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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02K
管理番号 1319960
審判番号 不服2014-18222  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-12 
確定日 2016-10-11 
事件の表示 特願2007-195873号「ガスタービンエンジンアセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年2月14日出願公開、特開2008-32016号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年7月27日(パリ条約による優先権主張 2006年7月31日 米国)に出願されたものであって、平成23年10月4日付けで拒絶理由が通知され、平成24年4月10日に意見書及び補正書が提出され、平成24年10月5日付けで最後の拒絶理由通知が通知され、平成25年4月16日に意見書及び補正書が提出され、平成25年10月15日付けで最初の拒絶理由が通知され、平成26年4月17日に意見書及び補正書が提出されたが、平成26年5月2日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成26年9月12日に拒絶査定に対する審判請求がされ、平成26年10月22日に手続補正書(方式)において審判請求の理由が変更されたものである。

第2 本件発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年4月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
タービンエンジンアセンブリであって、
高圧圧縮機(14)、燃焼器(16)及び高圧タービン(18)を含むコアガスタービンエンジン(13)と;
前記コアガスタービンエンジンから軸方向後方に結合された低圧タービン(20)と;
前記コアガスタービンエンジンから軸方向前方に結合されたファンアセンブリ(12)と;
前記低圧タービンに結合されたブースタ圧縮機(22)と;
駆動軸(31)と歯車箱(100)との間に結合され、前記低圧タービン(20)及び前記ブースタ圧縮機(22)により発生されたスラスト荷重を土台へ伝達するように構成された第1のスラスト軸受アセンブリ(110)と、
前記歯車箱(100)と前記ファンアセンブリ(12)との間に結合され、前記ファンアセンブリにより発生されたスラスト荷重を土台へ伝達するように構成された第2のスラスト軸受アセンブリ(120)と
を具備し、
前記ファンアセンブリ(12)は、前記歯車箱(100)と前記駆動軸(31)とを介して前記ブースタ圧縮機(22)に結合されて、前記駆動軸(31)が第1の回転方向で回転するとき、
前記ブースタ圧縮機(22)が前記低圧タービンと共に第1の回転速度で前記第1の回転方向に回転し、
前記ファンアセンブリ(12)が前記第1の回転速度とは異なる第2の回転速度で第2の回転方向に回転するように構成され、
前記第1の回転方向は前記第2の回転方向と逆であり、前記第1の回転速度は前記第2の回転速度より速く、前記第2の回転速度が常に前記第1の回転速度の2分の1となるように、前記歯車箱(100)が2.0対1の歯車比を有し、
前記タービンエンジンアセンブリは、前記駆動軸と前記歯車箱との間に結合された撓み結合部(108)をさらに有することを特徴とする、タービンエンジンアセンブリ。」

第3 刊行物
1.刊行物1
(1)刊行物1の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である米国特許第4827712号明細書(以下、「刊行物1」という。)には図面とともに次の記載がある。なお、( )内は当審による訳である。

1a)”The present invention seeks to provide a geared turbofan gas turbine which has high propulsive efficiency, substantially less weight and substantially less drag.
Accordingly the present invention provides a turbofan gas turbine engine comprising in axial flow series a fan, booster compressor means, compressor means, combustor means, first turbine means and second turbine means, the first turbine means being adapted to drive the compressor means via first shaft means, the second turbine means being adapted to drive the booster compressor means via second shaft means and the second turbine means being adapted to drive the fan via the second shaft means and gear means.”(明細書第1欄第60行ないし第2欄第4行)
(本発明は、高い推進効率、実質的に少ない重量および実質的に低い抵抗を有するギア付きターボファンガスタービンを提供することを目的とする。
したがって、本発明は、軸流方向に沿って連なっている、1個のファン、ブースタ圧縮機手段、圧縮機手段、燃焼器手段と、第1のタービン手段および第2のタービン手段であって、第1のタービン手段は、第1の軸手段を介して圧縮機を駆動するように適合され、第2のタービン手段は、第2のシャフト手段を介してブースタ圧縮機手段を駆動するように適合され、さらに第2のタービン手段は、ファンを第2のシャフト手段とギア手段を介して駆動するように適合されたものからなるターボファンガスタービンを提供する。)

