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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H05K
管理番号 1112997
異議申立番号 異議2001-73432  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-13 
確定日 2004-12-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3221670号「ディップはんだ槽の銅濃度制御方法」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3221670号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第3221670号(以下、「本件特許」という。)は、平成12年2月24日付けの特許出願に係り、平成13年8月17日にその請求項1ないし10に係る発明について特許権の設定登録がなされたものであり、その後、平成13年12月13日に特許異議申立人・千住金属工業株式会社より、全請求項に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがあったので、当審において当該申立ての理由を検討の上、平成14年9月12日付けで全請求項に係る発明の特許について特許取消理由を通知したところ、その通知書で指定した期間内である平成14年11月26日に特許異議意見書と共に訂正請求書が提出されたものである。

【2】訂正の適否について
1.訂正の要旨
上記平成14年11月26日付けの訂正請求は、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであるが、その訂正の要旨は、特許請求の範囲を次のとおりに訂正するのものと認める。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔を有するプリント基板、または/および銅リード線を有する実装部品のディップはんだ付け工程において、錫、銅、ニッケルを必須成分とする第1のはんだ合金を溶融した槽中はんだの銅濃度が前記プリント基板の銅箔、または/および実装部品の銅リード線の銅成分が溶融混入することにより上昇したとき、錫、ニッケルを主成分とする第2のはんだ合金からなる補給はんだをはんだ槽に投入し、槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制するディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項2】 銅箔を有するプリント基板、または/および銅リード線を有する実装部品のディップはんだ付け工程において、錫、銅、ニッケルを必須成分とする第1のはんだ合金を溶融した槽中はんだの銅濃度が前記プリント基板の銅箔、または/および実装部品の銅リード線の銅成分が溶融混入することにより上昇したとき、前記第1のはんだ合金と主成分が同一であって前記第1のはんだ合金の銅濃度よりも低い銅濃度の第3のはんだ合金からなる補給はんだをはんだ槽に投入し、槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制するディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項3】 補給はんだは、槽中はんだの液面が所定高さに低下すれば投入される請求項1~2のいずれか記載のディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項4】 補給はんだは、一定のプリント基板の処理枚数ごとにはんだ槽に投入する請求項1~2のいずれか記載のディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項5】 槽中はんだの銅濃度は、槽中はんだ温度が255℃前後において0.85重量%未満に制御する請求項1~2のいずれか記載のディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項6】 請求項1~5のいずれかの方法におけるディップはんだ槽を介して得られたはんだ継手を組み込んだ電気・電子装置。
【請求項7】 予め溶融した錫、銅、ニッケルを主成分とする槽中はんだに投入する補給はんだであって、この補給はんだは錫、ニッケルを主成分とすることを特徴とした補給はんだ。」

2.訂正の目的の適否
上記特許請求の範囲の訂正は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、4及び5を削除すると共に、従属形式で記載された請求項2及び3を、それぞれ独立形式の新たな請求項1及び2とし、これに併せて、特許明細書の特許請求の範囲の請求項6~10の項番号を繰り上げると共に、それらが引用する請求項を整合するように訂正するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。

3.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記特許請求の範囲の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記【2】で示したように上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記【2】1.参照)

