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審決分類 |
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない B21D |
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管理番号 | 1100979 |
審判番号 | 訂正2003-39007 |
総通号数 | 57 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1991-04-05 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2003-01-17 |
確定日 | 2004-08-03 |
事件の表示 | 特許第2906063号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 平成 1年 8月25日 出願(特願平1-219523号) 同11年 4月 2日 特許権の設定の登録 同11年 6月23日 特許異議の申立て(異議11-72508号) 同14年 9月 4日 異議の決定 同14年10月17日 出訴(平成14年(行ケ)第532号) 同15年 1月17日 本件訂正の審判の請求 同15年 3月10日 訂正拒絶理由の通知 同15年 4月 1日 意見書の提出 第2 審判の請求の要旨 本件審判の請求の要旨は、特許第2906063号の設定登録時の願書に添付された明細書(以下「特許明細書」という。)を本件審判請求書に添付された全文訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、その内容は次のとおりである(訂正個所に下線を付した。)。 1 訂正事項a 特許請求の範囲の減縮を目的として (1) 特許明細書の特許請求の範囲に記載された 「下型(2a)又は上型(2b)の何れか一方から他方に直立させた複数のガイドポスト(1)(1)を他方の上型(2b)又は下型(2a)に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュ(21)と転動体(20)とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュ(21)の内周面とガイドポスト(1)の外周面とを転動体(20)によって転がり接触させたダイセット用直動機構において、ガイドブッシュ(21)の内周面、及び、ガイドポスト(1)における前記ガイドブッシュ(21)との嵌合部の断面を相互に相似な多角形断面とし、ガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部の間隙に介在される転動体(20)を円筒状又は円柱状の複数のローラ(23)とし、多角形軸部(16)の平面部(11)とガイドブッシュ(21)の内周面の平面部(22)との間に前記ローラ(23)(23)の各々をその直径方向に所定量圧縮された圧入状態で、かつ相互に離れた位置に介在させ、これらローラ(23)(23)の転がり方向をガイドポスト(1)の軸線に平行に設定し、各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌されるリテーナ(3)に脱落及び移動阻止状態に、かつ自転自在に保持させたダイセット用直動装置。」を (2) 全文訂正明細書の特許請求の範囲に記載された 「下型(2a)又は上型(2b)の何れか一方から他方に直立させた複数のガイドポスト(1)(1)を他方の上型(2b)又は下型(2a)に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュ(21)と転動体(20)とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュ(21)の内周面とガイドポスト(1)の外周面とを転動体(20)によって転がり接触させたダイセット用直動装置において、ガイドブッシュ(21)の内周面、及び、ガイドポスト(1)における前記ガイドブッシュ(21)との嵌合部の断面を相互に相似な六角形又は八角形断面とし、ガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部の間隙に介在される転動体(20)を円筒状又は円柱状の複数のローラ(23)とし、多角形軸部(16)の六角形又は八角形の対向した平面部(11)は、軸線に平行に線対称に形成されており、当該平面部(11)とガイドブッシュ(21)の内周面の平面部(22)との間に前記ローラ(23)(23)の各々をその直径方向に0.005mm以下の所定量圧縮された圧入状態で、かつ互いに離間した状態で介在させ、これらローラ(23)(23)の転がり方向をガイドポスト(1)の軸線に平行に設定し、各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌される六角形又は八角形の筒体からなるリテーナ(3)の平面部(31)に形成した矩形の開口(32)内に移動阻止状態に、かつ自転自在に収容すると共に、前記平面部(31)の内面側及び外面側から開口(32)の内方に向かって突出する舌片(34)を設けて脱落阻止状態に保持させたダイセット用直動装置。」 