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審決分類 審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正する G02B
審判 訂正 2項進歩性 訂正する G02B
管理番号 1113879
審判番号 訂正2004-39239  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-01-23 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-10-20 
確定日 2005-02-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3315256号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3315256号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3315256号に係る発明は、平成6年7月7日に出願され(特願平6-180902号)、平成14年6月7日に特許権の設定登録がなされたところ、平成15年2月19日に請求項1ないし7に係る特許について異議の申立てがなされ、特許庁において異議2003-70448号事件として審理され、平成16年6月8日付けで、「訂正を認める。特許第3315256号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」旨の決定がなされ、この取消決定を不服とする訴えが平成16年7月22日に東京高等裁判所に提起され(平成16年行ケ330号)、同年10月20日に本件訂正審判が請求されたものである。

II.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第3315256号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、下記訂正事項のとおりに訂正することを求めるものである。
訂正事項a
特許請求の範囲を次のように訂正する。
【請求項1】 ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に25~500ppmの溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤層を設けたことを特徴とする粘着剤層を有する偏光板。
【請求項2】 積層体がポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層、又はセルロース系保護層/ポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層のいずれかであることを特徴とする偏光板。
【請求項3】 アクリル系樹脂粘着剤層の更に外側に離型フィルムを設けたことを特徴とする請求項1または2記載の粘着剤層を有する偏光板。
【請求項4】 請求項1または2記載の粘着剤層を有する偏光板を製造するにあたり、10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤をポリビニルアルコール系偏光フィルムと保護層とからなる積層体に塗工し、50~200℃の温度にて乾燥してなることを特徴とする粘着剤層を有する偏光板の製造方法。
【請求項5】 請求項3記載の粘着剤層を有する偏光板を製造するにあたり、10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤をポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層とからなる積層体あるいは離型フィルムのいずれか一方に塗工し、50~200℃の温度にて乾燥した後、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体あるいは離型フィルムの残りの一方を他方に貼り合わせることを特徴とする粘着剤層を有する偏光板の製造方法。
訂正事項b
特許明細書の段落【0005】に記載の「偏光フィルムと保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に10~500ppmの溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤層を設けた偏光板」を、
「ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に25~500ppmの溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤層を設けた偏光板」と訂正する。
訂正事項c
特許明細書の段落【0006】に記載の「即ち、本発明では、粘着剤層としてアクリル系樹脂に溶剤を10~500ppm、更に好ましくは25~500ppm残留させて用いることが最大の特徴である。」を、
「即ち、本発明では、粘着剤層としてアクリル系樹脂に溶剤を25~500ppm残留させて用いることが最大の特徴である。」と訂正する。
訂正事項d
特許明細書の段落【0007】に記載の「偏光フィルムと保護層」を「ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層」と訂正する。
訂正事項e
特許明細書の段落【0020】に記載の「偏光板は、主としてポリビニルアルコール系偏光フィルムと保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に、粘着剤層及び離型フィルムを付加することにより得られる。該積層体の層構成としては、特に限定されないが、主に偏光フィルム/保護層、又は保護層/偏光フィルム/保護層のいずれかが有効であり」を、
「偏光板は、ポリビニルアルコール系セルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に、粘着剤層及び離型フィルムを付加することにより得られる。該積層体の層構成としては、特に限定されないが、主にポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層、又はセルロース系保護層/ポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層のいずれかが有効であり」と訂正する。
