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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1112913
異議申立番号 異議2002-72302  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-01-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-20 
確定日 2004-12-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3273046号「位相板」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3273046号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3273046号の請求項1ないし7に係る発明の出願は、平成3年6月25日に特許出願され、平成14年1月25日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされ、その後、請求項1ないし7の特許について、異議申立人ジェイエスアール株式会社、尾崎聡美及び中島勝也より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年2月12日に訂正請求がなされ、平成15年6月13日付けの審尋に対し、異議申立人ジェイエスアール株式会社から平成15年8月21日付けの回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
本件特許請求の範囲の請求項1の記載、「【請求項1】水素添加率が99%以上であるノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体水素添加物及びノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体からなる群より選ばれる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を溶融法により成形し、延伸配向してなるフィルムを複屈折層として有することを特徴とする位相板。」を、
「【請求項1】水素添加率が99%以上であるノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体水素添加物からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を溶融法により成形し、延伸配向してなる波長550nmでのレターデーションの絶対値が50~800nmで、かつレターデーションのバラツキが±30nm以内のフィルムを2枚以上含む複数の延伸配向フィルムからなる多層構造の複屈折性層を有することを特徴とする位相板。」と訂正する。
イ.訂正事項b
本件特許請求の範囲の請求項3を削除する。
ウ.訂正事項c
本件特許請求の範囲の請求項4の記載、「【請求項4】 多層構造が、2枚以上の延伸配向フィルムの光軸方向を同一方向に合わせたものである請求項3記載の位相板。」を、
「【請求項3】 多層構造が、2枚以上の延伸配向フィルムの光軸方向を同一方向に合せたものである請求項1記載の位相板。」と訂正する。
エ.訂正事項d
本件特許請求の範囲の請求項5の記載、「【請求項5】 複屈折性層の少なくとも片面に、光等方性保護層が積層されている請求項1ないし4のいずれか1項記載の位相板。」を、
「【請求項4】複屈折性層の少なくとも片面に、光等方性保護層が積層されている請求項1ないし3のいずれか1項記載の位相板。」と訂正する。
オ.訂正事項e
本件特許請求の範囲の請求項6の記載、「【請求項6】 少なくとも一方の最外層に、感圧性接着剤層を介して剥離性シートが積層されている請求項1ないし5のいずれか1項記載の液晶ディスプレイ用位相板。」を、
「【請求項5】少なくとも一方の最外層に、感圧性接着剤層を介して剥離性シートが積層されている請求項1ないし4のいずれか1項記載の液晶ディスプレイ用位相板。」と訂正する。
カ.訂正事項f
本件特許請求の範囲の請求項7の記載、「【請求項7】 偏光板を積層一体化してなる請求項1ないし6のいずれか1項記載の液晶ディスプレイ用位相板。」を、
「【請求項6】偏光板を積層一体化してなる請求項1ないし5のいずれか1項記載の液晶ディスプレイ用位相板。」と訂正する。
キ.訂正事項g
本件明細書の段落番号【0012】の記載を、
「【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、水素添加率が99%以上であるノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体水素添加物からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を溶融法により成形し、延伸配向してなる波長550nmでのレターデーションの絶対値が50~800nmで、かつレターデーションのバラツキが±30nm以内のフィルムを2枚以上含む複数の延伸配向フィルムからなる多層構造の複屈折層を有することを特徴とする位相板が提供される。」と訂正する。
ク.訂正事項h
本件明細書の段落番号【0014】の記載を、
「(熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂)
本発明で使用する熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂としては、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を、必要に応じてマレイン酸付加、シクロペンタジエン付加のごときポリマー変性を行なった後に、水素添加した樹脂を挙げることができる。重合方法および水素添加方法は、常法により行なうことができる。」と訂正する。
ケ.訂正事項i
本件明細書の段落番号【0029】中の、
「波長550nmのレターデーションの絶対値が30~1000nm、好ましくは50~800nmのものであり、目的に応じてこの範囲内の所望のレターデーションを持たせるようにする。」の記載を、
「波長550nmのレターデーションの絶対値が50~800nmのものであり、目的に応じてこの範囲内の所望のレターデーションを持たせるようにする。」と訂正する。
