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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06K
管理番号 1178877
審判番号 不服2004-22719  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-04 
確定日 2008-06-06 
事件の表示 平成 9年特許願第230998号「ICカードシステム、ICカード及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月15日出願公開、特開平10-124625〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年8月27日(優先権主張平成8年8月29日)の出願であって、平成15年9月9日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月17日付けで手続補正がなされたが、平成16年9月30日付けで拒絶査定がなされたのに対し、同年11月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月29日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成19年1月4日付けで拒絶の理由が通知され、同年3月12日付けで手続補正がなされ、同年3月30日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月30日付けで手続補正がなされ、同年8月14日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月22日付けで手続補正がなされた。

2.本願発明
本願の請求項6に係る発明は、平成19年10月22日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された、次のとおりのものである。

「複数のサービス提供機関によるサービスを享受するための発行処理を行う発行処理手段を具備するICカードであって、前記発行処理は、前記発行処理手段が前記サービスに必要なファイルを前記ICカード内に設定するとともにこのICカード内に設定されたファイルにサービスの提供を受けるのに必要な情報を格納することで行われるものであり、
前記複数のサービス提供機関による各々のサービスの発行処理に必要な命令及びデータ(以下、発行コマンド)が予め登録された中継手段から、前記発行コマンドを取得する手段と、
カード保有者の識別情報を格納した固有情報格納手段と、
前記識別情報に基づいてカード保有者の認証を行うとともに認証結果が正当の場合に発行処理権限を前記ICカード内に設定する認証処理手段とを有し、
前記認証処理手段により発行処理権限が設定された場合に、前記発行コマンドを受けると、前記ICカードに具備された発行処理手段が、当該発行コマンドに基づいて前記発行処理を行うことで前記ICカード自体で前記発行処理を行うことを特徴とするICカード。」

3.引用発明
当審による平成19年8月14日付けの拒絶理由に引用された刊行物である特開平7-152837号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

A.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スマートカードに関する。
【0002】
【従来の技術】マイクロエレクトロニクスにおける進展により、小さい空間内に多大な計算能力を備えることが可能となっている。実際、クレジットカード内に実質的にコンピュータ全体を入れることが可能となっており、これによって「スマートカード」が作成されている。・・・(中略)・・・
【0003】スマートカードが約束を果たすことを可能にするには、スマートカード内のコンピュータが不正用途に使用し得ないことが確実であるとサービス提供者が感じなければならない。この必要を満たすためにいくつかの方法が既に使用されている。第1に、スマートカードには、電源ポートと単一の情報通過ポートが備えられる。第2に、スマートカードに埋め込まれたコンピュータは、コンピュータに送られる命令がカードの目的およびセキュリティ指針に対して有害な動作を実行しないことを保証するオペレーティングシステムの制御下で動作する。すなわち、許容されたデータ領域を読み出す命令および変更する命令のみが可能である。」

B.「【0004】
【発明が解決しようとする課題】現在のスマートカードのメモリは、複数のサービス提供者のプログラムおよびデータを保持するのに十分な大きさである。すなわち、単一のスマートカード上に、例えば、ビザ、アメリカン・エクスプレス、およびマスターカードが共存するのに十分な大きさのメモリがある。しかし、商業的な意味では、複数のサービス提供者のサービスをのせることに成功したスマートカードはまだ開発されていない。この状況は、いくつかのセキュリティ問題が解決していないためであると考えられる。例えば、だれがカードの所有者であるか、および、スマートカードのメモリ内のすべてのファイルに対して所有者はどのような権限を有するかに関して問題が生じる。商業的に言えば、他のサービス提供者が求めるセキュリティに一致しないスマートカードには、スマートカードの所有者(これもサービス提供者であることもある)はどの程度の権限を有するかという問題である。これは信用の問題である。
【0005】第2の問題点は、リモート発給に関するものである。特に、カードを提供者のところに持って行くことによってのみサービスがインストールされるようにすることをスマートカード保有者に要求することは望ましくない。また、スマートカード上のサービスのうちの1つがキャンセルされるときにスマートカードの引き渡しを要求することも望ましくない。むしろ、商業的成功のためには、リモート発給を可能にすることが望ましく、おそらく本質的でさえある。」

