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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23F |
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管理番号 | 1410268 |
総通号数 | 29 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-05-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-02-22 |
確定日 | 2024-04-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7334506号発明「インスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7334506号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7334506号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、令和1年7月3日に出願されたものであって、令和5年8月21日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年2月22日に特許異議申立人 金澤 毅(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、同年3月21日に特許異議申立人から手続補正書が提出されたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 液体と混合して乳風味コーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法であって、 原料として、可溶性コーヒー固形分と、クリーミングパウダー及び乳原料からなる群より選択される一種以上と、4-エチルグアヤコールと、2,3,5-トリメチルピラジンと、を用い、 (a)前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られた乳風味コーヒー飲料における4-エチルグアヤコールの飲用時濃度が0.05~1.50ppmとなる量の4-エチルグアヤコールと、 (b)前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られた乳風味コーヒー飲料における2,3,5-トリメチルピラジンの飲用時濃度が0.05~2.50ppmとなる量の2,3,5-トリメチルピラジンと、 を含有するインスタントコーヒー飲料用組成物を製造することを特徴とする、インスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法。 【請求項2】 原料として、さらに、甘味料を用いる、請求項1に記載のインスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法。 【請求項3】 乳風味コーヒー飲料において、 原料として、4-エチルグアヤコール及び2,3,5-トリメチルピラジンを用い、 4-エチルグアヤコールの飲用時濃度を0.05~1.50ppmに調整し、2,3,5-トリメチルピラジンの飲用時濃度を0.05~2.50ppmに調整することを特徴とする、乳風味コーヒー飲料の風味改善方法。 【請求項4】 前記乳風味コーヒー飲料が、インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られる、請求項3に記載の乳風味コーヒー飲料の風味改善方法。 【請求項5】 前記乳風味コーヒー飲料が、クリーミングパウダー及び乳原料からなる群より選択される一種以上を含有する、請求項3又は4に記載の乳風味コーヒー飲料の風味改善方法。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等 令和6年2月22日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第7号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 証拠方法 甲第1号証:特開2015-119737号公報 甲第2号証:特開2018-16743号公報 甲第3号証:Journa1 of Chromatography A、1371、65-73頁、平成26年、Elsevir 甲第4号証:香料、No.155、75-92頁、昭和62年9月、日本香料協会 甲第5号証:Journal of Agricultural and Food Chemistry、Vol.61、6274-6281頁、平成25年、American Chemical Society 甲第6号証:増補新版「合成香料」 化学と商品知識 合成香料編集委員会編集、148-149頁及び743頁、平成28年12月20日、化学工業日報社 甲第7号証:特開昭61-212239号公報 証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断 1 主な証拠に記載された事項等 (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「インスタントコーヒー飲料用組成物及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。下線は予め付されたものと当審で付したものである。他の証拠についても同様。 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は、香ばしく、かつくせのない、風味の改善されたコーヒー飲料を、水等の液体に溶解させるだけで簡便に調製し得るインスタントコーヒー飲料用組成物、及び当該インスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、コーヒー飲料中のフルフリルチオール又はシクロテンの含有量が、消費者の嗜好と強い相関があることを見出し、本発明を完成させた。 【0011】 [1]本発明の第一の態様に係るインスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法は、液体と混合して香りが強化されたコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法であって、原料として、可溶性コーヒー固形分と、(a)前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られたコーヒー飲料におけるフルフリルチオール濃度が10~1000ppb増加する量のフルフリルチオール、及び(b)前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られたコーヒー飲料におけるシクロテン濃度が1000ppb~300ppm増加する量のシクロテンからなる群より選択される一種以上と、を用いることを特徴とする。」 ・「【0017】 <IC飲料用組成物の製造方法> 本発明は、こうして得られた知見に基づいてなされたものである。 すなわち、本発明の第一の態様に係るインスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法(以下、単に「本発明に係るIC飲料用組成物の製造方法」ということがある。)は、可溶性コーヒー固形分を主要原料とする組成物に、特定の量のフルフリルチオールとシクロテンの少なくともいずれか一方を添加したものである。