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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1212115
審判番号 不服2008-19269  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-30 
確定日 2010-02-15 
事件の表示 特願2002-328683「光変調器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月30日出願公開、特開2003-215518〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月12日(優先権主張平成13年11月16日)の出願であって、平成20年2月22日付けで手続補正がなされたが、同年6月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年8月27日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成20年8月27日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年8月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年8月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1を、以下のとおりの請求項1に補正することを含むものである。
「三次元光導波路を伝搬する光に電圧を印加してこの光を変調する光変調器であって、
強誘電性単結晶からなる支持基板、
強誘電性単結晶からなり、前記合波点から放射されるオフモードの光を導波し,厚さが3μm以上、20μm以下であるスラブ型光導波路、
少なくとも一対の分岐光導波路と、分岐光導波路の合波点とを含んでおり、前記スラブ光導波路を構成する前記強誘電性単結晶への加工によって形成されており、この加工がプロトン交換または金属拡散を含む三次元光導波路、
前記三次元光導波路を伝搬する光を変調する信号電圧を印加するための変調用電極、
前記支持基板と前記スラブ型光導波路とを接着し、前記スラブ型光導波路の屈折率よりも低い屈折率を有しており、前記スラブ型光導波路の下部クラッドである接着剤層、
前記スラブ型光導波路から放射される光を受光する光検知器、および
前記光検知器からの出力に基づいて、前記変調用電極に加わる直流バイアスを変化させることによって、前記光変調器の動作点を制御する制御装置を備えており、前記光検知器またはこの光検知器へと光を伝送する光伝送部材が前記スラブ型光導波路の光出射端面に取り付けられていることを特徴とする、光変調器。」

2.補正の目的
請求項1に係る上記補正は、補正前の請求項1の「スラブ型光導波路」について、その「光出射端面に」「前記光検知器またはこの光検知器へと光を伝送する光伝送部材が」「取り付けられている」ことを限定したものであるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3.独立特許要件
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-235714号公報(以下「引用例」という。)には下記の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】強誘電性の電気光学単結晶からなり、相対向する一対の主面を備えている光導波路基板、この光導波路基板の一方の主面側に形成されている光導波路、前記光導波路中を伝搬する光を変調する電圧を印加するための少なくとも一対の電極であって、前記光導波路基板の他方の主面上に設けられている電極、前記光導波路基板の前記一方の主面に対して接着されている固定用基板および前記光導波路基板の前記一方の主面と前記固定用基板とを接着し、前記光導波路を被覆し、かつ前記電気光学単結晶よりも低い屈折率を有する接着剤からなる接着層を備えていることを特徴とする、進行波形光変調器。」

イ 「【0009】基板2は、強誘電性の電気光学単結晶からなる。こうした結晶は、光の変調が可能であれば特に限定されないが、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムリチウム、タンタル酸リチウム、KTP、ガラス、シリコン、GaAs及び水晶などを例示することができる。ニオブ酸リチウム単結晶、タンタル酸リチウム単結晶およびニオブ酸リチウム-タンタル酸リチウム固溶体単結晶からなる群より選ばれた一種以上の単結晶が、特に好ましい。
【0010】基板2は、一方の主面2aおよび他方の主面2bを備えている。一方の主面2aには、所定形状、例えばマッハツェンダー型の光導波路4が形成されている。本例の光導波路4は、入り口部分4a、分岐部分4b、4c、および結合部分4dを備えている。
【0011】基板2の他方の主面2b上には、所定形状の電極3A、3B、3Cが形成されている。本例においては、基板2として、例えばニオブ酸リチウムのX板、Y板を使用しており、このため光導波路内にTEモードの光を伝搬させる。そして、光導波路の分岐部分4b、4cを、電極3A-3Cの間のギャップ領域に設ける。
【0012】基板2の他方の主面2bは空気層に面している。基板2の一方の主面2aは、接着層5を介して、固定用基板6の主面6aに対して接着されている。6bは固定用基板6の底面である。接着層5は、光導波路4b、4cを被覆している。
【0013】接着剤の屈折率は、基板2の電気光学単結晶よりも低いことが必要である。これに加えて、接着剤の誘電率は、基板2の電気光学単結晶の誘電率よりも低いことが望ましい。
【0014】接着剤の具体例は、前記の条件を満足する限り特に限定されないが、エポキシ系接着剤、熱硬化型接着剤、紫外線硬化性接着剤、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する材料と比較的近い熱膨張係数を有するアロンセラミックスC(商品名、東亜合成社製)(熱膨張係数13×10^(-6)/K)を例示できる。
【0015】こうした基板の製造プロセスの概要について、図2(a)-(c)を参照しつつ、説明する。
【0016】強誘電性の電気光学単結晶からなり、相対向する一対の主面2a、2cを備えている基板材料2Aを準備し、これを洗浄する。そして、基板材料2Aの一方の主面2a側に光導波路4を形成する(図2(a))。この際は、チタン拡散法、プロトン交換法などの公知の方法を採用できる。次いで、基板材料2Aの一方の主面2aに対して、基板材料を構成する電気光学単結晶よりも低い屈折率を有する接着剤からなる接着層5を介して、固定用基板6を接着する。この際、接着層5によって光導波路を被覆する(図2(b))。
【0017】次いで、基板材料2Aの他方の主面2cを加工することによって、基板材料6の厚さを小さくし、光導波路基板2を形成する(図2(c))。次いで、光導波路基板2の他方の主面2b上に、光導波路4中を伝搬する光を変調する電圧を印加するための少なくとも一対の電極3A-3Cを、蒸着法やメッキ法によって形成する(図1(a)、図1(b))。
【0018】こうした進行波形光変調器1は、基板2の厚さを非常に小さくできることから、高速変調を可能とできる。また、光導波路4b、4cの部分(電極3A-3Cのギャップ領域)において、基板の研磨面2bと反対側が接着層5によって被覆され、保持されているので、研磨時の衝撃を吸収し、基板2内において、歪みの残留を防止できる。しかも、光導波路4b、4cを接着層によって被覆することで、光導波路モードのパターンが、垂直方向に向かって過度に偏平となるのを防止し、外部の光導波路や光ファイバーとの結合損失が増大するのを防止できる。
【0019】本発明においては、光導波路基板の厚さが20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが一層好ましい。これによって、マイクロ波の実効屈折率nmwを顕著に低減できる。また、光導波路基板の厚さは、加工上、300μm以上であることが好ましい。
【0020】接着層の厚さは、基板材料の研磨時の機械的応力や振動を吸収するためには、5μm以上であることが好ましい。また、製造上の観点からは、100μm以下であることが好ましい。
【0021】固定用基板の材質は、電気光学単結晶の誘電率よりも低い誘電率を有することが好ましい。こうした材質としては、石英ガラス等のガラスがある。このような材質によって固定用基板を製造した場合には、接着層の厚さが20μm以下、更には10μm以下である場合にも、固定用基板によるマイクロ波の伝搬速度への悪影響を防止できる。
【0022】また、固定用基板を、光導波路基板2の電気光学単結晶の誘電率以上の誘電率を有する材質によって形成することができる。この場合には、固定用基板を、光導波路基板2を構成する単結晶と同種の単結晶によって形成することが特に好ましい。ただし、この場合には、マイクロ波の伝搬への悪影響を防止するために、接着層の厚さを20μm以上とすることが特に好ましい。」

