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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1190017
審判番号 無効2006-80270  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-12-26 
確定日 2008-12-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3839642号発明「流動化処理土の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件の特許第3839642号に係る出願は、平成12年5月26日に特許出願され、その後の平成18年8月11日に、その請求項1ないし3に係る発明につき、特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人より平成18年12月26日に請求項1ないし3に係る発明に対して本件無効審判の請求がなされ、被請求人より平成19年3月30日に答弁書が提出された。
当審は、平成19年9月27日に口頭審理を行い、請求人及び被請求人は、それぞれ、同日付け口頭審理陳述要領書のとおり陳述した。
その後、被請求人は平成19年10月9日付けの上申書を提出した。

2.本件発明
本件の請求項1?3に係る発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のものと認める。
「【請求項1】
建設汚泥を処理して含水率を約55%?約65%に調整した調整汚泥10Ltrに対して水を約2.5?約3.5Ltrの範囲で、また、調整汚泥と水との混合組成物10Ltrに対して、セメント、セメント系固化材、セメント・石灰複合系固化材、及び石灰の中から選択した固化材を、水に溶解した固化材の固形分として約0.6?約0.8kgの範囲で混合し、流動性を持ち、1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)の一軸圧縮強度を有し、かつ、ブリージング率3%以下、フロー値約160?300mmの流動化処理土を得ることを特徴とする流動化処理土の製造方法。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】
建設汚泥を処理して含水率を約55%?約65%に調整した調整汚泥10Ltrに対して粘土などの細粒土を含む泥水を約2.5?約3.5Ltrの範囲で、また、調整汚泥と泥水との混合組成物10Ltrに対して、セメント、セメント系固化材、セメント・石灰複合系固化材、及び石灰の中から選択した固化材を、水に溶解した固化材の固形分として約0.4?約0.6kgの範囲で混合し、流動性を持ち、1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)の一軸圧縮強度を有し、かつ、ブリージング率3%以下、フロー値約160?300mmの流動化処理土を得ることを特徴とする流動化処理土の製造方法。」(以下、「本件発明2」という。)
「【請求項3】
建設汚泥にセメント、セメント系固化材、セメント・石灰複合系固化材、及び石灰の中から選択した固化材を添加して固化処理し、礫を除去した改良土10Ltrに対して、水を約4?約6Ltrの範囲で、また、改良土と水との混合組成物10Ltrに対して、セメント、セメント系固化材、セメント・石灰複合系固化材、及び石灰の中から選択した固化材を、水に溶解した固化材の固形分として約0.6?約0.8kgの範囲で混合し、流動性を持ち、1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)の一軸圧縮強度を有し、かつ、ブリージング率3%以下、フロー値約160?300mmの流動化処理土を得ることを特徴とする流動化処理土の製造方法。」(以下、「本件発明3」という。)

3.請求人の主張
(3-1)これに対して、請求人は、下記の理由により本件発明の特許を無効とするとの審決を求め、証拠方法として甲第一号証の1?甲第五号証を提出している(なお、甲号各証は漢数字であるが、以下、算用数字で表記する)。
[無効理由]
(1)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証を参酌すると、甲第1号証の1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件特許の請求項2に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証を参酌すると、甲第1号証の1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)本件特許の請求項3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[証拠方法]
甲第1号証の1:「土の流動化処理工法」技報堂出版株式会社、1997(平成9)年5月25日発行(70?71頁、95頁、142?143頁、150頁)
甲第2号証:特開平11-172718号公報
甲第3号証:[改訂版]「建設業とリサイクル」株式会社大成出版社、1992(平成4)年9月25日発行
甲第4号証:「建設発生土利用技術マニュアル」財団法人土木研究センター、平成6年7月発行
甲第5号証:本件特許公報(特許第3839642号公報)

(3-2)請求人は、口頭審理において、さらに甲第1号証の2を提出し、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証を参酌すると、甲第1号証の1及び甲第1号証の2(以下、両者を併せたものを「甲第1号証」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨、主張する。

[証拠方法]
甲第1号証の2:「土の流動化処理工法」技報堂出版株式会社、1997(平成9)年5月25日発行(目次、21?23頁、72頁、76?81頁、138?153頁、179?187頁)

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求め、その理由として、本件発明1ないし3は、本件出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨、主張する。

5.甲号各証に記載の事項
甲第1号証の1には次の事項が記載されている(なお、142?143頁、150頁は、後述「甲第1号証の2」にまとめて記載した。)。
(アンダーラインは当審が付した。)
(1a)「4.2 使用材料
流動化処理土に使用する材料について以下説明する。
(1)主材
「主材」とは,流動化処理土の原料土となる土砂である.従来,土工には不適当な材料とみなされていた高含水比の粘土・シルトも利用できる.発生土が礫を含む場合でも,粒径が40mm程度以下のものは主材として利用できる.
建設事業等に伴って発生する発生土についても,ほぼすべての土質区分の土が主材として適用できるが,土質安定処理をせず直接再利用できる良質土,例えば第1・2種建設発生土は,従来どおりの再利用の方法がコスト面で有利になることが多い.一方,第4種建設発生土および建設泥土は,その処理・処分にコストが発生するので,流動化処理土の主材として用いることができれば有効である.
また一度埋戻しなどに利用された後に再掘削された流動化処理土は,建設発生土として扱うことができるが,この土も再度,流動化処理土の主材として利用できる.ただし,再掘削された処理土の強度がq_(u)=2?5kgf/cm^(2)程度であればそのまま利用できる場合が多いが,それ以上の強度の場合にはあらかじめ粉砕する必要がある.
(2)調整泥水
主材が砂質土系の土の場合は,材料分離を防止するため比重を調整した泥水を添加し,一定量の細粒分を確保する必要がある.「調整泥水」とは,このような目的に用いられる比重を調整した泥水であり,粘土やシルトなどの細粒土に水を加えて泥状にしたもの,あるいはより粗い粒子を含む土の場合は,気泡等も混入して粗粒分の分離のみられない状態の泥状に調整したものである.調整泥水の原材料としては土取場から採取した細粒土,あるいは建設事業などに伴って生じる泥土,有害物質を含まない浄水場の汚泥,河川,湖沼等の底質土が用いられる.一例として,表4.1に連続地中壁等の掘削現場から発生する泥土の土質試験結果を示す.このような泥土は細粒分が80%を超えており,調整泥水の原材料として適当であると考え…」(70頁下7行?71頁最下行)、