訂正事項f
特許明細書の段落【0026】に記載の「本発明において偏光板を構成する偏光フィルムとしては、主としてポリビニルアルコール系樹脂フィルムが用いられるが、ポリビニルアルコール系樹脂としては」を、
「本発明において偏光板を構成するポリビニルアルコール系偏光フィルムに用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては」と訂正する。
訂正事項g
特許明細書の段落【0027】に記載の「保護膜としては従来から知られているセルロースアセテート系フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリオレフイン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリエーテルエーテルケトン系フィルム、ポリスルホン系フィルムが挙げられるが、好適には三酢酸セルロースフィルム等のセルロースアセテート系フィルムが用いられる。」を、
「セルロース系保護膜としては従来から知られているセルロースアセテート系フィルムが挙げられるが、好適には三酢酸セルロースフィルム等のセルロースアセテート系フィルムが用いられる。」と訂正する。
訂正事項h
特許明細書の段落【0028】に記載の「又、偏光フィルムと保護膜」を、
「又、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護膜」と訂正する。

III.当審の判断
1.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
上記訂正事項aについて検討すると、訂正事項aには、次の訂正事項が含まれる。
a-1:「偏光フィルム」及び「保護層」を、「ポリビニルアルコール系偏光フィルム」、「セルロース系保護膜」に限定する。
a-2:溶剤含有量を訂正前の「10~500ppm」から「25~500ppm」に限定する。
a-3:請求項3、4を削除し、請求項5ないし7を請求項3ないし5に繰り上げる。
a-4:訂正前の請求項7(訂正後の請求項5)に記載の「積層体あるいは離型フィルムの残りの一方に設ける」を「積層体あるいは離型フィルムの残りの一方を他方に貼り合わせる」と訂正する。
これらの訂正において、a-1は、「偏光フィルム」及び「保護層」の材質を限定する訂正であり、a-2は溶剤含有量を限定する訂正であり、a-3は請求項を削除する訂正であるから、これらは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
a-4は、意味が不明りょうな記載である「積層体あるいは離型フィルムの残りの一方に設ける」を明りょうにしようとするものであるから、不明りょうな記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項aは、特許明細書の「従来より、偏光フィルム、例えば偏光性が付与されたポリビニルアルコール系フィルム等の両面がセルロース系フィルム、例えば三酢酸セルロースフィルムの保護層で被覆された偏光板を液晶セル面に適用して液晶表示板とすることが行われており」(段落【0001】)、「偏光板を構成するセルロース系フィルムが分解劣化したり、又、高温、高湿環境下での使用において粘着剤層の発泡や剥離等の外観欠点が発生する等の問題が生じる。」(段落【0003】)、「粘着剤層としてアクリル系樹脂に溶剤を10~500ppm、更に好ましくは25~500ppm残留させて用いる」(段落【0006】)、「本発明において偏光板を構成する偏光フィルムとしては、主としてポリビニルアルコール系樹脂フィルムが用いられる」(段落【0026】)、「保護膜としては従来から知られているセルロースアセテート系フィルム、・・・が挙げられるが、好適には三酢酸セルロースフィルム等のセルロースアセテート系フィルムが用いられる。」(段落【0027】)の記載及び実施例の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書の記載の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項bないしhは、訂正事項aにより訂正された特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載の不整合を正すものであるから、不明りょうな記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書の記載の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.独立特許要件について
(1)訂正後の本件請求項1ないし5に係る発明
訂正後の本件請求項1ないし5に係る発明は、本件審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された、上記II.訂正事項aに記載されたとおりものである。
(以下、訂正後の本件請求項1ないし5に係る発明を、それぞれ「訂正発明1」ないし「訂正発明5」という。)

(2)刊行物の記載事項
異議の申立てで証拠として提出され、本件の出願前に頒布された特開昭53-113566号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1a)「(1)偏光膜の少なくとも片面にF5値が5以下の透明アクリル系フィルムを積層していなる積層偏光膜。
(2)表面に粘着剤が塗布されている特許請求の範囲第1項記載の偏光膜。」(特許請求の範囲第1、2項)
(1b)「偏光能を有する膜状物-偏光膜-として、例えばポリビニールアルコール・沃素系,ポリビニールアルコール・ポリエン系・・・など多数のものが知られている。これらの偏光膜は、・・・ヒビ割れ等による破損が起こりやすい。その対策として、偏光膜にセルロース系フィルムを積層して補強する方法があるが、セルロース系フィルム積層偏光膜は、剛性が大きいため、ガラス板、液晶素子セル等に接着する際、接着部分に気泡が残りやすく、また作業性が悪い欠点があった。」(1頁左下欄19行~右上欄13行)、
(1c)「次に本発明による積層偏光膜の構成例と製造実施例を示す。
・・・
粘着剤層付アクリル系フィルム積層偏光膜
6/4/1/2/3
6/4/1/2/3/4/6
・・・
