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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B26B |
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管理番号 | 1316542 |
審判番号 | 不服2014-19256 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-26 |
確定日 | 2016-06-13 |
事件の表示 | 特願2012-158598「殺傷犯罪防止刃物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月3日出願公開、特開2014-18348〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成24年7月17日を出願日とする出願であって、 平成25年3月18日付けで審査請求がなされ、 平成26年2月14日付けで拒絶理由通知(同年同月25日発送)がなされ、 これに対して同年3月24日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、 同年5月1日付けで最後の拒絶理由通知(同年同月13日発送)がなされ、 これに対して同年6月4日付けで意見書が提出され、 同年7月14日付けで上記平成26年5月1日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1及び2(特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項)によって拒絶査定(同年同月22日謄本発送・送達)がなされたものである。 これに対して、「元査定を取り消す、本願は特許すべきものとするとの審決を求める。」ことを請求の趣旨として同年9月26日付けで審判請求がなされた。 その後、当審より平成27年6月2日付け拒絶理由通知(同年同月9日発送)がなされ、 これに対して同年6月24日付けで意見書が提出されたものである。 第2 本願発明の認定 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年3月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。 (本願発明) 「刃の機能を維持しつつ、刃物の先端に該刃物の軸と略垂直方向をなす、人体への食い込みを防止する円板状のストッパを設けたことを特徴とする殺傷犯罪防止刃物。」 第3 先行技術・引用発明の認定 3-1 引用文献1及び引用発明 本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成27年6月2日付けの拒絶理由通知において引用した、特開2000-229182号公報(公開日:平成12年8月22日、以下、「引用文献1」という。)には、図1?7とともに、以下の事項が記載されている。 (下線は、理解の便のため当審にて付した。) A 「【0010】 【発明の実施の形態】図3に示すのは、本発明の一実施例である第一の実施例を示す概略図であり、図3(1)はその正面図、図3(2)はその底面図である。図3に示すナイフは、帯鋼を所定長さに切断して製造された刃13の一端部に握り部材23を備えている点は、図1に示した一般的なナイフと同じであるが、刃13の他端部に図3(1)の正面図に見える径が刃13幅より若干大きい扁平球状の抜け止め部材5を設けている点が異なる。その材質は樹脂製であり、刃13と一体成形されており、刃13の切先aは、抜け止め部材5により露出しないように覆われている。」 ![]() B 「【0015】また、刃の切先aが露出していないのも安全である。」 C 「【0018】次に抜け止め部材5について補足する。抜け止め部材5は、刃の一側面のみからその側方に張り出しているのは切断時のバランスが悪いので、図3(2)に二つの矢印64と65で示すように刃13の両側面からその側方に、切断中にナイフを意図的に前記矢印66で示した外側に引いても刃13が切断部から抜けない程度に張り出していることが必要である。さらに、安全のため切先が完全に隠れるように図3(1)に示す二つの矢印62と63方向に刃13より張り出していることが必要である。また、矢印61方向にもやはり安全のため刃13が完全に隠れるように張り出していることが好ましい。」 D 「【0021】また、それらの全形が必要なわけではなく、壁と内側から当接する当接部側がその形状であれば同じであるので、例えばそれらの半割り状であってもよい。その一例である第三の実施例を図6の概略図に示す。図6に於いて、図6(1)は正面図、図6(2)はその底面図を示し、当接部側が半割り状の抜け止め部材54であることを示す。」 E 図3には、第一の実施例を説明する概略図として、(1)、(2)の2つの図面が掲載されているが、図中刃13及び刃先131の見え方から考えると、(1)が横方向からの図示、(2)が上方向からの図示であって、上記摘記Cに記載された「抜け止め部材5」の「張り出し」で「必要」とされている方向を意味する「矢印64,65,61,62」は、刃先を下向きにした場合の右、左、上、下を指すと見てとれる。