(1b)71頁下の「表4.1 泥土の物理性状 」には、次の表が記載され試料AないしJの泥土について土粒子密度、自然含水比、粒度分布、コンシステンシーが記載され、試料Gの自然含水比は113.6%、試料Hの自然含水比は102.0%であることが記載されている。


(1c)「5.3.2製造プラントの形態
前記のような解泥,混練装置を組み合わせた流動化処理土の製造プラントの例を…図5.9 に示す.」(95頁1?3行)。


甲第1号証の2には次の事項が記載されている。
(1d)「第2章 流動化処理土の構成,性能を表現する諸量および試験
2.1 流動化処理土の構成と,それを表現する諸量の定義

「建設発生土」を土の種類,発生時の状態によって次のように大別する.
[A]:山砂のような砂(礫)に富んだ土(…)の場合.
[B]:砂(礫)質土であるが…粘性に富んだ土の場合.
[C]:細粒分に富んだ粘性土,例えば関東ローム層のような洪積粘性土や,沖積粘性土地盤の掘削土,浚渫底質土のように、それ自体が細粒分を多量に含んだ粘性土の場合.

「調整泥水」は細粒分に富んだ発生土[C]に適宜加水,解泥して所要の泥水を作製する場合と,建設工事に伴って発生する泥土をストックし,所要の性質の泥水に調整した場合とに分けられる.

流動化処理土の構成の組合せとしては、
(マル1)(原文は丸付き数字。以下、同様)[A]+「調製泥水」+「固化材」
(マル2)「B」+「加水」+「固化材」
(マル3)[C]+「加水」+[A]+「固化材」
(マル4)[C]+「加水」+「固化材」
の4通りがある.

(マル4)の場合は加水のみによって高い流動性の泥状土を得やすく、製造工程も簡便である.

以上4種の処理形態を整理して
(マルa)(原文は丸付き記号。以下、同様)[発生土]+「調整泥水」+「固化材」
(マルb)[発生土]+「水」+「固化材」
(マルc)「泥状土(細粒の発生土+水)」+「粒度調整材(粗粒の発生土)」+「固化材」
とすることができ,さらに(マル3)(当審注:(マルc)の誤記)は泥状土を調整泥水にみなせば(マル1)(当審注:(マルa)の誤記)と同じとみなせるから,2.3に記述するように,これらは
「発生土」+「調整泥水」+「固化材」
「発生土」+「水」+「固化材」
の2系統の構成要素の組合せを理解すればよいことになる.」(21頁1行?22頁最下行)、

(1e)流動化処理土の使用材料である固化材について、
「(3)固化材
「固化材」には主にセメント系固化材,セメント,セメント石灰複合系固化材,石灰系固化材が用いられる.」(72頁2?4行)、

(1f)4.6 配合試験(76頁?81頁)として、
「4.6.1 配合試験の手順
主材として用いる発生土の土質が細粒土であるか砂質土であるかにより,流動化処理土の製造手順は2種類に分類でき,配合試験もこの2種類の手順に則して行う.
図4.3に配合試験のフローを示す.
配合試験フロー(a)は細粒土の場合の手順である.このなかで,泥水の比重と固化材添加量はパラメータとしていくつか変化させる必要がある.…
配合試験フロー(b)は砂質土の場合の手順である.…

」(76頁8行?77頁上)、

(1g)「4.6.3 試験結果の整理
(1)試験フロー(a)の場合
主材となる土砂が細粒土の場合の整理方法を,沖積粘性土を用いた例で示す(図4.4,図4.5,図4.6).試験結果は,横軸に泥水比重を,縦軸にフロー値,一軸圧縮強さ,ブリーディング率をそれぞれとり,固化材の添加量別に値を各座標軸にプロットする.それを曲線で結んだものが基本配合図である.


