• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1130802
異議申立番号 異議2003-73039  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-16 
確定日 2005-10-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3417256号「アニオン交換樹脂の再生方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3417256号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.訂正の適否
1-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
請求項1を、「【請求項1】カチオンおよびアニオン交換樹脂に通水して脱塩する純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂の再生方法において、前記アニオン交換樹脂を40〜60℃に加温した状態で1〜3.5重量%濃度の再生剤を、純水製造装置に用いられている全アニオン交換樹脂に対する空間速度(SV)15〜40hr-1の流速で通液し、アニオン交換樹脂と接触させ、全アニオン交換樹脂を再生することを特徴とするアニオン交換樹脂の再生方法。」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書の段落【0001】を、「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、カチオンおよびアニオン交換樹脂に通水して脱塩する純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂の再生方法に関する。」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の【0008】を、「【0008】【課題を解決するための手段】本発明は、カチオンおよびアニオン交換樹脂に通水して脱塩する純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂の再生方法において、前記アニオン交換樹脂を40〜60℃に加温した状態で1〜3.5重量%濃度の再生剤を、純水製造装置に用いられている全アニオン交換樹脂に対する空間速度(SV)15〜40hr-1の流速で通液し、アニオン交換樹脂と接触させ、全アニオン交換樹脂を再生することを特徴とするアニオン交換樹脂の再生方法である。」と訂正する。
1-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
(1)上記訂正事項aについて
上記訂正事項aは、詳細にみると、a-1.「アニオン交換樹脂」(本件特許掲載公報第1欄第2行)を「カチオンおよびアニオン交換樹脂に通水して脱塩する純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂」と訂正する、a-2.「アニオン交換樹脂」(本件特許掲載公報第1欄第3行)を「前記アニオン交換樹脂」と訂正する、a-3.「空間速度」を「、純水製造装置に用いられている全アニオン交換樹脂に対する空間速度」と訂正する、a-4.「アニオン交換樹脂と接触させる」を「アニオン交換樹脂と接触させ、全アニオン交換樹脂を再生する」と訂正する、というものである。
上記訂正事項a-1.は、アニオン交換樹脂の用途を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、明細書中の「本発明は、・・・特に純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂の再生方法に関する。」(本件特許掲載公報第1欄第9〜11行)、「また通水試験は、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の順に通水できるようにカラムを直列に連結し、どちらのカラムにも下向流で通水した。再生条件および通水試験条件を表3に示す。」(本件特許掲載公報第4頁第8欄第20〜23行)の記載や、表3において脱塩の欄がカチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の共通の欄となっており、生産純水量が記載されていることから、上記訂正事項a-1.は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項a-2.