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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1099352
審判番号 不服2001-12468  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-06-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-07-17 
確定日 2004-07-01 
事件の表示 平成10年特許願第331467号「蛍光X線分析用点滴ろ紙具」拒絶査定不服審判事件〔平成12年6月6日出願公開、特開2000-155080〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成10年11月20日の出願であって、その請求項1ないし2に係る発明は、平成12年3月6日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1は次のとおりである。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項1】 リング状板または平板状の単一の支持担体の上に、パラフィンサークルを持つことのない単一のろ紙を、両面テープあるいは接着剤のみにより固定してなることを特徴とする蛍光X線分析用点滴ろ紙具。」

2.引用刊行物の記載事項
(2-1)刊行物1(実願平5-56653号明細書(実開平7-26747号)のCD-ROM)
原査定の拒絶理由に引用された上記刊行物1には、
(1a)点滴ろ紙法について、「点滴濾紙法は、液体試料を、濾紙に滴下して乾燥し、濾紙に残った金属成分などの蛍光X線分析を行うものである。」(【0002】)ことが記載され、
(1b)ろ紙について、「この点滴濾紙法に使用される濾紙は、液体試料を滴下したときに、液体試料が所定のX線照射領域から領域外へ拡散するのを防止するために、図3に示されるように、濾紙21にワックスによってサークル6をスタンプしたり、あるいは、図4に示されるように、複数の支持部7を除いて濾紙22に円弧状の切欠8を形成するとともに、前記複数の支持部7にワックスを塗布するなどしていた。」(【0003】)と従来技術が記載されているとともに、ワックスサークル6、切欠8を有するろ紙が、それぞれ図3,図4に図示され、
(1c)点滴ろ紙法における試料径と一次X線が照射される領域の大きさと蛍光X線強度への寄与率について、ろ紙に対する一次X線照射領域が、濾紙ホルダー4との間で濾紙21,22を保持する試料容器5の蓋状部材(図中符号なし)の中央の開口によって決定されているを示す図5(A)とともに、「ところで、かかる点滴濾紙法において、液体試料の均一化を図るためには、濾紙21,22の前記サークル6や切欠8によって規制される試料径を小さくすることが望ましく、また、一次X線が照射される試料表面の蛍光X線強度への寄与率は、図5に示されるように、一次X線の照射領域を、例えば、直径30mmとすると、その中央部の直径20mm程度の領域では、寄与率が高くて平坦であり、その周囲で低くなっているので、直径20mm程度の中央部の領域内に試料径を規制することができれば、分析感度が向上することが期待できる。なお、図5(A)は試料容器5に濾紙ホルダ4を介して保持された濾紙21,22に対して一次X線を照射している状態を示し、図5(B)は一次X線の照射領域の蛍光X線強度への寄与率を示している。」(【0004】)と説明され、
(1d)図3~図4の従来例について、「しかしながら、従来例では、前記サークル6や円弧状の切欠8の径を小さくして試料径を小さくしようとすると、図3の濾紙21では、サークル6のワックスが、X線照射領域内に入り込んで蛍光X線スペクトルのS/Nを低下させることになり、また、図4の濾紙22では、X線照射による機械的強度の低下によって、支持部7が劣化して試料部分が外れてしまうことになるので、X線照射を長時間行うことができないといった難点がある。」(【0005】)と記載し、
(1e)「本考案は、上述の点に鑑みて為されたものであって、試料径を小さくして分析感度を向上させることができる蛍光X線分析装置用試料ホルダを提供することを目的とする。」(【0006】)とし、
(1f)その解決手段として、液体試料を滴下して乾燥した濾紙を、蛍光X線分析する蛍光X線分析装置における前記濾紙を保持する試料ホルダであって、前記濾紙の成分元素で構成された線材を備え、該線材で前記濾紙が、X線射領域に保持されるようにしている構成のものが記載され(【0007】~【0008】)、
(1g)その作用として、「上記構成によれば、濾紙の成分元素で構成された線材によって濾紙をX線照射領域内に保持することができるので、図5の従来例のように、濾紙21,22の周縁部を、X線照射領域外で濾紙ホルダ4によって保持する必要がなく、したがって、濾紙の大きさを、試料表面の蛍光X線強度への寄与率が平坦で高い中央部の領域に対応するように小さくすることができ、これによって、分析感度が向上することになる。」(【0009】)と記載され、
(1h)実施例として、【0011】~【0016】に、図1とともに、試料ホルダ1が、液体試料が滴下されて乾燥された濾紙2をX線照射領域の中央部に保持できるよう、濾紙2の成分元素である炭素、酸素および水素の内の一つである炭素繊維からなる4本の線材(糸)3を、高純度アルミニウムからなる中空の濾紙ホルダ4の上端面に、2本ずつ互いに直交するように接着剤によって濾紙ホルダ4に固着して張架し、これら直交する線材3の間に、濾紙2をピンセットなどで挿入して保持し、この濾紙ホルダ4を、従来と同様に、試料容器5内に収納している構成が記載され、その作用効果として「このように、X線照射領域に張架された炭素繊維の4本の線材3の間に、濾紙2を挟み込んだ状態で保持するので、従来例のように、濾紙の周縁部を、X線照射領域外で濾紙ホルダ4によって保持する必要がなく、したがって、濾紙2を、試料表面の蛍光X線強度への寄与率が平坦で高い中央部の領域に対応する大きさ、この実施例では、直径20mmと従来の濾紙に比べて小さくすることができるとともに、図2に示されるように、ワックスによるサークルや円弧状の切欠を形成する必要がない」こと(【0014)】、また「したがって、従来例のように、サークルのワックスが、X線照射領域内に入り込んで蛍光X線スペクトルのS/Nを低下させたり、あるいは、機械的強度の低下のために長時間のX線照射に耐えることができないといった不都合を生じることなく、濾紙2を、試料表面の蛍光X線強度への寄与率が高い領域内に納めることができ、これによって、分析感度を向上させることができる」こと(【0015】も記載されている。

