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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C07F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07F
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C07F
管理番号 1073162
異議申立番号 異議2000-71813  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-08-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-27 
確定日 2002-12-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2971108号「硬化時に低揮発性有機化合物を含む緩衝化シランエマルジョン」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2971108号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2971108号は、平成2年8月10日(優先権主張 1989年8月10日 米国)に特許出願され、平成11年8月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、山川 寧より特許異議の申立てがされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成13年3月22日に訂正請求がされたものである。
II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項2の記載について、「約0.001乃至約5重量%」とあるのを「約0.01乃至約5重量%」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、「約0.001乃至約5重量%」とある数値範囲を、本件特許明細書「一般に組成物全体の0.01重量%未満では充分有用ではなく、そして5重量%を超えると不経済である。」(特許公報第14欄21~22行)の記載を根拠にして「約0.01乃至約5重量%」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、上記訂正事項aは、新規事項の追加に該当せず、また実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議の申立てについて
1.異議申立ての概要
異議申立人山川 寧は、甲第1号証、甲第2号証を提出し、訂正前の本件の請求項1ないし7に係る発明は、(1)甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは、(2)甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また(3)明細書に記載不備があるから、訂正前の本件の請求項1ないし7の発明に係る特許は、特許法第29条第1項、第2項、あるいは、平成2年法改正前の特許法第36条第3項、第4項、第5項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべき旨主張している。
2.本件発明
上記II.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件発明1ないし7」という。)は、上記訂正明細書の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】有効量の:
(a)決定可能pH範囲内で本質的に加水分解的に安定である一般式:
Rn-Si-(R1)4-n(式中、RはC6-C30ヒドロカルビルまたはハロゲン化ヒドロカルビル、R1はC1-C6アルコキシ、ハロゲン化物、アミノカルボキシルまたは前述のいずれかの混合物、そしてnは1または2である。)で表される加水分解可能シランと、
(b)HLB値約1.5乃至20を有する乳化剤また乳化剤の混合物と、
(c)前記決定可能pH安定範囲内に前記組成物のpHを緩衝させるための少なくとも1種類の化合物と、
(d)水とを含んで構成されることを特徴とする硬化後に揮発性有機化合物を含有量約350g/l以下を有する緩衝化水性シランエマルジョン組成物。
【請求項2】前記加水分解可能シラン(a)は組成物の約1乃至約60重量%を構成し、前記乳化剤(b)は(a)基準で約0.5乃至約50重量%を構成し、前記緩衝用化合物(c)は(a)、(b)、(c)および(d)の組み合わせを基準として約0.01乃至約5重量%を構成し、そして水(d)が100重量%をもたらすに足る量をもって存在する請求項1記載の組成物。
【請求項3】前記乳化剤(b)がHLB値約4乃至約17を有する請求項1記載の組成物。
【請求項4】前記緩衝用化合物(c)が炭酸、りん酸、硫酸、ヒドロ硫酸、C1-C6オルガノ-、モノ-またはポリカルボン酸またはC2-C30アルキレンイミノポリカルボン酸、アンモニア、C1-C30有機塩基のモノーまたはポリアルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミン塩、あるいは前述のいずれかの混合物である請求項1記載の組成物。
【請求項5】更に、
(e)低い有効量の殺生物剤を含有する請求項1記載の組成物。
【請求項6】(i)多孔質支持体の表面に対し、有効量の:
(a)決定可能pH範囲内で本質的に加水分解的に安定である一般式:
Rn-Si-(R1)4-n(式中、RはC6-C30ヒドロカルビルまたはハロゲン化ヒドロカルビル、R1はC1-C6アルコキシ、ハロゲン化物、アミノカルボキシルまたは前述のいずれかの混合物、そしてnは1または2である。)で表される加水分解可能シランと、
(b)HLB値約1.5乃至約20を有する乳化剤また乳化剤の混合物と、
(c)前記決定可能pH安定範囲内に前記組成物のpHを緩衝させるための少なくとも1種類の化合物と、
(d)水とを含んで成る、硬化後に揮発性有機化合物含有量約350g/l以下を有する緩衝化水性シランエマルジョン組成物を適用する工程、および
(ii)前記組成物を硬化させる工程を含んで構成されることを特徴とする前記支持体について水性媒質によりその耐浸透性を増加させるための方法。
【請求項7】前記多孔質支持体がメーソンリー、セメント、膨脹パーライトまたは木材を含んで成る請求項6の方法。」
3.甲各号証に記載された事項
(1)甲第1号証(特開昭62-197369号公報)には、
「(1)多孔質セラミック材料に撥水性を付与するのに有用な水性シランエマルジョン組成物において、本質的には(a)1~40重量%の、分子量が約500までのそして一般式:
Rn-Si-(R1)4-n(式中、RはC1~C20 ヒドロカルビルまたはハロゲン化ヒドロカルビル基であり、R1はC1~C3アルコキシまたはハロゲン化物またはアミノまたはカルボキシル基であり、そしてnは1または2であり、あるいはそれらのオリゴマーである)
の加水分解可能なシラン、(b)シラン成分の0.5~50重量%のHLB値が4~15の乳化剤および(c)水からなる上記の組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)、「ここで処理しうる石造物材料は、防水組成物で処理した場合、乾燥しているのが好ましいが、ぬれていてもよい。硬化しうる石造物材料の場合、本発明の組成物を予備硬化混合物へ、たとえばキャスティングまたは硬化前のコンクリート配合物へ混和してもよい。」(第3頁左上欄9~14行)、「好ましい表面活性剤または乳化剤は、HLB値が4.3~8.6の範囲のソルビタン脂肪酸エステルである。“Spans”およびHLB値が9.6~11.4の範囲のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであるTweens61および81である。これらの好ましい乳化剤は2ケ月以上の間シランを安定なエマルジョンに維持する。」(第4頁右下欄7~13行)、「実施例1~6を以下の表2に示す。
表 2
水性NWRエマルジョンを使ったコンクリートの吸水度の結果
シラン 溶剤 表面活性剤 添加剤 重量増加の低下
・・・
3)20%オクチルトリ 水 3%Span20α 0.5%酢酸 65%
エトキシシラン
4)20%オクチルトリ 水 3%Span20α 1.0%NEt3 62%
エトキシシラン 」
(第6頁左上欄4~16行)、「他の成分、たとえば抗微生物剤、抗菌剤、耐蝕剤、潤滑剤、付臭剤および芳香剤、増粘剤等、を基本組成物に悪影響を及ぼさない程度の少量、たとえば0.1~5重量%で本組成物中に存在させてもよい。」(第6頁左下欄14~18行)と記載されている。
(2)刊行物2(特開昭56-147793号公報)には、
「1.一般式RSiX3又はRSiX2H(式中・・・)で示される有機ケイ素化合物と相溶し、水とは相溶しない該有機ケイ素化合物の可溶化助剤と乳化剤とからなる安定な水性エマルジョンを予め調製し、該エマルジョンに前記有機ケイ素化合物を添加することを特徴とする有機ケイ素化合物の水性エマルジョンの製造方法。」(特許請求の範囲)、「かかる反応物の水溶液に酢酸あるいはプロピオン酸を添加して安定化したタイプも提案されており、安定性は10日間程伸ばすことはできるが、酸性のためコンクリートなどの表面に処理するとコンクリートの耐久性が低下するという欠点を有し、公害の点からも酸性液を用いることは好ましくない。」(第2頁右上欄12~18行)、「予備エマルジョンもやはり中性付近の液性にすることがシランRSiZ3含有水性エマルジョンの均一性を長期間にわたり保つことができる点で有利である。」(第4頁右上欄6~9行)、「乳化し、重合を行ったのち、炭酸ナトリウムで中和して分子鎖両末端が水酸基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(1%トルエン液の相対粘度η=1.70、25℃)の予備エマルジョンを得た。PHは7.5であった。」(第5頁右下欄2~6行)と記載されている。
4.対比・判断
(1)特許法第29条第1項について
ア.本件発明1について
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
本件発明1の一般式で定義される加水分解可能シラン(a)は、甲第1号証に記載された加水分解可能なシラン(a)と異なるものではなく、また、本件発明1の(b)HLB値が1.5ないし20の乳化剤は、甲第1号証記載の(b)HLB値が4~15の乳化剤を包含するものであり、(d)水を含む水性シランエマルジョンである点は、両者が一致している。
それ故、両者は(a)加水分解可能シラン、(b)HLB値が特定された乳化剤及び(d)水を含む水性シランエマルジョンである点で一致するが、本件発明1のものは、さらに(c)決定可能pH安定範囲内に組成物のpHを緩衝させるための化合物を含むのに対し、甲第1号証には、そのような化合物を含ませることが記載されていない点で相違する。
したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。
イ.本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、先行する本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明2ないし5は、甲第1号証に記載された発明ではない。
ウ.本件発明6は、方法の発明であるが、実質的に本件発明1の組成物を多孔質支持体の表面に適用して硬化させる工程を含むものであるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明ではない。
エ.本件発明7について
本件発明7は、本件発明6の多孔質支持体をさらに限定するものであるから、本件発明6と同じことがいえる。
したがって、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明ではない。
(2)特許法第29条第2項について
ア.本件発明1について
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、前述のとおり、本件発明1のものは、さらに(c)決定可能pH安定範囲内に組成物のpHを緩衝させるための化合物を含むのに対し、甲第1号証には、そのような化合物を含ませることが記載されていない点で相違する。
その相違する点について検討すると、
甲第1号証の実施例3又は4には、シラン、表面活性剤(乳化剤)および水を含むシランエマルジョン組成物にさらに、0.5%酢酸又は1.0%NEt3を含有させている。ところで、該実施例3記載の組成物で含有する酢酸には単独ではpHの緩衝作用はなく、また、酢酸が添加されることでpHの緩衝作用を有する化合物が生ずるものでもない。同様に実施例4記載のNEt3も単独ではpHの緩衝作用はなく、NEt3を組成物に含有させることによりpHの緩衝作用をもたらす化合物が生ずることが示されていない。
また、甲第2号証には、中性付近に調整された、乳化剤を含む予備エマルジョンに加水分解可能な有機ケイ素化合物が添加されて得られる水性エマルジョン組成物が記載されており、本件発明1とは、加水分解可能シラン、乳化剤及び水を含む水性エマルジョン組成物である点で共通するが、甲第2号証には、炭酸ナトリウムを用いて中和することが記載されているのにとどまり、水性シランエマルジョン組成物が、本件発明1で採用する(c)決定可能pH安定範囲内に組成物のpHを緩衝させるための化合物を含むということは記載されておらず示唆もない。
