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審決分類 審判 審判種別コード:11 2項進歩性  C03C
審判 審判種別コード:11 判示事項別分類コード:81  C03C
管理番号 1145712
審判番号 審判1993-4291  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-07-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 1993-03-05 
確定日 2006-10-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第1627765号「マイクロバブル」の特許無効審判事件についてされた平成8年 5月15日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成08年(行ケ)第0220号平成11年 6月29日判決言渡)があり、さらに審理してされた平成14年 3月26日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第0213号平成16年 3月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1627765号の請求項5及び9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯

特許出願:昭和63年1月11日(優先日1987年1月12日米国)
特許権設定登録(特許第1627765号):平成3年11月28日
無効審判請求(平成5年審判第4291号):平成5年3月5日
無効審判審決(全部無効):平成8年5月15日付け

高裁出訴(平成8年東京高裁(行ケ)第220号):平成8年10月1日
(第1次)訂正審判請求(平成8年訂正審判第16778号):平成8年10月2日
(第1次)訂正審判審決(訂正認容):平成9年7月30日付け
(第1次)訂正審判審決確定:平成9年9月22日

高裁判決言渡(無効審判審決取消):平成11年6月29日

(第1次)平成8年訂正審判第16778号の確定された訂正内容に対する審尋(無効審判請求人):平成11年12月3日
回答書:平成12年2月15日
回答書に対する審尋(被請求人):平成12年4月7日
回答書:平成12年10月23日
(第2次)訂正審判請求(訂正2000-39124号):平成12年10月23日
(第2次)訂正審判に対する審尋(無効審判請求人):平成13年4月17日
回答書:平成13年6月26日
上申書(無効審判請求人):平成13年7月9日
上申書(無効審判被請求人):平成13年11月27日
上申書(無効審判被請求人):平成14年1月15日
上申書(無効審判請求人):平成14年1月16日
(第2次)訂正審判審決(訂正認容):平成14年3月5日付け
(第2次)訂正審判審決確定:平成14年3月15日
無効審判審決(請求不成立):平成14年3月26日付け

高裁出訴(平成14年東京高裁(行ケ)第213号):平成14年5月1日
高裁判決言渡(無効審判審決取消):平成16年3月24日

(第3次)訂正審判請求(訂正2004-39164号):平成16年7月15日

II.本件発明

(1)平成12年10月23日付け(第2次)訂正審判請求(訂正2000-39124号)は、平成14年3月5日付け審決で認容され、同審決は平成14年3月15日に確定したので、本件特許第1627765号に係る本件発明は、訂正後の請求項1ないし9に記載された次のとおりのものである(以下、この請求項5、9に記載された発明を、それぞれ、「本件訂正発明5、9」という。)。

「【請求項1】 アルカリ土類金属酸化物:アルカリ金属酸化物重量比が1.2:1〜3.0:1の範囲であり、ガラス重量の少なくとも97%が本質的に70〜80%のSiO2、8〜15%のCaO、3〜8%のNa2Oおよび2〜6%のB2O3からなるガラスのマイクロバブル。
【請求項2】 前記マイクロバブルの密度が0.08から0.8の範囲である特許請求の範囲第1項記載のマイクロバブル。
【請求項3】 前記CaO:Na2O比が1.2:1〜3.0:1の範囲である特許請求の範囲第1項記載のマイクロバブル。
【請求項4】 前記CaO:Na2O比が少なくとも1.9:1である特許請求の範囲第3項記載のマイクロバブル。
【請求項5】 アルカリ土類金属酸化物:アルカリ金属酸化物を1.2:1〜3.0:1の範囲の重量比で有し、そして密度が0.08〜0.8の範囲であり、ガラス重量の少なくとも90%が本質的に70〜80%のSiO2、8〜15%のCaO、3〜8%のNa2Oおよび2〜6%のB2O3から成り、さらに、0.125〜1.5%のSO3を含むガラスのマイクロバブル。
【請求項6】 前記ガラスが約1.0%までのP2O5および/または1.0%のLi2Oを含有する特許請求の範囲第5項記載のマイクロバブル。
【請求項7】 アルカリ土類金属酸化物:アルカリ金属酸化物を2.0:1〜3.0:1の範囲の重量比で有し、ガラスの重量の少なくとも90%が本質的に70〜80%のSiO2、8〜15%のRO、3〜8%のR2O、および2〜6%のB2O3から成り、さらに、0.125〜1.5%のSO3を含むガラスのマイクロバブルであって、前記Rが所定の原子価を有する少なくとも1種の金属であるマイクロバブル。
【請求項8】 前記ガラスの重量の少なくとも97%が本質的に70〜80%のSiO2、8〜15%のRO、3〜8%のR2O、および2〜6%のB2O3から成り、さらに0.125〜1.5%のSO3を含み、前記Rが所定の原子価を有する少なくとも1種の金属である特許請求の範囲第7項記載のマイクロバブル。
【請求項9】 ガラス粒子の自由流動集合体であって、少なくともその70重量%が特許請求の範囲第2項、第5項、第7項、または第8項の何れか1項に記載のマイクロバブルであるガラス粒子の自由流動集合体。」