コ.訂正事項j
本件明細書の段落番号【0030】の記載を、
「レターデーションのバラツキは小さいほど好ましく、本発明の延伸配向フィルムは、波長550nmのレダーデーションのバラツキが±30nm以下、好ましくは±20nm以内の小さなものである。」と訂正する。
サ.訂正事項k
本件明細書の段落番号【0033】中の「多層構造を有する場合は、」の記載を、
「本発明の多層構造を有する位相板は、」と訂正する

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記ア.に係る訂正事項aは、訂正前の請求項1について、「ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体水素添加物及びノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体からなる群より選ばれる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂」の択一的な構成要件である「ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体」を削除し、かつ、「波長550nmでのレターデーションの絶対値が50~800nmで、かつレターデーションのバラツキが±30nm以内のフィルムを2枚以上含む複数の延伸配向フィルムからなる多層構造の複屈折性層を有する」との構成を加えるものであり、いずれも特許請求の範囲の減縮に該当するものある。そして、「波長550nmでのレターデーションの絶対値が50~800nmで、かつレターデーションのバラツキが±30nm以内のフィルムを2枚以上含む複数の延伸配向フィルムからなる多層構造の複屈折性層を有する」点は、願書に添付した明細書の段落番号[0029]、[0030]及び[0033]に記載されているから、上記訂正事項aは、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、イ.に係る訂正事項bは、訂正前の請求項3を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮に該当するもので、かつ、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
さらに、上記ウ.~コ.に係る訂正事項c~kは、上記訂正事項a及びbとの整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。そして、いずれの訂正も新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)むずび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
(1)本件の請求項1ないし6の発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1」・・・「本件発明6」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】水素添加率が99%以上であるノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体水素添加物からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を溶融法により成形し、延伸配向してなる波長550nmでのレターデーションの絶対値が50~800nmで、かつレターデーションのバラツキが±30nm以内のフィルムを2枚以上含む複数の延伸配向フィルムからなる多層構造の複屈折性層を有することを特徴とする位相板。
【請求項2】溶融法がTダイを用いた溶融押し出し法であることを特徴とする請求項1記載の位相板。
【請求項3】多層構造が、2枚以上の延伸配向フィルムの光軸方向を同一方向に合せたものである請求項1記載の位相板。
【請求項4】複屈折性層の少なくとも片面に、光等方性保護層が積層されている請求項1ないし3のいずれか1項記載の位相板。
【請求項5】少なくとも一方の最外層に、感圧性接着剤層を介して剥離性シートが積層されている請求項1ないし4のいずれか1項記載の液晶ディスプレイ用位相板。
【請求項6】偏光板を積層一体化してなる請求項1ないし5のいずれか1項記載の液晶ディスプレイ用位相板。

(2)引用刊行物に記載された発明
当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物2(特開平2-196832号公報)には、以下の(a1)~(a8)の事項が記載されている。
(a1)「本発明の目的は、透明性に優れ、複屈折率が小さく、フレキシブル光ディスクや光カードなどの光学材料用の基材としての使用に耐える強度を有し、しかも、防湿性および加熱収縮性などにも優れた環状オレフィン系重合体シートまたはフィルムを提供することである。」(第2頁左上欄16行~右上欄1行)
(a2)「本発明で使用する環状オレフィン系ランダム共重合体[A]は、エチレン成分および前記環状オレフィン成分を必須成分とするものであるが、これらの必須の2成分の他に本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。任意に共重合されていてもよい不飽和単量体として具体的には、例えば生成するランダム共重合体中のエチレン成分単位と等モル未満の範囲のプロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素数3~20のα-オレフィン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等の環状オレフィン、環状ジエンなどを例示することができる。」(第6頁右下欄1行~16行)
(a3)「本発明のシートまたはフィルムは、前記環状オレフィン系ランダム共重合体[A]、またはこれと必要に応じて配合される他の成分との組成物からシートまたはフィルムを形成し、これを2軸延伸したものである。
環状オレフィン系ランダム共重体[A]、またはこれと他の成分との組成物からシートまたはフィルムを成形するには、Tダイ法、インフレーション法などの一般的なシートまたはフィルム成形法を採用することができる。このとき成形されるシートまたはフィルムの厚さは特に制限されない。