2.先願と先願明細書の記載事項
当審が上記平成14年9月12日付けで通知した特許取消理由において引用した、本件発明に係る出願の日前の他の出願(以下、「先願」という。)であって、その出願後に出願公開された特願2000-25859号(特開2001-217531号(甲第1号証))の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)には、「Cuが含まれた鉛フリーはんだをはんだ槽で使用して減量したはんだを追加供給するときに、はんだ槽内の鉛フリーはんだのCu成分を一定に保つようにする供給方法」(段落【0001】)に関して、次の事項が記載されている。
ア)「Cu含有鉛フリーはんだを入れたはんだ槽にはんだを追加供給する方法において、所定組成の鉛フリーはんだからCu成分だけを除去した合金、または所定組成の鉛フリーはんだのCu含有量よりもCu成分が少ない合金をはんだ槽に供給してCu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整することを特徴とするはんだ槽へのはんだ追加供給方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)
イ)「前記Cu含有鉛フリーはんだは、……Sn-Cu合金に……Ni……等が一種以上添加された合金であることを特徴とする請求項1記載の鉛フリーはんだの成分調整方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】)
ウ)「【従来の技術】 テレビ、ビデオ、ラジオ、コンピューター、複写機、通信機器等の電子機器はプリント基板に電子部品を搭載したものが使用されている。この電子部品はプリント基板に堅固に固定されているとともにプリント基板と電気的に良好な導通がなされていなければならない。そのため電子部品とプリント基板の接続には、はんだが使用されている。」(段落【0002】)
エ)「……電子部品やプリント基板等のワーク……」(段落【0003】)
オ)「……浸漬法でCuのワークをはんだ付けしたときに、……大量生産ではんだ付けされるワークの数が多いため、はんだ槽中のはんだに溶出するCuの量はトータルとして多くなってしまう。……」(段落【0015】)
カ)「そのため、はんだ槽では溶融はんだの液面を常に監視する液面センサーを設置しておき、はんだの量が少なくなって、はんだの液面が下がったときには液面センサーが警報を発するようになっている。この警報が発せられたならば、作業者や自動供給装置が棒状はんだやワイヤー状はんだをはんだ槽に供給して所定の液面を保つようにしている。」(段落【0017】)
キ)「【課題を解決するための手段】 ……多数のワークをはんだ槽中のワークに接触させるためにワークからCuが溶出してCuの含有量が増えるが、この増えたCuを所定のCu含有量に戻すことができればCuの異常増加による前述のような問題点を解決できるようになること……」(段落【0019】)
ク)「【実施例】(実施例1) 大型のはんだ槽中に所定の成分としてSn-0.75Cu-3.5Agの鉛フリーはんだを500Kg入れておく。このはんだ槽で浸漬法によりテレビ用プリント基板を512枚はんだ付けしたところで液面センサーが作動し、警報が発せられた。このとき溶融はんだの液面は初期の位置から5mm下がり、はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.90質量%となっていた。そこでCuを全く含まないSn-3.5Agの合金を初期と同じ液面になるまで追加供給した。そして Sn-3.5Agの合金を追加供給後のはんだ槽内のCuの含有量を測定したところ、Cuは0.76質量%となっており略所定の鉛フリーはんだに近い成分となっていた。」(段落【0022】)
ケ)「(実施例2) 中型のはんだ槽中に所定の成分としてSn-0.75Cu-3.5Agの鉛フリーはんだを380Kg入れておく。このはんだ槽で浸漬法によりオーディオ用プリント基板を920枚はんだ付けしたところで液面センサーが作動し、警報が発せられた。このとき溶融はんだの液面は初期の位置から4mm下がり、はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.87質量%となっていた。そこで所定のCu含有量よりも少ないSn-0.3Cu-3.5Agの合金を初期と同じ液面になるまで追加供給した。そして Sn-0.3Cu-3.5Agの合金を追加供給後のはんだ槽内のCuの含有量を測定したところ、Cuは0.80質量%となっており略所定の鉛フリーはんだに近い成分となっていた。」(段落【0023】)

先願明細書には、電子部品やプリント基板等のワークからCuが溶出してCuの含有量が増える旨記載されており(上記摘記事項エ、キ)、当該記載の溶出するCuは、電子部品が通常有する銅リード線やプリント基板が通常有する銅箔からのものと認められる。
また、先願明細書の【特許請求の範囲】の【請求項2】には、「前記Cu含有鉛フリーはんだは、……Sn-Cu合金に……Ni……等が一種以上添加された合金であることを特徴とする請求項1記載の鉛フリーはんだの成分調整方法。」(上記摘記事項イ)と記載されており、また、先願の出願時において、Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金は既に知られていることから(例えば、国際公開第99/48639号パンフレット(1999)、特開平11-277290号公報、参照)、先願明細書には、Cu含有鉛フリーはんだとして、Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金が実質的に記載されていると認められる。
そして、Cu含有鉛フリーはんだがSn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金である場合には、先願明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】(上記摘記事項ア)に記載の「所定組成の鉛フリーはんだからCu成分だけを除去した合金」が「Sn-Niを主成分とするはんだ合金」となることは明らかである。
そうすると、上記各摘記事項を総合すると、先願明細書には、次の各発明が記載されているものと認められる。
「銅箔を有するプリント基板、または/および銅リード線を有する電子部品を浸漬法によりはんだ付けする工程において、Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金を溶融した槽中はんだのCu濃度が前記プリント基板の銅箔、または/および電子部品の銅リード線のCu成分が溶融混入することにより上昇したとき、Sn-Niを主成分とするはんだ合金からなる補給はんだをはんだ槽に供給し、Cu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する浸漬はんだ槽のCu濃度調整方法」(以下、「先願第1発明」という。)
「銅箔を有するプリント基板、または/および銅リード線を有する電子部品を浸漬法によりはんだ付けする工程において、Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金を溶融した槽中はんだのCu濃度が前記プリント基板の銅箔、または/および電子部品の銅リード線のCu成分が溶融混入することにより上昇したとき、前記Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金と主成分が同一であって前記Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金のCu含有量よりもCu成分が少ない合金からなる補給はんだをはんだ槽に供給し、Cu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する浸漬はんだ槽のCu濃度調整方法」(以下、「先願第2発明」という。)

