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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
管理番号 1409059
総通号数 28 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-25 
確定日 2024-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6963056号発明「ポリウレタン組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6963056号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。 特許第6963056号の請求項1、2、6~12に係る特許を取り消す。 特許第6963056号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第6963056号の請求項4、5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6963056号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成29年5月26日を国際出願日とする特許出願(優先権主張:平成28年5月26日、特願2017-529411号)(以下「原出願」という。)の一部を、令和2年4月13日に新たな出願としたものであって、令和3年10月18日にその特許権の設定登録がされ、同年11月5日に特許掲載公報が発行された後、その特許に対し、令和4年3月25日に特許異議申立人である佐藤 彰芳(以下、「申立人A」という。)により、請求項1~12に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、同年5月2日に特許異議申立人である椎名 一男(以下、「申立人B」という。)により、請求項1ないし3、6、8ないし12に対して特許異議の申立てがなされた。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和4年 9月15日付け取消理由通知書
同年11月 2日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年11月17日 通知書(申立人A、Bあて)
同年12月19日 意見書(申立人B)
同年12月20日 意見書(申立人A)
令和5年 2月 2日付け取消理由通知書(決定の予告)
同年 3月16日 応対記録
同年 3月28日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 4月28日 通知書(申立人A、Bあて)
同年 6月5日 意見書(申立人B)
同年 6月7日 意見書(申立人A)
なお、令和4年11月2日提出の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表し、当審が付した。)。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「遷移金属化合物」とあるのを、「金属化合物」に訂正するとともに、特許請求の範囲の請求項1に、「前記3級アミンが1,2-ジメチルイミダゾール及び/又は1-イソブチル-2メチル-イミダゾールであることを特徴とするポリオール組成物。」とあるのを、「前記3級アミンが1,2-ジメチルイミダゾール及び/又は1-イソブチル-2メチル-イミダゾールであり、前記金属化合物が、亜鉛、スズ、ビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことを特徴とするポリオール組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、「遷移金属化合物」とあるのを、「金属化合物」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項3記載のポリオール組成物。」とあるのを、「請求項1記載のポリオール組成物。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1~5のいずれかに記載のポリオール組成物。」とあるのを、「請求項1、2、4、5のいずれかに記載のポリオール組成物。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1~6のいずれかに記載のポリオール組成物。」とあるのを、「請求項6に記載のポリオール組成物。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1~7のいずれかに記載のポリオール組成物と、」とあるのを、「請求項1、2、4~7のいずれかに記載のポリオール組成物と、」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1~7のいずれかに記載のポリオール組成物と」とあるのを、「請求項1、2、4~7のいずれかに記載のポリオール組成物と」に訂正する。

(9)一群の請求項について
訂正前の請求項2~12は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正事項1~8に係る訂正は、一群の請求項〔1~12〕について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「ポリオール組成物」に係る発明に関し、その構成成分である「遷移金属化合物」を「亜鉛、スズ、ビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む」に限定するとともに、令和5年2月2日付け取消理由通知(決定の予告)に記載のとおり、スズ、ビスマスは、遷移金属ではないから、スズ、ビスマスを遷移金属と記載することは不明確であるとの取消理由(明確性)に対応して、その不整合を是正するために、「遷移金属」を「金属化合物」にしたものである。よって、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「前記金属化合物が、亜鉛、スズ、ビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む」という特定事項は、訂正前の請求項3に記載された事項から、金属化合物として、亜鉛、スズ、ビスマスを選択したものである。そして、上記金属を亜鉛、スズ、ビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属に特定するとともに、これらを含むものを金属化合物と表現したものである。よって、金属化合物の金属元素も、ポリオール組成物における金属化合物の位置づけも訂正前から変更するものではない。
よって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しないし、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
訂正事項2による請求項3についての訂正は、訂正前の請求項3に記載されていた事項が全て削除されたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そうすると、本件明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で訂正されたことが明らかであって、新規事項の追加に該当しないし、訂正によって本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質上拡張又は変更されたものでないことも明らかである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1にかかる請求項1の訂正に伴い、記載の整合を図ったものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4、5、7、8
訂正事項4、5、7、8についての訂正は、それぞれ、上記の訂正事項2による訂正前の請求項3の削除に合わせて、引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4、5、7、8についての訂正は、単に訂正前の請求項3を引用しないものとするものであるから、本件明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で訂正されたことが明らかであって、新規事項の追加に該当しないし、各訂正によって本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質上拡張又は変更されたものでないことも明らかである。

(5)訂正事項6
訂正事項6についての訂正は、訂正前の請求項7に「請求項1~6のいずれかに記載のポリオール組成物。」とあるのを、難燃剤が記載されていない請求項1~5を削除して、「請求項6に記載のポリオール組成物。」に訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし12に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

3 訂正の適否についてのむすび
以上のとおり、請求項1ないし12についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを認める。

第3 訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正請求により訂正された請求項1~12に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものである。
以下、請求項1~12に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明12」といい、まとめて「本件特許発明」ということもある。

「【請求項1】
ポリイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン樹脂を得るためのポリオール組成物であって、ポリオール、金属化合物、3級アミン及び4級アンモニウム塩を含有し、前記3級アミンが1,2-ジメチルイミダゾール及び/又は1-イソブチル-2メチル-イミダゾールであり、
前記金属化合物が、亜鉛、スズ、ビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことを特徴とするポリオール組成物。
【請求項2】
前記4級アンモニウム塩がテトラメチルアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載のポリオール組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
金属化合物が、亜鉛を含有することを特徴とする請求項1記載のポリオール組成物。
【請求項5】
3級アミンに対する亜鉛化合物の重量比が0.5~3.0であることを特徴とする請求項4記載のポリオール組成物。
【請求項6】
難燃剤をさらに含有することを特徴とする請求項1、2、4、5のいずれかに記載のポリオール組成物。
【請求項7】
難燃剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤及び金属水酸化物から選ばれる少なくとも1つとの組合せてであり、赤リンの含有量が、ポリオール100質量部に対して5.5質量部~193質量部であり、難燃剤の合計含有量が、ポリオール100質量部に対して16質量部~260質量部である、請求項6に記載のポリオール組成物。
【請求項8】
請求項1、2、4~7のいずれかに記載のポリオール組成物と、ポリイソシアネート化合物とを分離して含む、ポリウレタンプレミックス組成物。
【請求項9】
請求項1、2、4~7のいずれかに記載のポリオール組成物とポリイソシアネート化合物との混合物であることを特徴とするポリウレタン組成物。
【請求項10】
イソシアネートインデックスが300以上であることを特徴とする請求項9記載のポリウレタン組成物。
【請求項11】
請求項9又は10記載のポリウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂。
【請求項12】
成形体であることを特徴とする請求項11記載のポリウレタン樹脂。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法及び当審が通知した取消理由の概要
1 申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
申立人Aが特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1-1(甲第1号証に基づく新規性欠如)
本件特許発明1~3、6、8~12は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由1-2(甲第2号証に基づく新規性欠如)
本件特許発明1~3、6、8~12は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由1-3(甲第3号証に基づく新規性欠如)
本件特許発明1~3、6、8~12は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立理由2-1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1~3、6、8~12は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するもの(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5)申立理由2-2(甲第2号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1~3、6、8~12は、甲第2号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(6)申立理由2-3(甲第3号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1~12は、甲第3号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(7)申立理由2-4(甲第4号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1~3、6、8~12は、甲第4号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(8)申立理由2-5(甲第5号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1~12は、甲第5号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(9)申立理由2-6(甲第6号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1~3、6~12は、甲第6号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(10)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~3、8~12に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
申立理由3の具体的理由は、概略、次のとおりである。

