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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1067470 |
異議申立番号 | 異議2000-74598 |
総通号数 | 36 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1991-04-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-12-26 |
確定日 | 2002-08-26 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3057499号「非水電解液二次電池」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3057499号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3057499号の請求項1に係る発明についての出願は、平成1年8月29日に特許出願され、平成12年4月21日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人三洋電機株式会社及び新神戸電機株式会社により特許異議の申立がなされ、取消理由の通知(平成13年4月26日付け)がなされ、その指定期間内である平成13年7月16日に訂正請求がなされ、さらに、取消理由通知(平成14年7月19日付け)の手交がなされると同時に平成14年8月2日に訂正請求がなされたものである。(なお、平成13年7月16日付けの訂正請求は取り下げられた。) 2.訂正の適否についての判断 2-1.訂正の内容 (1)訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1における 「【請求項1】負極材と正極材と非水電解液とを有し、負極材を帯状の集電体の両面に成形してなる負極と、正極材を帯状の集電体の両面に成形してなる正極とを、セパレータを介して巻回してなる非水電解液二次電池において、 上記負極材は、炭素材料をを主体とする負極材であり、上記正極材は、LiMn2O4もしくはLixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.03≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材であることを特徴とする非水電解液二次電池。」を、 「【請求項1】負極材と正極材と非水電解液とを有し、 負極材を帯状の集電体の両面に成形してなる負極と、正極材を帯状の集電体の両面に成形してなる正極とを、セパレータを介して巻回してなる非水電解液二次電池において、 上記負極材は、炭素材料を主体とする負極材であり、上記正極材は、LixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.30≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材であることを特徴とする非水電解液二次電池。」と訂正する。 (2)訂正事項b 明細書第4頁第9行(特許公報第3欄第33行)の「〔発明が解決しようとする課題〕」を 「〔課題を解決するための手段〕」と訂正する。 (3)訂正事項c 平成12年1月17日付けの手続補正書の7.補正の内容、第2頁第12行(特許公報第3欄第44行)の「炭素材料をを」を 「炭素材料を」と訂正する。 (4)訂正事項d 平成12年1月17日付けの手続補正書の7.補正の内容、第2頁第13行(特許公報第3欄第45行)の「LiMn2O4もしくは」を削除する。 (5)訂正事項e 平成12年1月17日付けの手続補正書の7.補正の内容、第2頁第15行(特許公報第3欄第48行)の「4.03≦m+x≦4.55」を 「4.30≦m+x≦4.55」と訂正する。 (6)訂正事項f 明細書第6頁第3行(特許公報第4欄第17行)の「体,」を削除する。 (7)訂正事項g 明細書第6頁第18〜20行(特許公報第4欄第32〜33行)の「LiMn2O4のように組成が簡単な整数比で表される化合物、もしくは」を削除する。 (8)訂正事項h 明細書第7頁第1行(特許公報第4欄第34行)の「後者の場合」を削除する。 (9)訂正事項i 明細書第8頁第11行(特許公報第5欄第10行)の「LiMn2O4もしくは」を削除する。 (10)訂正事項j 明細書第9頁第1行(特許公報第5欄第18行)の「実施例」を 「参考例」と訂正する。 (11)訂正事項k 明細書第9頁第2行(特許公報第5欄第19行)の「好適な実施例」を 「LixMn(m)O(x+m)/2と同様に好適なLiMn2O4を用いた参考例」と訂正する。 (12)訂正事項l 明細書の下記箇所(a)〜(j)に記載される「実施例」を 「参考例」と訂正する。 (a)明細書第9頁第4行(特許公報第5欄第21行) (b)明細書第9頁第5行(特許公報第5欄第22行) (c)明細書第11頁第18行(特許公報第6欄第18行) (d)明細書第12頁第3行(特許公報第6欄第21行) (e)明細書第12頁第6〜7行(特許公報第6欄第24行) (f)明細書第12頁第9行(特許公報第6欄第27行) (g)明細書第12頁12行(特許公報第6欄第30行) (h)明細書第12頁第14行(特許公報第6欄第32行) (i)明細書第13頁第12行(特許公報第6欄第43行) (j)明細書第14頁第10〜11行(特許公報第8欄第1行) (13)訂正事項m 明細書第10頁第19行(特許公報第6欄第1行)の「(7)」を削除する。 (14)訂正事項n 明細書第11頁第1行(特許公報第6欄第4行)の「(6)」を削除する。 (15)訂正事項o 明細書第14頁第9行(特許公報第7欄第8行)の「本発明の実施例にかかる」を削除する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項aは、訂正前の請求項1において、正極材から「LiMn2O4」を除き、「炭素材料をを」を助詞の重複を避けて「炭素材料を」とするとともに、訂正前の請求項1の「(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90・・・である。)」の記載から「m+x」の最低値は4.30であることに基づいて、「4.03≦m+x≦4.55」を「4.30≦m+x≦4.55」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。 訂正事項bは、明細書に記載される事項と表題との整合を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。 訂正事項c、fは、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。 訂正事項d、e、g〜iは、訂正事項aと整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。 訂正事項j〜lは、訂正事項aに伴い、正極材にLiMn2O4を用いたものを参考例とするものであるから、訂正事項aと整合を図るための明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。 訂正事項m、nは、第1図には、負極リード及び正極リードに指示符号が明示されていないことに整合させるために、訂正前の「負極リード(7)」及び「正極リード(6)」をそれぞれ「負極リード」及び「正極リード」とするものであり、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。 訂正事項oは、訂正事項j〜lに伴い、訂正前の第1図は実施例にかかるものではないことを明確にするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。 そして、上記訂正事項a〜oのいずれの訂正も願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.むすび したがって、上記訂正は、特許法120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立てについての判断 3-1.特許異議申立ての概要 (1)特許異議申立人三洋電機株式会社は、下記の甲第1、2号証を提出し、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべき旨、 甲第1号証:特開平1-204361号公報(刊行物1) 甲第2号証:特開平1-105459号公報(刊行物2) (2)特許異議申立人新神戸電機株式会社は、下記の甲第1、2号証を提出し、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、又は甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、特許法第36条に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべき旨、それぞれ主張している。 甲第1号証:特開昭63-121248号公報(刊行物3) 甲第2号証:特開平1-128371号公報(刊行物4) 3-2.