• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) A23G
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) A23G
管理番号 1112044
審判番号 無効2000-35326  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-08-15 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-06-19 
確定日 2005-02-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2997472号「水分取り込みの低減されたチユーインガム組成物およびその製法」の特許無効審判事件についてされた平成13年 3月23日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第0182号平成16年 6月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2997472号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
I.手続の経緯

本件特許2997472号発明は、昭和63年12月22日(パリ条約による優先権主張1987年12月23日、米国)に特願昭63-322247号として出願され、平成11年10月29日に設定の登録がなされたところ、これに対して、三井製糖株式会社より平成12年6月19日に本件無効審判の請求がなされた。

II.当事者の主張

1.請求人の主張
請求人は、「第2997472号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の甲第1号証乃至甲第4号証を提出し、その理由として、本件発明1乃至5に対する特許は、請求項1乃至5の記載が特許法第36条に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明には、当業者が発明を容易に実施できる程度に記載されていないので、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。

甲第1号証:「澱粉科学」29巻3号 210〜215頁
甲第2号証:特開昭48-49938号公報
甲第3号証:「化学大辞典 7巻」(共立出版発行)51頁
甲第4号証:「丸善食品総合辞典」(平成10年3月25日)

2.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の乙第1号証及び乙第2号証を提出している。

乙第1号証:「工業所有権逐条解説(第14版)」(特許庁編)社団法人発明協会発行 195〜197頁
乙第2号証:「平成6年改正 工業所有権法の解説」(特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室編)社団法人発明協会発行 117〜119頁

III.甲各号証の記載内容

甲第1号証には、「(5)マルトース異性化液の調製 試薬マルトースの5%(w/v)溶液を温度40℃で、強塩基型ダイヤイオンPA408のカラム中をSV1.0で12時間循環通液を行い調製した。このときのpHは約12であった。なお本調製法はマルチュロース含有シロップの製造法を参考にした。また、マルチュロース純品は量が少ないため、糖の同定及びペーパークロマトグラフィーでの検出限界と回収率の定量に用い、他はすべてマルトース異性化液を用いた。」(211頁左欄27〜35行)ことが記載されている。
甲第2号証には、「マルトースを異性化してマルチユロースを製造する方法に於いて、アルミニウムを含むアルカリ溶液を用いて異性化することを特徴とするマルチユロースの製造方法。」(特許請求の範囲)が記載され、「本発明は・・・マルトースを異性化してマルチユロースを製造する方法に関するものである。」こと(公報1頁1欄10行〜13行),「このマルチユロースの製造方法としてはアルカリを用いてマルトースを異性化する方法が知られている」(同1欄下から2行〜2欄1行)ことが記載されている。
甲第3号証には、マルトースが二糖類の一種で,マルトース(maltose)とも表示され,デンプンの基本構成単位となるものであることが記載されている。
甲第4号証には、「異性化マルトース[isomerized maltose]⇒マルツロース」、及び「マルツロース[maltulose]・・・マルトースをアルカリ異性化したのち、グルコアミラーゼ処理して、マルツロース含有率を高めるマルツロース含有シロップの製造法がある。」ことが記載されている。

IV.当審の判断

本件明細書の特許請求の範囲の記載内容を検討すると、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には、
「【請求項1】重量%で、下記成分:
(a)10〜75%の量のガムベース;
(b)10〜70%の量の異性化麦芽糖からなる増量剤;および、
(c)強力甘味料
を含有し、水分含量がチューインガム組成物全体の3.5重量%以下である、シュガーレス低吸湿性チューインガム組成物。」
と記載されている。
そこで、特許請求の範囲に記載された「異性化麦芽糖」の意味内容について検討する。
甲第3号証には、「麦芽糖」は,二糖類の一種で,マルトース(maltose)とも表示され,デンプンの基本構成単位となるものであることが記載され、「異性」とは,「分子式は同じであるが,構造が異なるため物理的,または化学的性質の異なる物質が,二つまたは二つ以上存在するとき,これらの化合物を互いに異性体とよび,このような現象を異性という。」(化学大辞典580頁)であり,「異性化」とは,「酸,アルカリその他の化学的作用によるか,温度,圧力などを変化させる物理的作用によって,化合物を構成する原子または原子団(基)の結合状態をかえれば,ある異性体から他の異性体に移すことができる。これを異性化という。」(前同)であることは技術常識である。
一方、甲第1号証にはマルトース異性化液を調製することが記載され、甲第2号証には,アルミニウムを含むアルカリ溶液を用いてマルトースを異性化することが記載され,甲第4号証にはマルトースをアルカリ異性化したのち、グルコアミラーゼ処理して、マルツロース含有シロップを製造することが記載されており、マルトースを異性化して,マルチユロース(マルツロース・maltulose)を生成することは周知のことである。
また,麦芽糖と同様に二糖類の一種である乳糖(ラクトース)については,これを異性化してラクツロースが得られること,及び,これを「異性化乳糖」と呼ぶことは,よく知られているところである。
以上からすれば,本件出願日において,本件発明における増量剤である「異性化麦芽糖」とは,「異性化乳糖」程に良く用いられる名称とはいえないものの,少なくともその用語自体から麦芽糖を異性化して得られるものを意味するものであることは当業者にとって明確に理解されるものということができる。
次に、本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容を検討すると、本件発明における増量剤である「異性化麦芽糖」について,本件明細書の発明の詳細な説明においては,「増量剤は,好ましくはα-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物であり,融点145〜150℃の異性化麦芽糖である。」(本件特許公報3頁5欄11行1〜14行)、「特に、本件発明で使用する増量剤は、商品名パラチニット(PALATINITT)として知られる異性化麦芽糖,またはα-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物である。」(4頁8欄30行〜35行)、「異性化麦芽糖パラチニツト」(5頁9欄1行)と記載されている。
本件明細書においては,上記のとおり,本件発明の増量剤である「異性化麦芽糖」は,好ましくは「α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物」であり,「商品名パラチニツト(PALATINITT )として知られる異性化麦芽糖」であると記載している。そして,パラチニットとは,「α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物」であり,蔗糖を異性化して得られるパラチノースを還元(水素を添加)して得られるものであることは争いがない。
ここで、パラチノースとは,「蔗糖β-1.2の結合を,α-1.6結合に変換した二糖」であり,蔗糖を異性化して得られるものであることから,このようなパラチノースを異性化蔗糖と呼ぶことは可能であっても,これを還元して得られるパラチニットを異性化蔗糖と呼ぶことはできないし,ましてや、これを異性化麦芽糖と呼ぶこともできないことは明らかである。
したがって、「異性化麦芽糖」と、パラチニット即ち「α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物」が別異の化学物質であることは明らかである。
そうすると、本件明細書の特許請求の範囲の「異性化麦芽糖」との記載と,発明の詳細な説明の記載とは,相矛盾するものであるから,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,旧特許法第36条第3項及び第4項第1号あるいは同条第4項第2号に反するものであるといわざるを得ない。
すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明には,増量剤としてパラチニット(パラチノースを還元したもの)についての記載しかなく,本件明細書の特許請求の範囲に記載された「異性化麦芽糖からなる増量剤」についての記載はないのであるから,同第36条第3項に規定する要件を満たしていないことになる。また,「異性化麦芽糖からなる増量剤」との構成をその必須の要件とする本件発明は,発明の詳細な説明にその構成についての記載がないのであるから,同第36条第4項第1号の「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件も満たさないものであることは明らかである。
特許権者は、本件発明における「増量剤」である「異性化麦芽糖」は,パラチニット(PALATINITT )であり,α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物であることは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかである,と主張するが、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたパラチニットを本件明細書の特許請求の範囲に記載された「異性化麦芽糖」と呼ぶことができないことは上記のとおりであるから,本件発明の「異性化麦芽糖」はパラチニットである,との特許権者の主張は採用できない。

V.まとめ

以上のとおり、本件出願は、特許法第36条第3項及び第4項第1号あるいは同条第4項第2号の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。


なお、審判請求人は、平成16年8月3日付け上申書において、別途訂正審判を請求した旨主張しているので、当該訂正審判請求(2004-39184)について検討すると、当該訂正審判請求は、以下の点で特許法第126条第1項および第2項の規定に適合しないので、拒絶すべきものである。

1.本件訂正審判の訂正事項(A)は、以下の点からみて、特許法第126条第1項第1号〜第3号に掲げるいずれの事項もその目的とするものと認められない。

(1)訂正事項(A)は 、特許請求の範囲第1項および第5項の「異性化麦芽糖」を、「α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物」と訂正しようとするものである。
そして、審判請求人は、審判請求書において、当該訂正は、「明りょうでない記載の釈明」あるいは「特許請求の範囲の減縮」あるいは「誤記の訂正」を目的とするものであると主張している。

(2)本件明細書においては,前記のとおり,特許請求の範囲には、「異性化麦芽糖からなる増量剤」と記載し、発明の詳細な説明においては,本件発明の増量剤である「異性化麦芽糖」は,好ましくは「α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物」であり,「商品名パラチニツト(PALATINITT )として知られる異性化麦芽糖」であると記載している。
ここで、前記のとおり、本件出願日において,本件発明における増量剤である「異性化麦芽糖」とは,「異性化乳糖」程に良く用いられる名称とはいえないものの,少なくともその用語自体から麦芽糖を異性化して得られるものを意味するものであることは当業者にとって明確に理解されるものということができる。
一方、パラチニットとは、パラチノースを還元して得られるものであり、パラチノースとは,「蔗糖β-1.2の結合を,α-1.6結合に変換した二糖」であり,蔗糖を異性化して得られるものであることから,このようなパラチノースを異性化蔗糖と呼ぶことは可能であっても,これを還元して得られるパラチニットを異性化蔗糖と呼ぶことはできないし,これを異性化麦芽糖と呼ぶこともできない別異の化学物質であることは明らかである。
そうすると,本件発明の増量剤を,本来,「パラチニット」あるいは「α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物」として特許請求の範囲に記載すべきところを,「異性化麦芽糖」と誤記したものであるのか,特許請求の範囲に記載した「異性化麦芽糖」すなわち麦芽糖を異性化したもの(マルチュロース等)を,発明の詳細な説明において,上記のとおりパラチニット等と誤記したものかのいずれかであるが、本件明細書の記載からは,特許請求の範囲の記載の「異性化麦芽糖」との用語が明らかな誤記であると一義的に断定することはできない。
したがって、上記訂正事項(A)は、「誤記の訂正」を目的とするものに該当するとはいえない。
また、上記のとおり、「異性化麦芽糖」は、本来「α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物」を意味するものとはいえないから、上記訂正は「釈明」には該当せず、当該記載を訂正しようとする上記訂正事項(A)は、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当するとはいえない。
更に、上記 訂正事項(A)は 、特許請求の範囲第1項および第5項の「異性化麦芽糖」を、別異の化学物質である「α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物」に訂正しようとするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとはいえない。

2.上記1のとおり、本件訂正審判の訂正事項(A)は訂正の要件を満たさないものであるが 、仮にこれらの事項が上記1の訂正要件を満たすものであったとしても、上記1(4)のとおり、上記 訂正事項(A)は 、特許請求の範囲第1項および第5項の「異性化麦芽糖」を、別異の化学物質である「α-D-グルコピラノシル-1,6-マンニトールおよびα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトールのラセミ混合物」に変更しようとするものであり、実質的に特許請求の範囲を変更するものであるから 、特許法第126条第2項に規定する要件を満たさない。
 
審理終結日 2004-09-14 
結審通知日 2004-09-15 
審決日 2001-03-23 
出願番号 特願昭63-322247
審決分類 P 1 112・ 532- Z (A23G)
P 1 112・ 531- Z (A23G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 冨士 良宏  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 田中 久直
種村 慈樹
佐伯 裕子
鵜飼 健
登録日 1999-10-29 
登録番号 特許第2997472号(P2997472)
発明の名称 水分取り込みの低減されたチユーインガム組成物およびその製法  
代理人 高木 千嘉  
代理人 松井 光夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