こうして成形したシートまたはフィルムを2軸延伸することにより、2軸延伸した本発明のシートまたはフィルムが得られる。延伸はガラス転移温度(Tg)以上の温度で行うのが好ましく、延伸倍率は要求される強度に応じて任意に選択することができる。また延伸手段としては、ロール延伸、テンター延伸、インフレーション法など、一般的な延伸手段が採用できる。
本発明のシートまたはフィルムを製造する好ましい方法を具体的に説明すると、環状オレフィン系ランダム共重合体[A]またはその組成物をTダイ成形法またはインフレーション成形法などによって、肉厚0.03~5mm、好ましくは0.1~3mmのシートまたはフィルムを作製する。そしてこのシートまたはフィルムを共重合体[A]のガラス転移温度(Tg)より0~60℃、好ましくは10~40℃高い温度で、逐次または同時に2~50倍、好ましくは3~30倍に2軸延伸する。」(第10頁左上欄5行~右上欄13行)
(a4)「本発明の環状オレフィン系重合体フィルムまたはシートは透明性に優れ、強度が高く、防湿性、加熱収縮性にも優れていることから、包装材料としての使用は勿論のこと、ガラス窓、感光用フィルム、液晶表示用基板、透明導電性シートまたはフィルム、照明器具材料、表示素子用窓材、リソグラフィー用プロテクトフィルム、調光性フィルムまたはシートなどの用途に使用できる。」(第10頁左下欄3行~10行)
(a5)「上記の説明はエチレン成分と前記一般式[I]で表わされる環状オレフィン成分とからなる環状オレフィン系ランダム共重合体[A]について説明したが、この環状オレフィン系ランダム共重合体[A]の代わりに前記一般式[I]で表される環状オレフィンから選ばれる1種以上のオレフィン成分からなる開環重合体またはこの水素化物[B]を用いてもよく、同等の効果が得られる。この場合、環状オレフィン系ランダム共重合体[A]と同様の方法で、同様の特性を有するシートまたはフィルムを得ることができる。このような環状オレフィンの開環重合体は、例えば特開昭60-26024号公報に開示されている。」(第10頁右下欄3行~15行)
(a6)「前記開環重合体の水素添加反応は、触媒の種類に応じて均一系または不均一系において、1~150気圧の水素圧下に、0~180℃、好ましくは、20~100℃の温度範囲で行われる。水素添加率は、水素圧、反応温度、反応時間、触媒濃度などにより調節することができるが、水素化物が優れた耐熱劣化性および耐光劣化性を示すためには重合体中の主鎖二重結合の50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上が水素添加されることが好ましい。」(第11頁左下欄12行~右下欄1行)
(a7)「本発明によれば、環状オレフィン系ランダム共重合体[A]、または開環重合体もしくはこの水素化物[B]を2軸延伸したため、2軸延伸によって強度が大幅に向上し、高透明性、低複屈折率などの優れた光学特性および強度を有し、しかも防湿性および加熱収縮性などにも優れた環状オレフィン系重合体シートまたはフィルムが得られる。」(第11頁右下欄3行~9行)
(a8)「【実施例】
次に本発明の実施例について説明する。
実施例1~2
エチレンと8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,6.17,16]-3-ドデセン([化学式省略]、以下ETCD-3と略記する)の共重合体で、[η]が1.01dl/g、Tgが113℃のものを原料に、30mmφ押出機を使用してTダイ成形法で肉厚0.4mm(実施例1)または1.0mm(実施例2)のシートを作製した。これらのシートをTgよりおよそ20℃高い130℃で、同時2軸延伸を行い、肉厚0.1mmのシートを作製した。得られた延伸シートの光学特性、強度などの物性を測定した。結果を表2に示す。」(第11頁右下欄10行~12頁左上欄2行)
ここで、刊行物2に記載の共重合体が樹脂であることは明らかであり、また、延伸の際に分子の配向も行われていることも明らかであることから、結局、刊行物2には以下の発明が記載されているものと認められる。
「水素添加率が90%以上である環状オレフィンから選ばれる1種以上の環状オレフィン成分の開環(共)重合体の水素添加物からなる樹脂をTダイ法により成形し、延伸配向してなる光学材料用フィルム」

また、当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物3(「化学工業」1991年2月号、第20~26頁)には、以下の記載がある。
(b1)「「ZEONEX」は光学用途向けに開発されたポリマーであり、光ディスク、光学レンズの他、液晶表示の複屈折補償フィルム、偏光フィルム、導電フィルム、ポリゴンミラー、プリズム、光カード、光ファイバーなどへの応用も可能である。」(第26頁左欄5行~右欄3行)

同じく、当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物4(「光メモリシンポジウム’88論文集」第15~16頁」)には、以下の記載がある。
(c1)「新ポリオレフィンは、当社が製造しているC5モノマーの1つであるシクロペンタジエンから誘導されるノルボルネン系モノマー1を原料として製造される。ノルボルネン系モノマー1を開環重合させることにより、ポリマー主鎖に5員環を含んだポリマー2を得る。この開環重合ポリマー2は、ポリマー分子中に多くの不飽和結合を有しているため、光学的等方性及び透明性が損なわれる。そこで、ポリマー2を、既に当社が技術確立している水素添加ポリマーの製造技術により、完全に水素添加し、新ポリオレフィン3を製造した(Eq.1)。」(第15頁19行~24行)

同じく、当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物7(特開平2-158701号公報)は複合位相板に関する発明であるが、同刊行物7には以下の記載がある。
(d1)「低配向した流延法フィルムからなるレターデーション値30~1000nmの複屈折性単位フィルム(1a)の複数層が、それぞれの複屈折性単位フィルム(1a)の光軸方向を同一方向に合せた状態で積層一体化された複屈折性多層フィルム(1)からなる複合位相板。」(1頁左下欄5行~10行(特許請求の範囲の請求項1))
(d2)「複屈折性多層フィルム(1)は、その少なくとも片面に光等方性保護層(2)を積層して、光等方性保護層(2)付き複屈折性多層フィルム(1)として用いることもできる。
複屈折性多層フィルム(1)または上述の光等方性保護層(2)付き複屈折性多層フィルム(1)の少なくとも片面に感圧性接着剤層(3)を設け、さらにその上から剥離性シート(4)を積層することもできる。」(3頁右下欄14行~4頁左上欄2行)
