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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 発明同一 C08J |
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管理番号 | 1418235 |
総通号数 | 37 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2025-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-01-05 |
確定日 | 2024-10-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第7304167号発明「絶縁シートの製造方法、金属ベース回路基板の製造方法、及び絶縁シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7304167号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6、8〕、7について訂正することを認める。 特許第7304167号の請求項1、3~8に係る特許を維持する。 特許第7304167号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7304167号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成31年2月13日の出願であって、令和5年6月28日にその特許権の設定登録がされ、同年7月6日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許について令和6年1月5日に特許異議申立人林法子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~8)がされたものである。 以降の手続の経緯は以下のとおりである。 令和6年 3月 7日付け:取消理由通知 同年 5月10日 :訂正請求書及び意見書(特許権者) 同年 5月20日付け:訂正請求があった旨の通知 なお、令和6年5月20日付け訂正請求があった旨の通知に対し、申立人からは何ら応答がなかった。 第2 訂正請求について 1.訂正の内容 令和6年5月10日に提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第7304167号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8に訂正することを求める。」というものであり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。 なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1における「15%以上の空隙率を有する樹脂シート」を「15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下の樹脂シート」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~6、8も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1における「を備える、絶縁シートの製造方法」を「を備え、前記窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである、絶縁シートの製造方法」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~6、8も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3の「請求項1又は2に記載の」を「請求項1に記載の」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項4の「請求項1~3のいずれか一項に記載の」を「請求項1又は3に記載の」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項5の「請求項1~4のいずれか一項に記載の」を「請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項6の「請求項1~5のいずれか一項に記載の」を「請求項1及び3~5のいずれか一項に記載の」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8の「請求項1~6のいずれか一項に記載の」を「請求項1及び3~6のいずれか一項に記載の」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項7における「15%以上の空隙率を有する樹脂シート」を「15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下の樹脂シート」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項7における「を備える、金属ベース回路基板の製造方法」を「を備え、前記窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである、金属ベース回路基板の製造方法」に訂正する。 なお、訂正事項1~8に係る訂正前の請求項1~6及び8について、請求項2~6及び8は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、本件訂正により請求項3~6及び8は請求項1に連動して訂正される。また、訂正事項9及び10は独立形式の請求項7を訂正するものである。よって、本件訂正は一群の請求項をなす請求項1~6及び8と、請求項7を訂正の単位として請求されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について ア 訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載されていた「15%以上の空隙率を有する樹脂シート」という発明特定事項に、願書に添付した明細書の[0040]等の記載に基づいて「反応率が30%以上60%以下」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~6、8の訂正も同様である。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に記載されていた「窒化ホウ素凝集粉」という発明特定事項に、本件訂正前の請求項2及び願書に添付した明細書の[0029]等の記載に基づいて「前記窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~6、8の訂正も同様である。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、請求項2を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 エ 訂正事項4~8について 訂正事項4~8は、本件訂正前の請求項3~6及び8の引用先に請求項2が含まれていたところ、訂正事項3により請求項2が削除されることに伴い、それぞれの引用先から請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項4~8は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 よって、訂正事項4~8は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 オ 訂正事項9について 訂正事項9は、本件訂正前の請求項7に記載されていた「15%以上の空隙率を有する樹脂シート」という発明特定事項に、願書に添付した明細書の[0040]等の記載に基づいて「反応率が30%以上60%以下」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 よって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 カ 訂正事項10について 訂正事項10は、本件訂正前の請求項7に記載されていた「窒化ホウ素凝集粉」という発明特定事項に、願書に添付した明細書の[0029]等の記載に基づいて「前記窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 よって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)独立特許要件について 本件においては、訂正前のすべての請求項1~8に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1~6及び8に係る訂正事項1~8、並びに訂正前の請求項7に係る訂正事項9及び10については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3.