3.対比・判断
3-1.本件特許の請求項1に係る発明について
本件特許の請求項1に係る発明と先願第1発明とを対比すると、先願第1発明の「電子部品」は、本件特許の請求項1に係る発明の「実装部品」といえるものであり、また、先願第1発明の「浸漬(し)法」は慣用的に「浸せき法」と読まれるものであって、特許異議申立人が提出した甲第2号証(プリント回路技術用語辞典編集委員会編、「プリント回路技術用語辞典」、1999年1月28日初版1刷発行、日刊工業新聞社、P.129)に「浸せきはんだ付け dip soldering」と記載されていることから、先願第1発明の「浸漬法によるはんだ付け」が、本件特許の請求項1に係る発明の「ディップはんだ付け」に同じであることは明らかである。
また、先願第1発明の「Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金」、「Sn-Niを主成分とするはんだ合金」は、それぞれ、本件特許の請求項1に係る発明の「錫、銅、ニッケルを必須成分とする第1のはんだ合金」、「錫、ニッケルを主成分とする第2のはんだ合金」に相当する。
更に、先願第1発明の「Cu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する」ことは、「増えたCuを所定のCu含有量に戻すこと」(上記摘記事項キ)の具体的手段といえるから、本件特許の請求項1に係る発明の「槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制する」ことに実質的に相当し、また、先願第1発明の「浸漬はんだ槽のCu濃度調整方法」は、本件特許の請求項1に係る発明と同様な「ディップはんだ槽の銅濃度制御方法」と称することができる。
よって、本件特許の請求項1に係る発明と先願第1発明とに実質的な相違点はなく、本件特許の請求項1に係る発明は、先願第1発明と実質同一である。

3-2.本件特許の請求項2に係る発明について
本件特許の請求項2に係る発明と先願第2発明とを対比すると、先願第2発明の「電子部品」は、本件特許の請求項2に係る発明の「実装部品」といえるものであり、また、先願第2発明の「浸漬(し)法」は慣用的に「浸せき法」と読まれるものであって、特許異議申立人が提出した甲第2号証(プリント回路技術用語辞典編集委員会編、「プリント回路技術用語辞典」、1999年1月28日初版1刷発行、日刊工業新聞社、P.129)に「浸せきはんだ付け dip soldering」と記載されていることから、先願第2発明の「浸漬法によるはんだ付け」が、本件特許の請求項2に係る発明の「ディップはんだ付け」に同じであることは明らかである。
また、先願第2発明の「Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金」、「Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金と主成分が同一であって前記Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金のCu含有量よりもCu成分が少ない合金」は、それぞれ、本件特許の請求項2に係る発明の「錫、銅、ニッケルを必須成分とする第1のはんだ合金」、「第1のはんだ合金と主成分が同一であって前記第1のはんだ合金の銅濃度よりも低い銅濃度の第3のはんだ合金」に相当する。
更に、先願第2発明の「Cu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する」ことは、「増えたCuを所定のCu含有量に戻すこと」(上記摘記事項キ)の具体的手段といえるから、本件特許の請求項2に係る発明の「槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制する」ことに実質的に相当し、また、先願第2発明の「浸漬はんだ槽のCu濃度調整方法」は、本件特許の請求項2に係る発明と同様な「ディップはんだ槽の銅濃度制御方法」と称することができる。
よって、本件特許の請求項2に係る発明と先願第2発明とに実質的な相違点はなく、本件特許の請求項2に係る発明は、先願第2発明と実質同一である。