(但し、1は偏光膜、2は接着剤層、3はアクリル系フィルム、4は粘着剤層、・・・6は離型フィルムである。)」(3頁左上欄8行~右上欄10行)、
(1d)「実施例1
・・・アクリル系フィルム両面積層塩ビポリエン系偏光膜の片面に次の方法で粘着剤層を積層した。すなわちポリエチレンテレフタレート離型フィルム(50μ)の片面にアプリケーターを用いてドクターナイフ(ギャップ4/1000インチ)で下記粘着剤溶液を塗布し、金属製枠に取りつけて熱風乾燥機中で80℃2分間乾燥する(粘着剤塗布量は11.0g/m2)。
この粘着剤塗布面に上記アクリル系フィルム両面積層塩ビポリエン系偏光膜を温度60℃、圧力2.0Kg/cm2で、2秒間圧着する。
別に、セルロース系フィルム・・・を、上記アクリル系フィルムの積層と全く同一方法で塩ビポリエン系偏光膜(20μ)に、両面積層し、次いで片面粘着剤積層して、片面粘着剤層付きセルロース系フィルム両面積層塩ビポリエン系偏光膜を得た。
これらの積層偏光膜を1.5cm×2.0cmに切断して液晶素子セルに慎重に接着したところ、片面粘着剤層付きセルロース系フィルム両面積層塩ビポリエン系偏光膜は硬くて作業性が悪く、しかも液晶素子セルと粘着剤層間に気泡が残った。一方、柔軟な片面粘着剤層付きアクリル系フィルム積層偏光膜の場合は作業性が良好であり、気泡も残らなかった。
・・・
[粘着剤溶液組成]
アクリレート系粘着剤
(綜研化学社製・商品名SKダイン100B) 10部
酢酸エチル 26部」
(3頁右上欄14行~4頁左上欄11行)。

同じく、特開昭59-111114号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2a)「アクリル酸(又はメタクリル酸)系アルキルエステルを共重合主成分とし、共重合成分として、分子中にベンゼン環を有する重合性芳香族モノマー3~30重量%を含有し、かつ分子中にカルボキシル基を有する重合性モノマーを5重量%以下の量で含有してもよいアクリル系樹脂からなる感圧性接着剤層が、偏光性フィルムがセルロース系保護層で被覆されてなる偏光板の少なくとも一面に設けられてなることを特徴とする接着層を有する偏光板。」(特許請求の範囲)
(2b)「本発明の偏光板は上述の通りの構成のものであり、とくに、・・・アクリル系樹脂からなる感圧接着剤層が、偏光板のセルロース系保護層面に設けられてなる接着層を有する偏光板であるから、・・・・これを液晶セル面等に適用し、液晶表示板等となして使用した場合、比較的高温度や高湿度の条件下でも、従来品の如く、偏光板のセルロース系保護層が損われたり、反射用金属箔を腐蝕劣化させたりすることがなく、又、接着層中に気泡が発生したり、液晶セル面から偏光板が剥離することも著しく抑制され、長時間の使用に耐え得る優れた性能を有するものである。」(3頁右下欄8行~4頁左上欄4行)
(2c)「実施例1
撹拌機、温度計、冷却管及び窒素導入管を備えた重合反応装置に、下記組成物を仕込み、窒素置換しながら、60℃に昇温した。
ブチルアクリレート 890g
2-ハイドロオキシエチルメタクリレート 10g
ベンジルメタクリレート 100g
アゾビスイソブチロニトリル 0.3g
酢酸エチル 1000g
60℃に保ちながら、3時間後に酢酸エチルを500g追加し、更に3時間後酢酸エチルを500g追加した。更に4時間後、酢酸エチル1000gとアゾビスイソブチロニトリル3gの混合液を加え、温度を酢酸エチル還流温度に昇温後5時間重合させた。
重合終了後、固形分15%になる様に、トルエンを加え、ガラスフィルターにてロ過して、粘着剤を得た。
この粘着剤100gに架橋剤としてトリメチロールプロパントリレンジイソシアネートを、0.06g混合し、シリコーン離型剤を塗布した厚さ25μのポリエステルフィルム上に200g/m2になる様に塗布し、80℃にて20分間乾燥させて感圧性接着フィルムを作った。
上記で用意した感圧性接着フィルムの接着剤層側を、厚さ25μのポリビニルアルコール偏光フィルムの両面が厚さ80μの三酢酸セルロースフィルムで、ウレタン系接着剤により貼着被覆された偏光板の一面に積層し、ローラで押圧して、接着層付きの偏光板を用意した。」(4頁左上欄9行~右上欄19行)、

同じく、特開昭53-41245号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3a)「偏光フィルムの少なくとも片面に二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロースの群から選ばれた1つのセルロース系フィルムを貼り合わせてなる偏光板の片面または両面に感圧接着剤層を形成してなる接着偏光板を加熱加湿処理するかあるいは加熱または加熱減圧処理を施して後加湿処理し、セルロース系フィルム中の残存溶媒を実質的に完全に除去することを特徴とする接着偏光板の処理方法。」(特許請求の範囲)、
(3b)「実施例1
I:偏光フィルム
厚さ40μのポリビニルアルコール系フィルム・・・を約90℃で加熱して一軸方向に5倍延伸せしめ、・・・偏光フィルムを得た。
II:偏光板
三酢酸セルロースフィルムの片面に、ポリ酢酸ビニル・・・の溶液を乾燥後の厚みが5μとなるようにキャスチングし、次いで前述の偏光フィルムの両面に該キャスチング面を介して重ね合わせ、80℃に保持された種々の偏光板を得た。
III:接着偏光板
前述の偏光板の片面に、アクリル酸エステルを主体としたアクリル系感圧接着剤(30%トルエン溶液)を乾燥後の厚みが30μとなるようにコーチングし、80℃×20分間乾燥して感圧接着剤層中のトルエンを殆ど除去した接着剤層を形成することによって接着偏光板を得た。
この接着偏光板の糊面に、表面に剥離処理を施してなるポリエステルフィルムを仮着して後・・・加熱および加湿処理を同時に行ない16×50mmの大きさに切断してサンプルを作製した。」(3頁左上欄8行~右上欄15行)。

同じく特開平6-75701号公報(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。
(4a)「液晶表示パネルの視認側に透明保護板を設けてタブレット板装備の手書入力可能な液晶表示装置を製造するにあたり、液晶表示パネルと透明保護板を透明な粘接着性樹脂からなる緩衝性を有する接着シートを介し、かつその接着界面に紫外線重合性の液を介在させて紫外線照射により接着処理することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。」(特許請求の範囲)、