訂正請求についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6、8〕、7について訂正することを認める。 第3 本件発明について 本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「[請求項1] エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下の樹脂シートを得る第一の工程と、 前記樹脂シートを加熱プレスして絶縁シートを得る第二の工程と、 を備え、 前記窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである、絶縁シートの製造方法。 [請求項2] (削除) [請求項3] 前記塗布液における前記溶剤の含有量が、前記塗布液における固形分100質量部に対して30~100質量部である、請求項1に記載の製造方法。 [請求項4] 前記樹脂シートにおける前記空隙率が、20~50%である、請求項1又は3に記載の製造方法。 [請求項5] 前記加熱プレスの温度が130~200℃であり、プレス圧力が3~20MPaである、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の製造方法。 [請求項6] 前記加熱プレスが、前記樹脂シートを第一の金属板及び第二の金属板で挟んで得られた積層体を加熱プレスするものである、請求項1及び3~5のいずれか一項に記載の製造方法。 [請求項7] 第一の金属板と、絶縁シートと、第二の金属板と、をこの順に備え、第一の金属板及び第二の金属板のうちの少なくとも一方が電気回路を形成している金属ベース回路基板の製造方法であって、 エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下の樹脂シートを得る第一の工程と、 前記樹脂シートを第一の金属板及び第二の金属板で挟んで得られた積層体を、加熱プレスして、第一の金属板と、絶縁シートと、第二の金属板と、をこの順に備える金属基板を得る第二の工程と、 前記金属基板における前記第一の金属板及び前記第二の金属板の少なくとも一方に電気回路を形成する第三の工程と、 を備え、 前記窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである、金属ベース回路基板の製造方法。 [請求項8] 前記窒化ホウ素凝集粉が、空隙率が50%を超え、90%以下である窒化ホウ素凝集粉を含む、請求項1及び3~6のいずれか一項に記載の製造方法。」 第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由 申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第8号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲8」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。 なお、申立理由の番号は当審が仮に付与した。 1.特許異議申立理由 (1)申立理由1(実施可能要件違反) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~8についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件発明1~6及び8の「絶縁シートの製造方法」に係る発明、並びに、本件発明7の「金属ベース回路基板の製造方法」に係る発明は、第一の工程において「15%以上の空隙率を有する樹脂シートを得る」ことを発明特定事項として備えているが、本件明細書の実施例からは樹脂シートの空隙率を15%以上とするための要因を理解することはできない。また、本件明細書にはどのようにすれば樹脂シートの空隙率を15%以上に調整できるのかを説明する一般的な記載もなされていない。したがって、本件発明1~8は、本件出願時の技術常識、本件明細書の記載を参酌しても、どのようにすれば樹脂シートの空隙率を15%以上にすることができるのかが明らかではなく、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が試行錯誤を要するといえる。 (2)申立理由2(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~8についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 発明の課題([0007])を解決するには、樹脂シートの加熱プレスにおいて、樹脂シートに含まれる窒化ホウ素凝集粉が破壊されにくくすること、及び窒化ホウ素凝集粉が内部の配向を維持したまま移動できるようにすることが必要といえる。本件明細書の実施例1~20では、第一の工程において塗布液の反応率を40~60%としてBステージ状態の樹脂シートを得て、これを第二の工程で加熱プレスすることにより所定の絶縁シートを得ることは開示されているが、この塗布液の反応率を40%を大きく下回る状態とした場合や60%を大きく超える状態とした場合でも所定の樹脂シートや所定の絶縁シートが得られることは開示されていない。したがって、本件発明1~8は、発明の課題を解決するために必要な第一の工程における塗布液の反応率が規定されていないことから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 (3)申立理由3(甲1に基づく拡大先願) 本件発明1~8は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の甲1の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29の2の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(甲2及び甲3参照)。 (4)申立理由4(甲4~甲8に基づく進歩性欠如) 本件発明1~8は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲4~甲8に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2.証拠方法 甲1:特開2019-121708号公報 甲2:日本ビジュアルサイエンス株式会社,追試実験報告書,令和5年12月25日 甲3:3M 先端材料事業部,「3MTM窒化ホウ素冷却フィラー」商品情報パンフレット,2022年7月 甲4:特開2015-189609号公報 甲5:特開2017-82091号公報 甲6:特開2013-254880号公報 甲7:国際公開第2014/136959号 甲8:特開2014-40341号公報 証拠の表記は当審による。 第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~8に係る発明についての特許に対して、令和6年3月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 1.取消理由1(実施可能要件違反) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~8についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1の絶縁シートの製造方法を使用することができることの具体的な記載がなく、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を製造する方法を使用することができるともいえないから、実施可能要件を満たしていない。請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~6及び8、並びに本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明7についても同様である。 2.取消理由2(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~8についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件発明1のうち、第一の工程において得られる樹脂シートがBステージ状態である場合については、十分な熱伝導性及び絶縁性を備えた樹脂シートを製造し得ると理解できるが、樹脂シートがBステージ状態とはいえない場合(樹脂の反応率が低すぎる場合及び高すぎる場合)は、本件特許に係る出願の出願当時における技術常識を参酌しても、窒化ホウ素凝集粉の変形、破壊及び移動の観点から十分な熱伝導性及び絶縁性を備えた樹脂シートを製造することはできず、本件発明1の課題を解決することができないと認められる。