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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61J 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61J 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61J |
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管理番号 | 1129508 |
審判番号 | 無効2003-35344 |
総通号数 | 75 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-01-19 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2003-08-25 |
確定日 | 2005-12-08 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3375518号発明「注射剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3375518号の請求項1乃至4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3375518号の請求項1乃至4に係る発明は、平成9年6月23日に特許出願され、平成14年11月29日にその発明についての特許権の設定登録がされたものである。 その後の平成15年8月25日に株式会社大塚製薬工場より本件の特許請求の範囲の請求項1乃至4に係る特許について無効審判の請求がされ、これに対して被請求人より平成15年11月21日に訂正請求がされたものである。 2.訂正請求について (2-1)訂正事項 本件特許の出願の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の訂正の請求(以下、「本件訂正」という。)は、平成15年11月21日付け訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)によると、次の事項をその訂正の内容とするものである。 (訂正事項1) 特許請求の範囲の請求項1の「ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であることを特徴とする注射剤。」を「ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であることを特徴とする注射剤。」と訂正する。 (訂正事項2) 特許請求の範囲の請求項3の「ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内のガス組成が炭酸ガス濃度2~35vol%であることを特徴とする請求項1、2に記載の注射剤。」を「ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が炭酸ガス濃度2~35vol%であることを特徴とする請求項1、2に記載の注射剤。」と訂正する。 (訂正事項3) 明細書の段落[0005]の「ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内の酸素ガス濃度を所定範囲(10vol%以下)内に調整すれば、」を「ヘッドスペース部分及び二次包材内の酸素ガス濃度を所定範囲(10vol%以下)内に調整すれば、」と訂正する。 (訂正事項4) 明細書の段落[0006]の「ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内の酸素ガス濃度を上記範囲内に調整するとともに、」を「ヘッドスペース部分及び二次包材内の酸素ガス濃度を上記範囲内に調整するとともに、」と訂正する。 (訂正事項5) 明細書の段落[0007]の「ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であることを特徴とする注射剤、」を「ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であることを特徴とする注射剤、」と訂正する。 (訂正事項6) 明細書の段落[0007]の「ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内のガス組成が炭酸ガス濃度2~35vol%であることを特徴とする(1)、(2)記載の注射剤、」を「ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が炭酸ガス濃度2~35vol%であることを特徴とする(1)、(2)記載の注射剤、」と訂正する。 (訂正事項7) 明細書の段落[0008]の「ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度10vol%以下に調整する。好ましくは、ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度7vol%以下」を「ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度10vol%以下に調整する。好ましくは、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度7vol%以下」と訂正する。 (訂正事項8) 明細書の段落[0009]の「上記ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度10vol%以下にするための方法として、」を「上記ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度10vol%以下にするための方法として、」と訂正する。 (訂正事項9) 明細書の段落[0020]の「真空包装または窒素ガス封入し、」を「真空包装(参考)または窒素ガス封入し、」と訂正する。 (訂正事項10) 明細書の段落[0022]の「真空包装または窒素ガス封入し、」を「真空包装(参考)または窒素ガス封入し、」と訂正する。 (訂正事項11) 明細書の段落[0023]の「真空包装または窒素ガス封入し、」を「真空包装(参考)または窒素ガス封入し、」と訂正する。 (訂正事項12) 明細書の段落[0027]の[表3]中、包装形態に関し、実施例1~3について3箇所全ての「真空包装」を「真空包装(参考)」と訂正する。 (訂正事項13) 明細書の段落[0028]の「真空包装または炭酸ガス30vol%を含むガスを封入して、」を「真空包装(参考)または炭酸ガス30vol%を含むガスを封入して、」と訂正する。 (訂正事項14) 明細書の段落[0030]の[表4]中、2次包材に関し、No1及びNo4について2箇所の「真空包装」を「真空包装(参考)」と訂正する。 (2-2)訂正事項の適否について (2-2-1)訂正事項1について 訂正事項1は、発明を特定する事項である「ヘッドスペース部分及び/又は二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であることを特徴とする注射剤。」を、これに含まれる事項である「ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%以下であることを特徴とする注射剤。」に訂正するものである。 ここで、訂正前の「及び/又は」を使って規定される酸素ガス濃度についての条件は、ヘッドスペース部分も二次包材内のどちらのガス組成も、酸素ガス濃度が1.2~10vol%である条件、ヘッドスペース部分あるいは二次包材内のどちらかのガス組成が、酸素ガス濃度が1.2~10vol%である2つの条件、の計3通りのものを含むものと解釈できるところ、訂正後の「及び」を使って規定される条件は、このうちヘッドスペース部分も二次包材内のどちらのガス組成も、酸素ガス濃度が1.2~10vol%である1通りの条件のみを規定したものといえるから、減縮に相当する。また、本件特許明細書の記載を参酌すると、ヘッドスペース部分も二次包材内のどちらのガス組成も、酸素ガス濃度が1.2~10vol%である条件の例のみが記載されているといえるから、上記3通りに解釈できる点を、上記1通りの条件のみを規定するように明確化したものということができる。 したがって、上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (2-2-2)訂正事項2について 訂正事項2も、上記訂正事項1について説示したのと同様の理由から、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (2-2-3)訂正事項3乃至5及び7乃至8について 訂正事項3乃至5及び7乃至8は、いずれも上記訂正事項1と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (2-2-4)訂正事項6について 訂正事項6は、上記訂正事項2と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (2-2-5)訂正事項9乃至14について 訂正事項9乃至14は、上記訂正事項1、2の訂正に伴って明細書の記載が、特許請求の範囲の各請求項と整合しなくなった箇所を、特許請求の範囲の各請求項と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (2-3)まとめ 以上のことから、上記訂正事項1乃至14は、いずれも、特許法第134条第2項ただし書き及び同条第5項において準用する特許法第126条第2項乃至第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.請求人の主張 請求人は、下記の証拠及び理由から、「特許第3375518号の明細書の請求項1乃至4に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」(請求の趣旨)と主張する。 1)証拠 甲第1号証:特開平5-261141号公報 甲第2号証:特開平8-164185号公報 甲第3号証:特開平9-124491号公報 甲第4号証:特開昭62-221352号公報 なお、請求人は、平成16年5月20日付けで陳述要領書(1)を提出し、平成16年6月4日付けで上申書を提出している。 そして、他の証拠として、該陳述要領書(1)において参考資料1を、該上申書において資料1~5を提出している。 2)理由 請求人の主張する理由の概要は次のとおりである。 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号の規定により、また、甲第2号証に記載された発明に基いて容易に発明できたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3項の規定により、特許を受けることができない。 本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1号証および甲第3号証を組み合わせることにより容易に発明することができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 本件特許の請求項4に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証を組み合わせれば、容易に発明することができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 4.被請求人の主張 被請求人は、平成15年11月21日に訂正請求をするとともに、「審判請求は理由がないものとする。審判請求の費用は請求人の負担とする。との審決を求め」(答弁の趣旨)るとともに、以下のような理由から、本件発明の特許は無効とされるべきものでない旨を主張する。 (理由1)本件訂正により限定された「ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であること」(上記訂正事項1)の構成については、上記甲第1号証乃至甲第4号証に示されていないから、請求項1に係る発明は、上記甲第1号証に記載された発明とはいえず、請求項2に係る発明は、上記甲第2号証に記載された発明といえない。 (理由2)理由1に加え、主たる引用例である上記甲第1号証及び上記甲第2号証に記載の発明は、プラスチック容器充填注射液製剤における、保存時の微粒子数の増加を抑制し、不溶性異物及び微粒子が少ない注射剤を提供することを目的としない点で本件発明と異なるから、請求項1乃至4に係る発明は、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 なお、被請求人は、平成16年5月20日付けで口頭審理陳述要領書(1)及び(2)を提出し、該口頭審理陳述要領書(1)において参考資料1乃至2を、また、平成16年6月10日付けで上申書を提出し、該上申書において参考資料1乃至4を提出している。 5.訂正後の発明に係る特許の無効理由の存否について (5-1)本件発明 上記2.のとおり本件訂正は認められるので、無効審判の請求の対象となっていた訂正前の請求項1乃至4に係る発明に実質的に対応するといえるところの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至4に係る発明(以下順に、「本件発明1乃至4」という。)はそれぞれ、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 (本件発明1) 「ガス透過性プラスチック容器に充填され、酸素ガス不透過性二次包材によって包装された注射剤において、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であることを特徴とする注射剤。」 (本件発明2) 「重炭酸イオンを含有することを特徴とする請求項1に記載の注射剤。」 (本件発明3) 「重炭酸イオンを含有し、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が炭酸ガス濃度2~35vol%であることを特徴とする請求項1、2に記載の注射剤。」 (本件発明4) 「二次包材内に脱酸素剤を封入してなることを特徴とする請求項1~3に記載の注射剤。」 (5-2)甲各号証記載事項 (5-2-1)甲第1号証について 本件特許の出願日前に公知の刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている。 (5-2-1-1) 「【請求項1】炭酸水素イオンを含有する医薬用水溶液をプラスチック製容器に充填し、これをガスバリア性を有する包装材にて包装し、上記容器と包装材との空間部を炭酸ガスを含有するガス雰囲気とすることを特徴とする上記医薬用水溶液の安定化方法。 【請求項2】炭酸水素イオンを含有する医薬用水溶液を充填したプラスチック製容器と、該容器を包装したガスバリア性を有する包装材とからなり、上記容器と包装材との空間部が炭酸ガス含有雰囲気とされていることを特徴とする安定化された上記医薬用水溶液収容容器。」(公報、特許請求の範囲) (5-2-1-2) 「本発明者らは、上記目的より鋭意研究を重ねた結果、炭酸水素イオンを含有する医薬用水溶液をまず気体透過性を有する通常のプラスチック製容器に収容し、通常の高圧蒸気殺菌後に、ガスバリア性を有する包装材で二次包装すると共に、上記容器と包装材との空間部を炭酸ガス雰囲気とする時には、前記目的に合致する水溶液の安定化を図り得、また安定化された水溶液の収容容器が提供できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。」(公報、第2欄第29行~第37行) (5-2-1-3) 「本発明の安定化方法及び容器によれば、上記構成を採用することによって、以下の如き種々の利点がある。 【0012】(1)容器が気体透過性を有するプラスチック製容器であることに基づいて、破損しにくく大容量化が容易で、しかも軽量化を図り得るに加えて、加熱殺菌時に炭酸ガスが発生しても容器自体が柔軟であるため内圧がかからず、これによる破損の心配も回避できる。 【0013】(2)ガスバリア性を有する包装材を用いたことに基づいて、内容器から発生する炭酸ガスが大気中に揮散するのを防止できる。 【0014】(3)気体透過性を有するプラスチック製容器と、ガスバリア性を有する包装材の利用に基づいて、内容器から発生する炭酸ガスと二次包装中の炭酸ガス雰囲気とを平衡化させることが可能となる。」(公報、第2欄第49行~第3欄13行) (5-2-1-4) 「【0019】上記医薬用水溶液を収容、充填するための気体透過性を有するプラスチック製容器としては、従来より医療分野で用いられている各種のものをいずれも使用できる。その具体例としては、例えばポリエチレン製、ポリプロピレン製、ポリ塩化ビニル製のものや之等を適当な比率で配合あるいはラミネートしたもの等を例示できる。之等容器の形状、大きさ等には特に制限はないが、一般には長方形や円筒形のものがよく用いられ、それらの内容量は一般的には約20ml程度から3l程度の範囲が汎用され、本発明でもかかる容器を用いるのが好ましい。 【0020】ガスバリア性を有する包装材としては、通常のもの例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の材質のものや之等各種材質の多層フィルムからなるものを例示できる。之等包装材の形状、大きさ等は上記プラスチック製容器を収容できることを前提として特に制限されるものではないが、この収容後に容器との間に炭酸ガス含有ガスを封入できる充分な空間部を形成させ得る形状、大きさとする必要があり、一般には、上記プラスチック製容器の約1.2~2倍容量程度の大きさであるのが望ましい。 【0021】上記容器と包装材との空間部を炭酸ガスを含有するガス雰囲気とするためには、例えば炭酸ガスと空気との混合ガスや炭酸ガスと窒素ガスとの混合ガス等の炭酸ガスを含有する混合ガスを上記空間部に封入する方法が採用できる。この方法において、用いられる混合ガスの炭酸ガス濃度は、プラスチック製容器に充填される医薬用水溶液の種類、特にその炭酸水素イオン濃度及びpHに応じて適宜決定される。例えば上記水溶液として血液濾過用補充液として汎用される、炭酸水素ナトリウム8.4g及び塩化ナトリウム2.69gを注射用水に溶解させて全量を1lとした水溶液を選ぶ場合、該水溶液の炭酸水素イオン濃度は100mMであり且つpHは8.21であり、この値を保持するためには、上記混合ガス雰囲気の炭酸ガス濃度を約3~5%程度とするのがよい。」(公報、第4欄第3行~第40行) (5-2-1-5) 「【0027】 本発明方法において安定化され得る医薬用水溶液の炭酸水素ガス濃度及びpHは一般に0.01~1M程度及び6.5~8.6程度であるため、上記炭酸ガス分圧は通常約1mmHg~760mmHgの範囲に調整されるのがよく、これに応じて上記混合ガス中の炭酸ガスの含有比率を選択するのが好ましい。より詳しくは、製造後の内容液のpHが所定の範囲内にある場合には、空間部に封入する炭酸ガスは内容液の炭酸ガス分圧にほぼ等しくなるようにすればよい。製造後の内容液のpHが所定の範囲より高い場合には、空間部に封入する炭酸ガスは内容液に吸収される量と所定pH範囲に平衡が移動した時の炭酸ガス分圧に等しい量の合計量にほぼ等しくなるようにすればよい。 【0028】 本発明方法に従う、医薬用水溶液の容器への充填、滅菌、包装材による包装、空間部への炭酸ガスの封入等は、通常の注射液の製造方法に従って容易に行なうことができる。」(公報、第5欄第14行~第30行) (5-2-1-6) 「【実施例1】 炭酸水素ナトリウム8.4g及び塩化ナトリウム2.69gを注射用水に溶解させて全量を1lとした水溶液を調製し、ポリエチレン製容器(内容積:約1600cm3 、膜厚:約0.5mm)に充填し、高圧蒸気滅菌(105℃、40分間)後、ガスバリア性包装材(ポリビニルアルコールよりなるフィルム、商品名:ボブロン(商標)フィルム、膜厚約60~80μm、内容積:2000cm3 )に収容し、空間部を真空脱気し、次いで炭酸ガス濃度3%、5%及び7%の各炭酸ガス/空気の混合ガス1lを、上記容器と包装材との空間部に封入して、本発明方法を実施し、図1に示す本発明の医薬用水溶液収容容器(二次包装品)を得た。」(公報、第6欄第17行~第28行) (5-2-1-7) 「このことから、本発明方法によれば人工腎臓灌流用剤、根管拡大剤、解毒剤等の炭酸水素イオンを含有する医薬用水溶液を極めて安定化させ得ることが明らかである。 【実施例3】炭酸水素ナトリウム5.8g及び塩化ナトリウム12.22g及び塩化カリウム0.3gを注射用水に溶解させて全量を1lとした水溶液を調製し、これをA液とする。