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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A62B |
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管理番号 | 1214797 |
審判番号 | 無効2007-800233 |
総通号数 | 126 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-06-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2007-10-25 |
確定日 | 2010-03-29 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3726886号「呼吸装置」の特許無効審判事件についてされた平成20年10月15日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10425号平成21年12月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3726886号に係る発明についての出願は、平成13年6月29日に特許出願されたものであって、平成17年10月7日にその発明について特許の設定登録がなされた。 これに対し、平成19年10月25日付けで請求人坂口嘉彦より無効審判の請求がなされ、平成20年1月25日付けで被請求人興研株式会社より答弁書が提出され、平成20年4月2日付けで請求人より弁駁書が提出され、平成20年6月3日付けで無効理由通知がなされ、平成20年7月4日付けで被請求人より答弁書及び訂正請求書が提出され、平成20年8月11日付けで請求人より弁駁書が提出された。 そして、平成20年10月15日付けで「訂正を認める。特許第3726886号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決がなされたところ、被請求人興研株式会社が同審決の取り消しを求め出訴し、平成21年12月22日に「特許庁が無効2007-800233号事件について平成20年10月15日にした審決を取り消す。」旨の判決がなされたものである。 II.訂正について (1)訂正請求の内容 被請求人が請求する訂正の内容は、以下のとおりである。 訂正事項a:特許第3726886号における特許請求の範囲、「【請求項1】 面体の前部に、排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁と、排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁とを設け、モータで駆動され、その通常作動時に前記吸気弁を通して外気を前記面体内に送り込むブロワーを設置した呼吸装置において、前記排気弁又は吸気弁の近傍に、前記排気弁又は吸気弁の位置を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し、該センサからの信号により、吸気時には前記モータへ通常作動するよう電力供給されると共に、排気時にはモータへの電力供給が停止或いは減少されることを特徴とする呼吸装置。」を、 「【請求項1】面体の前部に、排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁と、排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁とを設け、モータで駆動され、その通常作動時に前記吸気弁を通して外気を前記面体内に濾過材を介して送り込むブロワーを設置した防塵又は防毒用呼吸装置において、前記排気弁又は吸気弁の近傍に、前記排気弁又は吸気弁からの距離を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し、該センサからの信号により、吸気時には前記モータヘ通常作動するよう電力供給されると共に、排気時にはモータヘの電力供給が停止或いは減少されるように呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行うことを特徴とする防塵又は防毒用呼吸装置。」と訂正する。 訂正事項b:本件明細書の段落【0001】の「本発明は、防塵・防毒などを目的として利用される全面形マスク、半面形マスク等に好適な呼吸装置に関する。」を、 「本発明は、防塵又は防毒を目的として利用される全面形マスク、半面形マスクとして用いる呼吸装置に関する。」と訂正する。 訂正事項c:本件明細書の段落【0009】の「本発明の呼吸装置は、面体の前部に、排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁と、排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁とを設け、モータで駆動され、その通常作動時に吸気弁を通して外気を面体内に送り込むブロワーを設置して構成される。前記排気弁又は吸気弁の近傍に、排気弁又は吸気弁の位置を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し、センサからの信号により、吸気時にはモータヘ通常作動するよう電力供給されると共に、排気時にはモータヘの電力供給が停止或いは減少される。」を、 「本発明の呼吸装置は、面体の前部に、排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁と、排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁とを設け、モータで駆動され、その通常作動時に吸気弁を通して外気を面体内に濾過材を介して送り込むブロワーを設置して構成される防塵又は防毒用呼吸装置であり、前記排気弁又は吸気弁の近傍に、排気弁又は吸気弁からの距離を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し、センサからの信号により、吸気時にはモータヘ通常作動するよう電力供給されると共に、排気時にはモータヘの電力供給が停止或いは減少されるように呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行う。」と訂正する。 訂正事項d:本件明細書の段落〔0003〕の「そこで、従来は、通気通路上において濾過材の前側或いは後側に電力で作動するブロワーを取り付け、その吸引力を呼吸の補助としていた。しかし、このような従来技術では次のような問題が発生する。(1)基本的に有害物が気管から人体に侵入するのは、呼吸の吸気時のみである。従って、吸気のみに濾過剤が作用すれば良く、ブロワーを有していないマスクでは、排気時には排気弁により呼気を逃がすようになっているため、濾過材が消耗しにくかった。