は、前の文脈に記載されたアニオン交換樹脂すなわち「カチオンおよびアニオン交換樹脂に通水して脱塩する純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂」であることを明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項a-3.は、空間速度を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、純水製造装置に用いられているということは上記訂正事項a-1.で述べたことから、また全アニオン交換樹脂に対するということは明細書の「アニオン交換樹脂の再生はカラムに上向流で温水および再生剤を通液して行った。」(本件特許掲載公報第4頁第8欄第18〜19行)の記載からわかるから、上記訂正事項a-3.は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項a-4.は、全アニオン交換樹脂を再生すると限定したのであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、上記訂正事項a-3.で述べたことから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項b〜cは、上記訂正事項aの訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項、第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

2.本件訂正発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1に係る発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記1-1.(1)のとおりのものである(以下、「本件訂正発明」という)。

3.特許異議申立てについて
3-1.取消理由通知の概要
当審の取消理由通知の概要は、請求項1に係る発明は刊行物1に記載された発明であるか、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号、同条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものであるというものである。
3-2.刊行物の記載内容
(1)刊行物1:特開平6-15263号公報:特許異議申立人オルガノ株式会社(以下、「申立人」という)の提出した甲第1号証
(a)「イオン交換式の純水製造装置の後段に、塔内に強塩基性アニオン交換樹脂をその樹脂の再生膨潤分だけの余裕をもたせて隙間なく充填し、向流再生を行うパック型のシリカポリシャーを設置したことを特徴とする超純水製造装置。」(請求項1)
(b)「パック型のシリカポリシャーのアニオン交換樹脂の再生を高温高速流で行う請求項1または2記載の超純水製造装置。」(請求項3)
(c)「・・・シリカポリシャーを設置することにより1次純水系にてシリカ濃度を極力低減することにより、2次純水系のCPのシリカ負荷を低減し・・・」(第2頁第2欄第5〜7行)
(d)「又1次純水系のイオン交換式純水装置は再生設備を有する従来公知の純水装置を使用することができ、例えば塔内に強酸性カチオン交換樹脂を充填したカチオン交換塔と、同じく塔内に強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換樹脂塔と、脱炭酸塔とからなる2床3塔式(2B3T)純水装置あるいは」(第3頁第4欄第24〜29行)
(e)「又上記のシリカポリシャーの充填樹脂としてI型の強塩基性アニオン交換樹脂を使用する場合アニオン交換樹脂の再生を高温高速流で行うことによりその再生効率を著しく高めることができる。即ちアニオン交換樹脂に吸着したシリカの脱着は、再生温度が高い程効率がよいが、樹脂の耐熱性の問題から従来50℃以下で行われている。しかしアニオン交換樹脂の再生において、アルカリ再生剤を従来より高速流で通薬することによって接触時間を短くすれば、従来の許容温度を越える温度で再生を行うことができる。特にアニオン交換樹脂がI型の場合再生温度を55〜65℃で実施することができる。このアニオン交換樹脂の再生を高温高速流で行う操作は2B3T純水装置のアニオン交換塔にも適用できる。」(第3頁第4欄第38行〜第4頁第5欄第1行)
(f)第4頁段落【0020】には、原水の分析結果として、Anionの側に、SiO2が入っていることが記載されている。
(g)「2.1次純水系の2B3T・・・A塔・・・アンバーライトIRA-94S(弱塩基性アニオン交換樹脂)とアンバーライトIRA-400(強塩基性アニオン交換樹脂)とを積層した複層式の塔」(第4頁第5欄下から第2行〜第5頁第12行)