(2)なお、第2次訂正前、すなわち、平成8年訂正審判第16778号事件の訂正審決による訂正(以下「第1次訂正」という。)後の請求項5に係る発明は、その請求項5に記載された次のとおりのものである。

「【請求項5】 アルカリ土類金属酸化物:アルカリ金属酸化物を1.2:1〜3.0:1の範囲の重量比で有し、そして密度が0.08〜0.8の範囲であり、ガラス重量の少なくとも90%が本質的に70〜80%のSiO2、8〜15%のCaO、3〜8%のNa2O、2〜6%のB2O3、および0.125〜1.5%のSO3から成るガラスのマイクロバブル。」

III.当事者の主張の概要

1 請求人の主張の概要

請求人は、平成12年10月23日付け(第2次)訂正審判請求(訂正2000-39124号)についての審尋に対する平成13年6月26日付け審判事件回答書において、「請求人は、本件無効審判の争点を明瞭にするため、本特許の全請求項9に対する無効請求のうち、請求項1〜4及び請求項6〜8についての無効の主張を取り止めることにする。従って、本回答書における以下の主張は、本特許の請求項5及び請求項9のみに関係することになる。」(回答書第2頁)として争点を整理し、さらに、平成13年7月9日付け及び平成14年1月16日付け上申書を提出しており、これらの点をふまえて請求人の主張を整理すると、請求人の主張の概要は次のとおりのものである。

主張1

本件特許の請求項5、9についてされた、前記II.記載の請求項5、9のとおりとする第2次訂正(以下、「第2次訂正a」という。)は、新規な技術的事項を本件特許設定登録時の明細書(以下、「特許時明細書」という。)に追加するものである、すなわち、「さらに、0.125〜1.5%のSO3を含み」とする訂正は、「0.125〜1.5%のSO3」を「ガラス重量の少なくとも90%」を構成する成分の範囲外とするものであるが、特許時明細書(本件特許公報第5欄第11行〜第19行)によれば、「0.125〜1.5%のSO3」はガラス重量の少なくとも90%を構成する成分として記載されており、また、第1次訂正後の請求項7には、「ガラスが約1.5%までのSO3を含有する」と記載されているだけで、SO3含有量の下限が記載されていないし、請求項6の従属項であるから請求項5のガラスバブルを構成するガラス成分とは異なっており、第2次訂正後の請求項5の記載をサポートするものではない、さらに、本件訂正発明5と特許時明細書(本件特許公報第5欄第11行〜第19行)に記載の内容とは、その数値範囲や項目が異なるものであるから、第2次訂正後の請求項5の「ガラスバブル」は第1次訂正明細書及び添付図面に記載のないものである。
してみると、第2次訂正は特許法第126条第1項ただし書きに違反するものである。
したがって、本件訂正発明5、9に係る特許は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第123条第1項第7号の規定により無効とされるべきものである。