C.「【0040】[ルートによるログインおよびサービス提供者/ユーザのインストール]暗号化が安全な通信を保証するため、スマートカードの発行者/所有者はサービスのリモートインストールを信頼することができる。もちろん、発行者/所有者(すなわち、ルート)は、最初に、スマートカードにログインしなければならない。ログインのためのプロトコルを図3に示す。また、サービスインストールプロセスのためのプロトコルを図4に示す。本発明のスマートカードとの間で可能な物理的にリモートの接続を図8に示す。」

D.「【0041】図3に示したように、プロセスは、スマートカードの所持者(P)がスマートカード(S)の真正な保有者として認証されることから開始する。図3に示したように、プロセスは、スマートカードからのプロンプトと、スマートカードに所持者のPIN(個人識別番号)を入力することによって開始する。所持者を認証するためにスマートカードの処理能力を使用することは、PINを捕捉する可能性のある装置にPINストリングを通信する必要がないという点で有利である。・・・(中略)・・・
【0042】図3に戻って、一般に、Hの真正な地位が確立された後、Sは、ログイン中のユーザが正当なユーザであることを確認し、ユーザは、Sが正当なスマートカードであることを確認する。特に、図3のプロトコルは、全体として、次のように進行する。
【0043】a.Sは入力を促し、PはPINストリングを提示する。スマートカード内では、PINは、保有者が変更するためにオープンされたルート所有のファイル(例えば、図2のファイル14)内に存在する。Sは、提示されたPINストリングを、格納されているPINストリングと比較し、一致すれば、PはHとして確認されたことになる。
【0044】b.Hが確認されると、SとOの間の通信に注意を向けることができる。Sは、そのID番号と、ランダムストリングの形式でのパスワードチャレンジRND1とをOに提示することによって自己を表示する。
【0045】c.OはOのパスワードでRND1を暗号化してストリングK1(RND1)を形成し、それをSに返す。・・・(中略)・・・
【0046】d.スマートカードによって提示されるストリングは、常に、同一であるか、Oには事前には未知であるかのいずれかであるため、初期ストリング(ID,RND1)が記録の再生でないことを保証するために追加の認証ステップが所望されることもある。これは、Oが、例えば、そのIDとランダムストリングとからなるチャレンジメッセージRND2をSに送ることによって実現される。
【0047】e.RND2ストリングに含まれるIDに基づいて、Sは、Oがユーザであると判定し、必要なキー(例えば、Oのパスワード)を取得し、K1(RND1)を復号する。復号の結果RND1となると、Sは、Oが真正であると判定する。
【0048】f.その後、SはSのルートパスワードでストリングRND2を暗号化し、その結果のストリングK1(RND2)をOへ転送する。
【0049】g.OはK1(RND2)応答を復号し、その結果のストリングがRND2である場合、OはSが正当であることに満足する。これでログインプロセスは終了し、OはSにプロンプトを提示し、サービスの要求を受ける準備ができた状態になる。」

E.「【0051】Oがログインされると、Hは、サービス提供者(SP)によって提供されるサービスのインストールの要求を通信することができる。Oによってインストールされるよう要求された特定のサービスに関する通信は、人間との対話を含むこともあるが、自動化も可能である。例えば、Hは、所望されるサービスをSに通信し、SがOと通信することが可能である。図4に、サービスのインストールのためのプロトコルを示す。
【0052】a.Hはサービス要求をSに転送する。
【0053】b.Sはこの要求を暗号化し、それをOへ転送する。OとSの間の電子通信は、S内の公開キーの私的キー要素で暗号化可能である。Sはその公開キーをOに送っておく。あるいは、通信は、スマートカードの「共有秘密」でも暗号化可能である。「共有秘密」としてルートパスワードを選択することが可能であり、または、一時的な「共有秘密」を(上記のように、公開キー暗号化を使用して)OからSへ提供することが可能である。図4では、ルートパスワードを暗号化に使用して、要求ストリングK1(REQ)を作成している。
【0054】c.要求されたサービスを知ると、OはSPと交信し、SPがサービスをHに提供することに同意することを確認する。
【0055】d.サービスの提供がSPに同意されると、Oは一時的パスワードを選択し、そのパスワードをSPに(おそらくは暗号化通信によって)通知してから、S内にSPのためのディレクトリおよびパスワードファイルを作成する。
【0056】e.パスワードファイルがSPユーザのために設定されると、その一時的パスワードがSに(上記のように、暗号化通信によって)送られ、このディレクトリおよびパスワードファイルの所有権はSPに移転される(このパスワードは、将来のSPとの通信セションにおいて「共有秘密」キーとして利用可能である)。また、SPが必要とするその他のアプリケーションソフトウェアはこのときにインストールすることが可能であり、Oがそれらのファイルを暗号化モードで送信する。あるいは、アプリケーションソフトウェアはOによってインストールされないようにも設定可能である。
【0057】f.この時点でHには、最終セットアップのためにSPと交信するよう通知される。
【0058】g.Hは、図3のようなログインシーケンスを使用して、ただし、暗号化キーとして一時的SPパスワードを使用して、SとSPの間の通信路を設定する。
【0059】h.SPへのログインが確立すると、Sはサービス要求を送出し、SPは応答して、新しいパスワードと、Oによってインストールされなかった必要なファイルと、データとをインストールする。これでサービスインストールプロセスは完了する。」