そして、本件発明1では、シランエマルジョンが(c)決定可能pH安定範囲内に組成物のpHを緩衝させるための化合物を含むために、長期貯蔵によりシラン濃度の低下が抑制されるという長期安定化効果を奏することは、明細書に記載されたとおり格別なものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
イ.本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、先行する本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明2ないし5は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
ウ.本件発明6は、方法の発明であるが、実質的に本件発明1の組成物を多孔質支持体の表面に適用して硬化させる工程を含むものであるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明6は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
エ.本件発明7について
本件発明7は、本件発明6の多孔質支持体をさらに限定するものであるから、本件発明6と同じことがいえる。
したがって、本件発明7は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
(3)特許法第36条について
〔決定可能pH範囲〕について
異議申立人は、訂正前の本件請求項1、6における「決定可能pH範囲内で本質的に加水分解的に安定である・・・加水分解シラン」における「決定可能pH範囲」という文言の意味が技術的に不明である、と主張している。
しかし、当該文言が加水分解シランが加水分解的に安定であるpH範囲を有し、そのpH範囲が決定可能であることを示していることは、特許請求の範囲の請求項1、6において(a)と(c)とを対応させて記載されていることより明らかである。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
〔化合物(c)〕について
異議申立人は、訂正前の請求項1、6において、「(c)前記決定可能pH範囲内に前記組成物のpHを緩衝させるための少なくとも1種類の化合物」と規定されていることについて、要約次のとおり主張している。
イ.「決定可能pH安定範囲」の文言は技術的に不明確であり、「化合物(c)」の構成についても技術的に特定することができない。
ロ.「化合物(c)」が水素イオン濃度の変化に抵抗する溶液を形成するあらゆる物質と定義すると、「化合物(c)」にはほとんど全ての化合物が含まれることになり、「化合物(c)」を用いることの技術的価値はない。
また、「化合物(c)」が「水素イオン濃度の変化に抵抗する機能が通常の化合物に比べて顕著に優れた材料」と解釈すると、明細書の記載において「化合物(c)」の具体例に「有機酸、無機酸、塩基およびそれらの塩類」までも含めていることは技術的に矛盾する。
そこで、イ、ロについて検討する。
イについて
本件発明1、6の(c)に記載の「前記決定可能pH安定範囲」は(a)に記載の「決定可能」加水分解可能シランのpH安定範囲を意味するものであり、その「pH範囲」は上記〔決定可能なpH範囲〕について述べたとおりであり、技術的に不明確ではない。
ロについて
本件発明1、6の(c)の化合物は、「前記決定可能pH安定領域内に前記組成物のpHを緩衝させるための化合物」であり、発明の詳細な説明では、「水に溶解させた場合酸またはアルカリの添加に際して、その水素イオン濃度における変化に抵抗する溶液を生成するあらゆる物質または物質の組合せを意図するものである。」(本件公報第5欄、第9行~第13行)、「緩衝剤。シランの安定性に関して、組成物をpH範囲内に最適に緩衝させるための物資」(本件公報第11欄、第41行~第42行)と記載されている。これらの記載から、「化合物(c)」は、酸を添加した場合またはアルカリを添加した場合に、水素イオン濃度の変化に抵抗する溶液を形成する物質または物質の組合せであって、組成物のpHをpH安定範囲内に緩衝する作用を有するものに限定されるものであるから、「化合物(c)」がほとんどすべての化合物を含むことにはならない。
また、明細書の「それらの塩類を含む有機および無機酸および塩基・・・混合物がある。」(本件公報第13欄42行~14欄第11行)の記載は、「化合物(c)」を選択する場合に対象となる化合物を種々列記したものであるから、上記の「化合物(c)」の解釈とは矛盾しない。
〔殺生物剤〕について
異議申立人は、本件公報には、殺生物剤が配合されていないシランエマルジョン組成物について、本件発明の「化合物(c)」を用いることの技術的価値を裏付ける記載が存在しないから、殺生物剤と特定の緩衝剤とを組合せる技術を越えたまったく技術的裏付けのない技術をその技術的範囲に含んでいる訂正前の請求項1、6に係る発明は不当に広く、また殺生物剤と特定の緩衝剤を含まない技術については技術的価値が認められない、と主張している。
その点を検討すると、本件明細書には、従来技術の問題点として、従来のある種の水性シランはpHがドリフトする傾向があり、シランが水と反応して重合し、撥水成分の含有量が減少すること、添加剤が包含されるとpHがシフトする可能性があることが挙げられ(本件公報第4欄第5行~第12行)、「化合物(c)」の緩衝剤は、酸またはアルカリが添加された場合にも,シラン組成物のpHレベルをpH安定範囲内に維持するものであること(本件公報第11欄第41行~第12欄第40行)が記載されており、加水分解可能シランを含む組成物に「化合物(c)」を配合する技術的意義は明らかである。本件発明1、6は、加水分解可能シランと「化合物(c)」を組合せた点に特徴があり、その点は発明の構成として特許請求の範囲に記載されている。そして、その構成によりもたらされる、組成物のpHを安定範囲内に維持できるという明細書記載の効果も実施例により裏付けられているものである。実施例ではすべて殺生物剤を添加しているが、これらは本件発明の効果が生じていることを示しており、本件発明1、6を技術的に裏付けていないとすることはできない。
また、異議申立人は、訂正前の請求項1、6に係る発明は不当に広いと述べているが、殺生物剤を含有していないときに本件発明1、6の効果が生じないことを立証する具体的根拠は何も示していない。
〔約0.001乃至約5重量%〕について
異議申立人は、訂正前の請求項2において、「緩衝用化合物(c)は(a)、(b)、(c)および(d)の組み合せを基準として約0.001乃至約5重量%」と記載されているがこの記載は明細書の記載と矛盾するので、請求項2の発明は明細書の記載によって裏付けられていない発明である、と主張している。
その点について検討すると、訂正請求により、「0.001」は「0.01」に訂正された。これによって本件発明2に関する上記の記載不備は解消した。
〔まとめ〕
