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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1237413
審判番号 不服2008-2254  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-31 
確定日 2011-05-23 
事件の表示 特願2006-221206「スペクトラム拡散通信システムの送受信局における送信電力制御」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月16日出願公開、特開2006-314143〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は、1996年6月27日(パリ条約による優先権主張1995年6月30日、米国)を国際出願日とする、特願平9-505231号の一部を平成15年10月15日に特願2003-355227号として新たな特許出願とし、さらに、特願2003-355227号の一部を平成18年8月14日に新たに特許出願したもので、当審において、平成22年5月6日付けで拒絶理由が通知され、平成22年12月1日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成22年12月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
基地局と加入者局ユニットとの間のスペクトラム拡散通信の方法であって、
前記基地局が、
グローバルパイロットチャネルを前記加入者局ユニットに送信するステップと、
順方向自動電力制御信号を前記加入者局ユニットに送信するステップと、
順方向トラフィックチャネルを前記加入者局ユニットに送信するステップと、
前記順方向トラフィックチャネルおよび前記順方向自動電力制御信号の順方向送信電力レベルを逆方向自動電力制御信号を構成する自動電力制御ビットに応答して制御するステップであって、前記逆方向自動電力制御信号を構成する自動電力制御ビットの各々が、前記順方向自動電力制御信号および前記順方向トラフィックチャネルの前記順方向送信電力レベルを制御するステップと、
前記加入者局ユニットが、
割り当てられたパイロット信号を前記基地局に送信するステップと、
前記逆方向自動電力制御信号を前記基地局に送信するステップと、
逆方向トラフィックチャネルを前記基地局に送信するステップと、
前記割り当てられたパイロット信号、前記逆方向自動電力制御信号および前記逆方向トラフィックチャネルの逆方向送信電力レベルを前記順方向自動電力制御信号を構成する自動電力制御ビットに応答して制御するステップであって、前記順方向自動電力制御信号を構成する自動電力制御ビットの各々が、前記割り当てられたパイロット信号、前記逆方向自動電力制御信号および前記逆方向トラフィックチャネルの前記逆方向送信電力レベルを制御するステップと
を備えることを特徴とする方法。」

3.引用例
当審における、平成22年5月6日付けの拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開平7-107033号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。
(イ)「【0011】
【実施例】この発明の実施例を、CDMA移動通信方式に適用した場合について説明する。図1は、この発明による基地局装置の実施例を示し、RF信号の送受信を行うアンテナ10は送受信分配器11に接続され、アンテナ10で受信した移動局送信電波が受信側の相関器12に供給されるとともに、送信側の増幅器25の出力がアンテナ10へ供給される。相関器12で送受分配器11からの受信信号が拡散符号発生器13から与えられる拡散符号で逆拡散され、相関がとられる。拡散符号発生器13は制御部19から指定される拡散符号を発生させて相関器12に与える。相関器12の出力は復調器14で復調され、また、受信レベル測定回路15に供給されて受信レベルの測定がされる。復調器14からの出力は復号器16で復号され、復号器16からの出力のうち、移動局から報告される移動局での受信CIR(搬送波干渉波比)情報(送信電力補正信号)が下りCIR情報分離回路17で分離されて、下り送信電力設定部18に与えられ、その他の復号出力は制御部19へ供給される。下り送信電力設定部18は入力された下りCIR情報に基づいて、増幅器25の出力、つまり基地局送信出力を設定する。制御部19は、発着信及びソフトハンドオーバ等を制御し、それらの信号を上りは、ユーザデータ(音声情報等)から分離し、下りは、ユーザデータに多重し、また、拡散符号発生器13、24に発生させる拡散コードの指定などを行う。制御部19からの下り信号に対し信号多重回路20で、移動局送信電力設定回路26の移動局送信電力情報(送信電力補正信号)が多重化される。信号多重回路20の出力は、符号器21で符号化され、その符号化出力は変調器22で搬送波を変調し、変調器22の出力は拡散符号発生器24の出力と拡散器23で掛け合わされてスペクトラム拡散され、その拡散器23からの出力は増幅器25で増幅されて送受信分配器11へ供給される。移動局送信電力設定回路26は、受信レベル測定回路15から報告される受信レベルに対応する設定値を作成して信号多重回路20へ送る。以上述べた構成部分が、複数の移動局やソフトハンドオーバに対応するように複数組み設けられている。
【0012】図2は、この発明による移動局装置の実施例を示す。アンテナ30はRF信号の送受信を行い、アンテナ30で受信した移動局送信電波は送受信分配器31により受信側の相関器32に供給されるとともに、送信側の増幅器45の出力はアンテナ30に供給される。送受分配器31からの受信信号は拡散符号発生器33から与えられる拡散符号で相関器32において逆拡散されて相関がとられ、相関器32の出力は復調器34で復調され、また相関器32の出力はCIR測定回路35に入力されてCIR(搬送波干渉波比)が測定される。復調器34からの出力は復号器36で復号され、その復号出力のうち、基地局から指定される移動局の送信電力制御情報(送信電力補正信号)が送信電力制御情報分離回路37で分離されて、移動局送信電力設定部38に与えられ、移動局送信電力設定部38により、その送信電力制御情報にもとづいて増幅器45の出力、つまり、移動局送信出力が設定される。送信電力制御情報分離回路37の出力中の他のものは制御部39へ供給される。制御部39は、発着信及びソフトハンドオーバ等を制御し、それらの信号を下りは、ユーザデータ(音声情報等)から分離し、上りは、ユーザデータに多重し、また、拡散符号発生器33、44に発生させる拡散コードの指定などを行う。CIR測定回路35で測定したCIR値(送信電力補正信号)が信号多重化回路40で制御部39からの上り信号に多重化される。その信号多重回路40の出力は符号器41で符号化され、符号器41の出力は変調器43で搬送波を変調する。変調器42の出力は拡散符号発生器44の出力と拡散器43で掛け合わされてスペクトラム拡散され、その拡散器43からの出力は増幅器45で増幅されて送受信分配器31へ供給される。以上述べた構成部分が、複数の基地局と同時に通信できるように複数組み込まれている。」(第4欄第1行?第5欄第20行)、

(ロ)「【0014】まず、上り送信電力制御について述べる。基地局では、受信した移動局送信電波を図1の基地局装置中の相関器12で逆拡散後、受信レベル測定回路15で測定し、その結果を移動局送信電力設定回路26に報告する。送信電力制御方法はさまざまな方法が考えられるが、目標とする受信レベルまたは干渉比レベルにあわせるという機能はいづれも同じであるので、一例として、ここでは指定する送信電力値だけ現在の移動局の送信電力値から上下させる方法で説明する。目標とするビット誤り率になる受信レベルを、目標受信レベルとする場合を例とする。移動局送信電力設定回路26は測定された受信レベルから、目標受信レベルになるように移動局送信電力を制御するための情報、つまり送信電力補正信号を信号多重回路20へ送り込む。例えば、図7から、目標とするビット誤り率が10^(-3)に設定されているとすれば、接続先基地局が1局の場合は基地局受信のEb/No、つまり目標レベルが30dBになるように、接続先基地局が2局の場合は、基地局受信のEb/No、つまり目標レベルが20dBになるように、移動局の送信電力を制御する。移動局送信電力設定回路26は図5に示すテーブルを持っており、移動局の出力が現在のままでよければ0000、現在の出力から2dB上げるなら0010の値を、送信電力補正信号として信号多重回路20へ送り込む。信号多重回路20の出力は符号器21、変調器22、拡散器23、AMP25、送受信分配器11を経てアンテナ10より移動局へ送信される。移動局では基地局から送られてきた上り送信電力設定の情報、つまり送信電力補正信号を図2中の送信電力制御情報分離回路37で取り出し、移動局送信電力設定部38に送出する。移動局送信電力設定部38では、基地局と同様の図5に示したテーブルを持っており、そのテーブルに従って増幅器45の出力を制御する。このように、移動局の送信電力は、基地局の指示に従い、接続されている基地局の数によって異なる目標受信レベルになるように制御される。」(第6欄第5?39行)、

(ハ)「移動局、基地局共に、受信レベル測定又はCIR測定でもよい。従ってこの明細書で送信電力補正信号は前記各種測定値自体の場合、その測定値の目標レベルに対する偏差を示す場合がある。」(第8欄第25?29行)、

上記摘記事項(イ)第0012段落の「アンテナ30で受信した移動局送信電波」が「アンテナ30で受信した基地局送信電波」の誤記であることは明らかであるから、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1記載発明」という。)が記載されているものと認められる(なお、基地局から送られてくる「移動局送信電力情報(送信電力補正信号)」との用語の混乱を避けるため、移動局から報告される「送信電力補正信号」を「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)」と記載した。)。

「CDMA移動通信方式であって、
基地局装置において、受信した移動局送信電波から、移動局から報告される送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)が分離され、その送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)に基づいて、増幅器25の出力、つまり基地局送信出力を設定し、発着信及びソフトハンドオーバ等の信号を下りのユーザデータに多重し、さらに移動局送信電力情報(送信電力補正信号)が多重化され、スペクトラム拡散され、前記増幅器25で増幅されて送信され、
移動局装置において、受信した基地局送信電波から、基地局から指定される移動局送信電力情報(送信電力補正信号)が分離され、その移動局送信電力情報(送信電力補正信号)にもとづいて増幅器45の出力、つまり、移動局送信出力が設定され、発着信及びソフトハンドオーバ等の信号を上りのユーザデータに多重し、さらに送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)が多重化され、スペクトラム拡散され、前記増幅器45で増幅して送信される方法。」

また、当審における、平成22年5月6日付けの拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、「安部田貞行、三瓶政一、森永規彦、「抑圧パイロットチャネルを用いたDS/CDMA同期検波方式」、電子情報通信学会論文誌、J77-B-II、No.11,1994年11月25日、p.641?648」(以下、「引用例2」という。)には、「本論文では,上り回線における同期検波の実現と高速チップタイミング同期を実現するため,トラヒックチャネルと直交し,かつその電力がトラヒックチャネルより小さいパイロットチャネルを挿入する」(第642頁左欄第1?4行)と記載され、第642頁の「2.1 送信信号」欄には、「ベースバンドにおけるトラヒックチャネルの信号・・・(中略)・・・の同相成分に、電力が抑圧されたパイロット信号を挿入した後にPRBS(Pseudo-Random Binary Sequence)より生成したPN系列を乗積する.」(第642頁左欄第26行?同頁右欄第6行)と記載され、同頁図1には該記載に対応した「送信機の構成」が記載され、第645?647頁の「3.シミュレーション結果」欄では「パイロットチャネル対全送信電力比β」をパラメータとしたシミュレーション結果が記載され、「「図9より,10^(-3)<BER<10^(-2)の範囲では,N_(profile)が16と32で大差がなく,最適なβの値は,β=-10dBであることがわかる.従って,以下の解析ではβ=-10dBとする.」(第646頁右欄第9?12行」)と記載されている。
よって、引用例2には、「CDMA方式の上り回線の送信機において、トラヒックチャネルの信号にパイロット信号を挿入し、パイロットチャネルの電力は、全送信電力に対し、所定の電力比βを有するようにする」発明(以下、「引用例2記載発明」という。)が記載されている。

4.対比
引用例1記載発明の「基地局装置」、「移動局装置」が、それぞれ本願発明の「基地局」、「加入者局ユニット」に相当する。
次に、引用例1記載発明の「CDMA移動通信」は、送信すべき信号を「スペクトラム拡散」しているから、本願発明の「スペクトラム拡散通信」に相当するといえる。
次に、基地局から移動局へ向かう方向が「順方向」(下り)、移動局から基地局へ向かう方向が「逆方向」(上り)であることは明らかであるから、引用例1記載発明の「移動局送信電力情報(送信電力補正信号)」が本願発明の「順方向自動電力制御信号」に相当する。
次に、引用例1記載発明の「下りのユーザデータ」を伝送する論理的なチャネルが本願発明の「順方向トラフィックチャネル」に相当する。
次に、引用例1記載発明において、「増幅器25の出力」、つまり「基地局送信出力」が、本願発明の「順方向送信電力レベル」に相当する。
そして、引用例1記載発明において、「下りのユーザデータ」および「移動局送信電力情報(送信電力補正信号)」の「基地局送信出力」を「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)に基づいて」「設定」することと、本願発明の「前記順方向トラフィックチャネルおよび前記順方向自動電力制御信号の順方向送信電力レベルを逆方向自動電力制御信号を構成する自動電力制御ビットに応答して制御するステップであって、前記逆方向自動電力制御信号を構成する自動電力制御ビットの各々が、前記順方向自動電力制御信号および前記順方向トラフィックチャネルの前記順方向送信電力レベルを制御するステップ」とは、前記順方向トラフィックチャネルおよび前記順方向自動電力制御信号の順方向送信電力レベルを前記逆方向自動電力制御信号に応答して制御するステップ、である点で一致する。
次に、引用例1記載発明の「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)」が本願発明の「逆方向自動電力制御信号」に相当する。
次に、引用例1記載発明の「上りユーザデータ」を伝送する論理的なチャネルが本願発明の「逆方向トラフィックチャネル」に相当する。
次に、引用例1記載発明において、「増幅器45の出力」、つまり「移動局送信出力」が、本願発明の「逆方向送信電力レベル」に相当する。
そして、引用例1記載発明において「上りユーザデータ」および「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)」の「移動局送信出力」を「移動局送信電力情報(送信電力補正信号)にもとづいて」「設定」することと、本願発明の「前記割り当てられたパイロット信号、前記逆方向自動電力制御信号および前記逆方向トラフィックチャネルの逆方向送信電力レベルを前記順方向自動電力制御信号を構成する自動電力制御ビットに応答して制御するステップであって、前記順方向自動電力制御信号を構成する自動電力制御ビットの各々が、前記割り当てられたパイロット信号、前記逆方向自動電力制御信号および前記逆方向トラフィックチャネルの前記逆方向送信電力レベルを制御するステップ」とは、前記逆方向自動電力制御信号および前記逆方向トラフィックチャネルの逆方向送信電力レベルを前記順方向自動電力制御信号に応答して制御するステップ、である点で一致する。