(d3)「複屈折性多層フィルム(1)または上述の光等方性保護層(2)付き複屈折性多層フィルム(1)は、これに偏光板を積層一体化して偏光板付き位相板としたり、液晶セル製造前の基板に積層一体化して位相板付き液晶セル基板とすることもできる。」(4頁左上欄9行~14行)

同じく、当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物9(特開平3-109418号公報)に記載された発明は、ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物からなるフィルムに関するものであるが、同刊行物9には、以下の記載がある。
(e1)「水素添加率は、耐熱劣化性、耐光劣化性などの観点から、90%以上、好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上とする。」(第4頁左上欄8行~10行)

(3)対比及び当審の判断
ア.本件発明1について
[対比]
本件発明1と刊行物2に記載された発明とを比較すると、両者は、「水素が添加された開環(共)重合体水素添加物からなる樹脂を成形し、延伸配向してなる光学材料用フィルム」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1;
本件発明1では、樹脂が、水素添加率が99%以上であるノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体水素添加物からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂であるのに対し、刊行物2のものでは水素添加率が90%以上である環状オレフィン成分の開環(共)重合体水素添加物からなる樹脂である点。
相違点2;
本件発明1では、樹脂が溶融法により成形されるのに対し、刊行物2のものではTダイ法により成形される点。
相違点3;
本件発明1に係る位相板は、波長550nmでのレターデーションの絶対値が50~800nmで、かつレターデーションのバラツキが±30nm以内のフィルムを2枚以上含む複数の延伸配向フィルムからなる多層構造の複屈折層を有するのに対し、刊行物2に記載の発明に係るフィルムは、位相板として用いることは記載されておらず、また、上記数値限定に関する記載もなく、さらに、多層構造とすることも言及されていない点。
[当審の判断]
相違点1のついて;
ノルボルネン系モノマーが刊行物2に記載の発明に係る環状オレフィン成分に相当することは、刊行物2の上記(a2)の記載、及び刊行物4の上記(c1)の記載から明らかであるから、環状オレフィン成分としてノルボルネン系モノマーを用いることは、当業者が適宜採用することができたものである。
また、両者の発明は水素添加率の数値範囲が完全に一致するものではないが、刊行物9には、耐熱性、耐光性等の改善を図るという本願発明1と同様な目的で、ノルボルネン系樹脂の水素添加率を99%以上とすることが開示されているから、本願発明1のように、ノルボルネン系樹脂の水素添加率が99%以上の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を形成することは、当業者が容易に想到することができたものである。
なお、ノルボルネン系樹脂が熱可塑性であることは当業者において周知の技術事項である。
相違点2について;
刊行物2に記載のTダイ法も、溶融成形法の一つであるから、両者は実質的な差異はないものである。
相違点3について;
刊行物2には、フィルムをノルボルネン系樹脂を延伸配向して形成することは開示されているものの、それを位相板として用いることは記載されていない。しかしながら、刊行物3及び4を参酌すれば、環状ポリオレフィン、すなわちノルボルネン系樹脂(製品名「ZEONEX」)を液晶表示用の複屈折補償フィルムとして使用しうることは本件発明の出願前に知られていたことである。ここで、複屈折補償フィルムが、フィルムの複屈折性を利用したもので、適宜、延伸配向させることにより所望の複屈折率を得るもので、通常、位相板として用いられることは、本件発明の出願時において技術常識といえるものであるから、上述したとおり、刊行物2に示されたノルボルネン系樹脂が、液晶表示用の複屈折補償フィルムとして使用しうることが刊行物3及び4に開示されている以上、当該フィルムを位相板として用いることは、当業者であれば適宜採用しうる事項と認められる。
また、本件発明1では、波長550nmでのレターデーションの絶対値が50~800nmで、かつレターデーションのバラツキが±30nm以内のフィルムと特定しているが、これらの値は、フィルムを位相板として用いる際に、位相板の機能として通常に採用される数値範囲のものであり、格別なものとはいえない。なお、これらの数値範囲を満たす位相板が開示されている文献として、当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物5(特開平2-256003号公報;第6頁右上欄18行~左下欄15行)又は刊行物7(特開平2-158701号公報;第4頁左下欄10行~右下欄14行)を参照されたし。
さらに、本件発明1に係る位相板は、延伸配向フィルムを2枚以上含む多層構造としているが、延伸配向フィルムからなる位相板を多層構造とすることは、刊行物7にも示されているように本願出願前周知である。
そして、本件発明1に係る作用・効果も、刊行物2ないし5、刊行物7及び刊行物9に記載された発明並びに本願出願前周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本件発明1は、刊行物2ないし5、刊行物7及び刊行物9に記載された発明並びに本願出願前周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

イ.本件発明2について
刊行物2に記載のTダイ法も、溶融押し出し成形法の一つであるから、両者は実質的な差異はないものである。
したがって、本件発明2は、刊行物2ないし5、刊行物7及び刊行物9に記載された発明並びに本願出願目周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

ウ.本件発明3について
多層構造の位相板において、2枚以上の延伸配向フィルムの光軸方向を同一方向に合わせたものは、刊行物7に開示されている(上記3.(2)(d1)参照)。