3-3.本件特許の請求項3に係る発明について
先願明細書には、上記摘記事項カ、ク及びケからみて、はんだ槽の液面が所定高さに低下すれば補給はんだが追加供給される旨が記載されていると認められ、先願明細書の当該記載事項は、本件特許の請求項3に係る発明の「補給はんだは、槽中はんだの液面が所定高さに低下すれば投入される」ことに相当する。
よって、本件特許の請求項3に係る発明は、先願明細書に記載された発明と実質同一である。

3-4.本件特許の請求項4に係る発明について
「一定のプリント基板の処理枚数ごとにはんだ槽に補給はんだを投入する」ことは従来周知の技術であり(例えば、特開平5-327204号公報、第3頁第4欄第7~10行、参照)、本件特許の請求項4に係る発明において、「補給はんだは、一定のプリント基板の処理枚数ごとにはんだ槽に投入する」ことは、周知技術の転換であって、新たな効果を奏するものではない。
よって、本件特許の請求項4に係る発明は、先願明細書に記載された発明と実質同一である。

3-5.本件特許の請求項5に係る発明について
先願明細書に記載された発明においても、実施例1(上記摘記事項ク)及び実施例2(上記摘記事項ケ)からみて、「槽中はんだの銅濃度を、0.85重量%未満に制御」していると認められ、また、先願明細書に記載の上記実施例1及び実施例2は、槽中はんだがSn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金である場合にも、本件特許の請求項5に係る発明と同様の「槽中はんだの銅濃度を、槽中はんだ温度が255℃前後において0.85重量%未満に制御」することを示唆するものである。
よって、本件特許の請求項5に係る発明は、先願明細書に記載された発明と実質同一である。

3-6.本件特許の請求項6に係る発明について
先願明細書には、上記摘記事項ウに従来の技術として「テレビ、ビデオ、ラジオ、コンピューター、複写機、通信機器等の電子機器」が記載されており、また、実施例1(上記摘記事項ク)にはテレビ用プリント基板、実施例2(上記摘記事項ケ)にはオーディオ用プリント基板をはんだ付けすることが記載されており、先願明細書の当該記載事項は、本件特許の請求項6に係る発明の「請求項1~5のいずれかの方法におけるディップはんだ槽を介して得られたはんだ継手を組み込んだ電気・電子装置」に相当する。
よって、本件特許の請求項6に係る発明は、先願明細書に記載された発明と実質同一である。

3-7.本件特許の請求項7に係る発明について
先願明細書の【特許請求の範囲】の【請求項2】には、「前記Cu含有鉛フリーはんだは、……Sn-Cu合金に……Ni……等が一種以上添加された合金であることを特徴とする請求項1記載の鉛フリーはんだの成分調整方法。」(上記摘記事項イ)と記載されており、また、先願の出願時において、Sn-Cu-Niを主成分とするはんだ合金は既に知られていることから(例えば、国際公開第99/48639号パンフレット(1999)、特開平11-277290号公報、参照)、先願明細書には、Sn-Cu-Niを主成分とする槽中はんだが実質的に記載されていると認められる。
そして、槽中はんだがSn-Cu-Niを主成分とするはんだである場合には、先願明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】(上記摘記事項ア)に記載の「所定組成の鉛フリーはんだからCu成分だけを除去した合金」が「Sn-Niを主成分とするはんだ」となり、当該「Sn-Niを主成分とするはんだ」が追加供給されるはんだとなることは明らかである。
そして、先願明細書の上記記載事項は、本件特許の請求項7に係る発明の「予め溶融した錫、銅、ニッケルを主成分とする槽中はんだに投入する補給はんだであって、この補給はんだは錫、ニッケルを主成分とすることを特徴とした補給はんだ」に実質的に相当する。
よって、本件特許の請求項7に係る発明は、先願明細書に記載された発明と実質同一である。