また、抜け止め部材5、54を切先に伴うナイフを図示した図3及び図6は、刃先131の部分が外部に露出していることが見てとれる。 ![]() 上記記載事項C及びD並びに認定事項Eには、抜け止め部材5に必要とされる要件が記載及び図示にて示され、刃先を下にしてみた場合に、上下左右及び前方の都合5方向に張り出している必要があるとされ、かつ、安全とされる切先の完全なる隠れには、上下と前方の3箇所が、前者は必要、後者は好ましいとし、またEでは前方への張り出しをしていない半球の態様が図6とともに示されている。 以上のことから、技術常識を考慮して整理すると、引用文献には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (引用発明) 「ナイフの切先に、刃先を下にしてみた場合に安全のため上下左右に張り出した半球抜け止め部材を設けたナイフ。」 3-2 引用文献2及びその技術的事項 本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成27年6月2日付けの拒絶理由通知において引用した、実願平4-74618号(実開平6-29324号)のCD-ROM(公開日:平成6年4月15日、以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。 F 「【考案の詳細な説明】 この考案は、刃物の先端に皿状のストッパーを設けた、キヤプタイヤコードの皮剥き器である。 従来は、通常の刃物で、表面の被覆を切り裂いていたが、この場合、中の芯線の被覆を傷つけることが多く、表面の被覆を剥ぎ取るのに、非常に時間がかかり、困っていた。 本案は、この欠点を除くために、考案されたもので、これを図面について説明すれば、図1は本案の斜視図で、刃物の先端に、皿状のストッパーを設け、途中で折曲げその一端に、柄を取り付けたものである。 図2は本案を使用して、キャプタイヤコードの表面被覆を、切り裂いているところである。 図2に示すように、これを使用する時は、ストッパーの部分を、表面被覆と芯線との間に入れ、柄をにぎり手前に引き、図のように切り裂いて行けばよい。そして、適当なところで点線のように、円周方向に切り取る。 キャプタイヤコードは、ゴムかビニール製で伸びるため、ストッパーを簡単に挿入し、容易に切り裂くことが出来る。 ストッパーがあるため、芯線の被覆を傷つけることはなく、更に刃物が表面被覆から、作業中に抜ける危険がない。 尚、図1は折曲げた構造だが、真っ直ぐでも差し支えない。」 G 図1には本案の斜視図として刃物1の先端に、円板状のストッパ2が設けられたキヤプタイヤコードの皮剥き器が図示されている。 ![]() 3-3 引用文献3及びその技術的事項 本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成27年6月2日付けの拒絶理由通知において引用した、登録実用新案第3165846号公報(発行日:平成23年2月10日、以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。 H 「【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】 突起物を刃の先端に装着したことを特徴とする包丁及びナイフ 【請求項2】 前記、突起物が一体的に固定されている事を特徴とする、請求項1記載の包丁及びナイフ 【考案の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本考案は、従来の包丁及びナイフに係り、詳しくは殺傷能力を軽減する事を旨とし、又、刀刃の持つ危険性の除去と使用上の注意喚起を促す為のものである。 【背景技術】 【0002】 従来の包丁及びナイフは、その形状ゆえ、その考えそのものから極めて有害な商品である。 【0003】 しかし、現実には殺傷能力有した包丁及びナイフなどが未だ世の中に出回っており、危険極まりない。 【0004】 通常、包丁及びナイフは切る及び、刺すなどの機能を有しており、冷静に考えると、極めて危険なものである。 ・・・(中略)・・・ 【課題を解決するための手段】 【0010】 そこで従来の包丁及びナイフが持つ殺傷能力の軽減が望まれる。これまで誰もがなしえなかった提案が求められている。 【0011】 先端に突起物を装着する事により、犯罪を未然に防ぐ効果がある。」 第4 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「ナイフ」は、本願発明の「刃物」に相当する。 また、引用発明の「半球抜け止め部材」と、本願発明の「ストッパ」とは、共に「ナイフ」ないし「刃物」の「切先」ないし「先端」に「設け」られ、その形状の特徴として「刃先を下にしてみた場合」の「上下左右」方向ないし「該刃物の軸と略垂直方向」に広がる形状部分を有する点において共通する。 以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。 (一致点) 「刃物の先端に該刃物の軸と略垂直方向に広がる形状部分を有する部材を設けた刃物。」 (相違点1) 本願発明では、「刃物」が「刃の機能を維持しつつ」先端に部材(=ストッパ)が設けられているとしているのに対して、引用発明の「半球抜け止め部材」が設けられた「ナイフ」では、刃の機能について特段の特定を伴っていない点。 (相違点2) 本願発明の「刃物」に「設ける」とした「ストッパ」は、「人体への食い込みを防止する」とする特定、及びその形状として「円板状」との特定が付されているのに対して、引用発明の「半球抜け止め部材」は、「安全」でありかつ全体形状が「半球」とされている点。 第5 判断 上記相違点1及び2について検討する。 (相違点1について) 引用発明が記載された引用文献1には、上記摘記事項Dに示したとおり、複数の図面(図3及び図6)の図示中に、抜け止め部材5を取り付けてもなお刃先131とされる部分が外部に対して露出し、牛乳パック3を切断する(図4)様が見てとれ、かつ、引用文献1全体の説明を見渡しても、抜け止め部材5を取り付けることで切断する刃としての機能を喪失させる記載はどこにもない。 とすれば、抜け止め部材を設けた引用発明においても、そのナイフとしての機能は維持されているということができる。 とすれば、当該相違点1は実質的な相違点ではない。 (相違点2について) 引用発明の切先aは、鋭角に形成されていることが、引用文献1の図1(1)から看取でき、また、同(2)からは、断面において薄く形成されたものであることが看取できる。そして、上記第3の3-3に記載したように、包丁やナイフは、刺すことができる機能を有し、それらが極めて危険なものであることの原因であるとした事項は従来周知であることを勘案すると、引用発明においてされた、刃物の先端を半球抜け止め部材が覆っている状態は、当該周知とされる刃物先端の露出が引き起こす人体等を刺す危険を結果的に妨げ、安全を導くこととなる理解に自然と至る事項である。 また、引用発明の半球抜け止め部材の構成のうち、人体への食い込みが防止されるとの作用・効果は、ナイフの先端が人体に対して押し付けられたとしても、半球抜け止め部材の人体に対して相対する断面により、ナイフが人体に対して侵入することを妨げることにより生じることは当業者にとって明らかである。そして、このことは、引用発明のナイフの先端に設ける部材に求めるとした「該刃物の軸と略垂直方向に拡がる」示唆として、引用発明のような「半球」でなくとも、人体に対して相対するように面が形成された円板状であっても、人体への食い込みが防止できる作用を奏することが、当業者にとって明らかである。また、刃物の技術分野において、先端に円板状のものを取り付けることは、上記第3の3-2に記載した引用文献2にも記載されている。 そうすると、引用発明において、上記相違点2に係る構成とすること、すなわち引用発明に記載の上記「半球抜け止め部材」の形状に替えて、引用文献2記載の「円板状」を採用することは、当業者が容易になし得た事項である。 なお、審判請求人は、平成27年6月24日付け意見書にて、引用文献1中の張り出し方向のみの示唆では長方形その他の正多角形等も含まれ、たくさんの候補があり、円板状を見つけることは極めて困難との考えを示し、また、引用文献1ないし2の、抜け止め部材を伴うカッタ、ないし線の皮剥き器は使用目的が異なる点を主張しているが、いずれも鋭利な刃を有する刃物である点で本願発明と決して相違するものではなく、本願発明も含め、元々人体を刺す目的で開発された刃物でない点で共通していることは明らかであり、先端に一定の大きさを有する物体を装着しさえすれば、万が一人体に向けられたとしても人体への侵入を困難ならしめる作用効果を奏する点でも、疑いようのない共通点を有するものであるから、当該主張は、実質的な相違を生じさせるものではなく、採用できない。 上記で検討したごとく、当該相違点1及び2は格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び引用文献2に記載された事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、その出願に係る出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1及び2、並びに従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、拒絶すべきものである。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-08-26 |
結審通知日 | 2015-09-01 |
審決日 | 2015-09-14 |
出願番号 | 特願2012-158598(P2012-158598) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B26B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 齊藤 彬 |
特許庁審判長 |
栗田 雅弘 |
特許庁審判官 |
久保 克彦 西村 泰英 |
発明の名称 | 殺傷犯罪防止刃物 |