(h)「5.1次純水系のPAC-AP(シリカポリシャー)(本発明例の場合に使用) 樹脂の種類: IRA-400 樹脂 vol.: 11リットル 層 高: 80cm 余裕高: 8cm (注)PAC-AP入口水質すなわち2B3T出口シリカは0.1 mgSiO2/l(注)再生 100g100%NaOH/l-R,3%NaOH,LV14m/h 上昇流 通水 下降流」(第5頁第7欄第24〜33行)
(2)刊行物2:用水廃水便覧編集委員会編「用水廃水便覧」丸善株式会社 p392〜393(昭和39年12月5日):申立人の提出した甲第2号証
3-3.当審の判断
刊行物1の上記(1)(d)には、「1次純水系のイオン交換式純水装置は再生設備を有する従来公知の純水装置を使用することができ、例えば塔内に強酸性カチオン交換樹脂を充填したカチオン交換塔と、同じく塔内に強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換樹脂塔と、脱炭酸塔とからなる2床3塔式(2B3T)純水装置」が記載されており、この場合、当然、再生設備はアニオン交換樹脂塔にも付設されているものと解される。
これら記載を本件訂正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には「塔内に強酸性カチオン交換樹脂を充填したカチオン交換塔と、同じく塔内に強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換樹脂塔と、脱炭酸塔とからなる2床3塔式(2B3T)純水装置に用いられているアニオン交換樹脂の再生方法」という発明(以下、「刊行物1発明という」)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明と刊行物1発明とを対比すると、両者は「カチオンおよびアニオン交換樹脂に通水して脱塩する純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂の再生方法」という点で一致し、次の点で相違している。
相違点:本件訂正発明では、アニオン交換樹脂を40〜60℃に加温した状態で1〜3.5重量%濃度の再生剤を、純水製造装置に用いられている全アニオン交換樹脂に対する空間速度(SV)15〜40hr-1の流速で通液し、アニオン交換樹脂と接触させ、全アニオン交換樹脂を再生するのに対し、刊行物1発明では、その点が不明である点
次に、この相違点を検討する。
刊行物1の上記(1)(e)には、「アニオン交換樹脂の再生において、アルカリ再生剤を従来より高速流で通薬することによって接触時間を短くすれば、従来の許容温度を越える温度で再生を行うことができる。特にアニオン交換樹脂がI型の場合再生温度を55〜65℃で実施することができる。」と記載されている。
してみると、刊行物1には、I型のアニオン交換樹脂の再生において、アルカリ再生剤を55〜65℃で高速流で通薬することが記載されていると云える。この場合、アルカリ再生剤を55〜65℃で通薬することにより、アニオン交換樹脂も55〜65℃に加温されているものと解される。
さらに、(1)(e)には、上記文章に続けて、「このアニオン交換樹脂の再生を高温高速流で行う操作は2B3T純水装置のアニオン交換塔にも適用できる。」と記載されている。
ところで、刊行物1の上記(1)(g)には、2床3塔式(2B3T)純水装置の複層床式のアニオン交換樹脂塔において、積層された樹脂の一つとしてアンバーライトIRA-400(なお、この「アンバーライトIRA-400」は商品名である)(強塩基性アニオン交換樹脂)が使用されていることが記載されている。この「アンバーライトIRA-400」(商品名)は、I型の強塩基性アニオン交換樹脂であるものと解される。
このように、2床3塔式(2B3T)純水装置のアニオン交換樹脂塔において、I型の強塩基性アニオン交換樹脂を使用することは普通に行われているものと云える。
してみると、刊行物1には、上記「I型のアニオン交換樹脂の再生において、アルカリ再生剤を55〜65℃で高速流で通薬する」操作(以下、「上記操作」という)を、刊行物1発明の2床3塔式(2B3T)純水装置の強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換樹脂塔の再生に適用することが示唆されていると云える。
次に、上記操作の「高速流」について検討する。
その際、I型の強塩基性アニオン交換樹脂であると解されるIRA-400(商品名)を使用している刊行物1のシリカポリシャーの再生の具体例(上記(1)(h))を検討すると、「層 高: 80cm (注)再生 100g100%NaOH/l-R,3%NaOH,LV14m/h 上昇流」と記載されている。
この場合、層高80cmの塔で、再生は再生レベルが100g100%NaOH/l-Rまで、濃度3%のNaOHで、LV14m/hの上昇流で行っていると云える。そうすると、「層高」と「LV」から、空間速度は、17.5hr-1と算出できる。