本件発明 上記2で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】負極材と正極材と非水電解液とを有し、 負極材を帯状の集電体の両面に成形してなる負極と、正極材を帯状の集電体の両面に成形してなる正極とを、セパレータを介して巻回してなる非水電解液二次電池において、 上記負極材は、炭素材料を主体とする負極材であり、上記正極材は、LixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.30≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材であることを特徴とする非水電解液二次電池。」 3-3.引用刊行物に記載された発明 当審が平成13年4月26日付けで通知した取消理由において引用した刊行物1、2にはそれぞれ次のとおりの発明が記載されている。 刊行物1:特開平1-204361号公報 「[実施例] ・・・実施例の電池は、・・・板状のポリプロピレン製セパレータ3を正極板1と負極板2との間に介在させて渦巻き状に巻き取り、その後・・・缶に収納して密封したものであり・・・円筒状を成している。正極板1は、幅35mm、長さ300mm、厚さ0.18mmの板状体である。・・・LiCoO2・・・と導電剤であるグラファイト・・・とバインダー・・・とを混合し・・・ペーストを作る。次に、このペーストを・・・アルミニウム集電体の両面に均一に塗布し、乾燥後、ローラプレスを行うことによって正極板1を得る。・・・負極板2は、幅35mm、長さ300mm、厚さ0.2mmの板状体である。・・・粒状コークス・・・とバインダー・・・とを混合し・・・ペーストを作る。次に、このペーストを・・・銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥後、ローラプレスを行うことによって負極板2を得る。・・・電解液としては、1モル/lのLiPF6を溶解させた炭酸プロピレンとジメトキシエタンとの混合液を使用する。」(第2頁右上欄第7行〜右下欄第11行) 「正極活物質には、LiCoO2のほかに・・・LiMnO2、LiMn2O4等の様に、リチウムを含み充放電が可能な材料を使用してもよい。」(第3頁左下欄第15〜17行) 刊行物2:特開平1-105459号公報 「本発明は・・・LiMn2O4を正極活物質とする非水電解液電池のより一層の改良を狙ったもので、特に放電容量のさらなる拡大、充放電サイクル特性の向上を目的とするものである。」(第2頁右上欄第2〜5行) 「負極に使用される物質としては、金属リチウム、リチウム合金・・・ピッチ、高分子等を600〜1400℃程度で焼成したもの等のようにリチウムイオンが出入りできる程度に結晶性の悪い炭素等が挙げられる。」(第3頁右上欄第1〜11行) 「実施例1 ・・・LiMn2O4に導電剤としてグラファイト・・・を・・・加えて混合し・・・正極ペーストを作製した。次に、この正極ペーストを・・・アルミニウム集電体両面に均一に塗布し・・・正極板(1)を作製した。・・・リチウム箔を負極(2)とし、先の正極板(1)とこの負極(2)とを・・・ポロプロピレン製のセパレータ(3)を介してロール状に巻き取り・・・ニッケルメッキを施した鉄製缶(5)に収納した。・・・次いで、LiPF6を1モル/lの割合で溶解した炭酸プロピレンと1,2-ジメトキシエタンの混合電解液を前記鉄製缶(5)内に含浸せしめ・・・封口した。」(第3頁右下欄第2行〜第4頁右上欄第4行) 3-3-4.対比・判断 本件発明の正極材LixMn(m)O(x+m)/2は、0.5≦x≦0.7、3.80≦m≦3.90、4.30≦m+x≦4.55であるが、刊行物1、2に共通に記載される正極材LiMn2O4(Li0.5MnO2に相当)は、x=0.5、m=3.5、m+x=4に相当する化合物であり、また、刊行物1に記載される正極材LiMnO2は、x=1、m=3、m+x=4に相当する化合物であるから、LiMn2O4及びLiMnO2は、本件発明の正極材とは異なる化合物である。 よって、本件発明と刊行物1、2記載の発明を対比すると、刊行物1、2記載の発明は、本件発明の構成要件である「正極材は、LixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.30≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材である」という事項を備えておらず、さらに、当該事項は、刊行物1、2には示唆もされていなし、自明な事項でもない。 そして、当該事項により本件発明は、充放電サイクルに伴う電池容量の劣化が極めて少ない、長期信頼性に優れる非水電解液電池を提供することが可能となるという特許明細書記載の優れた効果を奏するものである(特許公報第3欄第8〜20行、第6欄第48行〜第7欄第6行参照)。 