F.「【0092】[サービスセンタとしてのスマートカード発行者/所有者]本発明の1つの特徴は、スマートカードの発行者/所有者(O)が、スマートカード上に存在する「アプリケーション」を有するサービス提供者の一般的知識を有し、そのサービス提供者を制御することである。第1に、Oはサービス提供者のディレクトリの設定を制御する。第2に、Oは、保有者の要求に応じて、または、Oがスマートカードにアクセスすることができるときには、(保有者の同意の有無に関わらず)任意のディレクトリを削除することができる。第3に、Oはスマートカードを共有するすべてのサービス提供者の識別情報と、それらのサービス提供者のさまざまな詳細を知る唯一の当事者である。第4に、オペレーティングシステムの設計を通じて、Oは、各サービス提供者がアクセスすることができるメモリの量を制御し、従って、スマートカード上に「共存」することが可能なサービス提供者の数を制御することができる。第5に、Oは特定の種類の取引に対してサービス提供者のグループ化を定義することができる。第6に、Oは、サービス提供者によって占有される空間に比例して、スマートカード上に存在する権利に対してそのような各サービス提供者に課金することができる。」

(a)上記Aの記載からみて、引用文献は、スマートカードに関する発明について記載したものである。
また、このスマートカードは、当該カード内に実質的にコンピュータシステムを含むものであって、当該コンピュータシステムに送られる命令がカードの目的及びセキュリティ指針に対して有害な動作を実行しないことを保証するオペレーティングシステムの制御下で動作するものであるから、単なる受動的な記憶デバイスではなく、上記スマートカード内のコンピュータシステムは、外部から送られる命令に対応する内部処理を実行するための処理手段として機能するものである。

(b)上記B、C、Eの記載からみて、引用文献のスマートカード(S)は、カードをサービス提供者(SP)のところに持って行くことなく、複数のサービス提供者によって提供されるサービスのインストールを行うリモート発給が可能なものであるから、上記スマートカードが、当該スマートカード内のコンピュータシステムにより実現される、上記リモート発給に対応する内部処理を行うための手段(以下、「リモート発給処理手段」という。)を具備するものであることは、明らかである。

(c)上記Eの記載からみて、上記リモート発給は、スマートカードの発行者/所有者(O)が、サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェアをインストールし、その後、サービス提供者が、最終セットアップとして、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータとをインストールすることで行われるものである。
これをスマートカード側から見れば、上記リモート発給は、スマートカードが具備する上記リモート発給処理手段が、サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェアのインストールと、最終セットアップとしての、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータのインストールとに対応する内部処理を行うことで行われるものと言える。

(d)上記Fに記載されているように、スマートカードの発行者/所有者は、複数のサービス提供者に関する知識を有するサービスセンタとして機能するものであり、引用文献の図8及び上記Cの記載からみて、電気通信網を介してスマートカードとサービス提供者とをリモート接続するものである。
そして、このサービスセンタとしての発行者/所有者は、上記(b)で述べたように、スマートカードに対して、サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェアをインストールするものであるから、発行者/所有者には、サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示が予め登録されており、スマートカードには、発行者/所有者から、前記アプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示を受信するための手段が備えられていることは明らかである。