【4】むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であると認められ、しかも、その発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、その発明に係る出願の時において、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ディップはんだ槽の銅濃度制御方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔を有するプリント基板、または/および銅リード線を有する実装部品のディップはんだ付け工程において、錫、銅、ニッケルを必須成分とする第1のはんだ合金を溶融した槽中はんだの銅濃度が前記プリント基板の銅箔、または/および実装部品の銅リード線の銅成分が溶融混入することにより上昇したとき、錫、ニッケルを主成分とする第2のはんだ合金からなる補給はんだをはんだ槽に投入し、槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制するディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項2】
銅箔を有するプリント基板、または/および銅リード線を有する実装部品のディップはんだ付け工程において、錫、銅、ニッケルを必須成分とする第1のはんだ合金を溶融した槽中はんだの銅濃度が前記プリント基板の銅箔、または/および実装部品の銅リード線の銅成分が溶融混入することにより上昇したとき、前記第1のはんだ合金と主成分が同一であって前記第1のはんだ合金の銅濃度よりも低い銅濃度の第3のはんだ合金からなる補給はんだをはんだ槽に投入し、槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制するディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項3】
補給はんだは、槽中はんだの液面が所定高さに低下すれば投入される請求項1~2のいずれか記載のディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項4】
補給はんだは、一定のプリント基板の処理枚数ごとにはんだ槽に投入する請求項1~2のいずれか記載のディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項5】
槽中はんだの銅濃度は、槽中はんだ温度が255℃前後において0.85重量%未満に制御する請求項1~2のいずれか記載のディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの方法におけるディップはんだ槽を介して得られたはんだ継手を組み込んだ電気・電子装置。
【請求項7】
予め溶融した錫、銅、ニッケルを主成分とする槽中はんだに投入する補給はんだであって、この補給はんだは錫、ニッケルを主成分とすることを特徴とした補給はんだ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉛フリーはんだの組成に関係し、特にディップはんだにおいて、はんだ槽中の組成をコントロールすることによって、常時適正なはんだ継手を製造することができる方法に関するものである。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
はんだは一般的に250℃前後の比較的低温度において金属表面でヌレ作用を得るものであるが、プリント基板や部品のリード線等が銅で形成されている場合には、作業中に表面の銅がはんだ中に溶け出す「銅食われ」が必然的に生じる。そして鉛フリーはんだは、このヌレ作用中に銅の溶け込みが非常に速く、はんだ槽中の銅濃度が急激に上昇することが発明者らによって経験的に判明している。銅の濃度が上昇すると、はんだの融点が上昇して表面張力や流動性に変化を来たし、その結果はんだブリッジ、穴空き、未はんだ、ツノ、ツララ等が生じるので、はんだ付けの品質を著しく低下させてしまう。さらになお、銅の濃度上昇によってはんだの融点が上昇していくが、いったん濃度が上昇すれば溶解させている温度になるまで相乗的に上昇が止まらないという結果を引き起こすことになる。
【0003】
また、発明者はニッケルを含有した新規なはんだ合金を既に開発し(国際公開WO99/48639等)、ニッケルの添加によって流動性を向上させることに成功したが、この場合でも銅の含有量を適切にコントロールすることが好ましい。
【0004】
そのため、いったん銅濃度が上昇した場合にはこれを解消するために、はんだ槽に入っているはんだ全てを新しいはんだに入れ替えることが一つの有効な手段ではあるが、入れ替え作業を頻繁に行なわなければならないので工業的に見てコストアップになる。また、不必要に資源を廃棄してしまうことにつながる。
【0005】