したがって、本件明細書の記載が、特許法第36条第3項、第4項及び第5項の規定を満たしていないとはいえない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
硬化時に低揮発性有機化合物を含む緩衝化シランエマルジョン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】有効量の:
(a)決定可能pH範囲内で本質的に加水分解的に安定である一般式:Rn-Si-(R1)4-n(式中、RはC6-C30ヒドロカルビルまたはハロゲン化ヒドロカルビル、R1はC1-C6アルコキシ、ハロゲン化物、アミノカルボキシルまたは前述のいずれかの混合物、そしてnは1または2である。)で表される加水分解可能シランと、
(b)HLB値約1.5乃至20を有する乳化剤また乳化剤の混合物と、
(c)前記決定可能pH安定範囲内に前記組成物のpHを緩衝させるための少なくとも1種類の化合物と、
(d)水とを含んで構成されることを特徴とする硬化後に揮発性有機化合物を含有量約350g/l以下を有する緩衝化水性シランエマルジョン組成物。
【請求項2】前記加水分解可能シラン(a)は組成物の約1乃至約60重量%を構成し、前記乳化剤(b)は(a)基準で約0.5乃至約50重量%を構成し、前記緩衝用化合物(c)は(a)、(b)、(c)および(d)の組み合わせを基準として約0.01乃至約5重量%を構成し、そして水(d)が100重量%をもたらすに足る量をもって存在する請求項1記載の組成物。
【請求項3】前記乳化剤(b)がHLB値約4乃至約17を有する請求項1記載の組成物。
【請求項4】前記緩衝用化合物(c)が炭酸、りん酸、硫酸、ヒドロ硫酸、C1-C6オルガノ-、モノ-またはポリカルボン酸またはC2-C30アルキレンイミノポリカルボン酸、アンモニア、C1-C30有機塩基のモノ-またはポリアルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミン塩、あるいは前述のいずれかの混合物である請求項1記載の組成物。
【請求項5】更に、
(e)低い有効量の殺生物剤を含有する請求項1記載の組成物。
【請求項6】(i)多孔質支持体の表面に対し、有効量の:
(a)決定可能pH範囲内で本質的に加水分解的に安定である一般式:
Rn-Si-(R1)4-n
(式中、RはC6-C30ヒドロカルビルまたはハロゲン化ヒドロカルビル、R1はC1-C6アルコキシ、ハロゲン化物、アミノカルボキシルまたは前述のいずれかの混合物、そしてnは1または2である。)で表される加水分解可能シランと、
(b)HLB値約1.5乃至約20を有する乳化剤また乳化剤の混合物と、
(c)前記決定可能pH安定範囲内に前記組成物のpHを緩衝させるための少なくとも1種類の化合物と、
(d)水とを含んで成る、硬化後に揮発性有機化合物含有量約350g/l以下を有する緩衝化水性シランエマルジョン組成物を適用する工程、および
(ii)前記組成物を硬化させる工程を含んで構成されることを特徴とする前記支持体について水性媒質によりその耐浸透性を増加させるための方法。
【請求項7】前記多孔質支持体がメーソンリー、セメント、膨脹パーライトまたは木材を含んで成る請求項6の方法。
【発明の詳細な説明】
本発明は緩衝化水性系であって、特に多孔質支持体を揆水性とするのに有用であるものに関する。より詳細に本発明は水性シランおよび/またはそのオリゴマーから成る緩衝化エマルジョンであって、硬化時に低レベルの揮発性有機化合物(VOC)を含むもので、更にたとえ殺生物剤がその組成物中に含まれていたとしても、多孔質メーソンリー(masonry)および木材表面を処理してその種の表面を揆水性とするのに有用であるものに関する。
メーソンリー用揆水剤としてシラン、特にアルコキシシランの有用性は広く知られている。現在使用されている組成物は以下に述べるような様々な有機溶媒におけるシランの溶液を利用している。それらの有機溶媒はたとえば、アルコール[たとえば、セイラー(Seiler)の米国特許第3,772,065号およびブラウン他(Brown et al.)の米国特許第4,342,796号参照]または炭化水素[たとえば、リン(Linn)の米国特許第4,525,213号参照]である。この種溶媒タイプ組成物の決定的な限界は使用される溶媒の毒性および引火性にある。
非毒性かつ非引火性である水性シラン組成物は効果的なメーソンリー用揆水剤として重要になって来ている[パーリンジャー(Puhringer)の米国特許第4,433,013号、シュミット(Schmidt)の米国特許第4,517,375号およびデパスクウォール他(DePasquale et al.)の米国特許第4,468,904号参照]。しかし、この種の組成物は重大な欠点を伴う可能性があり、それはそのpHがドリフトする傾向を有し、次にそのシランが水と反応し、そして重合するというものである。このことが活性な揆水性成分の含有量を減少させることによって、その効力を減少させるのである。更に、この系のpHは殺生物剤のような、通常菌類等の成長を遅延させるために添加する添加物を包含させることによって変化する可能性がある。水含有エマルジョンの安定性はそれらを冷凍させることによって或る範囲で高めることが出来るし、あるいは減少する効力の問題は調製後直ぐにそのエマルジョンを使用することによって回避することが出来るが、両手段は費用有効的ではないし、また或る場合には防水の収縮(waterproofing contractors)が上述の溶媒含有非水性組成物に逆戻りさせる可能性がある。
先行技術は屡々、水中に分散されたシランが反応してシリコーン樹脂を生成することを示している[たとえば、ハッチャー他(Hatcher et al.)の米国特許第2,683,674号およびラレイー(Raleigh)の米国特許第4,175,159号参照]が、それらを安定化する容易な方法は全く示されて来なかった。或る場合には、その系のpHが調節されて樹脂生成の割合を増加させて来た[たとえば、デューブザー他(Deubzer et al.)の米国特許第4,552,910号ならびにオナ他(Ona et al.)の米国特許第4,228,054号]が、pH制御は安定化手段として示唆されなかった。揆水剤として有用である安定な加水分解したシラン含浸液も、上述のパーリンジャーおよびシュミット特許中で報告されているように、水中に若干のシランを溶解させることによって調製することが出来るが、それらはゆっくりと一定してシランを加水分解し、そして安定な加水分解シラン組成物を生成することはない。ウィルソン(Wilson)の1989年5月2日に出願され、今は許可された一般譲渡による米国特許出願第189,146号は加水分解的に安定である通常は加水分解可能なシランエマルジョンが、適切なシラン(主として水不溶性)および適切な乳化剤を選択し、緩衝化合物を用いることによって、もしそのpHが予め定めたpH安定範囲内、典型的には6-8に維持されれば、調製可能であることを開示している。更に、ウィルソンの1989年5月1日に出願され、今は許可された一般譲渡による米国特許出願第317,714号は膨脹パーライトとの組合せにおける緩衝化シランエマルジョン組成物を開示している。