(e)上記Dの記載からみて、スマートカードは、真正な保有者(H)のPIN(個人識別番号)ストリングを格納するファイルを有し、スマートカードの所持者(P)が提示したPINストリングと、前記格納されているPINストリングとを比較し、一致すれば、スマートカードの所有者(P)を真正な保有者として確認するものであるから、上記比較により、スマートカードの所有者を真正な保有者として確認するための手段(以下、「保有者確認手段」という。)を有していることは、明らかである。

(f)上記D、Eの記載からみて、上記保有者確認手段により保有者が真正と確認され、かつ、スマートカードと発行者/所有者が互いに真正であることを確認後、真正な保有者がサービスのインストール、すなわち、リモート発給を要求すると、この要求がスマートカードから発行者/所有者に転送され、発行者/所有者とサービス提供者との交信によりサービス提供者の同意が確認される。
そして、サービス提供者の同意が確認されると、スマートカードの発行者/所有者が、スマートカード内にサービス提供者のためのディレクトリ及びパスワードファイルを作成し、当該ディレクトリ及びパスワードファイルの所有権をサービス提供者に移転、すなわち、当該ディレクトリをサービス提供者用として使用するためのアクセス権限を設定し、その後、上記(c)で述べたリモート発給処理手段によるリモート発給のための処理が行われる。
ここで、上記スマートカードの発行者/所有者が、スマートカード内にサービス提供者のためのディレクトリ及びパスワードファイルを作成し、当該ディレクトリをサービス提供者用として使用するためのアクセス権限を設定することは、スマートカード側から見れば、上記スマートカード内のコンピュータシステムにより実現される処理手段が、スマートカード内にサービス提供者のためのディレクトリ及びパスワードファイルを作成し、当該ディレクトリをサービス提供者用として使用するためのアクセス権限を設定する内部処理を行う手段(以下、「アクセス権限設定手段」という。)として機能しているものと言える。
また、上記(c)で述べたリモート発給処理のうち、「サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェアのインストール」は、発行者/所有者から、サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示が受信されると、スマートカードに具備されたリモート発給処理手段が、当該アプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示に基づいて行うものである。

したがって、上記A-Fの記載事項及び関連する図面を参照すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「カードをサービス提供者(SP)のところに持って行くことなく、複数のサービス提供者によって提供されるサービスのインストールを行うリモート発給に対応する内部処理を行うためのリモート発給処理手段を具備するスマートカード(S)であって、前記リモート発給は、前記リモート発給処理手段が、サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェアのインストールと、最終セットアップとしての、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータのインストールとに対応する内部処理を行うことで行われるものであり、
サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示が予め登録されており、電気通信網を介してスマートカードとサービス提供者とをリモート接続するサービスセンタとしての発行者/所有者から、前記アプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示を受信するための手段と、
真正な保有者(H)のPIN(個人識別番号)ストリングを格納するファイルと、
スマートカードの所持者(P)が提示したPINストリングと、前記格納されているPINストリングとを比較し、一致すれば、スマートカードの所有者を真正な保有者として確認する保有者確認手段と、
前記保有者確認手段により保有者が真正と確認され、かつ、スマートカードと発行者/所有者が互いに真正であることを確認後、真正な保有者がリモート発給を要求し、この要求がスマートカードから発行者/所有者に転送され、発行者/所有者とサービス提供者との交信によりサービス提供者の同意が確認されると、スマートカード内にサービス提供者のためのディレクトリ及びパスワードファイルを作成し、当該ディレクトリをサービス提供者用として使用するためのアクセス権限を設定する内部処理を行うアクセス権限設定手段とを有し、
前記アクセス権限設定手段により、前記ディレクトリをサービス提供者用として使用するためのアクセス権限が設定された後、前記発行者/所有者から、前記サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示が受信されると、前記スマートカードに具備されたリモート発給処理手段が、当該アプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示に基づいてサービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェアのインストールを行うとともに、最終セットアップとしての、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータのインストールとに対応する内部処理を行うことで前記リモート発給を行うことを特徴とするスマートカード。」