ア 請求項1や請求項3において規定される遷移金属化合物について、その広範な遷移金属を含む遷移金属化合物が、本件特許発明の課題を解決し得ることについて、本件特許明細書には、何等明らかにされていないから、それら請求項1、3は、サポート要件を欠如する。
イ 請求項2に規定されるテトラメチルアンモニウム塩について、本件特許明細書には、本件特許発明の課題が解決し得ることについて、何等明らかにされてはいないことから、かかる請求項2は、サポート要件を欠如するものである。

2 申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
申立人Bが特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1-1(甲第1号証に基づく新規性欠如)
本件特許発明1~3、6、8、9、11、12は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由1-2(甲第2号証に基づく新規性欠如)
本件特許発明1~3、6、8~12は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由2-1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明3、6、8~12は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立理由2-2(甲第2号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明3、6、8~12は、甲第2号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~3、6、8~12に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
申立理由3の具体的理由は、概略、次のとおりである。

ア 本件特許発明1における「ポリオール組成物」は無数に存在する。しかしながら、具体的に、本件特許発明1の課題を解決できることを実証している実施例としては、ポリオール組成物に含まれる遷移金属化合物として「亜鉛」を含む亜鉛化合物を用いたポリオール組成物が示されているに過ぎない。よって、本件特許明細書が、無数に存在する「ポリオール組成物」の中から適切に選択して、本件特許発明1が解決しようとする課題を解決することを示しているとは言えない。
イ 本件特許発明1が解決しようとする課題は、優れたイソシアヌレート生成能力を有するポリウレタン組成物を提供することである。しかしながら、本件特許発明1におけるポリオール組成物は、どのようなメカニズムで優れたイソシアヌレート生成能力を有するようになっているかについては開示も示唆もされていない。よって、本件特許明細書が、無数に存在するポリオール組成物の中から遷移金属化合物として「亜鉛」を含む亜鉛化合物を含むポリオール組成物を適切に選択して、本件特許発明1が解決しようとする課題を解決することを示しているとは言えない。

3 証拠方法
(1)申立人Aが提出した証拠方法
甲第1号証:特開2005-350666号公報
甲第2号証:特開2004-292582号公報
甲第3号証:特表2015-533912号公報
甲第4号証:特開2005-126695号公報
甲第5号証:国際公開第2015/129850号
甲第6号証:特開2011-99068号公報
甲第7号証:安全データシート(カオーライザーNo.300)、花王株式会社、2014年11月12日改訂、1~6頁
以下、順に「甲1A」ないし「甲7A」という。

(2)申立人Bが提出した証拠方法
甲第1号証:特開2004-292582号公報
甲第2号証:特開2008-73684号公報
甲第3号証:特開2011-241255号公報
以下、順に「甲1B」ないし「甲3B」という。なお、「甲1B」と「甲2A」は、同じ文献であるため、以下では、「甲2A」と表記することもある。

(3)職権により示す参考文献
参考文献:プラスチック事典、株式会社朝倉書店、1997年9月20日発行、156頁

4 当審が通知した取消理由の概要
令和5年2月2日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由(以下、単に「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(請求項1、2、4~12を対象とした明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由1の具体的理由は、概略、次のとおりである。

請求項1には、「前記遷移金属化合物が、亜鉛、スズ、ビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属を含む」との記載があるところ、当該記載において、「スズ、ビスマス」は典型元素に分類されるものである。また、一般に遷移金属は、周期律表の第3族から第12族の元素と定義されることもあるが、「亜鉛」が属する第12族は化学的性質が典型元素の金属に似ており、典型元素として分類されることもある。
そうすると、「前記遷移金属化合物が、亜鉛、スズ、ビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属を含む」との記載と、上記に記載した技術常識が整合しないことになり、不明確である。

(2)取消理由2(請求項1、2、6~12を対象としたサポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2の具体的理由は、概略、次のとおりである。

実施例に用いられた「亜鉛」以外の「スズ、ビスマス」を用いる場合に、本件発明の上記課題を解決し得るのかは、当業者の技術常識を参酌しても明らかでなく、当該範囲を包含する本件特許発明1が発明の詳細な説明の記載を基にして、上記課題を解決できるとは当業者といえども認識できないと解される。