フルフリルチオール又はシクロテンを適切な量添加することによって、それぞれに由来する香りが強化され、おいしさ(消費者の嗜好性)が高められたコーヒー飲料を調製することが可能なIC飲料用組成物を製造することができる。」 ・「【0054】 [実施例4] 表4に示す組成からなるカフェオレ用粉末10gを、100gの沸騰水に溶解させ、評価用カフェオレを得た。 【0055】 【表4】 【0056】 評価用カフェオレに、フルフリルチオール、シクロテン、グアヤコール、エチルグアヤコール、又はフルフラールを、添加分に由来する濃度が表5に示した濃度(ppb)になるように添加し、得られた香料添加カフェオレの香味を実施例1と同様にして評価した。 その結果、評価用コーヒーに添加した場合と同様に、フルフリルチオールとシクロテンを添加したものは、総合評価で好ましいと判断された。 【0057】 【表5】 」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に【0009】及び実施例4に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1製法発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1製法発明> 「インスタントコーヒー10質量%、グラニュー糖55質量%、クリーミングパウダー35質量%の組成からなるカフェオレ用粉末の製造方法。」 <甲1方法発明> 「インスタントコーヒー10質量%、グラニュー糖55質量%、クリーミングパウダー35質量%の組成からなるカフェオレ用粉末10gを、100gの沸騰水に溶解させ、フルフリルチオールを40ppb又はシクロテンを1500ppbの濃度になるように添加する、カフェオレの風味を改善する方法。」 (2)甲7に記載された事項等 ア 甲7に記載された事項 甲7には、「健康志向食品用または飲料用組成物の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「2.〔特許請求の範囲〕 好ましくない味及び/または臭いを持つ水溶性ビタミン及びミネラルのうち1種または2種以上の水溶液をクリーミングパウダーの油成分中に微細水滴として分散乳化し、この乳化油液をクリーミングパウダーの水溶性成分の水溶液に添加混合し乳化して水中油型乳化液を調製し、この乳化液を乾燥粉末化して栄養強化クリーミングパウダーを調製し、このクリーミングパウダーをインスタントコーヒーまたは紅茶粉末と混合することを特徴とする栄養強化され、異味異臭のない食品用または飲料用組成物の製造方法。」(第1ページ左下欄第4ないし15行) ・「本発明によって製造される飲料用組成物は飲料ミックスとしてインスタントコーヒーをいれるのと同じ手間で簡単にいれることができ、しかも異味、異臭を感じることなく所望の栄養分を摂取できる、という優れた効果を示す。」(第2ページ右下欄第第14ないし18行) ・「実施例1 A.クリーミングパウダーの調製 ・・・(略)・・・ B.インスタントコーヒーの飲料ミックス調製 インスタントコーヒー 10kg 上記Aで調整した クリーミングパウダー(顆粒) 12.5kg 果 糖 15.0kg 脱脂粉乳 5.0kg グルコース 15.0kg 上記各成分を150l容のリボンブレンダーに入れ、約15分間撹拌を行い、コーヒー飲料ミックスを得た。」(第3ページ左上欄第5行ないし左下欄第10行) ・「本発明の方法によつて製造された製品および対照品の特性および得られた飲料の風味等を比較検討した。結果を次の表に要約する。」(第4ページ右上欄第15ないし18行) ・「 」(第4ページ下欄) イ 甲7に記載された発明 甲7に記載された事項を、特に特許請求の範囲及び実施例1に関して整理すると、甲7には次の発明(以下、順に「甲7製法発明」及び「甲7方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲7製法発明> 「インスタントコーヒー10kg、クリーミングパウダー(顆粒)12.5kg、果糖15.0kg、脱脂粉乳5.0kg、グルコース15.0kgを150l容のリボンブレンダーに入れ、約15分間撹拌を行って混合する、インスタントコーヒーの飲料ミックスの調製方法。」 <甲7方法発明> 「クリーミングパウダー(顆粒)12.5kgを、インスタントコーヒー10kg、果糖15.0kg、脱脂粉乳5.0kg、グルコース15.0kgと150l容のリボンブレンダーに入れ、約15分間撹拌を行って混合する、コーヒーを良好な風味にする方法。」 2 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 対比・判断 (ア)対比 本件特許発明1と甲1製法発明を対比する。 甲1製法発明における「カフェオレ用粉末」は本件特許発明1における「液体と混合して乳風味コーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物」に相当する。 甲1製法発明における「インスタントコーヒー10質量%」は本件特許発明1における「原料として」の「可溶性コーヒー固形分」に相当する。 甲1製法発明における「クリーミングパウダー35質量%」は本件特許発明1における「原料として」の「「クリーミングパウダー及び乳原料からなる群より選択される一種以上」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「液体と混合して乳風味コーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法であって、 原料として、可溶性コーヒー固形分と、クリーミングパウダー及び乳原料からなる群より選択される一種以上と、を用い、インスタントコーヒー飲料用組成物を製造する、インスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1-1> 本件特許発明1においては、「4-エチルグアヤコールと、2,3,5-トリメチルピラジンと、を用い、(a)前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られた乳風味コーヒー飲料における4-エチルグアヤコールの飲用時濃度が0.05~1.50ppmとなる量の4-エチルグアヤコールと、(b)前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られた乳風味コーヒー飲料における2,3,5-トリメチルピラジンの飲用時濃度が0.05~2.50ppmとなる量の2,3,5-トリメチルピラジンと、を含有する」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、そのようには特定されていない点。 (イ)判断 相違点1-1について検討する。 甲1には、コーヒーに含まれる多種多様な香り成分の中から、「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」に着目し、それらの飲用時濃度を所定範囲に調整することの動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲1製法発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「水等の溶液に溶解させるだけで、珈琲感が強く、風味の改善された、消費者の嗜好性の高い乳風味コーヒー飲料を、簡単に調製することができる」「インスタントコーヒー飲料用組成物」を製造することができる(本件特許の発明の詳細な説明の【0010】参照。)という効果は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 イ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、「上記相違点に関し、上記4-エチルグアヤコールの飲用時濃度は、甲第2~4号証に記載されているように、通常のコーヒーにおける濃度である。