4.対比
(a)本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「サービス提供者(SP)」、「スマートカード(S)」、「真正な保有者(H)」及び「PIN(個人識別番号)ストリング」は、それぞれ、本願発明の「サービス提供機関」、「ICカード」、「カード保有者」及び「識別情報」に相当する。

(b)引用発明の「カードをサービス提供者(SP)のところに持って行くことなく、複数のサービス提供者によって提供されるサービスのインストールを行うリモート発給」は、本願発明の「複数のサービス提供機関によるサービスを享受するための発行処理」に相当し、引用発明の「リモート発給処理手段」は、スマートカードが具備する、リモート発給に対応する内部処理を行うための手段であるから、本願発明のICカードが具備する「発行処理手段」に相当する。

(c)引用発明の「前記リモート発給処理手段が、サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェアのインストールと、最終セットアップとしての、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータのインストールとに対応する内部処理を行うこと」は、要するに、リモート発給処理手段が、サービスに必要なファイルとデータを設定することであるから、本願発明の「前記発行処理手段が前記サービスに必要なファイルを前記ICカード内に設定するとともにこのICカード内に設定されたファイルにサービスの提供を受けるのに必要な情報を格納すること」に相当する。

(d)引用発明の「サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示」は、本願発明の「前記複数のサービス提供機関による各々のサービスの発行処理に必要な命令及びデータ(以下、発行コマンド)」に相当する。
また、引用発明の「電気通信網を介してスマートカードとサービス提供者とをリモート接続するサービスセンタとしての発行者/所有者」は、スマートカードとサービス提供者との間の「中継手段」として機能している。
したがって、引用発明の「サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示が予め登録されており、電気通信網を介してスマートカードとサービス提供者とをリモート接続するサービスセンタとしての発行者/所有者から、前記アプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示を受信するための手段」は、本願発明の「前記複数のサービス提供機関による各々のサービスの発行処理に必要な命令及びデータ(以下、発行コマンド)が予め登録された中継手段から、前記発行コマンドを取得する手段」に相当する。

(e)引用発明の「真正な保有者(H)のPIN(個人識別番号)ストリングを格納するファイル」は、本願発明の「カード保有者の識別情報を格納した固有情報格納手段」に相当する。

(f)引用発明の「保有者確認手段」は、「スマートカードの所持者(P)が提示したPINストリングと、前記格納されているPINストリングとを比較し、一致すれば、スマートカードの所有者を真正な保有者として確認する」ものであり、この処理は、本願発明の「認証処理手段」の行う処理のうち、「前記識別情報に基づいてカード保有者の認証を行う」ことに相当する処理である。

(g)引用発明の「アクセス権限設定手段」は、「前記保有者確認手段により保有者が真正と確認され、かつ、スマートカードと発行者/所有者が互いに真正であることを確認後、真正な保有者がリモート発給を要求し、この要求がスマートカードから発行者/所有者に転送され、発行者/所有者とサービス提供者との交信によりサービス提供者の同意が確認されると、スマートカード内にサービス提供者のためのディレクトリ及びパスワードファイルを作成し、当該ディレクトリをサービス提供者用として使用するためのアクセス権限を設定する内部処理を行う」ものであり、この処理は、要するに、保有者が真正と確認されることを含む所定の条件が満たされた場合に、スマートカード内に作成したディレクトリをサービス提供者用として使用するためのアクセス権限を設定することである。
一方、本願発明の「認証処理手段」の行う処理のうち、「認証結果が正当の場合に発行処理権限を前記ICカード内に設定する」処理においては、認証結果とは、識別情報に基づくカード保有者の認証結果であり、発行処理権限とは、本願明細書の段落【0002】で「ファイルアクセス権限を発行処理権限ともいう。」と定義されているように、ファイルアクセス権限のことであるから、前記「認証結果が正当の場合に発行処理権限を前記ICカード内に設定する」処理は、カード保有者の認証結果が正当、すなわち、カード保有者が真正と確認された場合に、ファイルアクセス権限をICカード内に設定する処理である。
よって、引用発明における上記「前記保有者確認手段により保有者が真正と確認され、かつ、スマートカードと発行者/所有者が互いに真正であることを確認後、真正な保有者がリモート発給を要求し、この要求がスマートカードから発行者/所有者に転送され、発行者/所有者とサービス提供者との交信によりサービス提供者の同意が確認されると、スマートカード内にサービス提供者のためのディレクトリ及びパスワードファイルを作成し、当該ディレクトリをサービス提供者用として使用するためのアクセス権限を設定する内部処理を行う」処理と、本願発明における上記「認証結果が正当の場合に発行処理権限を前記ICカード内に設定する」処理とは、引用発明では、「スマートカードと発行者/所有者が互いに真正であることを確認後、真正な保有者がリモート発給を要求し、この要求がスマートカードから発行者/所有者に転送され、発行者/所有者とサービス提供者との交信によりサービス提供者の同意が確認される」という付加的な条件があるものの、認証結果が正当であることを含む所定の条件が満たされた場合に、アクセス権限、すなわち、発行処理権限をICカード内に設定する処理である点で一致する。

