【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1118810
審判番号 不服2004-11739  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-12-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-09 
確定日 2005-06-29 
事件の表示 特願2001-165370「粘土」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月13日出願公開、特開2002-356366〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・原査定の理由の骨子
本願は平成13年5月31日の出願であって、平成16年5月11日付けで拒絶の査定がされたため、同年6月9日付けで本件審判請求がされたものである。
原査定の理由は、本願の請求項1~7の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たさず、請求項1~6に係る発明は、特開平10-20768号公報(以下「引用例」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第2 当審の判断
1.特許請求の範囲の記載
本願については、平成16年4月13日付けで明細書についての補正がされており、補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
【請求項1】色素顔料と、極性化合物と、を含有する粘土において、当該色素顔料の平均粒径を0.01~0.2μmの範囲内の値とするとともに、粒径分布における標準偏差を0.05μm以下の値とし、かつ色素顔料の添加量を、全体量に対して、0.01~10重量%の範囲内の値とすることを特徴とする粘土。
【請求項2】前記色素顔料の粒径の95%が、前記色素顔料の平均粒径の±10%の範囲内に存在していることを特徴とする請求項1に記載の粘土。
【請求項3】中空微小球をさらに含むとともに、当該中空微小球の平均粒径をD2とし、前記色素顔料の平均粒径をD1としたときに、D2/D1の比率を10~50,000の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1または2に記載の粘土。
【請求項4】前記極性化合物が水酸基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物、あるいはいずれか一方の極性化合物であるとともに、当該極性化合物の添加量を、全体量に対して、0.1~30重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の粘土。
【請求項5】繊維をさらに含有するとともに、当該繊維の添加量を、全体量に対して、1~30重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の粘土。
【請求項6】水をさらに含有するとともに、当該水の添加量を、全体量に対して、60~85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の粘土。
【請求項7】前記中空微小球が、有機中空微小球と、無機中空微小球との混合物であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の粘土。

2.記載不備についての判断
(1)原査定の理由
原審における拒絶理由では、「請求項1-7に記載されているものは、発明の詳細な説明に記載された発明における構成の一部分を取り出して記載したものであって、当該構成のみにより如何なる技術的意義があるものか説明されていないので、請求項1-7記載の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」と指摘し、拒絶の査定では、「段落【0020】等の説明は、「色素顔料と、中空微小球と、極性化合物と、繊維と、水と、を含有する粘土(軽量粘土)において」(段落【0014】参照)の説明であり、また、当該粘土であって、特に段落【0046】記載の配合量の粘土を前提としなくても各数値に臨界的意義があると判断できるような記載であるとはいえないので、当該粘土の構成を必須としない請求項記載の発明に対して、十分な説明がなされているとはいえない。」と指摘した。

(2)請求人の主張
これに対し、請求人は「請求項1の構成要件のうち「色素顔料の添加量を0.01~10重量%の範囲内の値とする」ことに関して、段落(0020)中において、「この理由は、かかる色素顔料の添加量が0.01重量%未満の値となると、添加効果や~発色性が低下する~10重量%を超えると、光散乱が大きくなったり~発色性が低下する」と明確に記載されております。」(審判請求書2頁15~19行)及び「実施例1~4の粘土においては、色素顔料の添加量が本願発明で規定する範囲内の値であるために、発色性、耐候性、耐ブリード性において、高い評価が得られております。これに対し、比較例5および6の粘土においては、段落(0054)に示すように、色素顔料の添加量が、本願発明で規定する添加量の値を超えているために、発色性、耐候性、耐ブリード性が低下しております。」(同頁23~末行)と主張している。

(3)記載不備についての当審の判断
後記3.で述べるように、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と従来技術(引用例記載の発明)との相違点は、色素顔料に関する数値限定の点のみであり、この数値限定こそ本願発明の特徴点であるといえる。そして、数値限定に特徴を有する発明であれば、数値限定を満たすものが、満たさないものに比べて顕著な作用効果を奏することが当業者が認識できる程度に、理論的又は実験的に裏付けられたものとして発明の詳細な説明に記載されていてこそ、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との特許法36条6項1号に規定する要件を満たすというべきである。

