」(第534頁左欄第14〜26行)
(摘示4-イ)図10・13の記載内容に照らすと、炉蓋開閉装置を電気炉の傍に配置することが読み取れる。

6.当審の判断
6-1.無効理由1について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合の進歩性の検討
(A)本件発明1について
本件発明1は、甲第1号証を主引用例として甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。
(a)甲第1号証記載の発明
甲第1号証の摘示1-イ、摘示1-ウ及び第1図の記載によれば、甲第1号証には、
「円形の断面を有する炉容器の側面に備えられた装入物予熱器を具備し、該装入物予熱器の収容空間は底に隣接した領域において接続ゾーンを介して炉容器の内部空間に接続しており、少なくとも部分的にアーク炉の照射領域において、少なくとも1つのアーク電極が存在し、装入物予熱器に存在する装入円柱状物の下方部分から炉床に装入物が供給可能であり、高温炉ガスを装入物予熱器に入れることが可能であり、更に、装入物予熱器がその上方領域で、装入物のための気密の装入装置と、装入物との熱交換で冷却される炉ガスのための吸引装置を備えるガス排出口とを有したアーク炉であって、
該アーク炉は炉容器と取り外し可能な蓋からなり、炉容器は、耐火性のレンガ積からなる炉床及び炉容器壁によって形成され、
装入物予熱器は、縦穴壁を有し、炉床まで傾斜して形成された装入物予熱器の床は、炉床に形成された液体だめが、装入円柱状物の最下部ゾーンに延び、そこで、直接的な物質の交換及び伝導による熱交換を可能にするような深さで配置され、
電極の上部は、電極担持体に繋がれ、
電極担持体は、電極押し上げ具によって、押し上げ可能且つ降下可能であり、電極押し上げ具は、装入物の収容空間、即ち、縦穴状の装入物予熱器に対向した側で、炉容器の近くに配置されているアーク炉」の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると云える。
(b)対比・判断
本件発明1と甲第1号証発明を対比する。
甲第1号証発明の「取り外し可能な蓋」、「アーク炉」及び「縦穴状の装入物予熱器」は、それぞれ、本件発明1の「移動可能な炉容器蓋」、「電気アーク炉」及び「シャフト状装填材料予熱装置」に相当する。また、甲第1号証発明の「電極押し上げ具」及び本件発明1の「電極昇降旋回装置」は、ともに電極を搬送する装置であるので、それぞれ「電極搬送装置」と言い換えることができる。
してみれば、甲第1号証発明は、炉床、炉容器壁および移動可能な炉容器蓋を備えた炉容器を含む電気アーク炉であり、また、電極や電極搬送装置さらにはシャフト状装填材料予熱装置をも備えたものであるから、甲第1号証発明は、「炉床(4)、炉容器壁(5)および移動可能な炉容器蓋(6)を具えた炉容器(3)を含む電気アーク炉(1)と、炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極搬送装置と、シャフト状装填材料予熱装置(2)を有し、」という点で本件発明1と相違はないと云える。
また、甲第1号証発明の装入物予熱器の内部空間は底の隣接領域において接続ゾーンを介して電気アーク炉の内部と連絡しており、しかも装入物予熱器はその上部において装入装置とガス出口を有するものであり、甲第1号証発明の「(装入物予熱器の)底」、「接続ゾーン」及び「装入装置」は、それぞれ、本件発明1の「(予熱装置の)床」、「連絡区域」及び「装填入口」に相当するから、甲第1号証発明は、「該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており、前記予熱装置は、さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する」点でも本件発明1と相違はないと云える。
更に、本件発明1の構成要件である「前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、」について検討するに、この事項の「前記装填材料予熱装置(2)が、・・・適するように、」は、「前記装填材料予熱装置(2)の壁は、その下部において・・・炉容器壁(5)の一部によって形成され、その上部の領域においては・・・シャフト(10)の壁によって形成されており、」を修飾するものであるから、この事項の意味するところを換言すれば、本件発明1の装填材料予熱装置(2)は、溶解段階の間、装填材料を炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填する機能を有するものであり、そして、この機能に適するように、「装填材料予熱装置(2)の壁」は、「その下部において・・・炉容器壁(5)の一部によって形成され、その上部の領域においては・・・シャフト(10)の壁によって形成されており、」という構造のものであると認められる。