4.6.4 配合決定
配合は基本配合図から要求品質を満足する範囲を特定して決めるが,方法を配合試験の手順ごとに述べる.
(1)試験フロー(a)の場合
基本配合図からセメント量一定の曲線を選び,一軸強さとフロー値に対する泥水比重を一つの図にまとめ,配合設計基準図を作成する.次に,配合設計基準図に要求される一軸圧縮強さ,フロー値,ブリーディング率のおのおのの要求範囲を設定し,その結果,重複する部分を適正配合と決める.
主材が細粒土の場合の配合設計基準図の例を図4.7に示す.この例では,現場での要求品質を,打設時のフロー値で150?250mm,3時間後のブリーディング率で1%以下,材齢7日時の一軸圧縮強さで1.5?3.0kgf/cm^(2)としている.なお,固化材添加量については,C=100kg/m^(3)に設定している。
これらの要求品質から泥水比重の範囲は,1.52?1.56の範囲となる.したがって泥水比重はその中心値である1.54とし,それに応じた発生土と水の配合を算出する.」(79頁上の図?80頁22行)、

(1h)用途別施工事例の「事例5 ガス管の埋戻し工事」(138?148頁)として、山砂を原料土としたこと(139頁最下行?140頁2行)、山砂の自然含水比は17.0%であったこと(140頁、事例表5.2)及び、
「以上の留意点や過去の試験データより決定した配合および処理土の性状を事例表5.6に示す.


■処理土の製造
処理土の製造を以下の順に行った.
(マル1)バックホーによりホッパーに原料土を投入し,ベルトコンベヤーにて規定量を解泥混合機内に投入.
(マル2)解泥混合機に添加水,原料土の順に規定量入れ,3分間撹拌混合.
(マル3)固化材を規定量投入し,30秒間混合した後,アジテーター車に積載.

■品質管理
品質管理項目を事例表5.8に,…示す.

」(142頁6行?143頁)、

(1i)用途別施工事例の「事例6 多条保護管の埋戻し試験工事」(149?153頁)として、
「■配合設計
多条保護管埋戻しに対する要求品質を以下にあげる.
(1)流動性
多条保護管の最小間隔が25mmなので,処理土にはこの空隙を充填する流動性が求められる.室内実験からフロー値(JHS)120mmで50mmの間隙が完全に充填できることが知られている.本実験施工ではフロー値の目標値を160mmとした.
(2)体積収縮
体積収縮を最小限に抑制するためにブリーディング率は1%以下とした.
(3)早強性
夜間即日復旧を考慮して,打設後3時間で0.5kgf/cm^(2)以上の強度を確保する.材齢28日強度は再掘削が可能となるような7kgf/cm^(2)以下とした.固化材は即硬性のものを採用した.
埋戻しの原材料を以下に示す.
発生土 愛知県常滑産山砂
粘性土 乾燥粘土(市販品)
水 水道水
固化材 即硬型セメント系固化材…
配合を事例表6.1に示す.

■処理土の製造

製造工程を以下に示す.
(1)泥水の製造
泥水層に一定量の水を投入する.泥水層のなかにサンドポンプを設置して水の対流をつくる.そのなかに所定の乾燥粘土を投入し作泥を行った後,泥水の密度を測定し微調整する.
(2)流動化処理土の製造

泥水層よりサンドポンプを使用して,流動化処理プラントへ送泥する.発生土をバックホーとベルトコンベヤーで一次ミキサーに送り混練する.混練完了後,二次ミキサーに移し,固化材を添加後,さらに混練を行う.…」(149頁下から2行?151頁7行)、

(1j)用途別施工事例の「事例10 火力発電所放水口工事における流動化処理土の水中施工」(179?187頁)として、
「(6)基本配合 当該現場における流動化処理土の基本的配合割合は,事例表10.5に示すとおりである。

■流動化処理土の製造

以下,施工フロー図に基づいて施工手順を説明すると次のようになる.
(マル1)解泥調製槽にクラムシェルで,第二次沈殿池より細粒土を投入.
(マル2)解泥機を用いて解泥し,加水しながらフロー値を調製した後ポンプで泥水貯留槽に圧送する.
(マル3)調製泥水をサンドポンプで流動化処理プラント(バッチ式)に投入する.
(マル4)固化材を定量添加,撹拌,混合し処理土を作成する.…」(182頁7行?183頁9行)。

上記記載によると、甲第1号証には、流動化処理土の製造方法として、次の2つの方法が記載されていると認められる。
(1)摘記事項(1a)、(1c)、(1d)の(マルa)及び(マルc)、(1f)の「試験フロー(b)」並びに(1i)に示される、
「山砂のような砂(礫)に富んだ建設発生土に、粘土やシルトなどの細粒土に水を加えて泥状にした「調製泥水」を混合して比重を調整し、固化材を混合して、目標とする一軸圧縮強さ、ブリーディング率、フロー値を有する流動化処理土とする流動化処理土の製造方法。」
(2)摘記事項(1d)の(マルb)、(1g)及び(1f)の「試験フロー(a)」、(1h)並びに(1j)に示される、
「砂(礫)質土ではあるが粘性に富んだ土又は細粒分に富んだ粘性土である建設発生土に、水を加え比重を調整して調製泥水を製造し、調製泥水に対して固化材を加えて、目標とする一軸圧縮強さ、ブリーディング率、フロー値を有する流動化処理土とする流動化処理土の製造方法。」
また、摘記事項(1e)には、固化材としては、主に「セメント系固化材、セメント、セメント石灰複合系固化材、石灰系固化材」が用いられることが記載されている。

そうすると、甲第1号証には、上記(2)の流動化処理土の製造方法に関して、次の発明が記載されていると認められる。
「砂(礫)質土ではあるが粘性に富んだ土又は細粒分に富んだ粘性土である建設発生土に、水を加えて混合して比重を調整し、建設発生土と水の混合物に対して、セメント系固化材、セメント、セメント石灰複合系固化材、石灰系固化材から選択した固化材を混合し、目標とする一軸圧縮強さ、ブリーディング率、フロー値を有する流動化処理土とする流動化処理土の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)