すると、本願発明と引用例1記載発明とは次の点で一致する。

(一致点)
「基地局と加入者局ユニットとの間のスペクトラム拡散通信の方法であって、
前記基地局が、
順方向自動電力制御信号を前記加入者局ユニットに送信するステップと、
順方向トラフィックチャネルを前記加入者局ユニットに送信するステップと、
前記順方向トラフィックチャネルおよび前記順方向自動電力制御信号の順方向送信電力レベルを逆方向自動電力制御信号に応答して制御するステップと、
前記加入者局ユニットが、
前記逆方向自動電力制御信号を前記基地局に送信するステップと、
逆方向トラフィックチャネルを前記基地局に送信するステップと、
前記逆方向自動電力制御信号および前記逆方向トラフィックチャネルの逆方向送信電力レベルを前記順方向自動電力制御信号に応答して制御するステップと
を備えることを特徴とする方法。」

一方で、本願発明と引用例1記載発明とは、次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明では、「順方向自動電力制御信号」及び「逆方向自動電力制御信号」が、それぞれ「自動電力制御ビット」にて構成され、「順方向自動電力制御信号」を構成する「自動電力制御ビット」の各々、及び「逆方向自動電力制御信号」を構成する「自動電力制御ビット」の各々が、それぞれ逆方向送信電力レベル及び順方向送信電力レベルを制御しているのに対し、引用例1記載発明では、「移動局送信電力情報(送信電力補正信号)」(順方向自動電力制御信号)及び「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)」(逆方向自動電力制御信号)が、それぞれ「移動局送信出力」(逆方向送信電力レベル)及び「基地局送信出力」(順方向送信電力レベル)を制御しているものの、「移動局送信電力情報(送信電力補正信号)」(順方向自動電力制御信号)及び「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)」(逆方向自動電力制御信号)が、それぞれ「自動電力制御ビット」にて構成されているか明らかでなく、したがって、「移動局送信出力」(逆方向送信電力レベル)、及び「基地局送信出力」(順方向送信電力レベル)が、それぞれ「順方向自動電力制御信号」を構成する「自動電力制御ビット」の各々、及び「逆方向自動電力制御信号」を構成する「自動電力制御ビット」の各々によって制御されているか明らかでない点。

<相違点2>
本願発明では、基地局が「グローバルパイロットチャネルを前記加入者局ユニットに送信するステップ」を備えているのに対し、引用例1記載発明では、基地局装置(基地局)がかかるステップを備えることは記載されていない点。

<相違点3>
本願発明では、加入者局ユニットが「割り当てられたパイロット信号を前記基地局に送信するステップ」を備え、「前記割り当てられたパイロット信号、前記逆方向自動電力制御信号および前記逆方向トラフィックチャネル」の「逆方向送信電力レベル」が制御されているのに対し、引用例1記載発明では、移動局装置(加入者局ユニット)が「割り当てられたパイロット信号を前記基地局に送信するステップ」を備えることは記載されておらず、したがって、引用例1記載発明には、「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)」(逆方向自動電力制御信号)、「上りユーザデータ」を伝送する論理的なチャネル(逆方向トラフィックチャネル)だけでなく、割り当てられたパイロット信号についても、「移動局送信出力」(逆方向送信電力レベル)を設定する(制御する)ことは記載されていない点。

