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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G11B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G11B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G11B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G11B
管理番号 1051311
異議申立番号 異議2000-73546  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-07-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-21 
確定日 2001-09-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3022524号「情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3022524号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3022524号の発明についての出願は、平成10年11月12日(優先権主張 平成10年2月26日,平成10年9月25日,平成10年10月15日)に特許出願され、平成12年1月14日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人・ホーヤ株式会社により特許異議の申立がなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年1月25日に訂正請求がなされたものであり、更に、平成13年6月6日に特許権者と異議申立人の両者に審尋が通知され、回答書が提出されたものである。

II.訂正の適否
1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、訂正請求及びそれに添付された訂正明細書の記載からみて、次の(a)~(d)のとおりである。 なお、下線の箇所が訂正された個所である。
(a)特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】 情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲およびAl2O3=10重量%~20重量%未満の範囲にあり、-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が、30×10-7~50×10-7/℃の範囲にあり、その主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」
(b)特許請求の範囲の請求項4を次のとおりに訂正する。
「【請求項4】 前記ガラスセラミック基板において、主結晶相はβ-石英固溶体およびエンスタタイト,またはβ-石英固溶体およびフォルステライトからなることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」
(c)特許請求の範囲の請求項6を次のとおりに訂正する。
「【請求項6】 前記ガラスセラミック基板は酸化物基準の重量百分率で、
SiO2 40 ~60%
MgO 10 ~20%
Al2O3 10 ~20%未満
P2O5 0.5~ 2.5%
B2O3 1 ~ 4%
Li2O 0.5~ 4%
CaO 0.5~ 4%
ZrO2 0.5~ 5%
TiO2 2.5~ 8%
Sb2O3 0.01~0.5%
As2O3 0 ~ 0.5%
SnO2 0 ~ 5%
MoO3 0 ~ 3%
CeO 0 ~ 5%
Fe2O3 0 ~ 5%
の範囲の各成分を含有する原ガラスを熱処理することにより得られ、該ガラスセラミックの主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなるであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」
(d)段落【0009】と段落【0013】の記載を次のように訂正する。
「【0009】 すなわち、請求項1に記載の発明は、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲およびAl2O3=10%~20%未満の範囲であり、-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が、30×10-7~50×10-7/℃の範囲にあり、その主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項2に記載の発明は、Na2O,K2O,PbOを実質上含有しないことを特徴とする、請求項1に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項3に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板において、各主結晶相の結晶粒子径が0.05μm~0.30μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項4に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板において、主結晶相はβ-石英固溶体およびエンスタタイト,またはβ-石英固溶体およびフォルステライトからなることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項5に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板において、研磨後の表面の表面粗度Ra(算術平均粗さ)が3~9Å、表面最大粗さRmaxが100Å以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項6に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板は酸化物基準の重量百分率で、
SiO2 40 ~60%
MgO 10 ~20%
Al2O3 10 ~20%未満
P2O5 0.5~ 2.5%
B2O3 1 ~ 4%
Li2O 0.5~ 4%
CaO 0.5~ 4%
ZrO2 0.5~ 5%
TiO2 2.5~ 8%
Sb2O3 0.01~0.5%
As2O3 0 ~ 0.5%
SnO2 0 ~ 5%
MoO3 0 ~ 3%
CeO 0 ~ 5%
Fe2O3 0 ~ 5%
の範囲の各成分を含有する原ガラスを熱処理することにより得られ、該ガラスセラミックの主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項7に記載の発明は、前記ガラスセラミックスは、ガラス原料を溶融、成型および徐冷後、結晶化熱処理条件として核形成温度が650℃~750℃、結晶化温度が750℃~1050℃で熱処理することにより得られことを特徴とする、請求項6記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板の製造方法であり、請求項8に記載の発明は、請求項1~7のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板上に磁気媒体被膜を形成して成る情報磁気記憶媒体ディスクである。尚、本明細書において固溶体とは、前記各結晶にその他の成分が一部、置換および/または侵入したものを指す。」
「【0013】 本発明において主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴としている。これは上記結晶相が、良好な加工性を有し、剛性増加にも寄与し、比較的低比重とすることができ、更に、析出結晶粒径が非常に微細にとすることができるという有利な面があるためである。尚、前記各結晶相において、β-石英,エンスタタイト,フォルステライトの各結晶相の析出とその割合は、MgO,SiO2の含有割合により、またこれら3結晶相とこれら3結晶相の固溶体相の析出とその割合は、MgO,SiO2とその他の成分の含有割合により決定される。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(a)の訂正は、発明の詳細な説明の段落【0016】および請求項1に従属する請求項4に記載されている熱膨張係数を、構成として請求項1に付加したものであり、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。 なお、請求項2,3は形式的には訂正されていないけれども、請求項1を引用しているが故に実質的にかかる構成の限定が付加されるものであるところ、請求項4において請求項2,3を引用していることから、請求項2,3も実質的な特許請求の範囲の減縮に該当するものといえる。 また、「・・である」を「・・からなる」と訂正することは、明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
上記(b)の訂正は、請求項4で引用されていた請求項1の主結晶相の選択肢を特定したものであり、かつ、「主結晶相はβ-石英固溶体およびエンスタタイト,またはβ-石英固溶体およびフォルステライトからなる」ことは実施例に記載されていたことであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
上記(c)の訂正は、「・・である」を「・・からなる」と訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
上記(d)の訂正は、上記(a)~(c)の訂正により付随的に生じる記載の不備を解消するものであり、明瞭でない記載の釈明に該当する。
そして、こられの訂正はいずれも、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立について
1.特許異議の申立の概要
特許異議申立人・ホーヤ株式会社は、下記の甲第1~8号証(なお、甲第4号証は1~3の枝番がある)を提出し、
(i)第1異議理由として、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、または、甲第1号証に記載された発明に甲第4号証の1~3の記載を考慮すれば進歩性を欠く発明であるので、特許法第29条第1項乃至第2項の規定に違反して特許されたものであり、その特許は取り消されるべきである旨主張し、
(ii)第2異議理由として、請求項2~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、または、甲第1号証に記載された発明に甲第5~6号証の記載を考慮すれば進歩性を欠く発明であるので、特許法第29条第1項乃至第2項の規定に違反して特許されたものであり、その特許は取り消されるべきである旨主張し、
(iii)第3異議理由として、請求項1に係る発明は、本件出願の出願日(優先日)前に出願され、本件出願の出願日(優先日)後に公開された他人の出願である甲第7号証の当初明細書に記載された発明であって、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、その特許は取り消されるべきである旨主張し、
(iv)第4異議理由として、本願明細書は、その記載に不備があり、特許法第36条の規定に違反して特許されたものであるから、その特許は取り消されるべきである旨主張している。

甲第1号証:米国特許第5491116号明細書
(以下、「刊行物1」という。)
甲第2号証:「実験成績証明書(その1)」 異議申立人ホーヤ株式会社
提示の甲第1号証の追試実験報告書
(以下、「実験成績証明書1」という。)
甲第3号証:特開平9-77531号公報
(以下、「刊行物7」という。)
甲第4号証の1:特開平10-1327号公報
(以下、「刊行物2」という。)
甲第4号証の2:(株)オハラ製「ハードディスク用ガラスセラミックス サブストレート TS-10 ST」カタログ(1997年3月)
(以下、「刊行物3」という。)
甲第4号証の3:「DISKCON'96 JAPAN INTERNATIONAL DISK FORUM
April 18-19」(1996年)
(以下、「刊行物4」という。)
甲第5号証:「GLASS SCIENCE AND TECHNOLOGY,4 THE TECH-
NOLOGY OF GLASS AND CERAMICS」第228~237頁
(1983年) (以下、「刊行物5」という。)
甲第6号証:「Journal of Non-Crystalline Solids」第219~
227頁(1997年) (以下、「刊行物6」という。)
甲第7号証:WO98/22405(以下、「先願A」という。)
甲第8号証:「実験成績証明書(その2)」 異議申立人ホーヤ株式会社 提示の甲第7号証の追試実験報告書
(以下、「実験成績証明書2」という。)