第5 当審の判断
特許異議の申立ての審理対象である請求項1~12のうち、上記第2及び第3で示したとおり、請求項3は、本件訂正により削除されているので、請求項3についての申立てを却下する。
当審は、以下に述べるように、本件特許の請求項1、2、6~12に係る特許は、取消理由で通知した取消理由2(サポート要件)によって取り消すべきものであると判断する。
当審は、当審が通知した取消理由1(明確性要件)及び申立人Aがした申立理由2-3、2-5(進歩性)によっては、いずれも、本件発明4、5に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 取消理由2(サポート要件)及び申立理由3アについて
取消理由2は、申立理由3アと同旨であるから、以下、これを併せて検討する。
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点から検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の訂正後の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
「【背景技術】
【0002】
マンション等の集合住宅、戸建住宅、学校の各種施設、商業ビル等の建築物の断熱材として発泡ポリウレタン樹脂が用いられている。ウレタン樹脂は難燃性が低いため、これを改善する方法として樹脂中のイソシアヌレートの比率を高めることが有効であることが知られている。」
「【0004】
しかしながら、イソシアヌレート生成には一定温度が必要であり、狙い通りのイソシアヌレート生成率にならないことが課題となっていた。イソシアヌレート生成率が低いと耐火性が低下する。」
「【0005】
本発明の目的は、優れたイソシアヌレート生成能力を有するポリウレタン組成物およびポリウレタン樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、上記の目的を達成すべく種々検討したところ、遷移金属化合物と3級アミン化合物とを組合せることで高活性にイソシアヌレート生成できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0121】
本発明の組成物は、遷移金属化合物および3級アミンを含有することを特徴とする。本発明を拘束するものではないが、ポリウレタン組成物において、遷移金属化合物が3級アミンと錯体を形成することで、3量化触媒活性を発現することにより、イソシアヌレート生成を促進し、耐火性能を高めることができると考えられる。そのため、遷移金属化合物としては、エチレンジアミン四酢酸と遷移金属、あるいは、ポルフィリン誘導体と遷移金属など、あらかじめ、錯体となっている遷移金属化合物を添加することでも同様の効果が期待できる。」
「【実施例】
【0130】
[試験例1]
1.ポリウレタン組成物およびそのポリウレタン樹脂の製造
表1及び2に示した配合により、実施例1~13および比較例1~5に係るポリウレタン組成物を、(1)ポリオールプレミックスおよび(2)ポリイソシアネートの2つに分けて準備した。表中の各成分の配合量は、質量部により示す。
なお表中の各成分の詳細は次の通りである。
【0131】
(1)ポリオールプレミックス
・ポリオール
p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-087、水酸基価=200mgKOH/g)
【0132】
・亜鉛化合物
ホウ酸亜鉛(早川商事株式会社製、製品名:Firebrake ZB)
酢酸亜鉛(和光純薬社製)
ステアリン酸亜鉛(和光純薬社製)
【0133】
・3級アミン
アルキル化ポリアルキレンポリアミン(東ソー社製、製品名:TOYOCAT(登録商標)-TT:N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン)
イミダゾール化合物(サンアプロ株式会社製、製品名:U-CAT 202)
イミダゾール化合物とエチレングリコールの混合物(東ソー社製、製品名:TOYOCAT(登録商標)-DM70)
【0134】
・触媒
3量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT(登録商標)-TRX)
3量化触媒(サンアプロ株式会社製、製品名:U-CAT 18X)
【0135】
(2)ポリイソシアネート
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)(万華化学ジャパン株式会社製、製品名:PM200)
【0136】
下記の表1及び2の配合に従い、(1)ポリオールプレミックスの成分を1000mLポリプロピレンビーカーにはかりとり、25℃、1分間手混ぜで撹拝した。
【0137】
撹拝後の(1)ポリオールプレミックスの成分の混練物に対して、(2)ポリイソシアネートを加え、ハンドミキサーで約10秒間擾拝しポリウレタン樹脂組成物を作製した。得られたポリウレタン樹脂組成物は時間の経過と共に流動性を失い、硬化したポリウレタン樹脂を得た。
【0138】
前記ポリウレタン樹脂を下記の基準により評価した。
【0139】
2.IR測定
IR測定計(Varian社製、FT-IR Microscope 600 UMA)を用いて、全反射(ATR)法により測定を行い、イソシアヌレート生成を評価した。
【0140】
ポリウレタン樹脂の表層から5mm~10mmの位置をIRで測定した。1900~2000cm-1の範囲の平均値をゼロ値に合わせた時の、1390~1430cm-1の範囲の最大値が1500~1520cm-1の範囲の最大値に対して0.5倍以上のものを○、0.5倍未満のものを×とした。結果を表1及び2に示す。
【0141】
3.イソシアネートインデックス
上記本明細書中に記載した方法と同様の方法で、硬化したポリウレタン樹脂のイソシアネートインデックスを算出した。結果を表1及び2に示す。
【0142】
【表1】


【0143】
【表2】



【0144】
[試験例2]
試験例1と同様にして、表3の配合に従って実施例14及び15に係るポリウレタン組成物を作製し、ポリウレタン樹脂(発砲体)を得た。
【0145】
なお、表3中記載の発泡剤、難燃剤、整泡剤としては、以下に記載の成分をそれぞれ用いた。
【0146】
・発泡剤

HFC HFC-365mfc(1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、セントラル硝子社製)及びHFC-245fa(1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、日本ソルベイ社製)、混合比率HFC-365mfc:HFC-245fa=7:3、以下「HFC」という)
【0147】
・難燃剤
トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(大八化学社製、製品名:TMCPP、「TMCPP」という。)
赤リン (燐化学工業社製、製品名:ノーバエクセル140)
【0148】
・無機充填材
ウォラストナイト(SiO2・CaO)(キンセイマテック社製、製品名:SH-1250)
【0149】
・整泡剤
ポリアルキレングリコール系整泡剤(東レダウコーニング社製、製品名:SH-193)
【0150】
前記樹脂を試験例1の基準によりIR測定によりイソシアヌレート生成を評価した。また、試験例1の基準によりイソシアネートインデックスを算出した。結果を表3に示す。
【0151】
【表3】



(4)甲4、甲6、参考文献に記載された事項
ア 甲4に記載された事項
甲4には以下の事項が記載されている。
「【0010】
従来、硬質ポリウレタンフォーム製造用の触媒としては、樹脂化反応及び/又は泡化反応を特に促進する化合物が用いられ、このような触媒としてはこれまで有機金属化合物や3級アミン化合物が用いられていた。例えば、工業的に用いられるポリウレタンフォーム製造用の触媒用の3級アミン化合物としては、トリエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン等の化合物が知られている。
【0011】
また、イソシアヌレート変性硬質ポリウレタンフォーム製造用の触媒としては、イソシアヌレート化反応を特に促進する触媒として、例えば、カルボン酸のアルカリ金属塩類、金属アルコラート、金属フェノラート、金属水酸化物等の有機金属系触媒、第3級アミン類、第3級フォスフィン類、燐のオニウム塩化合物、第4級アンモニウム塩類等が知られている。これらのうち、酢酸カリ、2-エチルヘキサン酸カリ等のアルカリ金属塩、ヒドロキシアルキルトリメチル第4級アンモニウム2-エチルヘキサン酸塩等の第4級アンモニウム塩系触媒、1,3,5-トリス(N,N-ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン等のs-トリアジン化合物、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の特定の第3級アミン類が、イソシアヌレート化活性が高いことから、特に広く使用されている。更に、第4級アンモニウム塩としては、テトラアルキルアンモニウム有機酸塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が知られている(テトラアルキルアンモニウム有機酸塩について、例えば、特許文献1参照)。」
「【0057】
また、有機金属系触媒としては、特に限定するものではないが、例えば、酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム等のカルボン酸のアルカリ金属塩類、スタナスジアセテート、スタナスジオクトエート、スタナスジオレエート、スタナスジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライド、ジオクチル錫ジラウレート、オクタン酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト、又カルボン酸のリチウム、ナトリウム、カリウム塩等である酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム等のカルボン酸のアルカリ金属塩類が例示できる。」

イ 甲6に記載された事項
甲6には以下の事項が記載されている。
「【0046】
アミン系触媒(a)としては、トリエチレンジアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン等が挙げられる。アミン系触媒のうち、特に、ビスジメチルアミノエチルエーテルやペンタメチルジエチレントリアミンのような、主として、泡化触媒、すなわち、イソシアネートと水の反応(尿素化・CO2発生)を促進する触媒として作用するものが好ましい。
【0047】
イミダゾール系触媒(b)としては、1-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール等が挙げられ、市販品ではこれらが複合されているものや、エチレングリコール等の溶液となっているものがあり、何れも単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。これらのイミダゾール系触媒(b)は樹脂化触媒として主に硬質ポリウレタンフォームの接着性の向上に寄与する。」