ところが、従来のブロワーシステムでは、排気時にもブロワーが作動するため、肺力のみによって呼吸を行う通常マスクよりも濾過材の消耗が早い。」を、 「そこで、従来は、通気通路上において濾過材の前側或いは後側に電力で作動するブロワーを取り付け、その吸引力を呼吸の補助としていた。しかし、このような従来技術では次のような問題が発生する。(1)基本的に有害物が気管から人体に侵入するのは、呼吸の吸気時のみである。従って、吸気のみに濾過材が作用すれば良く、ブロワーを有していないマスクでは、排気時には排気弁により呼気を逃がすようになっているため、濾過材が消耗しにくかった。ところが、従来のブロワーシステムでは、排気時にもブロワーが作動するため、肺力のみによって呼吸を行う通常マスクよりも濃過材の消耗が早い。」と訂正する。 (2)訂正の可否に対する判断 上記訂正事項aにおいて、「濾過材を介して」という文言を追加する訂正は、外気を面体内に送り込む際の態様を限定するものであり、「防塵又は防毒用」という文言を追加する訂正は、呼吸装置の用途を限定するものであり、「排気弁又は吸気弁の位置を感知して」を「排気弁又は吸気弁からの距離を感知して」とする訂正は、感知する対象をより明らかにするために限定するものであり、「呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行う」という文言を追加する訂正は、排気時にはモータヘの電力供給が停止或いは減少される際の具体的手段の態様を限定するものであるから、上記訂正事項aは全体として特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 上記訂正事項b及びcは、上記訂正事項aによる訂正に伴い、それに対応させるために明細書中の記載を明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 上記訂正事項dは、「濾過剤」を「濾過材」とする訂正であり、誤記の訂正を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 したがって、平成20年7月4日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項但し書きの規定及び特許法第134条の2第5項の規定によって準用する特許法126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.本件発明 本件特許請求の範囲は上記訂正によって訂正されたので、その請求項1に係る発明(以下、「特許発明」という。)は、明細書の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】面体の前部に、排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁と、排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁とを設け、モータで駆動され、その通常作動時に前記吸気弁を通して外気を前記面体内に濾過材を介して送り込むブロワーを設置した防塵又は防毒用呼吸装置において、前記排気弁又は吸気弁の近傍に、前記排気弁又は吸気弁からの距離を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し、該センサからの信号により、吸気時には前記モータヘ通常作動するよう電力供給されると共に、排気時にはモータヘの電力供給が停止或いは減少されるように呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行うことを特徴とする防塵又は防毒用呼吸装置。」 IV.請求人及び被請求人の主張及び当審の無効理由通知の概略 1.請求人の主張(無効理由1) 請求人の主張は、以下の通りである。 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 〈証拠方法〉 甲第1号証 特開昭60-68869号公報 甲第2号証 特開平10-118183号公報 甲第3号証 特開平8-200544号公報 甲第4号証 特開平10-252938号公報 甲第5号証 特開2001-27360号公報 甲第6号証 特許第2534779号公報 甲第7号証 特開平9-178259号公報 2.被請求人の主張 これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願の日前に頒布された甲第1号証乃至甲第7号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、無効審判の請求は成り立たない。 3.当審の無効理由通知の概略(無効理由2) 本件特許発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当することとなり、無効とされるべきものである。 引用刊行物 刊行物1;実願平2-95404号(実開平4-51928号)のマイクロフィルム 刊行物2;特開昭60-68869号公報(請求人の提示した甲第1号証) 刊行物3;特開平5-49709号公報 刊行物4;特開平10-118183号公報(請求人の提示した甲第2号証) 刊行物5;特開平8-200544号公報(請求人の提示した甲第3号証) 刊行物6;特開平10-252938号公報(請求人の提示した甲第4号証) 刊行物7;特開2001-27360号公報(請求人の提示した甲第5号証) 刊行物8;特許第2534779号公報(請求人の提示した甲第6号証) 刊行物9;特開平9-178259号公報(請求人の提示した甲第7号証) 刊行物10;特開平2-233840号公報 V.当審の判断 [無効理由2について] 1.刊行物1乃至10の記載事項 (1)刊行物1には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.「少くとも鼻及び口を覆いかつ顔面に密着する面体(2)の前面下部に、モーターファンユニット収納部(13)を凹設してモーターファンユニット(4)を収納し、前記収納部(13)の周壁(13a)に送気口(15)を設け、収納部(13)前面にフィルター(8)を着脱自在に取付け、前記面体(2)の収納部(13)上方に排気口(19)を設けて排気弁(6)を装着し、前記モーターファンユニット(4)は電動偏平モーター(29)と遠心ファン(28)とで構成し両者の曲線を面体(2)正面に直交状に配置 したことを特徴とする呼吸用マスク。」(実用新案登録請求の範囲、第1図) イ.「(産業上の利用分野)本考案は、強制的な送気可能な呼吸用マスクに関するものである。 (従来の技術)一般に、溶接作業等の粉じんが発生する作業場では、息苦しさから作業者を解放しかつ快適に作業ができるように、小形電動ファンによりフィルターでろ過した空気を強制的に供給するようにした呼吸用マスクが使用されている。