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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G03G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03G
管理番号 1079662
異議申立番号 異議2003-70367  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-07 
確定日 2003-06-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第3314491号「非磁性一成分現像剤」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3314491号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3314491号は、平成5年10月20日に出願され、平成14年6月7日にその発明について特許の設定登録がなされ、その特許に対して、三菱化学株式会社より特許異議の申立がなされた。

2.特許異議申立について
2-1 本件発明
本件請求項1~6に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 (A)スチレン系樹脂からなる結着樹脂と着色剤とを含み、球形化度が0.8以上、かつ、帯電極性が負帯電である着色微粒子、(B)一次粒子の平均粒径が30~100nmの範囲内にある疎水化処理されたシリカ微粒子、及び(C)縮重合体からなるトリアジン系樹脂微粒子を混合してなることを特徴とする非磁性一成分現像剤。
【請求項2】 (A)着色微粒子100重量部に対して、(B)シリカ微粒子0.1~2.0重量部、及び(C)トリアジン系樹脂微粒子0.01~5.0重量部を混合してなる請求項1記載の非磁性一成分現像剤。
【請求項3】 (C)トリアジン系樹脂微粒子が、平均粒径0.1~3μmの範囲内にある球形の微粒子である請求項1記載の非磁性一成分現像剤。
【請求項4】 (C)トリアジン系樹脂微粒子が、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、及びメラミン・ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるものである請求項1記載の非磁性一成分現像剤。
【請求項5】 現像剤の層厚を規制するための現像ブレードを現像ロール表面に圧接するよう配置して、現像ロール表面に現像剤を均一に塗布し、該現像ロールを感光体に接触させ、あるいは非接触に対向させることにより、該感光体上に形成された静電潜像を現像剤により現像する方法において使用される現像剤である請求項1記載の非磁性一成分現像剤。
【請求項6】 現像ブレードが、金属製である請求項5記載の非磁性一成分現像剤。」

2-2 特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人は、
甲第1号証 特開平4-335357号公報
甲第2号証 特開昭61-122656号公報
甲第3号証 特開昭64-77075号公報、及び、
参考資料1~12を提出して、
(1)請求項1、2、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する。
(2)請求項1~6に係る発明は、甲第1~3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に規定する発明に該当する。並びに、
(3)本件特許明細書には、記載上の不備があり、特許法第36条第4項(申立書には「第3項」とあるが、主張の内容からみて「第4項」に関する主張と認める。)に違反する。
ことにより、請求項1~6に係る発明の特許は、拒絶しなければならない特許出願に対して特許されたものであるからその特許を取り消すべき旨主張する。

2-3 甲号各証の記載事項と当審の判断
2-3-1 甲号各証の記載
甲第1号証には、静電荷像現像剤に関する発明が記載され、「本発明は微粒子(A:・・・)を表面層に固定したトナーと、該トナーに外添された微粒子(B:・・・)を含有することを特徴とする静電荷像現像剤を提供するものである。」(段落【0006】、以下【・・】は段落番号を示す。)、「[実施例1(トナーa)] ・・・クロム錯塩型染料・・・ 上記成分をボールミルで充分混合した後、・・・混練した。・・・粗粉砕し、さらにジェットミルで微粉砕した。・・・トナーを得た。」(段落【0050】)と記載されている。また、該発明は一成分または二成分系の静電荷像現像剤に関すること(【0001】)、微粒子(A)として特に疎水性シリカが好ましいこと(【0009】)、微粒子(A)の粒径は平均粒径0.02~1μmが好ましいこと(【0010】)、微粒子(B)の粒径は平均粒径0.05μm以下が好ましいこと(【0012】)、結着樹脂としてはポリスチレン系樹脂等が用いられること(【0015】)、高速複写機に好ましい結着樹脂としてはスチレン系モノマー等から合成されるポリマーが挙げられること(【0016】)、負帯電制御剤としてはクロム錯塩型アゾ染料等が挙げられること(【0021】)、着色剤としては顔料、染料が使用できること(【0024】)、一成分現像方式により耐刷テストが行われたこと(【0076】)、がそれぞれ記載されている。
甲第2号証には、静電荷像を現像するためのトナーに関して記載され、実施例1にはスチレン系の共重合体(樹脂)とカーボンブラックを混合して、熱ロールミルで混練し、冷却後粉砕して微粉末を得たこと、該微粉末とメラミンとホルムアルデヒドとの反応物である球形微粉末を混合してトナーを得たこと(3頁、右上欄)が記載されている。
甲第3号証には、「本発明は・・・特に現像剤担持体上に供給する一成分現像剤を規制部材により所定の帯電量及び厚さの現像剤層とし、・・・搬送して現像し可視化する一成分系の・・・現像方法に関する。」(1頁、右下欄)と記載され、「実施例1」には現像剤(例、非磁性一成分系)はスチレン樹脂等の熱可塑性樹脂中に顔料や極性制御剤を分散し粉砕、分級によって5~20μmの大きさとしたものであること(5頁左上欄16行~右上欄1行)が記載されている。