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから、サポート要件を満たしていない。 請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~6及び8、並びに本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明7についても同様である。 3.取消理由3(甲1に基づく拡大先願) 本件発明1、3及び4は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願(甲1に係る特許出願)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 4.取消理由4(甲4~甲8に基づく進歩性欠如) 本件発明1~8は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4~甲8に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第6 取消理由通知に記載した取消理由についての判断 当審は、取消理由通知に記載した取消理由1~取消理由4によって本件発明1及び3~8についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。 1.取消理由1(実施可能要件違反)について (1)実施可能要件の判断手法 物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができること及びその方法により生産した物の使用等をすることができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用すること及びその方法により生産した物の使用等をすることができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。 (2)本件明細書の記載について ア 第一工程についての一般記載について 本件明細書の[0039]には「第一の工程では、上述した塗布液を各種コーターによってシート状に所望の厚みとなるように塗工し、加熱乾燥させることにより、樹脂シートを得ることができる。塗布液における固形分と溶剤の性質及び量、それに対する熱量を適切に調整することにより、シート状に塗工した塗布液の反応率をコントロールし、半硬化させた(Bステージ状態の)樹脂シートを得ることができる。シート状に成形する方法は、剥離フィルム等の基材に塗布する方法のほか、押出成形、射出成形、ラミネート成形等の方法を用いて塗工してもよい。」と記載されている。また、[0040]には、「シート状に塗工した塗布液の反応率は、エポキシ樹脂の反応の進行を適切に制御する観点から、例えば、30%以上であってよく、60%以下であってよい。」と記載されている。 イ 第二工程についての一般記載について 本件明細書の[0047]~[0048]には「上記第一の工程で得られた樹脂シートを加熱プレスすることにより、絶縁シートを得ることができる。加熱プレスの条件は特に限定されず、用いる樹脂シートの種類及び得られる絶縁シートの使用に応じて適宜設定される。例えば、加熱プレスの温度は、130~200℃であってよく、加熱プレスのプレス圧力は、3~20MPaであってよい。」と記載されている。 ウ 窒化ホウ素凝集粉について 本件明細書の[0029]には、「窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が0.5MPa以上であれば、樹脂と混錬する際に窒化ホウ素凝集粉が崩壊するのを抑制でき、配向を制御しやすくなるため、熱伝導性を維持しやすくなる。窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が20MPa以下であれば、樹脂シートのプレス成型時に凝集粉が変形しやすく、これにより窒化ホウ素凝集粉同士が接触しやすくなり、熱伝導性をより効率的に向上させることができる。このような観点から、窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度は、1.0~15MPaであることが好ましい。」と記載されている。 エ 実施例について 本件明細書の[0055]~[0073]には、エポキシ樹脂、硬化剤、圧壊強度が1MPa~15MPaの窒化ホウ素凝集粉、溶剤及び必要に応じて硬化促進剤が配合された塗布液を用いて、PETフィルム上に加熱乾燥後の厚さが0.20mmとなるように塗布し、100℃で15分~90分間加熱乾燥させることにより、反応率40~60%のBステージ状態であり、空隙率が20~60%の範囲の樹脂シートを製造することができたことが記載されている。また、得られた樹脂シートをPETフィルムから剥がし、アルミニウム金属板及び銅箔を配置し、プレス機によって所定の温度及び圧力条件で180分間加熱硬化することで、熱伝導率及び絶縁性に優れた金属回路基板を製造することができたことが記載されている。 (3)実施可能要件についての判断 当業者は、本件明細書におけるエポキシ樹脂、硬化剤、窒化ホウ素凝集粉等の塗布液の原料についての記載、窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度の技術上の意義、15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上の60%以下のBステージ状樹脂シートを製造することの技術上の意義、及び実施例で採用された塗布液の成分組成、加熱乾燥時間についての記載等に基づいて、エポキシ樹脂と、硬化剤と、圧壊強度が1.0~15MPaである窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下の樹脂シートを得ることができること、及び、得られた樹脂シートを加熱プレスすることにより、熱伝導率及び絶縁性に優れた絶縁シートを製造することができると理解することができる。また、当業者は、同様の材料及び製造条件により、熱伝導率及び絶縁性に優れた金属ベース回路基板を製造することができると理解することができる。 そうすると、本件明細書には本件発明1及び7の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、当業者が本件発明1及び7の製造方法を使用することができ、かつ、その方法により製造された物を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。 請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明3~6及び8についても、本件発明1と同様の理由により、当業者が本件発明3~6及び8の製造方法を使用することができ、かつ、その方法により製造された物を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。 (4)取消理由1(実施可能要件違反)についてのまとめ 以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び3~8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、取消理由1(実施可能要件違反)により本件発明1及び3~8についての特許を取り消すことはできない。 2.取消理由2(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件発明の課題について 本件明細書の[0007]等の記載から見て、本件発明1、3~6及び8の課題は「十分な熱伝導性及び絶縁性を有し、熱伝導性及び絶縁性の少なくとも一方が特に優れる絶縁シートの製造方法を提供すること」にあり、本件発明7の課題は「上記絶縁シートを利用した金属ベース回路基板の製造方法を提供すること」にあるものと認められる。 (3)本件明細書の記載について 本件明細書には以下の事項が記載されている。 「[0026] 窒化ホウ素凝集粉は、鱗片状の窒化ホウ素が球状に凝集した粒子状の粉体である。窒化ホウ素凝集紛は、鱗片状の窒化ホウ素一次粒子を作製後、該一次粒子を凝集させて作製することができる。また、窒化ホウ素前駆体より、直接窒化ホウ素の凝集紛を作製することもできる。本実施形態に係る窒化ホウ素凝集粉は、空隙を有していることが好ましく、50%を超える空隙率を有していることがより好ましい。空隙を有する窒化ホウ素凝集粉を用いることで、樹脂シートのプレス成形時に凝集粉が変形しやすく、これにより窒化ホウ素凝集粉同士が接触しやすくなり、熱伝導性をより効率的に向上させることができる。このような観点から、窒化ホウ素凝集粉は、60%以上の空隙率を有していることが更に好ましい。