2.本件発明
特許第3006547号の請求項1~8に係る発明(以下順に、「本件発明1」~「本件発明8」という。)は、それぞれ、平成13年1月25日付け訂正明細書の請求項1~8に記載された事項により特定される次とおりのものである。
「【請求項1】 情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲およびAl2O3=10重量%~20重量%未満の範囲にあり、-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が、30×10-7~50×10-7/℃の範囲にあり、その主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項2】 Na2O,K2O,PbOを実質上含有しないことを特徴とする、請求項1に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項3】 前記ガラスセラミック基板において、各主結晶相の結晶粒子径が0.05μm~0.30μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項4】 前記ガラスセラミック基板において、主結晶相はβ-石英固溶体およびエンスタタイト,またはβ-石英固溶体およびフォルステライトからなることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項5】 前記ガラスセラミック基板において、研磨後の表面の表面粗度Ra(算術平均粗さ)が3~9Å、表面最大粗さRmaxが100Å以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項6】 前記ガラスセラミック基板は酸化物基準の重量百分率で、
SiO2 40 ~60%
MgO 10 ~20%
Al2O3 10 ~20%未満
P2O5 0.5~ 2.5%
B2O3 1 ~ 4%
Li2O 0.5~ 4%
CaO 0.5~ 4%
ZrO2 0.5~ 5%
TiO2 2.5~ 8%
Sb2O3 0.01~0.5%
As2O3 0 ~ 0.5%
SnO2 0 ~ 5%
MoO3 0 ~ 3%
CeO 0 ~ 5%
Fe2O3 0 ~ 5%
の範囲の各成分を含有する原ガラスを熱処理することにより得られ、該ガラスセラミックの主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項7】 前記ガラスセラミックスは、ガラス原料を溶融、成型および徐冷後、結晶化熱処理条件として核形成温度が650℃~750℃、結晶化温度が750℃~1050℃で熱処理することにより得られことを特徴とする、請求項6に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板の製造方法。
【請求項8】 請求項1~7のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板上に磁気媒体被膜を形成して成る情報磁気記憶媒体ディスク。」

3.異議申立人が提出した甲各号証(刊行物1~7,実験成績証明書1,2)の記載および発明
刊行物1には、
(1-i)アブストラクとして、情報ディスクサブストレートのようなガラスセラミック物品、およびその作成方法にかかり、該ガラスセラミックは、Mg-リッチのピロキセンとスピネル型の優勢結晶相を有し、本質的に35-60%のSiO2と10-30%のAl2O3、12-30%のMgO、0-10%のZnO、5-20%のTiO2、0-8%のNiOからなる少なくとも92%の組成を有する旨(第1頁アブストラクト参照)、
(1-ii)次に、本発明の基本的目的は、公知のスピネル型物質を改良する修正されたガラスセラミック物質を提供することにあり、特に、そのような物質を提供する目的は、容易に磨くことができる一方、技術的特性を維持しまたは改良することにある旨(第2欄33~38行参照)、
(1-iii)発明の要約として、本願発明のガラスセラミック物質は、・・・(中略)・・・の物性を示し、1つの高いケイ素残ガラスマトリックス中に均一に分散するMg-リッチのピロキセン結晶相とスピネル型結晶相を優勢結晶相として有し、酸化物を基準にして重量計算で本質的に35-60%のSiO2と10-30%のAl2O3、12-30%のMgO、0-10%のZnO、5-20%のTiO2、0-8%のNiOからなる少なくとも92%の1組成を有する旨(第2欄41~52行参照)、
(1-iv) 現在の発明は、我々の先行出願に開示されたスピネル型ガラスセラミックスを改良しようとするものであり、特に、我々の努力は、この物資の研磨特性を改良する事、更に、他の関連した特性を維持し又は改良することに向けられている旨。 我々は今や、スピネル型の優勢結晶相(MgAl2O4)に加えて、Mg-リッチのピロキセン、即ち、エンスタタイト(MgSiO3)に近い固溶体、を優勢結晶相に導入することができることを見出した旨。 このことは、我々の先行する組成物群のAl2O3とZnOの含量を低減させること、およびMgO含量を増加させることによって達成でき、明らかに、2つの物質の主たる酸化物成分は、本質的に同じであるが、ある種含量は本質的に変化している旨。 非常に驚くべきことに、マイナー変化では、改良された技術特性を有する新規な優勢結晶相を作り出すことが出来ないが、半分の時間で超微細研磨面を得ることができることになる旨(第2欄55行~第3欄6行参照)、
(1-v)特に、該ガラス材は、約300℃/時間の昇温で約750-50℃に加熱され、そのあと核化の高い程度を達成するために十分な時間維持し、一度核化されたなら、ガラス材は約300℃/時間の昇温で約900~1100℃に加熱される旨(第3欄40~47行参照)、
(1-vi)更に特に、形成されたガラスセラミック物品は、1つの結晶相の集団を示すことになり、その集団は均一サイズのスピネルとピロキセンの超微粉粒の結晶の優勢状態である旨。 ここで使用されている優勢は、スピネルとピロキセンのそれぞれの結晶が他の付属の結晶相よりも多い量であることを意味し、本発明のガラスセラミックよって示されることになる旨。 好ましくは、該スピネル結晶相は、アルミニウム塩(MgAl2O4)であり、該ピロキセン相はエンスタタイト若しくは類似の固溶体である旨(第3欄53~62行参照)、
(1-vii)結晶含量は、本質的に1つのガラスマトリックスであるガラスセラミック物品の重量%で25%~70%の範囲にあり、該スピネルとピロキセンの相は優勢である旨。 しかしながら、集合体はまた意味がある量のマグネシウムチタネート(MgTi2O5)若しくはマグネシウムアルミニウムチタネート結晶の固溶体MgTi2O5-Al2TiO5を含有している旨(第3欄63行~第4欄2行参照)、
(1-viii)結晶サイズは、組成物のある量と結晶化サイクルに依存し、一般に、スピネル結晶は、最も大きいおおきさで約500Åより大きくなく、ピロキセン結晶は、それよりやや大きいが約1500Åより大きくない旨(第4欄6~10行参照)、
(1-ix)スピネル、エンスタタイト、チタネートのメジャー相は、マイナー量のルチル(TiO2)、ペタライト固溶体(s.s.)を伴い、β-石英、α-石英又はコーディエライトを含有している旨(第4欄21~24行参照)、
(1-x)現在の発明の微粉砕されたナノ結晶のガラスセラミックスは、我々の確定していない関連出願に開示されたその優勢なスピネルガラスセラミックスに比べて、幾つかの重要な利点を提供すると共に、明らかな不利益を示さない旨。 この理由は、初期の物質のスピネル型結晶相が、現在の物質の優勢結晶相に保持されるためであり、同時に、新規なエンスタタイト固溶体はまたナノ結晶の性質である旨(第4欄25~33行参照)、
(1-xi)現在のガラスセラミックスは、改良された強靱さと、タフネス値の両方を提供し、摩耗されたサンプルの破断弾性値(MOR)は、一貫して15,000psiを越えていて、破砕タフネス値は、1.0MPam1/2を越え、しばしば1.5を越える旨(第4欄34~38行参照)、
(1-xii)現在のガラスセラミックスの高いMgO量のものは、高いヤング弾性値(弾性のモジュラス)を示し、一般に20Msiを越える旨。 また、現在の物質の減少されたスピネルの含有量にもかかわらず、775を越えるKnoopハードネス値は典型的に見出される旨。 現在のガラスセラミックスの最も重要な特性は、商業的見地からみて、その容易に研磨出来る性質である旨(第4欄45~51行参照)、
(1-xiii)TABLEIは、種々の前駆体ガラスのための一連の組成物を提示し、それらから現在の発明を例証するためのガラスセラミックスが製造され、これらの組成物は、酸化物に基づいて計算され,適切な重量%で示される旨。 TABLEIの各組成に対応するバッチは、砂、金属酸化物、炭酸塩、硝酸塩のような典型的なバッチ物質で採用されるように明確化されている旨。 TABLEIに、実施例番号1,3,8,9,10,11,14として、順に、SiO2が47.1重量%(以下省略),47.5,46.8,47.5,47.8,48.0,48.0であり、Al2O3 が22.1,17.0,16.7,17.2,17.0,18.4,19.0であり、MgOが16.9,20.3,19.6,20.1,19.0,20.0,19.0であり、その他ZnO,TiO2などが含有された例が示され、TABLEIIに、番号3,8,9,10,11のE-モジュラス(×106psi)が22,21.2,22.7,21.2,21.5であること、αT(×10-7/℃)に関して実施例番号1が66.9であること(第5欄13~20行、第5欄のTABLEI,第6欄のTABLEII参照)、
(1-xiv)バッチ物質は均一な混融状態になるように徹底的に混合され、結局はシリカ及び/又は白金のルツボに入れられ、該ルツボは、炉に入れられ、そのガラスバッチは、次に溶融され、6~16時間の間1500~1650℃の温度に維持され、その溶融体は、スチール鋳型に注がれ、10×20×11/4cm(4”×8”×1/2)の大きさの板状に成形した旨。 次いで、これらの板は、直ちに約650~750℃でアニール処理を行った旨。 サンプルは、この温度に1~3時間維持し、次いで一晩放置し、2つのガラス試験片はそれぞれの溶融を行うべく準備した旨。 その試験片の片方は、異なった熱処理スケジュールを行いガラスセラミックス、即ち結晶化ガラスの試験片とし、試験片のいずれも800℃まで加熱され、2時間保持し、その温度でガラスを核化する旨。 一方は、1025℃まで加熱し、4時間保持して、結晶化させ、もう一方は、975℃まで加熱して、4時間保持し、均一な結晶化ガラスとする旨、得られた試験片について幾つかの関連する特性を測定して、TABLEIの実施例番号に対応させて、TABLEIIに記載している旨(第5欄下から25行~末行参照)、
(1-xv)更に、次の点を認識すべきであり、種々の熱処理サイクルと組成物は、異なった微細構造または結晶相の集合を製造するために採用することが出来る旨。 しかしながら、TABLEIの示された全ての例は、スピネルとMg-リッチピロキセン結晶を優勢結晶相として生じる旨(第6欄下から30行~下から24行参照)、
(1-xvi)注意すべきことは、ここに開示された該発明のガラスセラミックス物質が示す性質は、ヘッドパッドと剛性情報ディスクの磁気メモリーストレッジデバイスに使用するのに優れて適切なものにする旨。 特に、そのガラスセラミックスは、その表面に磁気媒体の一層を設ける剛性ディスクの下層として剛性情報ディスクに使用することが出来る旨。 換言すれば、下層は、優勢なスピネルとピロキセン結晶からなる結晶相集合を示す該発明のガラスセラミックス物質からなる旨(第6欄下から23行~下から14行参照)、
(1-xvii)1.少なくとも約15,000psiのMOR、少なくとも約760KHNより大きいKnoopハードネス値、約20×106psiのヤング弾性率、1.0MPam1/2より大きい破砕タフネス値を示し、結晶相集合体が優勢量の(M2)(M1)Si2O6、M2は6~8酸素原子を配位し、M1は8配位する、で表されるマグネシウム含有のピロキセン構造とスピネル結晶が、高シリコン残のガラスマトリックス相に分散したガラスセラミックス物品であって、その物品は、酸化物に基づく重量%で35-60%SiO2,10-30%Al2O3,12-30%MgO,0-10%ZnO,5-20%TiO2及び0-8%NiOで本質的に表される少なくとも92%の全組成を有するものである物品(第6~7欄の請求項1参照)、
(1-xviii)16.その表面に磁気媒体を形成したサブストレートからなる磁気記憶ディバイスに使用される剛性情報ディスクであって、該サブストレートは、少なくとも約15,000psiのMOR、少なくとも約760KHNより大きいKnoopハードネス値、約20×106psiのヤング弾性率、1.0MPam1/2より大きい破砕タフネス値を示し、結晶相集合体が優勢量の(M2)(M1)Si2O6、M2は6~8酸素原子を配位し、M1は8配位する、で表されるマグネシウム含有のピロキセン構造とスピネル結晶が、高シリコン残のガラスマトリックス相に分散したガラスセラミックスからなり、酸化物に基づく重量%で35-60%SiO2,10-30%Al2O3,12-30%MgO,0-10%ZnO,5-20%TiO2及び0-8%NiOで本質的に表される少なくとも92%の全組成を有するものであるガラスセラミックスからなっているディスク(第8欄請求項16参照)、が記載されている。
以上の記載から、ピロキセンがエンスタタイトまたは類似の固溶体である((1-iv)参照)こと、剛性が高剛性と認められること、サブストレートは基板のことであること、優勢な結晶相は主結晶相と認められることを考慮して、刊行物1には、「情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、Al2O3=10重量%~30重量%の範囲にあり、主結晶相は、スピネルとエンスタタイトまたは類似の固溶体を含有することを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」の発明が記載されている。