と訂正する。 2 訂正事項b 誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書の発明の詳細な説明に記載された 「[技術的手段] 上記課題を解決するために講じた本発明の技術的手段は『ガイドブッシュ(21)の内周面、及び、ガイドポスト(1)における前記ガイドブッシュ(21)との嵌合部の断面を相互に相似な多角形断面とし、ガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部の間隙に介在される転動体(20)を円筒状又は円柱状の複数のローラ(23)とし、多角形軸部(16)の平面部(11)とガイドブッシュ(21)の内周面の平面部(22)との間に前記ローラ(23)(23)の各々をその直径方向に所定量圧縮された圧入状態で、かつ相互に離れた位置に介在させ、これらローラ(23)(23)の転がり方向をガイドポスト(1)の軸線に平行に設定し、各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌されるリテーナ(3)に脱落及び移動阻止状態に、かつ自転自在に保持させた』ことである。 [作用] 本発明の上記技術的手段は次のように作用する。 下型(2a)に取付けたガイドポスト(1)の多角形軸部(16)と、上型(2b)に取付けたガイドブッシュ(21)の多角形断面の内周とは、相互に対向する平面部がローラ(23)(23)に対接している。つまり、前記ローラ(23)(23)はガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の両方の平面部(11)(22)に対して転がり接触状態にあり、下型(2a)に対して上型(2b)を昇降させた場合には、相互に対向する平面部(11)(22)の各組は、ローラ(23)(23)を介して転がり接触することとなる。 そして、この転がり接触部では、ローラ(23)(23)の母線が全域に亙って平面部(11)又は平面部(22)に対接する。又、平面部(11)と平面部(22)とが平行に対向して、これらの間にローラ(23)(23)をその直径方向に所定量圧縮された圧入状態で介在させるものであるから、ローラ(23)(23)の転がり移動の際にその中央部と両端部との移動量が同じで、かつ、平面部(11)とローラ(23)と平面部(22)とが常時密接状態となる。 また、ローラ(23)の各々はリテーナ(3)によって相互に離れた位置に保持されるため、下型(2a)と上型(2b)との繰り返し作動によっても不用意にローラ(23)相互が近づく恐れはない。 [効果] 本発明は上記構成であるから次の特有の効果を有する。 ローラ(23)(23)は円柱状又は円筒状であるから、従来の太鼓型の形式のローラ(23)に比べて、ローラ(23)の製作が簡単である。 ローラ(23)は圧入状態で介在させられるため、ローラ(23)(23)とこれに対接する面との間で滑りが生じないから、ローラ(23)(23)の耐久性が向上すると共に下型(2a)と上型(2b)とが円滑に作動する。又、長期間に亙って前記転がり接触状態が維持されるから、下型(2a)と上型(2b)との直動精度が長期間に高精度に維持され且安定する。 さらに、各ローラ(23)はリテーナ(23)によって相互に離れた位置で自転自在に保持されるため、安定したローラ(23)の回転が維持され、ローラ(23)相互において摩耗の偏りを低減できる。 [実施例] 以下、本発明の実施例を第1図から第8図に基いて説明する。 第1図~第3図に示す第1実施例のものは、ガイドポスト(1)を座金(10)と取付けボルト(13)を用いて下型(2a)に直立状態に取付けたもので、この取付け構造は従来のものと同様である。 前記ガイドポスト(1)の基端部には、第4図に示すように、下型(2a)に圧入するための圧入軸部(14)が形成されており、その上端につば部(15)が形成されている。このつば部(15)の上方部分が多角形軸部(16)となり、この多角形軸部(16)は、ガイドポスト(1)の先端部から前記つば部(15)の近傍までの範囲に設定されている。 前記多角形軸部(16)の断面形状は、八角形の頂部を円弧状部としたもので、この円弧の中心はガイドポスト(1)の中心に一致させてある。したがって、この円弧状部相互間は平面部(11)となる。 又、第2図に示すように、ガイドポスト(1)に外嵌するガイドブッシュ(21)は、その外周断面が円形で、他方、内周断面が上記多角形軸部(16)と相似な八角形となっており、八つの平面部(22)(22)が軸線に平行に形成されたものとなっている。従って、前記ガイドブッシュ(21)をガイドポスト(1)に同心状態に外嵌したとき、第3図の如く、平面部(22)と平面部(11)との間には間隙(G)が生じ、ガイドポスト(1)の平面部の外周の各間隙それぞれは同じ値となる。」(特許掲載公報第4欄第23行-第6欄第7行)を 「[技術的手段] 上記課題を解決するために講じた本発明の技術的手段は『ガイドブッシュ(21)の内周面、及び、ガイドポスト(1)における前記ガイドブッシュ(21)との嵌合部の断面を相互に相似な六角形又は八角形断面とし、ガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部の間隙に介在される転動体(20)を円筒状又は円柱状の複数のローラ(23)とし、多角形軸部(16)の六角形又は八角形の対向した平面部(11)は、軸線に平行に線対称に形成されており、当該平面部(11)とガイドブッシュ(21)の内周面の平面部(22)との間に前記ローラ(23)(23)の各々をその直径方向に0.005mm以下の所定量圧縮された圧入状態で、かつ互いに離間された状態で介在させ、これらローラ(23)(23)の転がり方向をガイドポスト(1)の軸線に平行に設定し、各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌される六角形又は八角形の筒体からなるリテーナ(3)の平面部(31)に形成した矩形の開口(32)内に移動阻止状態に、かつ自転自在に収容すると共に、前記平面部(31)の内面側及び外面側から開口(32)の内方に向かって突出する舌片(34)を設けて脱落阻止状態に保持させた』ことである。 [作用] 本発明の上記技術的手段は次のように作用する。 下型(2a)に取付けたガイドポスト(1)の多角形軸部(16)と、上型(2b)に取付けたガイドブッシュ(21)の多角形断面の内周とは、軸線に平行に線対称に形成されていて相互に対向する、六角形又は八角形の平面部がローラ(23)(23)に対接している。つまり、前記ローラ(23)(23)はガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の両方の六角形又は八角形の平面部(11)(22)に対して転がり接触状態にあり、下型(2a)に対して上型(2b)を昇降させた場合には、相互に対向する平面部(11)(22)の各組は、ローラ(23)(23)を介して転がり接触することとなる。 そして、この転がり接触部では、ローラ(23)(23)の母線が全域に亙って平面部(11)又は平面部(22)に対接する。又、平面部(11)と平面部(22)とが平行に対向して、これらの間にローラ(23)(23)をその直径方向に0.005mm以下の所定量圧縮された圧入状態で回転自在に介在させるものであるから、ローラ(23)(23)の転がり移動の際にその中央部と両端部との移動量が同じで、かつ、平面部(11)とローラ(23)と平面部(22)とが常時密接状態となる。 また、ローラ(23)の各々は六角形又は八角形の筒体からなるリテーナ(3)の平面部(31)によって互いに離間して保持されるため、下型(2a)と上型(2b)との繰り返し作動によってもローラ(23)が互いに近づきひいては互いに接触する恐れはない。 [効果] 本発明は上記構成であるから次の特有の効果を有する。 ローラ(23)(23)は円柱状又は円筒状であるから、従来の太鼓型の形式のローラ(23)に比べて、ローラ(23)の製作が簡単である。 ローラ(23)は直径方向に0.005mm以下の所定量圧縮された圧入状態で介在させられるため、ローラ(23)(23)とこれに対接する面との間で滑りが生じないから、ローラ(23)(23)の耐久性が向上すると共に下型(2a)と上型(2b)とが円滑に作動する。又、予圧量を0.005mm以下で可及的に小さくすることで、直径方向の所定圧縮力による個々のローラと転動面との面圧が可及的に低減されて摩耗が低減され、その結果、長期間に亙って前記転がり接触状態が維持されるから、下型(2a)と上型(2b)との直動精度が長期間に高精度に維持され且安定する。 さらに、各ローラ(23)はリテーナ(3)によって相互に離れた位置で自転自在に保持されるため、安定したローラ(23)の回転が維持され、ローラ(23)相互において摩耗の偏りを低減できる。 また、リテーナを六角形又は八角形の断面多角形にし、その平面部に矩形開口を設け、当該矩形開口に円筒状または円柱状のローラを保持させたことにより、円筒状又は円柱状ローラの直径を、リテーナの平面部の開口による保持との関係等から大きくする必要はなく、したがって、負荷等との関係上必要な限度において可及的に小さくできるから、同一平面を転動するローラの配置密度を高めることができ、その結果、直径方向の所定圧縮力による個々のローラと転動面との面圧が低減され、その分だけ摩擦抵抗が低減され、また摩耗が低減されることになる。 [実施例] 以下、本発明の実施例を第1図から第8図に基いて説明する。 第1図~第3図に示す第1実施例のものは、ガイドポスト(1)を座金(10)と取付けボルト(13)を用いて下型(2a)に直立状態に取付けたもので、この取付け構造は従来のものと同様である。 前記ガイドポスト(1)の基端部には、第4図に示すように、下型(2a)に圧入するための圧入軸部(14)が形成されており、その上端につば部(15)が形成されている。このつば部(15)の上方部分が多角形軸部(16)となり、この多角形軸部(16)は、ガイドポスト(1)の先端部から前記つば部(15)の近傍までの範囲に設定されている。前記多角形軸部(16)の断面形状は、八角形の頂部を円弧状部としたもので、この円弧の中心はガイドポスト(1)の中心に一致させてある。したがって、この円弧状部相互間は平面部(11)となる。 又、第2図に示すように、ガイドポスト(1)に外嵌するガイドブッシュ(21)は、その外周断面が円形で、他方、内周断面が上記多角形軸部(16)と相似な八角形となっており、八つの対向した平面部(22)(22)が軸線に平行に線対称に形成されたものとなっている。従って、前記ガイドブッシュ(21)をガイドポスト(1)に同心状態に外嵌したとき、第3図の如く、平面部(22)と平面部(11)との間には間隙(G)が生じ、ガイドポスト(1)の平面部の外周の各間隙それぞれは同じ値となる。」 と訂正する。 第3 訂正拒絶理由の概要 訂正拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 全文訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明(以下「訂正発明」という。)は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された事項及び周知なダイセット用直動装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 (1) 実願昭57-34797号(実開昭58-137524号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。) (2) 本件特許に係る出願の出願前日本国内において頒布された刊行物である「プレス金型用部品 Green Book」,双葉電子工業株式会社,平成元年4月,p.33,34,243,244(以下「引用例2」という。) 第3 請求人の主張の概要 上記訂正拒絶理由に対する意見書における請求人の主張の概要は、以下のとおりである。 1 断面形状及び平面部の形状について 引用例1に記載された「六角形又は八角形」は、根拠のない単なる希望的例示にすぎず、「六角形又は八角形」とすることに特別の技術的意義があることを示すものではない。 これに対して、訂正発明の「六角形又は八角形」は、加工コストを抑制しつつ横方向荷重に対する高剛性を確保することができるという特別の技術的意義を有しているものである。 また、多角形軸部の六角形又は八角形の対向した平面部について、この平面部を軸線に平行に線対称に形成することは、単なる設計的事項ではない。 2 圧縮量について 引用例2に記載のものは、ローラを撓ませることにより面圧を生じさせているのに対し、訂正発明は、ローラを直径方向に圧縮することにより面圧を生じさせているものであって、両者は、ローラに対する作用が全く異なり、面圧を生じさせる原理、メカニズムが全く異なるから、その効果も異なるものである。 そして、訂正発明の「0.005mm以下の所定量圧縮」は、転動面とローラ間の予圧(予圧面)を可及的に小さくして円筒状又は円柱状ローラを円滑に転動させ(斜行等による転動不良の発生防止)、以て、高い直動精度を保ちつつ耐久性が極めて高い、円筒状又は円柱状ローラによる直動装置を実現することができるという技術的意義を有しているものである。 第4 当審の判断 上記訂正事項aの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることが明らかであるので、さらに、訂正発明が、出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。 1 訂正発明 訂正発明は、上記第2の1の(2) に記載されたとおりの「ダイセット用直動装置」であると認める。 2 引用例記載事項及び周知なダイセット用直動装置 (1) 引用例1 上記引用例1の明細書第3頁第10行-第5頁第10行には、次の事項が記載されていると認める。 「〔考案の実施例〕 以下、この考案を図面に示す一実施例にもとづいて説明する。第2図中1はポンチホルダで、この下面にはポンチプレート2を介して複数本のポンチ3…が取付けられている。4はダイホルダで、この上面には上記ポンチ3…に対向するダイ5…が取付けられている。このダイホルダ4の四隅部には後述するガイドポスト6…が立設されていて、これらガイドポスト6…の嵌合部7…は上記ポンチホルダ1の四隅部に設けられた摺動部8…に上下動自在に嵌合されている。 このように構成されたダイセットは、プレス機械に装着され、ラムの上下運動によつてポンチホルダ1を上下動し、このときポンチホルダ1をガイドポスト6…によつて案内するようになつている。・・・一方、上記摺動部8は嵌合部7の横断面形状と同様に内周面が四角形の角筒によって形成され、嵌合部7の各ローラベアリング11…は摺動部8の内周面に密に接合するようになっている。この場合、ローラベアリング11…は従来のボールベアリングに比べて2倍近い耐荷重が得られるため摺動部8にきつく嵌合しても円滑に回転して摺動抵抗を減少できる。 なお、上記一実施例においては、ガイドポストを四角柱としたが、これに限定されず、五角、六角、八角柱などの多角柱としてもよく、また、嵌合部だけを多角柱としてガイドポストの基部は円柱状としてもよい。」 また、上記のようにガイドポストを六角又は八角柱とすると、摺動部の内周面の断面が六角形又は八角形となり、この六角形又は八角形の平面部とローラベアリングとの接触が線接触であることは、技術常識より明らかである。 以上のとおりであるので、引用例1には、ダイセットにおいて、ローラベアリングと断面が六角形又は八角形の平面部とによりその接触を線接触とすることが記載されていると認める。 (2) 引用例2 上記引用例2の第243頁左欄下から第4行-右欄第6行には、次の事項が記載されていると認める。 「ボールガイドは、ガイドブッシュに対しても、またガイドポストに対しても点接触しますが、このローラガイドは、いずれに対しても線接触をします。したがって、ボールガイドよりもはるかに大きな負荷に耐え、高い剛性と高精度な案内性、長寿命を保証いたします。そして、線接触の関係上、プリロードは3~6μという非常に微小な値で十分ですから、結果的にきわめて軽快に動くということも大きな特長です。」 (3) 周知なダイセット用直動装置 また、下型から上型に直立させた複数のガイドポストを上型に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュと転動体とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュの内周面とガイドポストの外周面とを転動体によって転がり接触させたダイセット用直動装置において、ガイドブッシュの内周面、及び、ガイドポストにおける前記ガイドブッシュとの嵌合部の断面を相互に相似な円形断面とし、ガイドポストとガイドブッシュの嵌合部の間隙に介在される転動体を複数のボールとし、円形軸部の曲面部とガイドブッシュの内周面の曲面部との間に前記ボールの各々を互いに離間した状態で介在させ、これらボールの転がり方向をガイドポストの軸線に平行に設定し、各ボールをガイドポストとガイドブッシュの嵌合部に遊嵌される円形の筒体からなるリテーナの曲面部に形成した円形の開口内に移動阻止状態に、かつ自転自在に収容すると共に、前記曲面部の内面側及び外面側から開口の内方に向かって突出する舌片を設けて脱落阻止状態に保持させたダイセット用直動装置は、例えば、実公昭40-1166号公報、特開昭48-14931号公報、実願昭58-66537号(実開昭59-171838号)のマイクロフィルム等に記載されているように、本件特許の出願前に周知である(以下、このダイセット用直動装置を「周知なダイセット用直動装置」という。)。 3 対比 訂正発明と上記周知なダイセット用直動装置とを対比すると、周知なダイセット用直動装置の「ボール」、「円形断面」、「円形軸部」、「曲面部」及び「円形の開口」は、それぞれ、「転動体」、「断面」、「軸部」、「面部」及び「開口」であることに限り、訂正発明の「円筒状又は円柱状のローラ」、「六角形又は八角形断面」、「多角形軸部」、「平面部」及び「矩形の開口」と一致している。 したがって、両者は、次の「ダイセット用直動装置」で一致している。 下型から上型に直立させた複数のガイドポストを上型に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュと転動体とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュの内周面とガイドポストの外周面とを転動体によって転がり接触させたダイセット用直動装置において、ガイドブッシュの内周面、及び、ガイドポストにおける前記ガイドブッシュとの嵌合部の断面を相互に相似な断面とし、ガイドポストとガイドブッシュの嵌合部の間隙に介在される転動体を複数の転動体とし、軸部の面部とガイドブッシュの内周面の面部との間に前記転動体の各々を互いに離間した状態で介在させ、これら転動体の転がり方向をガイドポストの軸線に平行に設定し、各転動体をガイドポストとガイドブッシュの嵌合部に遊嵌される筒体からなるリテーナの面部に形成した開口内に移動阻止状態に、かつ自転自在に収容すると共に、前記面部の内面側及び外面側から開口の内方に向かって突出する舌片を設けて脱落阻止状態に保持させたダイセット用直動装置。 