また、窒化ホウ素凝集粉は、凝集粉の空隙に樹脂が入り込むことによる塗布液の粘度の上昇を抑え、ボイド等の欠陥が生じることを抑制する観点から、90%以下の空隙率を有していることが好ましく、80%以下の空隙率を有していることがより好ましく、75%以下の空隙率を有していることが更に好ましい。なお、窒化ホウ素凝集紛の空隙率は、特開2018-20932号公報に記載の方法により調整することができる。」 「[0028] 窒化ホウ素凝集粉の平均粒径は、JISZ8825に準拠し、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、累積粒度分布の累積値50%の粒径で、20~100μmであることが好ましい。20μm以上とすることで、窒化ホウ素凝集粉と樹脂界面の増加にともなう熱伝導率が低下を抑制することができる。また、100μm以下とすることで、混錬時のせん断応力による窒化ホウ素凝集粉の破壊を抑制することができる。平均粒子径は、市販の粒度分布測定装置を用いることができる。測定に際しては、溶媒には水、分散剤としてはヘキサメタリン酸を用いた。水の屈折率には1.33を用い、窒化ホウ素凝集粉の屈折率は1.80を用いた。 [0029] 窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度は、特に制限はなく、例えば0.5~20MPaであってもよい。窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が0.5MPa以上であれば、樹脂と混錬する際に窒化ホウ素凝集粉が崩壊するのを抑制でき、配向を制御しやすくなるため、熱伝導性を維持しやすくなる。窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が20MPa以下であれば、樹脂シートのプレス成型時に凝集粉が変形しやすく、これにより窒化ホウ素凝集粉同士が接触しやすくなり、熱伝導性をより効率的に向上させることができる。このような観点から、窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度は、1.0~15MPaであることが好ましい。」 「[0031] 塗布液における窒化ホウ素凝集粉の含有量は、固形分100質量部に対し、40~100質量部であることが好ましく、50~80質量部であることがより好ましい。窒化ホウ素凝集粉の含有量を、固形分100質量部に対し40質量部以上とすることで、熱伝導性を向上させることができる。また、窒化ホウ素凝集粉の含有量を固形分100質量部に対し100質量部以下とすることで、塗布液の塗工性や、金属ベース回路基板の製造時において絶縁シートの金属板との間に隙間が発生することを効率的に抑制し、熱伝導性を効果的に維持することができる。」 「[0039] 第一の工程では、上述した塗布液を各種コーターによってシート状に所望の厚みとなるように塗工し、加熱乾燥させることにより、樹脂シートを得ることができる。塗布液における固形分と溶剤の性質及び量、それに対する熱量を適切に調整することにより、シート状に塗工した塗布液の反応率をコントロールし、半硬化させた(Bステージ状態の)樹脂シートを得ることができる。シート状に成形する方法は、剥離フィルム等の基材に塗布する方法のほか、押出成形、射出成形、ラミネート成形等の方法を用いて塗工してもよい。 [0040] シート状に塗工した塗布液の反応率は、エポキシ樹脂の反応の進行を適切に制御する観点から、例えば、30%以上であってよく、60%以下であってよい。」 「[0043] 第一の工程により得られた樹脂シートは、15%以上の空隙率を有する。一定の空隙を有する樹脂シートを用いることで、後述する第二の工程において樹脂シートを加熱プレスする際に、樹脂の変形や樹脂に含まれる窒化ホウ素凝集粉等の成分の移動を容易に行うことができる。その結果、加熱プレスの際に窒化ホウ素凝集粉が破壊されにくくなり、凝集粉内の配向を維持したまま、効果的な熱伝導パスを形成することができると考えられる。このようなことから、第一工程により得られた樹脂シートは、20%以上の空隙率を有していることが好ましく、25%以上の空隙率を有していることがより好ましい。樹脂シートの空隙率の上限は特に限定されないが、例えば、80%以下、70%以下又は50%以下であってよい。」 「[0045] 樹脂シートにおける窒化ホウ素の配向指数は、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましい。配向指数が上記範囲内であることにより樹脂シートにおける窒化ホウ素粉末が面と垂直の方向に配向されることで、高熱伝導化を実現することができる。樹脂シートにおける窒化ホウ素の配向指数の上限は特に限定されないが、例えば、90%以下又は80%以下であってよい。」 「[0047] <第二の工程> 上記第一の工程で得られた樹脂シートを加熱プレスすることにより、絶縁シートを得ることができる。 [0048] 加熱プレスの条件は特に限定されず、用いる樹脂シートの種類及び得られる絶縁シートの使用に応じて適宜設定される。例えば、加熱プレスの温度は、130~200℃であってよく、加熱プレスのプレス圧力は、3~20MPaであってよい。 [0049] 樹脂シートを加熱プレスする際には、樹脂シートを第一の金属板及び第二の金属板に挟んで得られた積層体に対して加熱プレスを行ってもよい。第一の金属板及び第二の金属板としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄等により形成された、厚さが0.1~5mm、又は0.035~2mmのものを適宜用いてもよい。また、第一の金属板及び第二の金属板は、互いに同種の材料により形成されてもよいし異種の材料により形成されてもよい。」 「[0056] (実施例1~26、比較例1~3) [塗布液の作製] 以下に示す各成分を、表1~表5に記載の配合比(質量部)に基づき混合し、塗布液を作成した。 ・・・ [0062] [樹脂シートの作製] 上記で得られた各塗布液を、厚さ0.05mmのポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム状に、加熱乾燥後の厚さが0.20mmとなるように塗布し、100℃で15分~90分間加熱乾燥させ、Bステージ状態の樹脂シートを得た。各塗布液における反応率、各樹脂シートの空隙率、及び各樹脂シートにおける窒化ホウ素の配向指数を表1~表5に示す。 [0063] [絶縁シートの作製] 厚さ1.5mmのアルミニウム金属板上に、PETフィルムからはがした上記樹脂シートを置き、樹脂シートの上に0.035mm銅箔「GTS-MP」(古川サーキットフォイル社製、商品名)の粗化面を配置し、プレス機によって面圧160kgf/cm2をかけながら、表1~表5に示す温度及び圧力条件で180分間加熱硬化することで、絶縁シートを備える金属基板を得た。 [0064] [金属ベース回路基板の作製] 上記で得られた金属基板上の銅箔をエッチングすることによって回路を形成し、金属ベース回路基板を作製した。」 「[0067][表1] ![]() [0068][表2] ![]() [0069][表3] ![]() [0070][表4] ![]() 」 「[0072] 金属ベース回路基板における熱伝導性及び絶縁性の評価は、上記の方法に従って、熱伝導率及び絶縁性を求めたときに、熱伝導率が9.5W/mK以上であれば、当該金属ベース回路基板における絶縁シートは熱伝導性に特に優れているといえ、絶縁性が40kV/mm以上であれば、当該絶縁シートは絶縁性に特に優れているといえる。ただし、熱伝導性又は絶縁性のどちらか一方が優れているといえる場合であっても、他方が実用上許容し得る程度の熱伝導性及び絶縁性を満たさない場合は、絶縁シートとしての性能に優れているとはいえない。例えば、熱伝導率が5W/mK未満である場合、又は絶縁性が30kV/mm未満である場合、その絶縁シートは実用上許容し得る程度の十分な性能を満たしていないと判断できる。 [0073] 実施例1~26で得られた金属ベース回路基板はいずれも、十分な熱伝導性及び絶縁性を有し(熱伝導率が5W/mK以上であり、絶縁性が30kV/mm以上であり)、熱伝導性及び絶縁性の少なくとも一方が特に優れている(熱伝導率が9.5W/mK以上、及び/又は絶縁性が40kV/mm以上である)ことが示された。」 (4)サポート要件についての判断 本件明細書の[0026]、[0028]、[0029]、[0043]及び[0045]等の記載を参酌すると、十分な熱伝導性及び絶縁性を備えた樹脂シートを製造するためには、樹脂シートの加熱プレスの際に、窒化ホウ素凝集粉が「変形しやすく、これにより窒化ホウ素凝集粉同士が接触しやくすく」なること、及び「窒化ホウ素凝集粉が破壊されにくくなり、凝集粉内の配向を維持したまま、効果的な熱伝導パスを形成すること」等が必要と考えられ、その調整要因として凝集粉の空隙率、平均粒径、圧壊強度、及び樹脂シートの空隙率が記載され、窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度としては1.0~15MPaが好ましいことが記載されている。 