主張2

本件訂正発明5、9は、本件特許出願日(優先日)前に既に国内で販売されていた被請求人社製の商品名「C15/250」のガラスバブル(以下、「「C15/250」」いう。)と実質上同一であるから「特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明」に該当するものであり、そうでないとしても、「C15/250」と甲第2、5証から当業者が容易に発明をすることができたものであるか、または、甲第2、5証から当業者が容易に発明をすることができたものである。
してみると、本件訂正発明5、9は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正発明5、9に係る特許は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。

2 被請求人の主張の概要

一方、被請求人は、請求人の各主張に対しておよそ次のように反論している。

(1)請求人の主張1に対し、被請求人は、本件特許の請求項5、9についてされた、前記II.記載の請求項5、9のとおりとする第2次訂正aは、新規な技術的事項を特許時明細書に追加するものでなく、第2次訂正は特許法第126条第1項ただし書きに違反するものではない旨主張している。

(2)請求人の主張2に対し、被請求人は、「C15/250」は、本件特許出願日(優先日)前に国内で販売されていたかどうか不明であり、また、本件訂正発明5、9と「C15/250」は実質上同一ではないから、本件訂正発明5、9は「特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明」に該当するものではなく、また、「C15/250」と甲第2、5証から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、かつ、甲第2、5証から当業者が容易に発明をすることができたものでもない旨主張している。

IV.請求人の主張に対する当審の判断

1.上記「III.1.」の主張1に対して

(1)請求人は、本件特許の請求項5に関し、「アルカリ土類金属酸化物:アルカリ金属酸化物を1.2:1〜3.0:1の範囲の重量比で有し、そして密度が0.08〜0.8の範囲であり、ガラス重量の少なくとも90%が本質的に70〜80%のSiO2、8〜15%のCaO、3〜8%のNa2O、および2〜6%のB2O3から成り、さらに0.125〜1.5%のSO3を含むガラスのマイクロバブル」とする第2次訂正aは第1次訂正明細書又は添付図面に記載した事項の範囲内ではないから、特許法第126条第1項ただし書きの要件を欠如したものであり、したがって、第2次訂正後の請求項5に係る特許は、平成 6年法律第116号(以下、「平成6年改正法」という。)による改正前の特許法第123条第1項第7号に違反し無効であると主張している。
(2)そこで、この点について判断するに、本件審判請求は平成5年3月5日になされたものであるところ、平成5年法律第26号(以下「平成5年改正法」という。)附則第2条第1項によれば、この法律の施行の際に現に特許庁に係属している特許に係る審判については、第1条の規定による改正後の特許法第195条第1項及び第2項の規定により納付すべき手数料を除き、その審判について審決が確定するまでの間は、なお従前の例による旨規定されているから、本件審判請求において請求人が主張できる無効理由は平成5年改正法による改正前の特許法第123条第1項各号に規定する無効理由に限られると解される。
したがって、平成6年改正法による改正前の特許法第123条第1項第7号の無効理由は平成5年改正法により追加されたものであり、平成5年改正法による改正前には存在しなかったものであるから、本件審判請求において、原告は、上記改正前の第123条第1項第7号に規定する無効理由を本件特許の無効理由として主張し得ないものというべきである。
なお、平成5年改正法附則第2条第5項によれば、新特許法第123条第1項第7号の規定は、この法律の施行後に新特許法の規定による訂正をする特許について適用し、この法律の施行前に旧特許法の規定による訂正をした特許及びこの法律の施行後に旧特許法の規定による訂正をする特許については、なお従前の例による旨規定されている。この規定は、平成5年改正法による改正前の特許法においては、不適法な訂正があった場合は、訂正無効審判において、不適法な訂正のみが無効とされていたのに対し、改正後の特許法においては、不適法な訂正があった場合には、これを当該特許の無効理由として無効審判を請求することができるようになったが、平成5年改正法の施行前に既に請求された訂正審判による訂正についてまで改正後の特許法の無効理由を適用することは、法律不遡及の原則の趣旨に照らし相当でないと考えられることから、これを回避するために設けられた経過規定にすぎず、平成5年改正法の施行後に請求された訂正審判において訂正された特許について、平成5年改正法による改正前に係属していた無効審判請求において改正後の123条第1項第7号に規定の無効理由を主張することができることまでを認めたものではないと解すべきである。
請求人の上記(1)の主張は、無効理由とし得ないものを無効理由として主張するものであって、それ自体失当である。
したがって、無効審判請求人の上記「III.1.」の主張1は、採用することができない。