本願明細書(平成16年4月13日付け手続補正後)には、「本発明の実施形態は、色素顔料と、中空微小球と、極性化合物と、繊維と、水と、を含有する粘土(軽量粘土)において、当該色素顔料の平均粒径を0.01~0.2μmの範囲内の値とするとともに、粒径分布における標準偏差を0.05μm以下の値とし、かつ添加量を、全体量に対して、0.01~10重量%の範囲内の値とした粘土である。」(段落【0014】)と記載があり、ここに記載の色素顔料の平均粒径、粒径分布における標準偏差及び添加量についての数値限定は【請求項1】と同一である。そして、請求人の引用する段落【0020】及び段落【0054】も段落【0014】記載の「色素顔料と、中空微小球と、極性化合物と、繊維と、水と、を含有する粘土(軽量粘土)」であることを前提としたものである。ところが、【請求項1】には、前提とされている要件のうち「中空微小球」を含有することは記載されておらず、それは【請求項3】及び【請求項7】の限定となっているにすぎない(なお、請求項7は請求項1をも引用しているが、「前記中空微小球が」とあるのは、「中空微小球を含む場合、前記中空微小球が」との趣旨に解すべきである。)。本願明細書の「本発明は、粘土(軽量粘土を含む。以下、同様である。)に関し、特に、発色性、耐候性および色素顔料の耐ブリード性に優れた粘土に関する。」(段落【0001】)との記載に照らしても、本願発明が中空微小球を含有しない粘土(軽量でない粘土を含む。)を包含することは明らかである。

数値限定のうち色素顔料の平均粒径についてみると、発明の詳細な説明には、「色素顔料の平均粒径が0.01μm未満の値となると、著しく凝集しやすくなり、粘土中への均一に混合分散することが困難となって、その結果、発色性が低下する場合があるためである。一方、かかる色素顔料の平均粒径が0.2μmを超えると、色素顔料の間を光が透過することが困難となり、そのため、中空微小球に起因した光散乱等が大きくなり、粘土の発色性が低下するためである。また、色素顔料の平均粒径が0.2μmを超えると、耐ブリード性についても低下し、粘土を使用している間に、色素顔料が脱離しやすくなるためである。」(段落【0016】)との記載があり、平均粒径の下限は粘土中への混合分散性から、同上限は粘土の発色性と耐ブリード性から定められたものであるが、「色素顔料の粒径が小さくなると、表面活性が高くなり、それよりも平均粒径が大きい中空微小球の周囲に付着しやすくなることが判明している。」(同段落)との記載からみて、中空微小球を含有する場合としない場合とで、粘土中への混合分散性、粘土の発色性及び耐ブリード性が同じであると解することは困難である。特に、粘土の発色性については、「中空微小球に起因した光散乱等」が発色性を左右する要因とされているのであるからなおさらである。そのことは、発明の詳細な説明の「本発明の軽量粘土において、特定の中空微小球12と、特定の平均粒径等を有する色素顔料10とを組み合わせることにより、中空微小球12における光散乱を有効に防止して、鮮やかで、透明感を有する発色性を得ることができる。」(段落【0017】。下線は当審にて付加。)との記載からも窺える。
本願発明を中空微小球を含有するものに限定したとしても、本願発明が発明の詳細な説明に記載されているとまでは認めることはできない。その理由は次のとおりである。発明の詳細な説明には、「図1(A)から理解できるように、本発明の軽量粘土では、色素顔料10の平均粒径を光の波長の1/2未満の値にしてあるとともに、粒度分布の標準偏差をさらに所定範囲内の値に調整してあるため、色素顔料10が中空微小球12に付着し、周囲を被覆したとしても、外部からの光14,16を妨げることが少なくなっている。一方、図1(B)では、色素顔料20の平均粒径が光の波長と同等かそれより大きいために、色素顔料20が中空微小球22に付着し、周囲を被覆した場合に、外部からの光24,26の透過を妨げることになる。」(段落【0017】)との記載があるけれども、図1(A)と図1(B)を比較すると、同一サイズの中空微小球の周囲に、図1(A)では図1(B)よりも小径の顔料が同数付着した様子が図示されており、顔料の含有率を同一とした上で、顔料粒径を変えた場合には付着粒子数が異なるべきであるから、この図は参考にならない。そればかりか、顔料の含有率を同一とした上で、顔料粒径を小さくした場合には、顔料粒子数が多くなり、中空微小球表面のより多くの部分を顔料が覆うはずである(顔料粒子の重量は径の3乗に比例するが、面積は2乗にしか比例しないから。)。
【表1】(段落【0056】)には、顔料粒径が上限の0.2μmを超える比較例2~4が、添加量を同一とした実施例2~4よりも発色性等に劣る旨の実験結果が示されているけれども、これら実施例の顔料粒径は最大でも上限を相当下回る126nm(=0.126μm)である。発色性が劣る原因を段落【0017】の記載に求めることができないことは上記のとおりであり、【表1】からも顔料粒径の上限を0.2μmとすることの技術的意義を認めることはできない。そればかりか、顔料粒径を上限近くの196nm(=0.196μm)とした比較例1は、標準偏差が本願発明の上限たる0.05μmをわずかに上回る54nm(=0.054μm)であるが、これに対しては少々鮮明な色を意味する「△」ではなく、不鮮明な色を意味する「×」の評価が下されており、「×」の評価のみが下されている比較例はこれだけである。そうすると、顔料粒径の適切な上限は、顔料種類(比較例1はブラック顔料であるが、比較例2~3は他の顔料である。)に依存して定まると理解するのが自然であり、顔料種類に関係なく0.2μmであることなど、到底【表1】から理解できるものではない。したがって、中空微小球を含有する粘土に限っても、「色素顔料の平均粒径を0.01~0.2μmの範囲内の値とする」との技術思想が発明の詳細な説明に記載されているとまでは認めることができない。