同様に、上記2,3,5-トリメチルピラジンの飲用時濃度も、甲第2、3、5号証に記載されているように、通常のコーヒーにおける濃度である。 また、甲第6号証に記載されているように、4-エチルグアヤコール及び2,3,5-トリメチルピラジンは、コーヒーに含まれる成分であり、合成香料として用いられているものである。 そのため、甲1発明1において、コーヒー感を増強するために、コーヒーに含まれていることが知られている4-エチルグアヤコール及び2,3,5-トリメチルピラジンを、飲用時濃度が通常のコーヒーにおける濃度となるように用いることは、容易想到であるといえる。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明1と、甲第2~6号証に記載された事項とに基づき当業者が容易に想到し得たものであって、進歩性を有しないものと考える。」(第10及び11ページ)旨主張する。 そこで、該主張について検討する。 「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」の飲用時濃度が、甲2ないし4に記載されているように、通常のコーヒーにおける濃度であり、甲6に記載されているように、「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」は、コーヒーに含まれる成分であり、合成香料として用いられているものであったとしても、上記ア(イ)のとおり、コーヒーに含まれる多種多様な香り成分の中から、「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」という2つの成分に着目し、それらの飲用時濃度を所定範囲に調整することがいずれの証拠にも記載されていない以上、甲1製法発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 ウ まとめ したがって、本件特許発明1は甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明2について 本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明3について ア 対比・判断 (ア)対比 本件特許発明3と甲1方法発明を対比する。 甲1方法発明における「カフェオレ」は本件特許発明3における「乳風味コーヒー飲料」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「乳風味コーヒー飲料において、 乳風味コーヒー飲料の風味改善方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1-2> 本件特許発明1においては、「原料として、4-エチルグアヤコール及び2,3,5-トリメチルピラジンを用い、4-エチルグアヤコールの飲用時濃度を0.05~1.50ppmに調整し、2,3,5-トリメチルピラジンの飲用時濃度を0.05~2.50ppmに調整する」と特定されているのに対し、甲1方法発明においては、「フルフリルチオールを40ppb又はシクロテンを1500ppbの濃度になるように添加する」と特定されている点。 (イ)判断 相違点1-2について検討する。 甲1には、コーヒーに含まれる多種多様な香り成分の中から、「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」に着目し、それらの飲用時濃度を所定範囲に調整することの動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲1方法発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1-2に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明3の奏する「珈琲感が強く、風味の改善された、消費者の嗜好性の高い乳風味コーヒー飲料を、簡単に調製することができる」という効果は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明3の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 イ まとめ したがって、本件特許発明3は甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明4及び5について 本件特許発明4及び5は、請求項3の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明3と同様に、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし5は特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1によっては取り消すことはできない。 3 申立理由2(甲7に基づく進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 対比・判断 (ア)対比 本件特許発明1と甲7製法発明を対比する。 甲7製法発明における「インスタントコーヒーの飲料ミックス」は本件特許発明1における「液体と混合して乳風味コーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物」に相当する。 甲7製法発明における「インスタントコーヒー10kg」は本件特許発明1における「原料として」の「可溶性コーヒー固形分」に相当する。 甲7製法発明における「クリーミングパウダー(顆粒)12.5kg」及び「脱脂粉乳5.0kg」は本件特許発明1における「原料として」の「クリーミングパウダー及び乳原料からなる群より選択される一種以上」に相当する。 甲7製法発明における「調製方法」は本件特許発明1における「製造方法」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「液体と混合して乳風味コーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法であって、 原料として、可溶性コーヒー固形分と、クリーミングパウダー及び乳原料からなる群より選択される一種以上と、を用い、インスタントコーヒー飲料用組成物を製造する、インスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点7-1> 本件特許発明1においては、「4-エチルグアヤコールと、2,3,5-トリメチルピラジンと、を用い、(a)前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られた乳風味コーヒー飲料における4-エチルグアヤコールの飲用時濃度が0.05~1.50ppmとなる量の4-エチルグアヤコールと、(b)前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られた乳風味コーヒー飲料における2,3,5-トリメチルピラジンの飲用時濃度が0.05~2.50ppmとなる量の2,3,5-トリメチルピラジンと、を含有する」と特定されているのに対し、甲7製法発明においては、そのようには特定されていない点。 (イ)判断 相違点7-1について検討する。 