しかし、両者は、次の相違点1及び2で相違している。 相違点1 訂正発明では、嵌合部の断面が六角形又は八角形断面であり、リテーナが六角形又は八角形の筒体であり、転動体が円筒状又は円柱状のローラであり、軸部が六角形又は八角形の多角形軸部で、その対向した平面部が軸線に平行に線対称に形成されており、当該平面部とガイドブッシュの内周面の平面部との間にローラを介在させ、各ローラをリテーナの平面部に形成した矩形の開口内に収容しているのに対し、周知なダイセット用直動装置では、そのようなものではなく、嵌合部の断面が円形断面であり、リテーナが円形の筒体であり、転動体がボールであり、軸部が円形軸部であり、軸部の曲面部とガイドブッシュの内周面の曲面部との間にボールを介在させたものであり、各ボールをリテーナの曲面部に形成した円形の開口内に収容している点。 相違点2 訂正発明では、ローラをその直径方向に0.005mm以下の所定量圧縮された圧入状態で介在させるのに対し、周知なダイセット用直動装置では、そのようなものではない点。 4 相違点についての検討 (1) 相違点1について 本件特許掲載公報第3欄第15行-第4欄第5行に、 「ここで、前記ガイドポスト(1)と上型(2b)とは直動機構によって対偶するが、この直動機構の精度が、ダイス(D)とポンチ(P)との直動精度に大きく影響する。・・・そこで、従来は、・・・ガイドブッシュ(21)とガイドポスト(1)との間に多数の転動体(20)が介在せしめられている。 この転動体(20)としては従来鋼球が使用されてきた。・・・鋼球が加圧状態でガイドポスト(1)の表面に転がり接触した状態で相対移動するとき、この接触部の面積が極端に少いことから、直動を繰り返す間に鋼球の移動軌跡に沿ってガイドポスト(1)の表面に溝状の痕跡が形成されるのである。この結果、ガイドポスト(1)と転動体(20)との間には前記痕跡に相当する摺動間隙が生じることとなり、直動機構部の直動精度が低下することとなる。 かかる不都合を解消するために、転動体(20)の形状を特別に構成したものが、実公昭54-30464号公報や、特開昭62-75128号公報に開示されており、このものでは、第10図に示すように、転動体(20)を太鼓状にしている。つまり、中央域の母線をガイドポスト(1)の外周面の円弧と一致する円弧状とし、両端部の母線をガイドブッシュ(21)の内周面に一致する円弧状としたローラを転動体(20)として採用している。 この改良例のものでは、転動体(20)の中央域の母線がガイドポスト(1)の外周面と接触し、両端の母線がガイドブッシュ(21)の内周面と接触する。従って、鋼球を転動体(20)とした上記従来のものに比べて転動体(20)とガイドポスト(1)またはガイドブッシュ(21)との転がり接触面積が広くなり、長期間に亙って使用しても、ガイドポスト(1)の表面に転動体(20)の移動の痕跡が生じない。」と、 ダイセット用直動装置において、従来例である鋼球の転動体とガイドポスト及びガイドブッシュの接触部との接触を、改良例の例えば太鼓状のような特別の形状の転動体とガイドポスト及びガイドブッシュの接触部との広い面積での接触に変更することにより、直動精度を高めることができることは、従来知られていたことであると記載されている。 また、この記載事項における従来例である鋼球の転動体とガイドポスト及びガイドブッシュの接触部との接触が点接触であり、改良例の例えば太鼓状のような特別の形状の転動体とガイドポスト及びガイドブッシュの接触部との接触が線接触であることは、技術常識より明らかである。 また、上記2の(2) のとおり、引用例2にも、転動体とガイドポスト及びガイドブッシュの接触部との接触を従来の点接触から線接触に変更することにより、高精度な案内性を保証するという、上記本件特許掲載公報記載事項と同様なことが記載されている。 したがって、ダイセット用直動装置において、転動体とガイドポスト及びガイドブッシュの接触部との接触を従来の点接触から線接触に変更することにより、直動精度を高めることができるということは、本件特許の出願前に周知である。 そして、このように、ダイセット用直動装置において、転動体とガイドポスト及びガイドブッシュの接触部との接触を従来の点接触から線接触に変更することにより、直動精度を高めることができるということが、周知の事項であり、また、上記2の(1) のとおり、引用例1に、ダイセットにおいて、ローラベアリングと断面が六角形又は八角形の平面部とによりその接触を線接触とすることが記載されているのであるから、当業者であれば、これらの事項より、周知のダイセット用直動装置において、転動体とガイドポスト及びガイドブッシュの接触部との点接触を円筒状又は円柱状の転動体と六角形又は八角形の平面部との線接触に変更することを思い付き、具体的に、転動体を円筒状又は円柱状のローラに変更するとともにガイドポスト及びガイドブッシュの形状を断面六角形又は八角形に変更し、多角形軸部の平面部とガイドブッシュの内周面の平面部との間に円筒状又は円柱状のローラを介在させることに、格別の困難性は見当たらない。 