そうであるならば、甲第1号証発明の装入物予熱器も、溶解段階の間、装填材料を炉容器の炉容器壁内の内部空間に装填する機能を有するものであり、そして、この機能に適するように、この予熱器の壁構造が形成されていると云えるから、甲第1号証発明も、「前記装填材料予熱装置が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器の炉容器壁内の空間内に装填するのに適するように、前記装填材料予熱装置の壁は、形成され、」ているという点で本件発明1と実質的な相違はないと云える。
また、本件発明1の「溶解プラント」について、この「溶解プラント」の意味するところは、電気アーク炉、電極昇降旋回装置及び装填材料予熱装置を具備する溶解プラントという程度のことであり、甲第1号証発明の「アーク炉」もアーク炉、電極搬送装置及び装填材料予熱装置を具備するものであるから、甲第1号証発明の「アーク炉」は本件発明1の「溶解プラント」に相当すると云える。
そうすると、両者は、「炉床(4)、炉容器壁(5)および移動可能な炉容器蓋(6)を具えた炉容器(3)を含む電気アーク炉(1)と、炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極搬送装置と、前記炉容器(3)に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し、該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており、前記予熱装置は、さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する溶解プラントにおいて、前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、前記装填材料予熱装置(2)の壁は、形成されていることを特徴とする溶解プラント。」という点で一致し、次の(i)乃至(iv)の点で相違していると云える。
相違点:
(i)本件発明1は、シャフト状装填材料予熱装置(2)が「炉容器(3)上に横に配設されている」のに対し、甲第1号証発明は、装入物予熱器が炉容器の側面に配設されている点、
(ii)本件発明1は、「装填材料予熱装置(2)の壁は、その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され、その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されて」いるのに対し、甲第1号証発明では、そのように形成されていない点、
(iii)本件発明1は、「前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能である」のに対し、甲第1号証発明は、保持構造体が設けられておらず、装填材料予熱装置の上部領域の壁が固定されている点、
(iv)本件発明1は、「電極昇降旋回装置」を有するのに対し、甲第1号証発明は、電極押し上げ具を有する点、
次に、これら相違点(i)乃至(iv)について検討する。
(ア)相違点(i)について
甲第1号証発明の「炉容器」について検討すると、甲第1号証には、「図2に示すように円形の断面を有する炉容器の側面に・・・装入物予熱器7が配置され」(甲第1号証、訳文第3頁第6、7行)と記載されているから、炉容器とは、その断面が円形の部分までを指すと認められるところ、甲第1号証発明の装入物予熱装置7は、図2からも明らかなように、炉容器の断面円形の部分から離れた側面に設けられているから、甲第1号証の上記「炉容器の側面に」の記載及び判決書でも言及するとおり、甲第1号証発明の装入物予熱装置7は、「炉容器の側面に設置され、かつ、少なくとも上部においては、炉容器壁に囲まれた範囲の外側に炉容器壁とは離れて設けられている」ものと認められる。
これに対し、本件発明1では、シャフト状装填材料予熱装置が「炉容器(3)上に横に配設され」ているが、この「炉容器(3)上に横に配設され」を換言すれば、本件特許明細書の「アーク炉は炉床4と炉壁5を構成する炉容器3を含む。」(本件公告公報第7欄第43行乃至第44行)、「装填材料予熱装置の外壁は容器壁5により形成される。」(本件公告公報第8欄第3、4行)及び「第3図に特に示すように、平面図において炉容器3は片側が直線で限定された卵形(長円形)の形状をしている。真っ直ぐな壁部分11は、卵形の隣接部分12と共に装填材料予熱装置の下部部分の外側シャフト壁を形成する。」(本件公告公報第8欄第7行乃至第11行)の記載や第1図乃至第3図によれば、本件発明1の装填材料予熱装置が「炉容器の炉容器壁に囲まれた範囲でかつ炉容器の横側に配設され」と解するのが相当であると云える。