1b)” A turbofan gas turbine engine 10 is shown in FIGS. 1 and 2 and comprises a core engine 12 and a fan assembly 72. The core engine 12 comprises in axial flow series compressor means 14, combustor means 16, first turbine means 18 and second turbine means 20. The core engine 12 is surrounded by a coaxial core casing 22. ”(明細書第2欄第43行ないし第48行)
(ターボファンガスタービンエンジン10は、図1と図2に示されており、コアエンジン12とファンアセンブリ72とからなる。コアエンジン12は、軸流方向に沿って連なっている、圧縮機手段14、燃焼器手段16、第1のタービン手段18および第2のタービン手段20からなる。コアエンジン12は、同軸コアケーシング22によって囲まれている。)

1c)”The rotor 36 of the first turbine means 18 is arranged to drive the rotor 28 of the compressor means 14 via a first shaft 40. The shaft 40 is rotatably mounted on a static structure 42 by a ball bearing 44 and a roller bearing 46, which are axially spaced. The static structure 42 is secured to the stator casing 24 of the compressor means 14 and the stator casing 32 of the turbine means 18. The upstream end of the shaft 40 is rotatably mounted by a roller bearing 47.”(明細書第2欄第61行ないし第3欄第2行)
(第1のタービン手段18のロータ36は、第1シャフト40を通して圧縮機手段14のロータ28を駆動するようなされている。シャフト40は、軸方向に離間したボールベアリング44とローラベアリング46によって静止構造体42に回転可能に支持されている。静止構造体42は、圧縮機手段14の静止翼ケーシング24と、タービン手段18の静止翼ケーシング32に固定される。シャフト40の上流端は、ベアリング47によって回転可能に支持されている。)

1d)”A stub shaft 60 is secured to the upstream end of the shaft 56, for example by a splined coupling or other suitable means, and the stub shaft 60 drives a gear assembly 62. The gear assembly 62 comprises a sun gear 64 which is secured to, and driven by the stub shaft 60, a plurality of planet gears 66 meshing with and driven by the sun gear 64 and an annulus gear 68 meshing with and driven by the planet gears 66. The annulus gear 68 is secured to, or is integral with, a shaft 70, which extends in an upstream direction from the gear assembly 62. The shaft 70 is secured to and drives the fan assembly 72. ”(明細書第3欄第27行ないし第38行)
(スタブシャフト60は、例えばスプライン結合または他の適切な手段によってシャフト56の上流側の端部に固定されており、スタブシャフト60は、ギアアセンブリ62を駆動する。ギアアセンブリ62は、スタブシャフト60に固定され、かつ、駆動される太陽ギア64と、太陽ギア64に噛み合っており駆動される複数の遊星ギア66と、遊星ギア66に噛み合っており駆動される環状ギア68と、からなる。環状ギア68は、ギアアセンブリ62から上流側に延在するシャフト70に固定あるいは一体化されている。シャフト70は、ファンアセンブリ72に固定されるとともに、それを駆動する。)