また、塩化カルシウム・2水塩0.514g、塩化マグネシウム・6水塩0.204g及びブドウ糖2.0gを上記A液と同様にして調製し、これをB液とする。 【0045】上記A液及びB液を、2室を有し用時混合可能なポリエチレン製容器(内容積:各室約1500cm3 、膜厚:約0.5mm)の各室内にそれぞれ充填し、高圧蒸気滅菌(105℃、40分間)後、実施例1と同様にして包装した。次いで、炭酸ガス濃度30%の窒素-炭酸ガス混合ガス1lを、上記容器と包装材との空間部に封入して、本発明方法を実施して、本発明の医薬用水溶液収容容器(二次包装品)を得た。」(公報、第7欄第39行~第8欄第43行) (5-2-1-8) 図面の第1図には、実施態様の概略図が示されている。 (5-2-1-9) 上記(5-2-1-1)乃至(5-2-1-7)の記載事項及び上記(5-2-1-8)の図示内容等を総合すると、甲第1号証には、その実施例3に関し、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「長方形或いは円筒形で、内容量が20ml~3l程度の従来より医療分野で用いられているポリエチレン製の気体透過性を有するプラスチック製容器に、通常の注射液の製造方法に従って充填され、ガスバリア性を有する包装材によって包装され、具体的には下記のような製造方法により製造される人工腎臓灌流用剤、根管拡大剤、解毒剤等の炭酸水素イオンを含有する医薬用水溶液収容容器。 記 [製造方法] 炭酸水素ナトリウム5.8g及び塩化ナトリウム12.22g及び塩化カリウム0.3gを注射用水に溶解させて全量を1lとした水溶液を調製し、これをA液とする。また、塩化カルシウム・2水塩0.514g、塩化マグネシウム・6水塩0.204g及びブドウ糖2.0gを上記A液と同様にして調製し、これをB液とする。 次に、上記A液及びB液を、2室を有し用時混合可能なポリエチレン製の気体透過性を有するプラスチック容器(内容積:各室約1500cm3 、膜厚:約0.5mm)の各室内にそれぞれ充填し、高圧蒸気滅菌(105℃、40分間)後、ガスバリア性を有する包装材に収容し、空間部を真空脱気し、次いで、炭酸ガス濃度30%の窒素-炭酸ガス混合ガス1lを、前記ポリエチレン製の気体透過性を有するプラスチック容器と前記ガスバリア性を有する包装材との空間部に封入して、医薬用水溶液収容容器を得る。」 (5-2-2)甲第2号証について 本件特許の出願日前に公知の刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。 (5-2-2-1)「炭酸水素塩を含有する薬液入りプラスチック容器がガスバリアー性の高い包装材で包装された収納体において、前記容器と包装材との空間部に脱酸素剤と酸素検知剤が収納され、かつ前記空間部が炭酸ガスを含む実質的に酸素の存在しないガス雰囲気とされていることを特徴とする収納体。」(公報、特許請求の範囲請求項1) (5-2-2-2)「薬液入りプラスチック容器と包装材との空間部の酸素濃度が0.5%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の収納体。」(公報、特許請求の範囲請求項4) (5-2-2-3)「かつ前記空間部が炭酸ガスを含む実質的に酸素の存在しないガス雰囲気とされている収納体を提供する。」(公報、第2頁右欄第28行~第30行) (5-2-3)甲第3号証について 本件特許の出願日前に公知の刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。 (5-2-3-1) 「【請求項3】 ガス不透過性2次包材で包装されたガス透過性プラスチック容器からなり、重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,カルボン酸イオンを少なくとも含有し、かつCO2分圧が50~300mmHgである溶液が充填された前記容器からなる製剤であって、前記包材と前記容器との空間部の炭酸ガス濃度が5~35v/v%であることを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合製剤。」(公報、特許請求の範囲請求項3) (5-2-3-2) 「さらに、微粒子を含むことを許さない注射剤のレベルにも合格する輸液剤を提供することができる。」(公報、第9頁右欄第46行~第48行) そして、上記(5-2-3-1)及び(5-2-3-2)の記載を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ガス不透過性2次包材で包装されたガス透過性プラスチック容器からなり、重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,カルボン酸イオンを少なくとも含有し、かつCO2分圧が50~300mmHgである溶液が充填された前記容器からなる製剤であって、前記包材と前記容器との空間部の炭酸ガス濃度が5~35v/v%であることを特徴とする、微粒子を含むことを許さない注射剤のレベルにも合格する輸液剤。」 (5-2-4)甲第4号証について 本件特許の出願日前に公知の刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。 「(1)耐熱性を有する柔軟なプラスチック材料で形成された少なくとも一つ以上の排出口を有する容器であって酸素によって変質しやすい成分を含む薬液を充填したものと脱酸素剤をともに、少なくとも前記脱酸素剤の周囲に空間が存在するように高い酸素ガス非透過性を有する包装材料に封入し、前記薬液中において薬液を変質させない酸素濃度にしたことを特徴とする酸素による薬液の変質を防止する薬液入りプラスチック容器。」(公報、特許請求の範囲請求項1) (5-3)対比・判断 (5-3-1)甲第1号証発明について ここで、甲第1号証発明の医薬用水溶液収容容器における上記気体透過性を有するプラスチック製容器内における上部空間及び上記気体透過性を有するプラスチック製容器と上記ガスバリア性を有する包装材との間の気体の組成について検討する。 甲第1号証発明における製造方法である「通常の注射液の製造方法」は、他に特段の事項が規定されていない場合、通常の作業環境下、すなわち大気下において実施されるものと考えることが妥当であり、甲第1号証に、このことに関して上記特段の事項の記載があるものでもないから、上記医薬用水溶液の充填は大気中において実施されるものといえる。 また、甲第1号証発明の「円筒形」であって「従来より医療分野で用いられている」「気体透過性プラスチック容器」を想定すると、それは、ある程度剛性があり充填時に起立させておくことができるものであって、充填後に何らかの手段でシールができるものといえる。 同じく、甲第1号証発明の「長方形」であって「従来より医療分野で用いられている」「気体透過性プラスチック容器」を想定すると、それは、ある程度柔軟性があり、内容液を充填する際に容器の上部の形が定まらず、上部空間が必ずしも十分に確保できないものであって、充填後に何らかの手段でシールができるものといえる。 これらのことを前提にして、甲第1号証発明の「医薬用水溶液収容容器」における「気体透過性を有するプラスチック製容器」内の上部空間及び気体透過性を有するプラスチック製容器と上記ガスバリア性を有する包装材との間の気体の組成を計算する。 まず、気体透過性を有するプラスチック製容器として、甲第1号証発明の上記「円筒形」のものを用い上部空間を最大限保持した場合の計算結果は、下記(イ)、(ロ)のようになる。 なお、以下の計算中では、上記気体透過性を有するプラスチック製容器内の上部空間は、単に「上部空間」、上記気体透過性を有するプラスチック製容器と上記ガスバリア性を有する包装材との間は、単に「空間部」ということとする。 また、大気組成(容積比)は、 酸素:20.949% 二酸化炭素:0.04%とする。 (理科年表ジュニア編集委員会編、理科年表ジュニア版、152頁、丸善株式会社発行、平成15年3月31日による。) (イ) 酸素ガス濃度 1)上部空間における酸素ガス量: (500cm3×2)×20.949%=209.49cm3(上記500cm3は、A室及びB室の内容積(各1500cm3)からA液及びB液の容積(各1l=1000cm3)をそれぞれ減じたもの。) 2)空間部における酸素ガス量: 1000cm3×0%=0cm3(上記1000cm3は、窒素-炭酸ガス混合ガス(1l)から。) 3)上部空間と空間部との合計酸素ガス量: 209.49cm3+0cm3=209.49cm3 4)上部空間と空間部との合計容積: 500cm3×2+1000cm3=2000cm3 5)平衡に達した時の上部空間と空間部の酸素ガス濃度: (209.49cm3÷2000cm3)×100=10.475vol % (ロ) 炭酸ガス濃度 1)上部空間における炭酸ガス量: (500cm3×2)×0.04%=0.4cm3 2)空間部における炭酸ガス量: 1000cm3×30%÷100=300cm3 3)上部空間と空間部との合計炭酸ガス量: 0.4cm3+300cm3=300.4cm3 4)上部空間と空間部との合計容積: 500cm3×2+1000cm3=2000cm3 5)平衡に達した時の上部空間と空間部の炭酸ガス濃度: (300.4cm3÷2000cm3)×100=15.020vol% 上記の計算結果から、上部空間を最大限保持した場合には、上部空間と空間部の酸素ガス濃度は10.475vol%、炭酸ガス濃度は15.020vol%となるといえる。 次に、気体透過性を有するプラスチック製容器として、甲第1号証発明の上記「長方形」のものを用い上部空間が必ずしも十分に確保できない場合の計算をしてみると、上記(イ)、(ロ)において上部空間の容積の最大値である「500cm3」としたところが、全て0cm3を越え500cm3未満の値をとることになるので、その計算結果は(イ)では、酸素ガス濃度が、0vol%を越え、10.475vol%未満、(ロ)では、炭酸ガス濃度が、0vol%を越え、15.020vol%未満となることが明らかである。 なお、上部空間の容積は下記に示した理由から、上記のように全て0cm3を越えるものとした。 記 [上部空間部の容積が0cm3を越える数値とした理由] 被請求人は、甲第1号証には、本件発明1におけるヘッドスペースに相当する上記気体透過性を有するプラスチック製容器内の上部空間は、主に下記a.乃至c.の3点の理由から示されていないと主張する。(平成16年6月10日付け上申書、第10頁第20行~第11頁第9行等) a.甲第1号証には、ヘッドスペースなるものについての記載がない点。 b.甲第1号証の図1には、ヘッドスペースなるものが示されていない点。 c.甲第1号証では、例えば、実施例1では、直接気体透過性を有するプラスチック製容器に充填する液量が1l、上記気体透過性を有するプラスチック製容器と上記ガスバリア性を有する包装材との間に封入する混合ガスも1lであるのに対し、該包装材の内容積は2000cm3であるからヘッドスペースなるものがあるとは考えられず、実施例3は、実施例1と同様にして包装したとされているから、実施例3についてもヘッドスペースなるものは0と解釈するのが妥当である点。 そこで、上記主張について検討する。 a.については、逆にヘッドスペースがない旨の明示の記載、その旨を示唆する記載もないといえる。 b.については、特許明細書に添付の図面には、必ずしも詳細なものが要求されるものではないことを考慮すると、ヘッドスペースなるものが示されていないからといって、それが必ずしもその不存在を意味するものとはいえない。 c.については、甲第1号証の段落[0020]の包装材に関する「之等包装材の形状、大きさ等は上記気体透過性を有するプラスチック製容器を収容できることを前提として特に制限されるものではないが、この収容後に容器との間に炭酸ガス含有ガスを封入できる充分な空間部を形成させ得る形状、大きさとする必要があり、一般には、上記気体透過性を有するプラスチック製容器の約1.2~2倍容量程度の大きさであるのが望ましい。」との記載を考慮すると、適宜のプラスチック容器を選択することにより該プラスチック容器と包装材との空間部に1lの混合ガスを、包装材の格別の膨張なしに実現できることは明らかであるから、上記主張によって、甲第1号証にはヘッドスペースなるものが存在しないと断定することはできない。 そして、甲第1号証には、上記したように(5-2-1-5)に、医薬用水溶液の容器への充填等は、通常の注射液の製造方法に従って容易に行なうことができる旨の記載があり、被請求人が平成16年5月20日付けで提出した口頭審理陳述要領書(2)の「ヘッドスペースおよび二次材料内の酸素濃度をゼロに近い低濃度とすることは、工業的生産において空気中で操作する場合には、技術的ならびに経済的な難点を伴うのであります。プラスチック容器(特にブローバッグ)は排液性向上のためにヘッドスペースがあります。本件特許明細書中の実施例ではヘッドスペースを特に他のガスで置換せず、空気のままで操作を行いました。」(第5頁第16行~第21行)との記載からみても、通常の注射液の製造方法においては、排液性向上の都合からプラスチック容器の上部にはヘッドスペースを設けることが行われているといえることから、実施例3においても、通常の空気中で行われる気体透過性を有するプラスチック製容器内への医薬用水溶液の充填は、上部にいわゆるヘッドスペースを設けて行われる、すなわち上部空間の容積は0cm3を越えるものと解するのが相当である。 そして、以上の計算結果を踏まえれば、甲第1号証発明は、次の構成を備えた医薬用水溶液収容容器(以下、「甲第1号証発明の1」という。)であるということができる。 