・・・ (考案が解決しようとする課題)ところで、従来例で説明したビルトインタイプの呼吸用マスクでは、送気距離が短くなるので送気損失が少なく、作業者が腰部に装着するものは、モーター駆動用電源としてのバッテリーだけとなるという利点を有する。・・・」(1頁下から4行?3頁4行) ウ.「以下、本考案の実施例を図面に基づき説明する。 図面において、1は半面形の呼吸用マスクで、鼻及び口を覆いかつ顔面に密着する半面形の面体2と、該面体2の周縁に嵌着された面体ゴム3と、モーターファンユニット4と、送気弁5及び排気弁6と、ファンカバー7と、フィルター8及びフィルターカバー9と、ゴム製シールリング10と、排気弁カバー11と、ベルト取付バンド12等から成っている。 前記面体2は合成樹脂或いは軽量金属等で形成され、その前面下半部に、後方に没入するモーターファンユニット収納部13が凹設されると共に、該収納部13の前端開口縁にはフィルターケーシング14が前方に突設され、該ケーシング14と収納部13の境界部にファンカバー7が着脱可能に嵌着されており、該カバー7の外周側にシールリング10が嵌着されている。また、前記収納部13の上側周壁13aは、外面が後方に向って下方に傾斜する傾斜面とされ、第6図に示すように、縦格子状のリブ15aを有する送気口15が開設されており、該送気口15にはこれを開閉するゴム製長円形の前記送気弁5が後側(面体2の内側)に位置し、中央のリブ15aに着脱可能に装着されている。なお、中央のリブ15aの上下方向中央後面には、角頭をもつ鋲状の弁係止体16が突設され、該係止体16にゴム製送気弁5の中央に設けた係合孔17が外嵌されており、送気弁5の外周縁が送気圧力によって後方に撓み、面体1内への送気が行なわれるようになっている。」(5頁4行?6頁12行、第1図) エ.「上記実施例において、偏平モーター29の駆動によって遠心ファン28が回転し、フィルター8によりろ過された清浄な空気が、収納部13内に軸方向から吸引されると共に遠心ファン28により放射方向(吸引方向と直角な方向)に送出され、収納部周壁13aの送気口15から送気弁5を押し開いて面体2内に送気し、作業者の吸気に供される。そして、送気の一部と呼気は、排気口19から排気弁6を押し開いて排気弁カバ一11内に排出され、該カバー11の排気孔41から大気中に放出される。 上記実施例によれば、モーターファンユニット収納部13及びフィルターケーシング14を、面体2と一体的に形成してあるので、外気を直接吸入することがなく、必ずフィルター8を通してろ過され、清浄な空気を直接面体2内に送気できる。」(9頁12行?10頁6行) 以上の記載から、刊行物1には、「モータによって強制的に送気可能な呼吸用マスクに関し、面体の前部に、排気弁と、送気弁とを設け、モータで駆動され、その作動時に前記送気弁を通して外気を前記面体内にフィルターを介して送り込むファンを設置した呼吸用マスク。」(以下、「引用発明」という。)、が記載されている。 (2)刊行物2には、図面とともに以下の事項が記載されている。 オ.「〔産業上の利用分野〕本発明は、ほこりっぽい環境あるいは汚染された環境においてきれいな空気の呼吸を保証するために着用者の少なくとも口を覆うフェースピースに浄化された空気がポンプで送られるような動力式呼吸保護器として知られている形式の呼吸保護器に関する。」(2頁右下欄1行?7行) カ.「〔従来技術と問題点〕この動力式呼吸保護器の着用の利点は、フェースピースに直接取り付けられる普通の非動力式呼吸保護器におけるフィルタの抵抗に抗して吸入することによって生ずる肺臓の負荷が軽減されるということにある。 さらに動力式呼吸保護器は、フェースピースへの空気の安定した流れを形成することによって常にフェースピースの中に僅かな正圧を維持し、そのようにして密着の悪いフェースピースのために生ずる漏洩が内側に向ってでなく外側に向って生ずることを保証する。 そのような動力式呼吸保護器はたとえばアスベストのような危険なほこりを浄化するために広く用いられている。そのような所でこの危険なほこりのために要求される高効率のフィルタは特に、アスベストはぎ取り運転に伴なうひどい作業の間、着用者に許容できない吸入負荷を負わせる。 しかしそのガスおよび蒸気を浄化するための利用はアスベストフィルタの消耗を早め、必然的にフィルタの寿命を短くし、運転コストを高める結果となる。フィルタ寿命を長くする色々な方式が知られ、たとえばヨーロッバ特許第94757号明細書(A2)に記載されている。 しかもこのような動力式呼吸保護器は普通電池で動作され、従ってその使用限界は交換あるいは再充電の前の電池の寿命でもある。さらに汚れの度合が極端に低い場所およびフィルタの寿命が大きな問題ではないような場所に対する幾つかの特殊な用途もある。」(2頁右下欄8行?3頁左上欄17行) キ.「〔発明の目的〕本発明の主な目的は従ってフィルタの寿命を伸ばすことではなく、電池の寿命を伸ばすことにある。 〔発明の概要〕本発明によればこの目的は、空気の入口と出口とを有し着用者の少なくとも口を覆うフェースピース、所定の差圧が生じた際にフェースピース内の空間から空気が流れ出られるように動作する出口内の一方向吐出弁、空気入口を有しフェースピース内の空間に空気を供給するポンプ装置、ポンプ装置に動力を供給するためポンプ装置に接続された動力源、ポンプ装置からフェースピース内の空間への空気の流路にありフェースピース内の空間へ空気を流れるようにする一方向人口弁、供給される空気を浄化するためにポンプ装置入口に接続されたフィルタ装置、ポンプ装置とフィルタ装置との間において空気の圧力を検出する圧力センサおよび圧力センサによって設定レベル以上の圧力が検出された際にポンプ装置を動力源から切り離す制御装置からなり、ポンプ装置および吐出弁の運転パラメータが、着用者の吐出し中において入口弁が閉鎖し、ポンプ装置が運転を停止あるいはほぼ停止した状態にされるように決められていることを特徴とする呼吸保護器によって達せられる。」(3頁左上欄18行?左下欄3行) (3)刊行物3には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ク.「【特許請求の範囲】【請求項1】人間の顔に接して装着される本体と、該本体内部に外界から吸気されるガスの濾過を行なうフィルタとを有するフィルタ付マスクにおいて、前記本体内部と外界との間のガス交換を強制的に行なうガス交換手段を有することを特徴とするフィルタ付マスク。 【請求項2】ガス交換手段がタイマを含み、該タイマに設定された時間値にもとずいて定期的に外界から本体内部への吸気と本体内部から外界への排気を交互に行なう請求項1記載のフィルタ付マスク。 【請求項3】ガス交換手段が圧力センサを含み、該圧力センサが感知する本体内部のガス圧力が一定値以下となったとき、外界から本体内部への吸気を行ない、前記ガス圧力が一定値以上となったとき本体内部から外界への排気を行なう請求項1記載のフィルタ付マスク。 【請求項4】ガス交換手段が人間の胸部に接着される複数の電極を含み、該電極相互間に発生する筋電位値が人間の呼気開始を示す値となったとき、本体内部への吸気を停止して外界への排気を開始し、前記筋電位値が人間の吸気開始を示す値となったとき、外界への排気を停止して本体内部への吸気を開始する請求項1記載のフィルタ付マスク。」 