甲第2号証には図面と共に次のことが記載されている。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、土木建設工事の埋戻し、裏込めあるいは充填施工における流動化処理工法の改良法、及びそれに用いる改良土に関する。」、
(2b)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記した良好な特徴を有する流動化処理工法及びそれに用いる改良土について鋭意検討を重ねた結果、泥水などの調整材を用いることなく、土塊に特定の土質改良材を特定割合で配合して混合し、土塊を解砕し細かくするとともに、その粒度を揃えてなるものが所期の改良土となること、及びそれを用いて調製した流動化処理土を用いた流動化処理工法がその目的に適合することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0006】…本発明は、土木建設工事の埋戻し、裏込めあるいは充填施工を、流動化処理土の流し込みにより行う流動化処理工法において、流動化処理土として、土塊に対し生石灰又は生石灰を主体とした土質改良材を10?300kg/m^(3)配合して混合し、土塊を解砕し細かくするとともに、その粒度を揃えてなる改良土に水及び水硬性固化材を配合し混合して流動化させたものを用いることを特徴とする流動化処理工法…を提供するものである。」、
(2c)「【0007】
【発明の実施の形態】本発明において改良土の調製に当り用いる土塊については特に制限はなく、例えばシルト質土、粘性土、砂質粘性土、砂礫質粘性土、ローム、火山灰質粘性土、砂質土、砂礫などが用いられ、発生残土や、良質の土砂も用いられる。
【0008】また、土塊に添加される生石灰については特に制限はないが、通常石灰石を焼成して得たものが用いられる。
【0009】生石灰に代えて、生石灰を主体とした土質改良材も用いられる。この土質改良材の副資材としては、セメント、石膏、スラグなどが挙げられ、副資材は土質改良材全量当り50重量%未満、好ましくは40重量%以下の割合で配合される。
【0010】生石灰又は生石灰を主体とした土質改良材(以下生石灰系改良材という)の土塊に対する配合割合は、使用目的や土塊の種類等により様々であるが、通常10?300kg/m^(3)、好ましくは20?200kg/m^(3)の範囲で選ばれる。この割合が少なすぎると本発明の効果が十分に発揮されないし、また多すぎてもその量の割には効果の向上がみられずむしろ経済的に不利となるので好ましくない。
【0011】生石灰は土塊に配合されると、土塊中の水分を吸収し、消化反応を起こし、その生成物がイオン交換等の作用を生じるために土塊がスムーズに解砕されると推測される。」、
(2d)「【0012】…この混合解砕機を用いると特に有効な土塊は、一般にコンクリートガラ、アスコンガラ、礫などの種々の夾雑物を含む建設残土、砕石洗浄ケーキ、シールド泥土、ダムなどの堆積土などの不良残土である。」、
(2e)「【0017】土塊と生石灰系改良材は、予め所定の割合で混合しておき、この混合物を混合解砕機に投入する。…
【0018】このような位置に土塊と生石灰系改良材との混合物を投入することにより、第1、第2及び第3の駆動ロータの羽根による混合解砕効果が3回繰り返されることになる。該生石灰系改良材は、駆動ロータの羽根により、土塊表面に十分均質に付着されるとともに、土塊が解砕されることにより、土塊の新表面にさらに付着される。土塊表面に付着した改良材は、うち粉の効果をもたらし、解砕された土塊は再度大きな土塊にはならない。…
【0020】このようにして、本発明の改良土が、土塊が細かく解砕され、粒度が揃った均質な混合状態で得られる。本発明の改良土はふるい等を用いて分級するのが好ましく、これにより改良土の粒度をより一層揃えることができる。」、
(2f)「【0021】本発明の流動化処理工法においては、この改良土に水及び水硬性固化材を配合し混合して流動化させたものを流動化処理土として用いる。水硬性固化材としては、例えばポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメントなどのセメント、セメント系固化材、高炉スラグ微粉末などが挙げられる。この流動化処理土においては、改良土に対し、水及び水硬性固化材が要求される強度や施工条件下での流動性等に応じて適量用いられ、好ましくは30?200kg/m^(3)及び100?500kg/m^(3)の範囲の割合でそれぞれ配合される。…」
(2g)「【0030】…また、混合解砕機を用いることにより、土塊、特に発生残土、砕石洗浄ケーキ、シールド泥土、ダムなどの堆積土などの土塊に、生石灰系改良材が効率よく均質に混合されるとともに、土塊の解砕がより一層効率よく行われ、粒度もより一層揃うようになるなどの顕著な効果が奏される。」。

したがって、これらの記載によれば、甲第2号証には、
「土塊に対し石灰等からなる土質改良材を、混合解砕機により、混合し、土塊を解砕し細かくすることにより、土塊の新表面にさらに土質改良材が付着した改良土を作成し、ふるいで分級した後、この改良土に、水、及び、セメント等からなる水硬性固化材を混合し、流動化させた流動化処理土を得る方法」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

甲第3号証には、産業廃棄物の分類と建設現場から排出される産業廃棄物の具体的内容が記載されており、「汚でい」に分類される具体的内容として、「廃ベントナイト」、「リバース工法等に伴う廃泥水」、「含水率が高く粒子の微細な泥状の掘削土」があげられている(17頁「産業廃棄物」の「汚でい」の項)。