したがって、本件発明3は、刊行物2ないし5、刊行物7及び刊行物9記載された発明並びに本願出願前周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

エ.本件発明4について
屈折性層の少なくとも片面に、光等方性保護層が積層されている位相板は、刊行物7に開示されている(上記3.(2)(d2)参照)。
したがって、本件発明4は、刊行物2ないし5、刊行物7及び刊行物9に記載された発明並びに本願出願前周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

オ.本件発明5について
少なくとも一方の最外層に、感圧性接着剤層を介して剥離性シートが積層されている位相板は刊行物7に開示されている(上記3.(2)(d2)参照)。
したがって、本件発明5は、刊行物2ないし5、刊行物7及び刊行物9に記載された発明並びに本願出願前周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明5についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

カ.本件発明6について
偏光板を積層一体化してなる液晶ディスプレイ用位相板は、刊行物5及び刊行物7に開示されている。
したがって、本件発明6は、刊行物2ないし5、刊行物7及び刊行物9に記載された発明並びに本願出願前周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし6に係る発明の特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
位相板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 水素添加率が99%以上であるノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体水素添加物からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を溶融法により成形し、延伸配向してなる波長550nmでのレターデーションの絶対値が50~800nmで、かつレターデーションのバラツキが±30nm以内のフィルムを2枚以上含む複数の延伸配向フィルムからなる多層構造の複屈折性層を有することを特徴とする位相板。
【請求項2】 溶融法がTダイを用いた溶融押し出し法であることを特徴とする請求項1記載の位相板。
【請求項3】 多層構造が、2枚以上の延伸配向フィルムの光軸方向を同一方向に合せたものである請求項1記載の位相板。
【請求項4】 複屈折性層の少なくとも片面に、光等方性保護層が積層されている請求項1ないし3のいずれか1項記載の位相板。
【請求項5】 少なくとも一方の最外層に、感圧性接着剤層を介して剥離性シートが積層されている請求項1ないし4のいずれか1項記載の液晶ディスプレイ用位相板。
【請求項6】 偏光板を積層一体化してなる請求項1ないし5のいずれか1項記載の液晶ディスプレイ用位相板。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、位相板に関し、さらに詳しくは、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂から成る延伸配向フィルムを複屈折性層に持つ光学的に均一な位相板に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶ディスプレイの高精細大面積化を達成するために、液晶分子のねじれ角を従来の90度より大きくした高マルチプレクス駆動ディスプレイが実用化されている。一般にスーパーツイストネマチックモード(STN系モード)と呼ばれ、SBEモードやSTNモードなどが知られている。このSTN系モードでは、電圧印加による急峻な分子配向変形と光学的な複屈折効果を組み合わせ、さらに優れた表示特性が得られるように、レターデーション(液晶の屈折率異方性とセルギャップの積=Δn・d)や偏光子の方位角の最適化を計っている。近年、STNモードにおいて、位相板を用いて複屈折効果により生じた透過光の位相差を補償する方式などにより、白黒表示が達成されるようになった。また、必要ならばカラーフィルターを附加してフルカラー化することもできる。
【0003】
ところで、このような位相板は、偏光された光の成分の相対位相を変えるのに用いられる複屈折性の材料で作られた板であり、合成樹脂製の配向フィルムが複屈折性層として用いられている。位相板の構造としては、1つの複屈折性層からなる単層構造、複屈折性が同一または異なる2層以上の複屈折層を積層した多層構造、保護層を有するものなどがある(例えば、特開平2-158701号)。
【0004】
例えば、液晶ディスプレイ用位相板は、鮮明な色彩と精細な画像を得るために、複屈折性層の全面が光学的に均一であるとともに、温度や湿度の変化によっても光学的特性が変化しないことが必要である。特に、自動車搭載用の液晶ディスプレイ・パネルに用いる場合には、過酷な条件での使用が予測されるため、少なくとも60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上の耐熱温度が要求される。
【0005】
従来、このような位相板の合成樹脂材料として、フェノキシエーテル型架橋性樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂などの各種フィルム形成性樹脂が使用されてきた。
【0006】
しかしながら、フェノキシエーテル型架橋性樹脂やエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリレート樹脂などは、均一な延伸が困難なうえ、耐湿性が不十分であり、0.1~0.2重量%程度の吸湿性を有するため、使用環境の湿度変化によりレターデーション安定性が低下する。また、ポリカーボネート樹脂やアリレート樹脂などは、耐熱性が高いため、延伸温度が高温であり、そのため延伸温度の制御が困難で、光学的に均一な位相板の製造が難しい。
【0007】
溶液流延法により製造したシートを延伸配向したフィルムは、表面の平滑性に優れるが、生産性が悪く、また、溶媒が残留するため使用環境によっては用いることができないという問題があり、ポリカーボネート樹脂などではTダイを用いた押し出し成形法などが用いられている。しかし、100~200μmの厚さのシートを成形する場合、成形中の収縮等により、全面での厚さムラが6~8μm程度にしか制御できない。