本発明は上記課題を解決するものであり、はんだ槽中に既存するはんだを入れ替えることなく、銅濃度を適正な範囲にコントロールすることができる方法を開示することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明において最初に着目したことは、広く用いられている銅箔プリント基板、あるいは銅のリード線を有する部品をディップはんだで実装する場合には銅食われによってはんだ槽中の銅濃度が上昇するが、この現象を抑えることはできないという事実である。そうであれば、対象を銅に特定してこれを適宜相対的に希釈することにより、その濃度を積極的にコントロールするのが確実であるという結論に達した。
【0007】
ところで、銅を必須とするはんだ合金中、たとえば錫銅ニッケル系合金は、鉛フリーはんだにおいて最も基本的な構成組成である錫銅共晶合金に少量のニッケルを加え、はんだとしての特性を向上させたものである。このはんだは溶解時の流動性が大変良く、大量の電子基板を組み立てる際のはんだディップ工程で威力を発揮する。すなわち、大量生産時に問題となるはんだブリッジ、穴空き、未はんだ、ツノ、ツララ等のはんだ付け不良がいたって少ない。しかし、実装頻度に応じてはんだ槽中の銅分の著しい増加が見られ、この「銅食われ」現象によって溶けているはんだ槽中に所定の作業温度では溶解しない融点の高い錫銅金属間化合物が発生し、これが被接合物の周囲に付着してはんだ付品質を低下させることが観察された。錫に溶け込む銅の量ははんだを溶解させている温度により変化するが、銅は融点が1083℃と高温であるため少量の増加でもはんだの融点上昇に与える変化は大きい。従って、銅の濃度をいかに増やすことなく作業を続けることができるのか熱意研究した結果、下記の方法を開発した。
【0008】
具体的な手段としては、錫・ニッケル・銅を主成分とする第1のはんだ合金の場合には、槽中はんだの銅濃度に上昇が見られれば、銅を含有しない第2のはんだ合金か、あるいは前記第1のはんだ合金と主成分が同一であって、その銅濃度よりも低い銅濃度の第3のはんだ合金を補給はんだとして溶融はんだ槽に投入するという手段を用いた。一例として、銅約0.5%、ニッケル約0.05%、残部錫の鉛フリーはんだをはんだ槽に入れた場合、使用中に増える銅を抑えてはんだの特性が好ましくない条件にならないようにするために、少なくともニッケル約0.05%、残部錫の組成から成る第2の合金を、あるいは少なくともニッケル約0.05%、残部錫の組成に0.5%未満の銅を含む組成から成る第3の合金を、補給はんだとして投入する。
【0009】
また、別の例として、銅約0.8%、銀約3.5%、ニッケル約0.05%、残部錫の鉛フリーはんだをはんだ槽に入れた場合、使用中に必然的に増える銅の濃度を抑えてはんだの特性が好ましくない条件にならないようにするために、少なくとも銀約3.5%、ニッケル約0.05%、残部錫の組成から成る合金、あるいは少なくとも銀約3.5%、ニッケル約0.05%、残部錫の組成に0.8%未満の銅を含む組成から成る合金を補給はんだとして投入する。
【0010】
上記各手段によって、あとから投入する合金は銅が添加されていないか、または銅濃度がそれぞれ補給前の槽中はんだにおける銅濃度よりも低いため、合金が溶融すればはんだ槽全体の銅濃度を希釈することになる。補給はんだにあえて銅を添加しておくことは必須ではないが、例えばはんだ槽の温度条件などに起因して銅の増加速度が予想よりも遅く、スルーホール基板などのはんだ付けのような場合にははんだの消費量が多いので、銅を含まない合金を補給すればむしろ銅の濃度が低くなりすぎることが考えられる。従って、適宜銅を少量含む補給はんだを投入することが好ましい状況を考慮したためである。
【0011】
なお、初期の鉛フリーはんだ組成、即ち槽中はんだは少なくとも錫と銅とニッケルを含むはんだであるが、厳密にこれに限定するものではなく、銅を必須とするはんだ合金がはんだ槽に存在する組成であれば、広く適用することができる。また、はんだの組成にヌレ性の向上や酸化防止効果のある成分を添加してある場合でも同様である。即ち、そのような元素として銀やビスマス、インジュウム、あるいは燐やゲルマニウムなどを含む場合でも本発明の本質的な技術から外れるものではない。
【0012】
補給はんだの供給は、槽中はんだの消費量、液相温度、取り扱うプリント基板の単位あたりはんだ使用量などによって計算される。多くの場合、銅濃度の増加とプリント基板の処理枚数はリニアに相関するので、槽中はんだの液面を絶えず検知しておき、一定の液面まで低下すれば補給はんだを投入する手段を採用する。補給はんだの形状は、棒はんだ、糸はんだなど自由である。なお、前記したようにプリント基板の処理枚数と銅濃度は相関しているので、液面検知に代えてプリント基板の処理枚数単位で所定重量の補給はんだを投入するようにしてもよい。さらに、補給はんだを一定時間単位で補給することも代替的に採用することが可能であり、これらを適宜組み合わせることを排除するものでもない。
【0013】