また、[0039]及び[0047]には、第一の工程において、半硬化させた(Bステージ状態の)樹脂シートを得て、第二の工程において、得られたBステージ状態の樹脂シートを加熱プレスすることにより、絶縁シートを得ることができることが記載され、[0040]には塗布液の反応率として30%以上60%以下という範囲が記載され、[0067][表1]~[0070][表4]における「反応率」を参照すると、実施例においてもBステージ状態の樹脂シートを得て、これを加熱プレスすることにより絶縁シートが製造されたものと理解できる。 そうすると、当業者は、「エポキシ樹脂と、硬化剤と、圧壊強度が1.0~15MPaである窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下の樹脂シートを得る第一の工程と、前記樹脂シートを加熱プレスして絶縁シートを得る第二の工程と、を備える絶縁シートの製造方法」により、十分な熱伝導性及び絶縁性を備えた樹脂シートを製造し得ると理解することができる。 また、当業者は、同様の材料及び製造条件で樹脂シートを製造する工程と、得られた樹脂シートを第一の金属板及び第二の金属板で挟んで得られた積層体を、加熱プレスして、第一の金属板と、絶縁シートと、第二の金属板と、をこの順に備える金属基板を得る第二の工程と、前記金属基板における前記第一の金属板及び前記第二の金属板の少なくとも一方に電気回路を形成する第三の工程と、を備える金属ベース回路基板の製造方法により、熱伝導率及び絶縁性に優れた金属ベース回路基板を製造することができると理解することができる。 そして、本件発明1及び7は上記範囲に包含されるから、本件発明1及び7は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明3~6及び8も、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (5)取消理由2(サポート要件違反)についてのまとめ 以上のことから、本件発明1及び3~8は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、取消理由2(サポート要件違反)により本件発明1及び3~8についての特許を取り消すことはできない。 3.取消理由3(甲1に基づく拡大先願)について (1)引用出願 甲1に係る特許出願:特願2018-1370号(特開2019-121708号公報) 甲1に係る特許出願(以下、「甲1出願」という。)は、本件特許の出願日前である平成30年1月9日に出願され、その後、令和元年7月22日に出願公開されたものであり、しかも、本件特許に係る出願の発明者は甲1出願の発明者と同一でなく、また、本件特許に係る出願の出願時において、その出願人は甲1出願の出願人と同一でもない。 (2)甲1出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「甲1出願の当初明細書等」という。)に記載された事項 甲1出願の当初明細書等には、以下の事項が記載されている。 (1-1)「[請求項11] 熱伝導性シートの製造方法であって、 異方熱伝導性の一次粒子が凝集した等方熱伝導性凝集体、前記凝集体に構成されない異方熱伝導性材料、及びバインダー樹脂を含む混合物を調整する工程と、 前記混合物を用いて熱伝導性シート前駆体を形成する工程と、 前記熱伝導性シート前駆体に少なくとも3MPaの圧力を適用して熱伝導性シートを形成する工程と、を備える、熱伝導性シートの製造方法。」 (1-2)「[発明が解決しようとする課題] [0005] 電気自動車のパワーモジュールの小型化、パワーの増加及び高性能化等に伴い、絶縁性及び熱伝導性の向上した新しい熱伝導性シートが望まれている。高熱伝導性の充填剤として、鱗片状窒化ホウ素などが知られている。鱗片状窒化ホウ素の一次粒子は、長径方向において高い熱伝導性を呈する一方で、短径方向(厚さ方向)においては低い熱伝導性を呈するという、異方熱伝導性能を示すことが知られている。このため、熱伝導性シートで鱗片状窒化ホウ素を使用する場合には、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子をランダム方向に凝集させた凝集体の形態で使用されることがある。 [0006] しかしながら、このような凝集体を使用する熱伝導性シートの場合、熱伝導性は向上するものの、凝集体の間に鱗片状窒化ホウ素等が存在しない低密度領域が形成されてしまい、絶縁性能に劣るため、半導体素子等の誤作動を誘発させてしまうおそれがあった。 [0007] 本開示は、熱伝導性及び絶縁破壊耐性に優れる熱伝導性シートの前駆体、並びに該前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法を提供する。」 (1-3)「[0031] 《熱伝導性シート前駆体》 〈等方熱伝導性凝集体〉 本開示の熱伝導性シート前駆体に含まれる等方熱伝導性凝集体は、図1の(a)の白線で囲まれたような、異方熱伝導性の一次粒子が等方的な熱伝導性を呈するように凝集した二次凝集粒子である。係る等方熱伝導性凝集体は、熱伝導性シート前駆体に所定圧力を適用したときに、凝集体の少なくとも一部が崩壊するものであれば如何なるものも使用することができる。熱伝導性及び絶縁破壊耐性の観点から、凝集体は、図3に示されるように、所定圧力後に、1mm2当たり、約20%以上、約30%以上、又は約40%以上の崩壊率を有していることが好ましい。ここで、崩壊率とは、シートから回収された凝集体の光学顕微鏡画像の粒子分布解析(イメージJソフトウェア(バージョン1.50i))から得られる面積平均径の変化率を意味する。」 (1-4)「[0047] 〈熱伝導性シートの製造方法〉 本開示の熱伝導性シート前駆体の製造方法としては、次のものに限定されないが、例えば、所定の容器中に、バインダー樹脂、溶剤、及び任意に硬化剤等を配合し、高速ミキサー等を使用して約1000~約3000rpm、約10~約60秒間、撹拌混合し、混合物Aを調整する。次いで、混合物Aに対して、等方熱伝導性凝集体及び異方熱伝導性材料、任意に溶剤をさらに配合し、高速ミキサー等を使用して約1000~約3000rpm、約10~約60秒間さらに撹拌混合し、混合物Bを調整する。次いで、混合物Bを剥離ライナー上に、バーコーター、ナイフコーター等の公知の塗工手段を用いて塗工し、所定条件で乾燥させて熱伝導性シート前駆体を得ることができる。係る乾燥は、一段階の乾燥でもよいが、二段階以上の乾燥であってもよく、例えば、約50℃~約70℃で約1~約10分間の乾燥を実施した後に、約80℃~約120℃で約1~約10分間の乾燥を実施してもよい。このような多段階の乾燥を経由すると、図1の(a)に示されるような空隙を有する熱伝導性シート前駆体が得られ易い。次いで、得られた熱伝導性シート前駆体に対して、約50℃~約70℃で約1~約10分間、少なくとも約3MPa、少なくとも約4MPa、又は少なくとも約5MPaの圧力を適用し、図1の(b)に示されるような熱伝導性シートを製造することができる。ここで、熱硬化剤を使用する場合には、上述した乾燥工程の熱を利用して硬化させてもよく、他の工程、例えば、圧力を適用する工程、追加の加熱工程などにおいて別途硬化させてもよい。 [0048] 係る方法によって得られる熱伝導性シートは、図2の(a)の四角部分に示されるような、異方熱伝導性材料の存在しない、等方熱伝導性凝集体からの複数の崩壊一次粒子が局所的に集合した部分と、図2の(a)の円形部分に示されるような、等方熱伝導性凝集体からの崩壊一次粒子が存在しない、複数の異方熱伝導性材料が局所的に集合した部分を、熱伝導性シート内において別個に含むことができる。等方熱伝導性凝集体及び異方熱伝導性材料を単に混合した樹脂材料から得られる熱伝導性シートの場合には、等方熱伝導性凝集体及び異方熱伝導性材料が、一般的には、均一に分散混合されているため、上述したような局所的な集合部分は形成されない。」 (1-5)「[0049] 《用途》 本開示の熱伝導性シートは、例えば、電気自動車(EV)等の車両、家電製品、コンピューター機器等で使用される、例えば、ICチップ等の発熱性部品と、ヒートシンク又はヒートパイプ等の放熱部品との間の間隙を充填するように配置して、発熱性部品から発生した熱を放熱部品に効率よく熱伝達し得る放熱用物品、特に、パワーモジュールに使用される放熱用物品として用いることができる。」 (1-6)「[実施例] [0050] 《実施例1~9及び比較例1~5》 以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本開示はこれに限定されるものではない。 [0051] 本実施例で使用した商品などを以下の表1に示す。 [0052] [表1] ![]() 」 (1-7)「[0053] 表1に示す各材料を表2に示す配合割合で混合し、熱伝導性シート前駆体を作製するためのコーティング液を各々作製した。ここで、表2における数値は全て質量部を意味する。 [0054] [表2] ![]() 」 (1-8)「[0059] 〈試験1:圧力適用後の熱伝導性シートの相対厚さ及び絶縁破壊電圧の関係〉 (実施例1) A100及びP003が85/15の割合で含まれている熱伝導性シート前駆体用コーティング液TA-3を作製後、直ちに、38μm厚の剥離PETライナー(A31:東レデュポン株式会社製)上に、ギャップ間隔290μmのナイフコーターでコーティングし、65℃で5分間乾燥させた後、100℃で5分間さらに乾燥させて、各種圧力を適用するための、厚さ約180μmの熱伝導性シート前駆体を各々作製した。次いで、各熱伝導性シート前駆体に対し、2枚のシート前駆体を積層して、65℃で5分間、1MPa、2MPa、3MPa、10MPaの圧力を各々適用して熱伝導性シートを作製した。得られた熱伝導性シートの相対厚さ、即ち、熱伝導性前駆体の厚さに対する熱伝導性シートの厚さの割合、及び絶縁破壊電圧の結果を図4に示す。ここで、1MPa及び2MPaの圧力適用時の実施形態は参考例とする。 [0060] (実施例2) TA-3に代えて、A100及びP003が60/40の割合で含まれている熱伝導性シート前駆体用コーティング液TA-5を使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。係る熱伝導性シートの相対厚さ及び絶縁破壊電圧の結果を図4に示す。ここでも、1MPa及び2MPaの圧力適用時の実施形態は参考例とする。 [0061] (実施例3) TA-3に代えて、A100及びP003が40/60の割合で含まれている熱伝導性シート前駆体用コーティング液TA-6を使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。係る熱伝導性シートの相対厚さ及び絶縁破壊電圧の結果を図4に示す。ここでも、1MPa及び2MPaの圧力適用時の実施形態は参考例とする。 [0062] (比較例1) TA-3に代えて、A100及びP003が100/0の割合で含まれている熱伝導性シート前駆体用コーティング液T-0を使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。係る熱伝導性シートの相対厚さ及び絶縁破壊電圧の結果を図4に示す。 [0063] 〈結果〉 図4から分かるように、比較例1の熱伝導性シートは、圧力を適用することで、相対厚さが減少している、即ち、熱伝導性シートの厚さが前駆体時の厚さに比べて減少していることから、シート内において等方熱伝導性凝集体(A100)が崩壊していると考えられるが、絶縁破壊電圧の値はほとんど変化がなかった。一方、本開示の熱伝導性シートに相当する実施例1~3の態様は、適用する圧力が1MPaから3MPaへと増加するにしたがい、絶縁破壊電圧の値が急激に上昇することが確認された。その結果、等方熱伝導性凝集体と異方熱伝導性材料との併用は、絶縁破壊耐性に大きく寄与することが分かった。」 (1-9)「[図4] ![]() 」 (3)甲1出願の当初明細書等に記載された発明 甲1出願の当初明細書等の請求項11(摘記1-1)には、 「熱伝導性シートの製造方法であって、 異方熱伝導性の一次粒子が凝集した等方熱伝導性凝集体、前記凝集体に構成されない異方熱伝導性材料、及びバインダー樹脂を含む混合物を調整する工程と、 前記混合物を用いて熱伝導性シート前駆体を形成する工程と、 前記熱伝導性シート前駆体に少なくとも3MPaの圧力を適用して熱伝導性シートを形成する工程と、を備える、熱伝導性シートの製造方法。」が記載されており、[0007](摘記1-2)には、甲1出願の発明の課題が「熱伝導性及び絶縁破壊耐性に優れる熱伝導性シートの前駆体、並びに該前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法を提供する」ことにあることが記載されている。 また、具体的な製造方法については[0047](摘記1-4)に、「所定の容器中に、バインダー樹脂、溶剤、及び任意に硬化剤等を配合し、・・・撹拌混合し、混合物Aを調整する。次いで、混合物Aに対して、等方熱伝導性凝集体及び異方熱伝導性材料、任意に溶剤をさらに配合し、・・・撹拌混合し、混合物Bを調整する。次いで、混合物Bを剥離ライナー上に、バーコーター、ナイフコーター等の公知の塗工手段を用いて塗工し、所定条件で乾燥させて熱伝導性シート前駆体を得る」こと、及び「得られた熱伝導性シート前駆体に対して、約50℃~約70℃で約1~約10分間、少なくとも約3MPa、少なくとも約4MPa、又は少なくとも約5MPaの圧力を適用し、図1の(b)に示されるような熱伝導性シートを製造することができる」ことが記載されている。 さらに、実施例については、[0051]の[表1](摘記1-6)に使用した原料が記載され、[0054]の[表2](摘記1-7)に熱伝導性シート前駆体用コーティング液の配合組成が記載され、[0059]~[0062](摘記1-8)には、実施例1~3及び比較例1として、それぞれ熱伝導性シート前駆体用コーティング液TA-3、TA-5、TA-6又はT-0を用いた熱伝導性シートの製造例が記載されており、「熱伝導性シート前駆体用コーティング液・・・を作製後、直ちに、38μm厚の剥離PETライナー(A31:東レデュポン株式会社製)上に、ギャップ間隔290μmのナイフコーターでコーティングし、65℃で5分間乾燥させた後、100℃で5分間さらに乾燥させて、各種圧力を適用するための、厚さ約180μmの熱伝導性シート前駆体を各々作製した。次いで、各熱伝導性シート前駆体に対し、2枚のシート前駆体を積層して、65℃で5分間、1MPa、2MPa、3MPa、10MPaの圧力を各々適用して熱伝導性シートを作製した」こと、「1MPa及び2MPaの圧力適用時の実施形態は参考例」であること、及び「熱伝導性前駆体の厚さに対する熱伝導性シートの厚さの割合、及び絶縁破壊電圧の結果」が図4に示されることが記載され、上記表1及び表2を参照すると、TA-3、TA-5、TA-6及びT-0は、いずれもフェノールノボラック型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名jER(登録商標)152、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製、商品名YDCN-700-3)、硬化剤:ジシアンジアミド(エボニックジャパン株式会社製、商品名DICYANEX(登録商標)1400F、鱗片状(板状)窒化ホウ素一次粒子が凝集した平均粒子径84μmの等方熱伝導性凝集体、最も小さい側の長さの最大値:119μm(スリーエムジャパン株式会社製、商品名3M(商標)窒化ホウ素 クーリングフィラーAタイプAgglomerate100(A100))及び溶剤であるメチルエチルケトン(和光純薬工業株式会社製)を含有するものであることが読み取れる。 そうすると、甲1出願の当初明細書等には以下の発明が記載されている。 「エポキシ樹脂と、硬化剤と、鱗片状(板状)窒化ホウ素一次粒子が凝集した等方熱伝導性凝集体と、溶剤と、を表1及び表2に記載された成分組成で含む塗布液TA-3、TA-5、TA-6又はT-0を、剥離ライナー上に、ギャップ間隔290μmのナイフコーターでコーティングし、65℃で5分間乾燥させた後、100℃で5分間さらに乾燥させて、厚さ約180μmの熱伝導性シート前駆体を各々作製する工程と、 各熱伝導性シート前駆体に対し、2枚のシート前駆体を積層して、65℃で5分間、3MPa、10MPaの圧力を各々適用して絶縁性熱伝導性シートを作製する工程と、 を備える、絶縁性熱伝導性シートの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。) (4)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「エポキシ樹脂」、「硬化剤」、「鱗片状(板状)窒化ホウ素一次粒子が凝集した等方熱伝導性凝集体」、「溶剤」、「を表1及び表2に記載された成分組成で含む塗布液TA-3、TA-5、TA-6又はT-0」、「剥離ライナー上に、ギャップ間隔290μmのナイフコーターでコーティングし」、「65℃で5分間乾燥させた後、100℃で5分間さらに乾燥させて」、「厚さ約180μmの熱伝導性シート前駆体を各々作製する工程」、「各熱伝導性シート前駆体に対し、2枚のシート前駆体を積層して、65℃で5分間、3MPa、10MPaの圧力を各々適用して」、「絶縁性熱伝導性シートを作製する工程と」、「を備える、絶縁性熱伝導性シートの製造方法。」は、それぞれ本件発明1における「エポキシ樹脂」、「硬化剤」、「窒化ホウ素凝集粉」、「溶剤」、「を含む塗布液」、「シート状に塗工後」、「加熱して」、「樹脂シートを得る第一の工程」、「前記樹脂シートを加熱プレスして」、「絶縁シートを得る第二の工程と」、「を備える、絶縁シートの製造方法。」