【0008】
さらに、これらの合成樹脂配向フィルムは、その光弾性係数が、通常、50~100×10-13cm2/dyneと大きいため、僅かな応力によりレターデーションが大きく変化するという問題がある。また、延伸前のシートに厚さムラが生じるが、そのまま延伸後のレターデーションのバラツキに反映する。
【0009】
このように、従来公知の合成樹脂配向フィルムから成る位相板は、液晶ディスプレイ用として充分満足できるものではなく、その改善が求められている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、複屈折性層の全面が光学的に均一であり、かつ、温度や湿度などが変化しても光学的に均一な液晶ディスプレイ用位相板を提供することにある。
【0011】
本発明者らは、前記従来技術の有する問題点を克服するために鋭意研究した結果、溶融法で作製した熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂のシートを延伸して得た配向フィルムが液晶ディスプレイ用位相板として優れた性質を有していることを見い出し、その知見に基づいて本発明を完成するに到った。
【0012】
【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、水素添加率が99%以上であるノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体水素添加物からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を溶融法により成形し、延伸配向してなる波長550nmでのレターデーションの絶対値が50~800nmで、かつレターデーションのバラツキが±30nm以内のフィルムを2枚以上含む複数の延伸配向フィルムからなる多層構造の複屈折性層を有することを特徴とする位相板が提供される。
【0013】
以下、本発明について詳述する。
【0014】
(熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂)
本発明で使用する熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂としては、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を、必要に応じてマレイン酸付加、シクロペンタジエン付加のごときポリマー変性を行なった後に、水素添加した樹脂を挙げることができる。重合方法および水素添加方法は、常法により行なうことができる。
【0015】
ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、およびそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、例えば、5-メチル-2-ノルボルネン、5-ジメチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、5-ブチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン等、これらのハロゲン等の極性基置換体;ジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロジシクロペンタジエン等;ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、およびハロゲン等の極性基置換体、例えば、6-メチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-エチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-エチリデン-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-クロロ-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-シアノ-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-ピリジル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-メトキシカルボニル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン等;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物;シクロペンタジエンの3~4量体、例えば、4,9:5,8-ジメタノ-3a,4,4a,5,8,8a,9,9a-オクタヒドロ-1H-ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9-トリメタノ-3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a-ドデカヒドロ-1H-シクロペンタアントラセン;等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲内において、開環重合可能な他のシクロオレフィン類を併用することができる。このようなシクロオレフィンの具体例としては、例えば、シクロペンテン、シクロオクテン、5,6-ジヒドロジシクロペンタジエンなどのごとき反応性の二重結合を1個有する化合物が例示される。
【0017】
本発明で使用する熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂は、トルエン溶媒によるゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法で測定した数平均分子量が通常25,000~100,000、好ましくは30,000~80,000、より好ましくは35,000~70,000の範囲のものである。数平均分子量が小さすぎると機械的強度が劣り、大きすぎると樹脂の合成時、シートの作製時や延伸加工時の操作性が悪くなる。
【0018】
熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂がノルボルネン系モノマーの開環重合体を水素添加して得られるものである場合、水素添加率は、耐熱劣化性、耐光劣化性などの観点から、通常90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは、99%以上とする。