刊行物2には、
(2-i)「【請求項1】 基板材料として、オキシナイトライドガラスを用いたことを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板」(請求項1参照)、
(2-ii)表1に、実施例のオキシナイトライドガラス基板として、実施例1としてSiO2が41(mol%、以下記載省略),Al2O3が2.0,Al2N2が6.0,Si3N4が4.0,Y2O3が7.0であり、実施例2としてSiO2が35,Al2N2が4.0,Si3N4が13で、CaOが43で、MgOが5.0であり、実施例3としてSiO2が32.5で、Y2O3が0.5で、CaOが32で、AlNが35であるものが示され、その物性として、実施例1~3順に、比重(g/cm2)が3.38,2.91,2.94,ヤング率(kgf/mm2)が185.7,156,139,比弾性率(106Nm/kg)が54.8,53.6,47.3であること(段落【0073】参照)、
(2-iii)「【0074】 表1からも明らかなように、実施例1~3のガラス基板はガラス転移点が高いため、所望の熱処理に対しても十分に対応できる程度に耐熱性があることがわかる。また、ヤング率、比弾性率、曲げ強度、ヌープ硬さ等の値が大きく、強度が高いことがわかる。特に、比弾性率が大きいことから、磁気記録媒体用ガラス基板として使用した場合、このガラス基板が高速回転しても、基板に反りやブレが生じにくく、より基板の薄板化にも対応できることがわかる。さらに、表面粗度(Ra)を4オングストローム程度にすることができ、平坦性に優れているので、高密度記録化を図ることができ、磁気記録媒体用ガラス基板として有用である。」(段落【0074】参照)ことが、記載されている。

刊行物3には、
ハードディスク用ガラスセラミックスサブストレートであるハードセラムTS-10STに関して、
(3-i)「ハードセラムTS-10シリーズは、オハラが世界に先駆けて新しく開発したハードディスク用ガラスセラミックスです。 ガラスセラミックスは、特殊な化学組成のガラスを熱処理することで、ガラス内部に微細な結晶を多数析出させたもので、析出結晶の種類、大きさおよび結晶量を厳密にコントロールすることにより、機械的・熱的・化学的・電気的性質を通常のガラスより著しく向上させた、優れた特性を持つ材料です。」(2枚目左欄の上参照)、
(3-ii)「熱膨張係数は、他のハードディスク駆動部品とうまく組み合わせることができるように調整してあります。」(2枚目左欄の中ほど参照)、
(3-iii)特長として「弾性・強度・硬度等の機械的特性が優れているため、ハードディスクドライブの高速回転に対して、変形等の問題がなく使用でき、1000G以上の耐ショック性を有し、かつ耐傷性に優れています。」(2枚目右下欄)、
(3-iv)TS-10STの物性として、SP(スーパーポリッシュ)の場合とCPT(結晶相Texture)の場合に、順にSpecific Gravity(g/cc)が2.40,2.41で、Modulus of Elasticity(GPa)が95,100で、Specific Modulus(E/D)が39,41で、Coeff. Thermal Expansion(-50~+70)(ppm/℃)が6.5,7.3であること(6枚目の表参照)、が記載されている。
なお、この刊行物は、本件特許権者にかかるパンフレットであるところ、公知刊行物であるとした点に関して格別の反論はなされていない。

刊行物4は、
アルミニウム・ホウ素・カーバイド(AlBC)に関する論文であり、その従来技術の説明の箇所において、密度がそれ自身問題が無くても、全ての材料の比弾性率は、剛性、基本共鳴振動数および共振動にとって重要であり、これらの共振動は、ディスクの回転によって発生し、比弾性率は、ディスク回転数が10,000rpm以上に増加したときに特に重要である旨(第1頁下から7行~下から3行)記載されている。

刊行物5には、
(5-i)TABLE23.中に、主たるタイプのガラスセラミックスについての物性が記載されていて、MgO-Al2O3-SiO2(核化剤 TiO2、P2O2)の系は、主結晶相がコーディエライトであって、熱膨張率(α×107)が20-40であり、電子機器の用途に用いる旨記載されている(第233頁のTABLE23参照)。

刊行物6には、
(6-i)ナノ結晶の微細構造は、エンスタタイトガラスセラミックスの場合にユニークであり、極度に研磨された表面を提供でき、その研磨面の平均粗さが5~10Åである旨(第219頁abstract参照)、
(6-ii)特に研磨面は約5Åの平均粗さであることが不可欠であり、これらのガラスセラミックスは機械的・化学的耐久性とともに平滑面や良好な剛性・硬度を有することが必須とされている携帯ディスクドライブのための磁気記憶での基板としての可能性を秘めている旨(第219頁右欄9~16行参照)が、記載されている。

刊行物7には、
(7-i)「【請求項1】 ヤング率が約14×106 から約24×106 psiまでの範囲にあり、破壊靭性が1.0 MPa・m1/2 より大きいガラスセラミック製品であって、ケイ質を多く含む残存ガラスマトリックス相中に均一に分散している均一な大きさの尖晶石型結晶から主になる結晶相集成体から構成され、酸化物基準の重量パーセントで表して、35-60%のSiO2 と、20-35%のAl2 O3 と、0-25%のMgOと、0-25%のZnOと、0-20%のTiO2 と、0-10%のZrO2と、0-2%のLi2 Oと、0-8%のNiOとから実質的になり、MgO+ZnOの合計が少なくとも約10%であり、BaO、CaO、PbO、SrO、P2O5 、B2 O3 、およびGa2 O3 からなる群より選択される5%までの任意の成分と、Na2 O、K2 O、Rb2 O、およびCs2 Oからなる群より選択される、0-5%のR2 Oと、0-8%の遷移金属酸化物とを含んでもよく、Al2O3 が約25%未満の量しか含まれない場合には、TiO2 +ZrO2 +NiOの合計量が5%以上である組成を有することを特徴とするガラスセラミック製品。」(【請求項1】参照)、
(7-ii)「【請求項9】 請求項1から7いずれか1項記載のガラスセラミック製品からなる、ヘッドパッドおよび剛性情報ディスクよりなる磁気記憶貯蔵装置に使用する基体であって、前記剛性情報ディスクが前記基体の表面に磁気媒体の層を有してなることを特徴とする基体。」(【請求項9】参照)が、記載されている。