しかしながら、大気質についての現代の環境問題は、多孔質支持体用の、硬化時に低レベルの揮発性有機化合物を含む揆水剤の開発を望ましいものとして来た。この特質を有する化合物は環境保護庁(EPA)によって述べられた揮発性有機物に対するますます厳しくなる基準に鑑みて特に望ましい。この目的のために、本発明の緩衝化シランエマルジョンはメーソンリー、セメントおよび膨脹パーライト表面を揆水性とするのに有用な、安定組成物を提供するため、および最も厳しい大気質基準でさえ満足する硬化時に、充分低い揮発性有機化合物を有するという双方に関して非常に適切である。
本明細書および特許請求の範囲において使用する場合、用語「前記組成物のpHを前記決定可能なpH安定領域内に緩衝させるための化合物」は水に溶解させた場合酸またはアルカリの添加に際して、その水素イオン濃度における変化に抵抗する溶液を生成するあらゆる物質または物質の組合せを意図するものである。このことは当業者に対して緩衝化合物の広範囲に亘る族(family)を思い起こさせるであろうが、典型的な緩衝化合物についての非常に沢山の例示を以下に、そして製造例において述べるものとする。
本発明によれば、多孔質支持体を揆水性とするのに有用で、かつ硬化時に揮発性有機化合物含有量約400g/l未満を有する緩衝化水性シランエマルジョン組成物が提供され、その組成物は有効量の:(a)決定可能pH範囲内で本質的に加水分解的に安定である加水分解可能シランと、(b)親水・親油性バランス(HLB)値約1.5乃至約20、好ましくは4乃至17を有する少なくとも1種類の乳化剤と、(c)前記決定可能pH安定範囲内に前記組成物のpHを緩衝させるための少なくとも1種類の有効量の化合物と、(d)水とを含んで構成される。
その実施態様の一つにおいて、本発明はまた、多孔質物質について水性媒質による耐浸透性を増加させる方法を提供するもので、該方法は支持体の表面に対し上に定義した緩衝化組成物を適用する工程と、引き続いて該組成物を硬化させる工程とを含んで構成される。
上に定義したような組成物ならびにこの種組成物の使用を含んで構成される本発明の実施態様であって、同時に有効量の(e)殺生物剤をも含有するものについて特別な言及が為されるものとする。
本明細書において使用される用語「メーソンリー」はあらゆる多孔質無機物質、特に建築用組成物を意味し、そしてそれらはそれを包含するが、それに限定されるものではない構造用セラミック、たとえば普通煉瓦、舗道煉瓦、化粧煉瓦、下水管、ドレンタイル、コンクリートブロック、テラコッタ、導管、屋根瓦、煙道ライニング、セメント、たとえばポートランドセメント、焼石膏製品、すなわち成形および建築用プラスターならびに化粧漆くい、マグネシアセメント、絶縁製品、たとえば電気および熱絶縁体(珪藻土煉瓦)および磁器スパークプラグ等である。
メーソンリー材料はまた、石、タイル、人工石、アドービ煉瓦、ならびにたとえば、車道、ブリッジデッキ、空港滑走路、駐車ガレージデッキおよびその他のコンクリート建築構造物に見られるような鉄筋コンクリートを包含する。本発明に従って処理可能であるメーソンリー材料はその揆水性組成物によって処理される際、それらは湿っていてもよいが、乾燥していることが好ましい。硬化性(settable)メーソンリー材料の場合、本発明の組成物は流し込みおよび凝結の前にプリセット混合物、たとえばコンクリートミックス中に配合してもよい。木材、構造用材、羽目板等もまた本発明を利用して揆水性とすることが出来る。
本明細書中で使用されるように、用語「膨脹パーライト」は一般にあらゆるガラスロックを含んで構成される組成物であって、加熱によって顕著に膨脹する能力を有し、また特に結合水2乃至5%を含有する流紋岩組成物から成る火山ガラスを含んで成る組成物を意味する。パーライトは一般に同心の、略球形のクラックから成る系により特徴づけられ、これらはパーライト構造と称される。膨脹パーライトはあらゆるガラスロックを意味し、そしてより詳細には火山ガラスを意味し、これは素早く加熱すると、突然に膨脹または「ポンとはじける」。この「ポンとはじける(popping)」のは破砕したパーライトの粗粒を初期融解の温度に加熱する際に一般に生ずる。含有されていた水は蒸気に変換され、そして破砕された粒子は軽く、ふわふわした細胞状の粒状体を生成する。この粒状体について少なくとも10倍の容量増加は一般的である。パーライトの異なったタイプはガラスに影響を及ぼす性質、たとえば軟化点、膨脹のタイプおよび程度、気泡の寸法、およびそれらの間の肉厚ならびに生成物の多孔度についての組成物における変化によって特徴づけられる。一般的に「エンサイクロペディック・ディクショナラー・オブ・インダストリアル・テクノロジー(Encyclopedic Dictionary of Industrial Technology)」、材料、方法および装置(1984年)、第226-27頁およびグランド、「ハックーズ・ケミカル・ディクショナリー(Hackh’s Chemical Dictionary)」、ザ・バルキストン・カンパニー・インコーポレーテッド、第3版(1944年)を参照されたい。
本発明組成物は全て硬化時に、約400g/l未満、好ましくは約350g/l未満、より好ましくは約300g/l未満、そして最も好ましくは約250g/l未満の揮発性有機化合物(VOC)含量を伴うものである。このVOC含量は環境保護庁法24を利用して決定される。VOC含量は下記の等式:

(式中、d=ASTM D1474-85に従って試験される物質の密度、S=ASTM D2369-86による固形分百分率、そしてW=ASTM D4017-81に従って決定される水分百分率。)に従って計算される。
加水分解可能シラン(a)。本発明の水性ベース組成物は好ましくは、成分(a)として加水分解可能シランを含んでいる。これはたとえば、分子量約600まで(あるいはオリゴマーであれば、本質的にその倍数)を有するもので一般式Rn-Si-(R1)4-n(式中、RはC1-C30ヒドロカルビルまたはハロゲン化ヒドロカルビル基、R1はC1-C6アルコキシ、ハロゲン化物、アミノ、カルボキシルまたはそれらのいずれかの混合物、そしてnは1または2である)。で表されるものである。ヒドロカルビル基は水素および炭素原子を含んで成り、そしてそれらは脂肪族または脂環式あるいはアリールまたはアラルキルであればよい。これらのヒドロカルビル基はまた、置換基としてハロゲン、たとえば塩素、臭素、フッ素、窒素、酸素または硫黄ヘテロ原子を含んでいてもよい。この種ハロゲン置換基は1個以上R基内に存在してもよい。好ましいのはR基がC6-C30ヒドロカルビルまたはハロゲン化ヒドロカルビルであり、そしてより好ましいのはR基がC8-C30ヒドロカルビルまたはハロゲン化ヒドロカルビルであることである。R1基はC1-C6アルコキシ、ハロゲン、アミノまたはカルボキシレート基を含んで成っていてもよい。このような訳でアルキル基の中でR1として有用なのはメチル、エチル、n-プロピルおよびイソプロピルである。先に示したように、nは1または2であればよいので、モノヒドロカルビル置換アルコキシシランおよびジヒドロカルビル置換アルコキシシランが本発明によって意図されるものである。本発明の活性成分もまた、当該技術分野で周知のように、シランの縮合二量体および三量体またはその他のオリゴマーを含んで成ることが可能である。この加水分解可能シラン(a)は分量において広い範囲に及んでいてよい。しかし、基準的にその量は組成物の約1乃至約60重量%、そして特に約10乃至約50重量%を構成すればよい。