2.上記「III.1.」の主張2に対して

(1)証拠とその記載内容

請求人が提示する証拠とその記載内容の概略は、次のとおりである。

(1-1)甲第10号証の1:住友3M社発行のC15/250製品に関する販売資料「スコッチライト グラス バブルズ」
3M社製の商品名「C15/250」の製品が同社の販売に係る製品として記載されている。

(1-2)甲第2号証:P.C.Souers外著「UCLA-51609 FABRICATION OF THE GLASS MICROBALLOON LASER TARGET」昭和50年8月25日国立国会図書館受入、第1頁〜第21頁、第48頁
第7頁の「表3」には、3M社製のガラスマイクロバルーンの化学分析結果が記載されている。そして、その中の「B18A P-9151-7」と「B35D P-0097-1」のガラスマイクロバルーンの分析結果は次のとおりである。
(a)B18A P-9151-7:「SiO2 74.1、Ca 6.69、Na 3.18、B 1.2、K 0.5、Mg 0.5、Al 0.3、P 0.2、Zn nd<0.003、Fe 0.2、Cr 0.2、Li 0.1、Mn 0.993」
(b)B35D P-0097-1:「SiO2 76.8、Ca 6.52、Na 5.06、B 0.70、K 0.168、Mg 0.2、Al 0.14、P 0.3、Zn 0.88、Fe 0.041、Cr 0.1、Li 0.066、Mn 0.140」

(1-3)甲第5号証:特開昭58-156551号公報(米国特許第4391646号明細書の訳文として提出されたもの)
(a)「イオウ、あるいは酸素とイオウの化合物は本発明のガラスバブル中の主要な発ぽう剤として役立ち、しかも上述の範囲内のイオウを用いることにより高密度のガラスバブルを得ることができる。」(第3頁右上欄第13行〜第16行)
(b)「上記したように、おそらく酸素と結合した(たとえばSO2あるいはSO3)イオウは発ぽう剤として働いてガラス粒を本発明のバブルに膨張させる。ガラス粒の含有物としてある量のイオウ(硫酸塩、亜硫酸塩など)を選択しガラス粒からバブルを形成して必要なだけ膨張させおよびこうして完成バブルの所望の密度あるいは肉厚を得る。・・・本発明のバブルは一般にイオウを約0.005〜0.5重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%の範囲で含有する。」(第4頁右上欄第12行〜左下欄第7行)

(1-4)甲第10号証の1-1:「高次複合材料の全容 第2巻 新しいフィラー全容」(株)大阪ケミカル・マーケティング・センター発行、昭和60年11月30日、第184頁〜第187頁、第199頁〜第205頁
(a)第186頁「表4-44低強度バルーン」の中に3M社の商品名「C15/250」が挙げられ平均真密度「0.15g/cc」(186頁表4-44)と記載されている。
(b)わが国で市販されている主なバルーンの品種、物性等を示す「表4-59 グラスバブルズ(住友スリーエム、ガラスバルーン)」(第203頁)の中に、汎用のバブルタイプとして「C15/250」が挙げられその平均粒子比重(真比重)「0.15g/cc」(203頁表4-59)と記載されている。

(1-5)甲第10号証の1-2:「NIKKEI MECHANICAL」1983年10月10日、第60頁〜第65頁
(a)第60頁の「表1」には、主なガラスバルーンの輸入企業と供給メーカーが記載され、その中に輸入企業として「住友スリーエム」が挙げられている。
(b)第61頁の「表2」には、「住友スリーエムの一般用ガラスバルーンの特性」が記載され、その中に「C15/250」が挙げられて粒子比重として平均0.15、範囲0.12〜0.18と記載されている。

(1-6)甲第13号証:乙第6号証と同じ

被請求人が提示する証拠とその記載内容の概略は、次のとおりである。

(1-7)乙第6号証:ハリー j. マーシャルの宣誓供述書
「C15/250」の定量分析結果であり、この証拠によれば、1986年11月5日付け「C15/250フロートバブル」の定量分析結果は、次のとおりである。
「SiO2:75.29、B2O3:3.95、CaO:9.81、Na2O:4.95、K2O:2.46、Li2O:0.90、SO3:1.10、P2O5:1.18」

(2)対比・判断

(2-1)本件訂正発明5について

請求人は、被請求人の会社の製品である「C15/250」が本件特許出願日(優先日)前に日本国内において販売されており、本件訂正発明5はこの製品の構成と同一であるから、本件訂正発明5は、特許法第29条第1項第2号にいう「特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明」に該当する旨主張する。

(2-1-1)そこで、まず、「C15/250」が本件特許出願前に日本国内で販売されていたかどうか、また、本件訂正発明5が上記製品と構成が同一であれば、本件訂正発明5が公然実施されていたといえるか否かについて検討する。

(あ)まず、商品名「C15/250」のガラスバブルが本件発明の本件特許出願日(優先日)前に日本国内において販売されていたかどうかについてみるに、証拠(甲第10号証の1、甲第10号証の1-1、甲第10号証の1-2)によれば、次の事実が認められる。
(ア)住友3M社作成の販売資料「スコッチライト グラス バブルズ」には、「C15/250」が同社の販売に係る製品として記載されている。
(イ)「高次複合材料の全容 第2巻 新しいフィラー全容」((株)大阪ケミカル・マーケティング・センター発行、昭和60年11月30日)に、「次に、わが国で市販されている主なバルーンの品種、物性等を示す。」とあり、(甲第10号証の1-1、202頁末)、同刊行物に、「グラスバブルズ(住友スリーエム、ガラスバルーン)」という表題の表4-59に「バブルタイプ 汎用 C15/250」として記載されている。(同、203頁)。
(ウ)また、「NIKKEI MECHANICAL」(1983年10月10日号)にも、「主なガラスバルーンの輸入企業と供給メーカー」として住友スリーエム社(輸入企業)、米Minnesota Mining & Manufacturing社(被請求人の会社。供給メーカー)が挙げられ(甲第10号証の1-2)、60頁表1)、同刊行物には、住友スリーエム供給の一般用ガラスバルーンとして「C15/250」が示されている(同、61頁表2)。

(い)上記記載からすれば、「C15/250」は、遅くとも本件特許出願日(優先日)である1987年(昭和62年)1月12日より前である、昭和60年11月30日以前には日本国内で販売されていたことが認められる。

(う)そして、特許法第29条第1項第2号にいう「公然実施」とは、その発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうものであり、同法第2条(平成6年改正法による改正前のもの)第3項第1号によれば、この場合の「実施」とは、物の発明にあっては、その物を生産し使用し譲渡し貸し渡し譲渡若しくは貸渡のために展示し又は輸入する行為をいうものとされているところ、「C15/250」が本件特許出願日(優先日)前に日本国内で販売されており、そして、本件のような物の発明の場合には、購入者が販売者からその発明の内容に関しその分析等の試験を行うことを禁じられているなど特段の事情がない限り、購入者は商品を自由に分解・分析してその発明の内容を知ることができるのであるから、それが本件訂正発明5と同一の構成の製品と認められる以上、本件訂正発明5は、特許法第29条第1項第2号にいう「特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明」に該当するというべきである。

(2-1-2)次に、本件訂正発明5と「C15/250」が構成を同一にするものか否かについて検討する。

(あ)ハリー j. マーシャルの宣誓供述書(乙第6号証)には、1986年11月5日付けC15/250フロートバブルの定量分析について、次の記載がある(Exhibit 2C訳文)。
「SiO2 75.29
B2O3 3.95
CaO 9.81
Na2O 4.95
K2O 2.46
Li2O 0.90
SO3 1.10
P2O5 1.18
RO/R2O=9.81/8.31=1.18」

