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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B60R
管理番号 1101080
異議申立番号 異議2001-71360  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-12-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-27 
確定日 2004-05-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3107383号「車体側部のエネルギ吸収構造」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3107383号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3107383号に係る出願は、平成2年3月26日になされ、平成12年5月29日付け手続補正書により明細書の記載が補正された後、平成12年9月8日に特許の設定登録がなされ、その後、長田龍治よりその請求項1に係る発明の特許に関して特許異議の申立がなされ、そして、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年10月2日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1 特許権者の求めている訂正
特許権者が求めている訂正は、以下のとおりである。

2-1-1 特許請求の範囲に関して
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された「・・トリムによって覆ったことを特徴とする車体側部のエネルギ吸収構造。」を「・・トリムによって覆い、上記エアバッグの上記ピラー部に位置する部分は、ピラーに取り付けられたシーミングウェルトにより固定されるピラートリムによって覆われており、上記エアバッグの展開時に該ピラートリムが上記シーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグの車室への膨出が許容されるように構成されていることを特徴とする車体側部のエネルギ吸収構造。」と訂正する。

2-1-2 発明の詳細な説明に関して
訂正事項2
段落番号【0012】に記載の「・・(1)請求項1記載の発明では、・・トリムによって覆ったことを特徴とし、・・」を「・・(1)請求項1記載の発明では、・・トリムによって覆い、上記エアバッグの上記ピラー部に位置する部分は、ピラーに取り付けられたシーミングウェルトにより固定されるピラートリムによって覆われており、上記エアバッグの展開時に該ピラートリムが上記シーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグの車室への膨出が許容されるように構成されていることを特徴とし、・・」と訂正する。

訂正事項3
段落番号【0015】に記載の「・・エアバックの展開作動が確実となる。」を「・・エアバックの展開作動が確実となる。
さらに、上記エアバッグの上記ピラー部に位置する部分は、ピラーに取り付けられたシーミングウェルトにより固定されるピラートリムによって覆われているため、シーミングウェルトとピラートリムが協同してエアバッグを覆い、乗員に違和感を与えることがなく、また、上記エアバッグの展開時にピラートリムがシーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグの車室への膨出が許容されるようになっているので、エアバッグの車室内への膨出も両立できるようになっている。」と訂正する。

訂正事項4
段落番号【0022】に記載の「・・良好となるものである。」を「・・良好となるものである。
さらに、上記エアバッグのピラー部に位置する部分は、通常時においては、エアバッグがシーミングウェルトとピラートリムにより覆われており、乗員に違和感を与えることがなく、さらに、車両の側面衝突時においては、ピラートリムがシーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグのスムーズな展開も併せて確保出来るという優れた効果が得られる。」と訂正する。

2-2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1に関連して、特許明細書には段落番号【0028】に「・・この実施例のものにおいては、上記エアバッグ8の一部を、上記ピラー1eの内側にシーミングウェルト15,15,・・によって固定される比較的軟質の素材からなるピラートリム14で構成している。」と、また、段落番号【0030】に「・・インフレータ6が作動してその各ガス噴出口6a,6a,・・からエアバッグ8の内部にガスが噴出されると、該エアバッグ8はこのガス圧によって展開されピラートリム14をその内側から押圧する。すると、該ピラートリム14を固定した上記各シーミングウェルト15,15,・・が外れてピラートリム14はピラー1eから離脱し、上記エアバッグ8の展開を許容する。・・」と記載されており、特許明細書に記載された事項の範囲内で特許請求の範囲に記載された構成を限定することにより、特許請求の範囲を減縮するものであり、新規事項を追加せず、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
次に、訂正事項2〜4は、上記の訂正事項1の訂正により不明瞭となる記載を釈明するものであり、新規事項を追加せず、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3. 特許異議申立に対する判断
3-1 特許第3107383号に係る出願の出願日
訂正された本件明細書には、異議申立人が指摘するように請求項1に「該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設される単一の袋体で構成」する旨記載されており、同構成と関連して、段落番号【0014】には、「 ・・単一の袋体でなるエアバックを、車室の上側側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設しているので、該エアバックは、その展開時にはそのルーフサイドレール部側とピラー部側との間において安定した支持力をもって張設された状態となり、乗員の肩又は頭部が該エアバックに向かって移動してきた際には、乗員の移動につれて移動することなく、乗員を確実に受け止めることができる。」と記載されるとともに、段落番号【0021】には、「・・単一の袋体でなるエアバックが、車室の上側両側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間で安定した支持力をもって張設され、・・」と記載されており、「該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設される単一の袋体で構成」という構成により、展開時に安定した支持力をもって張設された状態となるという作用効果を奏する旨記載されている。そして、異議申立人が指摘するように、「ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設される単一の袋体で構成」との構成に起因して展開時に「安定した支持力をもって張設」との記載は、願書に最初に添付された明細書中に同一の記載は認められない。
しかしながら、「ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設される単一の袋体」は、願書に最初に添付された図面の第7図に記載されており、さらに同添付された明細書には、「・・各エアバックモジュール4,5毎に設けられていたエアバッグ8,9を、両エアバッグモジュール4,5に跨がる一つのエアバッグ8で構成した・・車室内に略L字状にエアバッグ8が展開するため、・・」(明細書第20頁第9〜15行)とエアバッグがルーフサイドレールとピラー部とに支持されて展開する旨記載されており、しかも、エアバッグの展開が張力を持った状態まで展開することは自明の事項であるので、上記「安定した支持力をもって張設」と記載した補正は、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものであり、特許第3107383号に係る出願の出願日は、その現実の出願日である平成2年3月26日と認める。