1e)”The fan assembly 72 comprises a fan rotor 74 which carries a plurality of radially outwardly extending fan blades 76. The fan assembly is positioned upstream of the core engine 12 and is arranged to rotate coaxially therewith. The fan rotor 74 is secured to the shaft 70 by means of a splined coupling, a curvic coupling or other suitable means. The fan blades 76 may be of any suitable form, but are preferably laminar flow supercritical aerofoils of wide chord, and are preferably formed from titanium sheets, with a honeycomb filler.
The planet carrier 78 is secured to a gear housing 82 which surrounds the gear assembly 62. The stub shaft 60 is rotatably mounted on the gear housing 82 by a bearing 88, and the shaft 70 is rotatably mounted on the gear housing 82 by axially spaced roller bearing 84 and ball bearing 86. The gear housing 82 is secured to the upstream end of the core engine casing 22 by a plurality of radially extending vanes 90 which form an opening, downstream of the fan assembly, for the supply of air through an inlet duct 92 to the core engine 12.”(明細書第3欄第42行ないし第61行)
(ファンアセンブリ72は、複数の径方向外方に延在するファンブレード76を設けたファンロータ74からなる。ファンアセンブリはコアエンジン12の上流側に位置し、それと同軸上において回転するように配置されている。ファンロータ74は、スプライン結合、カービックカップリングまたは、その他の適切な手段によりシャフト70に固定されている。ファンブレード76は、いかなる適切な形状であってもよいが、好ましくは、広い翼弦を持つ層流超臨界翼型であり、好ましくは、ハニカム充填材を伴ったチタンシートから形成されてもよい。
遊星キャリア78は、ギアアセンブリ62を囲むギアハウジング82に固定されている。スタブシャフト60は、ベアリング88によってギアハウジング82に回転可能に支持されており、シャフト70は、軸方向に離間して配置されたローラベアリング84とボールベアリング86によってギアハウジング82に回転可能に支持されている。ギアハウジング82は、ファンアセンブリの下流に向かって、コアエンジン12へインレットダクト92を通して空気を供給するための開口部を形成する複数の径方向に延在する複数の翼90によって、エンジンケーシング22の上流端に固定される。)

1f)”A booster compressor means is positioned axially between the fan assembly 72 and the core engine 12, within the inlet duct 92, to boost the pressure of the air supplied to the core engine 12. The booster compressor means comprises a booster rotor 94 which carries a plurality of radially outwardly extending blades 96. The booster rotor 94 only carries a single stage of blades 96, and the blades are of wide chord form which turn the airflow tangentially. The booster rotor 94 is connected to, or is integral with, and driven by the stub shaft 60 via a conical shaft 98. The number of blades 96 is chosen so that the frequency of noise produced, by the tips travelling supersonically, is above the audible range.”(明細書第3欄第62行ないし第4欄第6行)
(ブースタ圧縮機手段は、軸方向において、ファンアセンブリ72とコアエンジン12との間に位置し、インレットダクト92の中で、コアエンジン12へ供給される空気の圧力を高くする。ブースタ圧縮機手段は、複数の半径方向外側に延在するブレード96を設けたブースタロータ94からなる。ブースタロータ94は、ブレード96を1段のみ備え、ブレードは、広い翼弦をもっており、空気流を接線方向に方向づける。ブースタロータ94は、円錐型のシャフト98を通して接続され、あるいは一体化されたスタブシャフト60によって駆動される。ブレード96の数は、先端部が音速を超えて回ることにより生じる騒音の周波数が、可聴域を超えるものとなるように選定される。)