そうすると、上記相違点(i)は、要するところ、装填材料予熱装置が炉容器の内側かその外側に配設されているかというものであるが、甲第2号証には、この点を示唆する記載はない。
すなわち、摘示2-アによると、甲第2号証には、排ガスダクト13、シュート14及びスクラッププリヒータ15を一体としてみたときこれを「装填材料予熱装置」と云えるものが記載されているが、この予熱装置の下方部分を構成する「排気ガスダクト13」は、その名が示すとおり、基本的には炉容器内の排気ガスを排出するダクトであるから炉容器の内側に、すなわち、炉容器の炉容器壁に囲まれた範囲内に設けられるようなものではない。この点に関し、甲第2号証にも「溶解炉の側部上方に排ガスダクトを介してスクラッププリヒータを設け、」(第2頁左上欄第14行乃至第16行)と記載されているように、甲第2号証に記載の排ガスダクトやスクラッププリヒータで構成される予熱装置は、炉容器の内側ではなく炉容器の側部上方に設置されているものと云えるから、甲第2号証は、本件発明1の上記相違点(i)について示唆するものではない。
また、甲第2号証の排ガスダクト13、シュート14及びスクラッププリヒータ15を一体とした「予熱装置」は、スクラッププリヒータ15に装填材料を装填するだけのものであり、排気ガスダクト13に相当する部分は、あくまで排ガスの通気口であってそこに装填材料を装填するものではないから、甲第2号証は、本件発明1の如き「下部において・・・炉容器壁5の一部によって形成され」た装填材料予熱装置の壁の空間内、すなわち、アーク等の熱源の近傍である「炉容器壁(5)内の空間内」に装填材料を装填して熱源からの放射熱を効率よく装填材料の予熱に利用する(本件公告公報第4頁第8欄第40〜43行)という技術思想を何ら示唆するものではない。
してみると、甲第2号証には、装填材料を熱源の近傍に装填させる基本的な技術思想や予熱装置自体を炉容器の内側に配設する動機付けについても何ら示唆されていない。
甲第3号証には、装入材料の予備加熱器の全体が横方向に動き得るように設けられた金属溶解精製装置が記載され(摘示3-ア参照)、また、甲第4号証には、炉蓋開閉装置が記載されているにすぎず(摘示4-ア参照)、甲第3号証及び甲第4号証に記載のものは、装填材料予熱装置を電気アーク炉の炉容器のどの位置に配設するかについて何ら示すものでないから、甲第3号証及び甲第4号証は、本件発明1の上記相違点(i)について示唆するものではない。
(イ)相違点(ii)について
甲第2号証に記載の予熱装置は、摘示2-ア乃至摘示2-エから明らかなように、排ガスダクト13、シュート14及びスクラッププリヒータ15を一体としたときの「予熱装置」であって、その上部に相当する部分は、スクラッププリヒータ15及びシュート14から成り、その下部に相当する部分は排ガスダクト13からなるものであるから、この排ガスダクト13が本件発明1の「前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、前記装填材料予熱装置(2)の壁は、その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成されており、」という構成要件に相当するか否かについて、以下検討する。
甲第2号証に記載の排ガスダクト、シュートやスクラッププリヒータで構成される予熱装置では、予熱された装填材料は、溶解製錬を止めてシュート14を炉体上に移動させてから、シュート14を介して炉体2上から直接投入されるものであり、本件発明1の如く、装填材料が予熱装置の「炉容器壁(5)の一部によって形成された壁内の空間内」を介して投入されるものではない。また、甲第2号証に記載の予熱装置では、上述したとおり、装填材料は、スクラッププリヒータ15に装填されるだけのものであり、本件発明1の如く、溶解段階の間、予熱装置の「炉容器壁(5)の一部によって形成された壁内の空間内」に装填されるものでもないから、甲第2号証に記載の上記排ガスダクト13は、本件発明1の上記構成要件に相当するものではない。
また、甲第2号証に記載の排ガスダクト、シュートやスクラッププリヒータで構成される予熱装置は、上記(ア)でも言及したとおり、炉容器の内側ではなく炉容器の側部上方(外側)に設置されているものであるから、その排ガスダクト13を構成する部分も、炉容器の側部に設けられたものであるので炉容器の一部分を構成するものではなく、あくまで排気ガスダクトとして炉容器の外側に配設されたものとみるのが相当であるから、この点からみても、甲第2号証に記載の上記排ガスダクト13は、本件発明1の上記構成要件に相当するものではない。
してみると、甲第2号証には、本件発明1の上記相違点(ii)について何ら示唆されていない。