3-2 本件発明
本件特許3107383号の請求項1に係る発明は、上記訂正のなされた明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりの、以下の事項により特定されるものである。
【請求項1】車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、車室の上側側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設される単一の袋体で構成し、上記エアバックを、該エアバックの展開時にその車室側への膨出を許容する許容部を設けたトリムによって覆い、上記エアバッグの上記ピラー部に位置する部分は、ピラーに取り付けられたシーミングウェルトにより固定されるピラートリムによって覆われており、上記エアバッグの展開時に該ピラートリムが上記シーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグの車室への膨出が許容されるように構成されていることを特徴とする車体側部のエネルギ吸収構造。

3-3 当審で通知した取消理由通知に引用した文献及びその記載事項
3-3-1 引用文献
引用文献1 英国特許出願公開第2191450号明細書(異議申立人が提出した甲第1号証の刊行物)
引用文献2 特開昭47-14843号公報(異議申立人が提出した甲第2号証の刊行物)

3-3-2 各引用文献の記載された発明
引用文献1には、「According to the invention, a vehicle occupant
protection device comprises at least one inflatable tube extending
along and secured to at least one structural member of the passenger
compartment of the vehicle bounding a window, and inertia
responsive means for effecting inflation of the tube in the
event that the vehicle is subject to acceleration in at least one
direction above a threshold value.
Preferably said predetermined direction is a horizontal transverse
direction relative to the vehicle.」(第1頁第33行〜第44行)、「・・the flexible tube 22 is secured to the inner face 26 of
the A-post 12 and is similarly secured to the cant rail 14 and
B-post 16.・・the tube 22 is・・and covered by a rupturable trim
piece 28.・・The pyrotechnic generator has an inertia sensitive
detonator (not shown) arranged to cause the pyrotechnic generator
to inflate the tubes 22 and 24 when the vehicle is subject to
oblique or side impact. These are the conditions where there is
a particular danger that an occupant's head might make violent
contact with the structure of the vehicle.」(第1頁第66行〜第85行)及び、「It is not necessary for the tube 22 to be continuous.
A series of separate tubes may be provided. 」(第1頁第96行〜第98行)と記載されている。これら記載と図面の記載とを併せみれば、引用文献1には、
車両の横方向の衝突時に展開して車室内の乗員を拘束するflexible tube22を、車室の上側側部に位置するcant rail14とcant rail14から下方に延びるB-post16の部分との間に跨がって配設される単一の袋体で構成し、上記flexible tubeを、flexible tube の展開時に破裂する破裂可能なtrim pice28で覆い、B-postの部分に設けられたflexible tubeも展開が許容される車体側部のエネルギを吸収する構造
の発明が記載されるものと認める。

また、引用文献2には、「図2に示したように、天井裏張り(44)には各網(50)の直下に縦方向の破裂線(96)が設けてあり、また各トリム材料(70)にはその下側の保持条帯(72)に隣接して縦方向破裂線(98)が設けてある。」と記載されており、引用文献2には、
網(50)の展開を許容する破裂線(96)(98)を設けた天井裏張り(44)及びトリム材料(70)
の発明が記載されるものと認める。

3-4 対比判断
ここで、本件請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明とを比較すると、引用文献1のものの「flexible tube」、「cant rail」、「B-post」及び「trim pice」は、それぞれ本件請求項1に係る発明の「エアバッグ」、「ルーフサイドレール部」、「ピラー部」及び「トリム」にそれぞれ相当するものと認められるとともに、引用文献1のものの「trim pice」が破裂可能であることは、flexible tubeの展開を許容することとを意図するものと認められるから、両発明は、
車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、車室の上側側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設される単一の袋体で構成し、上記エアバックを、該エアバックの展開時にその車室側への膨出を許容するトリムによって覆った車体側部のエネルギ吸収構造
の発明である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1
本件請求項1に係る発明の「トリム」は、エアバックの展開時にその車室側への膨出を許容する許容部を設けたものであるのに対して、引用文献1のもののtrim piceは、flexible tubeの展開時に破裂するものである点

相違点2
本件請求項1に係る発明のエアバッグの上記ピラー部に位置する部分は、ピラーに取り付けられたシーミングウェルトにより固定されるピラートリムによって覆われており、上記エアバッグの展開時に該ピラートリムが上記シーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグの車室への膨出が許容されるように構成されるのに対して、引用文献1のものでは、B-postの部分に設けられたflexible tubeも展開が許容されるものではあるものの、それを覆うことに関する特段の記載はない点

以下、相違点について検討する。
引用文献1のものにおいても、trim piceは、flexible tube の展開時に破裂することにより、展開を許容しており、しかも、引用文献2には、展開を許容する破裂線(96)(98)を設けた天井裏張り(44)及びトリム材料(70)が示されている。そして、引用文献2の「破裂線」は、本件請求項1に係る発明の許容部に相当するものと認められるから、相違点1は、引用文献1,2のものに基づいて、当業者が容易になしえたものと認める。

次に、相違点2について検討すると、引用文献1のものは、B-postの部分に設けられたflexible tubeを覆うことに関する特段の記載はないものの、その展開が許容されるものではあることは明らかであり、しかも、cant railには、flexible tubeを展開を許容するように覆うことが示されているから、B-postの部分も、flexible tubeの展開を許容するようにtrim piceで覆うことは、引用文献1に示唆される事項であり、さらに、エアバッグを覆う部材がエアバッグの展開を許容する手段として、覆う部材の固定が外れることによることは、従来周知の技術である(参考例 実公昭49-9320号公報(従来技術部分))から、相違点2は、引用文献1のもの及び周知の技術に基づいて、当業者が容易になしえたものと認める。