1g)”The fan requires a low tip speed for peak efficiency, and the fan is positioned upstream of the core engine, the fan cannot be driven directly by the low pressure turbine without excessive compromise in the hub/tip diameter ratio of the core engine with associated core engine efficiency losses. A gear assembly 62 is included to enable the high power demand of the fan 72 to be supplied through a relatively small diameter and relatively high speed low pressure turbine shaft 56.
The tip speed of the fan blades is reduced as compared to a direct drive arrangement, and this overcomes the problems of noise generated by the fans with high tip speeds.
The fan assembly may also be of much lighter construction, as the speed of rotation is reduced and the effects of bird impact are not as severe, i.e. speed of rotation of the fan is in the order of 3000 rpm as compared with in the order of 10000 rpm for the booster compressor.
The booster compressor means is driven directly by the second turbine means 20 via the shafts 56,60 and 98, whereas the fan assembly 72 is also driven via gear assembly 62. The booster compressor is therefore driven at a higher speed than the fan assembly, and in this example in the opposite direction, and this has the advantage that the number of stages in the booster compressor may be reduced while producing a suitable pressure rise in the airflow to the core engine. This produces corresponding reductions in the length, weight and drag of the gas turbine engine.”(明細書第6欄第1行ないし第30行)
(ファンは、最大効率を得るため、その先端速度を低くすることを要求し、ファンは、コアエンジンの上流側に位置し、ファンは、コアエンジンの効率低下に関係するコアエンジンのハブと先端の直径比においての過剰な妥協を行うことなしに、低圧タービンによって直接駆動することができない。ギアアセンブリ62が、ファン72が要求する高い動力需要を、比較的小径であって、比較的高回転である低圧タービンのシャフト56から供給することを可能とするために含まれている。
ファンブレードの先端速度が、直接駆動した場合と比較して低減されており、これにより先端速度が高いことにより生じる騒音の問題を克服している。
また、ファンアセンブリは、回転数を低減して、鳥の衝突による影響がそれほど深刻でなくなり、例えば、ブースタ圧縮機の回転数が10000rpm台の時にファンの回転数を3000rpm台とすれば、大きく軽量化した構造となりうる。
ブースタ圧縮機手段は、シャフト56、60そして98を通じて第2タービン手段20によって直接駆動されている。それに対して、ファンアセンブリ72は、ギアアセンブリ62を介して駆動されている。
ブースタ圧縮機は、故に、ファンアセンブリ72より高い回転数で駆動されており、この例によると、逆方向であり、ブースタ圧縮機の段数を、コアエンジンへの空気流の圧の上昇を生みながら、低減できる。このことは、ガスタービンエンジンの長さ、重量、抵抗を低減することを生み出す。)

(2)上記(1)及び図面から分かること
1h)上記(1)1a)、(1)1b)及び図1の記載からみて、ターボファンガスタービンエンジン10は、圧縮機手段14、燃焼器手段16、第1のタービン手段18を含むものであって、圧縮機手段14、燃焼器手段16、第1のタービン手段18における軸方向の下流側には、第2のタービン手段20が結合し、圧縮機手段14、燃焼器手段16、第1のタービン手段18における軸方向の上流側には、ファンアセンブリ72が結合していることが分かる。

1i)上記(1)1a)の記載「・・第2のタービン手段は、第2の軸手段を介してブースタ圧縮機手段を駆動するように適合され・・」及び図1の記載からみて、ターボファンガスタービンエンジン10は、第2のタービン手段20に結合されたブースタ圧縮機手段を備えることが分かる。

1j)上記(1)1d)の記載「・・スタブシャフト60は、例えばスプライン結合または他の適切な手段によってシャフト56の上流側の端部に固定されており、スタブシャフト60は、ギアアセンブリ62を駆動する。・・」、(1)1e)の記載「・・スタブシャフト60は、ベアリング88によってギアハウジング82に回転可能に支持されており、・・」及び図1の記載から、スタブシャフト60が、第2シャフト56の上流端とギアアセンブリ62との間に位置し、それぞれに固定されているとともに、ベアリング88によってギアハウジング82に回転可能に支持されていることが分かる。

1k)上記(1)1d)の記載「・・環状ギア68は、ギアアセンブリ62から上流側に延在するシャフト70に固定あるいは一体化されている。シャフト70は、ファンアセンブリ72に固定されるとともに、それを駆動する。」、(1)1e)の記載「・・シャフト70は、軸方向に離間して配置されたローラベアリング84とボールベアリング86によってギアハウジング82に回転可能に支持されている。・・」及び図1の記載から、シャフト70が、ギアアセンブリ62とファンアセンブリ72との間に位置し、それぞれに固定されているとともに、ローラベアリング84及びボールベアリング86によってギアハウジング82に回転可能に支持されていることが分かる。

1l)上記(1)1a)の記載「・・第2のタービン手段は、第2のシャフト手段を介してブースタ圧縮機手段を駆動するように適合され、さらに第2のタービン手段は、ファンを第2のシャフト手段とギア手段を介して駆動するように適合された・・」と、図1の記載とをあわせてみると、ブースタ圧縮機手段は、シャフト56を介して第2のタービン手段20により駆動されること、ファンアセンブリ手段は、シャフト56とギアアセンブリ62とを介して第2のタービン手段20により駆動されること、さらに、ファンアセンブリ72は、ギアアセンブリ62とシャフト56を介してブースタ圧縮機手段に連結されていることが分かる。