甲7には、コーヒーに含まれる多種多様な香り成分の中から、「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」に着目し、それらの飲用時濃度を所定範囲に調整することの動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲7製法発明において、甲7及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点7-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「水等の溶液に溶解させるだけで、珈琲感が強く、風味の改善された、消費者の嗜好性の高い乳風味コーヒー飲料を、簡単に調製することができる」「インスタントコーヒー飲料用組成物」を製造することができるという効果は、甲7製法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 よって、本件特許発明1は甲7製法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、「上記相違点に関し、上記4-エチルグアヤコールの飲用時濃度は、甲第2~4号証に記載されているように、通常のコーヒーにおける濃度である。同様に、上記2,3,5-トリメチルピラジンの飲用時濃度も、甲第2、3、5号証に記載されているように、通常のコーヒーにおける濃度である。 また、甲第6号証に記載されているように、4-エチルグアヤコール及び2,3,5-トリメチルピラジンは、コーヒーに含まれる成分であり、合成香料として用いられているものである。 そして、甲第1号証に記載されているように、コーヒー飲料の風味を改善するために、コーヒーに含まれる成分をインスタントコーヒー飲料用組成物に配合することは公知技術である。 そのため、甲7発明1おいて、コーヒー感を増強するために、コーヒーに含まれていることが知られている4-エチルグアヤコール及び2,3,5-トリメチルピラジンを、飲用時濃度が通常のコーヒーにおける濃度となるように用いることは、容易想到であるといえる。 したがって、本件特許発明1は、甲7発明1と、甲第1~6号証に記載された事項とに基づき当業者が容易に想到し得たものであって、進歩性を有しないものと考える。」(第13及び14ページ)旨主張する。 そこで、該主張について検討する。 「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」の飲用時濃度が、甲2ないし4に記載されているように、通常のコーヒーにおける濃度であり、甲6に記載されているように、「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」は、コーヒーに含まれる成分であり、合成香料として用いられているものであり、また、甲1に記載されているように、コーヒー飲料の風味を改善するために、コーヒーに含まれる成分をインスタントコーヒー飲料用組成物に配合することが公知技術であったとしても、上記ア(イ)のとおり、コーヒーに含まれる多種多様な香り成分の中から、「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」という2つの成分に着目し、それらの飲用時濃度を所定範囲に調整することがいずれの証拠にも記載されていない以上、甲7製法発明において、相違点7-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 ウ まとめ したがって、本件特許発明1は甲7製法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明2について 本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲7製法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明3について ア 対比・判断 (ア)対比 本件特許発明3と甲7方法発明を対比する。 甲7方法発明における「コーヒー」は、「クリーミングパウダー(顆粒)12.5kg」及び「脱脂粉乳5.0kg」を含むことから、本件特許発明3における「乳風味コーヒー飲料」に相当する。 甲7方法発明における「コーヒーを良好な風味にする方法」は本件特許発明3における「乳風味コーヒー飲料の風味改善方法」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「乳風味コーヒー飲料において、 乳風味コーヒー飲料の風味改善方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点7-2> 本件特許発明1においては、「原料として、4-エチルグアヤコール及び2,3,5-トリメチルピラジンを用い、4-エチルグアヤコールの飲用時濃度を0.05~1.50ppmに調整し、2,3,5-トリメチルピラジンの飲用時濃度を0.05~2.50ppmに調整する」と特定されているのに対し、甲7方法発明においては、そのようには特定されていない点。 (イ)判断 相違点7-2について検討する。 甲7には、コーヒーに含まれる多種多様な香り成分の中から、「4-エチルグアヤコール」及び「2,3,5-トリメチルピラジン」に着目し、それらの飲用時濃度を所定範囲に調整することの動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲7方法発明において、甲7及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点7-2に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明3の奏する「珈琲感が強く、風味の改善された、消費者の嗜好性の高い乳風味コーヒー飲料を、簡単に調製することができる」という効果は、甲7方法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明3の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 よって、本件特許発明3は甲7製法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ まとめ したがって、本件特許発明3は甲7方法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明4及び5について 本件特許発明4及び5は、請求項3の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明3と同様に、甲7方法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし5は特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由2によっては取り消すことはできない。 第5 結語 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-04-18 |
出願番号 | P2019-124351 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A23F)
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最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
淺野 美奈 |
特許庁審判官 |
磯貝 香苗 加藤 友也 |
登録日 | 2023-08-21 |
登録番号 | 7334506 |
権利者 | 味の素株式会社 |
発明の名称 | インスタントコーヒー飲料用組成物の製造方法 |
代理人 | 大槻 真紀子 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |