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審決分類 審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正する H05B
管理番号 1210169
審判番号 訂正2006-39153  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2006-09-13 
確定日 2010-01-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3206646号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3206646号に係る明細書を、平成19年1月15日付け手続補正書により補正された本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1. 手続の経緯
本件特許3206646号は、平成10年1月22日の出願に係り、平成13年7月6日に設定登録された。
その後、特許異議の申し立てがなされ、平成15年3月14日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年5月26日に意見書が提出され、平成17年8月25日付けで、審尋がされ、その指定期間内である平成17年12月2日に回答書が提出されたところ、平成18年2月2日付けで、その請求項1ないし7に係る特許を取り消すとの異議の決定がされた。
これに対して、特許権者(審判請求人)は、上記異議の決定の取消を求めて平成18年6月16日に知的財産高等裁判所に出訴し、訴訟係属中である平成18年9月13日に本件訂正審判の請求がなされた。
その後、平成18年11月16日に上申書が提出され、平成18年11月24日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成19年1月15日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書により手続補正がされたものである。

その後、平成19年2月16日付けで、本件審判請求は、成り立たない旨の審決(以下、「第1次審決」という。)がなされた後、知的財産高等裁判所において、審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10163号、平成20年5月28日判決言渡 以下、「第1次判決」という。)がなされた。

さらにその後、平成20年9月17日付けで、本件審判請求は、成り立たない旨の審決(以下、「第2次審決」という。)がなされた後、知的財産高等裁判所において、審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10157号、平成21年11月19日判決言渡 以下、「第2次判決」という。)が再度なされたので、さらに審理する。

2. 判決の概要
2-1 第1次判決(平成19年(行ケ)第10163号)
2-1-1 取消事由1(請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった違法)、取消事由2(請求項を削除する補正を許さない違法)について
「原告からなされた平成18年9月13日付けの本件訂正審判請求(甲4)は,旧請求項1?7を新請求項1?7等に訂正しようとしたものであるところ,その後原告から平成19年1月15日付けでなされた上記訂正審判請求書の補正(甲7)の内容は新請求項3・5・7を削除しようとするものであり,同じく原告の平成19年1月15日付け意見書(甲6)にも新請求項1・2・4・6の訂正は認容し新請求項3・5・7の訂正は棄却するとの判断を示すべきであるとの記載もあることから,審判請求書の補正として適法かどうかはともかく,原告は,残部である新請求項1・2・4・6についての訂正を求める趣旨を特に明示したときに該当すると認めるのが相当である。・・・(中略)・・・
そうすると,本件訂正に関しては,請求人(原告)が先願との関係でこれを除く意思を明示しかつ発明の内容として一体として把握でき判断することが可能な新請求項3・5・7に関する訂正事項と,新請求項1・2・4・6に係わるものとでは,少なくともこれを分けて判断すべきであったものであり,これをせず,原告が削除しようとした新請求項3・5・7についてだけ独立特許要件の有無を判断して,新請求項1・2・4・6について何らの判断を示さなかった審決の手続は誤りで,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす違法なものというほかない。」(判決64、65頁)

2-1-2 取消事由3(訂正発明3・5・7の独立特許要件についての認定・判断の誤り)について
「以上の検討によれば,原告主張の取消理由3は理由がない。」(判決79頁)

2-2 第2次判決(平成21年(行ケ)第10157号)
2-2-1 取消事由(第1次判決の拘束力に反する判断をした違法)について
「行訴法33条1項の定める拘束力を有する確定判決(第1次判決)がなされた後に別事件に関する最高裁の新たな法的見解が示されたからといって,当然に上記拘束力に影響を及ぼすと解することは困難であるのみならず,仮にこれを肯定する見解を採ったとしても,平成20年最高裁判決を被告主張のように解することもできない。すなわち,被告が事情変更の論拠とする平成20年最高裁判決は,・・・(中略)・・・訂正審判請求の場合はこれを不可分と解するとした部分は,訂正審判請求については,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているとの原則的な取扱いについて判示したものであり,昭和55年最高裁判決に依ってなされた第1次判決の例外的な取扱いを認めるべき場合についての判示,すなわち,請求人において複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは,それぞれ可分的内容の訂正審判請求があるとして審理判断する必要がある,との判示を否定するものとは解されない。このことは,平成20年最高裁判決が訂正審判請求に関する昭和55年最高裁判決を変更する趣旨を含まないことから明らかというべきである。
エ そうすると,平成20年最高裁判決は,昭和55年最高裁判決に依ってなされた第1次判決(取消判決)の拘束力に何らの法的影響を及ぼすものではない・・・(以下、略)」(判決34、35頁)

3. 訂正事項の分離
本件訂正審判請求のように,原明細書等の記載を複数個所にわたって訂正するものであるときは,原則として,これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべきであるが、客観的・画一的処理の要請に反しない場合、例えば最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決(昭和53年(行ツ)第27号・28号民集34巻3号431頁)も明言するように、
・訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるとき
・請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したとき
は、それぞれ可分的内容の訂正審判請求があるとして審理判断をする必要があると解される。
ところで、上記平成19年1月15日付け意見書には、
・削除しようとする訂正請求項3、5、7と残存する訂正請求項1、2、4、6とは、異なる実施例に基いた2つの請求項群であって、これら残存する訂正請求項と削除する訂正請求項との間には直接の一体不可分の関係にはない旨の記載(第5頁4?8行)
・訂正後請求項1、2、4、6の訂正を認め、訂正後請求項3、5、7の訂正は認めない、という一部認容、一部棄却の判断が示されるべきである旨の記載(第24頁13?15行)
がある。前記記載によると、本件訂正審判において訂正を請求している複数の訂正事項は2つの訂正事項群に可分であり、審判請求人は、そのうちの一部について訂正を求める趣旨を特に明示するものと解せられる。
そこで、上記平成19年1月15日付け手続補正書による審判請求書の補正により、複数の訂正事項が可分となっているか、そして、そのうちの一部について訂正の可否判断をすることが可能か否か、以下、検討する。

3-1 訂正事項と補正事項
3-1-1 訂正事項について
本件審判請求は、特許3206646号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおり訂正することを要旨とするものであって、本件審判請求書の6.請求の理由(3)訂正事項は以下の【訂正事項a】?【訂正事項j】とおりである。
【訂正事項a】
特許請求の範囲の請求項1の「前記有機発光層同士は」を、「前記有機発光層のパターンは、前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され、前記有機発光層同士は」と訂正する。
【訂正事項b】
特許請求の範囲の請求項3の「電極間に、各色に対応して」を、「電極間に、正孔注入・輸送層を有し、各色に対応して」と訂正する。
【訂正事項c】
特許請求の範囲の請求項4の「請求項1?3のいずれかに」を、「請求項1又は2」と訂正する。
【訂正事項d】
特許請求の範囲の請求項5の「請求項4記載」を、「請求項3又は4記載」と訂正する。
【訂正事項e】
特許請求の範囲の請求項6の「製造方法において、前記有機発光層同士を」を、「製造方法において、透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と、前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに、前記有機発光層同士を」と訂正する。
【訂正事項f】
特許請求の範囲の請求項7の「透明基板上に、各色に」を、「透明基板上に、少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極を形成する工程と、正孔注入・輸送層を形成し、各色に」と訂正する。
【訂正事項g】
明細書の段落【0006】の「前記有機発光層同士は」を、「前記有機発光層のパターンは、前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され、前記有機発光層同士は」と訂正する。
【訂正事項h】
明細書の段落【0006】の「電極間に、各色に対応して」を、「電極間に、正孔注入・輸送層を有し、各色に対応して」と訂正する。
【訂正事項i】
明細書の段落【0007】の「製造方法において、前記有機発光層同士を」を、「製造方法において、透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と、前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに、前記有機発光層同士を」と訂正する。
【訂正事項j】
明細書の段落【0007】の「透明基板上に、各色に」を、「透明基板上に、少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極を形成する工程と、正孔注入層・輸送層を形成し、各色に」と訂正する。