甲第4号証には、次のことが記載されている。
(4a)「1)泥 土
「建設汚泥」および大部分の浚渫土のように、掘削工事によって排出され、含水比が高く粒子の微細な泥状のものであり、標準ダンプトラックに山積みができず、またその上を人が歩けない状態のもの(おおむねコーン指数が2以下またはー軸圧縮強さが0.5kgf/cm^(2)以下)を「泥土」という。本マニュアルで取扱う泥土は、4)の「汚染土」は含まないものとする。」(3頁4?9行)。
(4b)「図1-1 発生土の構成図」には、「発生土」には、「建設発生土」と「建設汚泥」が含まれることが記載されている。

6.当審の判断
(6-1)本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「砂(礫)質土ではあるが粘性に富んだ土又は細粒分に富んだ粘性土である建設発生土」と本件発明1の「調整汚泥」とは、「主材」である点で共通する。
したがって、両者は、
「主材に対して水を混合し、主材と水との混合物に対してセメント、セメント系固化材、セメント・石灰複合系固化材、及び石灰の中から選択した固化材を混合し、流動性を持つ流動化処理土を得る流動化処理土の製造方法。」である点で一致し、次の各点で相違する。
[相違点1]
主材が、本件発明1が「建設汚泥を処理して含水率を約55%?約65%に調整した調整汚泥」であるの対し、甲1発明は「砂(礫)質土ではあるが粘性に富んだ土又は細粒分に富んだ粘性土である建設発生土」であり、含水率を調整したものではない点。
[相違点2]
本件発明1が、調整汚泥10Ltrに対して水を約2.5?約3.5Ltrの範囲で混合し、また、調整汚泥と水の混合組成物10Ltrに対して、固化材を、水に溶解した固化材の固形分として約0.6?約0.8kgの範囲で混合したのに対し、甲1発明は、水や固化材の添加量は限定されていない点。
[相違点3]
製造される流動化処理土が、本件発明1では「1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)の一軸圧縮強度を有し、かつ、ブリージング率3%以下、フロー値約160?300mmの流動化処理土を得る」のに対し、甲1発明は一軸圧縮強度、ブリージング率、フロー値の数値範囲は限定されていない点。

[相違点1について]
上記相違点1について検討する。
甲第1号証には、主材として「高含水比の粘土・シルト」が挙げられ、「建設泥土」も主材として使用できることが示唆されている(摘記事項(1a))ところ、「高含水比の粘土・シルト」は、「細粒分に富んだ粘性土」に相当し、甲第3号証、甲第4号証の記載によれば「泥土」又は「汚泥」といえるものであるから、甲1発明の「細粒分に富んだ粘性土である建設発生土」には、「建設泥土」ないし「建設汚泥」と称される建設発生土が含まれることは明らかである。
しかしながら、甲1発明は、主材に対し含水率を調整することなく水を加えて、最終的な泥水の比重を調整するものであって、予め主材の含水率を調整してから、これに更に「水」を加えることは何ら示されていない。
また、甲第1号証の「事例10 火力発電所放水口工事における流動化処理土の水中施工」(摘記事項(1j))には、「主材」として、埋立地の余水吐きより泥水として二次沈殿地に堆積した細粒土を使用しており、この細粒土の含水率は、泥水自体より低くなっているものと認められるが、含水率を約55%?約65%に調整し、その後水を加えることまでは記載されていない。
したがって、甲1発明において、「粘性に富んだ土又は細粒分に富んだ粘性土である建設発生土」の含水率を約55%?約65%の範囲に調整することが当業者が容易になしうるとすることはできない。
ところで、甲第1号証の「表4.1」には、泥土の含水比として種々のものがあること示され、自然含水比113.6%(含水率に換算すると、約53%)のものも記載されている(摘記事項(1b))ことから、「含水率が約55%?約65%」の建設泥土が発生する場合があることも考えられる。しかし、甲1発明において主材として「含水率が約55%?約65%」の建設泥土を使用することがあるとしても、それは含水率を調整したものとはいえず、種々の含水率を有する泥土の含水率を調整してから水を添加することが、甲第1号証に示されているとすることはできない。
また、甲第1号証の「事例10 火力発電所放水口工事における流動化処理土の水中施工」(摘記事項(1j))では、「主材」として、埋立地の余水吐きより泥水として二次沈殿地に堆積した細粒土を使用しており、この細粒土(堆積物)の含水率は、泥水自体より低くなっているものと認められるが、堆積物をそのままクラムシェルで取り出して使用しているものであって含水率を調整することまでは示されていない。
したがって、甲1発明において、「細粒分に富んだ粘性土である建設発生土」の含水率を約55%?約65%の範囲に調整することが当業者が容易になしうるとすることはできない。
請求人は、「事例表5.6」の固化材と加水量の数値(摘記事項(1h))に基き、さらに原料土と水の混合物の比重を1.5と仮定して、調整汚泥の含水率を約55%?約65%に調整することは単に、流動化処理土の性状「一軸圧縮強度1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)、ブリージング率3%以下、フロー値160?300mm以下」などを決めるために逆算して決めた数値に過ぎず、建設現場で採用されている設計事項に過ぎないと主張する(請求書11頁下4?1行、口頭審理陳述要領書9頁11行?15頁5行)。
しかしながら、請求人は、計算にあたって、甲第1号証に記載も示唆もない「原料土が1000lに水300l(原料土が10lに水3lの比)に添加する」ことを前提としているものであり、甲第1号証の記載から逆算して決めることができるとの主張は、根拠がない。
したがって、本件発明1の相違点1に係る事項は、甲1発明及び甲第1号証に記載された事項(以下、両者を合わせて「甲第1号証に記載された発明」という。)に基いて当業者が容易になしえたものとすることはできない。