甲第3号証及び甲第4号証には、それぞれ、前示したとおり、金属溶解精製装置及び炉蓋開閉装置が記載されているにすぎず、甲第3号証及び甲第4号証には、装填材料予熱装置の壁の構造が何ら示されていないから、甲第3号証及び甲第4号証は、本件発明1の上記相違点(ii)について示唆するものではない。
(ウ)相違点(iii)について
上記相違点(iii)は、要するところ、装填材料予熱装置の壁を上・下方部に区画し、その上方部と炉容器とを保持構造体(27)によって互いに移動可能とした点と言い換えることができるが、甲第2号証に記載の予熱装置において、その上方部と下方部に区画されている部分は、シュートと排ガスダクトであり、その名が示すとおり、装填材料が装填されるようなところではないから、甲第2号証は、装填材料を装填する領域を上・下方部に区画することを示唆するものではない。
判決書で判示するとおり、甲第2号証に記載の予熱装置を単に予熱する装置とみた場合には、排ガスダクトとシュートの部分を「予熱装置の壁を上・下方部に区画した部分」とみなすこともできるが、本件発明1では、「シャフト状装填材料予熱装置(2)」が「前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、」と限定されているから、本件発明1の装填材料予熱装置は、スクラッププリヒータの部分だけに装填された装填材料を炉体2に直接投下するような甲第2号証に記載の予熱装置とその基本的な技術思想や構成が別異のものと云うべきであり、したがって、甲第2号証には、装填材料が装填される予熱装置においてその壁部分を上・下方部に区画する動機付けとなる示唆は見当たらないと云える。
してみると、甲第2号証には、本件発明1の上記相違点(iii)についても何ら示唆されていない。
甲第3号証には、装入材料の予備加熱器の全体が横方向に動き得るように設けられた金属溶解精製装置が記載されているが、甲第3号証に記載のものは、予備加熱器の全体が横方向に動き得るというものであり、予備加熱器を上・下方部に区画して互いに移動可能としたものでないから、甲第3号証は、本件発明1の上記相違点(iii)を何ら示唆するものではない。
甲第4号証には、炉蓋開閉装置が記載されているにすぎず、甲第4号証は、本件発明1の上記相違点(iii)を何ら示唆するものではない。
(エ)相違点(iv)について
甲第4号証には、アーク炉において炉蓋と電極を上昇旋回させる炉蓋開閉装置を配置することが記載されているから(摘示4-ア参照)、甲第4号証には、アーク炉において電極を上昇旋回し搬送する装置を配置することが開示されていると云える。してみれば、甲第1号証に記載の電極押し上げ具に代えて、甲第4号証に記載の、電極を上昇旋回し搬送する電極昇降旋回装置を有させるようなことは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。
以上のとおりであるから、本件発明1の上記相違点(i)乃至(iii)は、いずれも甲第2号証乃至甲第4号証の記載のものから当業者が容易に想到することができないものであると云う他ない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証を主引用例として甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

(B)本件発明2〜12について
次に、本件発明2〜12は、それぞれ、本件発明1に更に構成要件を付加したものであるから、本件発明2〜12は、それぞれ、本件発明1と同様な理由によって、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

(2)甲第2号証に記載の発明との新規性の検討
本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるか否かについて検討する。
(a)甲第2号証記載の発明
甲第2号証の摘示2-ア、摘示2-オ、摘示2-カ及び摘示2-キによれば、甲第2号証には、
「溶解炉の側部上方に排ガスダクトを介してスクラッププリヒータを設け、そのプリヒータから直接予熱原料を溶解炉内に装入すべく溶解炉の炉体又はプレヒータを水平移動自在に設けた溶解製錬炉であって、この溶解炉は三相アーク電極によりスクラップ原料を溶解する溶解炉で、その炉体上に炉蓋が設けられ、その炉蓋に三相アーク電極が炉蓋と共に炉体に対して取外し自在に設けられ、炉体は、炉床、炉壁を具えており、炉体には溶融物を排出する出鋼口が設けられ、この出鋼口側の炉体には排ガスダクトが設けられ、その排ガスダクトの上部にシュートを介してスクラッププリヒータが設けられ、スクラッププリヒータ内には炉体内に装入するスクラップ原料が収容され、排ガスダクトからシュートを介して炉体内の高温排ガスが、スクラッププリヒータ内に導入されるようになっている溶解製錬炉」の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されていると云える。