実際の槽中はんだの銅濃度については、錫、銅、ニッケルを主成分とするはんだの場合、槽中はんだ温度が255℃前後において0.85重量%未満に制御する手段が、銅濃度の上昇に伴う諸問題を解消する最適な制御である。なお、0.85重量%は極めて厳密という意味にとるものではなく、液層温度の変移によって幅を持っている。しかしながら、上記条件において0.90重量%を超えれば継手精度が悪化するので、銅濃度の上限はこの限りにおいて制約されることになる。
【0014】
上記各手段において制御されたディップはんだ槽を用いて完成されたプリント基板を搭載した装置は、有害金属とされる鉛を大幅に削減することができるので、製造時の作業雰囲気を汚染することもないし、廃棄の際でも環境問題への適切な対応を可能とするものである。
【0015】
【実施例】
(比較例)
約0.5%銅、約0.05%ニッケル、残部錫のはんだをはんだ槽に満たし、はんだ温度を255±2℃にして大量のプリント基板をはんだ付作業した。この時、初期の槽中はんだと同じ組成の補給はんだを投入し続けると、作業量の増加と共にはんだ槽中の銅が図1に示すように2万枚のプリント基板を処理した後から好ましくない濃度まで増化した。その結果、槽中はんだの融点が上昇し、槽中はんだの表面張力や流動性に変化をきたし、はんだブリッジ、穴空き、未はんだ、ツノ、ツララ等の発生によってはんだ付品質を著しく低下させた。なお、比較例および実施例のパーセントは全て重量%を示している。
【0016】
(実施例1)
約0.5%銅、約0.05%ニッケル、残部錫の鉛フリーはんだをはんだ槽に満たし、槽中はんだ温度を255±2℃にして大量のプリント基板を比較例と同様の条件下ではんだ付作業した。この時、銅を含まない組成を補給はんだとして投入した。実施例では約0.05%ニッケル、残部錫の組成から成るはんだを補給したが、銅の濃度上昇は図2に示すように約0.7%程度で安定し、はんだ付け品質の低下を招くことがなかった。
【0017】
(実施例2)
初期のはんだ組成が0.6%銅、0.05%ニッケルに酸化防止効果をもつ金属、例えばゲルマニウム、燐、カルシウムなどを適量添加し、残部を錫としたはんだ合金をはんだ槽に投入し、槽中はんだ温度255±2℃で同様の条件下ではんだ付作業を行い、補給はんだとして槽中はんだの組成から銅だけを除いた合金を投入した。この結果、銅濃度の上昇は実施例1とほぼ同様に、約0.7%程度まで至った後に安定することを確認することができた。
【0018】
(実施例3)
初期のはんだ組成が0.6%銅、0.05%ニッケル、残部錫のはんだをはんだ槽に投入し、槽中はんだ温度255±2℃で同様の条件下ではんだ付作業を行い、補給はんだとして銅を含まず、酸化防止効果をもつ金属、例えばゲルマニウム、燐、カルシウムなどを適量添加した錫ニッケル-酸化防止剤入りはんだを投入した。この場合であっても銅濃度の上昇は上述した実施例と同様に、約0.7%まで至った後に安定した。
【0019】
今回の対象として主に用いたはんだは錫銅ニッケル合金であるが、積極的に濃度を制御する成分は銅のみでその他の成分を積極的に変更する必要はない。もちろん、はんだの組成にヌレ性の向上や酸化防止効果のある銀やビスマス、インジュウムまたは燐やゲルマニュウムを添加してある場合でも同様である。
【0020】
【発明の効果】
本発明方法を採用した場合には、本来的に必要な含有金属ではあるが、ある値を超える濃度になれば逆に好ましくない働きをする銅を積極的にコントロールすることができるようになった。従って、同一はんだ槽におけるはんだ付を大量に行っても継手精度をきわめて良好に維持することが可能となる。
【0021】
さらに、本発明方法を基礎として完成した基板を搭載した装置は、製造環境においても、また使用環境、廃棄時であっても有害な鉛を大幅に削減することができるので、大量生産による環境破壊の問題は大幅に回避することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
従来方法における銅濃度の変化を示すグラフ
【図2】
Sn-約0.05%Ni含有はんだを補給はんだとした場合の銅濃度変化を示すグラフ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-02-06 
出願番号 特願2000-47437(P2000-47437)
審決分類 P 1 651・ 161- ZA (H05K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中川 隆司  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 鈴木 久雄
ぬで島 慎二
登録日 2001-08-17 
登録番号 特許第3221670号(P3221670)
権利者 松下電器産業株式会社 株式会社日本スペリア社
発明の名称 ディップはんだ槽の銅濃度制御方法  
代理人 濱田 俊明  
代理人 広瀬 章一  
代理人 濱田 俊明  
代理人 濱田 俊明  

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