上記ア及びイから、引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「強誘電性の電気光学単結晶からなり、相対向する一対の主面を備えている光導波路基板、この光導波路基板の一方の主面側に、チタン拡散法、プロトン交換法などの方法で形成されている、入り口部分、分岐部分および結合部分を備えるマッハツェンダー型の光導波路、前記光導波路中を伝搬する光を変調する電圧を印加するための少なくとも一対の電極であって、前記光導波路基板の他方の主面上に設けられている電極、前記光導波路基板の前記一方の主面に対して接着されている固定用基板および前記光導波路基板の前記一方の主面と前記固定用基板とを接着し、前記光導波路を被覆し、かつ前記電気光学単結晶よりも低い屈折率を有する接着剤からなる接着層を備え、光導波路基板の厚さが好ましくは20μm以下で、一層好ましくは10μm以下で、固定用基板は光導波路基板を構成する単結晶と同種の単結晶によって形成される進行波形光変調器。」

(2)対比
ア 引用発明の「マッハツェンダ型の光導波路」、「電極」、「固定用基板」、および「進行波形光変調器」は、それぞれ、本願補正発明の「三次元光導波路」、「変調用電極」、「支持基板」、および「光変調器」に相当する。

イ 引用発明の「光導波路基板」は、「強誘電性の電気光学単結晶からなり、」「厚さが好ましくは20μm以下、一層好ましくは10μm以下で、」「一方の主面側にチタン拡散法、プロトン交換法などの方法で」「マッハツェンダー型の光導波路」が形成され、「一方の主面」は、光導波路基板の「電気光学単結晶よりも低い屈折率を有する接着剤からなる接着層」を介して固定用基板の主面に対して接着されるものであるので、引用発明は、本願補正発明の「強誘電性単結晶からなり、厚さが3μm以上、20μm以下であるスラブ型光導波路」および「前記支持基板と前記スラブ型光導波路とを接着し、前記スラブ型光導波路の屈折率よりも低い屈折率を有しており、前記スラブ型光導波路の下部クラッドである接着剤層」を具備する。

ウ 引用発明は、「強誘電性の電気光学単結晶からなり、相対向する一対の主面を備えている光導波路基板の一方の主面側に、チタン拡散法、プロトン交換法などの方法で形成されている、入り口部分、分岐部分および結合部分を備えるマッハツェンダー型の光導波路」を備えるので、引用発明は、本願補正発明の「少なくとも一対の分岐光導波路と、分岐光導波路の合波点とを含んでおり、前記スラブ光導波路を構成する前記強誘電性単結晶への加工によって形成されており、この加工がプロトン交換または金属拡散を含む三次元光導波路」を具備する。