上記の記載によれば、「C15/250」は、「SiO2:75.29、B2O3:3.95、CaO:9.81、Na2O:4.95、K2O:2.46、Li2O:0.90、SO3:1.10、P2O5:1.18」という成分含有量からなるものである。
そこで、両者を比べると、この「C15/250」のガラスバブルは、本件訂正発明5の「ガラス重量の少なくとも90%が本質的に70〜80%のSiO2、8〜15%のCaO、3〜8%のNa2Oおよび2〜6%のB2O3から成り、さらに、0.125〜1.5%のSO3を含む」という構成要件を満たすが、
・この「C15/250」のガラスバブルは、その密度が明らかではない点(相違点1)
・この「C15/250」のガラスバブルは「アルカリ土類金属酸化物:アルカリ金属酸化物」の比が「1.18」であるから、この「1.18」の重量比が本件訂正発明5の「1.2:1〜3.0:1の範囲の重量比」という要件を満足するものであるかどうか明らかでない点(相違点2)
の2つの点で訂正発明5と一応相違している。

(い)そこで、上記の相違点1、2について検討する。

(ア)上記相違点1について

甲第10号証の1-1には、「C15/250」について、平均粒子比重(真比重)「0.15g/cc」(甲第10号証の1-1、203頁表4-59)、あるいは平均真密度「0.15g/cc」(甲第10号証の1-1、186頁表4-44)と記載され、甲第10号証の1-2にも住友スリーエムの一般用ガラスバルーンとして「C15/250」が表2に示され、粒子比重として平均0.15、範囲0.12〜0.18と記載されており、したがって、「C15/250」の平均密度は0.15(g/cm3)であると認められる。
したがって、「C15/250」の平均密度は、本件訂正発明5に係る請求項5の「密度が0.08〜0.8の範囲」に含まれるものである。

(イ)上記相違点2について

a. ハリー j. マーシャルの宣誓供述書(乙第6号証)記載の試験結果によれば、「C15/250」における「RO/R2O比」は「1.18:1」(比の値1.18)であるとされており、上記値は、本件訂正発明5いおける「1.2:1〜3.0:1」(比の値1.2〜3.0)と一致しない。
b. しかしながら、「RO/R2O比」と失透現象の防止に関し、第2次訂正明細書には、「本発明の顕著な特徴は1.2:1〜3.0:1のアルカリ土類金属酸化物:アルカリ金属酸化物比(RO:R2O)に存し、その比は実質的に1:1を上回り、そして今まで用いられた単一のホウケイ酸ガラス組成物のいかなるものの比率をも上回る。RO:R2O比(ここで用いた「R」とは所定の原子価を有する金属を指し、ROはアルカリ土類金属酸化物、そしてR2Oはアルカリ金属酸化物を指す。)が1:1以上に増大するにつれ、単一のホウケイ酸組成物は伝統的な作業と冷却サイクルの間でますます不安定になり失透現象がおこる。そしてその結果Al2O3のような安定剤をその組成物の中に含有しないかぎり、ガラス組成物は存在し得ない。本発明の実施において、このような不安定な組成物はガラスマイクロバブルの製造のために高度に望ましいこと、フリットの形成のために水冷却による溶融ガラスの急速冷却は、失透現象を防止することが分かった。次のバブル形成の間。前述の米国特許第3365315号および同第4391646号各明細書で教示されたように、相対的によりいっそう揮発性のアルカリ金属酸化物化合物の損失のためにRO:R2Oがよりいっそう増大するにもかかわらず、前出の失透現象は防がれる。」(第2次訂正明細書第3頁第13〜29行、特許公報の第4欄第22行〜第5欄第2行)と記載され、また、「1つの形態において、本発明は、重量パーセントで表すとして本質的に少なくとも67%のSiO2、8〜15%のRO、3〜8%のR2O、2〜6%のB2O3、および0.125〜1.50%のSO3から成るガラスバブルであって、前出の成分が前記ガラスバブルの少なくとも約90%(好ましくは94%そしてよりいっそう好ましくは97%)を構成し、ROとR2Oの重量比が1.0〜3.5の範囲内である組成物からなるガラスバブルとして特徴づけることができる。」(第2次訂正明細書第4頁第6〜11行、特許公報の第5欄第11〜19行)と記載されている。
この第2次訂正明細書の記載からすれば、「RO/R2O比」が増大するにつれてガラス組成物が不安定になって失透現象がおこること、不安定な組成物はガラスマイクロバブルの製造のために高度に望ましいこと、フリットの形成のための水冷却による溶融ガラスの急速冷却は失透現象を防止すること、急速冷却は相対的に揮発性のアルカリ金属酸化物化合物の損失のために「RO/R2O比」がより増大するにもかかわらず失透現象が防止されること、失透現象の防止のためには冷却方法の工夫が必要であることが認められるが、
「RO/R2O比」がより大きいこと自体は失透現象の防止のための要件であるとは認められず、(むしろ、どちらかといえば「RO/R2O比」が大きいことは失透現象の防止には障害であると解される。)、「RO/R2O比」が1.2以上であるものと、それ未満であるものとの間に失透現象に関して臨界的な相違があるとは認められない。また、失透現象に関して「RO/R2O比」が1.2の点が臨界的意義を有することを裏付ける証拠が他にあるわけでもない。
c. そして、ハリー j. マーシャルの宣誓供述書(乙第6号証)の上記(あ)の上記の分析値、「RO/R2O比」の計算から考えて、「1.18」という値は測定値、計算値であるから、4捨5入等の概数を求める方法により算出されたもので、有効数字を3桁でとれば「1.18」であり、2桁でとれば「1.2」になるものである。「RO/R2O比」の計算の根拠になっているのは「RO」については「CaO 9.81」で、「R2O」については「Na2O 4.95」、「K2O 2.46」「Li2O 0.90」の合計である。これらの測定値のうちLi2Oを除くその余の成分は有効数字は有効数字3桁の測定値が示されているが、Li2Oについては有効数字が2桁であるから、「RO/R2O比」の有効数字として2桁を採用することは全く問題がないものと考えられる。そして、そもそも、本件訂正発明5の「RO/R2O比」は有効数字2桁で規定されているのであるから、このことからして、本件訂正発明5の「RO/R2O比」の有効数字として2桁を採用することは全く問題がないものと考えられる。
d. そして、ハリー j. マーシャルの宣誓供述書(乙第6号証)の分析は「C15/250」についてのものと認められるものである。

(う)そうすると、「C15/250」の分析値から求められる「RO/R2O比」1.2は本件訂正発明5の「RO/R2O比」である「1.2:1〜3.0:1」と重複しており、本件訂正発明5は、「C15/250」と構成を同一にするものというべきである。

(2-1-3)したがって、本件訂正発明5は、特許法第29条第1項第2号にいう「特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明」に該当するというべきである。

(2-2)本件訂正発明9について

請求項9の発明は、少なくとも請求項5のマイクロバブルであるガラス粒子の「自由流動集合体」であり、請求項5の発明と実質的に構成を同じくするものであるから、上記(2-1)と同様の理由により、本件訂正発明9は、特許法第29条第1項第2号にいう「特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明」に該当するというべきである。


そして、被請求人のその余の主張を検討してみても上記結論は左右されるものではない。

(3)結論

以上のとおり、無効審判請求人の上記「III.2.」の主張2は、理由がある。

V.むすび

以上のとおりであるから、本件訂正発明5、9は、特許法第29条第1項第2号に該当し、本件訂正発明5、9に係る特許は平成5年改正法による改正前の同法第123条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、平成5年改正法による改正前の特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第89条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1996-04-19 
結審通知日 2002-03-11 
審決日 2002-03-26 
出願番号 特願昭63-3656
審決分類 P 1 11・ 121- Z (C03C)
P 1 11・ 81- Z (C03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 足立 法也  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 大黒 浩之
岡田 和加子
野田 直人
鈴木 毅
登録日 1991-11-28 
登録番号 特許第1627765号(P1627765)
発明の名称 マイクロバブル  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 小林 純子  
代理人 泉名 謙治  
代理人 小池 誠  
代理人 片山 英二  

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