そして、本件請求項1に係る考案の奏する効果は、各引用文献のもの及び周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない。

3-4 むすび
以上説示のとおり、本件請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1,2に記載された発明、及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それら発明に係る特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであり、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、特許法第113条第2号に規定する決定をなすべきものであるから、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車体側部のエネルギ吸収構造
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、車室の上側側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設される単一の袋体で構成し、上記エアバックを、該エアバックの展開時にその車室側への膨出を許容する許容部を設けたトリムによって覆い、上記エアバッグの上記ピラー部に位置する部分は、ピラーに取り付けられたシーミングウェルトにより固定されるピラートリムによって覆われており、上記エアバッグの展開時に該ピラートリムが上記シーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグの車室への膨出が許容されるように構成されていることを特徴とする車体側部のエネルギ吸収構造。
【請求項2】 車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、車室の上側側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部にそれぞれ配置するとともに、車両の側面衝突時には上記ルーフサイドレール部に配置されたエアバッグを上記ピラー部に配置されたエアバッグよりも所定時間遅れて展開させるようにしたことを特徴とする車体側部のエネルギ吸収構造。
【請求項3】 車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、車室の上側両側部に位置する左右一対のルーフサイドレール部と該各ルーフサイドレールから下方に延びる左右一対のピラー部とにそれぞれ配置するとともに、車両の側面衝突時には、衝突側のピラー部に配置されたエアバッグと、反衝突側のルーフサイドレール部及びピラー部にそれぞれ配置されたエアバッグをそれぞれ展開させるようにしたことを特徴とする車体側部のエネルギ吸収構造。
【請求項4】 車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、少なくとも車室の上側両側部に位置する左右一対のルーフサイドレール部にそれぞれ配置するとともに、車両の側面衝突時には反衝突側に位置するエアバッグを衝突側に位置するエアバッグよりも所定時間遅れて展開させるようにしたことを特徴とする車体側部のエネルギ吸収構造。
【請求項5】 車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、少なくとも車室の両側部の車体前後方向中間位置において上下方向に延びる左右一対のピラー部にそれぞれ配置するとともに、車両の側面衝突時には反衝突側に位置するエアバッグを衝突側に位置するエアバッグよりも所定時間遅れて展開させるようにしたことを特徴とする車体側部のエネルギ吸収構造。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本願発明は、エアバッグを用いた車体側部のエネルギ吸収構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、車両においては、その側面衝突時における乗員保護の観点から、ドアのベルトライン部とかドアのアームレスト部分にエアバッグを設けて車両の側面衝突時にはこのエアバッグを車室内に展開させて乗員を拘束し、乗員がドア内面等に直接衝突するのを防止することが試みられており(例えば、実開平1-117957号公報参照)、多大の効果を挙げている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上掲公知例のようにドア部分にエアバッグを配置することによって車両の側面衝突時における乗員保護の向上が図れる訳であるが、本願発明者らは乗員保護性能のより一層の向上を図るべく側面衝突時における乗員の挙動を具体的に検討した結果、以下に述べる諸点を知見するに至った。
【0004】
即ち、例えば第19図に示すように、車両1の運転席2に乗員Mが着座している状態において運転席側の外方から他の車両Xが衝突してきた場合における乗員Mの挙動を考えると、他の車両Xが乗用車タイプの車両である場合には一般にそのバンパーは車両1の乗員Mの腰部付近の高さに位置するため、他の車両Xの衝突によって乗員Mは先ずその腰部付近に横荷重F1を受ける。このため、乗員Mは、慣性力によってその上体が一旦衝突側、即ち、車両1の左側部1a側に振られ、ここでこの左側部1aの内壁部材に衝突することになる。
【0005】
さらに、乗員Mは、このように一旦左側部1a側へ振られた後は、その反動によって今度は第20図に示すように、運転席2側から助手席3側に大きく投げ出されるが、この場合、上述のように乗員Mに対する衝撃力は乗員Mの腰部付近に入るため、たとえ乗員Mは運転席2に対して前方に向って着座していたとしても、乗員Mは体全体が横にねじ向けられ且つその要部を右側部1b側に突き出した状態でしかも斜め上方に向って投げ出されることになる。この結果、乗員Mは、車両1の右側部1bの上部からルーフサイドレール1dにかけての内壁部分に衝突することが予想される。
【0006】
また、この場合、乗員Mはその腰部を前方に突き出した状態で投げ出されるために、該腰部はこれより上側の肩部あるいは頭部よりも早いタイミングで内壁部材に衝突すると考えられる。
【0007】
即ち、車両の側面衝突時には乗員が車室側部の比較的上側部分に衝突する可能性のあること、及び乗員が車室内壁部材に衝突するタイミングは衝突側と反衝突側との間、及び車室の上下位置間ではそれぞれズレがあることが知見されたものである。