1m)上記(1)1g)の記載「・・ブースタ圧縮機の回転数が10000rpm台の時にファンの回転数を3000rpm台とすれば、大きく軽量化した構造となりうる。
ブースタ圧縮機手段は、シャフト56、60そして98を通じて第2タービン手段20によって直接駆動されている。それに対して、ファンアセンブリ72は、ギアアセンブリ62を介して駆動されている。
ブースタ圧縮機は、故に、ファンアセンブリ72より高い回転数で駆動されており、この例によると、逆方向であり・・」から、ブースタ圧縮機手段の回転数は、ファンアセンブリ72の回転数よりも高く、かつ、回転方向が逆であることが分かる。

以上の(1)及び(2)ならびに図1の記載を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「ターボファンガスタービンエンジンであって、圧縮機手段14、燃焼器手段16、第1のタービン手段18とを含むエンジンと、
圧縮機手段14、燃焼器手段16、第1のタービン手段18とを含むエンジンから軸方向の下流側に結合された第2のタービン手段20と、
圧縮機手段14、燃焼器手段16、第1のタービン手段18とを含むエンジンから軸方向の上流側に結合されたファンアセンブリ72と、
第2のタービン手段20に結合されたブースタ圧縮機手段と、
第2シャフト56の上流端とギアアセンブリ62との間に位置し、それぞれに固定されたスタブシャフト60を、ギアハウジング82に回転可能に支持するベアリング88と、
ギアアセンブリ62とファンアセンブリ72との間に位置し、それぞれに固定されたシャフト70を、ギアハウジング82に回転可能に支持するローラベアリング84及びボールベアリング86とを具備し、
ファンアセンブリ72は、ギアアセンブリ62と第2シャフト56を介してブースタ圧縮機手段に結合されており、
ブースタ圧縮機手段は、第2シャフト56を介して第2のタービン手段20により駆動され、
ブースタ圧縮機手段の回転数は、ファンアセンブリ72の回転数よりも高く、かつ、回転方向が逆であるターボファンガスタービンエンジン。」

2.刊行物2
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表平9-512079号公報(以下、「刊行物2」という。)には図面とともに次の記載がある。

2a)「【特許請求の範囲】
1.シャフトにより回転可能な太陽歯車と、
リング・ギヤー・ハウジングに固定されたリング・ギヤーと、
遊星歯車キャリアー内に回転可能に取り付けられ且つ前記太陽歯車および前記リング・ギヤーのそれぞれと噛み合っている複数の遊星歯車と、
を有する遊星歯車列のカップリング・システムであって、
前記太陽歯車を前記シャフトに連結する太陽歯車カップリングを有し、この太陽歯車カップリングは、前記太陽歯車と前記シャフトのずれに適応するために非柔軟スピンドルに結合された少なくとも一つの波状柔軟区画を有し、
前記リング・ギヤー・ハウジングを非回転機械的グラウンドに連結するリング・ギヤー・カップリングを有し、このリング・ギヤー・カップリングは、前記リング・ギヤー・ハウジングと前記機械的グラウンドのずれに適応するために非柔軟ハブに結合された少なくとも一つの波状柔軟部分を有することを特徴とするカップリング・システム。」
(公報第2ページ第1ないし14行)

2b)「図1を参照すると、タービン・エンジン10は、その主要な構成部分として、一つ以上のコンプレッサー12、13、コンプレッサーに動力を供給する一つ以上のタービン14、15、燃焼室16、ファン18、一次排気ノズル20、およびファン排気ノズル22を含む。各タービンから延びているシャフト24、25により、それぞれ対応するコンプレッサーを駆動する。コンプレッサーの一つの回転運動が、以下により完全に説明するように、遊星歯車列26を通ってファン18へ伝達される。遊星歯車列は、コンプレッサーの回転速度を、ファンの効率的な作動のためにより適した速度に下げる。主要なエンジン構成部分は、理想的には、中心縦軸28と同心である。」(公報第10ページ第6ないし14行)

2c)「図2は、図1の遊星歯車列26および、そのエンジンおよび本発明のカップリング・システムとの関係をより詳細に示す。コンプレッサー・ドライブ・シャフト24の前端は、スプライン30により太陽歯車カップリング32の後端に連結されている。カップリング32の前端も、スプライン34により、遊星歯車列26の太陽歯車36に連結されている。シャフト24の回転運動は、このようにして太陽歯車36に伝達される。太陽歯車は複数の遊星歯車と噛み合っており、図示された遊星歯車40がこれらの遊星歯車を表わしている。
各遊星歯車は、ジャーナル・ピン44等の適当なベアリングにより回転可能に遊星歯車キャリアー42内に取り付けられており、太陽歯車の回転運動により各遊星歯車はその縦軸46を中心として回転する。各遊星歯車は非回転リング・ギヤー48とも噛み合っている。ギヤー48はスプライン52によりリング・ギヤー・ハウジング50内に取り付けられている。リング・ギヤー・カップリング54がリング・ギヤー・ハウジングを機械的グラウンド(枠体、母体)に結合している。
本実施例では、このグラウンドは、非回転のローラー・ベアリング支持体56であるが、ハウジングの、従ってリング・ギヤー48の回転に抵抗できればどんなグラウンドでも良い。遊星歯車は非回転リング・ギヤーと回転太陽歯車の両方に噛み合っているので、遊星歯車はその軸46を中心として自転するだけでなく、太陽歯車のまわりを回転し、それにより遊星歯車キャリアー42が軸28を中心として回転する。遊星歯車キャリアーの運動は、図示されない適当な手段によりファン18(図1)に伝達される。」(公報第10ページ第15行ないし第11ページ第8行)

2d)「本発明のカップリング・システムは、太陽歯車カップリング32とリング・ギヤー・カップリング54を含む。太陽歯車カップリングは、非柔軟スピンドル60と少なくとも一つの波状柔軟区画62を有する。柔軟区画62に含まれる円筒リング64は排液穴65を有する。排液穴は、偶然に波状区画62の内部に漏れる油がその中に溜まって回転不均衡を生じないように、各リング64の全周にわたって配置されている。リング64はスピンドル60より大きい直径を有し、縦に間隔を置いたダイアフラム66、68によりスピンドルに結合されている。
ダイアフラムとスピンドルの接合部70もダイアフラムとリングの接合部72も、カップリング32の柔軟性を改善し、そして接合部における応力集中を最小にするために曲線断面外形を有する。太陽歯車36とシャフト24の角度ずれに対する適応(調節)には単一の柔軟区画で十分である。平行ずれに対する適応または角度ずれと平行ずれの組み合わせに対する適応には、縦に間隔を置いた二つ以上の柔軟区画が使用される。」(公報第11ページ第9行ないし22行)

以上の2a)ないし2d)の記載並びに図1及び図2の記載を総合すると、刊行物2には、次の事項(以下、「刊行物2に記載の技術」という。)が記載されている。
「コンプレッサードライブシャフト24と遊星歯車列の太陽歯車36との間に、シャフトのずれに適応するための柔軟区画を有する太陽歯車カップリング32を介在させたタービン・エンジン10。」