(b)対比・判断
甲第2号証発明の「排ガスダクト」、「シュート」及び「スクラッププリヒータ」を一体としてみたとき、これは、本件発明1の「装填材料予熱装置」ということができる。また、甲第2号証発明の「炉蓋」と「炉体」を一体としたものは、本件発明1の「炉容器」に相当し、甲第2号証発明の「炉蓋」、「炉壁」及び「溶解炉」は、それぞれ、本件発明1の「炉容器蓋」、「炉容器壁」及び「電気アーク炉」に相当する。更に、本件発明1の「溶解プラント」は精錬設備のことを意味するから(本件公告公報第2頁第4欄第10〜11行)、甲第2号証発明の「溶解製錬炉」は「溶解プラント」と言い換えることができる。
してみれば、両者は、炉床(4)、炉容器壁(5)および移動可能な炉容器蓋(6)を具えた炉容器(3)を含む電気アーク炉(1)と、装填材料予熱装置(2)を有し、該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡している溶解プラントである点で一致し、次の点で相違する。
相違点(i)
本件発明1は、炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極昇降旋回装置(8)を有するのに対し、甲第2号証発明は、このような電極昇降旋回装置を有していない点、
相違点(ii)
本件発明1は、炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し、前記予熱装置は、さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有するのに対し、甲第2号証発明は、このような装填材料予熱装置を有していない点、
相違点(iii)
本件発明1は、装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、前記装填材料予熱装置(2)の壁は、その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され、その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されており、かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能であるのに対し、甲第2号証発明は、装填材料予熱装置がこのような構造をしていない点。
以上のとおりであるから、本件発明1は、相違点(i)乃至(iii)において甲第2号証発明と相違する。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとすることができない。

6-2.無効理由2について

無効理由2は、訂正前の特許明細書の特許請求の範囲の請求項10及び11には、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないから、本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたというものであるが、訴訟係属中になされた平成13年8月15日付け訂正審判(訂正2001-39134号)において訂正前の特許明細書の特許請求の範囲の請求項10及び11を削除する訂正がなされ、平成13年9月18日付け審決によってこの訂正が容認されたので、無効理由2は解消したものと認める。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提示した証拠方法によっては、本件発明1〜12に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-10-04 
結審通知日 2000-10-17 
審決日 2000-10-30 
出願番号 特願平2-504164
審決分類 P 1 112・ 534- Y (F27D)
P 1 112・ 113- Y (F27D)
P 1 112・ 121- Y (F27D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 美知子  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 綿谷 晶廣
奥井 正樹
三浦 悟
平塚 義三
登録日 1998-04-10 
登録番号 特許第2135799号(P2135799)
発明の名称 シャフト状装填材料予熱装置付き溶解プラント  
代理人 岡崎 謙秀  
復代理人 佐藤 久容  
代理人 西澤 利夫  
代理人 谷 義一  
代理人 阿部 和夫  

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