(4b)「実施例1
厚さ1.1mmの透明なガラス板(180mm×250mm)の片面に偏光フィルム(日東電工社製、NPF-F1205DU)を接着したものの上に、厚さ200μmの粘着性の接着シートを一方のセパレータを剥がしてロールラミネーターを介し圧着したのち、残るセパレータを剥がして接着シート面を露出させその表面に紫外線重合性の液を滴下して厚さ1.1mmの透明なガラス板を重ね合せて密着させ、当該紫外線重合性の液層を接着シートとガラス板の界面全体に薄層展開させて高圧水銀ランプにより紫外線を200mJ/cm2照射し、当該紫外線重合性の薄層展開を硬化させて、液晶表示パネル形成用のガラス板の上に偏光フィルムと透明な接着層を介してガラス製透明保護板を接着した積層体を得た。
なお前記において、接着シートは、アクリル酸ブチル95重量部、アクリル酸5重量部、過酸化ベンゾイル0.2重量部をトルエン300重量部に溶解させて撹拌下に約60℃で6時間反応させて粘着性のアクリル系ポリマーの溶液を得、それにアクリル系ポリマー100重量部あたり0.5重量部のイソシアネート系架橋剤を配合してポリエステル系セパレータ上にリバースロールコート法で展開し、その上にさらにポリエステル系セパレータを付与して加熱乾燥して形成したものである。」(段落【0021】~【0022】)

(3)対比・判断
1)訂正発明1について
訂正発明1と、刊行物1ないし4に記載された発明を対比すると、刊行物1ないし4に記載された発明のいずれにも、訂正発明1の構成である「25~500ppmの溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤層を設けた」点は記載されていない。
すなわち、刊行物1には、偏光膜に保護層を形成した積層体の少なくとも一方の外側にアクリル系樹脂粘着剤層を設けた粘着剤層を有する偏光板が記載されていると認められるが、偏光膜の保護層として、アクリル系フィルムを使用することにより、気泡の発生等を防止しようとするものであって、アクリル系樹脂粘着剤の溶剤含有量を25~500ppmの範囲とすることは記載されていない上、「セルロース系保護層」を設けることは好ましくないものとされている。
刊行物2には、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側にアクリル系樹脂粘着剤層(刊行物2においては感圧性接着剤層)を設けた、粘着剤層を有する偏光板が記載されていると認められるが、粘着剤層の溶剤含有量については記載されていない。
さらに、刊行物2の実施例を追試した結果を示すものとして、上記異議2003-70448号事件において、異議申立人日東電工株式会社が甲第2号証として提出した実験報告には、実施例1を追試したところ粘着剤層の溶剤含有量は4サンプルの平均が17.1ppmであったと記載され、また、本件審判請求人が上記平成16年行ケ330号事件において、平成16年9月21日付けで甲第3号証として提出した実験成績証明書には、実施例1を追試したところ粘着剤層の溶剤含有量は9.5ppmであったと記載されていることからみて、刊行物2に記載された発明の、粘着剤層の溶剤含有量が25~500ppmの範囲であるとすることはできない。
刊行物3には、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層(刊行物3においてはセルロース系フィルム)からなる積層体の少なくとも一方の外側にアクリル系樹脂粘着剤層(同じく感圧接着剤)を設けた、粘着剤層を有する偏光板が記載されていると認められるが、実施例1には、粘着剤層の溶剤のトルエンは殆ど除去されていることが記載されており、さらに偏光板に粘着剤層を形成した後、粘着剤層を有する偏光板(同じく接着偏光板)を加熱加湿処理してセルロース系保護層中の残存溶媒をも除去するものであり、粘着剤層の溶剤含有量が25~500ppmの範囲であるとすることはできない。
刊行物4には、偏光フィルムと透明保護板をアクリル系樹脂からなる接着シートで接着することが記載されているが、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側にアクリル系樹脂粘着剤層を設けることは記載されておらず、粘着剤層の溶剤含有量についても記載されていない。
そして、訂正発明1は、アクリル系樹脂粘着剤層の溶剤含有量を特定の範囲に限定することにより、粘着剤の発泡や剥離を起こさず、高温、高湿環境下で長時間放置しても光学特性が低下しないという特有の作用効果を奏するものである。
したがって、訂正発明1は、刊行物1ないし4に記載された発明ではなく、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2)訂正発明2ないし3について
訂正発明2ないし3は、訂正発明1を引用し、さらに構成を限定した発明であるから、訂正発明1と同様の理由により、刊行物1ないし4に記載された発明ではなく、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3)訂正発明4ないし5について
訂正発明4は訂正発明1または2の偏光板の製造方法であり、訂正発明5は、訂正発明3の偏光板の製造方法であって、いずれも、訂正発明1ないし3の構成を含むものであるから、訂正発明1ないし3と同様の理由により、刊行物1ないし4に記載された発明ではなく、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)以上のとおり、訂正後における特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項第1号ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
粘着剤層を有する偏光板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に25~500ppmの溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤層を設けたことを特徴とする粘着剤層を有する偏光板。
【請求項2】 積層体がポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層、又はセルロース系保護層/ポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層のいずれかであることを特徴とする請求1記載の粘着剤層を有する偏光板。
【請求項3】 アクリル系樹脂粘着剤層の更に外側に離型フィルムを設けたことを特徴とする請求項1または2記載の粘着剤層を有する偏光板。
【請求項4】 請求項1または2記載の粘着剤層を有する偏光板を製造するにあたり、10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤をポリビニルアルコール系偏光フィルムと保護層からなる積層体に塗工し、50~200℃の温度にて乾燥してなることを特徴とする粘着剤層を有する偏光板の製造方法。
【請求項5】 請求項3記載の粘着剤層を有する偏光板を製造するにあたり、10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤をポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体あるいは離型フィルムのいずれか一方に塗工し、50~200℃の温度にて乾燥した後、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体あるいは離型フィルムの残りの一方を他方に貼り合わせることを特徴とする粘着剤層を有する偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は耐久性が改善された粘着剤層を有する偏光板に関し、更に詳しくは高温、高湿環境下で長時間放置してもその光学特性が低下しない粘着剤層を有する偏光板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、偏光フィルム、例えば偏光性が付与されたポリビニルアルコール系フィルム等の両面がセルロース系フィルム、例えば三酢酸セルロースフィルムの保護層で被覆された偏光板を液晶セル面に適用して液晶表示板とすることが行われており、この液晶セル面への適用は、偏光板表面に設けた粘着剤層を該セル面に当接し、押し付けることにより行われるのが通常である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記粘着剤としては、その優れた接着性、透明性等のためにアクリル系樹脂からなるものが多用されているが、長時間の比較的湿度の高い環境下での使用においては、偏光板を構成するセルロース系フィルムが分解劣化したり、又、高温、高湿環境下での使用において粘着剤層の発泡や剥離等の外観欠点が発生する等の問題が生じる。
【0004】
かかる問題点を解決するために、アクリル系樹脂粘着剤に種々の化合物、例えば、流動パラフィン(特開平5-45517号公報)やシラン化合物(特開平4-223403号公報)等を配合して粘着物性を高め、偏光板等に用いたときの発泡、剥離を抑えようとしている。しかし、上記公報開示技術では、種々化合物の配合についての記載はあるものの、粘着剤の塗工条件や乾燥条件については検討されておらず、本出願人が詳細に検討した結果、粘着剤塗工時あるいは塗工後の乾燥条件により粘着物性が大きく左右することが判明した。又、最近では、偏光板用途の多様化に伴って、一般のラベル用等の粘着剤に比べてより高度な粘着性能を示し、かつ、光学特性についても優れた粘着剤層を有する偏光板の出現が望まれているのが実状である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
しかるに、本発明者等はかかる課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に25~500ppmの溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤層を設けた偏光板が上記の性能を満足することを見いだし本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明では、粘着剤層としてアクリル系樹脂に溶剤を25~500ppm残留させて用いることが最大の特徴である。
【0007】
更に、本発明においては、10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤をポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体(該積層体を本発明では特に断りなく単に偏光板と称することがある。)あるいは離型フィルムに塗工後、50~200℃、好ましくは50~150℃、更に好ましくは60~130℃の温度にて乾燥させて溶剤含有量を上記範囲にコントロールした時、特に優れた耐久性及び光学特性を示すものである。かかる乾燥においては、粘着剤を塗工した偏光板あるいは離型フィルムを縦、横それぞれ任意のサイズに切断し、その縦、横を各々3等分、合計9等分した各切断片をサンプルとし、各サンプルの溶剤含有量を測定したときに、各サンプルでの溶剤含有量がその平均値から±25%以内の範囲となるように制御することが好ましい。尚、本発明でいうアクリル系樹脂粘着剤層の溶剤含有量とは、上記の如き9サンプルでの溶剤含有量の平均値のことである。以下、本発明について具体的に説明する。
【0008】
本発明のアクリル系樹脂の構成成分としては、ガラス転移温度の低く柔らかいモノマー成分やガラス転移温度の高く硬いコモノマー成分、更に必要に応じて少量の官能基含有モノマー成分が挙げられる。
【0009】
前記の主モノマー成分としては、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数2~12程度のアクリル酸アルキルエステルやメタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数4~12程度のメタクリル酸アルキルエステル等が挙げられ、前記のコモノマー成分としては、アクリル酸メチルやメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル等のアルキル基の炭素数1~3のメタクリル酸アルキルエステル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン等が挙げられる。又、アルキル基が芳香環基、複素環基、ハロゲン原子等で置換されているアクリル酸アルキルエステルやメタクリル酸アルキルエステル等、一般にアクリル系樹脂の合成に用いられるモノマーを、本発明の粘着剤アクリル系樹脂の合成にも用いることもできる。
【0010】
前記以外に、官能基含有モノマー成分としては、例えばカルボキシル基含有モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸等の多価カルボン酸、及びこれらの無水物等があり、ヒドロキシル基含有モノマーとして、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等やN-メチロールアクリルアミド、アリルアルコール等がある。
【0011】
3級アミノ基含有モノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等があり、アミド基、N-置換アミド基含有モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-オクチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等がある。ニトリル基含有モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロトノニトリル、フマロニトリル等がある。
【0012】
かかる官能基含有モノマー成分のうちで、特にカルボキシル基含有モノマーの使用が好ましい。かかる主モノマー成分の含有量は、他に含有させるコモノマー成分や官能基含有モノマー成分の種類や含有量により一概には規定できないが、一般的には上記主モノマーを50重量%以上含有させることが好ましい。本発明のアクリル系樹脂は主モノマー、コモノマー、更に必要に応じて官能基含有モノマーを有機溶剤中でラジカル共重合させる如き、当業者周知の方法によって容易に製造される。
【0013】
前記重合に用いられる有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール等の脂肪族アルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。前記ラジカル重合に使用する重合触媒としては、通常のラジカル重合触媒であるアゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等が具体例として挙げられる。
【0014】
本発明において、かかるアクリル系樹脂粘着剤は単独でも勿論使用可能であるが、必要に応じて0.001~10重量%、好ましくは0.01~5重量%程度の硬化剤が併用される。硬化剤の代表的なものはイソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、アルデヒド系化合物、アミン系化合物、金属塩、金属アルコキシド、金属キレート化合物、アンモニウム塩及びヒドラジン化合物等が例示される。
【0015】
硬化剤のうちイソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネートアダクト、トリメチロールプロパンのキシリレンジイソシアネートアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス(4-フェニルメタン)トリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等、及びこれらのケトオキシムブロック物又はフェノールブロック物等が挙げられる。
【0016】
エポキシ系化合物としては、ビスフェノールA・エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジ又はトリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン、N,N,N′,N′-テトラグリシジルm-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N′-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0017】
アルデヒド系化合物としては、グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、マレインジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。アミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、トリエチルジアミン、ポリエチレンイミン、ヘキサメチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、トリエチルテトラミン、イソフォロンジアミン、アミノ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0018】
金属塩としては、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の多価金属の塩化物、臭化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の塩、例えば塩化第二銅、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化第二スズ、塩化亜鉛、塩化ニッケル、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、酢酸銅、酢酸クロム等が挙げられる。金属アルコキシドとしては、テトラエチルチタネート、テトラエチルジルコネート、アルミニウムイソプロピオネート等が挙げられる。
【0019】
金属キレート化合物としては、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の多価金属のアセチルアセトンやアセト酢酸エステル配位化合物等が挙げられる。アンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム等が挙げられる。ヒドラジン化合物としては、ヒドラジン、ヒドラジンヒドラート、及びそれらの塩基塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機塩類、ギ酸、シュウ酸等の有機酸塩類が挙げられる。
【0020】
本発明の粘着剤層を有する偏光板は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に、粘着剤層及び離型フィルムを付加することにより得られる。該積層体の層構成としては、特に限定されないが、主にポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層、又はセルロース系保護層/ポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層のいずれかが有効であり、一方、粘着剤層及び離型フィルムを付加する方法としては、離型フィルムの上に粘着剤層を設け、その上に偏光板を貼り合わせる方法、あるいは逆に偏光板の上に粘着剤層を設け、その上に離型フィルムを貼り合わせる方法が通常取られる。
【0021】
本発明においては、上記粘着剤層にトルエン、酢酸エチル等の前記溶剤を10~500ppm、更に好ましくは25~500ppm含有させなければならない。粘着剤層中の溶剤含有量が上記範囲内であれば良く、偏光板あるいは離型フィルムに塗工する前にあらかじめ溶剤含有量を調整しておいたアクリル系樹脂粘着剤を用いても良いが、好ましくは上記アクリル系樹脂粘着剤をトルエン、酢酸エチル等の前記溶剤で10000ppm以上、好ましくは100000以上に希釈し、偏光板あるいは離型フィルムに塗工した後、50~200℃、好ましくは50~150℃、更に好ましくは60~130℃で0.5~10分間、好ましくは1~5分間乾燥することにより、溶剤含有量をコントロールすることが望ましい。
【0022】
かかる乾燥においては、粘着剤を塗工した偏光板あるいは離型フィルムを縦、横それぞれ任意のサイズに切断し、その縦、横を各々3等分、合計9等分した各切断片をサンプルとし、各サンプルの溶剤含有量を測定したときに、各サンプルでの溶剤含有量がその平均値から±25%以内の範囲となるように精密に制御することが好ましく、本発明の効果を顕著に発揮する。詳細には、溶剤含有量を上記範囲にコントロールするために粘着剤の希釈の均一性を高め、又乾燥機中の温度分布、風量分布、吸排気、温風循環等の均一性を高める必要がある。粘着剤層中の該溶剤含有量が10ppm未満では耐久時の浮きといった粘着特性の低下や端部の色かわりといった光学性能の低下等が起こり、又、500ppmを越えると耐久時の発泡といった粘着特性の低下が起こり、本発明の効果を発揮しない。かかる溶剤含有量が上記範囲に限り、本発明の優れた耐久性及び光学特性が発現されるのである。
【0023】
尚、上記アクリル系樹脂粘着剤を偏光板あるいは離型フィルムに塗工し、乾燥した後の溶剤含有量は、例えばヘッドスペースガスクロマトグラフィー(日立製作所社製)により測定される。具体的にはアクリル系樹脂粘着剤層を設けた偏光板あるいは離型フィルムを縦、横各々3等分し、合計9等分した各切断片をサンプルとし(サンプルの大きさは最大3cm×3cm程度までが好ましい)、それぞれのサンプルに真空状態で100~150℃の熱をかけてその揮発分を測定し、この9サンプルの平均値として求められる。尚、該切断片が大きい場合は、3cm×3cm程度になる様に縁部を切除して中心部に相似形サンプルを作製し測定を行えば良い。
【0024】
このようにして得られた粘着剤層を有する偏光板は使用時に適当に切断され、離型フィルムを剥がし、相手基材であるガラスあるいは他の基材と貼り合わせ、防眩用あるいはサングラスとして用いられる。又、前記粘着剤層を有する偏光板中に反射板及び/又は半透明層を設けることにより、反射型あるいは半透過型の液晶表示板に使用される。この反射板としては通常アルミニウム等の箔、板が使用される。又、半透明層としては反射型及び透過型の両方に使用可能となるべく反射率と透過率が選ばれ、適宜材料は選択される。
【0025】
又、液晶用としては液晶保護のために紫外線吸収性のシートを貼り合わせる場合もある。これらの各種の素材を偏光フィルムに接着するためには、ポリエステル-イソシアネート系の接着剤が適当である。
【0026】
本発明において偏光板を構成するポリビニルアルコール系偏光フィルムに用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては通常酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルをケン化して製造されるが、少量の不飽和カルボン酸(塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等、酢酸ビニルと共重合可能な成分を含有していても良い。又ポリビニルアルコールを酸の存在下でアルデヒド類と反応させた、例えばポリブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂等のいわゆるポリビニルアセタール樹脂及びポリビニルアルコール誘導体が挙げられる。平均重合度は1500~5000、好ましくは2600~5000、更に好ましくは3000~5000、ケン化度は85~100モル%、好ましくは98~100モル%のものであることが望ましく、該樹脂水溶液はキャスト法、押出法等の公知の方法に従ってシート又はフィルム状に製膜され、製膜された原反フィルム又はシートは40~130℃で一軸方向に2.0~10倍、好ましくは2.5~7.0倍、更に好ましくは3.0~6.0倍程度延伸され、ヨウ素-ヨウ化カリの水溶液あるいは二色性染料により染色され、濃度0.5~2モル/l程度のホウ素化合物水溶液又は水-有機溶媒混合液の形で50~70℃程度、5~20分程度の耐水化処理を施されたものが用いられる。
【0027】
セルロース系保護膜としては従来から知られているセルロースアセテート系フィルムが挙げられるが、好適には三酢酸セルロースフィルム等のセルロースアセテート系フィルムが用いられる。
【0028】
又、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護膜との貼合に際して用いられる接着剤としては、特に制限されることなくポリビニルアルコール系樹脂接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ポリウレタン系接着剤、スピラン系接着剤等が採用され得るが、特に好ましいのはポリビニルアルコール系樹脂接着剤である。
【0029】
更に、本発明においては、アクリル系樹脂粘着剤層の外側に離型フィルムを設けることが望まれる。かかる離型フィルムとしては高分子フィルム、金属フィルム、セルロース系フィルムにポリジメチルシロキサン等のシリコン系あるいはフッ素系の離型剤で処理したものが挙げられるが、特に好ましいのはポリエチレンテレフタレートフィルムを離型処理したものである。
【0030】
【作用】
本発明の粘着剤層を有する偏光板は、アクリル系樹脂粘着剤層の溶剤含有量を特定の範囲にコントロールした粘着剤層を設けているため、粘着剤層の発泡や剥離を起こさないといった耐久性に優れるばかりでなく、高温、高湿環境下で長時間放置してもその光学特性が低下しないという効果も奏する。かかる特性を利用して液晶表示体の用途に用いられ、特に車両用途、各種工業計器類、家庭用電化製品の表示等に有用である。
【0031】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、実施例中「部」、「%」とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
実施例1
アクリル系樹脂粘着剤(A)(樹脂成分;アクリル酸n-ブチル:アクリル酸=100:5、コロネートL(日本ポリウレタン社製);5%)をトルエンで希釈し2000000ppmとした後、該溶液を、予め離型剤(ポリジメチルシロキサン)を塗工したポリエチレンテレフタレートフィルム(膜圧38μm)に塗工し、熱風循環乾燥機により90℃で3分間乾燥して、溶剤含有量100ppm(9cm×9cmの粘着剤層付きフィルムを縦、横に各々3等分、合計9等分し、その各切断片をサンプルとしてその溶剤含有量を測定したところ、81ppm、92ppm、105ppm、109ppm、120ppm、103ppm、95ppm、98ppm、94ppmであり、その平均値が100ppm(各測定値は平均値から25%以内)であった。)の粘着剤層(粘着剤層の厚み25μm)を得た。
【0032】
これを、膜厚25μmのポリビニルアルコール偏光フィルム(平均重合度1700、平均ケン化度99モル%、4倍延伸)の両面を厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルムで積層した偏光板の片面に積層し、ローラーで押圧して離型フィルム積層偏光板を得た。該離型フィルム積層偏光板は200mm×200mmに切断され、離型フィルムが剥がされ、厚さ1.1mmのガラス板上に転写された後、そのガラス積層偏光板の耐久性及び光学特性を評価した。
【0033】
尚、耐久性、光学特性の評価方法は以下の通りである。
(耐久性)
上記の如くガラス板上に転写された偏光板を、60℃×90%RHで48時間放置した後、更に60℃で48時間乾燥するのを1サイクルとして10サイクル行った後の偏光板の剥離の度合いを、端部からの長さ(mm)で評価した。
(光学特性)
上記の如くガラス板上に転写された偏光板において、その端部より10mmの部分の単体透過率と、60℃×90%RHで48時間放置した後に60℃で48時間乾燥するのを1サイクルとして10サイクル行った後のその単体透過率との差により評価した。
【0034】
実施例2
実施例1において、アクリル系樹脂粘着剤(B)(樹脂成分;アクリル酸n-ブチル:アクリル酸:メタクリル酸ヒドロキシエチル=100:5:1、コロネートL(日本ポリウレタン社製);3%)を用い、粘着剤層の溶剤含有量を403ppm(95℃、2分間の乾燥、9サンプルの溶剤含有量は430ppm、410ppm、390ppm、380ppm、385ppm、390ppm、412ppm、420ppm、413ppm(各測定値は平均値から25%以内)であった。)にした以外は同様に行い、ガラス積層偏光板の耐久性及び光学特性を評価した。
【0035】
実施例3
実施例1において、アクリル系樹脂粘着剤(C)(樹脂成分;アクリル酸n-ブチル:アクリル酸:メタクリル酸ヒドロキシエチル:メタクリル酸n-ブチル:アクリル酸メチル=100:3:1:20:5、コロネートL(日本ポリウレタン社製);1%)を用い、粘着剤層の溶剤含有量を50ppm(100℃、3分間の乾燥、9点の溶剤含有量は50ppm、48ppm、51ppm、53ppm、50ppm、49ppm、48ppm、47ppm、53ppm(各測定値は平均値から25%以内)であった。)にした以外は同様に行い、ガラス積層偏光板の耐久性及び光学特性を評価した。
【0036】
実施例4
実施例1において、粘着剤層の溶剤含有量を39ppm(220℃、1分間の乾燥、9点の溶剤含有量は38ppm、36ppm、37ppm、39ppm、40ppm、39ppm、43ppm、41ppm、42ppm(各測定値は平均値から25%以内)であった。)にした以外は同様に行い、ガラス積層偏光板の耐久性及び光学特性を評価した。
【0037】
比較例1
実施例1において、粘着剤層の溶剤含有量を2ppm(150℃、3分間の乾燥)にした以外は同様に行い、ガラス積層偏光板の耐久性及び光学特性を評価した。
【0038】
比較例2
実施例1において、粘着剤層の溶剤含有量を7000ppm(55℃、3分間の乾燥)にした以外は同様に行い、ガラス積層偏光板の耐久性及び光学特性を評価した。尚、実施例1~4、比較例1~2のそれぞれの評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【発明の効果】
本発明の偏光板は、アクリル系樹脂粘着剤層の溶剤含有量を特定の範囲にコントロールした粘着剤層を設けているため、粘着剤層の発泡や剥離を起こさないといった耐久性に優れるばかりでなく、高温、高湿環境下で長時間放置してもその光学特性が低下しないという効果も奏する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2005-01-20 
出願番号 特願平6-180902
審決分類 P 1 41・ 121- Y (G02B)
P 1 41・ 113- Y (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 伏見 隆夫
秋月 美紀子
山口 由木
阿久津 弘
登録日 2002-06-07 
登録番号 特許第3315256号(P3315256)
発明の名称 粘着剤層を有する偏光板及びその製造方法  
代理人 秋山 文男  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 秋山 文男  
代理人 朝日奈 宗太  

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