3-1-2 補正事項について
上記平成19年1月15日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、本件審判請求による特許3206646号の明細書を本件訂正明細書のとおり訂正するとしていたものを、平成19年1月15日付け手続補正書に添付した訂正明細書(以下、「補正後訂正明細書」という。)のとおりに訂正する補正(上記手続補正書7.補正の内容(18))であり、そのうち、本件審判請求書の6.請求の理由(3)訂正事項に関する補正事項の概要は、以下の補正事項アないしキのとおりのものである。
【補正事項ア】
訂正事項b.の『特許請求の範囲の請求項3・・・(中略)・・・と訂正する。』を『特許請求の範囲の請求項3を削除する。』と補正する。
【補正事項イ】
訂正事項d.の『特許請求の範囲の請求項5・・・(中略)・・・と訂正する。』を『特許請求の範囲の請求項5を削除する。』と補正する。
【補正事項ウ】
訂正事項f.の『特許請求の範囲の請求項7・・・(中略)・・・と訂正する。』を『特許請求の範囲の請求項7を削除する。』と補正する。
【補正事項エ】
訂正事項g.の『明細書の段落【0006】の「前記有機発光層同士・・・(中略)・・・と訂正する』を『明細書の段落【0006】を「【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも一方が透明または半透明の対向する、かつ、互いに直交するストライプ状の電極間に、各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層、および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて、前記有機発光層のパターンは、前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され、前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており、前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴とする有機ELパネルに関する。」と訂正する。』
と補正する。
【補正事項オ】
訂正事項h.全体を削除する。
【補正事項カ】
訂正事項i.の『i.明細書の段落【0007】の「製造方法において・・・(中略)・・・」と訂正する。』を、『明細書の段落【0007】を「さらに本発明は、透明基板上に、各色に対応する有機発光層を形成する工程と、形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において、透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と、前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに、前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と、形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法に関する。」と訂正する。』と補正する。
【補正事項キ】
訂正事項j.全体を削除する。

3-2 訂正事項の分離可否の検討
3-2-1 特許請求の範囲
本件訂正明細書の特許請求の範囲は、以下のとおり記載されている。

「【請求項1】少なくとも一方が透明または半透明の対向する、かつ、互いに直交するストライプ状の電極間に、各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層、および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて、前記有機発光層のパターンは、前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され、前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており、前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】前記電子輸送層が一様な膜として形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機ELパネル。
【請求項3】少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極間に、正孔注入・輸送層を有し、各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層、および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて、前記有機発光層が、隣接画素間のスペース部内のみで重なりあっていることを特徴とする多色発光有機ELパネル。
【請求項4】正孔注入・輸送層をさらに有している請求項1又は2記載の多色発光有機ELパネル。
【請求項5】前記正孔注入・輸送層が、正孔注入層と正孔輸送層の2層からなることを特徴とする請求項3又は4記載の多色発光有機ELパネル。
【請求項6】透明基板上に、各色に対応する有機発光層を形成する工程と、形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において、透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と、前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに、前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と、形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法。
【請求項7】透明基板上に、少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極を形成する工程と、正孔注入・輸送層を形成し、各色に対応する有機発光層を形成する工程と、形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において、前記有機発光層を、隣接画素間のスペース部内のみで重なり合うように形成することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法。」(以下、その順に従ってそれぞれ「訂正請求項1」などといい、訂正請求項1?7を併せて「訂正請求項」という。)

3-2-2 特許請求の範囲の検討
訂正請求項1?5は有機ELパネルに関するもの、訂正請求項6、7は有機ELパネルの製造方法に関するものであるところ、訂正請求項1、2、4、6が有機発光層同士が隣接する画素間で分離している構成(以下、「画素間分離構成」という。)に関する請求項であり、訂正請求項3、7が有機発光層が隣接する画素間のスペース部内でのみ重なっている構成(以下、「画素間重なり構成」という。)に関連する請求項である。そして、請求項5は上記いずれにもかかる正孔注入・輸送層に関する構成の請求項であることが理解できる。すなわち、訂正請求項1、2、4、6と、訂正請求項4を引用する訂正請求項5は、画素間分離構成に関する訂正請求項群であり、訂正請求項3、7と、訂正請求項3を引用する訂正請求項5は、画素間重なり構成に関する訂正請求項群である。
ここで、本件手続補正の【補正事項ア】?【補正事項ウ】は、請求項3、5、7を削除する補正であるから、特許請求の範囲から画素間重なり構成に関する請求項の全てが削除され、特許請求の範囲は画素間分離構成に関する請求項のみとなる。
してみると、本件手続補正の【補正事項ア】?【補正事項ウ】は、訂正請求項1?7を
(1)画素間分離構成に関する請求項群(訂正請求項1、2、4、6)と
(2)画素間重なり構成に関する請求項群(訂正請求項3、5、7)
とに分離するものである。

3-2-3 発明の詳細な説明と図面の検討
上記各請求項群に係る発明と、本件手続補正前の訂正明細書・図面との対応関係を検討する。
画素間分離構成に関する請求項群に係る発明については、発明の詳細な説明の段落【0006】及び【0007】の各第1文、「本発明の1形態」を説明する段落【0011】ないし【0015】、[実施例1]の説明である【0019】ないし【0029】、【図2】及び【図3】が、対応する発明の詳細な説明の記載及び図面となっている。
また、画素間重なり構成に関する請求項群に係る発明ついては、段落【0006】及び【0007】の各第2文、「本発明の異なる形態」を説明する段落【0016】ないし【0017】、[実施例2]を説明する段落【0030】ないし【0043】、【図4】及び【図5】が対応する発明の詳細な説明の記載及び図面となっている。
そして、本件手続補正の【補正事項エ】?【補正事項キ】は、画素間重なり構成に関する請求項群(訂正請求項3、5、7)を削除することに伴い、発明の詳細な説明の【課題を解決する手段】の【0006】と【0007】から、画素間重なり構成に関する請求項に対応する記載(具体的には、段落【0006】と段落【0007】の各第2文)を実質的に削除するものである。
そうすると,発明の詳細な説明及び図面は、本件手続補正後も請求項に残る画素間分離構成に関する発明に対応する記載と、本件手続補正により請求項から削除される画素間重なり構成に関する発明に対応する記載とが明確に区分されているとともに,それぞれで完結した内容となっている。