本発明によれば、特に有用なシランは単量体に関し一般に分子量135超過、そして好ましくは190超過乃至約600までを有するものである。組成物中に存在する二量体および三量体は勿論、使用されるシラン単一種の分子量の基本的に倍数を有することになる。所望により、様々なシランの混合物を用いてもよいことが特に言及されるべきである。
本発明に従って有用であるシランの具体例であって、それらに限定されるものではない例には、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジ-イソブチルジメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、6-クロロ-ヘキシルトリメトキシシラン、6,6,6-トリフルオロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、4-クロロベンジルトリメトキシシラン、4-ブロモベンジルトリ-n-プロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリイソプロポキシキシシラン、2-エチルヘキシルトリメトキシシラン、4-クロロベンジルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリプロモシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、エイコシルトリメトキシシラン、ビス(オクチルジエトキシシロキサン)二量体、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ビス(ドデシルジエトキシシロキサン二量体、オクタデシルトリメトキシシラン、1,3-ジエトキシヘキサメチルトリシロキサン等、それらのいずれかから成る混合物の単体、ならびにそれらとその二量体、三量体およびそれらの他のオリゴマーとの混合物がある。
乳化剤(b)。色々な種類のイオンおよび非イオン乳化剤が試みられ、そして本発明において有用であることが判明している。非イオン、アニオン、カチオンおよび両性乳化剤が技術の現状から周知である。しかし、好ましい乳化剤は非イオン性のものである。本発明により使用される乳化剤の濃度は広い範囲に及んでいてもよいが、好ましいのはシラン(a)の約0.5乃至約50重量%、そして特に好ましいのは該シランの約1乃至約8重量%の範囲におけるものである。
一般に、ここでは約1.5乃至約20の範囲、そして好ましくは約4乃至約17の範囲内のHLBを有するこれら乳化剤または乳化剤ブレンドを使用すればよい。与えられたシランまたはシラン混合物についての適切なHLB値は、最適な安定性を確かめるために実験的に決定せねばならない。
界面活性剤のHLB分類は分子の構造に基づいているので、単一分子の挙動を予報することが出来る。HLBは当業者に知られた技法により実験的に決定される。たとえば、それらは米国デラウエア州、ウィルミントンのICIアメリカス・インコーポレーテッド(ICI Americas,Inc.)によって出版されたパンフレット「HLB系(The HLB System)」中に述べられている。また刊行物「除草剤用アジュバンド(Adjuvants for Herbicides)」、ウィード・ソサィエティ・オブ・アメリカ、米国イリノイ州、シャンペーンも参照されたい。もし、乳化剤のHLBが、1.5未満であると、それは本発明において有用ではない。その理由はそれが安定な水中油型エマルジョンを生成しないからである。他方、もしHLBが20を超えると、安定性が乏しいのでそれもまた有用ではない。4-17の範囲内のHLB値が好ましい。それはそれらが上述のシランについて最も安定なエマルジョンを提供するからである。
本明細書に従って使用することのできる乳化剤の具体例ではあるが、それらに限定されるものではない例は以下の通りであり、そのHLB値は名称に引き続き括弧内に示されている。すなわち、それらはソルビタントリオレエート(1.8)、ソルビタントリステアレート(2.1)、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサステアレート(2.6)、グリセロールモノステアレート(3.8)、ソルビタンモノオレエート(4.3)、ソルビタンモノステアレート(4.7)、ポリオキシエチレン(2モル)ステアリルエーテル(4.9)、ソルビタンモノパルミテート(6.7)、ポリオキシプロピレンマンニトールジオレエート(8)、ポリオキシエチレンソルビトールオレエート(9.2)、ポリオキシエチレンステアレート(9.6)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(10.0)、ポリオキシエチレンモノオレエート(11.4)、ポリオキシエチレン(6モル)トリデシルエーテル(11.4)、ポリオキシエチレン(10モル)セチルエーテル(12.9)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(15)、ポリオキシエチレン(20モル)ステアリルエーテル(15.3)、ポリオキシエチレン(15モル)トリデシルエーテル(15.4)、ポリオキシエチレンアルキルアミン(カチオン、15.5)、HLB9.7、約10および11.6を有するポリオキシエチレンアルコール、HLB値10,11および12を有するエトキシル化ノニルフェノール、HLB値10.6を有するジアルキルフェノールエトキシレート、5.5乃至15の範囲内のHLB値を有するエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのブロックコポリマー、HLB約13.5、17.3および17.9を有するエトキシル化オクチルフェノール、HLB値約4を有する脂肪酸グルセリド、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、前述のいずれかの混合物等である。
以下の表において示される好ましい乳化剤は特に有用なシランのエマルジョンを提供する。

乳化剤の1種類、たとえばラウリル硫酸ナトリウムが1.5-20の範囲外のHLBを有していれば、ブレンディングが必要かも知れないし、また望ましい。HLB約40のラウリル硫酸ナトリウムは上に示したように、低HLB物質とブレンドして使用に供される。
