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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16B
管理番号 1164352
審判番号 不服2004-13414  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-29 
確定日 2007-09-25 
事件の表示 平成5年特許願第89839号「ナット」拒絶査定不服審判事件〔平成6年1月21日出願公開、特開平6-10936〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年4月16日(パリ条約による優先権主張:1992年4月18日、独国)の出願であって、その請求項1?10に係る発明は、平成15年9月12日付け及び平成16年7月28日付けの各手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたとおりのもの(一部の誤記を除く)と認められるところ、請求項1の記載は次のとおりである。なお、請求項1の記載のうち「加工ワッシャ(1a)」は「加圧ワッシャ(1a)」の誤記と認める。

「【請求項1】 多角形部を備えた作用部(2)と付加結合された加圧ワッシャ(1a)とを有し、前記加圧ワッシャ(1a)が固定しようとする構成部材に接触させるための接触面(4a)を有し、該接触面(4a)が凹面状に構成されており、前記作用部(2)が前記加圧ワッシャ(1a)とは反対側に、前記作用部(2)と一体である締付け部(3)を有し、該締付け部(3)が前記作用部(2)よりもわずかな壁厚さを有し、前記締付け部(3)に軸方向に延びるスリット状の切欠き(8)が形成されており、前記作用部(2)と前記締付け部(3)と前記スリット状の切欠き(8)と前記加圧ワッシャ(1a)とが塑性変形加工で製作されていることを特徴とする、ナット。」

【二】引用刊行物に記載された事項
これに対して、原査定の拒絶の理由となった平成15年3月10日付けで通知された拒絶理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である「実願昭61-39871号(実開昭62-153414号)のマイクロフィルム」(上記拒絶理由における引用文献3。以下、「刊行物1」という。)、「特開昭58-610号公報」(同引用文献1。以下、「刊行物2」という。)、「特開昭53-3959号公報」(同引用文献6。以下、「刊行物3」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されていると認められる。

(1)刊行物1
〔あ〕「本考案の実施例を図面第3図乃至第5図につき説明すると、第3図に於て、符号(1)は回転軸、(2)は該回転軸(1)に挿通されたベアリング、(3)は該回転軸(1)に形成したねじ部(4)に螺着されてベアリング(2)を抜止めするベアリングナツトを示す。」(明細書3頁18行?4頁3行参照)
〔い〕「該ベアリングナツト(3)の締付方向の後方には、テーパ部(5)が形成され、そこには第4図及び第5図に見られるように回転軸(1)の軸方向のスリツト(6)が等間隔で複数本形成される。該テーパ部(5)の内側にはベアリングナツト(3)の本体のねじ部(8)と一連のねじ部(8)が形成され、これに於て回転軸(1)のねじ部(4)と螺合するが、該ねじ部(8)の直径dは、回転軸(1)の軸径Dよりも多少小径となるように、テーパ部(5)をかしめることにより、或はねじを切削することにより形成される。」(明細書4頁4?14行参照)
〔う〕「これによつてベアリングナツト(3)でベアリング(2)を締付けする際、テーパ部(5)は軸(1)により押し拡げられ乍ら締付方向に進み、その停止位置ではテーパ部(5)の緊縛力が回転軸(1)に対する緩み止めの作用を営む。(7)はベアリングナツト(3)の締付工具の係合溝である。」(明細書4頁14?19行参照)
等の記載が認められる。
また、第4図及び第5図を参照すると、「テーパ部(5)」の壁厚さが「係合溝(7)」が形成された部分の壁厚さよりも薄くなっている構成が示されていると認められる。
したがって、併せて図面も参照すると、刊行物1には、
“締付工具を係合させる係合溝(7)を備えた作用部と、固定しようとするベアリング(2)に接触させるための接触面を有するベアリングナツト(3)であって、前記作用部が前記接触面とは反対側に、前記作用部と一体であるテーパ部(5)を有し、該テーパ部(5)が前記作用部よりもわずかな壁厚さを有し、前記テーパ部(5)に軸方向に延びるスリツト(6)が成形されている、ベアリングナツト”
の発明が記載されていると認められる。

