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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない A41B
管理番号 1127915
審判番号 訂正2005-39114  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-12-09 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-07-04 
確定日 2005-12-07 
事件の表示 特許第3315993号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第3315993号は、平成3年6月3日の出願に係り、平成14年6月7日に設定登録がなされたものであって、その後、異議申立人秋元義雄により、平成15年2月19日付けで特許異議の申し立てがなれ、平成17年3月15日付けで「訂正を認める。特許第3315993号の請求項1、3ないし7に係る特許を取り消す。同請求項2に係る特許を維持する。」との異議の決定がなされ、平成17年4月28日に、知的財産高等裁判所にこの決定の取消を求める訴え(平成17年(行ケ)第10449号)がなされたものであり、訴えが知的財産高等裁判所に提起された後、平成17年7月4日付けで訂正審判(訂正2005-39114号)の請求がなされ、これに対して、平成17年8月9日付けで訂正拒絶理由が通知され、指定期間内である平成17年9月15日付けで意見書が提出されたものである。

2 請求の趣旨及び訂正事項A
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第3315993号の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものである。
そして、本件訂正審判に係る訂正事項の内、訂正事項Aは、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1を次のように訂正しようとするものである。

[訂正事項A]
特許請求の範囲の請求項1
「液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する本体を備え、該本体は着用時に着用者の腹側に位置する腹側部と、背側に位置する背側部とに区分されており、上記腹側部及び上記背側部それぞれの両側縁部を接合固定してウエスト開口部と一対のレッグ開口部とを形成したパンツ型の使い捨てパンツにおいて、
上記ウエスト開口部に隣接してウエスト弾性部材が該開口部全周にわたって配置されており、且つ、上記ウエスト開口部内側において、弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており、
上記吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する、上記腹側部及び上記背側部の左右一対のサイドフラップの少なくとも長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材が配置されており、
また、一対のレッグ部のサイドフラップには、一対の上記レッグ開口部それぞれにギャザーを形成するレッグ弾性部材を備えており、該レッグ弾性部材は、少なくとも2本配されており、それぞれ一方の上記レッグ部から他方の上記レッグ部に亘って上記吸収体と重ねられた部分を有して配されていることを特徴とする使い捨てパンツ。」

「液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する本体を備え、該本体は着用時に着用者の腹側に位置する腹側部と、背側に位置する背側部とに区分されており、上記腹側部及び上記背側部それぞれの両側縁部を接合固定してウエスト開口部と一対のレッグ開口部とを形成したパンツ型の使い捨てパンツにおいて、
上記ウエスト開口部に隣接してウエスト弾性部材が該開口部全周にわたって配置されており、且つ、上記ウエスト開口部内側において、弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており、
上記吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する、上記腹側部及び上記背側部の左右一対のサイドフラップの少なくとも長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材が配置されており、
また、一対のレッグ部のサイドフラップには、一対の上記レッグ開口部それぞれにギャザーを形成するレッグ弾性部材を備えており、該レッグ弾性部材は、少なくとも2本配されており、それぞれ一方の上記レッグ部から他方の上記レッグ部に亘って上記吸収体と重ねられた部分を有して配されており、上記立体カフスは固定部分及び自由部分を有し、上記自由部分は、該自由部分が外側に翻ることを防止する反転防止手段を備えていることを特徴とする使い捨てパンツ。」
と訂正する。

3 訂正拒絶理由の概要
一方、平成17年8月9日付けで当審が通知した訂正拒絶理由の概要は、本件訂正審判の請求は、次の理由により、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないというものである。
[理由]
本件訂正事項Aは、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「立体カフス」なる構成を同構成に関連する技術的事項であり、願書に添付した明細書及び図面に記載された事項である「上記立体カフスは固定部分及び自由部分を有し、上記自由部分は、該自由部分が外側に翻ることを防止する反転防止手段を備えている」なる技術的事項に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、新規事項を追加するものではない。
しかしながら、本件訂正に係る請求項1の発明(以下、「本件訂正発明」という。)は、本件特許出願前に頒布された下記刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