3-2-4 分離する請求項群と訂正事項との関係
上記3-2-2で検討したとおり、本件手続補正により、訂正請求項1?7は、画素間分離構成に関する請求項群と、画素間重なり構成に関する請求項群の2つの請求項群に分離可能であり、また、上記3-2-3で検討したとおり、発明の詳細な説明及び図面において、各請求項群に対応する記載は、明確に区分されているとともに、それぞれで完結するものとなっている。したがって、訂正請求項1?7を、
(1)画素間分離構成に関する請求項群:訂正請求項1、2、4、6
(2)画素間重なり構成に関する請求項群:訂正請求項3、5、7
の2つの請求項群に分けて訂正の適否を審理・判断したとしても問題が生じるものではないから、前記2つの請求項群に分離して判断することが可能である。そして、本件審判請求の訂正事項は、上記2つの請求項群に対応して次のとおり分離できる。
(1)画素間分離構成に関する請求項群と関連する訂正事項
訂正事項a、c、e、g、i
(2)画素間重なり構成に関する請求項群と関連する訂正事項
訂正事項b、d、f、h、j

3-2-5 まとめ
以上のとおり、上記平成19年1月15日付け意見書の記載は、複数の訂正事項の一部について訂正を求める趣旨を特に明示するものと解され、また、そのように審理・判断することは可能であるから、以下、
(1)画素間分離構成に関する請求項群と関連する訂正事項
訂正事項a、c、e、g、i
(2)画素間重なり構成に関する請求項群と関連する訂正事項
訂正事項b、d、f、h、j
の2つの訂正事項群に分けて、以下、検討する。

4. 訂正の適否について
4-1 訂正事項a、c、e、g、iについて
4-1-1 訂正事項a、c、e、g、iの補正
補正事項ア?キは、上記3-1-2に記載したとおりである。ここで、補正事項エが訂正事項gを、補正事項カが訂正事項iを補正するものであるが、その補正の内容は、画素間重なり構成に関する記載を明細書の【課題を解決するための手段】から実質的に削除するものであり、画素間分離構成に関する請求項群に対応する記載を補正するものではない。
したがって、本件手続補正は、訂正事項a、c、e、g、iと実質的に関連する補正ではない。

4-1-2 訂正の目的の適否について
(1)訂正事項a
訂正事項aは、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「有機発光層」について、その「パターン」を、「前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され」ることに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)訂正事項c
訂正事項cに係る訂正後の請求項4が引用する請求項1に係る訂正事項aは、上記(1)で説示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正事項cは、訂正事項aについて上記(1)で検討したと同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(3)訂正事項e
訂正事項eは、訂正前の特許請求の範囲の請求項6において、「前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と、形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程」とを有するとされていた「多色発光有機ELパネルの製造方法」について、上記「前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程」を、「前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに、前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程」に限定するとともに、上記各工程に加え、「透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程」を有するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(4)訂正事項gないしi
訂正事項g、iは、それぞれ、特許請求の範囲請求項1、4及び6の訂正に対応して、明細書の記載を訂正するものであり、特許請求の範囲の記載との整合を図る意味での、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(5)小括
訂正事項a、c、eに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、訂正事項g、iに係る訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

4-1-3 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項a、c、e、g、iに係る訂正は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされるものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4-1-4 独立特許要件の適否について
本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項を含むものであるので、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものあるか否かについて以下に検討する。

4-1-4-1 訂正発明
訂正明細書の請求項1、2、4、6に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明1」などという。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4、6に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。

(訂正発明1)
「少なくとも一方が透明または半透明の対向する、かつ、互いに直交するストライプ状の電極間に、各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層、および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて、前記有機発光層のパターンは、前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され、前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており、前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴とする有機ELパネル。」

(訂正発明2)
「前記電子輸送層が一様な膜として形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機ELパネル。」

(訂正発明4)
「正孔注入・輸送層をさらに有している請求項1又は2記載の多色発光有機ELパネル。」

(訂正発明6)
「透明基板上に、各色に対応する有機発光層を形成する工程と、形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において、透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と、前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに、前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と、形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法。」

4-1-4-2 引用例
(1) 上記取消理由通知において引用した刊行物1(特開平9-115672号公報)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(ア)
「図1は、本実施例による有機EL素子の一部分を示した平面図である。この有機EL素子15によれば、例えば100mm×150mmのサイズのガラス等の透明基板6の一方の面には、例えば71.98mm×91.55mmのサイズの素子領域44が配されている。この素子領域には、ITO(Indium tinoxide)からなる透明電極5が陽極として幅W_(1)280μm、厚さ150nm、ピッチP_(1)300μmで240本分、平行に(ストライプ状に)形成されている。」(段落【0033】)
(イ)
「基板6に設けた透明電極5の上には、この透明電極5と直交するようにSiO_(2)絶縁層11が、幅W_(3)30μm、厚さ150nm、ピッチP_(2)100μmで916本分、平行に(ストライプ状に)形成されている。この絶縁層11は、その後に基板6上に形成する電界発光有機層及び電極(陰極)の幅方向の端縁部を通って電流がリークするのを防ぐためである。」(段落【0034】)
(ウ)
「図2は、図1のII-II線断面図である。図示の如く、基板6上には、ホール輸送層4と、発光材料が混合されている電子輸送層2とがそれぞれ有機層として、更に電極1が陰極としてこの順にほぼ同一の平面形状にストライプ状に積層されている。この積層体からなる赤(R)、緑(G)、青(B)の各発光色のものを1組40としてこれを多数並列配置しており、この上をSiN又はAlN保護層12で被覆している。」(段落【0035】)
(エ)
「一つの画素PX(図1参照)が過電流により破壊される場合がある。」(段落【0041】)
(オ)
「図1及び図2で示した赤、緑及び青色に発光するホール輸送層4と電子輸送層2とからなる有機層、及び電極1は、一枚のマスクを共通に使用して以下の如くにして形成する。図9はそのマスク16を概略的に示し、図10は図9のB部の拡大図、図11は図10のXI-XI線断面図である。」(段落【0046】)
(カ)
「図12は、このマスク16を用いて有機層及び電極(陰極)を実質的に同一の平面形状に積層する際に、スパッタリング及びパターニングによって基板6の透明電極5を直交して形成された絶縁膜11とマスク16との位置関係を示すものである。」(段落【0048】)
(キ)
「a1?anの領域において、例えば赤色の発光を生じる有機層と電極の積層体を真空蒸着で形成した後、次に、a1?anに隣接する領域b1、b2、b3…bnにマスク穴17を位置合わせするようにマスク16を平行移動させ、例えば緑色の発光色を生じる別の有機層と電極を真空蒸着で積層する。そして、これが終われば、更にc1?cnの領域にマスク穴17を位置合わせするようにマスク16を平行移動させ、例えば青色の発光色を生じる別の有機層と電極を積層する。このようにして、本実施例によれば、1枚の共通のマスク16を用いて有機層及び電極層をほぼ同一パターンに真空蒸着で積層していることは注目すべき特徴である。」(段落【0049】
(ク)
「図18は、真空蒸着装置21内における基板6とマスク16のみを拡大して図示したものである。このマスク16は蒸着時に図14?図17に示した機構により移動させ、また蒸着の要領は図12及び図13に示した通りである。・・・(中略)・・・ 図18は、・・・(中略)・・・ホール輸送層4を一層目として蒸着する状態を示している。この場合、TPDの蒸気24Aはマスク16の開口18Bから18Aを通して基板6上に堆積する(以下、同様)。・・・(中略)・・・そして、マスク16はそのままにして、a1?an領域において上記のAlq_(3)とDCMを主体とする電子輸送層2及びアルミニウムの電極1をこの順にホール輸送層4に続けて蒸着し、赤色発光用の積層体を形成する。・・・(中略)・・・こうして領域a1……anに1色目の積層体を形成した後、・・・(中略)・・・緑色発光用の積層体を形成する。・・・(中略)・・・更に、上記と同様にマスク16を移動させて・・・(中略)・・・、青色発光用の積層体を形成する。これによって、図1及び図2に示した如き構造を作製する。」(段落【0074】?【0078】)(ケ)
「このようにして、0.1mmピッチ程度の微細な画素からなる単純マトリックス型の有機EL素子を、極めて簡略な設備により製造することができる。」(段落【0086】)
(ケ)
「そして、透明電極5の長さ方向において、隣接する画素間では有機層が存在しないでSiO_(2)絶縁層11が保護層12と直接接し、・・・(中略)・・・向上させることができる。」(段落【0090】)
(コ)
「例えば、上述のホール輸送層等の有機層及び電極の積層パターン又はその平面形状はストライプ状以外にも様々であってよいし、また、その層構成や組成等も上述した例のものに限られることはなく、図21で示したように電子輸送層とは別に発光層を有機層として追加してもよい。上述の絶縁層11は必ずしも設けなくてよい。外部端子との接続部だけでなく、電極1の他端部側でも有機層を形成しなくてよい(この場合は、更に電極の接着が良くなる)。」(段落【0094】)
(サ)
「また、上述の例ではマルチカラー又はフルカラー用のディスプレイとしての有機EL素子を説明したが、モノカラー用のディスプレイにも適用することができる。」(段落【0098】)
(シ)【発明の作用効果】
本発明は、上述した如く、第1の電極上に有機層と前記第1の電極に対向した第2の電極とが設けられ、前記有機層と前記第2の電極とが実質的に同一の平面形状で積層されているので、共通のマスクを使用して有機層と電極とを形成できる。これによって、真空装置内に大掛かりなマスク掛け又はその移動機構を設ける必要がなく、マスクの相対的移動を最小限にし、極めて単純な移動機構を設けるのみで微細な画素パターンを実現できる。しかも、有機層及び電極を共通のマスクで形成できるので、大気に曝すことなしに真空状態下でそれぞれを形成できる。
そして、隣接する画素間では有機層が存在しないで保護膜が直接下地と接し、また、周辺部では保護膜が電極や基体に直接付着しているので、保護膜の密着強度を向上させることができる。」(段落【0100】、【0101】)
(ス)
図1及び図2には、ストライプ状の透明電極5と同じくストライプ状の電極1が直交して配置され、透明電極5と直交するようにホール輸送層4及び電子輸送層2が配置されていることが示されている。
(セ)
従来の技術を示す図21、22から、上記記載事項(ウ)の「発光材料が混合されている電子輸送層2」を「発光層3」と「電子輸送層2」とに分けた構成とし得ることは、当業者にとって記載されているに等しい技術事項であると言える。