(2-2)刊行物3(特開平7-55733号公報)
同じく原査定の拒絶理由に引用された上記刊行物3には、液体試料を濾紙のようなシート状物に一定量滴下し乾燥させて分析試料を作成する点滴法を用いた蛍光X線分析法に関して(【0001】)、
(3a)液体試料を液体ホルダに充填して蛍光X線分析を行う場合と比較して、点滴法ではX線が吸収される合成樹脂膜で分析試料の表面を覆わないので、分析感度を向上させることができる利点がある(【0002】)が、従来の点滴法では、少量(50μl~100μl)の液体試料を濾紙に滴下するので、蛍光X線の発生量つまり強度が十分に得られず、そのため、今一つ高感度の分析を行うことができず、重元素については、深い部分から発生した蛍光X線も検出する必要があるのに対し、濾紙の厚さが薄いので、重元素が微量である場合は、蛍光X線を定性的に検出することさえできない問題点があることが記載され(【0003】)、
(3b)そこで、図5に示すように、濾紙50を厚くすると、濾紙50を構成する原子からの散乱X線などが増加するので、バックグラウンドが高くなり、そのため、分析感度が低下すること、液体試料が濾紙50上に滴下された後、乾燥が進むにつれて、試料6の溶質(固形分)が濾紙50の表裏に浮き出て、図5に示すように、濾紙50の内部と表面50aおよび裏面50bとで、試料6にむらが生じて、定量分析の精度が低下することが記載され(【0004】~【0005】)、
(3c)発生する蛍光X線の強度を大きくし得るとともに、バックグラウンドの増加を抑制して、分析の感度を向上させることができる蛍光X線分析用の試料保持坦体の提供を目的として、複数枚のシート状物が重ね合わされて、これらのシート状物の間に試料保持空間を有している蛍光X線分析用の試料保持坦体が記載され、上記複数枚重ねたシート状物に、液体試料を滴下して乾燥させて分析用試料を作成するもので、シート状物とシート状物との間の試料保持空間に液体試料が貯えられるから、1枚の厚いシート状物を用いた場合よりも、滴下し得る液体試料の量が多くなることが記載されている(【0006】~【0008】)。
(3e)そして、【0009】~【0015】に図1~図3にしたがって実施例の説明がなされ、試料保持坦体1が、図1における、たとえば3枚の濾紙(シート状物)2と、円環状のフレーム材3とで構成されること、該濾紙2は、互いに同一のもので、その中央部に形成されたほぼ円環状のスリット2bによって島状に区画されている液体試料の保持領域2aを有し、その周辺部2cにおいて、図2のように、互いに接着剤4によって接着され、また、最下層の濾紙2は、その周辺部2cにおいて、上記フレーム材3に接着されていること、なお、図1の各スリット2b,2b間の連結部2dは、上下の濾紙2,2,2において互いに位置(角度)がずれた状態で濾紙2が重ね合わされ、連結部2d同士は互いに重なっていないことが記載され、図2の試料保持坦体1は、各濾紙2の保持領域2aの間に形成した試料保持空間Sにより液体試料の保持量が、全体としては、4.5倍~6倍程度になり、厚さの増加率(3倍)が液体試料の保持量の4.5倍~6倍よりも小さいので、蛍光X線の発生量(強度)を多くし得るとともに、バックグラウンドの増加を抑制できるから、分析感度が向上し、特に、試料6の層が厚くなるので、深い部分から発生した蛍光X線B2も検出する必要がある重元素の分析感度が著しく向上するとともに、厚さ方向のむらが少なくなり、図5の1枚の厚い濾紙を用いた場合よりも、検量線法による定量分析の精度も向上することが記載され、
(3f)実施例の3層の濾紙2を有する試料保持体を用いた試験例と、1枚の濾紙2の単体に液体試料を滴下し乾燥させたものを用いた比較例による結果について、図4(a)および(b)とともに記載されている(【0016】~【0017】)。