2-3-2 特許法第29条第1項第3号違反について
甲第1号証には、本件請求項1に係る発明の構成のうち、
(A)スチレン系樹脂からなる結着樹脂(【0015】~【0016】、【0050】)と着色剤(【0024】~【0038】、【0050】、【0052】)とを含み、帯電極性が負帯電(【0021】、【0050】、【0052】)である着色微粒子(【0050】、【0052】)、
(B)一次粒子の平均粒径が30~50nmの範囲内にある疎水化処理されたシリカ微粒子(【0010】~【0012】)、及び、
(C)第2の微粒子(【0052】)を混合してなる非磁性一成分現像剤(【0052】、【0057】、【0076】)が記載され、さらに、
第2の微粒子として、ベンゾグアナミン樹脂、あるいは、メラミン樹脂の微粒子(【0009】)、すなわち、本件特許明細書でいう「縮重合体からなるトリアジン系樹脂微粒子」が使用出来ることが記載されている。
したがって、請求項1に係る発明と、甲第1号証に記載された発明とを対比すると、着色微粒子について、請求項1に係る発明が、「球形化度が0.8以上」であることを規定するのに対して、甲第1号証には、球形化度に対する記載がない点で相違する。
相違点について検討する。
異議申立人は、参考資料1~11により、重合法により製造されるトナー粒子がほぼ球状、すなわち球形化度が1.0に近いものであることは、周知であることを申し立てる。
しかしながら、甲第1号証には、具体例において、いずれも混練し、粉砕する、いわゆる粉砕法による製造を示しており、それを、特に機械的、あるいは、熱的処理によって、球形化することを記載していない。それのみか、トナーの製造法として、「本発明の現像剤を調製するには、まず結着樹脂、顔料、帯電制御剤などの各成分を混練し粉砕するなど公知の方法により芯材トナーを調製する。得られたトナーを混合、攪拌機に入れ、トナーの表面に微粒子(A)を埋め込む。・・・・」(【0041】)のように、重合法によってトナーを形成すべきことすら、認識していない。
してみれば、甲第1号証には、着色微粒子の記載はあるが、その形状を「球形化度が0.8以上」とすることによって現像剤の流動性を高めるという技術思想は、全く示されていないものであるから、甲第1号証に、請求項1に係る発明が記載されているものとすることはできない。
また、請求項2及び5に係る発明は、請求項1に係る発明の構成をすべて引用してさらに限定を付加するものであるから、同じ理由で、甲第1号証に記載された発明ではない。

2-3-3 特許法第29条第2項違反について
請求項1に係る発明と、甲第1号証に記載された発明とを対比すると、上記のとおりの相違点が存在する。
相違点について検討する。
本件特許明細書によれば、所定の球形化度を有する着色微粒子の製造には、重合法によるだけでなく、粉砕法によって得られたものを、機械的あるいは熱的処理によって球形化してもよいことが記載されている(【0031】~【0032】)。
一方、甲第1号証には、トナー粒子の処理に、ハイビリダイゼーションシステム、コスモシステム、メカノフュージョンシステム、メカノミル、サフュージョンシステム等の商品名で示される装置を使用できることが記載されており(【0042】)、これらの装置の特性からみて、トナー粒子の球形化が生じている可能性も考えられるが、甲第1号証では、それらの装置は、微粒子(A)を固定化する目的で使用する(【0042】)ものであって、球形化を目的とするものではないから、甲第1号証の記載から、球形化度を特に0.8以上とすべき動機付けがない。
また、参考資料1~11にみるとおり、重合法により製造されるトナー粒子がほぼ球状、すなわち球形化度が1.0に近いものであることは、周知であるとしても、甲第1号証に、トナー粒子を球形化し流動性を高めるという思想がなく、重合法の採用すらも教示されていないのであるから、これら参考資料を考慮したとしても、甲第1号証の発明で製造されるトナー粒子について、特に球形化度0.8以上とすべき理由がない。
さらに、甲第2、3号証に記載されたトナーは、いずれも、その製造に粉砕法を採用しており、特に、球形化処理をするものでもないから、これらから球形化度を0.8以上とすることを容易に導くことができたとすることはできない。
したがって、請求項1に係る発明は、甲第1号証、あるいは、甲第1~3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
また、請求項2~5に係る発明は、請求項1に係る発明の構成をすべて引用してさらに限定を付加するものであり、請求項6に係る発明は、請求項5を引用することで、間接的に、請求項1に係る発明の構成をすべて引用してさらに限定を付加するものであるから、同様の理由により、甲第1号証、あるいは、甲第1~3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