緩衝剤。シランの安定性に関して、組成物をpH範囲内で最適に緩衝させるための物質はタイプおよび量において広く変動可能である。適切な緩衝剤の選択は当該技術分野で通常の技術を有する者によって周知の技法により容易に行われる。特に都合がよいのはシラン組成物であって、シラン(a)、乳化剤(b)および水(c)を含んで成るシラン組成物をデパスクウォールおよびウィルソンの米国特許第4,648,904号の教示に従って調製し、そして最初にpHおよびシランの濃度を測定し、次いで候補緩衝剤を添加することである。受容可能な候補は、たとえ通常pHを、可成りのシラン加水分解が生ずる領域内に移動させるであろう相当な量の酸または塩基を添加したとしても、そのpHレベルを前記の決定可能pH範囲内に維持すべきである。+または-1pH単位の振幅は許容可能である。同様に当面の問題に関係があるのは、殺生物剤の添加によって誘発されるpH振幅であり、該殺生物剤は実質的にpHを変え、そして加水分解を促進する。長期安定性を測定するには二つの方法が便利である。一つはエージング後の最終pHおよび最終シラン含有量を決定するものであり、また他のものは標準試験法を用いてモルタル立方体に対するシランエマルジョンの性能試験、たとえば上述のデパスクウォールおよびウィルソン特許中に記載されたような試験を行うというものである。前者において、不適切な緩衝化合物を使用すると、加水分解を促進する範囲内へのpHの移動、たとえば7.5から4.0への移動を阻止することが出来ず、そして最終シラン濃度は可成り減少、たとえば40%から20%にカットされることになり、極端な場合には0%にまで低下する。このような試験は非常に長い期間に亘って行われるべきであり、たとえばエージング後そのエマルジョンは室温で12か月までも試験下にある。性能試験において、2インチのモルタル立方体を試験エマルジョンで2回塗布し、そして塗膜を硬化し、次いで水中に21日間浸漬する。化合物処理立方体の重量増加における軽減%を未処理対照立方体のそれと比較することがシラン含量の保持と緩衝剤の効力を示すことになる。
最初の実験において、エマルジョンを緩衝せず、そして先行技術による手順に従って調製した。それらは殺生物剤を含有しており、これは酢酸に分解されてpHを4に下降させた。製造1か月以内で、この種のエマルジョンは上に述べた揆水性試験において減少した性能を示した。それらはまた、ガスクロマトグラフ法によって測定したとき、減少したシラン濃度を示した。5か月後、現状の技術によるエマルジョンはコンクリートに対する揆水性試験において非常に劣った性能を示した。
引き続いた夥しい実験は、様々な緩衝剤が技術の現状エマルジョンのpHを約7.5に上昇させるのに有効であり、そして配合の有効性を或る期間を超えて維持することを示した。
この方法により緩衝化したn-オクチルトリエトキシシラン、すなわちピー・シー・アール・インコーポレーテッド(PCR,Inc.)の「PROSIL(商標)9202」有機官能性シランが支配的であるエマルジョンを1年後にガスクロマトグラフ法により分析したところ、95%以上のシランが加水分解されない儘であった。更に、非緩衝化エマルジョンはpH4において同様な期間後、非加水分解シラン5%未満を示したが、これは緩衝剤化合物の長期安定化効果を示している。
エマルジョン成分、特に殺生物剤がpHを中性から離れて変動させる場合に、緩衝剤は特に重要であるが、実験は緩衝剤を用いなくても固有に中性、すなわちpH7である他のエマルジョンにおいては、シランが何か月もの間実質的に加水分解されない儘であることを示している。このような場合、そのエマルジョンは殺生物剤を含まないか、あるいはそれらは本来的に中性pHを変化させない別の殺生物剤を含有するものである。
シランエマルジョンにとって有用な緩衝剤の実例、特に殺生物剤を含有するものについてのそれには、それらの塩類を含む有機および無機酸および塩基、そして好ましくは炭酸、りん酸、硫酸、ヒドロ硫酸、C1-C6オルガノ-、モノ-またはポリカルボン酸、またはC2-C30アルキレンイミノポリカルボン酸、アンモニア、C1-C30有機塩基のモノ-またはポリアルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミン塩類、あるいは前述のいずれかから成る混合物がある。それらの例示は炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、ほう酸ナトリウム、りん酸一、二または三ナトリウム、りん酸一、二または三カリウム、りん酸アンモニウムナトリウム、硫酸一または二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カルシウム、ぎ酸ナトリウム、硫化一または二ナトリウム、アンモニア、モノ-、ジ-またはトリエチラミン、モノ-、ジ-またはトリエタノールアミン、(エチレンジニトリロ)四酢酸ナトリウム塩(E.D.T.A.ナトリウム)、ピリジン、アニリンおよび珪酸ナトリウムである。これらは適切な緩衝剤についてのほんの僅かな例に過ぎない。これらの物質と他の緩衝剤、酸類または塩基類との組合せ、たとえば水酸化アンモニウムおよび酢酸との相互使用はまた、効果的である。
りん酸三ナトリウム(Na3PO4)および水酸化アンモニウム(NH4OH)が好ましいが、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が特に好ましい。それは取り扱いが容易であり、首尾一貫してpH7.5を有するエマルジョンをもたらし、環境的に安全であり、そして安価だからである。
使用すべき緩衝剤の量は広く変更可能である。しかし、一般に組成物全体の0.01重量%未満では充分有用ではなく、そして5重量%を超えると不経済である。
殺生物剤(e)を使用する場合、抗菌および殺生物活性を付与するために当該技術分野で周知の如何なるものも組成物の重量基準で慣習的な量、たとえば約0.1乃至5重量%をもって使用することが出来る。これらの実施態様についての適切な殺生物剤は、商標「Giv-Gard DXN」殺生物剤の下にギヴォーダン・コーポレーション(Givaudancorp.)により市販される6-アセトキシ-2,4-ジメチル-m-ジオキサン、またはメチルp-メトキシベンゾエート等を含んで構成される。これら殺生物剤の代表的な濃度は0.15重量%である。
殺生物剤の他に、本発明の緩衝剤安定化配合物はその他の添加物、たとえばフレグランス、着色剤、シックナー、発泡剤、消泡剤等を含んでいてもよい。
以下の実施例は本発明を例示するものであるが、それらによって特許請求の範囲が限定されると解釈されるべきではない。
実施例1