5.判断
そこで上記相違点について検討すると、
<相違点1>について:
電力制御のための信号を電力制御ビットにて構成し、該電力制御ビットの各々が送信電力を制御することは周知技術である(例えば、当審における、平成22年5月6日付けの拒絶の理由に引用された、岡崎 功、工藤栄亮、生越重章、「広帯域DS/CDMA方式における送信電力制御法の検討」、1995年電子情報通信学会総合大会講演論文集、[通信1]、B-425、1995年3月10日発行、p.425(1フレーム当たりのTPC(送信電力制御)ビット数(Ic)を1ビットとした場合)、特表平5-508987号公報(「発明の背景」欄の「初期推定を修正するこの補正は、800?1000回/秒のレートで電力制御ビットを移動無線電話装置に送信する基地局によって行なわれる。電力ビット1は、電力を1電力ステップだけ増加するように無線電話装置に指示し、電力ビット0は、電力を1電力ステップだけ減少するように無線電話装置に指示するが、合意されたシステム・プロトコルに基づいてその逆も成り立つ。1電力ステップとは、一般に0.5?1.5dBの範囲の設定値である。閉ループ制御は、一般に±24dBの制御範囲を有する。」(第3頁左上欄第12?20行))参照。)。
よって、かかる周知技術を引用例1記載発明に適用し、引用例1記載発明において、「移動局送信電力情報(送信電力補正信号)」(順方向自動電力制御信号)及び「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)」(逆方向自動電力制御信号)が、それぞれ「自動電力制御ビット」にて構成されるようにし、引用例1記載発明の「移動局送信出力」(逆方向送信電力レベル)及び「基地局送信出力」(順方向送信電力レベル)が、それぞれ「移動局送信電力情報(送信電力補正信号)」(順方向自動電力制御信号)を構成する「自動電力制御ビット」の各々、及び「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)」(逆方向自動電力制御信号)を構成する「自動電力制御ビット」の各々によって制御されるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

<相違点2>及び<相違点3>について:
基地局において、加入者機器に共通のウォルシュ関数W0で変換されたパイロット・チャネルを、基地局から加入者機器に送信することは周知技術である(例えば、Jurg Hinderling他、「ディジタル自動車・携帯電話方式CDMAの変復調回路を1チップに」、日経エレクトロニクス、第579号、日経PB社、1993年4月26日、P.163?175(第173頁、図9の「下り(基地局→加入者機器)信号(帯域幅1.25MHz)」に含まれる、ウォルシュ関数W0で変換された「パイロット・チャネル」参照。)、特開平7-38496号公報(【従来の技術】欄における第【0012】段落の記載及び「従来の技術における基地局装置の構成」を示す図12の「Pilot信号発生装置104」参照。))。
また、引用例2記載発明は、「CDMA方式の上り回線の送信機において、トラヒックチャネルの信号にパイロット信号を挿入し、パイロットチャネルの電力は、全送信電力に対し、所定の電力比βを有するようにする」ものであるが、該パイロット信号が「CDMA方式の上り回線の送信機」に割り当てられた信号であること、及び、所定の電力比βを維持したまま送信機の電力制御を行うには、トラヒックチャネルの信号にパイロット信号を挿入した後において、全送信電力の電力制御を行う必要のあることは明らかなことである。
そして、引用例2には、「従来のCDMA方式では,下り回線においては共通のパイロットチャネルを用いることによりコヒーレントなパスダイバーシチ合成を行っているが^((4)),」(引用例2第641頁右下欄第8?10行)と記載されているから、引用例2記載発明は、CDMA方式の上り回線と下り回線の両方においてパイロット信号を用いることを示唆しているといえる。
よって、上記周知技術及び引用例2記載発明を引用例1記載発明に適用し、引用例1記載発明において、基地局装置(基地局)において、加入者機器に共通のウォルシュ関数W0で変換されたパイロット・チャネル(グローバルパイロットチャネル)を移動局装置(加入者局ユニット)に送信するステップと、移動局装置(加入者局ユニット)において、割り当てられたパイロット信号を基地局装置(基地局)に送信するステップとを備え、移動局装置(加入者局ユニット)において、「送信電力補正信号(移動局報告電力補正信号)」(逆方向自動電力制御信号)、「上りユーザデータ」を伝送する論理的なチャネル(逆方向トラフィックチャネル)とともに、割り当てられたパイロット信号についても「移動局送信出力」(逆方向送信電力レベル)を設定する(制御する)ようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明の作用効果も、引用例1記載発明、引用例2記載発明及び周知技術より当業者が予測しうるものである。

したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。

6.まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-21 
結審通知日 2010-12-24 
審決日 2011-01-07 
出願番号 特願2006-221206(P2006-221206)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 望月 章俊松野 吉宏  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 青木 健
清水 稔
発明の名称 スペクトラム拡散通信システムの送受信局における送信電力制御  
復代理人 中西 英一  
代理人 阿部 和夫  
復代理人 濱中 淳宏  
代理人 谷 義一  

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