【0008】
従って、車両の側面衝突時における乗員保護性能のより一層の向上を図るためには、車室上部付近への乗員の衝突及びその衝突のタイミング等の乗員の挙動を十分に考慮した対策が必要であると言える。
【0009】
また一方、乗員保護性能という観点からすれば、エアバッグの特性そのものも考慮する必要がある。即ち、エアバッグはインフレータから発生するガス(通常は窒素ガス)によってこれを展開させる構造であるが、該エアバッグの反発力が過大になると却って乗員に対する拘束性能が低下するため、一般にエアバッグにはベントホールが設けられ、展開したエアバッグに乗員が当接するとベントホールからガスを適度に逃がしながら衝撃荷重を吸収し、乗員拘束上最適な展開状態を確保するように構成されている。
【0010】
しかし、このインフレータの発生ガス量は限りがあるため、エアバッグの最適な展開状態が得られる期間は自ずと限定される。従って、この最適な展開状態が得られる期間中に乗員の拘束作用が行えるようにその展開タイミングを考慮することが肝要である。
【0011】
そこで本願発明は、このような乗員の挙動あるいはエアバッグの構造等を勘案して、車両の側面衝突時における乗員の保護性能のより一層の向上を図り得るような車体側部のエネルギ吸収構造を提案せんとしてなされたものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として、
(1)請求項1記載の発明では、車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、車室の上側側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設される単一の袋体で構成し、上記エアバックを、該エアバックの展開時にその車室側への膨出を許容する許容部を設けたトリムによって覆い、上記エアバッグの上記ピラー部に位置する部分は、ピラーに取り付けられたシーミングウェルトにより固定されるピラートリムによって覆われており、上記エアバッグの展開時に該ピラートリムが上記シーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグの車室への膨出が許容されるように構成されていることを特徴とし、
(2)請求項2記載の発明では、車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、車室の上側側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部にそれぞれ配置するとともに、側面衝突時には上記ルーフサイドレール部に配置されたエアバッグを上記ピラー部に配置されたエアバッグよりも所定時間遅れて展開させるようにしたことを特徴とし、
(3)請求項3記載の発明では、車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、車室の上側両側部に位置する左右一対のルーフサイドレール部と該各ルーフサイドレールから下方に延びる左右一対のピラー部とにそれぞれ配置するとともに、車両の側面衝突時には、衝突側のピラー部に配置されたエアバッグと、反衝突側のルーフサイドレール部及びピラー部にそれぞれ配置されたエアバッグをそれぞれ展開させるようにしたことを特徴とし、
(4)請求項4記載の発明では、車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、少なくとも車室の上側両側部に位置する左右一対のルーフサイドレール部にそれぞれ配置するとともに、車両の側面衝突時には反衝突側に位置するエアバッグを衝突側に位置するエアバッグよりも所定時間遅れて展開させるようにしたことを特徴とし、
(5)請求項5記載の発明では、車両の側面衝突時に車内側に展開して車室内の乗員を拘束するエアバッグを、少なくとも車室の両側部の車体前後方向中間位置において上下方向に延びる左右一対のピラー部にそれぞれ配置するとともに、車両の側面衝突時には反衝突側に位置するエアバッグを衝突側に位置するエアバッグよりも所定時間遅れて展開させるようにしたことを特徴としている。
【0013】
【発明の作用】
本願発明では、かかる構成とすることで次のような作用が得られる。
【0014】
▲1▼ 請求項1記載の発明では、車両の側面衝突時には、単一の袋体でなるエアバックを、車室の上側側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間に跨がって配設しているので、該エアバックは、その展開時にはそのルーフサイドレール部側とピラー部側との間において安定した支持力をもって張設された状態となり、乗員の肩又は頭部が該エアバックに向かって移動してきた際には、乗員の移動につれて移動することなく、乗員を確実に受け止めることができる。
【0015】
さらに、上記エアバックは、通常時においてはトリムによって覆われているので、該エアバックの存在により乗員が違和感を感じることが無く、しかもこのトリムには許容部が設けられているので、車両の側面衝突時における上記エアバックの展開が上記トリムによって阻害されることがなく、該エアバックの展開作動が確実となる。
さらに、上記エアバッグの上記ピラー部に位置する部分は、ピラーに取り付けられたシーミングウェルトにより固定されるピラートリムによって覆われているため、シーミングウェルトとピラートリムが協同してエアバッグを覆い、乗員に違和感を与えることがなく、また、上記エアバッグの展開時にピラートリムがシーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグの車室への膨出が許容されるようになっているので、エアバッグの車室内への膨出も両立できるようになっている。
【0016】
▲2▼ 請求項2記載の発明では、車室の上側側部の広範囲において展開する二つのエアバッグによって乗員が確実に拘束されるとともに、腰部を突き出した状態で投げ出される乗員が真っ先に衝突するピラー部のエアバッグが該腰部よりも遅れて衝突するルーフサイドレール部のエアバッグよりも先に展開するため、該各エアバッグはともに最適な展開状態下で乗員の拘束作用を行うことになる。
【0017】
▲3▼ 請求項3記載の発明では、側面衝突の初期段階においては浮き上がらずに比較的低い位置で衝突側に振られる乗員が衝突側の低い位置に配置したピラー部のエアバッグによって拘束され、また側面衝突の後期段階では反衝突側に浮き上がった状態で投げ出される乗員は衝突側のピラー部及びルーフサイドレール部にそれぞれ設けられたエアバッグによって拘束されることになる。