ケ.「【0001】【産業上の利用分野】本発明は人間の顔に接して装着される本体と、該本体内部に外界から吸気されるガスの濾過を行なうフィルタとを有するマスクに関する。 【0002】【従来の技術】従来、この種のフィルタ付マスクは、外界とマスク本体内部との間をフィルタで遮る構成となっており、マスクを装着した人間の呼吸用筋肉の力で外界と本体内部との間の圧力差を発生させて内外のガス交換を行っていた。 【0003】【発明が解決しようとする課題】上述した従来のフィルタ付マスクは、人間の呼吸用筋肉の力で外界とマスク本体内部との間の圧力差を発生させてガス交換を行なうので、人間が呼吸するに充分な量の空気をフィルタを通して外界と交換するためには、人間に息苦しさを感じさせるという欠点がある。 【0004】本発明の目的は、外界と本体内部とのガス交換のために使用している人間に息苦しさを感じさせないフィルタ付マスクを提供することである。 【0005】【課題を解決するための手段】本発明のフィルタ付マスクは、本体内部と外界との間のガス交換を強制的に行なうガス交換手段を有する。 【0006】【作用】ガス交換手段が本体内部と外界との間のガス交換を強制的に行なうので、使用している人間に息苦しさを感じさせない。」 (4)刊行物4には、図面とともに以下の事項が記載されている。 コ.「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、鼻の吸気に湿気を与えたり、あるいは呼吸の状態を監視するために鼻を緩やかに覆う、鼻被覆具に関する。」 サ.「【0030】ここで例示している鼻被覆具1は、上記図4の実施例で示したごく簡単な構造のものであり、排気弁13の端部と鼻被覆具1の対応する位置にそれぞれ接点を取り付けてセンサー23を形成する。センサー23は、前記排気弁の動きを妨げないごく軽量で小型のものを使用する。・・・」 (5)刊行物5には、図面とともに以下の事項が記載されている。 シ.「【0002】【従来の技術】従来、発電プラントの蒸気量加減弁などに適用される弁開度検出器は、図6に示すように構成されている。 同図に示すように駆動ユニット2は、軸4を介して発電プラント等の蒸気流量を制御する蒸気量加減弁(図示せず)を駆動する。上記駆動ユニット2には、レーザビームを出射及び入射する光学検出ヘッド40が配設される。また、上記駆動ユニット2の軸4に上記加減弁の開閉動作に応動する弁リフト検出部材3が結合され、この弁リフト検出部材3に上記光学検出ヘッド40と対向するように回帰性反射鏡30が設けられる。この回帰性反射鏡30としては、通常コーナキューブと呼ぶプリズムが用いられる。上記光学検出ヘッド40は、回帰性反射鏡30に光を投射する投光レンズ12及び回帰性反射鏡30からの反射光を受ける入射光学系20からなっている。 【0003】上記投光レンズ12には、レーザ光源50からの投射光がレンズ52及び出射用光ファイバ11を介して入力される。上記レーザ光源50は、高周波発信器57からの高周波信号に従って動作する高周波変調器51により高周波変調駆動される。 【0004】一方、光学検出ヘッド40の入射光学系20は、図7に詳細を示すように回帰性反射鏡30からの光を受ける受光レンズ22とレーザ光の波長のみ通す干渉フィルタ222からなり、受光レンズ22の焦点面に入射用光ファイバ21の端面が配置される。そして、入射光学系20から取り出される光は、入射用光ファイバ21及びレンズ53を介して光センサ54に結像し、この光センサ54の検知信号が位相検出回路55に入力される。この位相検出回路55は、高周波発信器57から出力される出射時の変調信号の位相と光センサ54により検知された信号の位相とを比較し、その位相差から光学検出ヘッド40と回帰性反射鏡30との距離を非接触で計測する。」 (6)刊行物6には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ス.「【0001】【産業上の利用分野】この発明は、ロータリバルブの回転弁体の回転位置を検出するロータリバルブの位置検出装置に関する。」 セ.「【0013】位置検出手段80は、回転板70に設定された各ビットb0?b3位置と対向する位置に設けられた発光ダイオード81a?81dと、この発光ダイオード81a?81dが発光する光を回転板70に設けた孔71d…78dを介して受光する受光ダイオード82a?82d等とから構成されている。 【0014】この受光ダイオード82a?82dの受光・不受光状態は回転体61の回転位置によって異なるものであり、この受光ダイオード82a?82dの受光状態から回転体61の回転位置を検出するものである。・・・」 (7)刊行物7には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ソ.「【0025】・・・該光センサー25は、上記透孔23を通じて凹部22内に光を投射する機能と、被検出部21からの反射光を受光する機能とを合わせ持つものである。なお、上記透孔23には、ガラスや合成樹脂等の透明素材を嵌め着けることもできる。 【0026】上記被検出部21は、第1ピストン12aと同径の円環状をなしていて、ピストン端面からスプール6の軸線と平行且つ同軸状に延出するように形成され、一方の凹部22は、ピストン室11aと同径の円環状に形成されていて、ピストン12aが図1及び図2の第1切換位置に移動すると、上記被検出部21が上記透孔23から外れた非検出位置を占め、ピストン12aが反対側の第2切換位置に移動すると、上記被検出部21が透孔23を覆う検出位置を占めるようになっている。そして、上記被検出部21が非検出位置にあるときは、該被検出部21からの反射光が光センサー25によって受光されないため、該光センサー25はオフとなって検出信号は出力されず、被検出部21が検出位置にあるときは、該被検出部21からの反射光が光センサー25によって受光されるため、該光センサー25はオンとなって検出信号が出力される。かくして光センサー25で被検出部21の有無を検出することにより、ピストン12aを介してスプール6の動作位置を検出することができる。なお、上記被検出部21には光反射板を付設することもできる。」 (8)刊行物8には、図面とともに以下の事項が記載されている。 タ.「〔実施例〕次に、本発明について図面を参照して説明する。第1図(a)は、本発明の圧力差制御装置の第1の実施例を説明するための仕切られた二つの防塵室の模式断面図、第1図(b)は第1図(a)のAA矢視図、第1図(c)は第1図(a)のB部拡大図である。この圧力差制御装置は、第1図に示すように、従来の出入口の横に開口枠3aを設け、この開口枠3aの上側に一端が固定され、他端が風圧で自由にいずれかの室側に寄る圧力検出板8と、この圧力検出板8がいずれかの室側に寄るかを検出する投光素子11a,11bとフォトセンサ9a,9bとからなる検出器と、この検出器により送風装置4の送風量を調節するコントローラ10を設けたことである。 次に、この圧力差制御装置の動作を説明する。まず、防塵室1の圧力P1,防塵室の圧力P2し、P1〉P2であったと仮定すると、第1図(a),(c)に示すように、空気は防塵室1から防塵室2に開口枠3aを通し流れる。このとき、圧力検出板8は点線に示すように紙面に対して右側に寄ることになる。このことにより、投光素子11aより発光された光はさえぎられ、コントローラにある制御回路により電流のバランスがくずれ、このくずれ量に応じて送風装置4の出力を増加させる。送風装置4の送風量が増加すると、防塵室2の圧力P2が上昇し、防塵室1の圧力P1と差がなくなり、空気の流れなくなり、圧力検出板8は中立の位置のままによる。このことにより、投光素子11a及び11bの光は、フォトセンサ9a及び9bで検出され、両者から発光する光電流によりコントローラが働き、送風装置4は最初送風量出力に戻る。逆に、P1〈P2の場合は、防塵室2より防塵室1に開口枠3aを通して空気が流れる。このことにより圧力検出板8は、紙面に対して左側、すなわち防塵室1側に寄せられる。この圧力検出板8により投光素子11bより発光する光はさえぎられ、フォトセンサ9bから発生する光電流がなくなり、コントローラを作動し、送風装置4の送風量を減ずる。このため防塵室2の圧力P2は防塵室の圧力P1と差がなくなる。」(第3欄26行?第4欄13行、第1図(a)から(c)) (9)刊行物9には、図面とともに以下の事項が記載されている。 チ.「【0005】また、前記吐出手段13の上下への移動を自動的に制御するため、前記吐出手段13の上下端、ガイド部材23の上下端には前記吐出手段13の開閉状態を感知する光センサ25,27が設けられている。 【0006】上記のように構成された空気調和機において、ユーザーがリモコンや操作部を操作して所望の運転モードを選択してから、運転、停止キー(以下、運転キーという)をオンさせると、扉モータ17が正方向へ駆動されつつ扉モータ17軸に結合されているピニオン19が連動されてラック21にしたがって下方へ回転されてラック21に結合された吐出手段13を下方へ移動させて吐出口5を開放させる。 【0007】この際、前記吐出手段13の下端とガイド部材23の下端に設けられた光センサ25,27で吐出口5が開放されたと感知されると、扉モータ17は停止しつつ図示のない室内ファンが回転されて吸入口3を通して室内空気が本体1内に吸入される。前記吸入口3を通して吸入された室内空気は図示のない熱交換器を通りつつ熱交換器内を流れる冷媒の蒸発潜熱により熱交換される。」 (10)刊行物10には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ツ.「第2図は吸気リードバルブ23部分を取出して示したもので、吸気管2lの内部を横切るようにしてリードバルブサポート3lが設定される。このサポート3lには、クランク室l5の方向に向けてV字型に傾斜した面のバルブシ一ト32が形成され、このバルブシ一ト32の面に先端がV字型の頂点に位置するようにして、リードバルブ23の一端がビス33により取付けられる。 すなわち、リードバルブ23は矢印で示す空気流が存在するとき、この空気の流れに対応しての先端が外方向に折曲されるものであり、このリードバルブ23の開度が吸気管に流れる空気流(混合気)の流速に対応するようになる。・・・ このように構成されるリードバルブ23部分に開度センサ24が取付け設定されるものであるが、このセンサ24はリードガイドセバルブ34に取付けられ、リードバルブ23の面の方向に光を照射する発光素子24l1およびリードバルブ23の面で反射された発光素子241からの光を受光するリニアイメージセンサ242から構成される。 発光素子241からは、リードバルブ23に対して線状あるいは点状の光を照射するもので、リードバルブ23が空気流により開かれる方向に折曲した場合、発光素子241からの光の反射位置がリードバルブ23の開度に対応して変化する。このリードバルブ23で反射された光がイメージセンサ242で受光されるもので、リードバルブ23の開度の変化に対応した光の反射位置の変化を、イメージセンサ242で計M1するように構成している。すなわち、このイメージセンサ242でリードバルブ23における光の反射位置を計測することにより、このリードバルブ23の開度が測定できるようになる。」(3頁左下欄6行?4頁左上欄6行) (対比判断) 本件特許発明と刊行物1に記載の引用発明とを比較する。 引用発明の呼吸用マスクは、粉じんが発生する作業場で使用される呼吸用マスクであり(記載事項イ)、そのフィルターは粉じん等をろ過するものである(記載事項エ)から、引用発明の「呼吸用マスク」及び「フィルター」は本件特許発明の「防塵又は防毒用呼吸装置」及び「濾過材」に相当する。また、排気弁は、排気時に開き、吸気時に閉じるものであり、吸気弁は、排気時に閉じ、吸気時に開くものであることは、弁が有する通常の機能である。そして、引用発明は「モータで駆動され、その作動時に前記送気弁を通して外気を前記面体内に送り込むファン」を備えているから、引用発明の「ファン」は本件特許発明の「ブロワー」に相当する。 これらの点を考慮して、本件特許発明と引用発明を比較すると、両者は 「面体の前部に、排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁と、排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁とを設け、モータで駆動され、その通常作動時に前記吸気弁を通して外気を前記面体内に濾過材を介して送り込むブロワーを設置した防塵又は防毒用呼吸装置」 で一致し、次の点で相違する。 相違点:本件特許発明は、排気弁又は吸気弁の近傍に、前記排気弁又は吸気弁からの距離を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し、該センサからの信号により、吸気時には前記モータヘ通常作動するよう電力供給されると共に、排気時にはモータヘの電力供給が停止或いは減少されるように呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行うものであるのに対し、引用発明は、そのような構成を備えていない点。 上記相違点について検討する。 (1)本件特許発明において、相違点にかかる構成の技術的意義は、「モータが、吸気時のみに通常作動して、排気時には停止或いは低速運転することにより、排気時にブロワーの送風が停止又は減少して、濾過材の消耗及びモータによる電力消費が抑制され、面体内の圧力が上昇して排気抵抗が大きくなる心配もない。」(段落【0010】)というものである。 しかし、刊行物2には、ほこりっぽい環境あるいは汚染された環境においてきれいな空気の呼吸を保証するために着用者の少なくとも口を覆うフェースピースに浄化された空気がポンプで送られるような動力式呼吸保護器において、電池の寿命を伸ばすことを目的として、常にポンプを動かし続けるのではなく、ポンプ装置および吐出弁の運転パラメータが、着用者の吐出し中において入口弁が閉鎖し、ポンプ装置が運転を停止あるいはほぼ停止した状態にされるように決められている動力式呼吸保護器が記載されている。 そして、引用発明の呼吸用マスクもバッテリーによってモーターが駆動されるものであることは明らかであるから(記載事項イ)、引用発明においても電力消費を必要最小限にとどめて電池の寿命を伸ばすことを考慮して、吸気時には前記モータヘ通常作動するよう電力供給されると共に、排気時にはモータヘの電力供給が停止或いは減少されるように呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行うことは、当業者が容易になし得ることである。 (2)本件特許発明では、呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行うにあたっては、排気弁又は吸気弁の近傍に、前記排気弁又は吸気弁からの距離を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し、該センサからの信号により行っている。 呼吸の状態を検出する手段としては、刊行物3に記載された発明のようにガス圧力を検知するものや呼吸を電気的に検知するものがあり、また、刊行物4に記載された発明のように排気弁の動きをセンサーにより検知することによって行うことなど種々の方法が公知である。 しかし、刊行物4の鼻被覆具は、排気弁の開閉の有無をセンサーで検知することにより、無呼吸症候群の病状に係るデータ(呼吸停止状態が生じた回数等)を取得することができ、呼吸を感知する必要のある病気の診断等に活用することができるというものであるし、また、刊行物4の鼻被覆具は,送風(吸気の補助)のためのブロワーを備えるものではないので、ブロワー送風を制御するとの構成を有するものでもない。 そうすると、本件特許発明の検知の構成が、消費電力の増加を抑制するために呼吸連動制御の構成を採用する前提として、呼吸の状態(排気又は吸気)を検知し、これにより、呼吸に連動したブロワー送風の切替えを行うものであるのに対し、刊行物4の検知の構成は、無呼吸症候群の病状をモニターするなどするため、呼吸の状態(呼吸停止の有無)を検知するものの、これを単にデータとして取得するのみであり、これによって呼吸に連動したブロワー送風の切替えその他の呼吸に連動した何らかの制御を行うものではないから、刊行物4の検知の構成は、その作用及び機能の点において、本件特許発明の検知の構成と大きく異なり、また、その解決課題の点においても、呼吸連動制御の構成と大きく異なるものである。 また、弁の位置ないし開度を非接触式に発光・受光手段によって感知することは、刊行物5から10に記載されているように公知の事項であるが、それはフォトインタラプタよりなるセンサが公知であることを示すものにとどまるものにすぎない。 してみれば、引用発明において、刊行物2に記載されている呼吸連動制御の構成を採用し得るとしても、その構成を具体化する方法として刊行物4の検知の構成を適用し、本件特許発明の検知の構成を当業者が容易に相当し得たものということはできない。 よって、本件特許発明は刊行物1から10に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 [無効理由1について] 無効理由1は、無効審判請求人が無効審判請求書に記載した理由であって、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。 そして、無効理由1においても、呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行うにあたっては、排気弁又は吸気弁の近傍に、前記排気弁又は吸気弁からの距離を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するセンサを設置し、該センサからの信号により行う点に関しては、刊行物4と同一刊行物である甲第2号証(特開平10-118183号公報)の記載事項を理由として当業者が容易に発明をすることができたものであると主張するものであり、そのような主張を採用することができないことは上記[無効理由2について]で検討したとおりである。 よって、上記と同様の理由により無効理由1を採用することはできない。 VI.むすび 以上のとおりであるから、上記無効理由1及び2によっては本件特許を無効にすることはできない。 他に本件発明を無効とすべき理由は発見できない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 呼吸装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】面体の前部に、排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁と、排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁とを設け、モータで駆動され、その通常作動時に前記吸気弁を通して外気を前記面体内に濾過材を介して送り込むブロワーを設置した防塵又は防毒用呼吸装置において、前記排気弁又は吸気弁の近傍に、前記排気弁又は吸気弁からの距離を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し、該センサからの信号により、吸気時には前記モータへ通常作動するよう電力供給されると共に、排気時にはモータへの電力供給が停止或いは減少されるように呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行うことを特徴とする防塵又は防毒用呼吸装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、防塵又は防毒を目的として利用される全面形マスク、半面形マスクとして用いる呼吸装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 通常、危険粉塵又は有毒ガス雰囲気で作業を行う際に、作業者は防塵マスク或いは防毒マスクを装着し、危険有害物質を各マスクが保有するフィルタ、活性炭等の濾過材で除去し、濾過材を通過して浄化された空気で呼吸を行っている。 ところが、フィルタ、吸収缶等の濾過材は、浄化作用の大きいものほど通気抵抗が増大するのが一般的である。 特に、原子力発電所内の放射性粉塵、焼却炉解体現場のダイオキシンを含んだ有害粉塵その他特定作業時に発生する有害ガスは、人体に侵入すると健康に悪影響を及ぼすため、濾過材には浄化作用が高く、非常に通気抵抗の大きいものが使用される。このため、作業者自身の肺力だけでは十分な呼吸が困難となる。 【0003】 そこで、従来は、通気通路上において濾過材の前側或いは後側に電力で作動するブロワーを取り付け、その吸引力を呼吸の補助としていた。 