また、ガイドポスト及びガイドブッシュの断面を円形から六角形又は八角形の多角形に変更するに際し、正六角形又は正八角形の正多角形とすることは、正多角形を除いた多角形とすることが特に必要とされない限り、設計上自然のことであり、そして、正六角形又は正八角形であると、多角形軸部の六角形又は八角形の対向した平面部が軸線に平行に線対称となることは自明であるので、多角形軸部の六角形又は八角形の対向した平面部を軸線に平行に線対称に形成することは、設計的事項にすぎず、また、ガイドポストとガイドブッシュとの間隙もその断面が円形から六角形又は八角形に変更されることとなるのであるから、この間隙に遊嵌されるリテーナについても、その断面を円形から六角形又は八角形の筒体に変更し、上記開口をリテーナの平面部に形成することも、設計的事項にすぎない。 また、ローラを用いた直動機構において、ローラをリテーナの矩形の開口に収容することは、本件特許の出願前に周知(例えば、実願昭60-35994号(実開昭61-150524号)のマイクロフイルム参照。)であるので、上記転動体を円筒状又は円柱状のローラに変更するに際し、上記開口を円筒状又は円柱状のローラの形状に合わせて矩形とすることも、設計的事項にすぎない。 したがって、周知なダイセット用直動装置、引用例1に記載された事項及び上記各周知な事項に基づいて、相違点1における訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到することができたことである。 (2) 相違点2について ダイセット用直動装置において、ガイドポストとガイドブッシュとの間に転動体を所定量圧縮された圧入状態で介在させることは、本件特許の出願前に周知(例えば、特公昭62-48089号公報(第3欄第8-20行記載事項参照)、引用例2等参照。)であり、また、円筒状のローラを用いた直動装置において、円筒状のローラの転動体を所定量圧縮された圧入状態で介在させることも、本件特許の出願前に周知(例えば、「IKO 直線運動軸受総合カタログ CAT-1501」、日本トムソン株式会社、1984.7発行、p.133-145,149-153,159-165(特に、第165頁図6)参照。)であるので、上記相違点1についてで述べた周知なダイセット用直動装置の転動体を円筒状又は円柱状のローラに変更するに際し、上記の各周知な事項を採用し、円筒状又は円柱状のローラを所定量圧縮された圧入状態で介在させることに、格別の困難性は見当たらない。 また、この圧縮する量をどの程度とするかは、必要に応じて適宜決定する設計的事項であり、また、上記2の(2) のとおり、引用例2に「線接触の関係上、プリロードは3~6μという非常に微小な値で十分です」と、線接触により圧縮量を非常に微小な値とすることができる旨記載されているので、円筒状又は円柱状のローラの圧縮量を直径方向に0.005mm以下の所定量とすることにも、格別の困難性は見当たらない。 (3) 訂正発明の効果について 訂正発明が奏する効果は、周知なダイセット用直動装置、引用例1及び2に記載された事項並びに上記各周知な事項から予測できる程度のものであり、格別のものではない。 なお、上記第3の1のとおり、請求人は、訂正発明の「六角形又は八角形」は、加工コストを抑制しつつ横方向荷重に対する高剛性を確保することができるという技術的意義を有しているものである旨主張しているが、これは、「六角形又は八角形」の形状から予測できる程度のものであるので、上記主張は採用できない。 以上のとおり、訂正発明は、周知なダイセット用直動装置、引用例1及び2に記載された事項並びに上記各周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 第5 むすび 以上のとおりであるので、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合していない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-05-26 |
結審通知日 | 2003-05-29 |
審決日 | 2003-06-12 |
出願番号 | 特願平1-219523 |
審決分類 |
P
1
41・
121-
Z
(B21D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岡田 和加子 |
特許庁審判長 |
小池 正利 |
特許庁審判官 |
三原 彰英 宮崎 侑久 |
登録日 | 1999-04-02 |
登録番号 | 特許第2906063号(P2906063) |
発明の名称 | ダイセット用直動装置 |
代理人 | 宮崎 栄二 |
代理人 | 園田 敏雄 |