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、樹脂シートを得る第一の工程と、 前記樹脂シートを加熱プレスして絶縁シートを得る第二の工程と、 を備える、絶縁シートの製造方法。」 の点で一致し、 相違点1:本件発明1は樹脂シートが「15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下」であることが特定されているのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点 相違点2:本件発明1は「窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである」ことが特定されているのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点 で相違する。 そこで、事案に鑑みて、相違点2について検討する。 イ 相違点2について 甲1の[0052]の[表1](摘記1-6)には、実施例で用いられた窒化ホウ素凝集粉の商品名が記載されているが、窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度は記載されていない。また、[0031](摘記1-3)には、「凝集体は、図3に示されるように、所定圧力後に、1mm2当たり、約20%以上、約30%以上、又は約40%以上の崩壊率を有していることが好ましい。」と記載されているが、圧壊強度を相違点2に係る「1.0~15MPa」に特定することは記載されていない。さらに、本件特許に係る出願の出願日当時に、絶縁シートに配合する窒化ホウ素凝集粉として圧壊強度が1.0~15MPaのものを用いることが周知の技術的事項であったとも認められない。 そうすると、相違点2は実質的な相違点である。 ウ 本件発明1についてのまとめ よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1と甲1発明とは同一ではない。 (5)本件発明3及び4について 本件発明3及び4は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。 そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明3及び4は、いずれも甲1発明と同一ではない。 (6)取消理由3(甲1に基づく拡大先願)のまとめ 以上まとめると、本件発明1、3及び4は、甲1出願の当初明細書等に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、取消理由3(甲1に基づく拡大先願)により本件発明1、3及び4についての特許を取り消すことはできない。 4.取消理由4(甲4~甲8に基づく進歩性欠如)について (1)引用文献及びその記載事項 ア 甲4に記載された事項 甲4には以下の事項が記載されている。 (4-1)「[請求項1] 窒化ホウ素粒子(以下「BN粒子」と称す。)を含む窒化ホウ素シートの製造方法であって、沸点が150℃以上である有機化合物溶媒を用いてBN粒子含有スラリーを調製する工程、該スラリーを基材に塗布して乾燥させる工程、該塗布乾燥物を加圧して成形する工程、及び該成形物を熱硬化させる工程とを有し、該塗布乾燥物中の150℃以上を有する有機化合物量が0ppm超1800ppm以下であることを特徴とする窒化ホウ素シートの製造方法。 [請求項2] BN粒子が、窒化ホウ素粒子が凝集したものである請求項1に記載の窒化ホウ素シートの製造方法。」 (4-2)「[発明が解決しようとする課題] [0007] しかしながら、特許文献1~2のように、窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素シートを製造する際に、有機溶媒は窒化ホウ素粒子や樹脂をスラリー化するための一助材の役割に過ぎず、従来では特にシートの物性に影響を与えない因子であると考えられてきた。 また、特許文献3では、150℃以上の沸点を有する有機溶媒を0.1~2質量部を含ませるとの記載があるが、このように多量の有機溶媒が含有されているシートでは、熱伝導度が1~10W/mK 程度しか得られず、パワーデバイスに求められる10W/mKを超えるような高い熱伝導度が得られないという問題点があった。 [0008] このように、有機溶媒の放熱シートに求められる物性に影響を与えるものとして、放熱シートの製造工程において有機溶媒の種類や量に焦点を当てた技術が今まで開発されてこなかったのが現状である。 そこで、窒化ホウ素シートの製造方法であって、沸点が150℃以上である有機化合物溶媒を用いてBN粒子含有スラリーを調製する工程、該スラリーを基材に塗布して乾燥させる工程、該塗布乾燥物を加圧して成形する工程、及び該成形物を熱硬化させる工程とを有し、該塗布乾燥物中の沸点が150℃以上である有機化合物量を0ppm超1800ppm以下に制御することにより、高い熱伝導度を持つシートを提供することを課題とする。 [課題を解決するための手段] [0009] 本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、窒化ホウ素シートの製造方法において、該製造工程中の有機溶媒に着目し、窒化ホウ素粒子を有機化合物溶媒と混合、塗布、乾燥、そして加圧成形、熱硬化という通常放熱シートを製造する工程の中でも、最適である塗布乾燥条件を見つけ出すことにより、このように制御され製造された窒化ホウ素シートは熱伝導度が高いものであることを見出した。すなわち、塗布乾燥物中の沸点が150℃以上である有機化合物量を0ppm超1800ppm以下に制御することにより、シートにした際にクラック等が入りにくいために熱伝導度が向上すると考えられる。また、塗布乾燥物中の有機化合物が多すぎると、シートにした際にボイド内に溜まった溶媒を通って放電するため、耐電圧も低下すると推測される。窒化ホウ素粒子を含む熱硬化後の窒化ホウ素シートにおいて、乾燥条件を最適な条件とすることによって熱伝導性と耐電圧の高い窒化ホウ素シートを作製可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。」 (4-3)「[0021] ・破壊強度 BN凝集粒子の破壊強度は、通常2.5MPa以上、好ましくは3.0MPa以上、より好ましくは3.5MPa以上、更に好ましくは4.0MPa以上であり、通常20MPa以下、好ましくは15MPa以下、更に好ましくは10MPa以下である。上記上限より大きいと、粒子の強度が強すぎるため、成形体とした際に表面平滑性が失われ、熱伝導性が低下する傾向があり、上記下限未満だと、成形体を作製する際の圧力で粒子が変形しやすくなり、熱伝導性が向上しない傾向がある。 [0022] なお、破壊強度は、粒子1粒をJIS R 1639-5に従って圧縮試験し、下記式により算出できる。通常、粒子は5点以上測定し、その平均値を採用する。 式:Cs=2.48P/πd2 Cs:破壊強度(MPa) P:破壊試験力(N) d:粒子径(mm) ただし、粒子が変形したりして破壊強度が算出できず、10%強度で表す場合があるが、この場合は破壊強度という概念を適用しない。」 (4-4)「[0047] [BN粒子含有樹脂組成物] 本発明の窒化ホウ素シートを製造する際に少なくともBN粒子と樹脂とを含有したBN粒子含有樹脂組成物を製造することでより高い熱伝導率を持つ放熱シートを製造することが可能となる。 BN粒子含有樹脂組成物中におけるBN粒子の含有割合(本明細書では、フィラー充填量ともいう)は、BN粒子と樹脂の合計を100質量%として、通常5~95質量%、好ましくは30~90質量%、更に好ましくは50~90質量%である。上記上限より大きいと、粘度が高くなりすぎて成形加工性が確保できなくなるとともに、逆にBN粒子の密な充填が阻害されるために熱伝導性が低下する傾向があり、上記下限未満だと、成形加工性は確保できるものの、BN粒子が少なすぎて熱伝導性が向上しない傾向がある。 [0048] <樹脂> BN粒子含有樹脂組成物に用いる樹脂としては、特に制限はないが、好ましくは硬化性樹脂、熱可塑性樹脂である。例えば、硬化性樹脂としては、熱硬化性、光硬化性、電子線硬化性など重合可能なものであれば良いが、耐熱性、吸水性、寸法安定性などの点で、熱硬化性樹脂および/または熱可塑性樹脂が好ましく、これらの中でもエポキシ樹脂がより好ましい。これらの樹脂は2種以上組わせて用いてもよい。 [0049] エポキシ樹脂は1種類の構造単位を有するエポキシ樹脂のみであってもよいが、構造単位の異なる複数のエポキシ樹脂を組み合わせてもよい。また、エポキシ樹脂は、必要に応じて、エポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤と共に用いられる。 