ウ 参考文献に記載された事項
参考文献(プラスチック事典、株式会社朝倉書店、1997年9月20日発行)の156頁の表2.15.5には以下の事項が記載されている。




(5)本件特許発明が解決しようとする課題
本件明細書には、背景技術として、「ウレタン樹脂は難燃性が低いため、これを改善する方法として樹脂中のイソシアヌレートの比率を高めることが有効であることが知られて」いるが、「イソシアヌレート生成には一定温度が必要であり、狙い通りのイソシアヌレート生成率にならないことが課題となって」おり、「イソシアヌレート生成率が低いと耐火性が低下する」という問題があったことが記載されている(【0002】、【0004】)。そして、本件特許発明の課題は、本件明細書の段落【0005】等から、「優れたイソシアヌレート生成能力を有するポリウレタン組成物およびポリウレタン樹脂を提供すること」であると認められる。

(6)本件特許発明1についての検討
ア ポリウレタン組成物に用いられる触媒に関して、3級アミンは一般にウレタン化触媒や泡化触媒であり(参考文献「プラスチック事典」516頁の表2.15.5、甲6【0046】~【0047】、甲4の【0010】)、3級アミンのうち特定のもの(2,4,6,-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等)は三量化触媒(イソシアヌレート化触媒)であること(甲4の【0011】)、4級アンモニウム塩やカルボン酸アルカリ金属塩は一般に三量化触媒であること、ジブチル錫ラウレートやオクチル酸錫等の有機錫化合物はウレタン化触媒(参考文献「プラスチック事典」516頁の表2.15.5)と三量化触媒(甲4の【0057】)であることは、本件特許の出願時点の技術常識である。一方、ビスマス化合物が三量化触媒であることが本件特許の出願時点の技術常識であることを示す証拠は見当たらない。
このことから、3級アミンやスズ化合物であれば一様に三量化触媒として機能するとはいえないし、スズ又はビスマスの金属化合物と3級アミン化合物を組み合わせて用いることにより、高活性にイソシアヌレートを生成できることを認識できるとは解せない。

イ 本件明細書には、実施例1~15として、亜鉛化合物であるホウ酸亜鉛、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛から選ばれる1種と、3級アミンであるアルキル化ポリアルキレンポリアミン、イミダゾール化合物、イミダゾール化合物とエチレングリコールの混合物から選ばれる1種以上を組み合わせて用いた具体例は、ヌレート生成が「○」であったことを確認したことが記載されている(【表1】~【表3】)。しかしながら、本件明細書には、スズ又はビスマスを含む金属化合物に関して、何ら具体的に記載されていない。

ウ また、本件明細書には、亜鉛(Zn、原子番号30、12族、遷移金属)、スズ(Sn、原子番号50、14族、典型金属)、ビスマス(Bi、原子番号83、15族)の金属元素に関して、亜鉛と、スズ及びビスマスとが、ポリウレタン組成物の触媒として機能する共通した化学的性質があることが示唆されていないし、また、これらが触媒として類似する特性があるという技術常識もない。

エ そうすると、本件明細書には、亜鉛を含む金属化合物を用いる場合に、本件発明の上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているとしても、スズ又はビスマスを含む金属化合物を用いる場合に、本件特許の出願当時の技術常識を参酌しても、上記課題を解決できることを当業者が合理的に期待できる程度に記載されておらず、本件発明1が上記課題を解決できることを当業者が認識できると解することはできない。

オ 特許権者は、令和4年11月2日提出の意見書において、ビスマス化合物を用いた実験例1及びスズ化合物を用いた実験例2を示して、サポート要件違反の取消理由は解消した旨を主張する(意見書の「(5)理由2(サポート要件)について」)。
しかしながら、上記実験例は、本件出願日(原出願の出願日である平成29年5月26日)から4年以上を経過した後に提出されたものであり、これを基に、スズ、ビスマスを含む金属化合物と3級アミン化合物とを組み合わせることで高活性にイソシアヌレートを生成できることが、本件出願当時の技術常識であったものとは到底認められず、他に、そのような技術常識を認めるに足りる証拠はない。

カ また、知財高裁判決平成19(行ケ)10307は、「発明の詳細な説明の記載が,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものでなく,かつ,特許出願時の技術常識に照らしても,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものでない場合に,特許出願後に実験データ等を提出し,発明の詳細な説明の記載内容を記載外において補足することによって,その内容を補充ないし拡張し,これにより,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するようにすることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度に趣旨に反し許されないと解すべきである。」と判示する。
このことからも、特許権者が提出した上記実験例を、サポート要件を充足することの根拠とすることは適当でない。

キ 以上のとおりであるから、発明の詳細な説明は、本件発明1について、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていると解することはできず、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。

(7)本件特許発明2、6ないし12についての検討
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2、6ないし12も、上記と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

(8)特許権者の主張に対する反論
特許権者は、令和5年3月29日提出の意見書(第5頁のエ)において、下記内容を主張している。
「・・・上記ただし書きにおいて参照として記載の大合議判決は、いわゆる特殊パラメーターに関し、数式で示された範囲内におけるサポート要件を対象としたものであり、さらに、特許権者が提出した追加の実験成績証明書は、上記範囲内の全てのものが効果を奏する旨示したものではない。
これに対し、本件特許は、特殊パラメーターにかかるものではなく、今回の訂正請求により金属化合物の金属は3種類に特定され、当該3種類の金属化合物が本件発明の課題を解決できることは本件特許明細書に当初から記載されていた。そして、特許権者は、本件特許明細書の実施例、及び先の意見書において示した実験例により、上記3種類の金属化合物が、本件発明の課題を解決できることを明確に示したのである。
してみれば、本件特許請求の範囲に記載の3種類の金属化合物は、明確にサポート要件を満たすものであるといえる。」
これについて、以下検討する。
審査基準第II部第2章第2節3.2.1の類型(3)には、サポート要件違反の類型について、「出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができるといえない場合には、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことによって、請求項に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できると主張したとしても、拒絶理由は解消されない。(参考:知財高判平成 17 年 11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決)」と示されている。大合議判決が特殊パラメーターに関するものであるのに対し、本件特許は特殊パラメーターに係るものではない旨の主張を行っているが、当該判決は、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補おうとしても、サポート要件を満たすものではないと判断する場合の参考として示されたものに過ぎず、そのような「参考」とされた判決における特殊パラメーターの場合のみに限定すべきことが意図された判決ではないと解される。
また、本件特許権者は、追加の実験成績証明書において、スズ及びビスマスの化合物についての実験例を示すことにより、遷移金属ではないスズやビスマスの化合物が、遷移金属である亜鉛化合物と同様に、本件特許発明の課題を解決することができることは明らかであるから、サポート要件を満たしていると主張するが、遷移金属である亜鉛の化合物によって奏される作用ないし効果が、遷移金属ではないスズやビスマスの化合物を用いた場合においても、同様の作用ないし効果が予測され得るとする具体的な技術的根拠も、本件特許権者は示しておらず、後付けの実験成績証明書の提出のみをもって、サポート要件違反には該当しないと主張するに過ぎない。
よって、特許権者の上記主張は採用することができない。
したがって、本件特許発明1、2、6ないし12は、依然として、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