したがって、本件発明は、刊行物1に記載された発明と同一ではないし、刊行物1、2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 さらに、特許異議申立人新神戸電機株式会社が証拠として提出した刊行物3、4には以下の発明が記載されている。 刊行物3:特開昭63-121248号公報 炭素質材料を負極活物質とする負極と、正極とをセパレータを介して巻回してなる非水電解液二次電池において、正極としては特に限定されないが、Li(1-x)MnO2が挙げられる(特許請求の範囲、第7頁左下欄第2〜5行、第8頁左上欄第5〜11行参照)。 刊行物4:特開平1-128371号公報 リチウムを主体とする負極板と、LiMn2O4を主体とする正極板とがセパレータを介して積層巻回され、電池缶内に収納されてなる非水電解液二次電池(特許請求の範囲参照)。 本件発明のLixMn(m)O(x+m)/2は、4.30≦x+m≦4.55より、化合物1モル当たり酸素を2.15〜2.28モル含有するものであるが、刊行物3記載のLi(1-x)MnO2は、化合物1モル当たり酸素を2モル含有するものであるから、刊行物3記載のLi(1-x)MnO2は、本件発明の正極材LixMn(m)O(x+m)/2とは異なる化合物である。 刊行物4記載のLiMn2O4は、刊行物1、2に共通に記載される正極材と同じものであるから、上記のとおり本件発明の正極材とは異なる化合物である。 よって、本件発明と刊行物3、4記載の発明を対比すると、刊行物3、4には、本件発明の構成要件である「正極材は、LixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.30≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材である」という事項が記載も示唆もされておらず、当該事項により本件発明は、上記のとおり、特許明細書記載の優れた効果を奏するものであるから、本件発明は、刊行物3に記載された発明、又は刊行物3、4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3-5.明細書の記載不備について 特許異議申立人新神戸電機株式会社は、本件明細書には、以下の(イ)の点で不備があると主張する。 (イ)発明の詳細な説明の欄、とりわけ実施例には、正極材として「LiMn2O4」を用いた例があるのみであり、「LixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.30≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材」を得る方法及びそれを用いたときの効果の開示がないから、特許請求の範囲において、該正極材を選択した根拠が不明であり、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細の説明の記載と符号しない。 また、当審が平成13年4月26日付けで通知した取消理由で指摘した不備は、以下の(ロ)の点である。 (ロ)請求項1に係る発明は、「0.5≦x≦0.7、3.80≦m≦3.90、4.03≦m+x≦4.55」によって特定されているが、xの最低値0.5と、mの最低値3.80を加えた値(m+x)は4.3となるから、m+xの最低値が4.03である上記特定は不明瞭である。 上記2-1.の訂正事項aにより、請求項1の「4.03≦m+x≦4.55」は「4.30≦m+x≦4.55」と訂正されたから、(ロ)の記載不備は解消した。 (イ)について検討する。 特許権者は、平成14年8月2日付け特許異議意見書において、二酸化マンガン1モルと炭酸リチウム0.275モルからなる混合物を、空気中800℃で5時間焼成してLi0.55MnO2.2を作製し、これを正極活物質として用い、その他の構成要素である負極材、非水電解液は本件明細書に記載した参考例(電池A)と同様の構成として円筒型非水電解液二次電池Gを作製したこと、上記電池Gについて充放電サイクル試験を行ったところ、200サイクル後においても初期値の80%以上の電池容量を維持しており、極めて寿命に優れていることを述べている。そして、上記特許異議意見書と共に提出された「充放電サイクル特性を示す特性図」を参照すると、上記電池Gは、正極活物質にLiMn2O4を用いた参考例電池Aと同様の優れた充放電サイクル特性を示すことが明らかである。 よって、(イ)に関する記載不備も解消した。 3-6.