【0018】
▲4▼ 請求項4記載の発明では、左右のルーフサイドレール部にそれぞれ設けたエアバッグのうち、衝突側に設けたエアバッグが反衝突側に設けたエアバッグよりも早いタイミングで展開するため、乗員は側面衝突の初期段階では衝突側のエアバッグによって、後期段階では反衝突側のエアバッグによって、しかもともに最適な展開状態の下で拘束されることになる。
【0019】
▲5▼ 請求項5記載の発明では、左右のピラー部にそれぞれ設けたエアバッグのうち、衝突側に設けたエアバッグが反衝突側に設けたエアバッグよりも早いタイミングで展開するため、乗員は側面衝突の初期段階では衝突側のエアバッグによって、後期段階では反衝突側のエアバッグによって、しかも共に最適な展開状態の下で拘束されることになる。
【0020】
【発明の効果】
従って本願各発明の車体側部のエネルギ吸収構造によれば、それぞれ次のような効果が得られることとなる。
【0021】
(イ) 請求項1記載の発明にかかるエネルギ吸収構造によれば、車両の側面衝突時には、単一の袋体でなるエアバックが、車室の上側両側部に位置するルーフサイドレール部と該ルーフサイドレールから下方に延びるピラー部との間で安定した支持力をもって張設され、車両の側面衝突により移動する乗員の肩又は頭部を確実に拘束することから、より高水準の乗員保護性能が得られるものである。
【0022】
さらに、通常時においては、上記エアバックがトリムにより覆われて乗員に違和感を与えることがないことから、車両の商品価値の向上が期待できるとともに、上記トリムに許容部を設けることで車両の側面衝突時における上記エアバックのスムーズな展開を確保していることから、該エアバックの作動上の信頼性も良好となるものである。
さらに、上記エアバッグのピラー部に位置する部分は、通常時においては、エアバッグがシーミングウェルトとピラートリムにより覆われており、乗員に違和感を与えることがなく、さらに、車両の側面衝突時においては、ピラートリムがシーミングウェルトから外れることにより、上記エアバッグのスムーズな展開も併せて確保出来るという優れた効果が得られる。
【0023】
(ロ) 請求項2記載の発明では、各エアバッグが乗員の拘束上最適な展開状の下でしかも乗員の挙動に対応して作動するため、乗員の拘束がより確実となりその保護性能がより一層向上するという効果が得られる。
【0024】
(ハ) 請求項3記載の発明では、各エアバッグが乗員の挙動に対応して展開し乗員を拘束するものであるところからその保護性能の一層の向上が図れるという効果が得られ、さらにこれに加えて、車室の両側にそれぞれ二つづつ配置された合計四つのエアバッグのうち、乗員拘束上最も有用な三つのエアバッグのみを展開させるようにしているため、例えば、四つのエアバッグの全てが展開する場合に比して、インフレータからのガスの噴射音が低減されるとともに、車室内へのガスの放出量が少なく乗員に与えるガスの影響が可及的に低減される等の効果も得られるものである。
【0025】
(ニ) 請求項4及び5記載の発明では、側面衝突の初期段階及び後期段階のいずれの場合においても最適な展開状態のエアバッグによって乗員が拘束されるため、乗員に対する拘束がより確実となり、その保護性能のより一層の向上が図れるという効果が得られるものである。
【0026】
【実施例】
以下、添付図面を参照して本願各発明の好適な実施例を説明する。
【0027】
第1実施例
第1図には、本願発明の第1実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両1の助手席3(第5図参照)側の上側側部が示されており、同図において符号1cはルーフ、1dは該ルーフ1cの側部を車体前後方向に延びる閉断面状のルーフサイドレール(第3図参照)、1eは該ルーフサイドレール1dの前方向中間位置から下方に延びるピラー(いわゆるセンターピラー)であり、この実施例のものにおいては左右一対の上記ピラー1e,1eに後述のピラー側エアバッグモジュール4を、また左右一対のルーフサイドレール1d,1dに後述のルーフサイドレール側エアバッグモジュール5をそれぞれ取り付けている(第5図及び第6図参照)。
【0028】
上記ピラー側エアバッグモジュール4は、第2図に示すように、ピラー1eのインナーパネルの一部を凹状にへこませて形成されたモジュール取付ブラケット12に対して車室側から取り付けられるものであって、上記モジュール取付ブラケット12に締着固定されるモジュールケース10の内部に、多数のガス噴出口6a,6a,・・を形成した円筒状のインフレータ6と、折り畳まれた状態のエアバッグ8とを収容して構成されている。そして、この実施例のものにおいては、上記エアバッグ8の一部を、上記ピラー1eの内側にシーミングウェルト15,15,・・によって固定される比較的軟質の素材からなるピラートリム14で構成している。
【0029】
従って、このピラー側エアバッグモジュール4は、通常時(即ち、非側面衝突時)には、第2図に実線図示するように、ピラー1e内に収容され且つピラートリム14によってその車室側から覆われた状態となっており、乗員には何等違和感を与えることがない。
【0030】
一方、車両1が側面衝突しこれを車体側部に配置した衝突センサ(図示省略)が検知し、これを受けてインフレータ6が作動してその各ガス噴出口6a,6a,・・からエアバッグ8の内部にガスが噴出されると、該エアバッグ8はこのガス圧によって展開されピラートリム14をその内側から押圧する。すると、該ピラートリム14を固定した上記各シーミングウェルト15,15,・・が外れてピラートリム14はピラー1eから離脱し、上記エアバッグ8の展開を許容する。従って、エアバッグ8は最終的には第2図に鎖線図示(符号8′)するようにピラートリム14とともに車室側に大きく展開し、乗員を拘束し得る状態とされるものである。
【0031】
一方、上記ルーフサイドレール側エアバッグモジュール5は、第3図及び第4図に示すように、ルーフサイドレール1dのインナパネル側の一部を切り欠いて形成したモジュール収容部18内にモジュール取付ブラケット13を介して取り付けられるものであって、該モジュール取付ブラケット13に固定されるモジュールケース11にインフレータ7とエアバッグ9を取り付けて構成されている。そして、この実施例のものにおいては、上記ルーフサイドレール1dの車室側に取り付けられるレールトリム16のうち、上記ルーフサイドレール側エアバッグモジュール5に対応する部分をエアバッグリッド16aとして利用するようにしている。即ち、レールトリム16のルーフサイドレール側エアバッグモジュール5に対応する部分に該ルーフサイドレール側エアバッグモジュール5の外形形状に沿うように外周切り欠き溝19を、またその中間位置には中間切り欠き溝20をそれぞれ内側から形成し、この外周切り欠き溝19によって囲まれた部分をエアバッグリッド16aとしている。