(9)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1、2、6ないし12は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。したがって、本件特許の請求項1、2、6ないし12に係る特許は、その特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 取消理由1(明確性)について
本件訂正により、訂正前の請求項1を引用する請求項4の「遷移金属化合物」が「金属化合物」と訂正され、訂正前の「遷移金属」とその具体的元素との不整合が解消され、明確性要件に係る取消理由は解消した。よって、本件発明4及び5に係る特許を取り消すべき理由はない。

3 取消理由において採用しなかった申立理由について
申立人A及び申立人Bが申し立てた申立理由のうち、本件発明4及び5を対象とする、申立人Aが申し立てた申立理由2-3、2-5(進歩性)について、以下に検討する。

(1)申立理由2-3(甲3Aに基づく進歩性欠如)
ア 甲3Aに記載された事項及び甲3Aに記載された発明
(ア)甲3Aに記載された事項
甲3Aには、「ポリオール組成物」に関し、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
少なくとも1種のハロゲン化発泡剤と、少なくとも1種のポリオールと、水と、少なくとも10%のテトラアルキルグアニジンと約10wt%~約90wt%のイソシアネート反応基を有する1種または2種以上の第3級アミン触媒とを含む触媒組成物とを含む、ポリオールプレミックス組成物。」
「【請求項6】
該触媒組成物が、約10wt%~約80wt%のイソシアネート反応基を有さない第3級アミン触媒をさらに含む、請求項1に記載のポリオールプレミックス組成物。
【請求項7】
該イソシアネート反応基を有さない第3級アミン触媒が、1、2-ジメチルイミダゾールである、請求項6に記載のポリオールプレミックス組成物。」
「【請求項10】
少なくとも1種の金属触媒をさらに含む、請求項1に記載のポリオールプレミックス組成物。
【請求項11】
該金属触媒が、少なくとも1種の有機スズ化合物を含む、請求項10に記載のポリオールプレミックス組成物。
【請求項12】
該金属触媒が、カリウム、ビスマスまたはナトリウムの1種または2種以上のカルボキシレート錯体を含む、請求項10に記載のポリオールプレミックス組成物。
【請求項13】
第4級アンモニウム塩をさらに含む、請求項1に記載のポリオールプレミックス組成物。」
「【0003】 ポリウレタン発泡体組成物は、典型的には、イソシアネートと、ポリオールなどのイソシアネート反応性成分からなるプレミックスとの反応により調製される。プレミックスは、任意選択的に、水、難燃剤、発泡剤、発泡体安定化界面活性剤、ならびにイソシアネートをポリオールと反応させてウレタンを製造し、水と反応させてCO2と尿素とを生成し、および過剰のイソシアネートと反応させてイソシアヌレート(三量体)を製造することを促進する触媒などの他の成分を含む。・・・」
「【0050】 1つの態様において、製造される組成物はポリウレタン組成物である。この態様において、この方法は、テトラアルキルグアニジンおよびイソシアネート反応性基を有する第3級アミンを有するプレミックスと、イソシアネートとを反応させて、ポリウレタン組成物を生成することを含む。ポリウレタン組成物の生成は、イソシアネート成分とプレミックスとを混合することを含む。混合は、所定の時間(例えば、約6秒間)、所定のブレード回転速度(例えば、約6,000回転/分)、または、これらの組み合わせで行う。または、ポリウレタン組成物の生成は、商業的に入手可能なスプレー機の混合ヘッドで高圧においてすべての成分を接触させることにあるスプレー発泡体装置を用いてイソシアネート成分とプレミックスとを混合することを含む。」
「【0069】
別の態様では、触媒組成物は、少なくとも10%のテトラアルキルグアニジン、少なくとも10%のイソシアネート反応基を有する第3級アミン触媒、および少なくとも10%のグアニジンまたはイソシアネート反応基のいずれかを有さない第3級アミン触媒(例えば、0.1pphp)の混合物を含む。好適なイソシアネート反応基を有さない第3級アミン触媒は、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(3-ジメチルアミノプロピル)-N、N-ジメチルプロパンジアミン、N-ヘキサデシル-N、N-ジメチルアミン、1、2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、およびそれらの混合物からなる群から選択された少なくとも1種の要素を含む。」
「【0071】
1つの態様において、第3級アミン触媒成分は、遷移金属触媒との組み合わせで使用される。例えば、1つの態様において、第3級アミン触媒成分は、有機スズ化合物、スズ(II)カルボキシレート塩、ビスマス(III)カルボキシレート塩、またはこれらの組み合わせとともに使用される。有機スズ化合物またはビスマスカルボキシレートなどの金属触媒の例は、ジブチルスズジラウレート、ジメチルスズジラウレート、ジメチルスズジアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジメチルスズジラウリルメルカプチド、ジブチルスズジラウリルメルカプチド、ジメチルスズジイソオクチルマレエート、ジブチルスズジイソオクチルマレエート、ジメチルスズビス(2-エチルヘキシルメルカプトアセテート)(dibutyltin bi(2-thylhexyl mercaptacetate))、ジブチルスズビス(2-エチルヘキシルメルカプトアセテート)(dibutyltin bi(2-thylhexyl mercaptacetate))、オクタン酸第一スズ、他の好適な有機スズ触媒、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される1種または2種以上の成分を含むことができる。ビスマス(Bi)などの他の金属も、また、含めることができる。好適なビスマスカルボキシレート塩としては、ペンタン酸、ネオペンタン酸、ヘキサン酸、2-エチルヘキシルカルボン酸、ネオヘキサン酸、オクタン酸、ネオオクタン酸、ヘプタン酸、ネオヘプタン酸、ノナン酸、ネオノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ネオウンデカン酸、ドデカン酸、ネオドデカン酸、および他の好適なカルボン酸の塩を挙げることができる。鉛(Pb)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)の遷移金属と、ペンタン酸、ネオペンタン酸、ヘキサン酸、2-エチルヘキシルカルボン酸、オクタン酸、ネオオクタン酸、ネオヘプタン酸、ネオデカン酸、ネオウンデカン酸、ネオドデカン酸、および他の好適なカルボン酸と他の塩も含まれてよい。
【0072】
一態様では、第3級アミン触媒成分は、トリマー触媒とともに使用される。例えば、一態様では、第3級アミン触媒成分は、カルボン酸カリウム塩、カルボン酸アンモニウム塩、またはこれらの組み合わせとともに使用される。トリマー触媒の例は、オクタン酸カリウム、テトラアルキルアンモニウムカルボキシレート、およびカリウムまたはナトリウムのピバレート、アセテート、またはオクタエート塩を含む。」
「【0084】
[例8(比較例):調合物B中、発泡剤トランス-1-クロロ-3、3、3-トリフルオロプロペンとしてのHFOの存在下で、従来のアミン触媒を含む調合物の評価]
表2に示された調合物Bは、アミン触媒成分および金属触媒成分の両方を含む硬質スプレー発泡体調合物の代表である。