「長方形或いは円筒形で、内容量が20ml~3l程度の従来より医療分野で用いられているポリエチレン製の気体透過性を有するプラスチック製容器に、通常の注射液の製造方法に従って充填され、ガスバリア性を有する包装材によって包装され、具体的には下記のような製造方法により製造される人工腎臓灌流用剤、根管拡大剤、解毒剤等の炭酸水素イオンを含有する医薬用水溶液収容容器において、前記気体透過性を有するプラスチック製容器内の上部空間及び前記気体透過性を有するプラスチック製容器と前記ガスバリア性を有する包装材との間の空間のガス組成について、酸素ガス濃度及び炭酸ガス濃度が、平衡に達した時点でそれぞれ、0vol%を越え10.48vol%以下、0vol%を越え15.020vol%以下である炭酸水素ナトリウムを溶解させた水溶液を含む、医薬用水溶液収容容器。 記 [製造方法] 炭酸水素ナトリウム5.8g及び塩化ナトリウム12.22g及び塩化カリウム0.3gを注射用水に溶解させて全量を1lとした水溶液を調製し、これをA液とする。また、塩化カルシウム・2水塩0.514g、塩化マグネシウム・6水塩0.204g及びブドウ糖2.0gを上記A液と同様にして調製し、これをB液とする。 次に、上記A液及びB液を、2室を有し用時混合可能なポリエチレン製の気体透過性を有するプラスチック容器(内容積:各室約1500cm3 、膜厚:約0.5mm)の各室内にそれぞれ充填し、高圧蒸気滅菌(105℃、40分間)後、ガスバリア性を有する包装材に収容し、空間部を真空脱気し、次いで、炭酸ガス濃度30%の窒素-炭酸ガス混合ガス1lを、ポリエチレン製の気体透過性を有するプラスチック容器とガスバリア性を有する包装材との空間部に封入して、医薬用水溶液収容容器を得る。」 (5-3-2)本件発明1について そこで、本件発明1と上記甲第1号証発明の1とを対比すると、後者の「気体透過性を有するプラスチック製容器」はその機能及び構成からみて前者の「ガス透過性プラスチック容器」に相当し、以下同様に、「ガスバリア性を有する包装材」は「酸素ガス不透過性二次包材」に、「前記気体透過性を有するプラスチック製容器内の上部空間」は「ヘッドスペース部分」に、「前記気体透過性を有するプラスチック製容器と前記ガスバリア性を有する包装材との間の空間」は「二次包材内」に、それぞれ相当している。 また、人工腎臓灌流用剤、根管拡大剤、解毒剤等の炭酸水素イオンを含有する医薬用水溶液は注射剤の一種といえる。 してみると、両者は「ガス透過性プラスチック容器に充填され、酸素ガス不透過性二次包材によって包装された注射剤」である点で一致しており、次の点で相違する。 相違点:本件発明1では、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であるのに対し、甲第1号証発明の1では、それらのガス組成が酸素ガス濃度0vol%を越え10.48vol%以下である点。 そこで、上記相違点について、以下に検討する。 本件発明1の「ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成」を「酸素ガス濃度1.2~10vol%」と規定した点についての技術的意義乃至臨界的意義について検討する。 本件発明1のヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成について、訂正明細書には、その段落[0008]に、「本発明においては、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度10vol%以下に調整する。」との記載があり、その他段落[0009]に、「上記ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度10vol%以下にするための方法として、…(中略)…等の手段を採用することことができる。」等の記載はあるが、本件発明1の「ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成」を「酸素ガス濃度1.2~10vol%」に調整するための具体的方法については、明示の記載はない。 さらに、訂正明細書の段落[0004]、段落[0005]には、本件特許の目的が、プラスチック容器充填注射液製剤における、保存時の微粒子数の増加を抑制し、不溶性異物及び微粒子が少ない注射剤を提供することにあり、ヘッドスペース部分及び二次包材内の酸素ガス濃度を所定範囲(10vol%以下)内に調整すれば、微粒子の増加を抑制し得ることを知見した旨の記載があるものの、微粒子の発生と酸素濃度数値の範囲との関係について上記数値範囲を規定した点に技術的意義乃至臨界的意義があるとする具体的根拠を訂正明細書中に見出し得ない。 上記のことから、酸素ガス濃度について、1.2~10vol%と特定した点に、格別の技術的意義乃至臨界的意義が存すると認めることはできず、実質的に相違があるものとすることはできない。 したがって、他の理由及び証拠について検討するまでもなく、本件発明1は、上記甲第1号証に記載された発明と認められる。 (5-3-3)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の構成を全て含むとともに、さらに、「重炭酸イオンを含有すること」という限定事項を加えたものといえる。 そして、上記甲第1号証発明の1は、「炭酸水素ナトリウムを溶解させた水溶液を含む」ものであるから、上記限定事項である「重炭酸イオンを含有すること」を併せて備えるものといえる。 したがって、他の理由及び証拠について検討するまでもなく、本件発明2は、上記甲第1号証に記載された発明と認められる。 (5-3-4)本件発明3について 本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含むとともに、さらに、「重炭酸イオンを含有し、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が炭酸ガス濃度2~35vol%であること」という限定事項を加えたものといえる。 そして、上記甲第1号証発明の1は、「炭酸水素ナトリウムを溶解させた水溶液を含む」ものであるから、「重炭酸イオンを含有すること」を併せて備えることは、上記(5-3-3)で説示したとおりであり、さらに、上記甲第1号証発明の1の医薬用水溶液収容容器は、「気体透過性プラスチック製容器内の上部空間及び前記プラスチック製容器と前記ガスバリア性を有する包装材との間の空間のガス組成について」、「炭酸ガス濃度が、平衡に達した時点で」「15.020vol%である」ものを含むものであるといえるから、上記限定事項を併せて備えているものである。 したがって、他の理由及び証拠について検討するまでもなく、本件発明3は、上記甲第1号証に記載された発明と認められる。 (5-3-5)本件発明4について 本件発明4は、本件発明1~本件発明3のいずれかの構成を全て含むとともに、さらに、「二次包材内に脱酸素剤を封入してなること」という限定事項を加えたものといえる。 ところで、ガス透過性プラスチック容器に充填され、酸素ガス不透過性二次包装材料によって包装された注射剤において、二次包装材料内に脱酸素剤を封入することは、上記甲第2号証又は上記甲第4号証にも記載されているように、本件の出願前、周知の技術である。 してみると、当業者が、上記甲第1号証発明の1において、不溶物異物の防止を考慮し、上記甲第1号証発明の1における「前記プラスチック製容器と前記ガスバリヤ性を有する包装材との間の空間」に上記周知の二次包装材料内に脱酸素剤を封入する技術を適用し、本件発明4のように、二次包材内に脱酸素剤を封入した注射剤の発明特定事項とすることは容易に為し得たものといえる。 したがって、他の理由及び証拠について検討するまでもなく、本件発明4は、上記甲第1号証発明の1及び上記周知の技術から当業者が容易に発明できたものであるといえる。 6.むすび 以上検討したことから、本件発明1乃至4に係る特許は、特許法第29条第1項3号又は同条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第2項の規定に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 注射剤 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】ガス透過性プラスチック容器に充填され、酸素ガス不透過性二次包材によって包装された注射剤において、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であることを特徴とする注射剤。 【請求項2】重炭酸イオンを含有することを特徴とする請求項1に記載の注射剤。 【請求項3】重炭酸イオンを含有し、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が炭酸ガス濃度2~35vol%であることを特徴とする請求項1、2に記載の注射剤。 【請求項4】二次包材内に脱酸素剤を封入してなることを特徴とする請求項1~3に記載の注射剤。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、注射剤に関する。 【0002】 【従来の技術】医薬品として用いられている注射剤は、従来、ガラス容器に充填して提供されてきたが、その重量や、破損の恐れ等から、近年、プラスチック容器に充填して提供されることが多くなってきている。特に、容量が大きく、重量のある輸液剤等においては、プラスチックボトルやプラスチックバッグといった、プラスチック容器を使用して提供する製品が多くなってきている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】このような医薬品は、輸送や保存される間に、高温、多湿といった、いわゆる、ハードな条件下にさらされることがある。このような条件下において、プラスチック容器充填医薬品では、従来のガラス容器では見られなかった、不溶性異物の生成及び/又は微粒子の増加が観察されることがある。 【0004】本発明は、上記問題点に鑑み、鋭意検討の結果完成されたものであって、その目的とするところは、プラスチック容器充填製剤における、特に、プラスチック容器充填注射液製剤における、保存時の微粒子数の増加を抑制し、不溶性異物及び微粒子が少ない注射剤を提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、プラスチック容器のヘッドスペース部分及び/又は二次包材内のガス組成に着目して検討した結果、ヘッドスペース部分及び二次包材内の酸素ガス濃度を所定範囲(10vol%以下)内に調整すれば、微粒子の増加を抑制し得ることを知見し、これによって、前記目的とする注射剤を提供するものである。 【0006】また、重炭酸イオンを含有する注射剤においては、ヘッドスペース部分及び二次包材内の酸素ガス濃度を上記範囲内に調整するとともに、炭酸ガス濃度を2~35vol%に調整することによって微粒子の少ない、安定な注射剤を提供するものである。 【0007】即ち本発明は、(1)ガス透過性プラスチック容器に充填され、酸素ガス不透過性二次包材によって包装された注射剤において、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が酸素ガス濃度1.2~10vol%であることを特徴とする注射剤、(2)重炭酸イオンを含有することを特徴とする(1)記載の注射剤、(3)重炭酸イオンを含有し、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成が炭酸ガス濃度2~35vol%であることを特徴とする(1)、(2)記載の注射剤、(4)二次包材内に脱酸素剤を封入してなることを特徴とする(1)~(3)記載の注射剤、である。 【0008】 【発明の実施の形態】本発明に係る注射剤は、前記したとおり、ガス透過性プラスチック容器に充填され、酸素ガス不透過性二次包材によって包装されているものが対象である。本発明においては、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度10vol%以下に調整する。好ましくは、ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度7vol%以下、より好ましくは、酸素ガス濃度5vol%以下に調整する。 【0009】上記ヘッドスペース部分及び二次包材内のガス組成を酸素ガス濃度10vol%以下にするための方法として、例えば、▲1▼プラスチック容器と二次包材の間に酸素ガスを含まない不活性ガスを封入する方法、この場合の不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、炭酸ガス等が挙げられる。▲2▼該容器と二次包材の間に脱酸素剤を封入する方法、▲3▼注射液を上記のような不活性ガスでバブリングする方法、▲4▼ヘッドスペース部分を上記のような不活性ガスで置換する方法、等の手段を採用することにより達成することができる。 【0010】本発明に使用するプラスチック容器としては、一般的に医療用に用いるものなら何でも使用することができ、例えば、ポリプロピレン(PP)製バッグ、ポリエチレン(PE)製バッグ、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)製バッグなどを挙げることができる。 【0011】また、本発明に使用する二次包材としては、ガス、特に酸素ガスの透過をバリアする材質が適当であり、例えばエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、酸化アルミニウムや酸化珪素の蒸着フィルム、アルミ箔ラミネートフィルムなどを挙げることができる。 【0012】また、脱酸素剤としては、例えば、鉄粉や鉄化合物の酸化反応を利用したもの、活性炭の吸着作用を利用したもの、L-アスコルビン酸(ビタミンC)、レダクトン酸等のレダクトン類、糖、フェノール、カテコールなどの酸化反応を利用したものなどを挙げることができる。 【0013】また、最近では、多層構造のフィルムの一つの層に脱酸素剤を封入せしめ、二次包材として使用するフィルム自体に脱酸素機能を持つものもあり、これらも好適に使用することができる。 【0014】本発明でいう注射剤としては、日本薬局方でいう注射剤を包含する。特に、大量輸注される輸液剤、ろ過型人工腎臓透析用補充液、腹膜透析剤などの、いわゆる、電解質製剤に好適に適用することができる。この場合の電解質製剤としては、グルコース、フルクトース等の糖類、あるいはキシリトール等の糖アルコールを同時に配合したものも包含される。これらの電解質製剤の例としては、いわゆる、生理食塩液、ブドウ糖注射液、電解質輸液剤、高カロリー輸液剤およびリンゲル液製剤などが含まれる。 【0015】また、本発明は、注射剤が重炭酸イオン含有注射剤の場合に特に好適である。このような注射剤は、例えば、まず、カルシウム塩(例えばCaCl2)、炭酸水素ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムを水に溶解し、この水溶液に炭酸ガスをバブリングしてpHを6.3~7.3に調整する。あるいは、炭酸水素ナトリウムを除くカルシウム塩、クエン酸を水に溶解し、この水溶液を予めアルカリ(例えばNaOH)でpH調整し、これに炭酸水素ナトリウムを添加した後、炭酸ガスをバブリングしてpHを6.3~7.3に調整する。次に、これらの溶液をろ過した後、ガス透過性プラスチック容器に充填する。続いて、高圧蒸気滅菌を行う。最後に、この容器を酸素ガス不透過性二次包材で包装し、該容器と二次包材との間に脱酸素剤を封入して、重炭酸イオン含有無菌性注射剤を製造する。 【0016】また、脱酸素剤を封入することに代えて、例えば、酸素ガスを含まない不活性ガス(炭酸ガスなど)を封入することにより、本発明で規定する酸素ガス濃度範囲(1.2~10vol%)になるように調整することもできる。 【0017】この場合の二次包材内の炭酸ガス濃度としては、2~35vol%であることが好ましく、より好ましくは、20~30vol%となるようにし、その時のヘッドスペース部分の炭酸ガス濃度は2~20vol%、より好ましくは、10~15vol%である。 【0018】この場合には、例えば、(1)カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオン、重炭酸イオンを含有する液を生成する各原料及びクエン酸のアルカリ金属塩を水に溶解する工程、(2)前記水溶液をガス透過性プラスチック容器に充填する工程、(3)前記容器を、その内容液のpHが6.7~7.5になるように、炭酸ガスを適当濃度とした滅菌缶体にて、滅菌する工程、(4)前記容器を二次包材で包装し、該容器と二次包材との間に酸素ガスを含まない不活性ガスを封入する工程、によって重炭酸イオン含有無菌性注射剤を得ることができる。 【0019】 【実施例】以下に、本発明の実施例および比較例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。 【0020】(実施例1)下記表1に示した試薬(配合成分)を水に溶解し、10リットルにメスアップした。次に、この溶液をろ過した後、ガス透過性プラスチック容器(PP製)に500mL充填した。この容器を116℃で14分間高圧蒸気滅菌を行った後、該容器を二次包材(酸化アルミ蒸着フィルム)で包装し、真空包装(参考)または窒素ガス封入し、無菌性糖電解質注射剤を得た。 【0021】 【表1】 ![]() 【0022】(実施例2)炭酸水素ナトリウム695gを水に溶解し、50リットルにメスアップした。次に、この溶液をろ過した後、ガス透過性プラスチック容器(PE製)に2L充填した。この容器を112℃40分間高圧蒸気滅菌を行った後、該容器を二次包材(酸化アルミ蒸着フィルム)で包装し、真空包装(参考)または窒素ガス封入し、炭酸水素ナトリウム注射液を得た。 【0023】(実施例3)下記表2に示した試薬(配合成分)を水に溶解し(pH:8.1)、10リットルにメスアップし、炭酸ガスをバブリングし滅菌前pHを6.6~6.8に調整した。次に、この溶液をろ過した後、ガス透過性プラスチック容器(PP製)に500mL充填した。この容器を116℃で14分間高圧蒸気滅菌を行った。滅菌後、該容器をガス不透過性二次包材(酸化アルミ蒸着フィルム)で包装し、真空包装(参考)または窒素ガス封入し、重炭酸イオン含有無菌性注射剤を得た。 【0024】 【表2】 ![]() 【0025】実施例1~3の無菌性注射剤について、60℃10日保存後の「微粒子数(個/mL)、二次包材中およびヘッドスペース中酸素ガス濃度(vol%)」を測定し、その結果を表3に示した。なお、微粒子数(個/mL)の測定に「自動式液中微粒子計数器“KL-01”(リオン社製)」を、二次包材中およびヘッドスペース中酸素ガス濃度(vol%)の測定に「ガスクロマトグラフ“GC-9A”(島津製作所製)」を使用した。 【0026】実施例2の真空包装(参考)におけるヘッドスペース中炭酸ガス濃度は3.4vol%、窒素ガス封入における二次包材中およびヘッドスペース中炭酸ガス濃度は、それぞれ、5.3vol%および2.1vol%であった。また、実施例3の真空包装(参考)におけるヘッドスペース中炭酸ガス濃度は14.6vol%、窒素ガス封入における二次包材中およびヘッドスペース中炭酸ガス濃度は、それぞれ、7.9vol%および4.6vol%であった。 【0027】 【表3】 ![]() 【0028】(実施例4)前記実施例3と同様に操作して調製したものを、ガス不透過性二次包材(酸化アルミ蒸着フィルムまたは酸素吸収性フィルム)で包装し、真空包装(参考)または炭酸ガス30vol%を含むガスを封入して、重炭酸イオン含有無菌性注射剤を得た。 【0029】60℃10日保存後の「微粒子数(個/mL)、二次包材中およびヘッドスペース中の酸素ガス濃度および炭酸ガス濃度(vol%)」を測定した。なお、微粒子数(個/mL)、二次包材中およびヘッドスペース中の酸素ガス濃度および炭酸ガス濃度(vol%)の測定には、実施例1~3と同じ測定機器を使用した。 【0030】 【表4】 ![]() 【0031】 【発明の効果】本発明によれば、微粒子が少ない良好な注射剤を提供することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2004-10-05 |
結審通知日 | 2004-10-07 |
審決日 | 2004-10-19 |
出願番号 | 特願平9-165692 |
審決分類 |
P
1
112・
113-
ZA
(A61J)
P 1 112・ 832- ZA (A61J) P 1 112・ 121- ZA (A61J) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
増山 剛 |
特許庁審判官 |
一色 貞好 大元 修二 |
登録日 | 2002-11-29 |
登録番号 | 特許第3375518号(P3375518) |
発明の名称 | 注射剤 |
代理人 | 熊田 和生 |
代理人 | 熊田 和生 |
代理人 | 岩谷 龍 |