むすび 以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 非水電解液二次電池 (57)【特許請求の範囲】 (1)負極材と正極材と非水電解液とを有し、 負極材を帯状の集電体の両面に成形してなる負極と、正極材を帯状の集電体の両面に成形してなる正極とを、セパレータを介して巻回してなる非水電解液二次電池において、 上記負極材は、炭素材料を主体とする負極材であり、上記正極材は、LixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.30≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材であることを特徴とする非水電解液二次電池。 【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、本発明は、各種電子機器の電源として使用される充放電可能な非水電解液二次電池に関し、特に充放電サイクル特性に優れる非水電解液二次電池に関する。 〔発明の概要〕 本発明は、非水電解液二次電池の負極材を炭素質材料を主体とする材料で、正極材をリチウム-マンガン複合酸化物を主体とする材料でそれぞれ構成することにより、充放電サイクル特性の向上を図るものである。 〔従来の技術〕 リチウムを負極活性物質とし、電解液に有機電解液を使用したいわゆる非水電解液電池は、自己放電が少ないこと、公称電圧が高いこと、保存性に極めて優れること等の利点を有している。その代表例は正極活物質として二酸化マンガンを使用したいわゆるリチウム-二酸化マンガン電池であり、10年もの長期信頼性を有するものも開発されて電子時計やメモリーバックアップ用の電源として広く使用されている。 ところで、従来使用されている非水電解液電池の多くは一次電池であるが、近年はビデオカメラや小型オーディオ機器等の携帯用機器の普及に伴い、長時間便利にかつ経済的に使用できる二次電池への需要が高まっている。 上述のリチウム-二酸化マンガン電池も二次電池に適用することが検討されている。この場合、負極活物質であるリチウムがイオン化して正極活物質である二酸化マンガン中へドープされることにより放電反応が進行し、この逆の反応、すなわちアンドープされることにより充電反応が進行する。しかし、かかる二次電池は、充放電サイクル数が多くなるにしたがい、二酸化マンガン中にドープされたリチウムイオンが次第にアンドープされにくくなり、放電容量が減少するという欠点がある。 そこで、本願出願人は先に特願昭63-187563号明細書において、正極活物質として充放電効率に優れるリチウム-マンガン複合酸化物を使用する非水電解液二次電池を提案している。 〔発明が解決しようとする課題〕 ところで、上述のリチウム-マンガン複合酸化物を正極活物質として使用する場合、充電時には上記リチウム-マンガン複合酸化物のリチウムの一部が排出され、負極に析出する。かかる非水電解液二次電池の充放電サイクル特性は、リチウムを活物質とする負極の充電性能に支配されるところが大きいのであるが、従来はこれが必ずしも十分であるとは言えず、たとえばデンドライト状に析出したリチウムがセパレーターを貫通して内部ショートを引き起こす等の不都合があった。 そこで本発明は、充放電サイクル特性に優れる非水電解液二次電池の提供を目的とする。 〔課題を解決するための手段〕 本発明者らは、充放電サイクル特性を支配する負極の充電性能は負極材料の選択に依存しているものと考え、広範囲な物質について検討した結果、特に巻回型の二次電池において炭素材料が負極活物質として好適であることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。 すなわち、本発明にかかる非水電解液二次電池は、負極材と正極材と非水電解液とを有し、負極材を帯状の集電体の両面に成形してなる負極と、正極材を帯状の集電体の両面に成形してなる正極とを、セパレータを介して巻回してなる非水電解液二次電池において、上記負極材は、炭素材料を主体とする負極材であり、上記正極材は、LixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.30≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材であることを特徴とするものである。 まず、負極材の主体となる炭素質材料としては、ピッチ系材料、有機高分子材料の焼成炭化物、有機低分子化合物の焼成炭化物が代表例として挙げられる。 上記ピッチ系材料には、石油ピッチ,アスファルトピッチ,コールタールピッチ,原油分解ピッチ,石油スラッジピッチ等の石油・石炭の熱分解により得られるピッチや、ニードルコークス等のピッチ系焼成炭化物等がある。あるいは、後述する有機高分子材料や有機低分子化合物の熱分解により生成するピッチであっても良い。 