してみると、上記操作の「高速流」は、17.5hr-1を意図していることがわかる。
また、上記操作において、アルカリ再生剤の濃度については言及されていないが、上記シリカポリシャーの具体例においては、3%NaOHと記載されている。
してみると、上記操作において、アルカリ再生剤の濃度を3%にすることは格別のこととは云えない。
ところで、本件訂正発明では、空間速度を「全アニオン交換樹脂に対する」と特定し、またアニオン交換樹脂の再生を「全アニオン交換樹脂を再生する」と特定しているが、刊行物1において、アニオン交換樹脂の再生の際に一部の樹脂にのみ再生剤を接触させるという記載もないし、通常、再生において、一部のアニオン交換樹脂にのみ再生剤を接触させるということは普通は行わないから、刊行物1においても、「全アニオン交換樹脂に対する」、「全アニオン交換樹脂を再生する」という特定がなされていると解される。
してみると、刊行物1発明において、アニオン交換樹脂を55〜65℃に加温した状態で3重量%濃度の再生剤を、純水製造装置に用いられている全アニオン交換樹脂に対する空間速度(SV)17.5hr-1の流速で通液し、アニオン交換樹脂と接触させ、全アニオン交換樹脂を再生することは、当業者が容易に想到し得るものであると云える。
また、本件明細書(本件特許掲載公報段落【0024】)によれば、本件発明の奏する効果は、(1)アニオン交換樹脂を短時間に低コストで再生してイオン交換能力を回復することができ、(2)しかもアニオン交換樹脂に吸着したシリカを短時間で効率よく脱着させることができ、(3)これにより装置の小型化が可能であるとともに、(4)再生樹脂からのシリカのリーク量が少ない、であると記載されている。
先ず、上記(1)の効果について検討すると、刊行物1に「高速流で通薬することによって接触時間を短くすれば」(上記(1)(e))、「高温高速流で行うことによりその再生効率を著しく高めることができる」(上記(1)(e))と記載されている。この場合の「接触時間を短く」や「再生効率を高める」という効果は、刊行物1がシリカポリシャーについての文献であることから、AnionであるSiO2(上記(1)(f))に関しての「接触時間を短く」や「再生効率を高める」という効果であると解されるが、刊行物1のシリカポリシャーで使用されているI型の強塩基性アニオン交換樹脂と、2B3T純水装置で普通に使用されているI型の強塩基性アニオン交換樹脂とが共通であり、またAnionであるSiO2も、純水を製造する場合、除去すべきAnionであることを考えると、I型の強塩基性アニオン交換樹脂が使用されている2B3T純水装置においても、「接触時間を短く」、「再生効率を高める」という効果が奏されると考えて差支えないと云える。そして、「接触時間を短く」、「再生効率を高める」という効果が奏されるということは低コストで再生できると云える。したがって、上記(1)の効果は予測される範囲を出ないものと云える。
次に、上記(2)の効果について検討すると、上記(1)の効果についてで述べたように、刊行物1にはシリカの脱着について記載されているから、上記(2)の効果は予測される範囲を出ないものと云える。
次に、上記(3)の効果について検討すると、上述のとおり上記(1)(2)の効果が予測される範囲を出ないものであるから、本件発明において上記(1)(2)の効果により装置の小型化が可能であるのと同じように、当然、上記(3)の効果も予測される範囲を出ないものと云える。
次に、上記(4)の効果を検討すると、刊行物1において、後段の装置のシリカ負荷を低減できると云うこと記載されているから(上記(1)(c))、I型の強塩基性アニオン交換樹脂が普通に使用されている2B3T純水装置の再生後のシリカのリーク量が少ないことは予測される範囲を出ないものと云える。
したがって、本件訂正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると云える。

4.むすび
以上のとおりであるから、訂正後の本件請求項1に係る発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、訂正後の本件請求項1に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アニオン交換樹脂の再生方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】カチオンおよびアニオン交換樹脂に通水して脱塩する純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂の再生方法において、前記アニオン交換樹脂を40〜60℃に加温した状態で1〜3.5重量%濃度の再生剤を、純水製造装置に用いられている全アニオン交換樹脂に対する空間速度(SV)15〜40hr-1の流速で通液し、アニオン交換樹脂と接触させ、全アニオン交換樹脂を再生することを特徴とするアニオン交換樹脂の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カチオンおよびアニオン交換樹脂に通水して脱塩する純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂の再生方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