【0019】
熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂は、透明性、耐熱性、耐湿性、耐薬品性等に優れている。特に、吸湿性は、通常0.05%以下、好ましくは0.01%以下のものを容易に得ることができる。また、その光弾性係数は、3~9×10-15cm2/dyneと小さく、光学的に均一な配向フィルムの製造に好適な材料である。
【0020】
本発明で用いる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂には、所望により、フェノール系やリン系などの老化防止剤、耐電防止剤、紫外線安定剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0021】
(シート)
本発明で用いる配向フィルムは、まず、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂をシートに成形し、該シートを延伸配向することにより作成される。
【0022】
本発明においては、溶融成形法によりシートを成形する。溶融成形法としては、Tダイを用いた方法やインフレーション法などの溶融押し出し法、カレンダー法、熱プレス法、射出成形法などがある。中でも、厚さムラが小さく、50~500μm程度の厚さに加工しやすく、かつ、レターデーションの絶対値およびそのバラツキを小さくできるTダイを用いた溶融押し出し法が好ましい。
【0023】
溶融成形法の条件は同程度のTgを有するポリカーボネート樹脂に用いられる条件と同様である。例えば、Tダイを用いる溶融押し出し法では、樹脂温度240~300℃程度で、引き取りロールの温度を100~150℃程度の比較的高温として、樹脂を徐冷できる条件を選択することが好ましい。また、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、ダイには滞留部が極力少なくなるような構造が必要であり、ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。
【0024】
また、これらのシートは必要に応じて表面を研磨することにより、更に表面精度を上げることができる。
【0025】
延伸前のシートは厚さが50~500μm程度の厚さが必要であり、厚さムラは小さいほど好ましく、全面において±8%以内、好ましくは±6%以内、より好ましくは±4%以内である。また、レターデーションの絶対値が全面で50nm以下、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下である。シートの厚さムラが大きいと延伸配向フィルムのレターデーションのバラツキが大きくなる。
【0026】
(延伸配向フィルム)
本発明で用いる延伸配向フィルムは、シートを一軸方向に延伸することにより得られる。延伸により分子が配向される。得られた延伸配向フィルムは、一定のレターデーションを持つ。なお、実質的な一軸延伸、例えば、分子の配向に影響のない範囲で延伸した後、分子を配向させるべく一軸方向に延伸する二軸延伸であってもよい。
【0027】
延伸倍率は1.3~10倍、好ましくは1.5~8倍であり、この範囲で所定のレターデーションとなるようにすればよい。延伸倍率が低すぎるとレターデーションの絶対値が上がらずに所定の値とならず、高すぎると破断することもある。
【0028】
延伸は、通常、シートを構成する樹脂のTg~Tg+50℃、好ましくはTg~Tg+40℃の温度範囲で行なわれる。延伸温度が低すぎると破断し、高すぎると分子配向しないため、所望の位相板が得られない。
【0029】
このようにして得たフィルムは、延伸により分子が配向されて、一定の大きさのレターデーションを持つ。位相板に用いるためには延伸配向フィルムは、波長550nmのレターデーションの絶対値が50~800nmのものであり、目的に応じてこの範囲内の所望のレターデーションを持たせるようにする。レターデーションは、延伸前のシートのレターデーションと延伸倍率、延伸温度、延伸配向フィルムの厚さにより制御することができる。延伸前のシートが一定の厚さの場合、延伸倍率が大きいフィルムほどレターデーションの絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸倍率を変更することによって所望のレターデーションの延伸配向フィルムを得ることができる。
【0030】
レターデーションのバラツキは小さいほど好ましく、本発明の延伸配向フィルムは、波長550nmのレダーデーションのバラツキが±30nm以内、好ましくは±20nm以内の小さなものである。
【0031】
レターデーションの面内でのバラツキや厚さムラは、それらの小さな延伸前のシートを用いるほか、延伸時にシートに応力が均等にかかるようにすることにより、小さくすることができる。そのためには、均一な温度分布下、好ましくは±5℃以内、さらに好ましくは±2℃以内、特に好ましくは±0.5℃以内に温度を制御した環境で延伸することが望ましい。
【0032】
(用途)
本発明の位相板の用途としては、偏光顕微鏡の部品、液晶ディスプレイの部品等がある。
【0033】
(液晶ディスプレイ用位相板)
液晶ディスプレイ用位相板の基本的な構造としては、(1)上記延伸配向フィルムの単層の複屈折性層からなるもの、および(2)複屈折性層が、上記延伸配向フィルムを2枚以上含む複数の複屈折性フィルムからなる多層構造を有しているものがある。本発明の多層構造を有する位相板は、通常の光軸を揃えて複屈折性フィルムを貼り合わせたもののほか、目的に応じて光軸が一定の角度になるように貼り合わせたものでもよい。例えば、異なるレターデーションを有する複数の延伸配向フィルムを光軸方向を同一方向に合わせて積層すると、レターデーションの加成性を利用して、多種のレターデーションを有する多層フィルムが得られる。積層枚数は2~6枚程度である。積層するのに用いる接着剤には、エマルジョン型接着剤、ポリマー溶液型接着剤、含溶剤または非溶剤の二液反応型接着剤、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、ホットメルト接着剤等がある。
【0034】