先願Aは、
国際出願の日が1997年11月7日(優先権 1996年11月21日、米国)であり、国際公開日が1998年5月28日(国際公開番号WO98/22405)であって、指定国に日本国が記載されていて、特願平10-523707号(特表2001-504434号)として出願されているところ、その国際公開パンフレットには、
(A-i)ガラスセラミックス材料は、食器、・・・等の広範な製品に有用であることが判明しているが、最近、最終的に磁気ヘッドパッドと協同する情報ディスクとして用いられる、磁性媒体層をその上に形成できる基板としての剛性ガラスセラミックスディスクを製造するという関心が高まっている旨(本文第1頁14~17行参照)、
(A-ii)少なくともスピネルとエンスタタイトから選択される1つの相とβ-石英との微細な粒状微小構造からなる結晶相集合体を示すガラスセラミックス製品であって、該製品は、酸化物基準の重量%で表してTiO2+ZrO2の合計が9%以上となるように、40-65%のSiO2、10-40%のAl2O3、5-25%のMgO、0.5-4%のLi2O、5-15%のTiO2、および5%までのZrO2から実質的になる組成を有することを特徴とするガラスセラミックス製品(請求項1参照)、
(A-iii)結晶相組合せがβ-石英とエンスタタイトを含む旨(請求項5参照)、
(A-iv)本発明のガラスセラミックスは、幅広いセラミック化温度に亘り超微細粒径を有しており、粒径が0.1ミクロンを越える結晶がない旨。 スピネルと+β-石英のガラスセラミックスは半透明であり得るが、エンスタタイト+β-石英のガラスセラミックスは不透明であり、そのような微小結晶質により非常に滑らかに研磨された表面が提供され、原子間力顕微鏡(AFM)技術により測定した平均粗さの測定値は8Å以下である旨(第5頁25~30行参照)、
(A-v)β-石英-エンスタタイトガラスセラミックスはそれ自体で、例えばスピネル-エンスタタイトよりも早く研磨することができるのが分かった旨。 これは、おそらくスピネルに対するβ-石英の硬度が低いこと、ガラスセラミックスの結晶化度が高いこと、並びにβ-石英とエンスタタイトとの間の硬度差が少ないことによるものである旨(第6頁11~14行参照)、
(A-vi)実施例として、Al2O3の含有量が10重量%~20重量%未満の範囲にあるガラスセラミック(番号11,13,14,19,20,21,22,24)が記載され、かつその範囲にあるガラスセラミックスのヤング率が16~20.5×104psiであり、熱膨張係数CTE(×10-7/℃)が51~67.5であり、いずれも主結晶相がβ-石英とエンスタタイトを含有することが記載されている旨(TABLE1、2の実施例11,13,14,19~22,24参照)。 そして、番号1,2,23のガラスセラミックは、熱膨張係数(×10-7/℃)が38.5,45.7,<40であって、Al2O3の含有量が27.0,25.0,34.8であり、いずれも主結晶相がβ-石英とスピネルを含有している旨(第8~11頁のTable1~2参照)が、記載されている。
以上の記載から、剛性が高剛性と認められることを勘案して、先願Aの当初明細書には、「情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、Al2O3=10重量%~40重量%の範囲にあり、主結晶相は、β-石英とエンスタタイトからなることを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」の発明が開示されている。

実験成績証明書1は、
異議申立人ホーヤ株式会社のエレクトロオプティクスカンパニーのR&Dセンターの白川温子による甲第1号証(刊行物1)の実施例2,4,5,11,14の追試実験報告書(平成12年8月8日付け)であって、追試結果として、主結晶相がいずれもエンスタタイト(MgSiO3),エンスタタイト固溶体((Mg,Al)SiO3)およびチタン酸塩(Mg-(Al)-Ti系酸化物)であったこと、実施例5,14の追試では更に副結晶相としてルチル(TiO2)も同定されたことが記載され、ヤング率/比重が順に48.0,46.5,49.0,47.2,47.6であり、熱膨張係数(×10-7/℃;25-100℃)が順に65,62,71,65,66であったことが記載されている。 なお、スピネル結晶については記載がない。

実験成績証明書2は、
異議申立人ホーヤ株式会社のエレクトロオプティクスカンパニーのR&Dセンターの白川温子による甲第7号証(先願A)の実施例19,20,22,24の追試実験報告書(平成12年9月8日付け)であって、追試結果として比重(g/cc)が順に3.12,3.07,2.97,2.92であって、ヤング率(GPa)/比重が順に45.2,43.3,41.8,43.8となることが記載されている。

4.対比、判断
(1)本件発明1の特許について
(A)刊行物1記載の発明との対比、判断(第1および第2異議理由に関して)
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、Al2O3が10重量%~20重量%未満で重複しているから、両者は、「情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、Al2O3=10重量%~20重量%未満の範囲にあり、主結晶相は、エンスタタイトを含有することを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」の発明である点で一致している。
他方、本件発明1が、(i)ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲である点、及び、(ii)-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が30×10-7~50×10-7/℃の範囲にある点を、必須の構成としているのに対して、刊行物1記載の発明ではかかる点について言及していない点で、及び(iii)主結晶相に関して、本件発明1では、「β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなる」と限定しているのに対して、刊行物1記載の発明では「スピネルとエンスタタイトまたは類似の固溶体を含有する」としている点で相違する。
以下、この相違点について検討する。
ヤング率(GPa)/比重に関して、刊行物1記載の発明では言及していないので、特許異議申立人は、実験成績証明書1として刊行物1の実施例2,4,5,11,14の追試実験報告書を提出しているところ、測定された比重並びにヤング率などの測定結果から算出されるヤング率(GPa)/比重が46.5~49.0であることが示されている。ところが、該実験報告書には、刊行物1においてエンスタタイトと共に優勢な結晶として説明されているスピネル結晶について何ら言及していない点で適正な追試実験と認めることができないので、甲第2号証として提示された実験成績証明書1は採用できない。 次に、上記摘示のように、刊行物2(第6頁など)には、情報記録基板ガラスの比弾性率(即ち、ヤング率(GPa)/比重)が47.3~54.8程度の物性を有するものが、また刊行物3には、Specific Modulus(ヤング率(GPa)/比重に相当)が39,41程度の物性を有するものが、高速回転でも基板の反りやブレ、変形が生じにくいこと、刊行物4(1枚目)にはディスク回転により誘起される共振動に関しては10000rpm以上(即ち高速回転)になると比弾性率が重要であることが記載されている。 これらの記載は、情報記録媒体に用いる高剛性ガラスセラミックス基板においては、ヤング率(GPa)/比重を40程度にすることが重要であることを示している。 しかも、これらのことは本件発明1のヤング率(GPa)/比重を特定する理由である「情報磁気記憶媒体基板は高速回転時のたわみによるディスク振動を防止すべく、高剛性、低比重でなければならず、このため最適な基板のヤング率と比重の比はヤング率(GPa)/比重=37~63であることを発見し」(本件明細書段落【0008】参照)との説明と軌を一にしている。
熱膨張係数に関しては、刊行物1には、熱膨張係数(-50~+70℃で)が30×10-7~50×10-7/℃の範囲のものであることは記載されておらず、第6欄TableIIの実施例番号1(少なくともAl2 O3の含有量が本件発明1の含有量よりも多い)にデータが唯一記載されていて、66.9×10-7/℃であることが示されているところ、この数値も本件発明1で特定する範囲を満たしていない。 ところで、上記刊行物5において熱膨張係数が20×10-7~40×10-7/℃程度のガラスが記載されている、そして、情報記録媒体の基板に用いることを考慮すれば、基板の熱膨張係数が記録媒体の他の部分(記録層など)の熱膨張係数と同程度のものが望ましいことは当然に理解できるし、本件特許権者にかかる刊行物3(摘示(3-ii))には「熱膨張係数は、他のハードディスク駆動部品とうまく組み合わせることができるように調整してあります」と当然の如く記載されている。
しかしながら、刊行物1記載の発明は、結晶相としてスピネルとエンスタタイト(ピロキセン)を主体とするものであるのに対して、刊行物2ではオキシナイトガラスに関するものであり、刊行物3ではガラスセラミックスではあるもののどのような材質のものか記載されていないし、刊行物4については単に全ての材質についてと記載されているだけであり、刊行物5ではSiO2-MgO-Al2O3の結晶化ガラスについてのものであることから、果たして、刊行物2~5に記載も示唆もされていないスピネルとエンスタタイト(ピロキセン)を主結晶相とするガラスセラミックスを採用する場合にあって、ヤング率(GPa)/比重が37~63の範囲で、かつ熱膨張係数(-50~+70℃)が30×10-7~50×10-7/℃の範囲のものが存在し得るのか、また製造し得るのかはなはだ不明というしかない。
よって、前記(i)と(ii)の相違点は、実質的な相違点であり、かつ、当業者が容易に想到し得るものと言うことが出来ない。
(iii)の相違点については、もはや検討するまでもないけれども、本件発明1に関して本件発明の詳細な説明を検討しても、主結晶相として「β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体」以外のものから選択することは記載されておらず、むしろスピネル結晶については本件明細書段落【0006】において先行技術(刊行物7に相当)の好ましくない例として説明されていることを勘案すれば、本件発明1は、スピネル結晶など他の結晶を主結晶相として含有しないものと認められる。
ところで、刊行物6には、ガラスセラミックスの表面粗さを特定の範囲にすることが望ましいことが記載されているものの、ヤング率(GPa)/比重も熱膨張係数についての知見は示されていないし、また、刊行物7は、本件発明1及び刊行物1記載の発明の先行技術として提示されたものであり、Al2O3 含有量20~35重量%である尖晶石型結晶(スピネル結晶)を用いている点で本件発明1と本質的に相違しているから、これらの刊行物の記載を勘案しても上記判断を左右することが出来ない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物1記載の発明とはいえず、また、刊行物2~6の記載を勘案し、周知技術を勘案しても、刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得るということができない。

(B)先願A記載の発明との対比、判断(第3異議理由に関して)
異議申立人の先願Aを用いた異議理由は、訂正前の請求項1の発明のみに対するものであり、訂正後の請求項1の発明そのものと認められる訂正前の熱膨張係数を特定している請求項4の発明については何ら異議理由を説明していない。 ただ、請求項1の訂正を減縮と解釈している(特許権者もそのように主張している)ので、以下に検討する。
ところで、先願Aの国際公開日は1998年5月28日(平成10年5月28日)であって、本件の出願日は平成10年11月12日であるからその先願Aの公開日より後であるけれども、本件の優先権主張の日は平成10年2月26日,平成10年9月25日,平成10年10月15日であるから、最初の優先権主張日は先願Aの公開日より前であり、後の2件の優先権主張日は先願Aの公開日より後である。 なお、先願Aの出願日は1997年11月7日であって、本件いずれの優先権主張日よりも前であるから、先願Aの優先権主張の妥当性を検討する必要がない。
そこで、本件の最初の優先権主張の出願である特願平10-062192号の当初明細書(以下、「本件優先権1明細書」という。)に本件発明1~8の発明が開示されているか検討する。
本件優先権1明細書を検討すると、本件発明1の「情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲およびAl2O3=10重量%~20重量%未満の範囲にあり、」と「情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」の点は本件優先権1明細書の請求項1(この段落では、以下単に「請求項1」という、以下同様)に、「-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が、30×10-7~50×10-7/℃の範囲にあり、」の点は請求項6に、「その主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなる」点は請求項4に記載されている。 そして、本件発明2の「Na2O,K2O,PbOを実質上含有しない」点は請求項2に、本件発明3の「前記ガラスセラミック基板において、各主結晶相の結晶粒子径が0.05μm~0.30μmである」点は請求項5に記載され、本件発明4の「主結晶相はβ-石英固溶体およびエンスタタイト,またはβ-石英固溶体およびフォルステライトからなる」点は請求項4の選択肢の1つと認められる。 更に、本件発明5の「前記ガラスセラミック基板において、研磨後の表面の表面粗度Ra(算術平均粗さ)が3~9Å、表面最大粗さRmaxが100Å以下であること」の点は請求項7に、本件発明6の原ガラス組成の特定は請求項9に、本件発明7の製法の特定は請求項10に、本件発明8の情報磁気記憶媒体ディスクの特定は請求項11に記載されている。 請求項1,2,4,5,6,7,9,10,11は、いずれも先行する請求項(請求項3,8を除く)を引用していることを勘案すれば、本件発明1~8に係る発明は、特願平10-062192号の当初明細書に開示されていたものと認められる。
よって、本件の最初の優先権の主張は、本件発明1~8全てについて適法であるから、先願Aの国際公開パンフレットは、公知文献ではないので、以下特許法第29条の2の規定に違反するか否かを検討する。
本件発明1と先願A記載の発明を対比すると、Al2O3が10重量%~20重量%未満で重複しているから、両者は、「情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、Al2O3=10重量%~20重量%未満の範囲にあり、主結晶相は、β-石英とエンスタタイトからなることを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」の発明である点で一致している。
他方、本件発明1が、(i)ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲である点、及び、(ii)-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が30×10-7~50×10-7/℃の範囲にある点を、必須の構成としているのに対して、先願A記載の発明ではこのように特定していない点で相違する。
まず、熱膨張係数の点について検討する。
先願Aの当初明細書の実施例には熱膨張係数のデータが記載されているけれども、一般的な説明はなされていない。 そして、摘示の如く、Al2O3の含有量が10重量%~20重量%未満の範囲にあるガラスセラミック(番号11,13,14,19,20,21,22,24)の熱膨張係数(×10-7/℃)は51~67.5であって、本件発明1で特定する30×10-7~50×10-7/℃より大きいものしか記載されていないし、他にAl2O3の含有量が10重量%~20重量%未満の範囲にあるガラスセラミックスに関して、50×10-7/℃よりも低い熱膨張係数のものが得られることを示唆する記載も見いだせない。 50×10-7/℃よりも低い熱膨張係数のものが得られた例(番号1,2,23)は示されているけれども、いずれもAl2O3の含有量が20重量%以上の範囲(順に27.0,25.0,34.8重量%)にあるガラスセラミックであって、かつβ-石英とスピネルを主結晶相として含有するものであるから、それらのガラスセラミックの例は前記判断を左右するものではない。
してみると、前記(ii)の熱膨張係数の相違点は、実質的な相違点と認められる。
よって、前記(i)の相違点について検討するまでもなく、即ち、先願A発明の追試実験によって比重とヤング率(GPa)/比重を明らかにしようとする実験成績証明書2について検討し、勘案するまでもなく、本件発明1は、上記先願A当初明細書に記載された発明ということができない。

(2)本件発明2~本件発明8の特許について
本件発明2~本件発明8は、本件発明1の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する。 そうであるから、上記(1)で説示したと同様の理由により、刊行物1記載の発明と同一ではなく、刊行物2~7の記載を勘案しても刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得る発明であるとも認められず、また、先願Aの当初明細書に記載された発明ということもできない。

(3)第36条違反について(第4異議理由に関して)
特許異議申立人は、「本件請求項1に記載された「主結晶」の意味が不明」であり、「本件明細書の発明の詳細な説明にも「主結晶」についての説明が皆無である」点と「析出する結晶のうち、析出体積で最も多いものか、析出重量で最も多いものなのか不明」の点で記載不備がある旨主張しているので、この点について検討する。
主結晶相の意味に関して、特許権者は、「特定の発明を達成する上で必要か否かを基準として主結晶相とそうでない結晶を区別するものである」旨主張(平成13年7月9日付け回答書第2頁、平成13年1月25日付け意見書第9~10頁参照)すると共に、主結晶相に関して説明・定義することなくその用語を使用している文献を多数提示した。 特許異議申立人も平成13年6月29日付け回答書(第5頁参照)において、「主結晶」とは一般に「結晶化ガラスに、その発明の効果をもたらす結晶」をいい、明細書の記載や出願時の技術常識を参酌してその意義が導かれる旨主張していることから、両者の理解に本質的な相違がない。 かくの如く解釈が可能であることから、更に他に主結晶相に関して説明・定義することなくその用語を使用している文献が多数存在する状況も勘案すれば、単に主結晶についての説明が無いからといって、「主結晶」の意味が不明であるとまではいえない。
そして、前記解釈が可能である以上、析出体積と析出重量のいずれを意味するのか論じる必要性は認められない。
したがって、特許異議申立人の申し立てる記載不備の主張は失当であり、本件特許がその主張されている記載不備の点で特許法第36条第各項の規定に違反しているということができない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由および証拠によっては、本件発明1乃至本件発明8の特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1乃至本件発明8の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲およびAl2O3=10重量%~20重量%未満の範囲にあり、-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が、30×10-7~50×10-7/℃の範囲にあり、その主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項2】 Na2O,K2O,PbOを実質上含有しないことを特徴とする、請求項1に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項3】 前記ガラスセラミック基板において、各主結晶相の結晶粒子径が0.05μm~0.30μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項4】 前記ガラスセラミック基板において、主結晶相はβ-石英固溶体およびエンスタタイト、またはβ-石英固溶体およびフォルステライトからなることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項5】 前記ガラスセラミック基板において、研磨後の表面の表面粗度Ra(算術平均粗さ)が3~9Å、表面最大粗さRmaxが100Å以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項6】 前記ガラスセラミック基板は酸化物基準の重量百分率で、
SiO2 40 ~60%
MgO 10 ~20%
Al2O3 10 ~20%未満
P2O5 0.5~ 2.5%
B2O3 1 ~ 4%
Li2O 0.5~ 4%
CaO 0.5~ 4%
ZrO2 0.5~ 5%
TiO2 2.5~ 8%
Sb2O3 0.01~0.5%
As2O3 0 ~ 0.5%
SnO2 0 ~ 5%
MoO3 0 ~ 3%
CeO 0 ~ 5%
Fe2O3 0 ~ 5%
の範囲の各成分を含有する原ガラスを熱処理することにより得られ、該ガラスセラミックの主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。
【請求項7】 前記ガラスセラミックスは、ガラス原料を溶融、成型および徐冷後、結晶化熱処理条件として核形成温度が650℃~750℃、結晶化温度が750℃~1050℃で熱処理することにより得られことを特徴とする、請求項6に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板の製造方法。
【請求項8】 請求項1~7のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板上に磁気媒体被膜を形成して成る情報磁気記憶媒体ディスク。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、情報記憶装置に用いられる情報磁気記憶媒体用基板、特にランプロード方式で主に用いられる、ニアコンタクトレコーディングあるいはコンタクトレコーディングに対応した、超平滑な基板表面を有し、しかも高速回転に対応し得る高ヤング率・低比重特性を有する、磁気ディスク基板等の情報記憶媒体用ガラスセラミックス基板、およびこの情報磁気記憶媒体用ガラスセラミックス基板の製造方法、ならびに情報磁気記憶媒体用ガラスセラミックス基板に成膜プロセスを施し形成される情報磁気記憶媒体に関する。尚、本明細書において「情報磁気記憶媒体」とは、パーソナルコンピュータのいわゆるハードディスクとして使用されるような、固定型ハードディスク,リムーバル型ハードディスク,カード型ハードディスクや、データストレージやデジタルビデオカメラ・デジタルカメラにおいて使用可能なディスク状情報磁気記憶媒体を意味する。
【0002】
【従来の技術】
近年、従来の固定型情報磁気記憶装置に対して、リムーバル方式やカード方式等の情報磁気記憶装置が検討、実用段階にありデジタルビデオカメラ・デジタルカメラ等の用途展開も始まりつつある。この様な動向により、パーソナルコンピュータのマルチメディア化やデジタルビデオカメラ,デジタルカメラ等の普及が近年急速に進みつつあり、動画や音声等の大きなサイズのデータを扱うべく、大容量の情報磁気記憶装置が求められている。これに対応するため、情報磁気記憶媒体はビットおよびトラック密度を増加させ、ビットセルのサイズを縮小化して面記録密度を大きくしなければならず、一方磁気ヘッドはビットセルの縮少化に合わせディスク表面により近接して作動する、ニアコンタクトレコーディング、更にコンタクトレコーディング方式を採用する方向へ進みつつある。
【0003】
ところで、従来磁気ディスク用基板材として、アルミニウム合金が広く用いられているが、アルミニウム合金基板では、種々の材料欠陥の影響により、研磨工程における基板表面の突起またはスポット状の凹凸を生じ平坦性、平滑性の点で、前記の高密度磁気記憶媒体用基板として十分でなく、またアルミニウム合金は軟かい材料であるため、ヤング率、表面硬度が低いためドライブの高速回転において振動が激しく変形が生じやすく薄形化に対応することがむずかしいという問題も有している。更にヘッドの接触による変形傷を生じメディアを損傷させてしまう等、今日の高密度記録化に十分対応できない。
【0004】
一方、アルミニウム合金基板の問題点を解消する材料として、化学強化ガラスのアルミノシリケートガラス特開平8-48537、特開平5-32431(SiO2-Al2O3-Na2O)が知られているが、この場合、(1)研磨は化学強化後に行なわれ、ディスクの薄板化における強化層の不安定要素が高い。また強化相は、長期の使用において経時変化を発生し、磁気特性を悪化させてしまう。(2)ガラス中にNa2O,K2O成分を必須成分として含有するため、成膜特性が悪化し、Na2O,K2O溶出防止のための全面バリアコート処理が必要となり、製品の低コスト安定生産性が難しい欠点がある。(3)ガラスの機械的強度を向上させるために化学強化を行っているが、基本的に表面相と内部相の強化応力を利用するものであり、ヤング率は通常のアモルファスガラスと同等である83GPa以下と高速回転ドライブへの使用に限界がある等、やはり高密度磁気記憶媒体用基板としての特性は不十分である。
【0005】
更にアルミニウム合金基板や化学強化ガラス基板に対して、いくつかの結晶化ガラスが知られている。例えば、特開平9-35234号公報,EP0781731A1号公報に開示される磁気ディスク用ガラスセラミックス基板は、Li2O-SiO2系組成から成り、結晶相は二珪酸リチウムとβ-スポジューメン、あるいは二珪酸リチウムとβ-クリストバライトを析出させたものであるが、高速回転に対するヤング率と比重の関係を全く検討しておらず、何の示唆も与えていない。尚、この系のガラスセラミックスのヤング率は100GPaが限界である。
【0006】
これらの低ヤング率を改善すべく、特開平9-77531号公報にはSiO2-Al2O3-MgO-ZnO-TiO2系結晶化ガラスが開示されている。この結晶化ガラスは、主結晶相が多量のスピネル結晶で、副結晶としてMgTi2O5と他複数の結晶を含み、ヤング率が93.4~160.11GPaの結晶化ガラスおよびこの結晶化ガラスからなる磁気記憶用剛性ディスクを構成する基体であるが、この材料は主結晶相が(Mg/Zn)Al2O3および/または(Mn/Zn)2TiO4で表されるスピネル結晶(副結晶相においては他複数の結晶が選択可能)においてAl2O3を多量に含むものであり、後述する本発明のようにAl2O3の比較的少ない高ヤング率特性と低比重を兼ね備えた、ガラスセラミックスとは異なるものである。しかも、この様にAl2O3を多量に含むと、原ガラスの溶融性が低下したり、耐失透性が悪化する等の問題を生じ、生産上も好ましくなく、また、高速回転ドライブに必要なヤング率(GPa)/比重の関係や比重の値そのものについても全く検討されておらず、これらに対する示唆も何ら与えていない。特に比重については全て2.87以上と高いものとなっている。したがって、単に硬質な材料を提案しているにすぎない。しかもこの系の結晶化ガラスは硬度が高くなり過ぎるため、加工性が悪く量産性に劣るという大きな問題があり、高密度情報磁気記憶媒体用基板としての改善効果は不十分なものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記従来技術に見られる諸欠点を解消すべく、前記のような高記録密度化動向に対応し得る情報磁気記憶媒体用基板として、溶融性,耐失透性および加工性に優れ、高記憶密度のコンタクトレコーディング化に対応した基板表面の平滑性に優れると同時に、高速回転ドライブに対応した高ヤング率・低比重特性を兼ね備えた情報磁気記憶媒体用ガラスセラミックス基板、およびその製造方法ならびにこのガラスセラミック基板上に磁気媒体の被膜を形成してなる情報磁気記憶媒体を提供することにある。
【0008】
【課題を解消するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意試験研究を重ねた結果、高速回転ドライブに対応するためには、情報磁気記憶媒体基板は高速回転時のたわみによるディスク振動を防止すべく、高剛性、低比重でなけらばならず、このため最適な基板のヤング率と比重の比はヤング率(GPa)/比重=37~63であることを発見し、本発明に到達した。
また本発明者は、上記目的を達成するために主結晶相がβ-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上であることに限定され、且つ各析出結晶粒子は、いずれも微細な球状粒子形状であり、原ガラスの溶融性,耐失透性および研磨加工性に優れ、研磨後の表面もより平滑性に優れ、高速回転に対応した高ヤング率と低比重を兼ね備えている、情報磁気記憶媒体用ガラスセラミック基板が得られることを見い出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲およびAl2O3=10重量%~20重量%未満の範囲であり、-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が、30×10-7~50×10-7/℃の範囲にあり、その主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項2に記載の発明は、Na2O,K2O,PbOを実質上含有しないことを特徴とする、請求項1に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項3に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板において、各主結晶相の結晶粒子径が0.05μm~0.30μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項4に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板において、主結晶相はβ-石英固溶体およびエンスタタイト、またはβ-石英固溶体およびフォルステライトからなることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項5に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板において、研磨後の表面の表面粗度Ra(算術平均粗さ)が3~9Å、表面最大粗さRmaxが100Å以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項6に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板は酸化物基準の重量百分率で、
SiO2 40 ~60%
MgO 10 ~20%
Al2O3 10 ~20%未満
P2O5 0.5~ 2.5%
B2O3 1 ~ 4%
Li2O 0.5~ 4%
CaO 0.5~ 4%
ZrO2 0.5~ 5%
TiO2 2.5~ 8%
Sb2O3 0.01~0.5%
As2O3 0 ~ 0.5%
SnO2 0 ~ 5%
MoO3 0 ~ 3%
CeO 0 ~ 5%
Fe2O3 0 ~ 5%
の範囲の各成分を含有する原ガラスを熱処理することにより得られ、該ガラスセラミックの主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項7に記載の発明は、前記ガラスセラミックスは、ガラス原料を溶融、成型および徐冷後、結晶化熱処理条件として核形成温度が650℃~750℃、結晶化温度が750℃~1050℃で熱処理することにより得られことを特徴とする、請求項6記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板の製造方法であり、請求項8に記載の発明は、請求項1~7のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板上に磁気媒体被膜を形成して成る情報磁気記憶媒体ディスクである。尚、本明細書において固溶体とは、前記各結晶にその他の成分が一部、置換および/または侵入したものを指す。
【0010】
本発明のガラスセラミックの物理的特性,主結晶相と結晶粒径,表面性状,組成範囲を上記のように限定した理由を以下に示す。尚、組成については、原ガラスと同様酸化物基準で表示する。
【0011】
まずは、ヤング率および比重について述べる。前記のように、記録密度およびデータ転送速度を向上するために、情報磁気記憶媒体基板の高速回転化傾向が進行しているが、この傾向に対応するには、基板材は10000rev/分以上の高速回転時のたわみによるディスク振動を防止すべく、高剛性、低比重でなければならない。単に高剛性であっても、比重が大きければ、高速回転時にその重量が大きいことによってたわみが生じ、振動を発生する。逆に低比重でも剛性が小さければ、同様に振動が発生する。したがって、高剛性でありながら、低比重という一見相反する特性のバランスを取らなければならず、その範囲はヤング率(GPa)/比重=37~63であることが判った。好ましい範囲は、ヤング率(GPa)/比重=40~63であり、更に好ましい範囲はヤング率(GPa)/比重=47~63であり、最も好ましい範囲はヤング率(GPa)/比重=50~63である。尚、剛性についてもより好ましい範囲があり、例え低比重であっても前記振動発生問題の点からすると、少なくとも120GPa以上が好ましいが、基板の加工性や比重の増加から勘案して上限は150GPa以下が好ましい。比重についても同様で、前記振動発生問題の点からすると、例え高剛性であっても3.50以下でないと、その自重により高速回転時に基板の振動が発生しやすくなり、逆に比重が2.3未満では所望の剛性を有する基板を実質上得難い。この点を考慮した時の好ましい比重の範囲は2.5~3.3である。
【0012】
次にNa2O,K2O,PbO成分についてであるが、磁性膜の高精度化,微細化において、材料中にNa2O,K2O成分を含有すると、基板が高温となる成膜工程においてこれらのイオンが磁性膜中に拡散(特に成膜温度の高いバリウムフェライト垂直磁化膜では顕著である)し、磁性膜粒子の粗大化や配向性が悪化するため、これらの成分を実質的に含有しないことが重要である。また環境上好ましくないPbO成分も含有すべきではない。
【0013】
本発明において主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴としている。これは上記結晶相が、良好な加工性を有し、剛性増加にも寄与し、比較的低比重とすることができ、更に、析出結晶粒径が非常に微細にとすることができるという有利な面があるためである。尚、前記各結晶相において、β-石英,エンスタタイト,フォルステライトの各結晶相の析出とその割合は、MgO,SiO2の含有割合により、またこれら3結晶相とこれら3結晶相の固溶体相の析出とその割合は、MgO,SiO2とその他の成分の含有割合により決定される。
【0014】
次に析出結晶粒径と表面粗度についてであるが、先に述べたように、記録密度向上のためのニアコンタクトレコーディングやコンタクトレコーディング方式に対応するには、情報磁気記憶媒体の表面の平滑性が従来品よりも良好でなければならない。従来レベルの平滑性で磁気媒体への高密度入出力を行おうとしても、ヘッドと媒体間の距離が大きいため、磁気信号の入出力を行うことができない。またこの距離を小さくしようとすると、媒体の突起とヘッドが衝突し、ヘッド破損や媒体破損を引き起こしてしまう。この様な理由から、ニアコンタクトレコーディングやコンタクトレコーディング方式に対応するためには、ディスク用基板表面の平滑性は、表面粗度(Ra)=3~9Å,最大粗さ(Rmax)=100Å以下であることが必要である。好ましくは、表面粗度(Ra)=3~7Å,最大粗さ(Rmax)=95Å以下であり、更に好ましくは、表面粗度(Ra)=3~6Å,最大粗さ(Rmax)=90Å以下である。
【0015】
次にこれら析出結晶の粒子形態と粒径についてであるが,本願のようなガラスセラミックス基板のように高剛性で且つ超平滑性(データ領域で3~9Å)を有するガラスセラミックス基板を得るためには、その結晶粒子と形状が重要な因子となる。上記各結晶の結晶粒径より大きくても小さくても、所望の強度および表面粗度は得られない。
【0016】
次に熱膨張率についてであるが、ビットおよびトラック密度を増加させ、ビットセルのサイズを縮小化するにおいては、媒体と基板の熱膨張係数の差が大きく影響する。このため、-50~+70℃の温度範囲における熱膨張係数は、30×10-7~50×10-7/℃であることが必要である。
【0017】
次に、組成限定理由について述べる。尚、組成は全て重量%によるものである。
SiO2成分は、原ガラスの熱処理により、主結晶相として析出するβ―石英,β―石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体結晶を生成する極めて重要な成分であるが、その量が40%未満では、得られたガラスセラミックスの析出結晶が不安定で組織が粗大化しやすく、60%を超えると原ガラスの溶融・成型性が困難になる。尚、これら結晶相を析出するには熱処理条件も重要な因子となるが、より広い熱処理条件とすることができる、より好ましい範囲は48.5~58.5%である。
【0018】
MgO成分は、原ガラスの熱処理により、主結晶相として析出するβ―石英,β―石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体結晶を生成する極めて重要な成分であるが、その量が10%未満では、得られたガラスセラミックスの析出結晶が不安定で組織が粗大化しやすく、かつ溶融性が悪化する。また20%を超えると原ガラスの失透性・耐化学性が悪化する。尚、SiO2と同様の理由による、より好ましい範囲は12~18%である。
【0019】
Al2O3成分は、原ガラスの熱処理により、主結晶相として析出するβ―石英固溶体結晶を生成する極めて重要な成分であるが、その量が10%未満では、得られたガラスセラミックスの析出結晶が不安定で組織が粗大化しやすく、また20%以上では原ガラスの溶融性・失透性が著しく悪化する。尚、上記と同様の理由による、より好ましい範囲は12~18%である。
【0020】
P2O5成分は、ガラスの結晶核形成剤として機能する上に、原ガラスの溶融性、成型時の失透性を改善するのに効果的であるが、その量が0.5%未満では上記効果が得られず、また2.5%を超えると失透性が悪化する。尚、好ましい範囲は1~2%である。
【0021】
B2O3成分は、原ガラスの溶融成型時の粘度をコントロールするのに効果的であるが、その量が1%未満では上記効果が得られず、また4%を超えると原ガラスの溶融性が悪化しガラスセラミックスの析出結晶が不安定で組織が粗大化してしまう。尚、好ましい範囲は1~3%である。
【0022】
Li2O成分は、原ガラスの熱処理により主結晶相として析出する、β―石英固溶体結晶を生成する上に、原ガラスの溶融性を改善する極めて重要な成分であるが、その量が0.5%未満では上記効果が得られず、また4%を超えるとガラスセラミックスの析出結晶が不安定で組織が粗大化してしまう。尚、好ましい範囲は1~3%である。
【0023】
CaO成分は、ガラスの溶融性を向上させるのと同時に析出結晶の粗大化を防止する成分であるが、その量が0.5%未満では上記効果が得られず、また4%を超えると所望とする結晶が得難くなりガラスセラミックスの結晶が粗大化し耐化学性も悪化する。尚、好ましい範囲は1~3%である。
【0024】
ZrO2成分およびTiO2成分は、ガラスの結晶核形成剤として機能する上に、析出結晶の微細化と材料の機械的強度向上、および耐化学性の向上に顕著な効果を有することが見出された極めて重要な成分であるが、ZrO2成分が0.5%、TiO2成分が2.5%未満では上記効果が得られず、またZrO2成分が5%、TiO2成分が8%を超えると原ガラスの溶融が困難となるのと同時にZrSiO4等が発生し溶け残りが生じてしまったり、原ガラスの耐失透性が低下し、これによって結晶化工程において結晶粒の異常粒子成長を引き起こしてしまう。尚、好ましい範囲は、TiO2とZrO2の合計量が9%以下であり、更に好ましい範囲は、ZrO2=1~4%、TiO2=3~7.5%、TiO2とZrO2の合計量が3~8%である。
【0025】
Sb2O3,As2O3成分は、ガラス溶融の際の清澄剤として添加し得るが、これらの1種または2種の合計量は2.0%までで十分である。
【0026】
SnO2,MoO3,CeO,Fe2O3成分は、ガラスの着色剤または着色することによる表面欠陥の検出感度の向上、およびLD励起固体レーザーの吸収特性を向上させるために各成分の合計で5%まで添加し得る。SnO2成分は5%、MoO3成分は3%以内が好ましい。尚、SnO2、MoO3成分は、熱処理前のガラス状態では透光性があるが、熱処理結晶化後に着色化するという重要な成分である。
【0027】
そして本発明の情報磁気記憶媒体用ガラスセラミック基板を製造するには、上記の組成を有するガラスを溶解し、熱間成形および/または冷間加工を行った後650℃~750℃の範囲の温度で1~12時間熱処理して結晶核を形成し、続いて750℃~1050℃の範囲の温度で約1~12時間熱処理して結晶化を行う。
【0028】
【発明の実施の形態】
次に本発明の好適な実施例について説明する。表1~表6は本発明の磁気ディスク用ガラスセラミック基板の実施組成例(No.1~14)および比較組成例として従来の化学強化ガラスのアルミノシリケートガラス(特開平8-48537号公報)を比較例1,Li2O-SiO2系ガラスセラミックス(特開平9-35234号公報)を比較例2,SiO2-Al2O3-MgO-ZnO-TiO2系結晶化ガラス(特開平9-77531号公報)を比較例3として、その組成,核形成温度,結晶化温度,結晶相,結晶粒子径,ヤング率,比重,ヤング率(GPa)/比重,研磨後の表面粗度(Ra),最大表面粗さ(Rmax),-50~+70℃における熱膨張係数を示す。尚、β-石英固溶体はβ-石英SSと表している。尚、組成については全て重量%で表示したものである。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
【表6】

【0035】
本発明の上記実施例のガラスは、いずれも酸化物,炭酸塩,硝酸塩等の原料を混合し、これを通常の溶解装置を用いて約1350~1490℃の温度で溶解し攪拌均質化した後ディスク状に成形して、冷却しガラス成形体を得た。その後これを650~750℃で約1~12時間熱処理して結晶核形成後、750~1050℃で約1~12時間熱処理結晶化して、所望のガラスセラミックを得た。ついで上記ガラスセラミックを平均粒径5~30μmの砥粒にて約10分~60分ラッピングし、その後平均粒径0.5~2μmの酸化セリュームにて約30分~60分間研磨し仕上げた。
【0036】
表1~6に示されるとおり、本発明と従来のアルミノシリケート化学強化ガラス,Li2O-SiO2系ガラスセラミックス,SiO2-Al2O3-MgO-ZnO-TiO2系ガラスセラミックスの比較例とでは、ガラスセラミックスの結晶相が異なり、ヤング率と比重の関係においても、アルミノシリケート化学強化ガラス,Li2O-SiO2系ガラスセラミックスに比較し高剛性もしくは低比重である。本比較例における、比較的高剛性・低比重のSiO2-Al2O3-MgO-ZnO-TiO2系ガラスセラミックスは、非常に硬質な材料であるために、表面粗度において所望の値が得られなかった。これに対し本発明のガラスセラミックスは加工性に優れ、目的とする平滑性が充分得られ、加えて、結晶異方性,異物,不純物等の欠陥がなく組織が緻密で均質・微細であり、種々の薬品や水による洗浄、あるいはエッチングにも耐え得る化学的耐久性を有するものであった。
【0037】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、上記従来技術に見られる諸欠点を解消しつつ、溶融性,耐失透性および加工性に優れ、高記憶密度のコンタクトレコーディング化に対応した基板表面の平滑性に優れると同時に、高速回転ドライブに対応した高ヤング率・低比重特性に兼ね備えた情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板およびその製造方法ならびにこのガラスセラミック基板上に磁気媒体の被膜を形成してなる情報磁気記憶媒体を提供することができる。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(a)特許請求の範囲の請求項1を、減縮並びに明瞭でない記載の釈明を目的として次のとおりに訂正する。
「【請求項1】 情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲およびAl2O3=10重量%~20重量%未満の範囲にあり、-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が、30×10-7~50×10-7/℃の範囲にあり、その主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」
(b)特許請求の範囲の請求項4を、減縮を目的として次のとおりに訂正する。
「【請求項4】 前記ガラスセラミック基板において、主結晶相はβ-石英固溶体およびエンスタタイト,またはβ-石英固溶体およびフォルステライトからなることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」
(c)特許請求の範囲の請求項6を、明瞭でない記載の釈明を目的として次のとおりに訂正する。
「【請求項6】 前記ガラスセラミック基板は酸化物基準の重量百分率で、
SiO2 40 ~60%
MgO 10 ~20%
Al2O3 10 ~20%未満
P2O5 0.5~ 2.5%
B2O3 1 ~ 4%
Li2O 0.5~ 4%
CaO 0.5~ 4%
ZrO2 0.5~ 5%
TiO2 2.5~ 8%
Sb2O3 0.01~0.5%
As2O3 0 ~ 0.5%
SnO2 0 ~ 5%
MoO3 0 ~ 3%
CeO 0 ~ 5%
Fe2O3 0 ~ 5%
の範囲の各成分を含有する原ガラスを熱処理することにより得られ、該ガラスセラミックの主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなるであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板。」
(d)上記訂正事項(a)~(c)の訂正に付随的に生じる記載の不備を解消するため、段落【0009】と段落【0013】の記載を次のように訂正する。
「【0009】 すなわち、請求項1に記載の発明は、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミック基板において、ヤング率(GPa)/比重=37~63の範囲およびAl2O3=10%~20%未満の範囲であり、-50~+70℃の範囲における熱膨張係数が、30×10-7~50×10-7/℃の範囲にあり、その主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項2に記載の発明は、Na2O,K2O,PbOを実質上含有しないことを特徴とする、請求項1に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項3に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板において、各主結晶相の結晶粒子径が0.05μm~0.30μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項4に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板において、主結晶相はβ-石英固溶体およびエンスタタイト,またはβ-石英固溶体およびフォルステライトからなることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項5に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板において、研磨後の表面の表面粗度Ra(算術平均粗さ)が3~9Å、表面最大粗さRmaxが100Å以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項6に記載の発明は、前記ガラスセラミック基板は酸化物基準の重量百分率で、
SiO2 40 ~60%
MgO 10 ~20%
Al2O3 10 ~20%未満
P2O5 0.5~ 2.5%
B2O3 1 ~ 4%
Li2O 0.5~ 4%
CaO 0.5~ 4%
ZrO2 0.5~ 5%
TiO2 2.5~ 8%
Sb2O3 0.01~0.5%
As2O3 0 ~ 0.5%
SnO2 0 ~ 5%
MoO3 0 ~ 3%
CeO 0 ~ 5%
Fe2O3 0 ~ 5%
の範囲の各成分を含有する原ガラスを熱処理することにより得られ、該ガラスセラミックの主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板であり、請求項7に記載の発明は、前記ガラスセラミックスは、ガラス原料を溶融、成型および徐冷後、結晶化熱処理条件として核形成温度が650℃~750℃、結晶化温度が750℃~1050℃で熱処理することにより得られことを特徴とする、請求項6記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板の製造方法であり、請求項8に記載の発明は、請求項1~7のいずれかに記載の情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板上に磁気媒体被膜を形成して成る情報磁気記憶媒体ディスクである。尚、本明細書において固溶体とは、前記各結晶にその他の成分が一部、置換および/または侵入したものを指す。」
「【0013】 本発明において主結晶相は、β-石英,β-石英固溶体,エンスタタイト,エンスタタイト固溶体,フォルステライト,フォルステライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴としている。これは上記結晶相が、良好な加工性を有し、剛性増加にも寄与し、比較的低比重とすることができ、更に、析出結晶粒径が非常に微細にとすることができるという有利な面があるためである。尚、前記各結晶相において、β-石英,エンスタタイト,フォルステライトの各結晶相の析出とその割合は、MgO,SiO2の含有割合により、またこれら3結晶相とこれら3結晶相の固溶体相の析出とその割合は、MgO,SiO2とその他の成分の含有割合により決定される。」
異議決定日 2001-08-14 
出願番号 特願平10-321760
審決分類 P 1 651・ 536- YA (G11B)
P 1 651・ 537- YA (G11B)
P 1 651・ 113- YA (G11B)
P 1 651・ 121- YA (G11B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 紀子▲高崎▼ 久子  
特許庁審判長 麻野 耕一
特許庁審判官 田良島 潔
川上 美秀
登録日 2000-01-14 
登録番号 特許第3022524号(P3022524)
権利者 株式会社オハラ
発明の名称 情報磁気記憶媒体用高剛性ガラスセラミックス基板  
代理人 坂本 徹  
代理人 中村 静男  
代理人 原田 卓治  
代理人 坂本 徹  
代理人 原田 卓治  

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