刊行物1:特開平3-82467号公報
刊行物2:特開昭64-26701号公報
刊行物3:米国特許4,936,840号明細書

4 独立特許要件
4-1 刊行物の記載事項
刊行物1には、以下の記載がある。
・記載1-1(1頁右下欄4ないし6行)
「本発明は、使い捨て着用物品に関し、さらに詳しくは、オムツ・失禁パンツ・トレニングパンツなどの着用物品に関する。」
・記載1-2(特許請求の範囲第1項)
「(1)トップシートと、バックシートと、該両シートの前後区域間に位置する股下区域の両側に形成した脚周りに沿って取り付けた弾性部材とを有する使い捨て着用物品において、前記両脚周り弾性部材を第1および第2部材で構成し、該第1および第2部材の中央部分を前記股下区域のほぼ中央部に位置させるとともに、該第1部材の両側部分を前記両脚周りのほぼ前半分にかつ該第2部分の両側部分を前記脚周りのほぼ後半分にそれぞれ位置させ、……特徴とする前記着用物品。」
・記載1-3(2頁左下欄1行ないし右下欄2行)
「第1図は、着用物品1の斜視図を示す。着用物品1は、脚周り2と、腰(胴)周り3とを有し、それぞれに弾性部材4,5を取り付けてある。第2図は、物品1の分解斜視図を示す。物品1は、伸縮・透水性トップシート6と、伸縮・透水性バックシート7と、マットまたはシート状の吸水性コア8と、前記脚周りおよび腰周り弾性部材4,5とから構成してある。トップおよびバックシート6,7の前後区域10,11の間に位置する股下区域12の両側縁には前記脚周り2用の凹欠縁13,14を形成してある。図示してないが、バックシート7の少なくとも中央域にトップおよびバックシート6,7よりも伸縮弾性強力が強い不透水性プラスチックフィルムを……接合してもよい。……脚周り弾性部材4は、第1部材4Aと、第2部材4Bとから構成してある。」
・記載1-4(3頁左上欄7ないし10行)
「こうして構成した積層体は、その中央部で縦方向に二つに折り重ねてその両側縁をヒートシール手段で接合することで、第1図に示す物品1に構成してある。」
・記載1-5(3頁右上欄6ないし9行)
「弾性部材4,5は1本以上の糸状または帯状ゴムまたはプラスチックフィルムをそれぞれ用いることができる。」
そして、第2図によれば、パンツ型の使い捨てパンツが、吸収性コアの長手方向両端縁から幅方向外方に延出する、前区域及び後区域の左右一対のサイドフラップを有することは、当業者に明らかである。
また、第1図には、脚周り弾性部材により脚周り開口部にギャザーが形成された状態が示されている。
以上の記載並びに第1図及び第2図によれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「透水性トップシートと、バックシートと、これら両シート間に配置される吸収性コアとを有する本体を備え、該本体は着用時に着用者の腹側に位置する前区域と、背側に位置する後区域とに区分されており、前区域及び後区域それぞれの両側縁を接合して腰周り開口部と一対の脚周り開口部とを形成したパンツ型の使い捨てパンツにおいて、腰周り開口部に隣接して腰周り弾性部材が開口部全周にわたって配置されており、一対の脚周り部のサイドフラップには、一対の脚周り開口部それぞれにギャザーを形成する脚周り弾性部材を備えており、該脚周り弾性部材は、第1と第2の2本配されており、それぞれの中央部分が股下区域のほぼ中央部に位置し、第1の脚周り弾性部材の両側部分が両脚周りのほぼ前半部分に、第2の脚周り弾性部材の両側部分が両脚周りのほぼ後半部分に位置するように配されている使い捨てパンツ。」

