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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1054667
審判番号 不服2000-16248  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-06-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-10-12 
確定日 2002-02-28 
事件の表示 平成10年特許願第330969号「車両用交流発電機の固定子」拒絶査定に対する審判事件[平成12年 6月16日出願公開、特開2000-166152]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年11月20日の出願であって、その発明は、請求項1乃至請求項5に記載されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を本願発明という。)は特許請求の範囲の請求項1に記載されたつぎのとおりのものである。
「ティース部が円筒状のコアバック部の内周側に周方向に等角ピッチで多数設けられ、スロット部が該ティース間に構成された円筒状の固定子コアと、導線が所定回数巻回され、複数の直線部と隣り合う直線部の端部間を連結するコイルエンド部とを有するコイル群を、該複数の直線部を所定のスロット数毎に順次上記スロット部に収納し、該コイルエンド部を上記固定子コアの端面から軸方向の外方に突出させて上記固定子コアに組み込まれた固定子コイルとを備えた車両用交流発電機の固定子において、上記ティース部の主要部の軸方向と直交する断面形状が長方形に形成され、上記スロット部に収納された上記直線部を構成する導線群の少なくとも1本が平角断面形状に形成され、かつ、上記スロット部の断面積に対する該スロット部に収納された上記直線部を構成する導線群の総断面積の占める割合を75%以上としたことを特徴とする車両用交流発電機の固定子。」
2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-103052号公報(以下、引用例という。)に、「【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態を図について説明する。図1はこの発明の方法により製造された車両用交流発電機の固定子の一例を示す斜視図である。図において、固定子5は、複数のスロット51aを有する円筒状の固定子鉄心51と、スロット51a内に配置されている固定子巻線群52とを有している。また、固定子鉄心51は、円周上の1箇所に溶接部51bを有している。車両用交流発電機の全体構造は、図4と同様である。」(段落【0012】)、「次に、固定子51の製造方法について説明する。・・・この後、図2に示すように、切断された複数の帯状体が積層され、直方体状の積層体50が製造される。」(段落【0013】)、「一方、固定子巻線群52は、図2のスロット51aにそのまま挿入できるように全体が平坦な形状に予め形成された後、図3に示すようにスロット51aに挿入される。この後、積層体50は、成形装置(図示せず)により円筒状に曲げられて固定子鉄心51が製造される。積層体50の両端部は、図1の溶接部51bで曲げ加工後に互いに溶接される。」(段落【0014】)と記載されていることが認められ、また、引用例1には「ティース」、「コアバック部」、「コイルエンド部」との用語につき記載するところはないが、固定子コアの円筒状部分を「コアバック部」と称し、このコアバック部から内周側に突出する部分を「ティース」と称し、また、固定子コイルのスロット内に挿入される直線部と固定子コアの軸方向の外部で隣り合う直線部間を連結する部分を「コイルエンド部」と称することは、当業者の技術常識とするところであるから、これらによれば引用例1には「ティース部が円筒状のコアバック部の内周側に周方向に等角ピッチで多数設けられ、スロット部が該ティース間に構成された円筒状の固定子コアと、導線が所定回数巻回され、複数の直線部と隣り合う直線部の端部間を連結するコイルエンド部とを有するコイル群を、該複数の直線部を所定のスロット数毎に順次上記スロット部に収納し、該コイルエンド部を上記固定子コアの端面から軸方向の外方に突出させて上記固定子コアに組み込まれた固定子コイルとを備えた車両用交流発電機の固定子において、上記ティース部の主要部の軸方向と直交する断面形状が長方形に形成された車両用交流発電機の固定子。」との発明(以下、引用例発明という。)が開示されていると認めることができる。
3.対比・判断
本願発明と引用例発明とを対比すると、両者は「ティース部が円筒状のコアバック部の内周側に周方向に等角ピッチで多数設けられ、スロット部が該ティース間に構成された円筒状の固定子コアと、導線が所定回数巻回され、複数の直線部と隣り合う直線部の端部間を連結するコイルエンド部とを有するコイル群を、該複数の直線部を所定のスロット数毎に順次上記スロット部に収納し、該コイルエンド部を上記固定子コアの端面から軸方向の外方に突出させて上記固定子コアに組み込まれた固定子コイルとを備えた車両用交流発電機の固定子において、上記ティース部の主要部の軸方向と直交する断面形状が長方形に形成された車両用交流発電機の固定子。」の点で一致し、本願発明がスロット部に収納された直線部を構成する導線群の少なくとも1本が平角断面形状に形成され、かつ、上記スロット部の断面積に対する該スロット部に収納された上記直線部を構成する導線群の総断面積の占める割合を75%以上としたのに対し、引用例1発明がかかる構成について記載するところがない点で相違する。
そこで、前記相違点について検討する。
本願明細書の「この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、固定子コアのスロット部に収納される固定子コイルの直線部を構成する導線群の少なくとも1本を平角断面形状に成形し、スロット部内の導線占積率(スペースファクタ)を75%以上として、高出力を維持しつつ、電磁音を低減できる車両用交流発電機の固定子およびその製造方法を得ることを目的とする。」(段落【0009】)との記載によれば、本願発明が前記相違点にかかる構成を採用したのは、高出力を維持すること、電磁音を低減すること、という2つの課題を解決するためと認められるところ、本願明細書(段落【0008】)において、本願発明の従来技術として引用する特公平8-13182号公報に「また、上記従来技術では、略T字状歯部間に形成されるスロット内に例えば丸線から成る電機子巻線がそう入されるが、これではスロット内の導体の占積率(導体断面積/スロット面積)の向上に限界があり、出力向上のために平角線を採用して上記占積率を向上せんとする場合、上記歯部のT字状突起が巻線のそう入のさまたげとなり、巻線の自動化に困難を生じる。」(3欄7行乃至13行)、「また、上記実施例によれば、丸線に代えて平角線を用いた場合、スロット断面積に対する導体断面積の比である占積率を向上させることができ、もって交流充電発電機の出力、特に単位体積当りの出力を向上することが可能となるものである。そして、このようにして製造された固定子は、自動車用交流充電発電機に組み込まれることとなる。」(6欄7行乃至13行)とも記載されているように本願発明が解決しようとする課題の1つである、交流発電機の高出力を維持することは周知の課題であって、この課題を解決するための1つの手法としてスロット内の導体の占積率を向上させればよいこと、導体として平角断面形状として用いることが当業者の認識するところということができる。
このことを前提に、引用例発明のティース部の主要部の軸方向と直交する断面形状が長方形に形成された車両用交流発電機の固定子において交流発電機の高出力を維持するという周知の課題を解決するには、前示の当業者の認識に従って、導体として平角断面形状のものを用いてその占積率を向上(占積率が高ければ高い程高出力となる)させて足り、また、引用例発明には占積率が75%以上にできないとする構造上の理由が存在するものとはいえない。
そして、前示のとおり交流発電機の出力はスロット内の導体の占積率に依存して変化するのであるから、必要とすべく任意の高出力を維持するためには、それに対応する占積率を採用すべきこと当業者の設計事項というべきで、そうすると、車両用交流発電機の高出力を維持するという技術的課題の観点から、本願発明の前記相違点にかかる構成は当業者が容易に想到できたものというべきである。
4.むすび
以上のとおり、本願発明は引用例及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-12-11 
結審通知日 2001-12-11 
審決日 2002-01-15 
出願番号 特願平10-330969
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 恭司  
特許庁審判長 大森 蔵人
特許庁審判官 菅澤 洋二
紀本 孝
発明の名称 車両用交流発電機の固定子  
代理人 福井 宏司  
代理人 池谷 豊  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 曾我 道照  
代理人 曾我 道治  
代理人 古川 秀利  

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