上記記載事項及び図示内容を総合すると、刊行物1には、以下の二つの発明(以下、「刊行物1発明の1」及び「刊行物1発明の2」という。)が記載されているものと認められる。

(刊行物1発明の1)
「透明基板6に設けたストライプ状の陽極透明電極5と、上記透明電極5と直交して配置されているストライプ状の陰極電極1間に、赤、緑、青の発光色を生じる有機層を有する単純マトリックス型の有機EL素子を用いたマルチカラー用のディスプレイであって、上記有機層は、ホール輸送層4、発光層3及び電子輸送層2とからなるストライプ状に積層された積層体で透明電極5と直交して形成されており、該積層体からなる赤、緑、青の各発光色のものを1組40としてこれを多数並列配置しており、上記透明電極5の長さ方向において隣接する画素間では上記有機層が存在せず、上記陽極透明電極5の上には、絶縁層11がストライプ状に形成されている単純マトリックス型の有機EL素子を用いたマルチカラー用のディスプレイ。」

(刊行物1発明の2)
「上記刊行物1発明の1の単純マトリックス型の有機EL素子を用いたマルチカラー用のディスプレイを製造する方法であって、透明基板6に設けたストライプ状の陽極透明電極5上に先ず赤色発光用のストライプ状積層体を直交して形成するために、マスクと蒸着装置を準備し、ホール輸送層4を一層目として蒸着し、続けて赤色発光材料が混入されている発光層3、電子輸送層2を順に蒸着し、最後に陰極電極1を蒸着して赤色発光用の積層体を形成し、マスクを透明基板6に対し相対的に移動させて、該赤色発光用の積層体とは間隔を空けた隣接位置に同じ要領で緑色発光用の積層体を形成し、さらに同じ要領で、間隔を空けた隣接位置に青色発光用の積層体を形成する、このような要領を繰り返して上記有機EL素子を製造する単純マトリックス型の有機EL素子を用いたマルチカラー用のディスプレイを製造する方法。」

(2) 同じく引用した刊行物2(特開平9-167684号公報)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(ア)
「次に列電極と共に適所に所望のパターンでデバイスの多色有機EL媒体及び行電極部分を形成することが可能である。図2は図1での符号A-Aで示された断面を示す。ELデバイス100は基板110、列電極120、有機EL媒体130、行電極140を示す。有機EL媒体を構成するのは3原色化されたEL媒体131、132、133である。」(段落【0014】)
(イ)
「第一にパターン化される対象は列電極上に3原色有機EL媒体を選択的に堆積することである。これは近接離間した堆積技術により達成され、堆積のシーケンスは図3の(a)から(e)に示される。図3の(a)は列電極120を有する透明基板110を示す。近接離間した堆積法を用いて最初の主なEL媒体131は図3の(b)に示されるように第一の主な副画素を形成するために3つ毎の列電極上に堆積される。プロセスは繰り返され、第二の主なEL媒体132が図3の(c)に示されるように第一の副画素に隣接する列電極上に選択的に堆積される。プロセスは図3の(d)に示されるように残りのカラム電極上に第三の主なEL媒体133を選択的に堆積するようもう一度繰り返される。図3の(e)に列電極120を有する完成されたELパネル構造を示す。」(段落【0015】)
(ウ)
「近接離間した堆積技術は印刷応用で専ら用いられてきた(米国特許第4772582号)。簡単にいうとこの技術はドナーシートからドナーを選択的に活性化することにより非常に接近して保持される受容体へ材料の所定の量を転写するために用いられる。」(段落【0016】)
(エ)
「上記で有機EL媒体はその最も簡単な可能な形態で記載されている。それは単一の有機EL媒体を含む従来のデバイスを構築するのに用いられる従来の形態の幾つかを取りうる有機ELである。VanSlyke等により開示されるような(米国特許第5061617号)より効果的な動作は各能動的副画素領域内の有機EL媒体が重畳された層を含むときに実現する。効果的な従来の多層有機ELデバイスではホール注入及び移動帯はホール注入電極上に塗布され、それはまた電子注入及び移動帯でその上に塗布され、これは次に電子注入電極により上塗りされる。」(段落【0021】)
(オ)
「多層化された有機EL媒体を本発明の実施に適用する場合に近接離間した堆積法により由来するエレクトロルミネセンスからの層のみをパターン化することが必要である。他の層は均一に、真空蒸着法のような従来のどのような方法によってもパターン化せずに堆積される。図4は順次ホール注入層430と、ホール移動層440と、ルミネセンス層130と、電子移動層460とを含むEL媒体を含む有機ELの構造を示す。上記のように基板は110、列電極は120、行電極は140である。ルミネセンス層130を除く全ての層は従来の真空蒸着プロセスにより堆積されうる。ルミネセンス層130は3つの主なEL媒体131、132、133を形成し、本発明で開示された近接離間した堆積により堆積され、パターン化される。」(段落【0022】)
(カ)
図4には、ルミネセンス層130の上の全面に電子移動層460が形成されていることが示されている。
上記記載事項及び図示内容を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。

(刊行物2発明)
「基板110に設けた列電極120と、上記列電極120と直交して配置されている行電極140間に、ホール注入層430,ホール移動層440、青、緑、赤の有機EL媒体131,132,133からなるルミネセンス層130、電子移動層460を順に積層した有機エレクトロルミネセンス表示パネルであって、上記ルミネセンス層130は近接離間した堆積によりパターン化して形成し、上記電子移動層460は真空蒸着法などの方法によりパターン化せずに上記ルミネセンス層130上全面に形成されている有機エレクトロルミネセンス表示パネル。」

(3) 同じく引用した刊行物3(特開平10-12381号公報)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(ア)
「少なくとも陽極、有機発光層及び陰極が基板上に順次設けられてなる有機電界発光素子であって、該陰極が、マグネシウム、リチウム及び仕事関数が4.0eV以上の金属を含有する合金からなり、リチウムの含有量が0.002?2原子%であり且つ仕事関数が4.0eV以上の金属の含有量が1?30原子%であることを特徴とする有機電界発光素子。」(特許請求の範囲請求項1)
(イ)
「陽極層2の上には有機発光層3が設けられるが、有機発光層3は、電界を与えられた電極間において、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子が効率よく再結合し、発光する材料から形成される。通常、この有機発光層3は発光効率の向上のために、図2に示すように、正孔輸送層3aと電子輸送層3bに分割して機能分離型にすることが行われる(Appl.Phys.Lett.,51巻,913頁,1987年)。また、更に正孔輸送層3aは、図3に示すように正孔の注入を主に担当する正孔注入層3a1と正孔の輸送を主に担う正孔輸送層3a2に分離し駆動特性の向上が計られている(Appl.Phys.Lett.,65巻,807頁,1994年)。」(段落【0012】)

4-1-4-3 訂正発明1、2、4及び6についての対比、判断
(1)訂正発明1について
訂正発明1と刊行物1発明の1とを対比すると、その機能及び構成からみて、刊行物1発明の1の「ストライプ状の陽極透明電極5」及び「ストライプ状の陰極電極1」は、それぞれ訂正発明1の「透明または半透明のストライプ状の電極」及び「ストライプ状の電極」に相当し、刊行物1発明の1の「透明基板6に設けたストライプ状の陽極透明電極5と、上記透明電極5と直交して配置されているストライプ状の陰極電極1」は、訂正発明1の「少なくとも一方が透明または半透明の対向する、かつ、互いに直交するストライプ状の電極」に相当する。

刊行物1発明の1の「赤、緑、青の発光色を生じる有機層」のうち「発光層」は、訂正発明1「各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層」に相当し、同様に「有機EL素子を用いたマルチカラー用のディスプレイ」は「多色発光有機ELパネル」に、相当する。

そして、刊行物1発明の1において、「上記陽極透明電極5の長さ方向において隣接する画素間では有機層が存在せず」ということは、刊行物1発明の1は、訂正発明1の「前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離して」いる構成に相当する構成を備えているものといえる。

したがって、両者は、「少なくとも一方が透明または半透明の対向する、かつ、互いに直交するストライプ状の電極間に、各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層、および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて、前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離している有機ELパネル。」である点で一致し、下記の点で相違しているものと認められる。

【相違点1】:
電子輸送層に関して、訂正発明1では、「隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されている」のに対して、刊行物1発明の1では、有機層としてホール輸送層及び発光層とともに積層体を構成しており、発光層同士の隙間に充填されていない点。

【相違点2】:
透明または半透明電極の陽極と有機発光層の関係が、訂正発明1では、「有機発光層のパターンは、前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され」ているのに対し、刊行物1発明の1では、「透明電極5と直交して形成されて」いる点。

そこで、上記各相違点について検討する。
先ず、【相違点1】について検討する。
刊行物2には、「電子移動層460は真空蒸着法などの方法によりパターン化せずに上記ルミネセンス層130上全面に形成されている」点(刊行物2発明)が記載されている。
しかし、刊行物1発明の1では、上記記載事項ク、スから、第1の電極上にホール輸送層4、発光層3及び電子輸送層2からなる有機層と、前記第1の電極に対向した第2の電極とが設けられ、前記有機層と前記第2の電極とが実質的に同一の平面形状で積層されているので、共通のマスクを使用して有機層と電極とを形成でき、これによって、真空装置内に大掛かりなマスク掛け又はその移動機構を設ける必要がなく、マスクの相対的移動を最小限にし、極めて単純な移動機構を設けるのみで微細な画素パターンを実現できる、という作用・効果を奏するものである。
このような刊行物1発明の1において、刊行物2発明を適用して、有機層の中の電子輸送層2のみをパターン化せずに発光層3上全面に形成することは、その動機付けが無く、むしろ、刊行物1発明の1の作用・効果を奏さなくなるという点で阻害要因となるものである。

したがって、上記相違点1に係る訂正発明1の発明特定事項は、当業者にとって容易想到ということはできない。

次に、【相違点2】について検討する。
上記相違点2に係る技術事項については、刊行物2、3には、記載されていない。そして、仮に他のいずれかの文献に、該技術事項が記載されていたとしても、刊行物1発明の1に適用しようとすると、ホール輸送層4及び電子輸送層2と、発光層3とで、マスクを90度回転することとなり、やはり、上記【相違点1】についての検討部分で、述べた刊行物1発明の1の作用・効果を害することとなり、阻害要因となる。

したがって、上記相違点1に係る訂正発明1の発明特定事項は、当業者にとって容易想到ということはできない。

したがって、訂正発明1は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)訂正発明2について
訂正発明2は、訂正発明1に対し、「電子輸送層が一様な膜として形成されていることを」さらに限定した発明である。
そして、訂正発明1が、上記「(1)訂正発明1について」で検討したように、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、訂正発明2も、同様の理由で、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)訂正発明4について
訂正発明4は、訂正発明1又は2に対し、「正孔注入・輸送層をさらに有している」点をさらに限定した発明である。
そして、訂正発明1又は2が、上記「(1)訂正発明1について」、「(2)訂正発明2について」で検討したように、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、訂正発明4も、同様の理由で、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)訂正発明6について
訂正発明6と刊行物1発明の2とを対比すると、その機能及び構成からみて、刊行物1発明の2の「赤、緑、青色発光材料が混入されている発光層3」、「有機EL素子を用いたマルチカラー用のディスプレイ」及び「ストライプ状の陽極透明電極5」は、訂正発明6の「各色に対応する有機発光層」、「多色発光有機ELパネル」及び「透明または半透明のストライプ状の電極」に相当する。

刊行物1発明の2は、「該赤色発光用の積層体とは間隔を空けた隣接位置に同じ要領で緑色発光用の積層体を形成し、さらに同じ要領で、間隔を空けた隣接位置に青色発光用の積層体を形成する、このような要領を繰り返して上記有機EL素子を製造する」のであるから、訂正発明6の「有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程」を有していることは、明らかである。

したがって、両者は、「透明基板上に、各色に対応する有機発光層を形成する工程と、形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において、透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と、前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と、を有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法。」である点で一致し、下記の点で相違しているものと認められる。

【相違点3】:
訂正発明6は、「有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成する」のに対し、刊行物1発明の2では、「透明電極5と直交して形成されて」いる点。

【相違点4】:
電子輸送層に関して、訂正発明6は、「形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する」のに対し、刊行物1発明の2では、ホール輸送層及び発光層とともにストライプ状積層体を形成するために蒸着する点。

そこで、上記各相違点について検討する。
先ず、【相違点4】について検討する。
刊行物2には、「電子移動層460は真空蒸着法などの方法によりパターン化せずに上記ルミネセンス層130上全面に形成されている」点(刊行物2発明)が記載されている。
しかし、刊行物1発明の2では、上記記載事項ク、スから、第1の電極上にホール輸送層4、発光層3及び電子輸送層2からなる有機層と、前記第1の電極に対向した第2の電極とが設けられ、前記有機層と前記第2の電極とが実質的に同一の平面形状で積層されているので、共通のマスクを使用して有機層と電極とを形成でき、これによって、真空装置内に大掛かりなマスク掛け又はその移動機構を設ける必要がなく、マスクの相対的移動を最小限にし、極めて単純な移動機構を設けるのみで微細な画素パターンを実現できる、という作用・効果を奏するものである。
このような刊行物1発明の2において、刊行物2発明を適用して、有機層の中の電子輸送層2のみをパターン化せずに発光層3上全面に形成することは、その動機付けが無く、むしろ、刊行物1発明の2の作用・効果を奏さなくなるという点で阻害要因となるものである。

したがって、上記相違点4に係る訂正発明6の発明特定事項は、当業者にとって容易想到ということはできない。

次に、【相違点3】について検討する。
上記相違点3に係る技術事項については、刊行物2、3には、記載されていない。そして、仮に他のいずれかの文献に、該技術事項が記載されていたとしても、刊行物1発明の2に適用しようとすると、ホール輸送層4及び電子輸送層2と、発光層3とで、マスクを90度回転することとなり、やはり、上記【相違点4】についての検討部分で、述べた刊行物1発明の2の作用・効果を害することとなり、阻害要因となる。

したがって、上記相違点3に係る訂正発明6の発明特定事項は、当業者にとって容易想到ということはできない。

したがって、訂正発明6は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)小括
訂正発明1、2、4及び6に係る発明は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、他に特許出願の際に独立して特許を受けることができないとする理由もない。

4-1-5 訂正事項a、c、e、g、iの認容・棄却についての検討
以上のとおり、訂正事項a、c、eは、特許法第126条第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を、そして、訂正事項g,iは、特許法第126条第1項第3号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とし、かつ、同条第3項ないし第5項の規定に適合する。

4-2 訂正事項b、d、f、h、jについて
4-2-1 訂正事項b、d、f、h、jの補正の適否
補正事項は、上記3-2に記載したとおりである。
【補正事項ア】?【補正事項ウ】は、請求項3、5、7を削除する補正であり、特許請求の範囲から画素間重なり構成に関する請求項をすべて削除する補正である。また、【補正事項エ】?【補正事項キ】は、発明の詳細な説明の【課題を解決する手段】の【0006】、【0007】から、画素間重なり構成に関する発明に対応する記載を実質的に削除する補正であり、請求項3、5、7を削除する補正に伴って、発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】の記載を整合させる補正である。
してみると、本件手続補正は、分けて判断するとした一群の請求項群(訂正請求項3、5、7)の全体を削除するものであって補正後に残る請求項はなく、審理の遅延を来すものではないから、補正を認めないとする理由はない。
したがって、本件手続補正は、適法な補正と認める。

4-2-2 本件手続補正後の訂正事項b、d、f、h、j
上記4-2-1のとおり、本件手続補正は適法と認められるから、補正後の訂正事項b、d、f、h、jは、以下のとおりである。
【訂正事項b】
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
【訂正事項d】
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
【訂正事項f】
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
【訂正事項h】
訂正事項h.全体が削除されている。
【訂正事項j】
訂正事項j.全体が削除されている。

4-2-3 訂正の目的の適否について
(1)訂正事項b
訂正事項bは、訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)訂正事項d
訂正事項dは、訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)訂正事項f
訂正事項fは、訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(4)訂正事項h、j
訂正事項h、jは、補正により、その全体が削除された。

(5)小括
訂正事項b、d、fに係る訂正は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

4-2-4 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項b、d、fに係る訂正は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされるものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4-2-5 独立特許要件の適否について
訂正請求項3、5、7は何れも削除されたので、特許出願の際に独立して特許を受けることができない理由はない。なお、訂正請求項1、2、4、6に係る発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができることは、上記4-1-4で検討したとおりであるので、訂正請求項3、5、7が削除されても、特許出願の際に独立して特許を受けることができるとする判断に影響しない。

4-2-6 訂正事項b、d、fの認容・棄却についての検討
以上のとおり、訂正事項b、d、fは、特許法第126条第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、かつ、同条第3項ないし第5項の規定に適合する。

5.むすび
したがって、上記3-2-5のとおり2つの訂正事項群に分けて検討した本件訂正は、何れも特許法第126条第1項第1号または第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3項ないし第5項の規定に適合するので、訂正を認める。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多色発光有機ELパネルおよびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも一方が透明または半透明の対向する、かつ、互いに直交するストライプ状の電極間に、各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層、および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて、
前記有機発光層のパターンは、前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され、前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており、前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】前記電子輸送層が一様な膜として形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機ELパネル。
【請求項3】正孔注入・輸送層をさらに有している請求項1又は2記載の多色発光有機ELパネル。
【請求項4】透明基板上に、各色に対応する有機発光層を形成する工程と、形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において、
透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と、
前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに、前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と、
形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機ELパネルに関し、特に各色ごとに独立して異なる波長の光を発光する多色発光有機ELパネルおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の各色ごとに独立して異なる波長の光を発光する3色独立発光方式を用いたカラー有機ELパネルの製造方法として、特開平5-25859号公報(米国特許5294869)には、ガラス基板にITO等で透明電極パターンを形成し、次に絶縁材料で作られたシャドウマスクを基板上に配設し、各有機層を成膜する方法が記載されている。
【0003】
この方法によれば、3色分離には、図6に示すように各色に対応する有機層を蒸着によって形成する際に、蒸着源からの蒸気流に対して、高さの異なる壁21a、21bを用いて基板との角度関係を制御することによりパターン化する、いわゆる斜方蒸着法が用いられている。最後にITO膜22と直交するように、電極金属を蒸着して陰極を形成し、有機ELパネルを作製している。しかし、この方法では、蒸着源と基板及び壁の配置、位置合わせが非常に困難であり、また、各色有機層の膜厚にムラができやすく、RGB有機層間の色分離が不明確になる。また、発光しない隙間(スペース)が大きくなる等の問題が生じやすい。さらに、蒸着源との幾何的角度が重要となるため、大きなパネルを作製する場合、パネル中央部と端部で角度が異なり、各ドットの大きさが不均一となる。
【0004】
ところで、一般的な従来のパネル構造では、RGB3色各有機発光層を蒸着により形成する際に、有機発光層および電子輸送層を発光部より少し大きい程度に形成していたため、色の異なる画素間(スペース部10)に有機発光層が存在しない隙間が生じていた。この表面に陰極材料を蒸着すると、図7に示すように各画素間のスペース部の隙間にも陰極が成膜されるため、スペース部10で陰極-陽極の距離が短くなり、この部分で電界集中が起きたり、不均一電界が生じる。そのため、パネルをドットマトリックス構造としたとき、画素のリーク電流やショートがランダムに発生しやすいという問題があった。また、電界集中のために駆動時のジュール熱による発熱の偏りが生じて、パネル内で偏った輝度劣化やダークスポットが発生することがあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、電界集中および不均一電界の発生を防止し、パネルのショート、電流リークの問題がなく、パネル内で偏った輝度劣化やダークスポットの発生のない多色発光有機ELパネルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも一方が透明または半透明の対向する、かつ、互いに直交するストライプ状の電極間に、各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層、および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて、前記有機発光層のパターンは、前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され、前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており、前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴とする有機ELパネルに関する。
【0007】
さらに本発明は、透明基板上に、各色に対応する有機発光層を形成する工程と、形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において、透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と、前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに、前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と、形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法に関する。
【0008】
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の多色発光有機ELパネルでは、有機発光層または電子輸送層の少なくとも一方が、隣接する画素間で隙間なく形成されているので、陰極材料が各画素間のスペース部に入り込むことがない。そのため、陰極と陽極が極端に近接することがなく、電界の集中および不均一電界の発生がない。従って、本発明によれば、陽極と陰極の近接部によるパネルのショート、リーク問題が改善され、パネル作製時の良品率を上げることができる。また、電界集中が起きにくいため、駆動時のジュール熱による発熱も偏りができず、パネル内で偏った輝度劣化やダークスポットの発生を防ぐことができる。
【0010】
【0011】
本発明の1形態を図1に示す。この形態では、ガラス基板1の上にITO2が各画素に対応して形成され、その上に正孔注入・輸送層3が設けられ、さらにその上に有機発光層4(この図ではドーパントが存在する4aと存在しない4bに分けてある。)が有機発光層同士が隣接するR、G、B画素間で互いに分離するように形成され、電子輸送層6が隣接する画素間で隙間を生じないように形成され、隣接有機発光層の隙間に電子輸送層6が充填されている。また、電子輸送層は一様な膜として形成されている。
【0012】
有機発光層としては、公知の材料を用いることができるが、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウムに代表される8-ヒドロキシキノリン金属錯体、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン等のジスチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体、クマリン誘導体、ペリレン誘導体等のホスト材料に、4-ジシアノメチレン-2-メチル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCMと略記)(R)、4-ジシアノメチレン-2-メチル-6-〔2-(9-ユロリジル)エテニル〕-4H-チオピラン(R)等ジシアノメチレンピラン色素、フェノキサゾン誘導体(R)スクアリリウム色素(R)、キナクリドン(G)2,9-ジメチルキナクリドン等キナクリドン誘導体(G)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-ジエチルアミノクマリン(クマリン540)等クマリン誘導体(G)、ペリレン(B)、ジベンゾナフタセン(B)、ベンゾピレン(B)等をドーピングして用いることが好ましい。尚、()内のR、G、Bは発光色を示す。
【0013】
また、電子輸送層としては、公知の材料を用いることができるが、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)マグネシウム等の8-ヒドロキシキノリン金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体等が好ましい。
【0014】
本発明においては、この図1のように正孔注入・輸送層を設けることが好ましいが、有機発光層が正孔の輸送機能を有するのであれば、特に設けなくてもよい。また、正孔注入・輸送層は、正孔注入層と正孔輸送層の2層で形成し、それぞれの層に注入層、輸送層としての機能の高い材料を用いるようにしてもよい。
【0015】
正孔注入・輸送層としては、公知の材料を用いることができるが、例えば、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPDと略記)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(α-ナフチル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPDと略記)等のジアミン誘導体、4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)-トリフェニルアミン等が好ましい。正孔注入層と正孔輸送層の2層に分ける場合は、これらの中から注入層、輸送層としての機能の高い材料を選んで用いることができる。
【0016】
また、本発明の異なる形態においては、図4に示すように有機発光層または電子輸送層の少なくとも一方が、隣接画素間で接するように形成される。この図のように、有機発光層と電子輸送層の両方が隣接画素間で接するように形成されていてもよい。
【0017】
また、有機発光層または電子輸送層の少なくとも一方が、隣接画素境界で重なりあうようにしてもよい。この場合、発光部の上では重ならないようにすることが好ましい。
【0018】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
[実施例1]
本実施例を図2、図3を参照して説明する。まず図3に示すように、透明基板として厚さ1.1mmのガラス基板1に、スパッタによりITO膜2を厚さ20nmに形成し、リソグラフィーとウェットエッチングにより陽極電極を形成した。シート抵抗は15Ω/□で、配線ピッチ40μmのストライプ形状とした。
【0020】
陽極を配線したガラス基板上に正孔注入・輸送層として、α-NPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(α-ナフチル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン:ジアミン誘導体)層13を50nmの膜厚で真空蒸着法によりベタ状に形成した。
【0021】
その上に、図2(a)に示すように、各表示色の画素に対応するストライプ状の窓パターン(1ドット分幅80?90μmの窓、2ドット+スペース分280μmのマスク部)をもつメタルマスク8を基板に、ほぼ接して(50μm以下)配設した状態で、グリーンの有機発光層14Gとしてアルミキノリン錯体(トリス(8-キノリノール)アルミニウム:以下、Alq)をホストに、ドーパントとしてキナクリドン(ドーピング濃度10wt%)を25nm共蒸着して、G画素の有機発光層を形成した。
【0022】
続いて、図2(b)に示すように、R画素に対応する個所までメタルマスク8をスライドさせ、レッドの有機発光層14Rとしてアルミキノリン錯体にドーパントとしてジシアノメチレンピラン(DCM、ドーピング濃度14wt%)を25nm共蒸着して、R画素の有機発光層を形成した。
【0023】
最後に、同様にB画素に対応する個所までメタルマスク8をスライドさせ、ブルーの有機発光層14Bとしてアルミキノリン錯体とドーパントとしてペリレン(ドーピング濃度2wt%)を25nm共蒸着して、B画素の有機発光層を形成した。
【0024】
このようにRGB3色の有機発光層を形成した後、図3に示すように電子輸送層としてアルミキノリン錯体(Alq)層16を35nm厚に蒸着により形成した。このとき、14R、14G、14Bで示す各有機発光層の間は、Alq層16で充填される。
【0025】
次に、ストライプ状のITO2、および各有機発光層(14R、14G、14B)に直交するように、240μmの窓を有するマスクを用いて、AlとLiを共蒸着により30nm、その後アルミニウムのみを170nm蒸着して、陰極を形成した。
【0026】
以上の工程で、各有機膜の蒸着条件として、蒸着時真空度を1×10^(-3)Pa以下、好ましくは5×10^(-4)Pa以下とし、蒸着速度を0.05?2nm/sec、基板温度を100℃以下となるように制御する。
【0027】
このようにして、画素数:水平320×垂直240、ドットピッチ80μm、スペース40μm、画素ピッチ:水平0.36×垂直0.36mmのRGB3色を独立して発光する有機ELパネルを作成した。
【0028】
上記パネルをデューティー比1/240で駆動したところ、初期にはショート、リークによる画素欠陥は見られず、また、120時間駆動後も画素欠陥は見られなかった。
【0029】
尚、実施例1において、有機発光層のホストを各色に共通して同じ材料を用いたが、各色ごとに独立して最適な異なる材料を選択することもできる。
【0030】
[実施例2]
本実施例を図4を参照して説明する。まず、実施例1と同様に厚さ1.1mmのガラス基板に陽極としてスパッタによりITO膜を20nmを形成し、リソグラフィーとウェットエッチングにより透明電極を形成した。シート抵抗は、15Ω/□で、配線ピッチは40μmとした。
【0031】
陽極を配線したガラス基板上に正孔注入・輸送層として、α-NPD層13を40nmの膜厚で真空蒸着法によりベタ状に形成した。
【0032】
その上に、図5(a)に示すように、各表示色の画素に対応するストライプ状の窓パターン(1ドット+スペース分の幅120μmの窓、2ドット+スペース分220μmのマスク部)をもつメタルマスク8を基板に、ほぼ接して(50μm以下)配設した状態で、レッドの有機発光層14Rとしてアルミキノリン錯体にドーパントとしてDCM(ドーピング濃度15wt%)を25nm共蒸着し、引き続き同じマスクを用いて、電子輸送層16Rとしてアルミキノリン錯体を30nm厚に蒸着により形成した。
【0033】
続いて、図5(b)に示すように、G画素に対応する個所までメタルマスク8をスライドさせ、R画素と同様に、グリーンの有機発光層14Gとしてアルミキノリン錯体にドーパントとしてキナクリドン(ドーピング濃度10wt%)を25nm共蒸着後、引き続き電子輸送層16Gとしてアルミキノリン錯体を30nm厚に蒸着により形成した。
【0034】
最後に、同様にB画素に対応する個所までメタルマスク8をスライドさせ、ブルーの有機発光層14Bとしてアルミキノリン錯体にドーパントとしてペリレン(ドーピング濃度3wt%)を25nm共蒸着後、引き続き電子輸送層16Bとしてアルミキノリン錯体を30nm蒸着により形成した。
【0035】
このように、RGB3色の有機発光層および電子輸送層をそれぞれの異なる色同士で接するよう形成した後、Al:Liを共蒸着により30nm、その後アルミニウムのみを150nm蒸着して陰極7を形成した。
【0036】
さらに、保護層9として、SiO_(2)を真空蒸着により、有機薄膜及び陰極全体を覆うように厚さ20nm(通常10?100nm)形成した。
【0037】
以上の工程で、各有機膜の蒸着条件としては、実施例1と同様に蒸着時真空度を1×10^(-3)Pa以下、好ましくは5×10^(-4)Pa以下とし、蒸着速度を0.05?2nm/sec、基板温度を100℃以下となるように制御する。
【0038】
また、SiO_(2)蒸着は抵抗加熱法を用い、蒸着前真空度を4×10^(-4)Paとし、蒸着速度を0.3nm/sec、基板温度を60℃以下となるようにして成膜した。蒸着には、電子ビーム加熱法を用いてもよい。
【0039】
このようにして、画素数:水平320×垂直240、ドットピッチ80μm、スペース40μm、画素ピッチ:水平0.36×垂直0.36mmの有機ELパネルを作成した。
【0040】
このパネルをデューティー比1/240で駆動したところ、初期にはショート、リークによる画素欠陥は見られず、また、150時間駆動後も画素欠陥は見られなかった。
【0041】
この実施例では、有機発光層および電子輸送層が隣接する画素同士で接する場合を説明したが、マスクの窓幅を広くして、許容される発光面積が確保される範囲内であれば、隣同士重なって成膜してもよい。
【0042】
尚、実施例2において、有機発光層のホストと電子輸送層に各色に共通して同じ材料を用いたが、各色ごとに独立して最適な異なる有機発光層のホスト材料および電子輸送材料を選択することもできる。
【0043】
また、陰極材料としては、実施例1および2で示した材料の他に、仕事関数の小さい金属または合金であればよく、マグネシウム:銀等を用いてもよい。形成方法としては、それらの金属または合金を抵抗加熱法または電子ビーム加熱法等の成膜方法を用いることができる。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、3色各画素を有機材料で埋めることで、Al:Li等の陰極と陽極のITOとが極端に近くなる場所がなくなり、不均一電界および電界集中を防ぐことができる。
【0045】
従って、陽極と陰極の近接部に生じやすいパネルのショート、電流リークの問題が改善され、パネル作製時の良品率を上げることができる。
【0046】
さらに電界集中が起きにくいため、駆動時のジュール熱による発熱の偏りができず、パネル内で偏った輝度劣化やダークスポットの発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多色発光有機ELパネルの1実施形態を示す図である。
【図2】実施例1の多色発光有機ELパネルの製造方法を示す図である。
【図3】実施例1の多色発光有機ELパネルの構成を示す図である。
【図4】実施例2の多色発光有機ELパネルの構成を示す図である。
【図5】実施例2の多色発光有機ELパネルの製造方法を示す図である。
【図6】従来の多色発光有機ELパネルの製造方法を示す図である。
【図7】従来の多色発光有機ELパネルの構成を示す図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 ITO電極
3 正孔注入・輸送層
4 有機発光層
4a 有機発光層(ドーパント有り)
4b 有機発光層(ドーパントなし)
6 電子輸送層
7 陰極
13 α-NPD層
14R レッドの有機発光層
14G グリーンの有機発光層
14B ブルーの有機発光層
16 アルミキノリン錯体(Alq)層
16R レッドに対応するアルミキノリン錯体(Alq)層
16G グリーンに対応するアルミキノリン錯体(Alq)層
16B ブルーに対応するアルミキノリン錯体(Alq)層
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-09-02 
結審通知日 2008-09-05 
審決日 2007-02-16 
出願番号 特願平10-10566
審決分類 P 1 41・ 832- Y (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山岸 利治今関 雅子  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 岡田 吉美
森林 克郎
登録日 2001-07-06 
登録番号 特許第3206646号(P3206646)
発明の名称 多色発光有機ELパネルおよびその製造方法  
代理人 渡邊 隆  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
復代理人 佐伯 義文  
復代理人 船山 武  
復代理人 高橋 詔男  
復代理人 船山 武  
代理人 村山 靖彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
復代理人 高橋 詔男  
復代理人 佐伯 義文  
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