第4 対比・判断
本件発明と、引用発明とを対比する。
引用発明における「ターボファンガスタービンエンジン」は、その機能及び構成からみて、本件発明における「タービンエンジンアセンブリ」に相当し、以下同様に、「圧縮機手段14」は「高圧圧縮機」に、「燃焼器手段16」は「燃焼器」に、「第1のタービン手段18」は「高圧タービン」に、「軸方向の下流側」は「軸方向後方」に、「軸方向の上流側」は「軸方向前方」に、「第2のタービン手段20」は「低圧タービン」に、「ファンアセンブリ72」は「ファンアセンブリ」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「圧縮機手段14、燃焼器手段16、第1のタービン手段18とを含むエンジン」は、その機能及び構成からみて、本件発明における「コアガスタービンエンジン」に相当する。
さらに、引用発明における「ブースタ圧縮機手段」は、その機能及び構成からみて、本件発明における「ブースタ圧縮機」に相当し、以下同様に、「第2シャフト56」は「駆動軸31」に、「ギアアセンブリ62」は「歯車箱」に、それぞれ相当し、
引用発明における「ギアハウジング82」は、複数の翼90によってエンジンケーシング22に固定されるものである(上記第3 1.(1)1e)の記載、図1の記載参照)から、その機能及び構成からみて、本件発明における「土台」に相当する。
そして、引用発明において「ブースタ圧縮機手段は、第2シャフト56を介して第2のタービン手段20により駆動」されることは、「第2シャフト56」における回転速度、回転方向で「ブースタ圧縮機手段」が「第2のタービン手段20」によって駆動され、回転することは明らかであるから、本件発明における「駆動軸が第1の回転方向で回転するとき、ブースタ圧縮機が低圧タービンと共に第1の回転速度で第1の回転方向に回転」することに相当し、
引用発明における「ブースタ圧縮機手段の回転数は、ファンアセンブリ72の回転数よりも高く、かつ、回転方向が逆である」ことは、本件発明における「ファンアセンブリが第1の回転速度とは異なる第2の回転速度で第2の回転方向に回転するように構成され、第1の回転方向は、第2の回転方向と逆であり、第1の回転速度は第2の回転速度より速」いことに相当する。
そして、引用発明における「第2シャフト56の上流端とギアアセンブリ62との間に位置し、それぞれに固定されたスタブシャフト60を、ギアハウジング82に回転可能に支持するベアリング88」と、本件発明における「駆動軸と歯車箱との間に結合され、低圧タービン及びブースタ圧縮機により発生されたスラスト荷重を土台に伝達するように構成された第1のスラスト軸受アセンブリ」とは、「駆動軸と歯車箱との間に結合された軸受アセンブリ」という限りにおいて一致し、
引用発明における「ギアアセンブリ62とファンアセンブリ72との間に位置し、それぞれに固定されたシャフト70を、ギアハウジング82に回転可能に支持するローラベアリング84及びボールベアリング86」と、本件発明における「歯車箱とファンアセンブリとの間に結合され、ファンアセンブリにより発生されたスラスト荷重を土台へ伝達するように構成された第2のスラスト軸受アセンブリ」とは、「歯車箱とファンアセンブリとの間に結合された軸受アセンブリ」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「タービンエンジンアセンブリであって、
高圧圧縮機、燃焼器及び高圧タービンを含むコアガスタービン
エンジンと、
前記コアガスタービンエンジンから軸方向後方に結合された低圧タービンと、
前記コアガスタービンエンジンから軸方向前方に結合されたファンアセンブリと、
前記低圧タービンに結合されたブースタ圧縮機と、
駆動軸と歯車箱との間に結合された軸受アセンブリと、
歯車箱とファンアセンブリとの間に結合された軸受アセンブリと
を具備し、
前記ファンアセンブリは、前記歯車箱と前記駆動軸とを介して前記ブースタ圧縮機に結合されて、前記駆動軸が第1の回転方向で回転するとき、
前記ブースタ圧縮機が前記低圧タービンと共に第1の回転速度で前記第1の回転方向に回転し、
前記ファンアセンブリが前記第1の回転速度とは異なる第2の回転速度で第2の回転方向に回転するように構成され、
前記第1の回転方向は前記第2の回転方向と逆であり、前記第1の回転速度は前記第2の回転速度より速い、
タービンエンジンアセンブリ。」