表2--スプレー硬質発泡体調合物B
【表9】




「【0090】
[例9(本発明):調合物B中、発泡剤トランス-1-クロロ-3、3、3-トリフルオロプロペンとしてのHFOの存在下で、テトラメチルグアニジンおよびイソシアネート反応基を有するアミン触媒を含む調合物の評価]
この発明例において、アミン触媒は、ジメチルアミノエトキシエタノール(イソシアネート反応基を有する第3級アミン触媒)、テトラメチルグアニジン(テトラアルキルグアニジン)、および第3級アミン触媒1、2-ジメチルイミダゾールの混合物である。触媒組成物は、希釈剤ジエチレングリコールをさらに含む。この例においてまた使用される金属共触媒は、カリウムのピバレート塩とビスマスネオデカノエートとの組み合わせである。
【0091】
50℃で2週間貯蔵後に発泡体が最大高さの80%に到達するのにかかるΔT、または時間での変化を、下記表中に示す。この触媒の組み合わせは、5秒未満のΔTを有する良好な反応安定性を示した。
【表12】



(イ)甲3Aに記載された発明
甲3Aに記載された事項について、特に甲3Aの例9の記載(【表9】、【0090】)を中心に整理すると、甲3Aには、以下の発明が記載されているといえる。
「平均当量が184であり、平均官能価が2.2であり、OH価が305である、標準的な市販のポリエステルポリオール、NMが約400であり、OH価が470であり、平均官能価が3.3である、標準的な市販のノニルフェノール開始マンニッヒポリオール、難燃剤(2-クロロプロピルホスホエステル)、Dabco(商標)PM300、Dabco(商標)DC193、ジメチルアミノエトキシエタノール(イソシアネート反応基を有する第3級アミン触媒)、テトラメチルグアニジン(テトラアルキルグアニジン)、および第3級アミン触媒1、2-ジメチルイミダゾール、希釈剤ジエチレングリコールの混合物であるアミン触媒、カリウムのピバレート塩とビスマスネオデカノエートとの組み合わせである金属共触媒、水、発泡剤からなる調合物B」(以下、「甲3A発明」という。)

イ 甲5Aに記載された事項
甲5Aには、後記(5)申立理由2-5に記載した通りの事項が記載されている。

ウ 対比・判断
本件特許発明4と甲3A発明を対比する。
甲3A発明における「平均当量が184であり、平均官能価が2.2であり、OH価が305である、標準的な市販のポリエステルポリオール、NMが約400であり、OH価が470であり、平均官能価が3.3である、標準的な市販のノニルフェノール開始マンニッヒポリオール」は、本件特許発明4における「ポリオール」に相当する。
また、甲3A発明における「ビスマスネオデカノエート」は、本件特許発明4における「金属化合物」に相当する。
そして、甲3A発明における「ジメチルアミノエトキシエタノール(イソシアネート反応基を有する第3級アミン触媒)」、「第3級アミン触媒1、2-ジメチルイミダゾール」は、本件特許発明4における「3級アミン」に相当する。
加えて、甲3A発明における「調合物B」は、甲3Aの【0050】の「1つの態様において、製造される組成物はポリウレタン組成物である。この態様において、・・・イソシアネート反応性基を有する第3級アミンを有するプレミックスと、イソシアネートとを反応させて、ポリウレタン組成物を生成することを含む。ポリウレタン組成物の生成は、イソシアネート成分とプレミックスとを混合することを含む。・・・または、ポリウレタン組成物の生成は、商業的に入手可能なスプレー機の混合ヘッドで高圧においてすべての成分を接触させることにあるスプレー発泡体装置を用いてイソシアネート成分とプレミックスとを混合することを含む。」という記載より、ポリイソシアネート成分との反応によりポリウレタン発泡体を形成する「ポリオールプレミックス組成物」に相当するといえる。

そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、少なくとも以下の<相違点1>、<相違点2>で相違する。
<一致点>
ポリイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン樹脂を得るためのポリオール組成物であって、ポリオール、金属化合物、3級アミンを含有することを特徴とするポリオール組成物。

<相違点1>
金属化合物が、本件特許発明4は、「亜鉛を含有する」のに対し、甲3A発明は、「ビスマスネオデカノエート」である点

<相違点2>
3級アミンが、本件特許発明4は、「1,2-ジメチルイミダゾール及び/又は1-イソブチル-2メチル-イミダゾール」であるのに対して、甲3A発明は、「ジメチルアミノエトキシエタノール」と「1、2-ジメチルイミダゾール」である点

<相違点3>
本件特許発明4は、4級アンモニウム塩を含有しているのに対し、甲3A発明は含有していない点

そこで、上記<相違点1>について検討する。
甲3Aには、金属化合物として、亜鉛を含むことは記載も示唆もされていない。また、甲5Aの実施例5及び【0128】には、ポリオール組成物において、「(IV-5) ホウ酸亜鉛(早川商事社製、製品名:Firebrake ZB)」が難燃剤として含まれていることが記載されているものの、甲3A発明において、金属触媒であるビスマスネオデカノエートを難燃剤であるホウ酸亜鉛に置換する動機付けがなく、当業者であっても容易に想到し得るとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲3Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件特許発明4を直接又は間接的に引用する本件特許発明5についても同様である。

エ 申立理由2-3についてのむすび
したがって、本件特許発明4、5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許発明4、5は、申立理由2-3によっては取り消すことはできない。