【0032】
従って、通常時には第3図に示すように、ルーフサイドレール側エアバッグモジュール5はレールトリム16によって車室側への露出が防止されているため、乗員には何等違和感を与えることがない。
【0033】
一方、車両1の側面衝突時には、第4図に示すように、インフレータ7からの噴出ガスによってエアバッグ9が展開される時、該エアバッグ9はその展開圧力で上記エアバッグリッド部16aをその内面側から押圧し、これを上記中間切り欠き溝20部分から破断し上記外周切り欠き溝19部分を中心として上下方向に押し開く。従って、エアバッグ9は、その展開が許容され、車室側に大きく展開し、乗員を拘束可能な状態で待機することとなる。尚、上記外周切り欠き溝19は、特許請求の範囲における「トリムの許容部」に該当するものである。
【0034】
この実施例では、上述のようにピラー側エアバッグモジュール4とルーフサイドレール側エアバッグモジュール5を車両1の両側にそれぞれ配置しており、該車両1の側面衝突時にこれら各エアバッグモジュール4,4,5,5からエアバッグ8,8,9,9がそれぞれ車室側に展開することによって乗員の保護が図られるものである。ここで、該各エアバッグモジュール4,4,5,5の具体的な作動状態を、第5図及び第6図を参照して説明する。
【0035】
この実施例のものにおいては、例えば、第5図に示すように、他の車両Xが車両1の左側部1a側に衝突したような場合には、この衝突を衝突センサ(図示省略)が検知すると、これを受けて車室の上側両側部にそれぞれ配置された各ピラー側エアバッグモジュール4,4のエアバッグ8,8と各ルーフサイドレール側エアバッグモジュール5,5のエアバッグ9,9とが同時に展開するようにしている。
【0036】
従って、側面衝突の初期段階において乗員Mが衝突側に振られた場合には、第5図に示すように、左側部1a側に配置した各エアバッグ8,9によって乗員Mはその肩部及び頭部が拘束され、直接車室の内壁部材(例えば、ピラー1eとかルーフサイドレール1d部分)に衝突するのが防止される。
【0037】
また、側面衝突の後期においては、第6図に示すように、乗員Mは運転席2側から助手席3側に且つその腰部を突き出した格好でしかも上方に浮き上がった状態に投げ出されるが、この場合、乗員Mは反衝突側、即ち右側部1bの上部において展開状態で待ち受けている各エアバッグ8,9によって確実に拘束され、直接ピラー1eあるいはルーフサイドレール1dに衝突するのが防止される。
【0038】
このように、車室の上側両側部に配置した各エアバッグ8,8,9,9によって乗員Mを拘束することによって該乗員Mが受ける損傷を可及的に低減することができ、それだけ側面衝突に対する乗員保護性能が向上するものである。
【0039】
尚、この実施例においては上述のように、左右の各エアバッグ8,9を側面衝突時に同時に展開させるようにしているが、この他に例えば、本願の請求項4あるいは5記載の発明を適用して、反衝突側(この実施例の場合には右側部1b側)の各エアバッグ8,9を衝突側(この実施例では左側部1a)の各エアバッグ8,9よりも所定時間遅らせて展開させ、衝突側と反衝突側におけるエアバッグ8,9による乗員拘束タイミングのズレにかかわらず衝突側においても反衝突側においても最適な展開状態にある各エアバッグ8,9によって乗員Mを拘束するようにすることもでき、この場合には乗員に対する保護性能がさらに向上することになる。
【0040】
第2実施例
第7図には、本願発明の第2実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両1の要部が示されている。この実施例のものは、ピラー1eとルーフサイドレール1dの両方にそれぞれピラー側エアバックモジュール4とルーフサイドレール側エアバックモジュール5を配置したことは上記第1実施例の場合と同様であり、従って、該第1実施例の場合と同様の作用効果が得られるものであるが、特にこの実施例のものにおいては、上記第1実施例においては各エアバックモジュール4,5毎に設けられていたエアバック8,9を、両エアバックモジュール4,5に跨がる一つのエアバック8で構成したところが異なっている。
【0041】
このようにした場合には、車両1の側面衝突時には車室側に略L字状にエアバック8が展開するため、例えば、相互に密接状態で展開するピラー側エアバックモジュール4側のエアバック8とルーフサイドレール側エアバックモジュール5側のエアバック9との接触部に投げ飛ばされた乗員Mの体が入り込むというようなおそれが全くなく、上記第1実施例の場合よりもさらに高い乗員保護性能が確保されるものである。
【0042】
第3実施例
第8図及び第9図には、本願発明の第3実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両1が示されている。この実施例のものは、上記第1実施例において説明したと同様の構造をもつピラー側エアバックモジュール4とルーフサイドレール側エアバックモジュール5を車両1の両側部にそれぞれ配置したものであり、その構成自体においては上記第1実施例のものと何等変わるところがない。
【0043】
しかし、この実施例のものは後述のように各エアバックモジュール4,5の作動タイミングに特徴を有するものであって、これによって上記第1実施例のものに比肩する乗員保護性能が確保されるものである。
【0044】
即ち、この実施例においては、第10図のフローチャートにも示すように、側面衝突が発生したことを衝突センサが検知した場合には(ステップS1,2)、まずピラー1e側のエアバック8を展開させ(ステップS3)、その後、所定の時間遅れてルーフサイドレール1d側のエアバック9を展開させる(ステップS4,5)ようにしたものであり、このようにエアバックの展開タイミングをズラせることによって次のような動作が可能となるものである。
【0045】