「Waring Blendor(商標)」ミキサー内のオクチルトリエトキシシラン200gおよび乳化剤混合物であって、オクチルフェノールポリエチレンオキシエタノール(ローム・アンド・ハース「Triton(商標)x-100」)70%とHLB約15のオクチルフェノールポリエチレンオキシエタノール(ローム・アンド・ハース「Triton(商標)X-305」)30%とを含んで成るもの8gの混合物に対し、脱イオン水292gであって、6-アセトキシ-2,4-ジメチル-m-ジオキサン殺生物剤(キヴォーダン・コーポレーション、「GIV-GARD(商標)DXN殺生物剤」を最終濃度0.15%を提供する量をもって含有しているものと、緩衝剤として0.10%炭酸水素ナトリウムとを緩慢に添加する。ミキサー速度を漸進的に増加させて、大量の空気を混入することなく、良好な分散液を提供する。完全な添加後、この混合物を更に5分間高速で攪拌して本発明に従い緩衝化エマルジョンを提供するが、これはpH7.5を有し、そしてその均質な乳白色の外観を室温で1年以上維持するものである。比較の目的で、エマルジョンを全く同一の方法で、但し炭酸水素ナトリウム緩衝剤を除いて調製する。このエマルジョンのpHは4.0(比較例1A)である。別な比較の目的で、エマルジョンを同一方法で調製するが、殺生物剤はメチルp-メトキシベンゾエート0.15%で置換し、そして炭酸水素ナトリウム緩衝剤は排除するものとする。このエマルジョンのpHは7.0である(比較例1B)。
実施例1ならびに比較例1Aおよび1Bのエマルジョンは、1/8インチ×10フィートの20%SP-2100カラムを用い、16℃/分において100°から280℃まで温度をプログラムし、内部標準液としてオクタメチルシクロテトラシロキサンを使用するガスクロマトグラフ法によって、最初にシランH17C8Si(OC2H5)3、そして二量体H17C8Si(OC2H5)2-O-Si(OC3H5)2C8H17の濃度について分析する。約23℃におけるエージング12か月後、このエマルジョンは再びpHおよびシラン濃度について試験される。得られた結果は第1表中に示される。

先のデータは、本発明による緩衝剤が非加水分解状態においてシランの略全てを維持するのに対し、緩衝剤無しではシラン含量が半分にカットされ、長期貯蔵の間には完全に消え去ってしまう場合さえあることを示している。
性能試験に関して、実施例1および上の比較例1Aに記載されるように調製されたエージングしたエマルジョンを、コンクリート立方体を用いて、デパスクウォールおよびウィルソンの米国特許第4,648,904号に従い試験する。1辺2インチのセメントモルタル立方体を73°Fにおいて相対湿度50%の制御室内で21日間調整して一定の重量を付与する。揆水性に関し試験すべき各組成物を、2個の立方体に対し125平方フィート/ガロン(3.07m2/l)の割合で塗布し、そして各立方体の当初重量を記録する前にこの塗装した立方体を制御室内のラック上で13日間に亘って硬化させる。2個の非処理対照立方体を含む全ての立方体をラック上に配置し、そして蒸溜水浴中に浸漬する。21日間の浸漬の後、これらの立方体を取り出し、水を拭って乾燥し、そして直ちに秤量する。各ブロックの重量増加百分率は

重量増加についての軽減%は式:
100×(対照の重量増加%)-(試料の重量増加%)/(対照の重量増加%)=重量増加の軽減%
によって計算される。
重量増加についてのより大きい軽減は、多孔質材料用揆水剤として一層高い有効性を示すものである。モルタルブロックのばらつきに起因して、重量増加の軽減%に関する値は約±5%の精度を有している。
エージングしたエマルジョンについてのコンクリート吸水量の結果を第2表中に示す。

第1表中のシラン含有量データにより示唆されたような緩衝剤を使用することについての有益な結果は第2表中に示された実際の吸水量試験により確認される。
実施例2
実施例1の手順を反復するが、使用される乳化剤を「Span(商標)20」および「Span(商標)60」として知られるソルビタン脂肪酸エステル約3重量%ならびに「Tween(商標)81」として知られるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルと置換するものとする。「Spans」及び「Tweens」はICIアメリカス・コーポレーションの商標である。本発明により安定な緩衝化したエマルジョンが得られる。
実施例3および4
実施例1の手順を反復するが、緩衝剤として炭酸水素ナトリウム、りん酸水素二ナトリウムおよび水酸化アンモニウムと酢酸との混合物を置換するものとする。貯蔵安定な水性エマルジョンが本発明に従って得られる。
実施例5-17
実施例1の手順に従って、様々な緩衝化水性シランエマルジョンを調製する。以下の第3表はこれらの緩衝化水性シランエマルジョンに関する理論的VOCを要約している。

この結果、上の第3表は本発明の組成物が硬化したとき400g/l未満の揮発性有機化合物含量を有し、そして或るものは含有量レベル250g/l未満を示すものであり、たとえ厳格な環境大気質規定の下においてすら、それらを防水シーラントとして非常に適切に使用せしめることを示している。
上述の特許、特許出願、刊行物および試験方法はここに参考として引用するものとする。
本発明の数多くの変形が上記の詳細な説明に鑑み、それ自体によって当業者に示唆されるであろう。たとえばシランはイソブチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、4R-トリエトキシシリルメンテン-1、そしてそれらの混合物等を含んで構成することもできる。40重量%の代わりに、組成物はシランの20重量%を含んで構成することもできる。殺生物剤は除去してもよい。メーソンリー表面は膨脹パーライトまたは如何なるセメント組成物であってもよい。全てのこの種明白な変更な完全な意図された特許請求の範囲内に在るものとする。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項2の記載について、「約0.001乃至約5重量%」とあるのを「約0.01乃至約5重量%」と訂正する。
異議決定日 2002-11-18 
出願番号 特願平2-213625
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C07F)
P 1 651・ 113- YA (C07F)
P 1 651・ 534- YA (C07F)
P 1 651・ 531- YA (C07F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 雨宮 弘治
特許庁審判官 佐藤 修
後藤 圭次
登録日 1999-08-27 
登録番号 特許第2971108号(P2971108)
権利者 ピーシーアール、グループ、インコーポレーテッド
発明の名称 硬化時に低揮発性有機化合物を含む緩衝化シランエマルジョン  
代理人 加藤 邦彦  
代理人 坂本 徹  
代理人 坂本 徹  
代理人 加藤 邦彦  

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