(2)申立理由2-5(甲5Aに基づく進歩性欠如)
ア 甲5Aに記載された事項及び甲5Aに記載された発明
(ア)甲5Aに記載された事項
甲5Aには、「ポリオール組成物」に関し、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
(A)ポリイソシアネートを含む第1液、
(B)ポリオールを含む第2液、
(C)三量化触媒、
(D)発泡剤、
(E)整泡剤、および
(F)赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、および金属水酸化物から選ばれる少なくとも1つとを含む添加剤
を有する難燃性ポリウレタン発泡体を現場で形成するための現場発泡システム。
【請求項2】
第1液中の(A)ポリイソシアネートと第2液中の(B)ポリオールとからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
(C)の三量化触媒が0.1~10重量部の範囲であり、
(D)の発泡剤が0.1~30重量部の範囲であり、
(E)の整泡剤が0.1重量部~10重量部の範囲であり、
(F)の添加剤が4.5重量部~70重量部の範囲であり、
前記赤リンが3重量部~18重量部の範囲であり、
前記赤リンを除く添加剤が1.5重量部~52重量部の範囲である、
請求項1に記載の現場発泡システム。
【請求項3】
ウレタン樹脂組成物100重量部に対して0.1重量部~10重量部の範囲の整泡剤をさらに含む請求項2に記載の現場発泡システム。
【請求項4】
(A)ポリイソシアネートを含む第1液が第1容器に収容され、(C)三量化触媒、(D)発泡剤、(E)の整泡剤、および(F)の添加剤が、(B)ポリオールを含む第2液に含まれて第2容器に収容されている請求項1に記載の現場発泡システム。
【請求項5】
(A)ポリイソシアネートを含む第1液、
(B)ポリオールを含む第2液、
(C)三量化触媒、
(D)発泡剤、
(E)整泡剤、および
(F)赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む添加剤
を含む難燃性ポリウレタン樹脂組成物から成形された、難燃性ポリウレタン発泡体。
【請求項6】
(A)ポリイソシアネートを含む第1液と(B)ポリオールを含む第2液とからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
(C)の三量化触媒が0.1~10重量部の範囲であり、
(D)の発泡剤が0.1~30重量部の範囲であり、
(E)の整泡剤が0.1重量部~10重量部の範囲であり、
(F)の添加剤が4.5重量部~70重量部の範囲であり、
前記赤リンが3重量部~18重量部の範囲であり、
前記赤リンを除く添加剤が1.5重量部~52重量部の範囲である、請求項5に記載の難燃性ポリウレタン発泡体。
【請求項7】
項7.請求項5または6に記載の難燃性ポリウレタン発泡体の乗物または建物の断熱材としての使用。」
「【0046】
本発明に使用するウレタン樹脂のイソシアネートインデックスの範囲は、120~700の範囲であることが好ましく、200~600の範囲であればより好ましく、300~500の範囲であればさらに好ましい。前記当量比が700以下では発泡不良が起こるのを防ぐことができ、120以上では良好な耐熱性を有することができる。
(C)三量化触媒 三量化触媒は、ポリウレタン樹脂の主剤であるポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基を反応させて三量化させ、イソシアヌレート環の生成を促進する。」
「【0088】
ホウ素含有難燃剤は、一種もしくは二種以上を使用することができる
本発明に使用するホウ素含有難燃剤の添加量は、ウレタン樹脂100重量部に対して、1.5重量部~52重量部の範囲であることが好ましく、1.5重量部~20重量部の範囲であることがより好ましく、2.0重量部~15重量部の範囲であることが更に好ましく、2.0重量部~10重量部の範囲であることが最も好ましい。」
「【0109】
好ましい実施形態において、現場発泡システムは、第1液中の(A)ポリイソシアネートと第2液中の(B)ポリオールとからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、(C)の三量化触媒が0.1~10重量部の範囲であり、(D)の発泡剤が0.1~30重量部の範囲であり、(E)の整泡剤が0.1重量部~10重量部の範囲であり、(F)の添加剤が4.5重量部~70重量部の範囲であり、前記赤リンが3重量部~18重量部の範囲であり、前記赤リンを除く添加剤が1.5重量部~52重量部の範囲である。
(G)その他の成分 現場発泡システムは、上記の三量化触媒以外の触媒をさらに含んでもよく、そのような触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N-メチルモルホリンビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,N”, N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、N, N, N’-トリメチルアミノエチル-エタノールアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N-メチル, N’-ジメチルアミノエチルピペラジン、イミダゾール環中の第2級アミン官能基をシアノエチル基で置換したイミダゾール化合物等の窒素原子含有触媒等が挙げられる。
【0110】
かかる触媒の添加量は、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒の合計量で、ウレタン樹脂100重量部に対して、0.1重量部~10重量部の範囲であることが好ましく、0.1重量部~8部の範囲であることがより好ましく、0.1重量部~6重量部の範囲であることが更に好ましく、0.1重量部~3.0重量部の範囲であることが最も好ましい。」
「【実施例】
【0127】
実施例1 難燃性ポリウレタン発泡体の評価試験
表1及び表2に示した配合により、実施例1~26及び比較例1~12に係る難燃性ポリウレタン樹脂組成物を、(1)ポリイソシアネートと(2)ポリオール組成物との2つの成分に分割して準備した。なお表中の各成分の詳細は次の通りである。
【0128】
比較例12(SIROFLEX社製、製品名:SX FLAMEGUARD(登録商標) B1 FIRE RETARDANT FOAM 組成:ポリウレタン樹脂)及び比較例13(ABC商会社製、製品名:インサルパック GS難燃B1フォーム 組成:ポリウレタン樹脂)は難燃性ポリウレタン発泡体形成用の市販品の難燃性ポリウレタン組成物を使用した。
(1)ポリイソシアネート
MDI(東ソー株式会社製、製品名:ミリオネートMR-200)粘度:167mPa・s
(2)ポリオール組成物
・ポリオール化合物
(I-1) p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRFK-505、水酸基価=250mgKOH/g)
(I-2) p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-087、水酸基価=200mgKOH/g)
(I-3) p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-035、水酸基価=150mgKOH/g)
(I-4) ポリエーテルポリオール(三井化学社製、製品名:アクトコールT-400、水酸基価:399mgKOH/g)
・触媒
(II-1)オクチル酸カリウム(東京化成工業社製、製品コード:P0048)
(II-2)三量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TR20)
(II-3)三量化触媒(花王社製、製品名:カオーライザーNo.14)
(II-4)三量化触媒(花王社製、製品名:カオーライザーNo.410)
・ウレタン化触媒
(II-6)ペンタメチルジエチレントリアミン(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-DT)
・整泡剤
ポリアルキレングリコール系整泡剤(東レダウコーニング社製、製品名:SH-193)
・発泡剤
(III-1)水
(III-2)HFC HFC-365mfc(1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、日本ソルベイ株式会社製)及びHFC-245fa(1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、セントラル硝子株式会社社製)、混合比率HFC-365mfc:HFC-245fa=7:3、以下「HFC」という)
(III-3)HFO(ハネウェル社製、E-1-クロロ-3,3,3,-トリフルオロペンテン、製品名:ソルスティスLBA)
・添加剤
(IV-1) 赤リン (燐化学工業社製、製品名:ノーバエクセル140)
(IV-2) トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(大八化学社製、製品名:TMCPP、以下「TMCPP」という。)
(IV-3) リン酸二水素アンモニウム(太平化学産業社製)
(IV-4) ヘキサブロモベンゼン(マナック社製、製品名:HBB-b、以下「HB B」という。)
(IV-5) ホウ酸亜鉛(早川商事社製、製品名:FirebrakeZB)
(IV-6) 三酸化アンチモン(日本精鉱社製、製品名:パトックスC)
(IV-7) 水酸化アルミニウム(アルモリックス社製、製品名:B-325)
(IV-8) 針状フィラー(キンセイマテック社製、ウォラストナイト、製品名:SH-1250、粒径:4.5~6.5μm、アスペクト比:10~20)
下記の表1~2の配合に従い、(1)ポリオール、(2)触媒、(3)整泡剤、(4)発泡剤、(5)添加剤の成分を1000mLポリプロピレンビーカーにはかりとり、スリーワンモーター(HEIDON社製、製品名:BLW1200)を用いて25℃、400rpmの条件で1分間撹拝した。
【0129】
撹拌後のポリオール組成物、およびポリイソシアネートを2液混合容器にそれぞれ量り取り、現場発泡システムとした。続いて2液混合容器の先端にスタティックミキサーを取付け、カートリッジガンを用いて1000mLポリプロピレンビーカーに混合・吐出を行い、発泡体を得た。 【0130】
前記発泡体を下記の基準により評価し、結果を表1~2に示した。 [熱量の測定] 硬化物から10cm×10cm×5cmになるようにコーンカロリーメーター試験用サンプルを切り出し、ISO-5660に準拠し、放射熱強度50kW/m2にて10分、及び20分間加熱したときの総発熱量を測定した結果を表1~2に記載した。」
「【0132】
【表1】