即ち、第8図に示すように、側面衝突の初期段階においては、左右の各ピラー側エアバックモジュール4,4のエアバック8,8のみを同時に展開させる。これは、まず側面衝突の初期段階においては乗員Mは浮き上がることなくそのまま衝突側に振られるものであるため車室の最上部に位置する各ルーフサイドレール側エアバックモジュール5,5は作動させる必要性がピラー側エアバックモジュール4の場合に比して少ないこと、及び車両1の使用状態によっては運転席2側のみでなく助手席3側にも乗員が着座していることも考えられることによるものである。このようにすることによって、側面衝突の初期段階においてはピラー側エアバックモジュール4のエアバック8によって乗員Mが拘束され、その保護が図られるものである。
【0046】
一方、側面衝突の後期段階においては第9図に示すように、乗員Mは衝突側の上部に向けて投げ出されるが、この場合にはルーフサイドレール側エアバックモジュール5のエアバック9が既に展開して乗員Mを待ち受けているため、該乗員Mは上下に並んだ二つのエアバック8,9によって確実に拘束され、その保護が図られる。
【0047】
即ち、この実施例のものにおいては、側面衝突時の乗員Mの挙動に対応した作動により的確な乗員保護機能が得られるものである。
【0048】
第4実施例
第11図には、本願発明の第4実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両1の要部が示されている。この実施例は、上記第3実施例におけるピラー1e側のエアバック8とルーフサイドレール1d側のエアバック9との展開タイミングの調整の仕方の一つの具体例を示すものであって、第11図に示すように、ピラー側エアバックモジュール4はこれをインフレータ6とエアバック8を備えた上記第1実施例の場合と同様の構成とするが、ルーフサイドレール側エアバックモジュール5はインフレータを持たず、エアバック9の内部に単なるガス吹出部材22を設けた構成としている。そして、このガス吹出部材22を、その通路途中に後述のガス制御バルブ24を備えたガス通管23を介してピラー側エアバックモジュール4側のインフレータ6に接続している。即ち、この実施例のものは、ピラー側エアバックモジュール4側のインフレータ6によって二つのエアバック8,9をともに展開させようとするものであって、しかもその場合にガス制御バルブ24によってガス吹出部材22側へ流れるガス量を制御することによってルーフサイドレール1d側のエアバック9をピラー1e側のエアバック8よりも所定時間遅らせて展開させようとするものである。
【0049】
このようにルーフサイドレール1d側のエアバック9をピラー1e側のエアバック8よりも遅らせて展開させることによって、上記第3実施例の場合と同様の作用効果が得られるものである。
【0050】
ここで、上記ガス制御バルブ24の具体的構成を説明すると、先ず、第12図に示すガス制御バルブ24は、バルブケーシング25内にスプリング27によって常時弁座28に着座する如く付勢された弁体26を収容して構成されたものであり、上記弁座28を上記ピラー側エアバックモジュール4のインフレータ6側に向けた状態でガス通管23に取り付けられる。このような構成のガス制御バルブ24においては、車両1のものにおいては側面衝突により上記ピラー側エアバックモジュール4のインフレータ6が作動してこれからガスが噴出された場合、ガスは先ずピラー1e側のエアバック8の展開に専用される。そして、このエアバック8がほぼ完全に展開すると、その内部のガス圧力が上昇し、これによりガス制御バルブ24の弁体26がスプリング27のバネ力に抗して押し開かれ、該ガス制御バルブ24を介してルーフサイドレール1d側のエアバック9に上記インフレータ6からのガスが供給され、該エアバック9が展開される。即ち、このガス制御バルブ24は、ピラー1e側のエアバック8の内部圧によって自動的にルーフサイドレール1d側のエアバック9の展開タイミングをピラー1e側のエアバック8の展開タイミングよりも遅らせるようにしたものである。従って、構造が簡単でその信頼性が高く且つ安価であるという利点を有するものである。
【0051】
一方、第13図に示すガス制御バルブ24は、上記第12図に示すものとは異なり、弁体30をソレノイド29によって駆動するようにしている。従って、このものは上記のもののようにガス圧による自動開閉は行えないものの、ガス圧に無関係にこれを開閉し得るところから、ピラー1e側のエアバック8に対するルーフサイドレール1d側のエアバック9の展開タイミングを任意に設定可能であり、乗員の挙動により細かく対応した制御が可能になるという利点を有するものである。
【0052】
第5実施例
第14図及び第15図には、本願発明の第5実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両1が示されている。
【0053】
この実施例のものは、上記第1実施例のものと同様に、ピラー側エアバックモジュール4とルーフサイドレール側エアバックモジュール5を車室の両側にそれぞれ配置したものであり、その構造上は何等変わりない。しかし、この実施例のものは、このような基本構造を有するものにおいて、側面衝突時にこれら各エアバックを選択して展開させること、及びその展開タイミングを衝突側と反衝突側とで差を持たせた点に特徴を有しており、これにより上記第1実施例の場合に加えて、後述の如き有用な作用効果を得ることができるものである。
【0054】
即ち、この実施例のものにおいては、第16図のフロ-チャ-トに示すように、車両1が側面衝突しこれを衝突センサが検知した場合には(ステップS11,12)、先ず最初に、第14図に示すように、衝突側の上下二つのエアバック8,9のうち、ピラー1e側のエアバック8のみを展開させる(ステップS13)。これは、側面衝突の初期段階においては乗員Mが衝突側に振られるため衝突側においてはエアバックを展開させる必要があり、しかもその場合、乗員Mはほぼ着座状態の比較的低い位置において振られるため低い位置にあるピラー1e側のエアバック8に対して高い位置にあるルーフサイドレール1d側のエアバック9はその展開要求が低いことによるものである。
【0055】
従って、この側面衝突の初期段階においては、衝突側のしかも比較的低い位置において展開するエアバック8によって乗員Mは確実に拘束され、その保護が図られるものである。
【0056】
一方、第15図に示すように、側面衝突の後期段階においては、反衝突側の二つのエアバック8,9が同時に展開し、乗員Mを拘束すべく待ち受ける。従って、要部を突き出した状態で運転席2側から助手席3側に投げ出された乗員Mは、この反衝突側の二つのエアバック8,9によってその要部のみならず、肩部及び頭部までの広い範囲に亘って確実に拘束され、その保護が図られるものである。
【0057】
また、この場合、反衝突側の各エアバック8,9が衝突側のエアバック8よりも所定時間遅れて展開することによって、該反衝突側の各エアバック8,9はそれぞれ最適な展開状態で乗員Mを待ち受けることができ、それだけより確実な乗員保護が期待できるものである。
【0058】
さらに、この実施例のように、合計四つ備えられている各エアバック8,8,9,9の全てを展開させるのではなく、乗員保護上必要最少限と考えられる三つのエアバックのみを展開させるようにした場合は、例えば、四つ全てを展開させる場合に比して、展開時のガス音の発生が少なく、また車室内に放出されるガス量そのものが少ないため、乗員に与える不快感あるいは健康上の影響を可及的に低減させることができるという利点が得られるものである。
【0059】
第6実施例
第17図及び第18図には上記各実施例の変形例とも言うべきエネルギ吸収構造を備えた車両1が示されている。この実施例のものは、上記各実施例と同様に、車室の両側上部にそれぞれピラー側エアバックモジュール4とルーフサイドレール側エアバックモジュール5を配置するとともに、これに加えて、第17図に示すように、ルーフ1cの車室側に配置されるトップシール部分にエアバック21を配置し、且つこのエアバック21を該エアバック21の左右両側に位置する各ルーフサイドレール側エアバックモジュール5,5の各エアバック9,9に連通させている。
【0060】
そして、車両1の側面衝突時には各ピラー側エアバックモジュール4,4のエアバック8,8と各ルーフサイドレール側エアバックモジュール5,5のエアバック9,9とを同時に展開させる。すると、この各ルーフサイドレール1d側のエアバック9,9の展開と同時にルーフ1c側のエアバック21が車室の天井側に展開し、これら五つのエアバックによって車室上部が囲まれた状態となり、乗員Mの保護がより完全なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【第1図】
本願発明の第1実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両の要部側面図である。
【第2図】
第1図のIIーII拡大縦断面図である。
【第3図】
第1図のIIIーIII拡大縦断面図である。
【第4図】
第3図の状態変化図である。
【第5図】
第1図に示したエアバックの作動説明図である。
【第6図】
第1図に示したエアバックの作動説明図である。
【第7図】
本願発明の第2実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両の要部側面図である。
【第8図】
本願発明の第3実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両におけるエアバックの作動説明図である。
【第9図】
本願発明の第3実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両におけるエアバックの作動説明図である。
【第10図】
エアバックの制御フロ-チャ-ト図である。
【第11図】
本願発明の第4実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両の要部側面図である。
【第12図】
第11図に示したガス制御バルブの構造説明図である。
【第13図】
第11図に示したガス制御バルブの構造説明図である。
【第14図】
本願発明の第5実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両におけるエアバック作動説明図である。
【第15図】
本願発明の第5実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両におけるエアバック作動説明図である。
【第16図】
エアバックの制御フロ-チャ-ト図である。
【第17図】
本願発明の第6実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両におけるエアバックの作動説明図である。
【第18図】
本願発明の第6実施例にかかる車体側部のエネルギ吸収構造を備えた車両におけるエアバックの作動説明図である。
【第19図】
車両の側面衝突時における乗員の挙動説明図である。
【第20図】
車両の側面衝突時における乗員の挙動説明図である。
【符号の説明】
1は車両、2は運転席、3は助手席、4及び5はエアバックモジュール、6及び7はインフレータ、8,9及び21はエアバック、10及び11はモジュールケース、12及び13はモジュール取付ブラケット、14はピラートリム、15はシーミングウェルト、16はレールトリム、22はガス吹出部材、23はガス通管、24はガス制御バルブ、29はソレノイドである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2001-10-17 
出願番号 特願平2-77488
審決分類 P 1 652・ 121- ZA (B60R)
最終処分 取消  
前審関与審査官 石井 孝明  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 溝渕 良一
藤井 昇
登録日 2000-09-08 
登録番号 特許第3107383号(P3107383)
権利者 マツダ株式会社
発明の名称 車体側部のエネルギ吸収構造  
代理人 今城 俊夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 大塚 文昭  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 小川 信夫  
代理人 西島 孝喜  
代理人 弟子丸 健  
代理人 今城 俊夫  
代理人 村社 厚夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 中村 稔  
代理人 村社 厚夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 西島 孝喜  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 中村 稔  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 竹内 英人  
代理人 箱田 篤  
代理人 竹内 英人  
代理人 弟子丸 健  
代理人 小川 信夫  

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