イオン交換樹脂を用いた純水製造装置などによる純水の製造においては、イオン交換樹脂に通水して脱塩する工程と、再生剤を通液して再生する工程とがあり、イオン交換樹脂は再生して繰返し使用されている。純水製造装置においては運転操作の都合上、一般的には一日に脱塩工程と再生工程とを一回ずつ行うか、または二回ずつ行う運転方式が採用されている。
【0003】
従来、イオン交換樹脂の再生は再生剤としてカチオン交換樹脂に対しては塩酸、硫酸等の酸を用い、アニオン交換樹脂に対しては水酸化ナトリウム等のアルカリを用いて再生している。この場合、再生剤とイオン交換樹脂との接触時間を十分とり、化学反応が完結するように、再生剤の通液速度はSVで2〜10hr-1程度で再生されている。ここで再生剤としては酸、アルカリの場合とも4〜6重量%程度のものが使用され、イオン交換樹脂の充填層高としては100〜300cmが採用されている。
【0004】
上記従来の再生方法では、アニオン交換樹脂に対する再生剤の再生レベルを仮に80gNaOH/l-Rとすれば、この値を実現するためには4重量%NaOHを樹脂量の2倍容積使用する必要があり、SV=2hr-1では約1時間、SV=10hr-1では12分間の薬注時間が必要となる。
【0005】
樹脂の再生には上記再生剤の注入の他、再生剤の押出工程や樹脂の洗浄工程なども必要であり、再生工程全体では2〜4時間程度の時間が必要であり、一日に2回再生と通水を実施する運転が限界である。また従来の再生方法では再生に必要な時間が長いため、効率が悪くコスト高になるという問題点もある。
【0006】
純水製造全体に占める樹脂再生工程の時間的割合を低下させるために再生間隔を長くすることも考えられるが、この場合は純水製造に用いるイオン交換樹脂の量を多くする必要があり、このためコスト高になる。
一方、再生間隔を短くすると、一定量のイオン交換樹脂から一定量の処理水を得るには速い流速で通水して脱塩する必要があるが、この場合余剰の処理水を貯蔵しておく大きな容量のタンクが必要であり、大きな設置面積を必要とし、一般的には採用できない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、アニオン交換樹脂を短時間に低コストで再生してイオン交換能力を回復することができ、しかもアニオン交換樹脂に吸着したシリカを短時間で効率よく脱着させることができ、これにより装置の小型化を図ることが可能であるとともに、再生樹脂からのシリカのリーク量が少ないアニオン交換樹脂の再生方法を提案することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、カチオンおよびアニオン交換樹脂に通水して脱塩する純水製造装置に用いられているアニオン交換樹脂の再生方法において、前記アニオン交換樹脂を40〜60℃に加温した状態で1〜3.5重量%濃度の再生剤を、純水製造装置に用いられている全アニオン交換樹脂に対する空間速度(SV)15〜40hr-1の流速で通液し、アニオン交換樹脂と接触させ、全アニオン交換樹脂を再生することを特徴とするアニオン交換樹脂の再生方法である。
【0009】
本発明の方法で再生することができるアニオン交換樹脂は特に限定されず、強塩基性もしくは弱塩基性アニオン交換樹脂のいずれでもよい。このようなアニオン交換樹脂としては、アニオン交換樹脂塔に充填されているものでも、複床式または混床式のものでもよい。混床を形成しているアニオン交換樹脂は分離して再生することができる。具体的なものとしては、純水製造用のアニオン交換樹脂があげられる。
【0010】
本発明の再生方法は、アニオン交換樹脂層を40〜60℃、好ましくは40〜50℃に加温した状態で、低濃度の再生剤を高流速で通液して再生する方法である。アニオン交換樹脂層を加温する方法としては、電熱による加熱、赤外線による加熱など、任意の方法によることができるが、温水による加熱が好ましい。この場合40〜60℃、好ましくは40〜50℃の純水(温水)を通水してアニオン交換樹脂を加温した後、後述の再生剤を高流速で通液して接触させ、再生する方法が好ましい。
【0011】