[相違点2について]
相違点2に検討すると、本件発明1の相違点2に係る事項は、上記本件発明1の相違点1に係る事項、すなわち「建設汚泥を処理して含水率を約55%?約65%に調整した調整汚泥」を主材としたものを前提するものであるところ、上記相違点1について検討したとおり、甲1発明はこのような前提を欠くものであり、含水率を約55%?約65%に調整した調整汚泥に添加する水の量や、このような調整汚泥と水の混合組成物10Ltrに対して添加する固化材の量を示唆するものでもない。
請求人は、請求書6頁、16頁において、甲第1号証の「事例表5.6」の数値に基き、さらに、原料土の比重を「1.5」と仮定したうえで、原料土、水、固化材の比率を計算し、水、固化材の比率が本件発明1の範囲である旨主張しているが、該「事例表5.6」は、自然含水比17.0%、処理土密度1.78g/cm^(3)の山砂を原料土として使用した事例であり(摘記事項(1h))、含水率を約55%?約65%に調整した「建設汚泥」に添加する水や固化材の量を示唆するものではない。
また、甲第1号証には、主材が細粒土の場合の配合設計として、固化材の配合量を60、80、100kg/m^(3)(配合物10L当たり約0.6、0.8、1.0kg)の範囲で変更し、それぞれについて要求される一軸圧縮強度、ブリージング率、フロー値となる比重を求め、その比重となるように主材と水の量を調整することが示されているが(摘記事項(1g))、主材の含水率を調整し、これに添加する水の量を決めておくこと、主材と水の混合物に対する固化材の量を決めておくことは示されていない。
したがって、本件発明1の相違点2に係る事項は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到しえたものとすることはできない。

[相違点3について]
相違点3について検討する。
甲第1号証には、甲1発明に相当する「試験フロー(a)」において、主材が細粒土の場合の配合設計例として、「現場での要求品質を,打設時のフロー値で150?250mm,3時間後のブリーディング率で1%以下,材齢7日時の一軸圧縮強さで1.5?3.0kgf/cm^(2)としている」と記載されている(摘記事項(1f))。
また、甲第1号証の「事例5 ガス管の埋戻し工事」においては、「事例表5.6」に、流動化処理土のフロー値1時間後200mm、一軸圧縮強さ28日4.26kgf/cm^(2)と記載されて、「事例表5.8」には、ブリージング率1%未満と記載され(摘記事項(1h))、さらに、甲第1号証の「事例6 多条保護管の埋戻し試験工事」における「事例表6.1」には、流動化処理土のフロー値160mm、ブリージング率1%、一軸圧縮強さ28日4.1kgf/cm^(2)と記載され、いずれも、本件発明1の範囲内である。
そうすると、最終的に流動化処理土の一軸圧縮強度、ブリージング率、フロー値を本件発明1の「1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)の一軸圧縮強度を有し、かつ、ブリージング率3%以下、フロー値約160?300mm」の範囲とすることは、当業者であれば当然採用する技術事項にすぎない。

[本件発明1の作用効果について]
本件発明1の作用効果について検討する。
甲1発明は、摘記事項(1g)に示すように、要求される一軸圧縮強度、ブリージング率、フロー値となるように、主材の種類に応じて、水の量を調整することにより調製泥水の比重を調整しなければならないのに対し、本件発明1は、主材として含水率を調整したものを使用することにより、被請求人が口頭審理陳述要領書に述べている次のような格別の作用効果を奏するものと認められる(便宜上、(a)?(c)に項分けした)。
(a)「建設汚泥に直接水または泥水を混合して、混合組成物である流動化処理土を製造しようとした場合には、流動化処理土の製造原料として用いる際の建設汚泥の含水率にばらつきが大きいため、混合する水または泥水の量もばらつくこととなり、これに備えて水または泥水の保管槽を大型にしなければならないうえ、使用する建設汚泥の性状に応じて、個別に水または泥水の添加量や混合方法をその都度検討して製造する必要を生じる」(被請求人の口頭審理陳述要領書9頁下6?1行)、
「製品である流動化処理土の完成直前に、一定以上の多量の水または泥水を混合する行為は、材料の分離を引き起こし、製品の均一性を損なう結果となる」(同書10頁1?2行)、
等の問題点があるのに対し、本件発明1は、
「混合組成物である流動化処理土を形成するに際し、まず含水率を調整した「調整汚泥」を製造し、その後水または泥水を混合することで上記問題点を解決する」(同書10頁8?10行)。
(b)調整汚泥の含水率を約55%?約65%の範囲とすることにより、適度の流動性と粘り強度とを有し、要求性状を満たす流動化処理土を建設汚泥から製造することができる」(同書10頁17?18行)。
(c)「調整汚泥を製造する段階では、含水率の異なる建設汚泥を混合することもでき、これにより外部から添加する水または泥水の量を節約することもできる」(同書10頁19?20行)。
なお、これらの効果は、必ずしも本件明細書に明記されているとはいえないが、本件発明1から自明な作用効果と認められる。