(h)上記(f)及び(g)で検討したように、引用発明の「保有者確認手段」が行う処理は、本願発明の「認証処理手段」の行う処理のうち、「前記識別情報に基づいてカード保有者の認証を行う」ことに相当し、引用発明のアクセス権限設定手段」が行う処理と、本願発明の「認証処理手段」の行う処理のうち、「認証結果が正当の場合に発行処理権限を前記ICカード内に設定する」処理とは、認証結果が正当であることを含む所定の条件が満たされた場合に発行処理権限をICカード内に設定する処理である点で一致するから、引用発明の「保有者確認手段」と「アクセス権限設定手段」とを併せたものと、本願発明の「前記識別情報に基づいてカード保有者の認証を行うとともに認証結果が正当の場合に発行処理権限を前記ICカード内に設定する認証処理手段」とは、識別情報に基づいてカード保有者の認証を行うとともに認証結果が正当であることを含む所定の条件が満たされた場合に発行処理権限をICカード内に設定する手段である点で一致する。

(i)上記(h)で検討したように、引用発明の「アクセス権限設定手段」が、上記「設定する手段」の一部であることを考慮すると、引用発明の「前記アクセス権限設定手段により、前記ディレクトリをサービス提供者用として使用するためのアクセス権限が設定された後、前記発行者/所有者から、前記サービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示が受信されると、前記スマートカードに具備されたリモート発給処理手段が、当該アプリケーションソフトウェア及びそのインストールのための指示に基づいてサービス提供者が必要とするアプリケーションソフトウェアのインストールを行うとともに、最終セットアップとしての、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータのインストールとに対応する内部処理を行うことで前記リモート発給を行う」ことと、本願発明の「前記認証処理手段により発行処理権限が設定された場合に、前記発行コマンドを受けると、前記ICカードに具備された発行処理手段が、当該発行コマンドに基づいて前記発行処理を行うことで前記ICカード自体で前記発行処理を行う」ことは、引用発明では、「最終セットアップとしての、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータのインストールとに対応する内部処理を行う」という追加的な処理のあることと、本願発明における「ICカード自体で前記発行処理を行う」ことに相当する限定のないこととを除き、前記設定する手段により発行処理権限が設定された場合に、前記発行コマンドを受けると、前記ICカードに具備された発行処理手段が、当該発行コマンドに基づいて前記発行処理を行うことである点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明とは、

「複数のサービス提供機関によるサービスを享受するための発行処理を行う発行処理手段を具備するICカードであって、前記発行処理は、前記発行処理手段が前記サービスに必要なファイルを前記ICカード内に設定するとともにこのICカード内に設定されたファイルにサービスの提供を受けるのに必要な情報を格納することで行われるものであり、
前記複数のサービス提供機関による各々のサービスの発行処理に必要な命令及びデータ(以下、発行コマンド)が予め登録された中継手段から、前記発行コマンドを取得する手段と、
カード保有者の識別情報を格納した固有情報格納手段と、
前記識別情報に基づいてカード保有者の認証を行うとともに認証結果が正当であることを含む所定の条件が満たされた場合に発行処理権限を前記ICカード内に設定する手段とを有し、
前記設定する手段により発行処理権限が設定された場合に、前記発行コマンドを受けると、前記ICカードに具備された発行処理手段が、当該発行コマンドに基づいて前記発行処理を行うことを特徴とするICカード。」