エ 引用発明は、「光導波路中を伝搬する光を変調する電圧を印加するための少なくとも一対の電極であって、前記光導波路基板の他方の主面上に設けられている電極」を具備しているので、引用発明は、本願補正発明の「前記三次元光導波路を伝搬する光を変調する信号電圧を印加するための変調用電極」を具備する。

オ 引用発明の「固定用基板」は、「光導波路基板を構成する単結晶と同種の単結晶によって形成され」、光導波路基板と同じく強誘電性の電気光学結晶によって形成されるものであるから、引用発明は、本願補正発明の「強誘電性単結晶からなる支持基板」を具備する。

カ 上記ア乃至オから、本願補正発明と引用発明とは、
「三次元光導波路を伝搬する光に電圧を印加してこの光を変調する光変調器であって、
強誘電性単結晶からなる支持基板、
強誘電性単結晶からなり、厚さが3μm以上、20μm以下であるスラブ型光導波路、
少なくとも一対の分岐光導波路と、分岐光導波路の合波点とを含んでおり、前記スラブ光導波路を構成する前記強誘電性単結晶への加工によって形成されており、この加工がプロトン交換または金属拡散を含む三次元光導波路、
前記三次元光導波路を伝搬する光を変調する信号電圧を印加するための変調用電極、
前記支持基板と前記スラブ型光導波路とを接着し、前記スラブ型光導波路の屈折率よりも低い屈折率を有しており、前記スラブ型光導波路の下部クラッドである接着剤層を備えた、光変調器。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:
本願補正発明は、「スラブ型光導波路」が「合波点から放射されるオフモードの光を導波」するものであるのに対し、引用発明はそのようなものであるか不明である点。
相違点2:
本願補正発明は、「前記スラブ型光導波路から放射される光を受光する光検知器」を備えており、「前記光検知器からの出力に基づいて、前記変調用電極に加わる直流バイアスを変化させることによって、前記光変調器の動作点を制御する制御装置を備え、前記光検知器またはこの光検知器へと光を伝送する光伝送部材が前記スラブ型光導波路の光出射端面に取り付けられている」のに対し、引用発明はそのようなものであるか明らかではない点。

(3)判断
ア 相違点1について
本願補正発明の「スラブ型光導波路」は、接着剤層の屈折率よりも高い屈折率を有する材料からなる厚さが3μm以上、20μm以下の平板であり、オフモードの際に光が該平板内を伝搬するものである(本願明細書【0009】?【0014】)。
一方、引用発明の「光導波路基板」も、それより低い屈折率を有する接着剤からなる接着層で固定用基板と接着され、厚さが20μm以下であるから、光導波路の分岐部分の合波点から放射されるオフモードの光が光導波路基板(スラブ型光導波路)を導波することは明らかである。

イ 相違点2について
マッハツェンダー型光変調器において、合波点から放射されるオフモードの光を、光導波路基板の出射端面に光伝送部材を取りつけて光検知器へと光を伝送して受光して、該光検知器からの出力に基づいて、変調用電極に加わる直流バイアスを変化させることによって、該光変調器の動作点を制御する制御装置は周知(例えば、原査定の拒絶理由で引用された特開平3-145623号の公報第4頁右上欄第6行?第5頁右上欄第3行のほか、特開平10-228006号公報の段落【0004】?【0016】、図29を参照)であるので、引用発明にこの周知技術を適用して、本願補正発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年8月27日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成20年2月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、請求項1に係る発明は次のものである。
「三次元光導波路を伝搬する光に電圧を印加してこの光を変調する光変調器であって、
強誘電性単結晶からなる支持基板、
強誘電性単結晶からなり、前記合波点から放射されるオフモードの光を導波し,厚さが3μm以上、20μm以下であるスラブ型光導波路、
少なくとも一対の分岐光導波路と、分岐光導波路の合波点とを含んでおり、前記スラブ光導波路を構成する前記強誘電性単結晶への加工によって形成されており、この加工がプロトン交換または金属拡散を含む三次元光導波路、
前記三次元光導波路を伝搬する光を変調する信号電圧を印加するための変調用電極、
前記支持基板と前記スラブ型光導波路とを接着し、前記スラブ型光導波路の屈折率よりも低い屈折率を有しており、前記スラブ型光導波路の下部クラッドである接着剤層、
前記スラブ型光導波路から放射される光を受光する光検知器、および
前記光検知器からの出力に基づいて、前記変調用電極に加わる直流バイアスを変化させることによって、前記光変調器の動作点を制御する制御装置を備えていることを特徴とする、光変調器。」(以下「本願発明」という。)

2.引用例
上記「第2 3.(1)」に記載のとおりのものである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明の「スラブ型光導波路」について、その「光出射端面に」「前記光検知器またはこの光検知器へと光を伝送する光伝送部材が」「取り付けられている」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3.(2)及び(3)」で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-22 
結審通知日 2009-12-24 
審決日 2010-01-05 
出願番号 特願2002-328683(P2002-328683)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植田 高盛河原 正  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 杉山 輝和
田部 元史
発明の名称 光変調器  
代理人 青木 純雄  
代理人 細田 益稔  

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