しかし、このような従来技術では次のような問題が発生する。 (1)基本的に有害物が気管から人体に侵入するのは、呼吸の吸気時のみである。従って、吸気のみに濾過材が作用すれば良く、ブロワーを有していないマスクでは、排気時には排気弁により呼気を逃がすようになっているため、濾過材が消耗しにくかった。 ところが、従来のブロワーシステムでは、排気時にもブロワーが作動するため、肺力のみによって呼吸を行う通常マスクよりも濾過材の消耗が早い。 【0004】 (2)人間の呼吸は、成人で一呼吸0.45?0.68リットルの空気を必要とし、呼吸数は毎分12?16回が一般的である。特にマスク使用時は作業中であることが多く、その仕事量に比例して呼吸量が増加し、吸気の際の最大通気量はピーク時で毎分85リットル以上となることもある。 従って、ブロワーの送気量を吸気時の最大ピーク以上に設定すると、ブロワーの消費電力が無用に増大し、また、通気抵抗の高い濾過材ほどブロワーのトルクが必要となるため、それに比例して消費電力も増加する。 【0005】 (3)従来のブロワーを有するマスクでは、排気時にもマスク内に送気されるため、面体内が陽圧となる。特に、呼吸の最大ピーク以上にブロワーの送気量を設定すると、マスク面体内の圧力は非常に高くなる。 ブロワーを有しない通常マスクにおいて、排気の抵抗は殆どが排気弁の抵抗であるのに対し、上記のように設定された従来のブロワーを有するマスクでは、その排気抵抗が増加するケースが多い。 【0006】 そこで、このような問題を解消するために、モータ駆動ファンと、ファンに連接したフィルタと、フィルタで濾過した空気を受け入れるマスク面体と、一側をファンの下流側の圧力に、他側をファンの上流側の圧力に面するよう接続された圧力応答部材を有する差圧センサと、センサに応答してファンのモータの動作を制御する手段を含み、制御手段がセンサによって感知された差圧の増大に対応してファンの効率を減じ、圧力差の減少に対応してファンの効率を増加するようにした呼吸装置が特許第2858131号公報に開示されている。 【0007】 しかし、このものは、本来の吸気通路から分岐して差圧センサの両側に達する流路を形成しなければならないので、マスクの構造が非常に複雑になる。また、濾過材とフィルタとの間に流路が開口することになるため、マスクが大型化し、濾過材の構造によっては差圧センサを取り付けにくかった。 さらに、圧力応答部材として、非常にもろくて変形しやすいダイヤフラムを使用しているので、故障が発生しやすく、差圧センサの反応圧力として設定された設定値がずれやすい。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、濾過材の消耗及び消費電力の増加を抑えると共に、排気抵抗を減少させることができ、構造が簡単で故障しにくい呼吸装置の提供を目的とする。 【0009】 【課題を解決するための手段】 本発明の呼吸装置は、面体の前部に、排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁と、排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁とを設け、モータで駆動され、その通常作動時に吸気弁を通して外気を面体内に濾過材を介して送り込むブロワーを設置して構成される防塵又は防毒用呼吸装置であり、前記排気弁又は吸気弁の近傍に、排気弁又は吸気弁からの距離を感知して、排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し、センサからの信号により、吸気時にはモータへ通常作動するよう電力供給されると共に、排気時にはモータへの電力供給が停止或いは減少されるように呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行う。 【0010】 モータが、吸気時のみに通常作動して、排気時には停止或いは低速運転することにより、排気時にブロワーの送風が停止又は減少して、濾過材の消耗及びモータによる電力消費が抑制され、面体内の圧力が上昇して排気抵抗が大きくなる心配もない。 呼吸装置にもともと備わっている排気弁又は吸気弁を利用してモータの制御信号を発信するので、構造が簡単で済み、ダイヤフラムのような脆くて変形しやすい部品が不要なため故障が起こりにくい。 【0012】 【発明の実施の形態】 図1乃至図4は、本発明の第1の実施形態を示す。 図1に示すように、本発明の呼吸装置1は、面体2の前部に、外面が排気弁カバー3で被覆された排気口4及び濾過材カバー5で被覆された吸気口6が形成されて成る。 また、排気口4には、排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁7が設けられ、吸気口6には、排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁8が設けられる。 濾過材カバー5の内部において吸気弁8の外方には、濾過材15が配設され、濾過材15に臨んでブロワー16が設置される。このブロワー16は、駆動用のモータ9とその出力軸に連結された羽根車21とを備え、モータ9が通常作動している時に、濾過材15及び吸気弁8を通して面体2の内部へ外気を送り込むようになっている。 【0013】 図2及び図3に示すように、面体2の排気口4の周囲には排気弁座10が装着され、この排気弁座10に排気弁7が取り付けられる。そして、排気弁7の近傍外側に、排気弁7の動きを感知するフォトインタラプタ11より成るセンサが設置される。 フォトインタラプタ11は、発光ダイオード12とトランジスタレシーバ13とを備え、発光ダイオード12から出力された赤外線をトランジスタレシーバ13が検知すると、信号を発信するようになっている。 また、フォトインタラプタ11は、発光ダイオード12の発光面及びトランジスタレシーバ13の受光面をそれぞれ排気弁7に向けて配置されている。 【0014】 吸気時には、図2に示すように、排気弁7が排気弁座10に密着してフォトインタラプタ11から一定距離d以上離れている。このため、発光ダイオード12から出力されて排気弁7に反射された赤外線は、トランジスタレシーバ13の受光面をそれてしまい、信号は発信されない。 ところが、排気時には、図3に示すように、排気弁7が排気弁座10から離れて、フォトインタラプタ11に対し一定距離dまで接近する。すると、発光ダイオード12から出力されて排気弁7に反射された赤外線が、トランジスタレシーバ13に照射され、トランジスタレシーバ13が信号を発する。 【0015】 図4に示すように、ブロワー16を駆動するモーター9への電力供給を制御する第1のトランジスタ17が、第1のトランジスタ17の動作を制御する第2のトランジスタ18に接続され、第2のトランジスタ18が導線19を介してトランジスタレシーバ13に接続されている。 そして、排気弁7が閉じて、トランジスタレシーバ13が受光していない場合は、トランジスタレシーバ13からの信号が発信されず、第2のトランジスタ18が作動しないため、第1のトランジスタ17は制御されない。この結果、第1のトランジスタ17がモーター9へ通常作動するよう電力供給するため、ブロワー16が面体2内への送風を継続する。 一方、排気弁7が開き、排気弁7が反射した赤外線をトランジスタレシーバ13が受光すると、導線19を介して第2のトランジスタ18へ信号が発信され、第2のトランジスタ18が作動して第1のトランジスタ17を制御する。そのため、第1のトランジスタ17がモーター9への電力供給を制限し、この結果、ブロワー16の送風も停止又は減少する。 【0016】 図5は、本発明の第2の実施形態を示す。 面体2の内側において吸気口6が吸気弁カバー20で被覆され、吸気弁カバー20の内部に、吸気時には内側へ移動して吸気口6から離れると共に、排気時には外側へ移動して吸気口6に密着する吸気弁8が設けられる。 吸気弁8の内側近傍において、吸気弁カバー20にフォトインタラプタ11が取り付けられる。このフォトインタラプタ11の発光ダイオード12及びトランジスタレシーバ13は、それぞれ発光面及び受光面を吸気弁8に向けて設置されている。 【0017】 トランジスタレシーバ13は、吸気弁8が開いて一定距離dまで接近した時に、発光ダイオード12から出力されて吸気弁8に反射された赤外線を受光し、信号を発信するようになっている。 この場合、フォトインタラプタ11から信号が発せられると、モータ9が通常作動して、ブロワー16により送風が行われるようにすれば、第1の実施形態と同じ効果を発揮する。 その他の構造は、第1の実施形態とほぼ同様なので、同一部分に同一符号を付して、詳細な説明を省略する。 【0018】 なお、フォトインタラプタを排気弁7の内側近傍又は吸気弁8の外側近傍に設置し、排気弁7又は吸気弁8がフォトインタラプタから遠ざかった時に、排気弁7又は吸気弁8によって反射された光をトランジスタレシーバが受光し、回路上で第1及び第2の実施形態と同じ制御になるようにしても良い。 また、発光ダイオードの発光面とトランジスタレシーバの受光面とを隙間を隔てて対向するよう設置し、排気弁7又は吸気弁8が所定位置にある時、その一部が発光ダイオードとトランジスタレシーバとの間に進入して発光ダイオードが出力した光を遮り、これによってフォトインタラプタが排気弁7又は吸気弁8の位置を感知するようにすることもできる。 さらに、フォトインタラプタを、排気弁7又は吸気弁8の前後側ではなく、排気弁7又は吸気弁8の周囲において、その端面の動きを感知できる位置に設置することも可能である。 【0021】 (実施例) 本発明の呼吸装置1を用い、粉塵濃度30mg/m^(3)において、毎分15回、0.75リットル/回の呼吸を行った時の、濾過材15の通気抵抗上昇値を調べた。また、比較例として、排気時にもブロワーによって送風を行う従来の呼吸装置について、同じ条件で濾過材の通気抵抗上昇値を調べ、これらの試験結果を図6に示す。 図6から明らかなように、濾過材の交換基準である通気抵抗190Paまで、従来の呼吸装置では90分しかかからなかったのに対し、本発明の呼吸装置1では180分と2倍に延びた。 【0022】 本発明の呼吸装置1において、モータ9の電源となる電池の放電特性と、従来の呼吸装置においてモータの電源となる同容量の電池の放電特性を調べ、その結果を図7に示す。 この試験結果から、従来の呼吸装置では75分で電池の交換時期となるのに対し、本発明の呼吸装置1では、260分以上と約3.5倍にもなった。 【0023】 また、本発明の呼吸装置1及び常時ブロワーが作動する従来の呼吸装置について、呼吸に伴う面体2内部の圧力変化を調べ、その試験結果を図8に示す。 図8から明らかなように、面体2内の排気時における圧力のピークは、従来の呼吸装置で120Paであるのに対し、本発明の呼吸装置1では70Pa以下であった。この結果、本発明の呼吸装置1を用いると、従来の呼吸装置に比べて排気時の排気抵抗が約4割減となることがわかった。 【0024】 【発明の効果】 本発明によれば、ブロワーによる送風が不要な呼気時には、モータへの電力が停止或いは減少するので、濾過材の消耗及び電力消費の増加を抑えることができ、しかも、面体内部の圧力上昇による排気時の排気抵抗を小さくすることが可能である。 また、呼吸に連動したブロワー送風の切換を、呼吸装置に元々備わっている排気弁或いは吸気弁を利用して行うので、多くの部品を必要とせず、複雑な空気通路も不要であり、このため、構造が簡単で済む。 さらに、非常に脆くて破損や変形を起こしやすいダイヤフラムを用いないため、故障しにくく、ブロワー送風の切換基準となる設定値がずれる心配もない。 【図面の簡単な説明】 【図1】 第1の実施形態に係る呼吸装置の断面図 【図2】 第1の実施形態に係る呼吸装置の吸気時の要部断面図 【図3】 第1の実施形態に係る呼吸装置の排気時の要部断面図 【図4】 第1の実施形態に係る回路図 【図5】 第2の実施形態に係る呼吸装置の要部断面図 【図6】 濾過材の通気抵抗上昇値を示す図 【図7】 モータの電源となる電池の放電特性を示す図 【図8】 面体内の圧力上昇を示す図 【符号の説明】 1 呼吸装置 2 面体 3 排気弁カバー 4 排気口 5 濾過材カバー 6 吸気口 7 排気弁 8 吸気弁 9 モータ 10 吸気弁座 11 フォトインタラプタ 12 発光ダイオード 13 トランジスタレシーバ 15 濾過材 16 ブロワー 17 第1のトランジスタ 18 第2のトランジスタ 19 導線 20 吸気弁カバー 21 羽根車 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2008-09-29 |
結審通知日 | 2008-10-02 |
審決日 | 2008-10-15 |
出願番号 | 特願2001-198494(P2001-198494) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
YA
(A62B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 出口 昌哉 |
特許庁審判長 |
寺本 光生 |
特許庁審判官 |
金丸 治之 丸山 英行 |
登録日 | 2005-10-07 |
登録番号 | 特許第3726886号(P3726886) |
発明の名称 | 呼吸装置 |
代理人 | 竹本 松司 |
代理人 | 杉山 秀雄 |
代理人 | 大友 良浩 |
代理人 | 飯田 秀郷 |
代理人 | 白石 光男 |
代理人 | 河合 弘之 |
代理人 | 白石 光男 |
代理人 | ▲高▼野 裕之 |
代理人 | 竹本 松司 |
代理人 | 杉山 秀雄 |
代理人 | ▲高▼野 裕之 |
代理人 | 湯田 浩一 |
代理人 | 手島 直彦 |
代理人 | 大友 良浩 |
代理人 | 斉藤 武彦 |
代理人 | 河合 弘之 |
代理人 | 手島 直彦 |
代理人 | 湯田 浩一 |
代理人 | 魚住 高博 |
代理人 | 魚住 高博 |
代理人 | 飯田 秀郷 |
代理人 | 斉藤 武彦 |