(2)刊行物2
〔え〕「ナツト50は本体56を含み、この本体にはレンチ受用の平坦部すなわち表面58が6角形に並べて設けてある(第3図)。」(4頁左上欄18?20行参照)
〔お〕「ワツシヤ52は環状カラー66(第2図)を含み、このカラーはナツトの本体56の軸線方向一端部から突出している保持部68を包囲している。保持部68はカラー66と共働してワツシヤ52をナツト50上にゆるく保持する。」(4頁右上欄4?8行参照)
〔か〕「ワツシヤ52はカラー66のほかにまたカラー66から半径方向外方に突出している環状の負荷伝達表示部72も有している。負荷伝達表示部72はカラー66の一端部を横切り延びている環状の支え部76と支え部76から半径方向と軸線方向とに外開きになつている環状のばね部78とを含んでいる。」(4頁右上欄9?15行参照)
〔き〕「ナツト本体56がハブボルト36上に回してはめられ続けるに従い、ばね部分78は第5図に示した截頭円錐形状から第6図に示したほぼ扁平な形状に弾性的に偏向せしめられる。ナツト50により所望の予負荷力がかけられると、ばね部78は支え部76と半径方向に並ばされるよう完全に扁平にされる。ばね部78が扁平になるとフアスナ組立体20により車輪30に所望の予負荷力がかけられたことを明確に可視的に表示する。」(4頁右下欄1?9行参照)
〔く〕「ワツシヤ52はシートメタルの一部片170(第11図)から作られる。シートメタルの部片170は最初円形に切られ円形の短かい側面176により境界された2つの平行な長い側面172、174を有している。部片170を最初円形に切ることが好ましいが、もし所望ならばワツシヤ52の形式を平たい矩形状部片から初めることもできる。
シートメタルの部片170は1対のダイス型180、182(第12図)間に入れられる。ダイス型は互いに締め付けられてシートメタル部片の基部188に垂直に軸線方向外方に延びる円筒形の壁186を形成する。壁186はシートメタル部片170から円形部分192を取除くことにより形成された円形開口190のまわりに延びる。
第12図に示した方法で円筒形の壁186が形成された後、シートメタル部片170は第2の対のダイス型196、198に移される。ダイス型196、198はワツシヤ52のカラー66を形成するため円筒形の壁186を圧縮する。更にまた、ダイス型196、198はシートメタル部片の環状基部188を曲げて支え部76とばね部78とを形成する。
下方のダイス型198は截頭円錐形のテーパ面202を有していて、このテーパ面は円筒形の壁190に軸線方向の力をかけてこの壁を軸線方向に圧縮し半径方向に外方に拡げる。円筒形の壁が軸線方向に圧縮され半径方向に拡げられると、截頭円錐形の負荷伝達面個所88が形成される。同時に、円筒形の壁の金属が冷間加工されワツシヤ52の截頭円錐形側面104を形成する。カラー66のアンダーカツトした側面104と下方のダイス型198の円筒形状内側面204との間にスペースが形成されたことを注目する必要がある。カラー66の截頭円錐形外側面104の形成と同時に、環状フランジ134がカラーの内側に形成される。
カラー66の形成と同時に、基部188は2つのダイス型196、198間の作用により曲げられる。これにより支え面76から半径方向および軸線方向に遠ざかり外開きになる支え部78を形成する。このようにしてワツシヤ66を形成するためシーメメタルの素材170を冷間加工することにより、ワツシヤを形成する作業の工程数と費用とは極減される。」(11頁左上欄1行?左下欄5行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物2には、
“レンチ受用の6角形部を備えたナツト本体56と、該ナツト本体56に結合されたワツシヤ52とを有し、前記ワツシヤ52は、半径方向外方に突出している環状の負荷伝達表示部72を有し、該負荷伝達表示部72が、環状の支え部76と支え部76から半径方向と軸線方向とに外開きになつている環状のばね部78とを含んで、ナツト本体56がハブボルト36上に回してはめられ続けるに従い、ばね部分78が截頭円錐形状からほぼ扁平な形状に弾性的に偏向せしめられ、ナツト50により所望の予負荷力がかけられると、ばね部78が支え部76と半径方向に並ばされるよう完全に扁平にされるものであり、前記ワツシヤ52が塑性変形加工で製作されている、ナツト」
が記載されていると認められる。

(3)刊行物3
〔け〕「本発明は溝付きナツトの製造法の改良に関するものである。」(1頁左下欄10?11行参照)
〔こ〕「まず予め所定の大きさに材料取りしたナツト素材Nを第1図に示すポンチPとダイDとを備えた成形機により据込む。
次いでこのようにして予備成形されたナツト素材Nを、第4図に示す如きポンチP′とダイD′を備えた第2図の成形機により圧造成形して、第6図及び第7図に示す如きネジ用穴N1′と溝N2′を備えた粗形ナツトN′を得る。
引続き第5図に示す如きポンチP″とダイD″とを備えた第3図に示す成形機により前記粗形ナツトN′の外周のバリN3′を除去すると共にネジ用穴N1′の底を打抜いて第8図に示す如き溝付きナツトN″を得る。
以後は従来と同様の方法でネジ用穴N1″の壁面にネジ溝を切削加工すれば、第9図に示す如き溝付きナツトの完成品が得られる。」(2頁左上欄2?17行参照
〔さ〕「叙上の如く本発明によればナツトの溝はナツト成形時に圧印されて一挙に形成されるため、……生産能率が格段に高く、したがつて製造原価も安くなるという顕著な利点を有する」(2頁左上欄18行?右上欄2行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物3には、
“工具を係合させる多角形部を備えた作用部を有し、該作用部の端部区域に軸方向に延びる溝が一体成形された溝付きナツト”及び
“工具を係合させる多角形部を備えた作用部と前記作用部の端部区域と該端部区域の溝とが塑性変形加工によって製作され、その後、ネジ用穴の壁面にネジ溝が切削加工されて前記溝付きナツトが完成される溝付きナツトの製造方法”
が記載されていると認められる。

【三】対比・判断
1.上記刊行物1に記載された発明の「ベアリングナツト」も「ナット」であり、本願の請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、後者の「テーパ部(5)」が前者の「締付け部(3)」に、また後者の「スリツト(6)」が前者の「スリット状の切欠き(8)」に、それぞれ相当して、
両者は、
「作用部と、固定しようとする構成部材に接触させるための接触面を有し、前記作用部が前記接触面とは反対側に、前記作用部と一体である締付け部を有し、該締付け部が前記作用部よりもわずかな壁厚さを有し、前記締付け部に軸方向に延びるスリット状の切欠きが形成されている、ナット」
で一致し、次の点で相違する。
[相違点A]
本願の請求項1に係る発明は、「ナット」が「付加結合された加圧ワッシャ」を有し、前記「接触面」は前記「加圧ワッシャ」が有する「接触面」であって、したがって、前記「締付け部」は前記「加圧ワッシャ」とは反対側に位置するものであり、また、前記「加圧ワッシャ」の「接触面」は「凹面状に構成され」、前記「加圧ワッシャ」は「塑性変形加工で製作されている」のに対して、上記刊行物1に記載された発明では、加圧ワッシャを備えるものではなく、「接触面」は「締付け部」とは反対側の作用部の端面である点
[相違点B]
本願の請求項1に係る発明は、「作用部」が「多角形部を備えた作用部」であって、前記「作用部」と前記「締付け部」と「スリット状の切欠き」が「塑性変形加工で製作されている」のに対して、上記刊行物1に記載された発明では、「作用部」が係合溝(7)を備えた作用部であり、「作用部」、「締付け部」及び「スリット状の切欠き」がどのようにして製作されたものか不明である点

2.次に上記各相違点について検討する。
(2-1)相違点Aについて
上記刊行物2には、前述のとおりの「ナツト本体56と、該ナツト本体56に結合されたワツシヤ52とを有する、ナツト」が記載され、その「ワツシヤ52」は、固定しようとする構成部分に対する接触面を有するものであるから、上記刊行物1に記載された発明において、「接触面」を、上記刊行物2に記載されたナットが有する付加結合された加圧ワッシャ(ワツシヤ52)が有する接触面とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記刊行物2に記載された加圧ワッシャ(ワツシヤ52)は、環状の支え部76と支え部76から半径方向と軸線方向とに外開きになつている環状のばね部78とを含むので、接触面が凹面状に構成されたものと認められる。
また、上記刊行物2には、前述のとおり、前記加圧ワッシャ(ワツシヤ52)が塑性変形加工で製作されることが記載されていると認められる。
したがって、「ナット」が付加結合された加圧ワッシャを有するものとし、「接触面」を前記加圧ワッシャが有する接触面として、該接触面を凹面状に構成されたものとすること、また、前記加圧ワッシャが塑性変形加工で製作されたものとすることは、上記刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
そして、「接触面」を加圧ワッシャが有する接触面とすることで、「締付け部」は加圧ワッシャとは反対側に位置することとなる。

(2-2)相違点Bについて
上記刊行物3には、前述のとおりの「工具を係合させる多角形部を備えた作用部を有する溝付きナツト」が記載されているから、上記刊行物1に記載された発明の作用部の形状を刊行物3に記載された「多角形」とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
また、上記刊行物3には、前述のとおりの「工具を係合させる多角形部を備えた作用部と前記作用部の端部区域と該端部区域の溝とが塑性変形加工によって製作される溝付きナツトの製造方法」が記載されており、この方法によって製造されるナットは、作用部の端部区域に軸方向に延びる溝が一体成形された形状をもつ点で、作用部と一体の締付け部に軸方向に延びるスリット状の切欠きをもつ上記刊行物1に記載された発明のナットと形状が類似するから、上記刊行物3に記載された溝付きナツトの製造方法を上記刊行物1に記載された発明のナットの製造に適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、上記刊行物1に記載された発明において、「作用部」を多角形部を備えたものとし、「作用部」と「締付け部」と「スリット状の切欠き」が塑性変形加工で製作されているものとすることは、上記刊行物3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

3.上記のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その構成が上記刊行物1?3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、また、その作用効果も、上記刊行物に記載された事項から予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。

【四】むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、その優先権主張日前に頒布された上記刊行物1?3に記載された発明に基づいて、本願の優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の請求項2?10に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-19 
結審通知日 2006-05-24 
審決日 2006-06-06 
出願番号 特願平5-89839
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊倉 強窪田 治彦  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 水野 治彦
常盤 務
発明の名称 ナット  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 山崎 利臣  
代理人 ラインハルト・アインゼル  

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