温水の通水量はアニオン交換樹脂の容積比で1倍以上、好ましくは1〜3倍とするのが望ましい。通水速度はSVで15〜40hr-1、好ましくは20〜35hr-1とするのが望ましい。通水方向は上向流でも下向流でもよいが上向流が好ましい。特に下向流で通水してイオン交換したアニオン交換樹脂を上向流で通水するのが好ましい。
【0012】
再生剤を通液する前にアニオン交換樹脂を加温しておくことにより、再生剤による再生、特にシリカの脱着を短時間で効率よく行うことができる。この場合温水を通水して加温することにより、アニオン交換樹脂に熱衝撃を与えることなく、均一に加温を行うことができる。
【0013】
再生剤としてはアンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液など、従来から用いられている薬剤が使用できる。その濃度は1〜3.5重量%、好ましくは2〜3重量%であり、従来の再生剤の濃度よりも低濃度で使用する。再生剤レベルは従来と同様とされる。
【0014】
再生剤のSVは15〜40hr-1、好ましくは20〜35hr-1とする。通液方向は上向流でも下向流でもよいが上向流が好ましい。特に下向流で通水してイオン交換したアニオン交換樹脂を上向流で再生する向流再生が好ましい。再生剤の温度は40〜60℃、好ましくは40〜50℃とするのが望ましい。このような温度で再生することにより、短時間でより完全にシリカを脱着させることができる。
【0015】
従来は再生剤を有効に利用するためには再生剤を低流速で接触させる必要があり、上記のような高流速では再生が十分完結しないと考えられていたが、本発明では再生剤を通液する前に樹脂を加温し、しかも低濃度の再生剤を使用することにより、上記のような速い流速で通液しても再生が十分に行われてアニオン交換能力が回復するとともに、シリカも十分脱着することがわかった。
【0016】
一般にカラムに充填したイオン交換樹脂における脱塩のためのイオン交換反応では、高流速で通液すると交換帯の長さが長くなり、有効に使用される樹脂量が減少することが知られている。交換帯の長さをZ(m)、イオン交換樹脂の充填高さをL(m)とすると、樹脂の最大利用率(%)は次式(1)で表される。
【0017】
利用率(%)={(L-Z/2)/L}×100 …(1)
なお交換帯の長さZは次式(2)で表される。
Z=a×LVb …(2)
〔ここで、LVは通液線流速(m/h)、aは交換するイオンにより定まる係数、bは樹脂およびイオンにより決まる係数である。〕
【0018】
この利用率はイオン交換工程における樹脂の有効利用率を示し、例えば樹脂の充填高さが150mmのイオン交換装置では約93%の利用率であるとされ、実用的な利用率とするために樹脂層高は100〜300cmとされている。
【0019】
再生の場合はこのような樹脂の利用率とは異なり、再生剤の利用効率が問題となるが、この再生剤の利用効率も交換帯の長さ(通液方向の長さ)によって決まってくる。従来の再生法のように低流速で再生する場合は交換帯の長さは短く、ほとんど考慮する必要はなかったが、本発明のように高流速になると交換帯の長さは長くなる。
【0020】
再生の場合の負荷イオン除去についても、脱塩のためのイオン交換反応と同様の傾向が認められ、交換帯が存在する。
この再生時の交換帯の長さは、前記式(2)と同様に、流速が速くなれば長くなるが、再生剤のイオン交換樹脂粒子内への拡散の影響を大きく受けることから、再生剤流速が大きい場合は、再生剤濃度を低くすればその拡散が速くなり、交換帯の長さを短くできる。
【0021】
本発明の方法において、低濃度の再生剤を使用して高流速で再生しても、交換帯の影響をできるだけ少なくしかつ樹脂の利用率を80%以上にするためには、樹脂の充填高さを0.8m以上、好ましくは0.8〜3m、さらに好ましくは0.8〜1.5mとするのが望ましい。
【0022】
上記の条件で再生剤の注入を行ったのち、純水注入することにより再生剤の押出を行うが、押出工程における純水の量は再生剤と同容とされ、再生剤と同流速すなわちSV15〜40hr-1、好ましくは20〜35hr-1で通水する。
【0023】
押出工程に続く洗浄工程は従来の再生と同様に行われ、採水工程と同一流速で5〜10分間行われる。
上記により再生を終り、イオン交換工程に移る。
【0024】
【発明の効果】
本発明のアニオン交換樹脂の再生方法は、アニオン交換樹脂を40〜60℃に加温した状態で1〜3.5重量%濃度の再生剤をSVが15〜40hr-1の流速で通液して再生するようにしているので、アニオン交換樹脂を短時間に低コストで再生してイオン交換能力を回復することができ、しかもアニオン交換樹脂に吸着したシリカを短時間で効率よく脱着させることができ、これにより装置の小型化が可能であるとともに、再生樹脂からのシリカのリーク量が少ない。
【0025】
【発明の実施の形態】
実施例1