3.本願発明と刊行物3記載の発明との対比
本願発明と刊行物3発明とを対比すると、刊行物3の図1の「円環状のフレーム材3」、「試料保持坦体1」は、それぞれ、本願発明の「リング状板の単一の支持担体」、「蛍光X線分析用点滴ろ紙具」に相当する(前記(3e)参照)。
そして、刊行物3の図1の「3枚の濾紙2」は、「円環状のフレーム材3」上に接着剤のみにより固定されている。
そうすると、本願発明と刊行物3に記載された発明とは、
(一致点)
「リング状板の単一の支持担体の上に、ろ紙を、接着剤のみにより固定してなる蛍光X線分析用点滴ろ紙具。」
である点で一致するが、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明では、「ろ紙」がパラフィンサークルを持つことのないものであるのに対し、刊行物3には、使用されているろ紙がパラフィンサークルを持つかどうかについて記載されておらず、その実施例では円環状のスリット2bによって液体試料の保持領域2aを島状に区画しているものである点。
(相違点2)
本願発明では、「ろ紙」が単一のものであるのに対し、刊行物3記載の発明では、複数枚のシート状物が重ね合わされて、その間に試料保持空間を有しいるものである点。

4.相違点についての検討
そこで、これらの相違点について検討する。
刊行物1によれば、点滴ろ紙法に使用されるろ紙は、液体試料を滴下したときに、液体試料が所定のX線照射領域から領域外へ拡散するのを防止するために、刊行物1の図3に示されるように、濾紙21にワックスによってサークル6をスタンプしたり、あるいは、刊行物1の図4に示されるように、複数の支持部7を除いて濾紙22に円弧状の切欠8を形成されるものがある(前記(1b)参照)。
刊行物3の図1の「円環状のスリット2b」が設けられた「濾紙2」は、刊行物1の図4に図示された円弧状の切欠が設けられたものであり、「ワックス」、すなわち「パラフィンろう」が代表的なものである「ロウ」によってサークルをスタンプされたものではない。即ち、パラフィンサークルを持つものではないから、相違点1は、実質上の相違点ということができない。
そして、刊行物3には、点滴法に使用するろ紙は、従来、1枚のろ紙(前記(3a)~(3b)参照)を使用していたものであり、比較例として1枚のろ紙を用いた場合(前記(3f)参照)についても記載されている。
また、刊行物1にも、パラフィンサークルも円弧状の切欠も持たない単一のろ紙を、リング状の支持部体(ろ紙ホルダー4)に適当な手段で支持させると、全面的に蛍光X線分析用点滴ろ紙として使用することが記載されているから、刊行物3記載の蛍光X線分析用点滴ろ紙具におけるリング状板の単一の支持担体の上に接着保持される「複数枚のシート状物」を、パラフィンサークルを持たない円弧状の切欠を有する単一のろ紙あるいは、パラフィンサークルも円弧状の切欠も持たない単一のろ紙に置き換えることに、当業者が格別の創意を要するものということができない。

なお、請求人は、本願発明がろ紙の全表面を測定面積とし、支持担体で周縁部あるいは裏面全体にわたりしっかり固定されること等をあげ、顕著な効果を主張するが、パラフィンサークルも円弧状の切欠も持たない単一のろ紙を全面的に使用することは、刊行物1記載の発明でも行われていることであり、本願発明では、そのろ紙の大きさを従来にない大きさのものと限定しているわけでもないから、ろ紙に保持し得る試料溶液量等についての効果の顕著性の主張は、請求項1の記載に基づかないものである。また、ろ紙の周縁部あるいは裏面全体にわたりしっかり固定されることになることは、刊行物3の濾紙2の周辺部2cにおいてフレーム材3に接着されていることをみれば、当業者の予測可能な範囲内の事項であり、パラフィン不使用による加熱乾燥時の不都合がないことは刊行物1に記載されている事項であり(前記記載(1d)参照)、ろ紙の厚さとバックグラウンドとの関係も、刊行物3も記載されている事項にすぎない。
そして、補正案に基づく主張は、本願明細書の特許請求の範囲の記載事項に基づく主張ということはできないし、補正案の特許請求の範囲では、「開口を持たない平板状の支持担体」に限定しているのかどうか、すなわち「リング状板」を除外しているのかどうかも明りょうでなく、また仮に、本願発明を、「開口を持たない平板状の支持担体」に限定したとしても、接着面積の相違等では、開口を持たないことによる予想外の格別の効果が奏されるものとは認められない。

5.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1および刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-15 
結審通知日 2004-03-23 
審決日 2004-05-12 
出願番号 特願平10-331467
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小山 茂  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 福島 浩司
橋場 健治
発明の名称 蛍光X線分析用点滴ろ紙具  

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