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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B |
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管理番号 | 1269255 |
審判番号 | 不服2008-26915 |
総通号数 | 159 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-10-21 |
確定日 | 2013-02-07 |
事件の表示 | 特願2003-555772「移動無線システムにおける非明示的要求データの伝送方法および伝送システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 3日国際公開、WO03/55177、平成17年 5月12日国内公表、特表2005-513919〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成14年12月3日(パリ条約に基づく優先権主張 2001年12月7日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成20年1月22日付けで拒絶理由通知がなされ、同年5月23日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年7月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月21日付けで審判請求がなされ、同年11月18日付け手続補正がなされ、平成21年3月16日付けで審査官により前置報告がなされた。 そして、平成22年8月4日付けで審判合議体により審尋がなされ、同年12月10日付けで回答書が提出され、平成23年3月24日付けで当審より拒絶理由通知がなされ、同年7月15日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)及び請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、平成23年7月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2にそれぞれ記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 アプリケーションコンピュータ(1)と、伝送ネットワーク(2)と、移動無線機器(3)とを有する移動無線システムにおいて非明示的に要求されたデータを伝送するためのシステムであって、 前記伝送ネットワーク(2)は、アプリケーションコンピュータから受信されたデータを中間記憶するための記憶手段(4)と、ネットワークコンピュータ(5)とを有し、 前記記憶手段(4)は、アプリケーションコンピュータから受信された前記データを中間記憶するシステムにおいて、 前記移動無線機器(3)はネットワークコンピュータ(5)に、どれだけのメモリスペースが当該移動無線機器(3)においてデータの記憶のために使用可能であるかを指示し、 または 前記移動無線機器は伝送ネットワークに、当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないことを指示し、 前記ネットワークコンピュータは、前記移動無線機器により指示された情報に依存して、前記中間記憶されたデータを移動無線機器に送信する、 ことを特徴とするシステム。 【請求項2】 アプリケーションコンピュータ、伝送ネットワーク(2)、および移動無線機器を備える移動無線システムにおいて非明示的に要求されたデータを伝送するための方法であって、 前記伝送ネットワーク(2)は、アプリケーションコンピュータから受信されたデータを中間記憶するための記憶手段(4)と、ネットワークコンピュータ(5)とを有する方法において、 S1)前記記憶手段(4)は、アプリケーションコンピュータ(1)から受信された前記データを中間記憶するステップ、 S2a)前記移動無線機器は前記ネットワークコンピュータに、どれだけのメモリスペースが当該移動無線機器でデータの記憶のために使用可能であるかを指示するステップ、 または S2b)前記移動無線機器は伝送ネットワークに、当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないことを指示するステップ、 S3)前記ネットワークコンピュータは、前記移動無線機器により指示された情報に依存して、前記中間記憶されたデータを移動無線機器に送信するステップ、 を含むことを特徴とする方法。」 第3.当審拒絶理由 平成23年3月24日付けで当審から通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。 