アニオン交換樹脂(ダイヤイオンSA12A、三菱化成工業(株)製、商標)を内径25mm、高さ1500mmのアクリルカラムに400ml充填した。この樹脂に温水を通水した後、60gNaOH/l-Rの再生レベルで再生し、厚木市水を通水する試験を実施した。再生工程と再生条件は表1の通りである。通水試験の処理水質を図1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
比較例1
加温水の通水を行わなかった以外は実施例1と同様にして行った。再生工程、再生条件を表2、処理水質を図1に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表1および図1の結果から、45℃の温水を通水した後、45℃の低濃度の再生剤を高流速で通液して再生することにより、短時間でアニオン交換樹脂を再生することができ、しかも再生したアニオン交換樹脂からのシリカのリーク量が少ないことがわかる。
【0030】
実施例2
内径40mm、高さ1200mmの円筒形のアクリルカラムを2個用意し、一方にはカチオン交換樹脂を1liter(80cm高)、他方にはアニオン交換樹脂を1.4liter(111cm高)充填した。このカラムの樹脂をカチオン交換樹脂は温水を通水しないで80gHCl/l-Rの再生レベルで再生し、アニオン交換樹脂は温水を通水した後、60gNaOH/l-Rの再生レベルで再生し、厚木市水を通水する試験を実施した。
【0031】
カチオン交換樹脂の再生はカラムに上向流で再生剤を通液して行った。アニオン交換樹脂の再生はカラムに上向流で温水および再生剤を通液して行った。また通水試験は、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の順に通水できるようにカラムを直列に連結し、どちらのカラムにも下向流で通水した。再生条件および通水試験条件を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
このとき、全体の再生時間は約36分間、通水時間と合せて9時間であった。1日24時間換算の生産水量は2033literであった。
表3の再生・通水条件で3回繰返し試験したところ、図2の水質を得た。
【0034】
実施例3
条件を表4のように変更した以外は実施例2と同様にして行った。
【0035】
【表4】

【0036】
このとき、全体の再生時間は、約29分間であった。通水と再生を各1回実施して6時間であり、1日換算での生産水量は2400literであった。この時の処理水質は図3のようであった。
【0037】
比較例2
内径65mm、高さ2000mmの円筒形のアクリルカラムを2個用意し、一方にはカチオン交換樹脂を3.6liter(108cm高)、他方にはアニオン交換樹脂を4.7liter(142cm高)充填した。
このカラムの樹脂をカチオン交換樹脂は80gHCl/l-R、アニオン交換樹脂は60gNaOH/l-Rの再生レベルで再生し、厚木市水を通水する試験を実施例1と同様にして実施した。再生条件および通水条件を表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
再生時間は100分間で、通水時間と合せて約31時間であった。1日24時間換算の生産水量は2250literであった。
表5の再生・通水条件で3回繰返し試験したところ、図4の水質を得た。
【0040】
以上の実施例2、3および比較例2から判るように、本発明の方法によれば、小さな装置で同等の処理水質の生産水量を、ほぼ同容積得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例1および比較例1の結果を示すグラフである。
【図2】
実施例2の結果を示すグラフである。
【図3】
実施例3の結果を示すグラフである。
【図4】
比較例2の結果を示すグラフである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-11-09 
出願番号 特願平9-151297
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B01J)
最終処分 取消  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 中村 泰三
野田 直人
登録日 2003-04-11 
登録番号 特許第3417256号(P3417256)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 アニオン交換樹脂の再生方法  
代理人 高木 千嘉  
代理人 三輪 昭次  
代理人 柳原 成  
代理人 柳原 成  
代理人 結田 純次  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