である点で一致し、以下の2点で相違している。

[相違点1]
「前記識別情報に基づいてカード保有者の認証を行うとともに認証結果が正当であることを含む所定の条件が満たされた場合に発行処理権限を前記ICカード内に設定する手段」における、「認証結果が正当であることを含む所定の条件が満たされた場合」が、本願発明では、単に「認証結果が正当の場合」であるのに対し、引用発明では、保有者が真正と確認されることに加え、さらに、「スマートカードと発行者/所有者が互いに真正であることを確認後、真正な保有者がリモート発給を要求し、この要求がスマートカードから発行者/所有者に転送され、発行者/所有者とサービス提供者との交信によりサービス提供者の同意が確認される」との付加的な条件が付けられている点。

[相違点2]
発行処理権限が設定された場合に行われる発行処理が、本願発明では、「ICカード自体で」行われるものであるのに対し、引用発明では、そのような限定がなく、さらに、「最終セットアップとしての、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータのインストールとに対応する内部処理を行う」という追加的な処理が含まれている点。

5.当審の判断
以下、上記各相違点について検討する。

[相違点1について]
引用発明においては、「スマートカードと発行者/所有者が互いに真正であることを確認後、真正な保有者がリモート発給を要求し、この要求がスマートカードから発行者/所有者に転送され、発行者/所有者とサービス提供者との交信によりサービス提供者の同意が確認される」ことが、発行処理権限を設定する場合の条件に含まれているが、本願発明においては、これらの条件が課されないことは特定されていないから、引用発明において上記の付加的な条件が課されていることは、本願発明と引用発明との間の実質的な相違点ではない。

なお、本願発明においては、「ICカード自体で前記発行処理を行う」ことが特定されていることにより、サービス提供機関による同意が不要であることが、間接的に特定されているとの解釈もあり得るが、この場合であっても、クレジットカードのように、カードの発行にサービス提供機関による審査が必要なサービスと異なり、ポイントカードのように、特段の確認・審査等を必要とせず、カードの即時発行が可能なサービスは、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、
・特開平8-83309号公報(特に、段落【0020】?【0026】には、1枚のカードでクレジットとポイント両方のサービスを受けられるカードにおいて、クレジットサービスの場合にはクレジット会社の審査が必要だが、ポイントサービスの場合には、カードを即時発行してポイントのサービスを受けることが可能である旨の記載がある。)
・小林秀雄,「流通小売業でのICカードアプリケーション」,CardWave,株式会社シーメディア,1991年7月10日,第4巻,第8号,p.30-34(30頁左欄1行?32頁中欄7行に記載された、ポイントカードとクレジットカードを組み合わせた多機能カードであるポー・トンICカードの即時発行においては、クレジットカード機能については、信販会社に入会申込書を送り、コンピュータへの登録を依頼しているが、ポイントカード機能については、特段の審査手続きを行っていない。)
に記載されているように周知であるから、引用発明において、ポイントサービスのようにサービス提供者による同意を条件としない場合に、上記付加的な条件のうち、サービス提供者への確認を省略することは、当業者が容易になし得ることである。
よって、相違点1は格別のものではない。

[相違点2について]
引用発明における「最終セットアップとしての、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータのインストール」は、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータがない場合には行う必要のないものであり、上記[相違点1について]で検討したポイントサービスのような、サービス提供者による同意を条件としないサービスについては、サービス提供者に依存することなく、発行者/所有者によるインストールのみで、発行処理を完結できることは明らかであるから、引用発明において、「最終セットアップとしての、発行者/所有者によってインストールされなかった必要なファイルとデータのインストールとに対応する内部処理を行う」という追加的な処理を省略することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、この場合、サービス提供者による同意や、作業は不要となるから、スマートカードは、サービス提供者の同意を得ずに自ら、すなわち、スマートカード自体で、発行処理を行うものと言える。
よって、相違点2は格別のものではない。

そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用発明及び周知技術から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-28 
結審通知日 2008-04-01 
審決日 2008-04-14 
出願番号 特願平9-230998
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丹治 彰奥村 元宏  
特許庁審判長 赤川 誠一
特許庁審判官 野仲 松男
中里 裕正
発明の名称 ICカードシステム、ICカード及び記録媒体  
代理人 鈴木 正剛  

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