次に、色素顔料の粒径分布についてみると、発明の詳細な説明には「色素顔料の標準偏差が0.05μmを超えると、中空微小球に起因した光散乱が大きくなったり、あるいは著しく凝集しやすくなったりするため、色素顔料による発色性が低下する場合があるためである。」(段落【0018】)と記載がある。この記載は中空微小球の記載を前提とするものである点で、そもそも本願発明を裏付けるものではない。そればかりか、上記記載は、標準偏差が0.05μmを超えると、顔料粒径が上限値0.2μmを超えるものが含まれる可能性が高くなるとの趣旨に解されるが、顔料粒径の上限値0.2μmとすること自体が、1つの技術思想として記載されていないのであるから、それを前提とする「粒径分布における標準偏差を0.05μm以下の値」とすることも同様である。

最後に、色素顔料の添加量(重量%)についてみると、適度の着色を行うためには、一定体積の粘土につき一定量の色素顔料が必要となると解すべきである。そうであるならば、粘土の比重が大きい場合には、一定体積の粘土の重量が大きいため、色素顔料の添加量(重量%)は少なくなり、逆に粘土の比重が小さい場合には添加量(重量%)は多くなるべきである。ところが、本願発明は中空微小球を含有することも、軽量粘土であることも限定していないのであるから、粘土の比重は相当程度広範囲に及ぶと解されるところ、粘土の比重に関係なく、色素顔料の添加量(重量%)を全体量に対して0.01~10重量%の範囲内の値とすることが、発明の詳細な説明に記載されていると認めることはできない。さらに、【表1】の実施例1~4は、最大でも添加量を2.07重量%(実施例3)としたものであり、上限値10重量%にはほど遠いものであるから、上限値を10重量%とすることが裏付けられているとは到底認めることができない。

以上のことから、(1)で述べた原査定の理由は妥当であり、本願の明細書は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

3.進歩性についての当審の判断
以下では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いる。
(1)本願発明の認定
本願発明は、1.において【請求項1】として記載した事項によって特定されるとおりのものである。

(2)引用例記載の発明の認定
引用例には、次のア~ウの記載がある。
ア.「中空微小球体、粉末パルプ、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールを含有する軽量粘土であって、カルボキシメチルセルロースとポリビニルアルコールの配合比率が重量比で10:0.5~10:3であることを特徴とする軽量粘土。」(【請求項1】)
イ.「本発明の軽量粘土には、上記の中空微小球体、粉末パルプ、CMC、PVAの他に、適量の添加物などを配合させることができる。」(段落【0007】)
ウ.「本発明の軽量粘土は、岩石粉やタルク粉を使用することなく、より軽量となり、また色合いも白さが増し、顔料の色合いをそのまま出しやすい。」(段落【0009】)

引用例には、記載ウ以外には「顔料」との用語は見られないが、軽量粘土に適宜・適量の顔料を配合し着色を施すことは周知である(例えば特開2000-234212号公報、特開2000-302164号公報又は登録実用新案第3061628号公報参照。)から、記載イの添加物として顔料が配合されているものと認める。
したがって、記載ア~ウを含む引用例の全記載によれば、引用例には次の発明が記載されていると認めることができる。
「顔料、中空微小球体、粉末パルプ、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールを含有する軽量粘土であって、カルボキシメチルセルロースとポリビニルアルコールの配合比率が重量比で10:0.5~10:3である軽量粘土。」(以下「引用発明」という。)

(3)本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
引用発明の「顔料」は(2)で述べたように着色を施すためのものであるから、本願発明の「色素顔料」に相当する。
本願明細書の「極性化合物としては、水酸基含有化合物やカルボキシル基含有化合物であることことが好ましい。」(段落【0033】)及び「水酸基含有化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリエチレン酢酸ビニル、尿素樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。」(段落【0034】)の記載からみて、引用発明が「極性化合物」を含有することは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは「色素顔料と、極性化合物と、を含有する粘土。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉色素顔料の粒径につき、本願発明が「平均粒径を0.01~0.2μmの範囲内の値」とし「粒径分布における標準偏差を0.05μm以下の値」としているのに対し、引用発明ではそれらのことが不明である点。
〈相違点2〉色素顔料の添加量につき、本願発明が「全体量に対して、0.01~10重量%の範囲内の値」としているのに対し、引用発明では不明である点。