2-3-4 特許法第36条違反について
異議申立人が、本件特許明細書の記載不備を主張する点は、次の5点である。
「球形度が0.8以上」の限定について、
(ア)比較例として、粉砕法による球形化度0.63の例のみでは、臨界的・技術的意義が不明である。
(イ)球形化度を制御する具体的手段の説明がない。
(ウ)実施例1では、球形化度0.97(【0046】)とし、表1中に記載された実施例1の球形化度は0.96であり、記載に齟齬がある。
「負帯電」の限定について、
(エ)段落【0029】の、「帯電制御剤を必要に応じて添加」との記載に対して、添加が必要な場合の添加剤の種類・使用法、添加が不必要である場合について説明がない。
(オ)正帯電と比較する例がないから、負帯電の効果が不明である。
以下検討する。
(ア)本件特許明細書には、「【0033】着色微粒子の形状を球形にすることによって、現像剤の流動性が高くなり、また、感光体上の静電潜像を現像した現像剤像を紙等の支持部材に静電的に転写する際の転写率が高くなる。着色微粒子の球形化の程度は、後述する測定法によって測定した球形化度が0.8以上であることが必要であり、好ましくは0.9以上である。球形化度が低すぎると、現像剤の流動性や支持部材への転写率が低下する。」と記載されており、球形化度を0.8以上とする技術的な意味は明らかである。また、比較例は1つであるがそのことが該記載を不明瞭にしているとは認められない。
(イ)本件特許明細書の記載、「【0031】・・・・粉砕法にて着色微粒子を得る場合には、例えば、スチレン系樹脂や着色剤、その他の任意成分を混練機にて溶融混合し、冷却した後、粗粉砕、微粉砕、分級、球形化処理を順次行えばよい。【0032】上述の重合法、造粒法、粉砕法等の方法により製造した着色微粒子は、必要に応じて、機械的あるいは熱的処理により球形化することが好ましい。球形化度が高い着色微粒子を得るためには、前記各種方法の中でも重合法によるのが好ましい。・・・・」から、通常行われるトナーの球形化方法が使用できること、「【0041】・・・・。<球形化度>着色微粒子の電子顕微鏡写真を数枚撮影し、該微粒子1個の全容が明らかになるところを選んで、微粒子の直径の中から、一番長い径(長径)と一番短い径(短径)を選んで測定し、短径を長径で割った値を算出する。微粒子100個について、同じ操作を行ない、これらの平均値を球形化度とする。」として、その測定方法が示されており、一定以上の球形度のものを得ることは当業者であれば容易に実施できる程度の記載となっている。
(ウ)数値の不一致は単なる誤記と認められる。どちらの値としても大きな差ではなく、球形化度が0.8以上である例として、不合理な数値ではないから、本件発明を不明にするようなものではない。
(エ)静電荷像現像剤の帯電性は、結着樹脂、着色剤、添加剤等の材料成分、帯電用ブレードの材質等、種々の要因によって決まるものであり、帯電制御剤を使用しなくても、所望の帯電性が得られれば、必ずしも帯電制御剤を使用することは必要ないし、得られなければ使用を試みることになる。すなわち、所望の帯電性を得るために、必要に応じて、帯電制御剤を選択し使用することは、当業界の常識である。
(オ)請求項1に係る発明では、着色微粒子の帯電性は「負帯電」に限られる。「正帯電」ではないのであるから、正帯電性のものの例示がないからという理由で本件明細書の記載が不備になると言うものではない。
したがって、本件特許明細書には、異議申立人が主張する記載上の不備は存在しない。

3.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1~6に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1~6に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-05-30 
出願番号 特願平5-285715
審決分類 P 1 651・ 531- Y (G03G)
P 1 651・ 113- Y (G03G)
P 1 651・ 121- Y (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 植野 浩志
阿久津 弘
登録日 2002-06-07 
登録番号 特許第3314491号(P3314491)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 非磁性一成分現像剤  
代理人 近藤 久美  
代理人 南野 雅明  
代理人 松田 寿美子  
代理人 長谷川 一  

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