[相違点1]
「駆動軸と歯車箱との間に結合された軸受アセンブリ」に関し、本件発明においては、「低圧タービン及びブースタ圧縮機により発生されたスラスト荷重を土台へ伝達するように構成された」ものであるのに対して、引用発明においては、低圧タービン及び前記ブースタ圧縮機により発生されたスラスト荷重をギアハウジング82(土台)へ伝達するものであるか不明である点。

[相違点2]
「歯車箱とファンアセンブリとの間に結合された軸受アセンブリ」に関し、本件発明においては、「ファンアセンブリにより発生されたスラスト荷重を土台へ伝達するように構成」されたものであるのに対して、引用発明においては、ファンアセンブリ72により発生されたスラスト荷重をギアハウジング82(土台)へ伝達するものであるか不明である点。

[相違点3]
本件発明においては、「第2の回転速度が常に第1の回転速度の2分の1となるように、歯車箱が2.0対1の歯車比」を有するのに対して、引用発明においては、ギアアセンブリ62がそのような歯車比を有しているか不明である点。

[相違点4]
本件発明においては、「タービンエンジンアセンブリは、駆動軸と歯車箱との間に結合された撓み結合部をさらに有する」のに対して、引用発明においては、第2シャフト56とギアアセンブリ62との間にそのような撓み結合部を有するか不明である点。

上記相違点について以下判断する。

[相違点1について]
引用発明における第2シャフト56には、ブースタ圧縮機手段、第2のタービン手段20によるスラスト力が発生すること、及び該スラスト力を受ける手段が必要となることは技術常識からみて明らかである。
よって、引用発明におけるベアリング88を、第2のタービン手段とブースタ圧縮機手段により発生されたスラスト力を受けてギアハウジング82(土台)に伝達するためのスラスト軸受アセンブリとすることにより、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点2について]
引用発明におけるローラベアリング84及びボールベアリング86の少なくともいずれかが、ファンアセンブリ72により発生されたスラスト荷重を受けてギアハウジング82(土台)へ伝達するものであることは、それらの配置や構造からみて明らかである。よって、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。
仮にそうではないとしても、引用発明におけるシャフト70には、ファンアセンブリ72によるスラスト力が発生すること及び該スラスト力を受ける手段が必要となることは技術常識であるから、引用発明におけるローラベアリング84及びボールベアリング86を、ファンアセンブリ72により発生されたスラスト力を受けてギアハウジング82(土台)に伝達するためのスラスト軸受アセンブリとすることにより、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点3について]
引用発明において、第2のタービン手段20、ブースタ圧縮機手段の回転を減速してファンアセンブリ72に伝達するためのギアアセンブリ62の歯車比は、タービンエンジンのバイパス比、ファンアセンブリにおけるファンの先端部の速度などを考慮して、当業者が設計を行う際に適宜決定しうるものと認められる。そして、歯車箱の歯車比を2.0:1とすることも、例えば、特開平2-245455号公報(第5ページ左下欄第2ないし13行の記載)などに照らせば格別なことではない。
よって、引用発明におけるギアアセンブリ62の歯車比を、2.0:1として上記相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点4について]
刊行物2に記載の技術(上記第3 2.(1)参照)は、「コンプレッサードライブシャフト24と遊星歯車列の太陽歯車36との間に、シャフトのずれに適応するための柔軟区画を有する太陽歯車カップリング32を介在させたタービン・エンジン10」であるから、本件発明の用語を用いて表現すると、刊行物2に記載の技術は、「駆動軸と歯車箱との間に、シャフトのずれに適応するための撓み結合部を設けた」ものといえる。
したがって、引用発明において、シャフトの軸線のずれなどに対応するために、刊行物2に記載の技術を適用し、第2シャフト56とギアアセンブリ70との間に撓み結合部を設けることにより上記相違点4に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、引用発明及び刊行物2に記載の技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

第5 むすび
したがって、本件発明は、引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-18 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2007-195873(P2007-195873)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺町 健司  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
発明の名称 ガスタービンエンジンアセンブリ  
代理人 田中 拓人  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  

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