(4)相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
〈相違点1について〉
色素顔料により着色を行う場合、顔料の分散性を確保するとともに、きめ細かさや透明性を確保するため、粒径を選択することが重要であることは技術常識に属する。実際、カラーインクに用いる場合の例として、特開平9-263720号公報には「粒子径50nm以下の超微粒子」(【請求項7】)を用いることが、同じく特開平11-181342号公報には「顔料粒子の平均粒子径が80nm以下、且つ最大粒子径が0.1μm以下」(【請求項1】)とすることが記載されており、棒状化粧料の例として特開平10-120530号公報には平均粒径0.1μmの群青を用いる例(段落【0029】の実施例3)が、粘着シートの例として特開平5-148460号公報には「粒径が0.001~0.1μmの無機顔料」(【請求項1】)や実施例としての「超微粒子酸化亜鉛・・・粒径0.005~0.015μm」(段落【0013】)などの記載(同旨の記載は特開平5-9442号公報にもある。)があり、これら文献において用いられている色素顔料の平均粒径はすべて本願発明の上限値0.2μmよりも相当程度小さく、その程度の平均粒径を有する色素顔料を用いることは周知技術というべきである。これら文献では色素顔料を用いる対象が本願発明と異なる(但し、特開平10-120530号公報記載の技術は粘土と類似性がある。)けれども、これら文献により明らかな上記周知技術の平均粒径を粘土において採用できない理由はないし、少なくとも引用発明における顔料粒径を選択する上での参考になることは明らかである。そして、上記周知技術の平均粒径が粘土において適当であるか不適当であるかは、試作することによりたやすく確認できることであるから、周知技術の平均粒径を引用発明における顔料の平均粒径として採用することは当業者にとって想到容易である。
また、本願明細書の「色素顔料の平均粒径が0.01μm未満の値となると、著しく凝集しやすくなり、粘土中への均一に混合分散することが困難となって、その結果、発色性が低下する場合があるためである。」(段落【0016】)との記載によれば、平均粒径の下限を0.01μmとした理由は、色素顔料の分散性を確保することにある。しかし、上述したとおり、顔料の分散性の確保は技術常識であるから、上記周知技術の平均粒径を採用する際にも、粘土において分散性が確保されるかどうかは、実験により確認すべきことがらであって、確保されることが判明した0.01μm以上のものを採用することは設計事項である。
ところで、粒径を選択することが重要であるからには、選択した粒径から大きく乖離した粒径の粒子が少ないほど好ましいことはいうまでもない。そればかりか、上記周知技術においては、平均粒径の大きい場合でも0.1μmであり、それよりも相当小さい場合もある。そして、標準偏差が0.05μm以上ということは、平均粒径が0.1μm以下の場合には、平均粒径の1/2以上の標準偏差ということであるが、そのような粒径分布は極めて不自然である。本願明細書に記載された実施例1~実施例4及び比較例1~比較例6(【表1】)をみても、平均粒径が小さいほど標準偏差も小さくなる傾向があり、標準偏差が平均粒径の1/2を超える例は見当たらない。そうであれば、平均粒径が0.1μm以下である上記周知技術においては、標準偏差は0.05μm以下である蓋然性が高く、0.05μmを超える可能性があるとしても、0.05μm以下とすることは設計事項というべきである。
以上のとおりであるから、相違点1に係る本願発明の構成をなすことは当業者にとって想到容易である。

〈相違点2について〉
色素顔料により着色を行うに当たり、添加量が少なすぎたのでは有効な着色を行えないことは自明である。まして、引用発明は中空微小球体を含有する軽量粘土であるから、その比重は小さく、したがって添加量(重量%)は比重が大きい粘土に比べて多くなければならない。そうである以上、色素顔料の添加量を、全体量に対して0.01重量%以上とすることは設計事項に属する。
また、引用例の記載イにあるように、顔料等の添加物は適量配合させることができるのであって、全体量に対して10重量%を超えて添加した場合には、添加した顔料が手に付着したり、多量の顔料添加物が原因となって、粘土の硬さ、伸び易さ、もろさ等にも影響を及ぼしかねない。したがって、色素顔料の添加量を、全体量に対して10重量%以下とすることも設計事項である。引用例の記載イに「適量の添加物」とあるのも、上述したのと同趣旨と解すべきである。
以上のとおり、相違点2に係る本願発明の構成をなすことは設計事項である。

〈本願発明の進歩性の判断〉
相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成をなすくことは、設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
以上述べたとおり、本願の明細書は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明の進歩性について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-11-29 
結審通知日 2004-11-30 
審決日 2004-12-13 
出願番号 特願2001-165370(P2001-165370)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 537- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 昭彦  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 谷山 稔男
津田 俊明
発明の名称 粘土  
代理人 江森 健二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