請求人は、口頭審理陳述要領書において「はじめに土に含まれた水と、後で土に加えた水が「どろみず」の性質に別々に寄与することはありえない」(同書3頁下3?1行)、及び、「含水率55?65%の原料土10lに水2.5?3.5lを添加」した泥水と「泥水密度1.5g/cm^(3)」とは、土質工学的に等価であり、原料土の「含水率」と「加水量」をあえて2回に分けて規定するのであれば、その総水量を規定する方が工学的に合理的である(同11頁6行?12頁下から3行、13頁9?13行)旨主張する。
たしかに、原料土の「含水率」を調整しその後さらに水を加えた場合も、原料土に一度に水を加えた場合も、最終的な泥水の状態に差異はない。しかしながら、本件発明1は、単に、主材と水と固化材とを混合して流動化処理土を得るのではなく、主材の含水率を調整した上で、所定量の水と混合し、固化材を添加すること、すなわち水分量を2段階にわたって調整することにより上記の作用効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(6-2)本件発明2について
上記(6-1)の対応関係をふまえて、本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明2の「粘土などの細粒土を含む泥水」と甲1発明の「水」とは、「水を含む液体」である点で共通するから、両者は、
「主材に対して水を含む液体を混合し、主材と水を含む液体との混合組成物に対して、セメント、セメント系固化材、セメント・石灰複合系固化材、及び石灰の中から選択した固化材を混合し、流動性を持つ流動化処理土を得る流動化処理土の製造方法。」である点で一致し、次の各点で相違する。
[相違点1’]
主材が、本件発明1が「建設汚泥を処理して含水率を約55%?約65%に調整した調整汚泥」であるの対し、甲1発明は「粘性に富んだ土又は細粒分に富んだ粘性土である建設発生土」であり、含水率を調整したものではない点。
[相違点2’]
水を含む液体が、本件発明2では、粘土などの細粒土を含む泥水であり、調整汚泥10Ltrに対して粘土などの細粒土を含む泥水を約2.5?約3.5Ltrの範囲で混合し、また、調整汚泥と泥水の混合組成物10Ltrに対して、固化材を、水に溶解した固化材の固形分として約0.4?約0.6kgの範囲で混合したのに対し、甲1発明は、水を含む液体が「水」のみであり、泥水を添加するものではなく、したがってその添加量、調製汚泥と泥水の混合組成物に添加する固化材の量も限定されていない点。
[相違点3’]
製造される流動化処理土が、本件発明2では「1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)の一軸圧縮強度を有し、かつ、ブリージング率3%以下、フロー値約160?300mmの流動化処理土を得る」のに対し、甲1発明はこのような数値に限定したものではない点。

[相違点1’について]
本件発明2の上記相違点1’については、上記(6-1)の[相違点1について]において検討したと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易になしえたものとすることはできない。

[相違点2’について]
甲第1号証には、発生土が砂(礫)土の場合に、細粒土を含む泥水を添加し、さらに固化材を添加することが記載されており、泥水を添加することで、流動化処理土の粘性土や細粒土を添加することが示されており、主材が粘性土や細粒土を含むものである場合においても、水に代えて泥水を添加し粘性土や細粒土の量を調整することは適宜なしうることといえる。
しかし、本件発明2の相違点2’に係る事項は、上記本件発明2の相違点1’に係る事項、すなわち「建設汚泥を処理して含水率を約55%?約65%に調整した調整汚泥」を主材としたものを前提するものであるところ、甲1発明はこのような前提を欠くものであるから、含水率を約55%?約65%に調整した調整汚泥10Ltrに対して粘土などの細粒土を含む泥水を約2.5?約3.5Ltrの範囲で混合すること、この調整汚泥と泥水の混合組成物に固化材0.4?0.6kgの範囲で混合することが、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易になしえたものとすることはできない。

[相違点3’について]
相違点3’について検討すると、上記(6-1)の[相違点3について]において検討したとおり、最終的に流動化処理土の一軸圧縮強度、ブリージング率、フロー値を本件発明2の「1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)の一軸圧縮強度を有し、かつ、ブリージング率3%以下、フロー値約160?300mm」の範囲とすることは、当業者であれば当然採用する技術事項にすぎない。

そして、本件発明2は、本件発明1と同様の格別の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、甲第1号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(6-3)本件発明3について
本件発明3と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「土塊」と本件発明3の「建設汚泥」とは、「原料土」である点で共通し、甲2発明の「石灰等からなる土質改良材」が、本件発明3において原料土に添加する「固化材」に相当し、以下、同様に、「水硬性固化材」が、改良土に混合する「固化材」に、「流動化処理土を得る方法」が「流動化処理土の製造方法」に、それぞれ相当する。
また、甲2発明において「ふるいで分級」したことにより、実質的に「礫を除去」していることは明らかである。
したがって、両者は、
「原料土に石灰等からなる固化材を添加して固化処理し、礫を除去した改良土に対して、水、及び、セメント等からなる固化材を、混合し、流動性を持つ流動化処理土を得る流動化処理土の製造方法。」である点で一致し、次の各点で相違する。
[相違点1”]
改良土の原料土は、本件発明3が「建設汚泥」であるのに対し、甲2発明が「土塊」である点。
[相違点2”]
本件発明3が、「改良土10Ltrに対して、水を約4?約6Ltrの範囲で、また、改良土と水との混合組成物10Ltrに対して、固化材を、水に溶解した固化材の固形分として約0.6?約0.8kgの範囲で混合」したものであるのに対し、甲2発明は、このような数値の限定のない点。
[相違点3”]
本件発明3が、「1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)の一軸圧縮強度を有し、かつ、ブリージング率3%以下、フロー値約160?300mmの流動化処理土」であるのに対し、甲2発明は、このような数値の限定のない点。

[相違点1”について]
相違点1”について検討する。
甲第2号証には、「改良土」の調整に当たり用いる「土塊」には、粘性土、発生残土、シールド泥土等を用いることが記載されている(摘記事項(2c)段落【0007】、【0012】、(2g))。
しかしながら、甲第2号証に「土塊に特定の土質改良材を特定割合で配合して混合し、土塊を解砕し細かくするとともに、その粒度を揃えてなるものが所期の改良土となる」(摘記事項(2b))と記載されているように、甲2発明における「土塊」は文字どおり塊となっているものを意味することは明らかであり、また「生石灰系改良材は、駆動ロータの羽根により、土塊表面に十分均質に付着されるとともに、土塊が解砕されることにより、土塊の新表面にさらに付着される。土塊表面に付着した改良材は、うち粉の効果をもたらし、解砕された土塊は再度大きな土塊にはならない。」及び「本発明の改良土が、土塊が細かく解砕され、粒度が揃った均質な混合状態で得られる。…」(摘記事項(2e)段落【0018】、【0020】)等の記載から、甲2発明の「改良土」とは、粘性土等の含水率の低い塊状の土塊がロータにより解砕され、解砕された土塊の表面に生石灰系の改良材が付着し、あたかも、改良材がうち粉(そば・うどん・餅(もち)などを伸ばすときに、粘り付かないように振りまく粉…当審注)のように働いて、塊状の改良土同士がくっつかないようにしたものであるから、仮に、甲第2号証に、粘性土、発生残土、シールド泥土等を用いることが記載されているとしても、甲第2号証の記載を全体として把握するならば、甲2発明の「改良土」の原料土である「土塊」は、含水率の低い塊状のものであって、本件発明3の対象とする含水率が55%以上(本件特許明細書段落【0004】参照)の「建設汚泥」とは全く異なる性状のものである。
そして、甲2発明は、コンクリートガラ、アスコンガラ、礫などの種々の夾雑物を含む建設残土、砕石洗浄ケーキ、シールド泥土、ダムなどの堆積土などの不良残土(摘記事項(2d))からなる塊状の土塊に土質改良材を付着させ、混合解砕機により解砕するものであって、固化処理しているものとはいえない。
なお、請求人は、口頭審理において、「甲第2号証には、含水率の高い泥土に固化材を入れて混合し、泥土を団粒化することが記載されており、この技術は本件請求項3に係る発明の建設汚泥に固化材を添加する技術と同じである。」(調書の請求人の主張の項)旨、主張するが、甲第2号証の記載は上記のとおりであり、甲第2号証記載の技術が「含水率の高い泥土に固化材を入れて混合し、泥土を団粒化する」ものであると解することはできない。
したがって、甲第1号証に、甲1発明として、細粒分に富んだ粘性土である建設発生土に水を加え、さらに固化材を添加混合する流動化処理土の製造方法が示され、上記(6-1)の[相違点1について]で検討したとおり、細粒分に富んだ粘性土である建設発生土として「建設汚泥」を使用することが示唆されているとしても、甲2発明の原料土として、このような建設汚泥を採用することが、当業者に容易になしうるとすることはできない。

また、甲第1号証には、既に述べたとおり、建設汚泥に水を加え、さらに固化材を添加混合する流動化処理土の製造方法が示されているが、建設汚泥に固化材を添加したのち、水を加え、さらに固化材を添加混合することは何ら記載されていない。
そして、建設汚泥は、水を加えると容易に解泥するものであるから、水を加える前に、解砕して細かくする必要がないものであり、甲1発明において、甲2発明の「原料土に固化材を添加する」技術を適用することが当業者が容易に想到しうるとすることもできない。

したがって、本件発明3の相違点1”に係る事項は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易になしうるとすることはできない。

[相違点2”について]
相違点2”について検討すると、本件発明3の相違点2”に係る事項は、上記本件発明3の相違点1”に係る事項、すなわち、「建設汚泥」を原料土をにすることを前提とするものであるところ、甲2発明は、上記[相違点1”について]で検討したとおり、「建設汚泥」を原料土にするものではないから、本件発明3の相違点2”に係る事項は、甲2発明に基いて当業者が容易に想到しうるとすることはできない。

(相違点3”について)
本件発明3の相違点3”について検討すると、上記(6-1)の[相違点3について]で検討したとおり、流動化処理土を「1.0kg/cm^(2)?5.0kg/cm^(2)の一軸圧縮強度を有し、かつ、ブリージング率3%以下、フロー値約160?300mmの範囲」とすることは、甲第1号証に記載されているように、流動化処理土に要求される一般的な性状であるから、本件発明3の相違点3”に係る構成は、当業者であれば当然採用する技術事項にすぎない。

そして、本件発明3は、上記相違点1”及び2”に係る事項により、含水率の高い建設汚泥を固化し、流動性処理土として利用できるものとするという格別の効果を奏する。
したがって、本件発明3は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

7.むすび
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明3は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求人の申し立てる理由によっては、本件発明1ないし3に係る本件特許は、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-03 
結審通知日 2007-12-06 
審決日 2007-12-18 
出願番号 特願2000-195280(P2000-195280)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 砂川 充
峰 祐治
登録日 2006-08-11 
登録番号 特許第3839642号(P3839642)
発明の名称 流動化処理土の製造方法  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 山口 朔生  

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