また、上記焼成炭化物の原料となる有機高分子材料は、アクリル樹脂,ポリアクリロニトリル樹脂,酢酸ビニル樹脂,ポリビニルアルコール樹脂,ポリビニルアセタール樹脂,ABS樹脂,ポリアミド樹脂,ポリイミド樹脂,ポリアミドイミド樹脂,ハロゲン化ビニル樹脂,ポリ塩化ビニリデン樹脂,ポリアセチレン,セルロース樹脂,ポリフェニレン樹脂,フラン樹脂等の広範囲な材料の中から任意に選択することができる。特に、フラン樹脂は好適であり、フルフラールフェノール樹脂,フルフリルアルコールジメチロール尿素樹脂,フルフリルアルコール樹脂,フルフリルアルコールホルムアルデヒド樹脂,フルフラールケトン樹脂等の各種のフラン樹脂を使用することができる。 さらに、上記焼成炭化物の原料となる有機低分子化合物としては、ナフタレン,フェナントレン,アントラセン,トリフェニレン,ピレン,クリセン,ナフタセン,ピセン,ペリレン,ペンタフェン,ペンタセン等の縮合多環系炭化水素およびその誘導体や、インドール,イソインドール,キノリン,イソキノリン,キノキサリン,フタラジン,カルバゾール,アクリジン,フェナジン,フェナントリジン等の縮合複素環系炭化水素およびその誘導体が挙げられる。 一方、正極材の主体となる上記リチウム-マンガン複合酸化物としては、LixMn(m)O(x+m)/2なる式で表される化合物が使用される。式中xは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数である。また、mはマンガン価数分析値であり、以下の条件を満たす。 3.80≦m≦3.90 4.30≦m+x≦4.55 上記の式LixMn(m)O(x+m)/2で表される化合物は、マンガン価数分析値mにおいてLiMn2O4(m=3.5)とは異なるものである。 上記非水電解液としては、有機溶剤中にリチウム塩を電解質として溶解させた電解液が使用される。 上記有機溶剤は特に限定されるものではないが、たとえばプロピレンカーボネート,エチレンカーボネート,1,2-ジメトキシエタン,1,2-ジエトキシエタン,γ-ブチロラクトン,テトラヒドロフラン,1,3-ジオキソラン,4-メチル-1,3-ジオキソラン,ジエチルエーテル,スルホラン,メチルスルホラン,アセトニトリル,プロピオニトリル等の有機溶剤を単独もしくは2種以上の混合溶剤として使用することができる。 上記有機溶剤中に電解質として溶解されるリチウム塩としては、LiClO4,LiAsF,LiPF6,LiBF4,LiB(C6H5)4,LiCl,LiBr,CH3SO3Li,CF3SO3Li等の従来公知の材料がいずれも使用可能である。なかでも、LiClO4およびLiBF4が特に好ましい。 〔作用〕 本発明の非水電解液二次電池は、充電時には正極活物質であるLixMn(m)O(x+m)/2からリチウムイオンの一部が放出され、これが負極の主体である炭素質材料中にドープされる。したがって、負極材の表面にデンドライトが析出する場合とは異なり、内部ショートを起こす虞れがない。放電時には炭素質材料中からリチウムイオンが速やかにアンドープされる。したがって、充放電サイクルを繰り返した後でも電池容量の劣化が極めて低く抑えられる。 〔参考例〕 以下、本発明の正極材料として用いられるLixMn(m)O(x+m)/2と同様に好適なLiMn2O4を用いた参考例について、実験結果にもとづき説明する。 参考例 本参考例は、負極材の主体となる炭素質材料としてピッチコークス、正極材の主体となるリチウム-マンガン複合酸化物としてLiMn2O4、非水電解液としてLiPF6を溶解した炭酸プロピレン/1,2-ジメトキシエタン混合溶媒を使用して円筒型電池を構成した例である。 負極は、以下のようにして作成した。まず、粉砕したピッチコークス90重量部に結合剤となるポリフッ化ビニリデン10重量部を添加して負極材とし、続いてこの負極材をN-メチルピロリドンに分散させてスラリーを調製した。さらに、上記スラリーを負極集電体となる帯状の銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥後、ローラープレス機により圧縮成形して帯状の負極を作成した。 一方、正極は以下のようにして作成した。まず、二酸化マンガン1モルと炭酸リチウム0.25モルからなる混合物を空気中にて800℃で5時間焼成しLiMn2O4を調製した。次にLiMn2O486重量部を、導電剤となるグラファイト10重量部、結合剤となるポリフッ化ビニリデン4重量部と共に混合して正極材とした。さらに、この正極材をN-メチルピロリドンに分散させてスラリーを調製し、これを正極集電体となる帯状のアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥後、ローラープレス機により圧縮成形して帯状の正極を作成した。 続いて、上記の負極および正極を使用して第1図に示すような円筒型電池を以下の手順により作成した。