「 A)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)段落番号【0029】に「ネットワークコンピュータ5が移動無線機器3から、この移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないことを知っていれば、」と記載されている。 「この移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないこと」を、以下、「事項a」という。 ネットワークコンピュータ5が事項aを知るために、どういう情報が、移動無線機器3からネットワークコンピュータ5へ送信されたのか、不明である。 たとえば、移動無線機器3からネットワークコンピュータ5へ送信された情報は、「どれだけのメモリスペースが当該移動無線機器(3)においてデータの記憶のために使用可能であるか」という情報であって、具体的には「1GB」とか「2GB」とかの数値(以下、「数値b」という。)であるのか、それとも「この移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できません。」という旨の文章(以下、「文章c」という。)であるのか、不明である。 もし上記疑問に対する回答が文章cであれば、移動無線機器3が「移動無線機器において使用可能な記憶容量」(以下、「記憶容量d」という。)と「アプリケーションコンピュータ1の情報のサイズ」(以下、「サイズe」という。)とを比較し、サイズeが記憶容量dより大きいから文章cのように判断したことになるが、移動無線機器3がどのようにしてサイズeを得たのか不明である。 (2)段落番号【0028】に「プッシュサービスデータは矢印7により示されているように、アプリケーションコンピュータ1から伝送ネットワーク2に送信される。そこでプッシュサービスデータは記憶手段4に中間記憶される。」と記載されている。この記載によれば、ネットワークコンピュータ5が事項aを知っていなくても、プッシュサービスデータは記憶手段4に中間記憶されると解される。 他方、段落番号【0029】に「ネットワークコンピュータ5が移動無線機器3から、この移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないことを知っていれば、これらのデータは記憶手段4に中間記憶される。」と記載されているから、この記載によれば、ネットワークコンピュータ5が事項aを知っている場合のみ、プッシュサービスデータは記憶手段4に中間記憶され、ネットワークコンピュータ5が事項aを知らない場合は、プッシュサービスデータは記憶手段4に中間記憶されないと解される。 したがって、ネットワークコンピュータ5が事項aを知らない場合、プッシュサービスデータは記憶手段4に中間記憶されるのか、されないのか不明確である。 (3)事項aに関して、「この移動無線機器が目下のところ使用できるメモリスペースが、アプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分か、不十分か。」という判断をした主体は、移動無線機器3であるのか、それとも移動無線機器3以外の何であるのか不明である。 (4)段落番号【0029】に「例えばユーザが古い情報を読み、その後削除したことにより、移動無線機器3で再び十分なメモリスペースが使用できるようになると直ちに、この情報はネットワークコンピュータ5に送信される。」と記載されている。(当審注:下線は、当審が付加した。) 上記記載の「この情報」とは、数値bであるのか、それとも「記憶手段に中間記憶されているプッシュサービスデータを格納するのに十分なメモリスペースが使用できるようになった。」という旨の文章(以下、「文章f」という。)であるのか、不明である。 削除された情報のサイズが小さければ、古い情報を削除しても、十分なメモリスペースが使用できるようにならないことも考えられる。もし上記疑問に対する回答が文章fであれば、「使用できるようになったメモリスペースが、記憶手段に中間記憶されているプッシュサービスデータを格納するのに十分か、不十分か。」という判断をした主体は、移動無線機器3であるのか、それとも移動無線機器3以外の何であるのか不明である。 (5)段落番号【0030】に「さらに移動無線機器3がネットワークコンピュータ5に、この移動無線機器には新たな情報を受け入れるための十分なメモリスペースがないことを指示した場合に、」と記載されている。 「メモリスペースが、新たな情報を受け入れるために十分か、不十分か。」という判断(以下、「判断g」という。)は、サイズの分かっている特定の新たな情報について為されたのか、それともサイズが不明な新たな情報について為されたのか、不明確である。 