(イ)甲5Aに記載された発明
甲5Aに記載された事項について、特に実施例5に着目して整理すると、甲5Aには、以下の発明が記載されているといえる。
「ポリイソシアネートと反応させて発泡体を得るためのポリオール組成物であって、(I-1)p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRFK-505、水酸基価=250mgKOH/g)21.8重量部、(II-1)オクチル酸カリウム(東京化成工業社製、製品コード:P0048)0.5重量部、(II-2)三量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TR20)0.7重量部、(II-6)ペンタメチルジエチレントリアミン(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-DT)0.1重量部、(III-1)水0.6重量部、(III-2)HFC HFC-365mfc(1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、日本ソルベイ株式会社製)及びHFC-245fa(1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、セントラル硝子株式会社社製)、混合比率HFC-365mfc:HFC-245fa=7:3、以下「HFC」という)4.6重量部、(IV-1) 赤リン (燐化学工業社製、製品名:ノーバエクセル140)6.0重量部、(IV-2) トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(大八化学社製、製品名:TMCPP、以下「TMCPP」という。)7.0重量部、(IV-3) リン酸二水素アンモニウム(太平化学産業社製)3.0重量部、(IV-5) ホウ酸亜鉛(早川商事社製、製品名:FirebrakeZB)6.0重量部を1000mLポリプロピレンビーカーにはかりとり、スリーワンモーター(HEIDON社製、製品名:BLW1200)を用いて25℃、400rpmの条件で1分間撹拝したポリオール組成物」(以下、「甲5A発明」という。)

イ 対比・判断
本件特許発明4と甲5A発明を対比する。
甲5A発明における「p-フタル酸ポリエステルポリオール」は、本件特許発明4における「ポリオール」に相当する。
また、甲5A発明の「(II-2)三量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TR20)」は、TOYOCAT-TR20が4級アンモニウム塩であることから(https://www.tosoh.co.jp/product/assets/tertiary_amine_catalytic_teda_50.pdf 参照)、本件特許発明4における「4級アンモニウム塩」に相当する。さらに、甲5A発明の「(IV-5) ホウ酸亜鉛(早川商事社製、製品名:Firebrake ZB)」は本件特許発明4における「金属化合物」に相当する。そして、甲5A発明の「(II-6)ペンタメチルジエチレントリアミン(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-DT)」は、本件特許発明4における「3級アミン」に相当する。

そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、少なくとも以下の<相違点4>で相違する。
<一致点>
ポリイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン樹脂を得るためのポリオール組成物であって、ポリオール、亜鉛を含有する金属化合物、3級アミン及び4級アンモニウム塩を含有することを特徴とするポリオール組成物。

<相違点4>
3級アミンが、本件特許発明4は、「1,2-ジメチルイミダゾール及び/又は1-イソブチル-2メチル-イミダゾール」であるのに対し、甲5A発明は「(II-6)ペンタメチルジエチレントリアミン(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-DT)」である点

そこで、上記<相違点4>について検討する。
甲5Aには、3級アミンとして、「1,2-ジメチルイミダゾール及び/又は1-イソブチ-2メチル-イミダゾール」を用いることは記載されていないから、甲5A発明において、第3級アミン触媒として、ペンタメチルジエチレントリアミンに代えて、上記窒素原子含有触媒の中から、甲5Aに具体的に記載されていない1、2-ジメチルイミダゾールや1-イソブチル-2メチル-イミダゾールを選択する動機付けがあるとはいえない。
また、甲1の【0078】、甲2の【0031】、甲3の【0069】、甲4の【0104】には、3級アミン触媒として、1、2-ジメチルイミダゾールや1-イソブチル-2メチル-イミダゾールを用いることは記載されているものの、甲5A発明において、「ペンタメチルジエチレントリアミン」に代えて、1、2-ジメチルイミダゾールや1-イソブチル-2メチル-イミダゾールとする動機付けの記載はなく、当業者であっても容易に想到し得るとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲5Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件特許発明4を直接又は間接的に引用する本件特許発明5についても同様である。

ウ 申立理由2-5についてのむすび
したがって、本件特許発明4、5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許発明4、5は、申立理由2-5によっては取り消すことはできない。

第6 むすび
上記第5 1のとおり、本件特許の請求項1、2、6~12に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、異議申立人による請求項3に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
また、本件特許の請求項4、5に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン樹脂を得るためのポリオール組成物であって、ポリオール、金属化合物、3級アミン及び4級アンモニウム塩を含有し、前記3級アミンが1,2-ジメチルイミダゾール及び/又は1-イソブチル-2メチル-イミダゾールであり、
前記金属化合物が、亜鉛、スズ、ビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことを特徴とするポリオール組成物。
【請求項2】
前記4級アンモニウム塩がテトラメチルアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載のポリオール組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
金属化合物が、亜鉛を含有することを特徴とする請求項1記載のポリオール組成物。
【請求項5】
3級アミンに対する亜鉛化合物の重量比が0.5~3.0であることを特徴とする請求項4記載のポリオール組成物。
【請求項6】
難燃剤をさらに含有することを特徴とする請求項1、2、4、5のいずれかに記載のポリオール組成物。
【請求項7】
難燃剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤及び金属水酸化物から選ばれる少なくとも1つとの組合せてであり、赤リンの含有量が、ポリオール100質量部に対して5.5質量部~193質量部であり、難燃剤の合計含有量が、ポリオール100質量部に対して16質量部~260質量部である、請求項6に記載のポリオール組成物。
【請求項8】
請求項1、2、4~7のいずれかに記載のポリオール組成物と、ポリイソシアネート化合物とを分離して含む、ポリウレタンプレミックス組成物。
【請求項9】
請求項1、2、4~7のいずれかに記載のポリオール組成物とポリイソシアネート化合物との混合物であることを特徴とするポリウレタン組成物。
【請求項10】
イソシアネートインデックスが300以上であることを特徴とする請求項9記載のポリウレタン組成物。
【請求項11】
請求項9又は10記載のポリウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂。
【請求項12】
成形体であることを特徴とする請求項11記載のポリウレタン樹脂。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-11-30 
出願番号 P2020-071430
審決分類 P 1 651・ 537- ZDA (C08G)
P 1 651・ 121- ZDA (C08G)
P 1 651・ 113- ZDA (C08G)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 近野 光知
瀧澤 佳世
登録日 2021-10-18 
登録番号 6963056
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 ポリウレタン組成物  
代理人 田口 昌浩  
代理人 田口 昌浩  

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