まず、上記負極(1)と正極(2)を多孔質ポリプロピレン製セパレータ(3)を介してロール状に巻き上げ、巻回体を作成した。次に、ニッケルメッキを施した鉄製の電池缶(5)の底部に絶縁板(4)を装入し、上記巻回体を収納した。次に、上記負極(1)の集電を行うために、ニッケル製の負極リードの一端を圧着し、他端を上記電池缶(5)に溶接した。次に、上記正極(2)の集電を行うために、アルミニウム製の正極リードの一端を上記正極(2)に超音波溶接により取付け、他端を蓋体(7)に溶接した。上記電池缶(5)の中に、LiPF6を1モル/lの濃度となるように溶解した炭酸プロピレン/1,2-ジメトキシエタン混合溶媒を非水電解液として注入し、再び絶縁板(4)を装入し、絶縁ガスケット(6)を介して上記電池缶(5)と蓋体(7)をかしめて封口した。以上のようにして、直径13.8mm,高さ42mmの円筒型電池Aを作成した。 本発明者らは、さらに上述の円筒型電池Aに対する比較として、以下の比較例1ないし比較例5において、炭素質材料の代わりに各種の金属箔により負極を構成した円筒型電池B〜円筒型電池Fを作成した。 比較例1 負極集電体となる帯状の銅箔に帯状のリチウム箔を積層したものを負極とした他は、参考例と同様にして円筒型電池Bを作成した。 比較例2 帯状の銅箔を負極とした他は、参考例と同様にして円筒型電池Cを作成した。 比較例3 帯状のアルミニウム箔を負極とした他は、参考例と同様にして円筒型電池Dを作成した。 比較例4 帯状のニッケル箔を負極とした他は、参考例と同様にして円筒型電池Eを作成した。 比較例5 帯状の鉛箔を負極とした他は、参考例と同様にして円筒型電池Fを作成した。以上の参考例および各比較例において作成された円筒型電池A〜円筒型電池Fについて、充放電サイクル試験を行った。1サイクルは、充電電流を220mA,上限電圧を4Vとする3.5時間の定電流充電と、14Ωの負荷を接続し終止電圧を2.9Vとする定抵抗放電を組み合わせたものである。結果を第2図に示す。図中、縦軸は放電容量(mA.h)、横軸はサイクル数(回)をそれぞれ表し、曲線Aないし曲線Eは各円筒型電池A〜円筒型電池Eの充放電サイクル特性をそれぞれ表す。この図より、各比較例で作成された円筒型電池B〜円筒型電池Fは充放電サイクル試験20〜50サイクル行った時点でいずれも電池容量が初期値の1/10程度に減少するのに対し、参考例にかかる円筒型電池Aは、200サイクル後においても初期値の80%以上の電池容量を維持しており、極めてサイクル寿命に優れていることが明らかである。 〔発明の効果〕 以上の説明からも明らかなように、本発明の非水電解液二次電池においては、充填時に正極活物質から放出されたリチウムイオンが負極の表面にデンドライト状に析出することがないので、内部ショートを起こす虞れがない。また、上記リチウムイオンは充放電にしたがって負極材に対して速やかなドープもしくはアンドープ挙動を示すため、充放電サイクルに伴う電池容量の劣化が極めて少ない、長期信頼性に優れる非水電解液二次電池を提供することが可能となる。 【図面の簡単な説明】 第1図は円筒型電池の構成例を示す概略断面図でありる。第2図は参考例および比較例にかかる円筒型電池の充放電サイクル特性を示す特性図である。 1・・・負極 2・・・正極 3・・・セパレータ 5・・・電池缶 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 (1)特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的として、特許請求の範囲の請求項1における 「【請求項1】負極材と正極材と非水電解液とを有し、負極材を帯状の集電体の両面に成形してなる負極と、正極材を帯状の集電体の両面に成形してなる正極とを、セパレータを介して巻回してなる非水電解液二次電池において、上記負極材は、炭素材料をを主体とする負極材であり、上記正極材は、LiMn2O4もしくはLixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.03≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材であることを特徴とする非水電解液二次電池。」を、 「【請求項1】負極材と正極材と非水電解液とを有し、 負極材を帯状の集電体の両面に成形してなる負極と、正極材を帯状の集電体の両面に成形してなる正極とを、セパレータを介して巻回してなる非水電解液二次電池において、 上記負極材は、炭素材料を主体とする負極材であり、上記正極材は、LixMn(m)O(x+m)/2(ただし、式中のxは0.5≦x≦0.7の条件を満たすように選ばれる数であり、mはマンガン価数分析値であり、3.80≦m≦3.90、4.30≦m+x≦4.55である。)を主体とする正極材であることを特徴とする非水電解液二次電池。」と訂正する。 (2)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第4頁第9行(特許公報第3欄第33行)の「〔発明が解決しようとする課題〕」を 「〔課題を解決するための手段〕」と訂正する。 (3)誤記の訂正を目的として、平成12年1月17日付けの手続補正書の7.補正の内容、第2頁第12行(特許公報第3欄第44行)の「炭素材料をを」を 「炭素材料を」と訂正する。 (4)明りょうでない記載の釈明を目的として、平成12年1月17日付けの手続補正書の7.補正の内容、第2頁第13行(特許公報第3欄第45行)の「LiMn2O4もしくは」を削除する。 (5)明りょうでない記載の釈明を目的として、平成12年1月17日付けの手続補正書の7.補正の内容、第2頁第15行(特許公報第3欄第48行)の「4.03≦m+x≦4.55」を 「4.30≦m+x≦4.55」と訂正する。 (6)誤記の訂正を目的として、明細書第6頁第3行(特許公報第4欄第17行)の「体,」を削除する。 (7)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第6頁第18〜20行(特許公報第4欄第32〜33行)の「LiMn2O4のように組成が簡単な整数比で表される化合物、もしくは」を削除する。 (8)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第7頁第1行(特許公報第4欄第34行)の「後者の場合」を削除する。 (9)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第8頁第11行(特許公報第5欄第10行)の「LiMn2O4もしくは」を削除する。 (10)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第9頁第1行(特許公報第5欄第18行)の「実施例」を 「参考例」と訂正する。 (11)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第9頁第2行(特許公報第5欄第19行)の「好適な実施例」を 「LixMn(m)O(x+m)/2と同様に好適なLiMn2O4を用いた参考例」と訂正する。 (12)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の下記箇所(a)〜(j)に記載される「実施例」を 「参考例」と訂正する。 (a)明細書第9頁第4行(特許公報第5欄第21行) (b)明細書第9頁第5行(特許公報第5欄第22行) (c)明細書第11頁第18行(特許公報第6欄第18行) (d)明細書第12頁第3行(特許公報第6欄第21行) (e)明細書第12頁第6〜7行(特許公報第6欄第24行) (f)明細書第12頁第9行(特許公報第6欄第27行) (g)明細書第12頁12行(特許公報第6欄第30行) (h)明細書第12頁第14行(特許公報第6欄第32行) (i)明細書第13頁第12行(特許公報第6欄第43行) (j)明細書第14頁第10〜11行(特許公報第8欄第1行) (13)誤記の訂正を目的として、明細書第10頁第19行(特許公報第6欄第1行)の「(7)」を削除する。 (14)誤記の訂正を目的として、明細書第11頁第1行(特許公報第6欄第4行)の「(6)」を削除する。 (15)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第14頁第9行(特許公報第7欄第8行)の「本発明の実施例にかかる」を削除する。 |
異議決定日 | 2002-08-07 |
出願番号 | 特願平1-220216 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(H01M)
P 1 651・ 531- YA (H01M) P 1 651・ 121- YA (H01M) P 1 651・ 534- YA (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 種村 慈樹、三宅 正之 |
特許庁審判長 |
松本 悟 |
特許庁審判官 |
酒井 美知子 柿沢 恵子 |
登録日 | 2000-04-21 |
登録番号 | 特許第3057499号(P3057499) |
権利者 | ソニー株式会社 |
発明の名称 | 非水電解液二次電池 |
代理人 | 小池 晃 |
代理人 | 伊賀 誠司 |
代理人 | 田村 榮一 |
代理人 | 伊賀 誠司 |
代理人 | 小池 晃 |
代理人 | 高橋 英生 |
代理人 | 田村 榮一 |
代理人 | 武山 吉孝 |
代理人 | 鈴木 隆盛 |