もし上記疑問に対する回答が後者であれば、新たな情報のサイズが不明であるのに、なぜ判断gを行うことができるのか不明である。 また、判断gをした主体は、移動無線機器3であるのか、それとも移動無線機器3以外の何であるのか不明である。 またもし、移動無線機器3が、サイズの分かっている特定の新たな情報について、判断gをしたのであれば、移動無線機器3は、どのようにして、特定の新たな情報のサイズを得たのか、不明である。 (6)段落番号【0018】に「ここで中間記憶されたデータをさらに送信することは、移動無線機器により指示された情報に依存する。移動無線機器が例えば伝送ネットワークに、目下のところ情報を受信するためのメモリを用意できないことを指示すると、」と記載されている。 この記載によれば、移動無線機器が、「目下のところ情報を受信するためのメモリを用意できるか、できないか。」の判断(以下、「判断h」という。)をし、判断hの結果が「できない」である場合に、移動無線機器が伝送ネットワークに、目下のところ情報を受信するためのメモリを用意できないことを指示するものと解される。 判断hを行うためには、「受信するために用意できるメモリの容量 ((以下、「容量i」という。) )」と「中間記憶されたデータのサイズ(以下、「サイズj」という。)」を比較する必要があるが、移動無線機器はどのようにしてサイズjを得たのか不明である。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1,2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (以下、理由B)?D)については、省略。)」 第4.拒絶理由A)の(1)について 4-1.審判請求人の主張 平成23年7月15日付けの意見書において、審判請求人は、以下のように主張している。 「<Aについて> (1)本願発明では、二つの手段が可能です。すなわち請求項1に記載されているように・「移動無線機器(3)は伝送ネットワーク(2)に、どれだけのメモリスペースが当該移動無線機器(3)においてデータの記憶のために使用可能であるかを指示」する場合と、・「移動無線機器は伝送ネットワークに、当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないことを指示」する場合です。 前者の場合は、具体的に空きのメモリスペースの容量を「数値b」として伝送ネットワークに通知します。この場合、伝送ネットワーク側で、情報をプッシュするかどうかが判断されます。 後者の場合、移動無線機器が、伝送ネットワーク側にある情報のサイズを知っているわけではなく、移動無線機器内の空きメモリスペースが所定の基準値を下回り、情報を完全にダウンロードできない蓋然性が高い場合に「メモリスペースを使用できないことを指示」します。この場合、伝送ネットワーク側では移動無線機器からの指示にしたがいます。」 4-2.検討 本願発明1には「前記移動無線機器は伝送ネットワークに、当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないことを指示し、」と記載され、本願発明2には、「S2b)前記移動無線機器は伝送ネットワークに、当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないことを指示するステップ、」と記載されている。 すなわち、本願発明1,2において、移動無線機器が伝送ネットワークに指示する内容は、審判請求人が主張するような「情報を完全にダウンロードできない蓋然性が高い」ではなく、「当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないこと」である。 移動無線機器内の空きメモリスペースが所定の基準値を下回り、情報を完全にダウンロードできない蓋然性が高くても、情報の情報量が空きメモリスペースより小さければ、ダウンロードは可能であるから、空きメモリスペースが所定の基準値を下回ったというだけで、「当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できない」と報告すれば、それは嘘の報告をしたことになる。本願発明1,2を実施する際に、そのような虚偽の報告をせざるを得ないような説明では、とても実施できるような説明になっていないことは明らかである。 第2に、審判請求人は、意見書において「後者の場合、移動無線機器が、伝送ネットワーク側にある情報のサイズを知っているわけではなく、移動無線機器内の空きメモリスペースが所定の基準値を下回り、情報を完全にダウンロードできない蓋然性が高い場合に「メモリスペースを使用できないことを指示」します。」と主張しているが、 (ア)移動無線機器が、所定の基準値を保持していること。 (イ)移動無線機器が、空きメモリスペースを所定の基準値と比較していること。 の以上の二点は、以下に指摘するように、発明の詳細な説明に何ら記載がなく、発明の詳細な説明に基づかない説明であって、審判請求人の空想に過ぎない。 発明の詳細な説明の段落番号【0028】?【0029】に「そこでプッシュサービスデータは記憶手段4に中間記憶される。矢印8により示されているように、ネットワークコンピュータ5は移動無線機器3から、この移動無線機器において使用可能な記憶容量についての情報を受信する。この情報に依存して、記憶手段4に記憶されているデータは矢印10により示されるように移動無線機器3に送信される。例えば多数の情報をアプリケーションコンピュータ1から伝送ネットワーク3へ送信すべき場合であって、ネットワークコンピュータ5が移動無線機器3から、この移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないことを知っていれば、これらのデータは記憶手段4に中間記憶される。」(注:下線は当審が付加した。)と記載されている。この記載における「例えば」は、その後の記載が、その前の記載の「例え」になっていることを表すから、ネットワークコンピュータ5が「移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないこと」を知るに際して、移動無線機器3は、コンピュータ5に対して、「移動無線機器において使用可能な記憶容量についての情報」を送信したと解するのが相当である。したがって、上記(ア)、(イ)の二点は、発明の詳細な説明に何ら記載がない。 次に、仮に移動無線機器が、上記(ア)、(イ)の二点を行っていると仮定すると、それらの動作は、本願発明1の「前記移動無線機器(3)はネットワークコンピュータ(5)に、どれだけのメモリスペースが当該移動無線機器(3)においてデータの記憶のために使用可能であるかを指示し、」及び本願発明2の「S2a)前記移動無線機器は前記ネットワークコンピュータに、どれだけのメモリスペースが当該移動無線機器でデータの記憶のために使用可能であるかを指示するステップ、」と、目的が重複するから、そのような構成を採用することは、不自然である。たとえば、本願発明2について言えば、「ステップS2a」と「上記(ア)、(イ)」のどちらか片方があれば「空きスペースよりも過大なデータが送信されることを未然に防ぐ。」という目的は達成できて十分であり、両方を持つ必要性もなければ、両方を持つことによるメリットもないのである。したがって、移動無線機器が、上記(ア)、(イ)の二点を行うことが自明であるとも言えない。 また、仮に移動無線機器が、上記(ア)、(イ)の二点を行っていると仮定すると、移動無線機器としては、「空きのメモリスペースの容量を「数値b」として伝送ネットワークに通知する。」と「空きメモリスペースを所定の基準値を下回った場合のみ、データに対するメモリスペースを使用できないことを指示する。」という二つの動作をどのように使い分けるのかが問題となり、二つの動作をどのように使い分けるのかという問題に対する解答は自明ではない。したがって、移動無線機器が、上記(ア)、(イ)の二点を行うことが自明であるとも言えない。 したがって、意見書における審判請求人の説明は採用できず、発明の詳細な説明は、本願発明1の「前記移動無線機器は伝送ネットワークに、当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないことを指示し、」及び本願発明2の「S2b)前記移動無線機器は伝送ネットワークに、当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないことを指示するステップ、」を実施できる程度に記載されていない。 第5.拒絶理由A)の(2)について 5-1.審判請求人の主張 平成23年7月15日付けの意見書において、審判請求人は、以下のように主張している。 「(2)一般的には段落[0028]に記載のように「プッシュサービスデータは記憶手段4に中間記憶され」ます。このことはネットワークコンピュータが「移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないことを」(事項a)知っているか知っていないかに関係ありません。 段落[0029]に記載されているのは、「ネットワークコンピュータ5が移動無線機器3から、この移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないこと、すなわち事項aを知っていれば、十分なメモリスペースを使用できる場合には情報をプッシュできるので記憶手段4に中間記憶する必要はないが、十分なメモリスペースを使用できない場合には、これを記憶手段4に中間記憶しなければならない」という意味です。 したがってネットワークコンピュータ5が「事項aを知っている場合のみ、プッシュサービスデータが記憶手段に中間記憶」されるわけではなく、事項aを知っていれば、その場合だけプッシュサービスデータを記憶手段に中間記憶しても良いということです。」 5-2.検討 段落番号【0029】には、「例えば多数の情報をアプリケーションコンピュータ1から伝送ネットワーク3へ送信すべき場合であって、ネットワークコンピュータ5が移動無線機器3から、この移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないことを知っていれば、これらのデータは記憶手段4に中間記憶される。」(注:下線は当審が付加した。)と記載されている。 例えば、「試験で60点未満ならば、不合格です。」と言えば、「60点以上ならば、合格。」ということは、明らかである。もし、「試験で60点未満ならば、不合格です。」と言っておいて、試験後に「60点以上ならば合格ですと言った覚えはない。」と言って、70点取った者を不合格にすれば、嘘つきと言われ非難されるのが日本語の常識である。 審判請求人の論理は、「「十分なメモリスペースを使用できないことを知っていれば、これらのデータは記憶手段4に中間記憶される。」と記載した覚えはあるが、「十分なメモリスペースを使用できないことを知っていなければ、これらのデータは記憶手段4に中間記憶されない。」と記載した覚えはない。」というものであり、認められないものであることは明らかである。 したがって、段落番号【0029】の記載からは、「受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないことを知っていないければ、これらのデータは記憶手段4に中間記憶されない。」ということが論理的に帰結することは、明らかである。 審判請求人は、意見書で「・・・十分なメモリスペースを使用できないこと、すなわち事項aを知っていれば、十分なメモリスペースを使用できる場合には情報をプッシュできるので記憶手段4に中間記憶する必要はないが、十分なメモリスペースを使用できない場合には、これを記憶手段4に中間記憶しなければならない」という意味です。」と説明しているが、段落番号【0029】には、十分なメモリスペースを使用できないことを知っている場合を、更に「十分なメモリスペースを使用できる場合」、「十分なメモリスペースを使用できない場合」と場合分けすることは記載されていない。また、審判請求人の説明する「十分なメモリスペースを使用できないこと、すなわち事項aを知っていれば、十分なメモリスペースを使用できる場合には」は、「十分なメモリスペースを使用できず、且つ十分なメモリスペースを使用できる場合には」という意味であるから、そのようなケースがあり得ないことは明らかである。 したがって、審判請求人の主張は、段落番号【0029】の記載に基づかない主張であり、失当である。 また、審判請求人は、「十分なメモリスペースを使用できないこと、すなわち事項aを知っていれば、十分なメモリスペースを使用できる場合には情報をプッシュできるので記憶手段4に中間記憶する必要はない」と説明しているが、この説明は段落番号【0028】の「プッシュサービスデータは矢印7により示されているように、アプリケーションコンピュータ1から伝送ネットワーク2に送信される。そこでプッシュサービスデータは記憶手段4に中間記憶される。」と明らかに矛盾しており、拒絶理由A)の(2)が正当であることを審判請求人が認めたものである。 したがって、発明の詳細な説明は、本願発明1,2を実施できる程度に記載されていない。 第6.拒絶理由A)の(3)について 6-1.審判請求人の主張 平成23年7月15日付けの意見書において、審判請求人は、以下のように主張している。 「(3)上記のように「十分か、不十分か」という判断は行われず、メモリスペースの空き容量が所定の基準を下回る場合に、移動無線機器がこれを指示します。」 6-2.検討 段落番号【0029】には、「ネットワークコンピュータ5が移動無線機器3から、この移動無線機器が目下のところアプリケーションコンピュータ1の情報を受け入れるために十分なメモリスペースを使用できないことを知っていれば、」(注:下線は当審が付加した。)と記載されているのであるから、「「十分か、不十分か」という判断は行われず、」という意見書の説明は採用できない。 したがって、発明の詳細な説明は、本願発明1,2を実施できる程度に記載されていない。 第7.拒絶理由A)の(4)について 7-1.審判請求人の主張 平成23年7月15日付けの意見書において、審判請求人は、以下のように主張している。 「(4)この場合の「情報」とは、「ユーザーが古い情報を…削除したことにより、移動無線機器3で再び十分なメモリスペースが使用できるように」なったという情報であり、具体的には上記(1)のように数値bであるか、または削除により空きのメモリスペースが所定の基準を上回るようになったという情報とすることができます。」 7-2.検討 意見書では、「この場合の「情報」とは、「ユーザーが古い情報を…削除したことにより、移動無線機器3で再び十分なメモリスペースが使用できるように」なったという情報であり、具体的には上記(1)のように数値bであるか、」と説明しているが、数値bは、例えば、「1GB」とかいった単なる数値であり、それが「ユーザーが古い情報を…削除したことにより、移動無線機器3で再び十分なメモリスペースが使用できるように」なったという情報であるという説明は、受け入れられない。 また、「削除により空きのメモリスペースが所定の基準を上回るようになった」というだけでは、空きのメモリスペースが、中間記憶されているプッシュサービスデータより大きいか否かは不明であるから、「十分な」とは判断できない。 したがって、発明の詳細な説明は、本願発明1,2を実施できる程度に記載されていない。 第8.拒絶理由A)の(5)について 8-1.審判請求人の主張 平成23年7月15日付けの意見書において、審判請求人は、以下のように主張している。 「(5)上記(1)に説明したように、移動無線機器が数値bをネットワークコンピュータに通知する場合、「十分か、不十分か」(判断g)は伝送ネットワーク側で判断されます。 そうでない場合、メモリスペースの空き容量を新たな情報のサイズと比較するのではなく、空き容量が所定の値を上回る場合には、十分なメモリスペースが存在すると移動無線機器が判断します。」 8-2.検討 段落番号【0030】には、「さらに移動無線機器3がネットワークコンピュータ5に、この移動無線機器には新たな情報を受け入れるための十分なメモリスペースがないことを指示した場合に、」と記載されている。 したがって、移動無線機器3がネットワークコンピュータ5に指示する内容は、「移動無線機器には新たな情報を受け入れるための十分なメモリスペースがないこと」であって、単なる数値に過ぎない「数値b」ではない。 空き容量が所定の値を下回っても、空き容量がプッシュサービスデータより大きければ、移動無線機器に新たな情報を受け入れるための十分なメモリスペースがあることになる。したがって、空き容量が所定の値を下回るというだけで、移動無線機器には新たな情報を受け入れるための十分なメモリスペースがないことを指示すれば、それは虚偽の指示をしたことになる。 また、上記「第4.拒絶理由A)の(1)について」で指摘したように、「所定の値」は、発明の詳細な説明の記載に基づかないものであり、且つ発明の詳細な説明の記載から自明なものでもない。 したがって、発明の詳細な説明は、本願発明1,2を実施できる程度に記載されていない。 第9.拒絶理由A)の(6)について 9-1.審判請求人の主張 平成23年7月15日付けの意見書において、審判請求人は、以下のように主張している。 「(6)上記(5)と同様に、移動無線機器が数値bを伝送ネットワーク側に通知する構成の場合は、ネットワークコンピュータで情報を移動無線機器に送信するか否かの判断が行われますが、移動無線機器で行われる判断は、「受信するために用意できるメモリの容量」と「中間記憶されたデータのサイズ」との比較に基づくものではなく、「用意できるメモリの容量」が所定の基準値を上回るか、下回るかによります。」 9-2.検討 段落番号【0018】には「移動無線機器が例えば伝送ネットワークに、目下のところ情報を受信するためのメモリを用意できないことを指示すると、」と記載されている。空きスペースがプッシュサービスデータより大きいのに、「用意できるメモリの容量」が所定の基準値を下回るというだけで、情報を受信するためのメモリを用意できないことを指示すれば、それは虚偽の指示になる。また、「所定の基準値」は、発明の詳細な説明の記載に基づかないものであり、且つ発明の詳細な説明の記載から自明なものでもない。 したがって、発明の詳細な説明は、本願発明1,2を実施できる程度に記載されていない。 第10.むすび 以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る発明を実施できる程度に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-09-07 |
結審通知日 | 2011-09-09 |
審決日 | 2011-09-28 |
出願番号 | 特願2003-555772(P2003-555772) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(H04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 倉本 敦史 |
特許庁審判長 |
江口 能弘 |
特許庁審判官 |
近藤 聡 鈴木 重幸 |
発明の名称 | 移動無線システムにおける非明示的要求データの伝送方法および伝送システム |
代理人 | 星 公弘 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | 矢野 敏雄 |