本発明の液晶ディスプレイ用位相板の他の構造としては、(3)複屈折性層の少なくとも片面に光等方性保護層(例えば、光等方性ポリカーボネートフィルムなど)が積層された構造を有するもの、(4)複屈折性層または光等方性保護層の少なくとも一方の面上に、感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層など)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セルなどに容易に貼着することができる)、あるいは(5)位相板が偏光板と積層一体化して偏光板付き位相板となっているもの、などを挙げることができる。
【0035】
熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂から成る複屈折性の延伸配向フィルムは、温度変化に強いのみでなく、耐湿性、耐水性に優れている。従来の液晶ディスプレイでは、駆動用液晶セルの保護のため、必要に応じて耐湿性、耐水性を有する樹脂から成る保護層を設けることがあったが、本発明の液晶ディスプレイ用位相板を用いると、そのような保護層の少なくとも1層を設けなくとも充分な耐湿性、耐水性が得られ、構造を簡略化することもできる。
【0036】
【実施例】
以下に参考例、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の例において、部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0037】
以下の例において、物性の測定方法は次のとおりである。
(1)数平均分子量は、トルエンを溶媒とするGPC法により測定した。
(2)水素添加率は、1H-NMRにより測定した。
(3)ガラス転移温度(Tg)は、延伸前シートの一部を試料として用いDSC法により測定した。
(4)レターデーションは、波長550nmのベレク・コンペンセイターにより測定した。
(5)シートおよびフィルムの厚さは、ダイヤル式厚さゲージにより測定した。
(6)光線透過率は、分光光度計により、波長400~700nmの範囲について波長を連続的に変化させて測定し、最小の透過率をその延伸前シートまたは延伸配向フィルムの光線透過率とした。
【0038】
[比較例1]
ポリカーボネート樹脂(GE社製、商品名レキサン131-111)を40mmのフルフライト型スクリューを有する単軸押出機を用いて、幅300mmのTダイから、溶融押し出しし、直径300mmの3本構成の冷却ロールで巻き取ることにより、シートを作製した。この際のダイ部での樹脂温度は285℃、冷却ロールの温度は、第1、第2、第3ロールの順に120℃、120℃、100℃であった。
【0039】
両端は厚さが不均一となるため、幅20mmの部分は切り落として、Tg141℃、平均厚さ120μm、厚さムラ±8μm、レターデーションが平均で15nm、その面内でのバラツキは±20nmの延伸前のシートを得た。
【0040】
得られた延伸前シートを155±3℃に制御し、1.5倍の延伸倍率で一軸方向に延伸し、延伸フィルムを得た。平均厚さは80μm、厚さムラは±6μm、レターデーションが平均で550nm、その面内でのバラツキは±90nmであった。
【0041】
この延伸フィルムを80℃で2時間保持した後、室温まで降温して測定したところ、レターデーションの絶対値は、平均で540nmであり、80℃に保持する以前と比較して変化率は2%であった。
【0042】
[参考例1]
6-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン(以下、MTDと略記)に、重合触媒としてトリエチルアルミニウムの15%シクロヘキサン溶液10部、トリエチルアミン5部、および四塩化チタンの20%シクロヘキサン溶液10部を添加して、シクロヘキサン中で開環重合し、得られた開環重合体をニッケル触媒で水素添加してポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をイソプロピルアルコール中で凝固させ、乾燥し、粉末状の樹脂を得た。この樹脂の数平均分子量は40,000、水素添加率は99.8%以上、Tgは142℃であった。
【0043】
[実施例1]
参考例1の粉末状の樹脂を250℃で溶融し、ペレット化を行った。このペレットを用いて、比較例1と同様にシートを作製した。この際のダイ部での樹脂温度は275℃、冷却ロールの温度は、第1、第2、第3ロールの順で120℃、120℃、100℃であった。
【0044】
この延伸前シートの両端は厚さが不均一となるため、幅20mmの部分は切り落とし、表面を目視および光学顕微鏡で観察したが、発泡、スジ、キズなどは観察されなかった。Tgは139℃、平均厚さは150μmで厚さムラは±4μm以下、光線透過率は90.5%、レターデーションは平均で22nm、その面内でのバラツキは±10nmであった。
【0045】
この延伸前のシートを140±2℃に制御し、2.5倍の延伸倍率で一軸方向に延伸し、延伸配向フィルムを得た。
【0046】
延伸配向フィルムの平均厚さは55μm、厚さムラは±1.5μm、レターデーションは平均で580nm、その面内でバラツキは±20nmであった。
【0047】
この延伸配向フィルムを80℃で2時間保持した後、室温まで降温し、レターデーションを測定したところ、平均で575nmであり、80℃に保持する以前と比較して変化率は1%であった。したがって、この延伸配向フィルムは、ポリカーボネート製のものと比較すると、温度変化に対するレターデーション安定性に優れ、レターデーションの面内でのバラツキが小さかった。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、光学的に均一であり、耐熱性、耐湿性に優れた位相板が提供される。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-23 
出願番号 特願平3-178891
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山村 浩  
特許庁審判長 鹿股 俊雄
特許庁審判官 矢沢 清純
末政 清滋
登録日 2002-01-25 
登録番号 特許第3273046号(P3273046)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 位相板  
代理人 西川 繁明  
代理人 西川 繁明  
代理人 大井 正彦  

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