刊行物2には、以下の記載がある。
・記載2-1(3頁右上欄5ないし9行)
「本発明は、使い捨てオムツ、さらに詳しくは、ウエストバンド部に通気防液性構造を備え、該バンド部においてオムツの内外部の通気をはかると同時に、該バンド部からの体液の漏れを防止するようにした該オムツに関する。」
・記載2-2(4頁左上欄9行ないし左下欄4行)
「第1および第2図に示すように、オムツは、透液性トップシート1と、不透液性バックシート2と、該両シートの間に吸収性コア3と、……背側における横対向側に備えるテープファスナー6とを含んでいる。……本発明の特徴は、コア3の縦対向縁から外方に延出して相会する両シート1,2の部分で形成される、前側および背側における第1のウエストフラップ7a,7bの上面に伸縮弾性で通気防液性の第2のウエストフラップ8a,8bを備え、各第1のウエストフラップ7a,7bと各第2のウエストフラップ8a,8bとの間に内方に開口するポケット9が形成されていることにある。第3図ないし第5図に示すように、第2のウエストフラップ8a,8bは、……その横方向に沿う内縁10で包まれるとともにその横方向に間欠的に接着されている伸縮弾性部材11を備え、これによってウエスト回り方向に伸縮弾性化されている。したがって、第2のウエストフラップ8a,8bは、伸縮弾性部材11が収縮しているときには、その収縮程度によって上向きに傾斜ないし起立し、ポケット9の開口が大きくなって充分に機能することができる。第2のウエストフラップ8a,8bの横方向に沿う外縁13aと横対向端13bとが第1のウエストフラップ7a,7bに固定されている。これらの固定、とくに前者の固定は、連続シールによってなされていることが、外縁13aからの体液の漏れを完全に防止するうえで好ましい。」
・記載2-3(4頁右下欄16行〜5頁左上欄1行)
「第7図においては、第2のウエストフラップ8a,8bは、第1のウエストフラップ7a,7bの横方向に沿う外縁12から外方に延出するトップシート2の部分内方に折り返され、その横方向端が第1のウエストフラップに固定されている。」
以上の記載及び図面によれば、刊行物2には、「ウエストバンド部からの体液の漏れを防止するために、コア3の縦対向縁から外方に延出する透液性トップシート1と不透液性バックシート2で形成される、前側および背側における第1のウエストフラップ7a,7bの上面に横方向に伸縮弾性部材11を備えた通気防液性の第2のウエストフラップ8a,8bを備え、伸縮弾性部材11が収縮して第1のウエストフラップ7a,7bと第2のウエストフラップ8a,8bとの間に内方へ開口するポケット9が形成された、使い捨てオムツ。」の発明が記載されていると認められる。

刊行物3には、以下の記載(当審翻訳)がある。
・記載3-1(4欄45ないし49行)
「Fig.2を参照すると、本発明によって、エラストマーの外カバーを備えた使い捨てオムツのような、10で示された解剖学的に体にフィットし、一般に自動調整の使い捨て吸収性衣服が提供される。」
・記載3-2(7欄50ないし55行)
「Fig.2,4,5,7を参照すると、本発明によって、前部ウエストパネル28に取り付けられ、少なくとも前部ウエストパネル28の中央部を横切って、矢印41で示された身体を横切る方向に延びる腹部サポートバンド65が提供される。」
・記載3-3(8欄33ないし47行)
「使い捨てオムツに、ウエストバンドより1ないし3インチ下に位置するサポートバンドを供給することにより、オムツは、現在販売されているオムツにみられるよりも良好に、前部パネルのずり落ちがより少なく、位置に保持されるだろう。……サポートバンドは、多くの形態をとり得る。第1に、従来の単一のオムツでは、バンドは、エラストマー材料が引き伸ばされ、外カバーに取り付けられ、プラスチックフィルム外カバーを収縮させ、サポートライン(図示なし)に沿って収縮力を与えるものがあり得る。バンド65は、前部ウエストパネルのみに、同様に後部パネル30に、あるいは前部及び後部のみの部分に位置することができる。」
そして、Fig.2に、吸収性インサートの長手方向両端縁から幅方向外方に延出する左右一対のサイドフラップに腹部サポートバンド65が配置された状態が示され、Fig.7に、腹部サポートバンド65によりギャザーが形成された状態が示されている。
以上の記載及び図面によれば、刊行物3には、
「吸収性インサートの長手方向両端縁から幅方向外方に延出する前部及び後部の左右一対のサイドフラップの中央部にギャザーを形成するエラストマー材料からなる腹部サポートバンド65を設けた使い捨てオムツ。」の発明が記載されていると認められる。

4-2 対比・判断
本件訂正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「透水性トップシート」は本件訂正発明の「液透過性のトップシート」に相当し、以下、同様に、「吸収性コア」は「吸収体」に、「前区域」は「腹側部」に、「後区域」は「背側部」に、「腰周り開口部」は「ウエスト開口部」に、「脚周り開口部」は「レッグ開口部」に、「腰周り弾性部材」は「ウエスト弾性部材」に、それぞれ相当し、また、刊行物1記載の発明の「該脚周り弾性部材は、第1と第2の2本配されており、それぞれの中央部分が股下区域のほぼ中央部に位置し、第1の脚周り弾性部材の両側部分が両脚周りのほぼ前半部分に、第2の脚周り弾性部材の両側部分が両脚周りのほぼ後半部分に位置するように配されている」は、本件訂正発明の「該レッグ弾性部材は、少なくとも2本配されており、それぞれ一方の上記レッグ部から他方の上記レッグ部に亘って上記吸収体と重ねられた部分を有して配されている」に相当する。
そうすると、両者は、
「液透過性のトップシートと、バックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する本体を備え、該本体は着用時に着用者の腹側に位置する腹側部と、背側に位置する背側部とに区分されており、上記腹側部及び上記背側部それぞれの両側縁部を接合固定してウエスト開口部と一対のレッグ開口部とを形成したパンツ型の使い捨てパンツにおいて、
上記ウエスト開口部に隣接してウエスト弾性部材が該開口部全周にわたって配置されており、
また、一対のレッグ部のサイドフラップには、一対の上記レッグ開口部それぞれにギャザーを形成するレッグ弾性部材を備えており、該レッグ弾性部材は、少なくとも2本配されており、それぞれ一方の上記レッグ部から他方の上記レッグ部に亘って上記吸収体と重ねられた部分を有して配されている使い捨てパンツ。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点ア)
バックシートが、本件訂正発明では、液不透過性であるのに対し、刊行物1記載の発明では、液不透過性と特定されていない点。
(相違点イ)
本件訂正発明では、上記ウエスト開口部内側において、弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており、上記立体カフスは固定部分及び自由部分を有し、上記自由部分は、該自由部分が外側に翻ることを防止する反転防止手段を備えているのに対し、刊行物1記載の発明では、そのような立体カフスを備えていない点。
(相違点ウ)
本件訂正発明では、上記吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する、上記腹側部及び上記背側部の左右一対のサイドフラップの少なくとも長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材が配置されているのに対し、刊行物1記載の発明では、そのようなサイド弾性部材について言及されていない点。
そこで、上記相違点について検討する。
(相違点アについて)
吸収体を備えた使い捨てオムツ、使い捨てパンツなどにおいて、バックシートを液不透過性のバックシートとすることは、慣用手段であり、相違点アにおける本件訂正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(相違点イについて)
本件訂正明細書によると、本件訂正発明は、「上記ウエスト開口部内側において、弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており、上記立体カフスは固定部分及び自由部分を有し、上記自由部分は、該自由部分が外側に翻ることを防止する反転防止手段を備えている」との構成を採用することにより、「着用者の肌に有効にフィットし、ウエスト開口部内側において、本体との間にポケットを形成し、吸収体に吸収されずに使い捨てパンツ内に漂う排泄物を収容し、ウエスト開口部からの排泄物の漏れを防止する」(訂正明細書の段落【0008】、【0028】)ものである。
一方、刊行物2記載の発明の「第2のウエストフラップ」は、本件訂正発明の「弾性伸縮性の立体カフス」に相当するから、刊行物2には、ウエストバンド部からの体液の漏れを防止するために、使い捨てオムツにおいて、ウエスト部の内側に弾性伸縮生の立体カフスを設けるという技術的事項が記載されている。
また、刊行物2には、「第2のウエストフラップ8a,8bの横方向に沿う外縁13aと横対向端13bとが第1のウエストフラップ7a,7bに固定されている。」(上記記載2-2参照)、「第7図においては、第2のウエストフラップ8a,8bは、…その横方向端が第1のウエストフラップに固定されている。」(上記記載2-3参照)と記載されていることから、第2のウエストフラップ8a,8bは、第1のウエストフラップ7a,7bに対して固定される部分とフリーとなる部分が存在することは明らかであるので、刊行物2には、「第2のウエストフラップ8a,8bは、固定部分と自由部分を有する」技術的事項も記載されているものと認める。
してみると、刊行物2には、「ウエストバンド部からの体液の漏れを防止するために、使い捨てオムツにおいて、ウエスト部の内側に弾性伸縮性の立体カフスを設けるとともに、該立体カフスが固定部分と自由部分を有する」という技術的事項が記載されているものと認める。
また、上述の如く、刊行物2には「第2のウエストフラップ8a,8bの…横対向端13b…が第1のウエストフラップ7a,7bに固定されている。」(上記記載2-2)と記載されていることから、この固定により、第2のウエストフラップ8a,8bが外側に翻ることを防止するとの明記はないものの、この固定が、第2ウエストフラップ8a,8bの望まない方向への回転を阻止する機能を有することは明らかである。
また、使い捨ておむつにおいて、カフスと本体の間に形成されるポケットを保持するために、カフスの外側への反りを防止するために反転防止手段を設けることも、周知技術(例えば、特開平2-126850号公報(特に、第3頁上左欄第8〜15行の記載)、特開平2-274250号公報(特に、第3頁下左欄第16行〜同頁下右欄第1行の記載)参照)である。
刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明は、体液を外に漏らすことなく吸収保持するために下半身に着用する衣類という同一の技術分野に属するものであり、刊行物1記載の発明に、ウエストバンド部からの体液の漏れを防止するために、刊行物2に記載の上記技術的事項及び前記周知技術を適用することは、当業者であれば容易に思いつくことである。
そして、弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されているようにすることは、上記技術的事項及び周知技術の適用に際し、体液の漏れを防止できるように、弾性伸縮性の立体カフスにより内方へ開口するポケットが形成されるようにするために、当業者が設計上当然に行う事項にすぎない。

なお、請求人は平成17年7月4日付け審判請求書において、「本件訂正審判請求人(特許権者)が前記特許異議意見書において述べた理由[異議の決定の謄本第10頁下から7行〜第11頁9行に転記されている]及び…第2のウエストフラップ(8a、8b)の固定位置は、おむつの長手方向端縁に、即ち、第1のウエストフラップ(7a、7b)の横方向に沿う外縁にポケット(9)を形成する場合において、第2のウエストフラップ(8a、8b)の起立高さを確保することで防漏性を実現させ、且つ、無用な部分(防漏性に寄与しない部分)を備えないようにするためには必要な構成である。」(第11頁第13行〜第27行)と述べ、引用例1記載の発明への引用例2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップの適用には阻害要因がある旨主張している。
しかしながら、刊行物2には、一実施例として「第7図においては、第2のウエストフラップ8a,8bは、第1のウエストフラップ7a,7bの横方向に沿う外縁12から外方に延出するトップシート2の部分内方に折り返され、その横方向端が第1のウエストフラップに固定されている。」(第4頁下右欄第16行〜第5頁上左欄第1行)と記載されており、この記載によると、第2のウエストフラップ8a,8bの固定位置は、おむつの長手方向端縁、即ち、第1のウエストフラップ7a、7bの横方向に沿う外縁に限定されるものではない。
すなわち、刊行物2には、「第2のウエストフラップ8a,8bは、第1のウエストストフラップ7a,7bの横方向に沿う外縁に限定されないウエスト開口部の内側の任意の位置で固定される」技術的事項が開示されているといえる。
したがって、請求人が主張する、「第2のウエストフラップ(8a、8b)の固定位置は、おむつの長手方向端縁に、即ち、第1のウエストフラップ(7a、7b)の横方向に沿う外縁にポケット(9)を形成する場合において」とする主張は、その前提において誤りである。
また、使い捨ておむつにおいて、弾性伸縮性の立体カフスの立ち上がり位置をおむつ本体の端縁としないことも、周知技術(例えば、特開平1-183501号公報、特開昭62-250201号公報参照。)にすぎない。
さらに、刊行物2には、(従来の技術とその問題点)として「しかし、従来技術においては、前記通気チャンネルから体液が漏れ易い。また、伸縮弾性部材によるウエストバンド部に作られるギャザーが、前背側におけるウエストバンド部を締結するためのテープファスナーの自由端を接着すべき領域にシワが派生し、着用体裁を悪くするうえ、その接着操作および状態に支障を来すといった問題がある。」(第3頁上右欄第19行〜同頁下左欄第6行)と記載されており、(問題を解決するための手段)として「…前側および背側における第1のウエストフラップと、背側における横対向側に備えるテープファスナーとを含む使い捨てオムツを対象とする。そして、該オムツにおいては、少なくとも一方の前記第1のウエストフラップはその上面に伸縮弾性で通気防液性の第2のウエストフラップを備え、前記第2のウエストフラップは前記第1のウエストフラップとでこれらの間に内方へ開口するポケットを形成している。」(第3頁下右欄第7行〜第16行)と記載されている。
これらの記載によると、刊行物2記載のものは、ウエストバンド部からの体液の漏れを防止するために、ウエスト部の内側に弾性伸縮性の立体カフス(伸縮弾性の第2のウエストフラップ)を設けるという技術的事項を開示していることは明らかであって、しかも、この技術的事項は、第1のウエストフラップに弾性部材を設けていないことに依存することなく独立して把握可能であるから、この技術的事項を、ウエストバンド部に弾性部材を有しないものにしか適用できないとする技術的な理由はない。
また、刊行物2記載のものが、ウエスト開口部からの排泄物の漏れを防止するという本件訂正発明と同一の目的を達成しつつ、第1のウエストフラップに弾性部材を設けていないのは、ウエストバンド部を締結するためのテープファスナーを用いたオムツにおける問題、すなわち、前背側におけるウエストバンド部を締結するためのテープファスナーの自由端を接着すべき領域にシワが派生し、着用体裁を悪くするうえ、その接着操作および状態に支障を来す問題を解決するためである。
すなわち、刊行物2に記載された伸縮弾性の第2のウエストフラップは、ウエスト開口部からの排泄物の漏れを防止するという目的を達成するための構成要素であり、第1のウエストフラップに弾性部材を設けていないことは、テープファスナーの接着操作および状態に支障を来すことを防止するという目的を達成するための構成要素といえる。
してみると、刊行物2記載のものにおいて、第1のウエストフラップに弾性部材を設けていない点は、テープファスナーの接着操作および状態に支障を来すことを防止するという目的を達成するための構成要素であって、ウエスト開口部からの排泄物の漏れを防止するという目的を達成するための構成要素ではないから、刊行物1記載の発明における腰周り弾性部材を備えた使い捨てオムツに関して、ウエスト開口部からの排泄物の漏れを防止するという目的を達成するために、刊行物2に記載された、ウエスト部の内側に弾性伸縮性の立体カフス(伸縮弾性の第2のウエストフラップ)を設けるという技術的事項を適用することは可能であって、刊行物2記載のものにおいて、第1のウエストフラップに弾性部材を設けていない点は、その適用を妨げる要因とはならない。
よって、刊行物1記載の発明への刊行物2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップの適用は可能であって、請求人の主張は採用できない。

また請求人は同審判請求書において、「仮に、刊行物1記載の発明に、刊行物2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップに適用すると、ウエスト部の防漏性を確保し難い構造となるから、刊行物1記載の発明への刊行物2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップの適用は、当業者であっても容易に思いつくことではなく」(第12頁第23行〜第26行)と主張している。
しかしながら、使い捨ておむつにおいて、カフスと本体の間にポケットを保持するために、カフスをフラップの弾性部材と平面視で重ならない位置に固定し、カフスの基端をフラップの弾性部材の弾性収縮力に影響されない位置とすることは周知技術(例えば、特開平1-183501号公報、特開昭62-250201号公報参照。)である。
上記周知技術は、使い捨ておむつにおけるサイドフラップとカフスに係るものであるが、この周知技術を使い捨ておむつのウエスト弾性部材とカフスに係るものに適用できないとする技術的な理由はない。
そして、刊行物2には、第2のウエストフラップ8a,8bは、第1のウエストストフラップ7a,7bの横方向に沿う外縁に限定されない位置で固定される技術的事項が開示されている点、及び、刊行物1記載の発明への刊行物2記載の伸縮弾性の第2のウエストフラップの適用が可能であることは、上述したとおりである。
したがって、刊行物2に記載の「第2のウエストフラップ(8a、8b)」を刊行物1記載の「腰周り弾性部材(5)(=ウエスト弾性部材)を備えた使い捨ておむつ」に適用するに際し、上記周知技術を考慮すると、「第2のウエストフラップ(8a、8b)」を「腰周り弾性部材(5)」と平面視で重ならない位置に固定して、「第2のウエストフラップ(8a、8b)」の基端である外縁を「腰周り弾性部材(5)」の弾性収縮力に影響されない位置とすることは明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

さらに、請求人は同審判請求書において、「引用例2記載の第2のウエストフラップ(8a、8b)は、平面視で吸収性コア(3)(=吸収体)と重ならない位置に設けられることを前提とした技術であるから、第2のウエストフラップ(8a、8b)の基端である外縁(13a)を、引用例1記載の使い捨てオムツにおける腰周り弾性部材(5)(=ウエスト弾性部材)の下方に固定することにより、第2のウエストフラップ(8a、8b)を平面視で吸収性コア(8)(=吸収体)と重なる位置に位置させることには、当業者であっても容易に想到し得ることではない。」(第13頁第20行〜第26行)と主張している。
しかしながら、本件訂正発明では、「上記ウエスト開口部に隣接してウエスト弾性部材が該開口部全周にわたって配置されており、且つ、上記ウエスト開口部内側において、弾性伸縮性の立体カフスが該ウエスト弾性部材の下方から股下部に向かって延出されており」と記載されているに止まり、弾性伸縮性の立体カフスを吸収体と重なる位置に位置させるとは何ら規定されていない。すなわち、特許権者の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
そして、刊行物2記載のものは、第2のウエストフラップ(8a、8b)と第1のウエストフラップ(7a、7b)とでこれらの間に内方へ開口するポケットを形成しているのであるから、第2のウエストフラップ(7a、7b)は股下部に向かっているものといえる。
したがって、請求人が、「引用例2記載の第2のウエストフラップ(8a、8b)は、平面視で吸収性コア(3)(=吸収体)と重ならない位置に設けられることを前提とした技術である」とする主張は、その前提において誤りである。

また、請求人は平成17年9月15日付け意見書において、「第2のウエストフラップ8a,8bにおいては、横対向端13b,13bにおける接合部は、外縁13aにおける接合部と共に「固定部分」を構成している。…訂正発明における「反転防止手段」は、刊行物2記載のおむつにおける第2のウエストフラップ8a,8bについて考えれば、横対向端13b,13bとは別に、横対向端13b,13b間に設けられているものである。」(第3頁第9行〜第21行)と述べ、平成17年8月9日付け訂正拒絶理由通知で指摘した「「また、刊行物2には、…との記載があり、この固定により、第2のウエストフラップ8a,8bが外側に翻ることを防止するとの明記はないものの、この固定が、ポケットの形成に際し、第2ウエストフラップ8a,8bの望まない方向への回転を阻止する機能を有することは明らかである。」は明らかに誤りである」と主張している。
確かに、請求人が主張するように、第2のウエストフラップ8a,8bにおいては、横方向端13b,13bにおける接合部は、第1のウエストフラップ7a,7bに対して固定する機能を有しているものの、ポケットの形成に際し、第2ウエストフラップ8a,8bの望まない方向への回転を阻止する機能をも有していることは明らかである。
よって、請求人の主張は採用しない。

さらに、請求人は同意見書第4頁第18行〜第6頁第15行において、「周知技術刊行物a(特開平2-126850号公報)、周知技術刊行物b(特開平2-274250号公報)に記載の技術は、何れも、訂正発明における「立体カフスの自由部分に設けられた、自由部分が外側に翻ることを防止する反転防止手段」ではない」旨主張している。
しかしながら、ここで周知技術として認定しているのは「使い捨ておむつにおいて、カフスと本体の間に形成されるポケットを保持するために、カフスの外側への反りを防止するために反転防止手段を設ける」技術であって、この技術が上記周知技術刊行物a,bに記載されていることは明らかである。
そして、この周知技術を立体カフスの自由部分に適用した際の効果も、反転防止手段が有する固有の効果であって、格別なものでもない。
よって、請求人の主張は採用しない。

また、請求人は同意見書において、「サイド立体カフスにおける「外側に反り返ることを防止する技術」と、ウエスト立体カフスにおける「外側に反り返ることを防止する技術」とは、念頭においている外側に反り返る方向に加わる力の大きさ及び外側に反り返ることに対する許容度(外側への反り返りが許される程度)が全く異なっている。従って、刊行物1,2の記載と周知技術刊行物a,bの記載とを組み合わせて考えたとしても、訂正発明における「自由部分に自由部分が外側に翻ることを防止する反転防止手段を備えた、ウエスト弾性部材の下方から延出する立体カフス」は、容易に想到し得ることではない。」(第9頁第19行〜第26行)と主張している。
しかしながら、使い捨ておむつにおける「サイド立体カフス」と「ウエスト立体カフス」とは、ともにポケット部を形成して体液の漏れを防止する点でその機能は同一であるので、サイド立体カフスの技術をウエスト立体カフスに適用可能であることは明らかである。
してみると、刊行物1,2の記載と周知技術刊行物a,bに記載の周知技術とにより、「自由部分に自由部分が外側に翻ることを防止する反転防止手段を備えた、ウエスト弾性部材の下方から延出する立体カフス」は、容易に想到し得ることであって、格別なものではない。
よって、請求人の主張は採用しない。

(相違点ウについて)
刊行物3記載の発明の「エラストマー材料からなる腹部サポートバンド65」及び「吸収性インサート」は、それぞれ本件訂正発明の「サイド弾性部材」及び「吸収体」に相当するから、刊行物3には、使い捨てオムツにおいて、吸収体の長手方向両端縁から幅方向外方に延出する腹側部及び背側部の左右一対のサイドフラップの長手方向中央部にギャザーを形成するサイド弾性部材を配置するという技術的事項が記載されている。
刊行物1記載の発明と刊行物3記載の発明は、体液を外に漏らすことなく吸収保持するために下半身に着用する衣類という同一の技術分野に属するものであるから、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の上記技術的事項を適用し、相違点ウにおける本件訂正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、全体として、本件訂正発明が奏する効果も、刊行物1ないし3記載の発明、及び前記周知技術から当業者が予測し得る範囲のものである。
したがって、本件訂正発明は、刊行物1ないし3記載の発明、及び前記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
5 むすび
以上のとおり、本件訂正審判の請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-05 
結審通知日 2005-10-11 
審決日 2005-10-25 
出願番号 特願平3-131420
審決分類 P 1 41・ 856- Z (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植前 津子  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 溝渕 良一
宮崎 敏長
登録日 2002-06-07 
登録番号 特許第3315993号(P3315993)
発明の名称 使い捨てパンツ  
代理人 松嶋 善之  
代理人 羽鳥 修  

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