ここで、塗膜性ないしは成膜性や接着性と併せて、硬化物中のボイドを低減して高熱伝導の硬化物を得るために、エポキシ樹脂として少なくとも後述するフェノキシ樹脂(以下、「エポキシ樹脂(A)」と称す。)を含むことが好ましく、特にエポキシ樹脂全量に対するエポキシ樹脂(A)の質量比率が、好ましくは5~95質量%の範囲、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは20~80質量%の範囲で含有されることが好ましいが、何らこのようなものに限定されるものではない。」 (4-5)「[0070] [放熱シートの製造方法] 以下、窒化ホウ素粒子のBN粒子含有スラリーを用いて本発明の放熱シートを製造する方法を具体的に説明する。本発明の窒化ホウ素シートの製造方法は、上述した沸点が150℃以上である有機化合物溶媒を用いてBN粒子含有スラリーを調製する工程の他、後述する該スラリーを基材に塗布して(塗布工程)、乾燥させる工程(乾燥工程)、該塗布乾燥物を加圧して成形する工程(シート化工程)、及び該成形物を熱硬化させる工程(熱硬化工程)を少なくとも有する。 [0071] <塗布工程> まず基板の表面に、窒化ホウ素粒子のBN粒子含有スラリーを用いて塗膜を形成する。 即ち、BN粒子含有スラリーを用いて、ディップ法、スピンコート法、スプレーコート法、ブレード法、その他の任意の方法で塗膜を形成する。組成物塗布液の塗布には、スピンコーター、スリットコーター、ダイコーター、ブレードコーターなどの塗布装置を用いることにより、基板上に所定の膜厚の塗膜を均一に形成することが可能であり、ギャップを調製可能なブレードコーターが好ましい。 なお、基板としては、後述の厚さの銅箔が一般的に用いられるが、何ら銅基板に限定されるものではない。また、基板の表面には凹凸があったり、また、表面処理が為されていてもよい。」 (4-6)「[0072] <乾燥工程> 次に、基板に塗布されたBN粒子含有スラリーを乾燥させ塗布乾燥物を得る。乾燥温度は、通常15℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは23℃であり、通常100℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。 この乾燥の加熱温度が低過ぎたり、加熱時間が短過ぎたりすると、塗膜中の有機溶媒を十分に除去し得ず、得られる乾燥膜中に有機溶媒が残留し、残留した有機溶媒が次のシート化工程における高温加圧処理で蒸発し、残留溶媒の蒸発跡がボイドとなって、高熱伝導性、高絶縁性、所定の物理的強度等を有するシートを形成し得ない。逆に、乾燥の加熱温度が高過ぎたり、加熱時間が長過ぎたりすると、樹脂の硬化が進行し、良好な乾燥膜とすることができない。 ・・・ [0075] この際、一定の温度において加熱処理を行ってもよいが、塗布液中の有機溶媒等の揮発成分の除去を円滑に進めるために、減圧条件下にて加熱処理を行ってもよい。また、樹脂の硬化が進行しない範囲で、段階的な昇温による加熱処理を行っても良い。例えば、初めに25~40℃、例えば30℃で、次に40~90℃、例えば50℃で、各30分~60分程度の加熱処理を実施することができる。」 (4-7)「[0078] <シート化工程> 乾燥工程の後には、塗布乾燥物を加圧、成形する工程(シート化工程)を行う。シート化工程では、通常、銅基板に塗布、乾燥した塗布乾燥物を所定の大きさにカットする。 シート化をする際の加熱温度(プレス温度)は、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは、100℃以上、更に好ましくは110℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。 [0079] この加熱温度が上記下限未満の場合、熱硬化反応が十分進行せず、BN粒子同士の接触やBN粒子と樹脂界面の接触も不十分となるため高熱伝導性、高絶縁性、所定の物理的強度等を有するシートを形成し得ない。逆に、前記範囲の上限を超える場合、樹脂の分解が生じやすくなり、該分解によるボイドや分子量の低下により、高熱伝導性、高絶縁性、所定の物理的強度等を有するシートを形成できない傾向がある。 [0080] また加熱時間は、通常0.5時間以上、好ましくは1.0時間以上、より好ましくは1.5時間以上、更に好ましくは2.0時間以上であり、通常5.0時間以下、好ましくは4.5時間以下、より好ましくは4.0時間以下、更に好ましくは3.5時間以下である。加熱時間が短すぎると、BN粒子同士の接触やBN粒子と樹脂界面の接触も不十分となるため高熱伝導性、高絶縁性、所定の物理的強度等を有するシートを形成しにくい傾向がある。逆に、加熱時間が前記上限を超える場合、樹脂の酸化分解が生じやすくなり、該分解によるボイドや分子量の低下により、高熱伝導性、高絶縁性、所定の物理的強度等を有するシートを形成できなくなる傾向がある。 [0081] 上記銅基板への接着を促進するために行う加圧工程(プレス処理ともいう)におけるプレス圧力は、銅基板上の乾燥膜に、通常10kgf/cm2以上、好ましくは150gf/cm2以上、より好ましくは200gf/cm2以上、更に好ましくは250gf/cm2以上であり、通常、2000Kgf/cm2以下、好ましくは1000kgf/cm2以下、より好ましくは900gf/cm2以下、更に好ましくは800gf/cm2以下を加圧する。この加圧時の加重を上記上限以下とすることにより、凝集BN粒子が破壊することなく、シート中に空隙などがない高い熱伝導性を有するシートを得ることが出来る。また、加重を上記下限以上とすることにより、凝集BN粒子間の接触が良好となり、熱伝導パスを形成しやすくなるため、高い熱伝導性を有するシートを得ることが出来る。 [0082] 特に熱硬化工程を経るシート化工程においては、上記の範囲の加重をかけて、加圧、硬化を行うことが好ましい。 熱硬化工程では、銅基板に塗布、乾燥した組成物膜を通常80℃以上、好ましくは100℃以上、例えば100~140℃の温度で1~5分程度所定の加重をかけて加圧することにより、塗布・乾燥膜中の樹脂の溶融粘度を低下させると同時に、ある程度硬化反応を進めて、銅基板への接着を促進する加圧工程と、その後、樹脂膜を完全に硬化させるために、所望の硬化温度、例えば150℃以上で2~4時間程度、オーブンなどで加熱することにより硬化反応を行わせてシートを作製する硬化工程とが行われる。硬化工程において完全硬化させる際の加熱温度の上限は、使用する樹脂が分解、変質しない温度であり、樹脂の種類、グレードにより適宜決定されるが、通常300℃以下で行われる。」 (4-8)「[0087] また、本発明の窒化ホウ素シートは、上述のように大きな加重下でシート化を行って製造してもよいが、特に加重をかける前の硬化前シート厚みと加重をかけて完全に硬化させた後の硬化シート厚みの比((硬化シート厚み)/(硬化前シート厚み))から計算される圧縮率(1-(硬化シート厚み)/(硬化前シート厚み))が0.2以上0.8以下の圧縮率の時に、厚み方向に10W/mK以上50W/mK以下の高熱伝導性が発現する。この圧縮率は、より好ましくは0.3以上0.7以下、更に好ましくは0.4以上0.7以下、特に好ましくは0.5以上0.7以下である。圧縮率を上記上限以下とすることにより、BN粒子が破壊することなく、シート中に空隙などがない高い熱伝導性を有するシートを得ることが出来る。また、圧縮率を上記下限以上とすることにより、凝集BN粒子間の接触が良好となり、熱伝導パスを形成しやすくなるため、高い熱伝導性を有する放熱シートを得ることが出来る。」 (4-9)「[0089] <銅張り合わせ放熱シート> 本発明の銅張り合わせ放熱シートは、例えば、上述の放熱シートの製造方法により製造される銅基板としての銅箔が積層一体化されたものである。 本発明の放熱シート又は本発明の銅張り合わせ放熱シートに銅箔と積層された放熱シートの厚さについては特に制限はないが、通常100~1000μm、特に150~500μmであることが好ましい。放熱シートの厚さが上記下限未満では、硬化膜の厚さが薄すぎて、耐電圧特性が悪化し、絶縁破壊電圧が低くなるため好ましくなく、上記上限を超えるとパワー半導体デバイスの小型化や薄型化が達成できなくなるため好ましくない。 また、銅箔の厚さは通常、十分な放熱性を確保するという理由から、30~200μm、特に30~150μmであることが好ましい。 [0090] 〔パワーデバイス装置〕 本発明のパワーデバイス装置は、本発明の放熱シート又は本発明の銅張り合わせ放熱シートが放熱基板として実装されたものであり、その高い熱伝導性による放熱効果で、高い信頼性のもとに、高出力、高密度化が可能である。パワー半導体デバイス装置において、本発明の放熱シート以外のアルミ配線、封止材、パッケージ材、ヒートシンク、サーマルペースト、はんだというような部材は従来公知の部材を適宜採用できる。」 (4-10)「[0094] (実施例1) 以下に記載される方法で、BN凝集粒子、BN凝集粒子を含むBN粒子含有樹脂組成物、該BN粒子含有樹脂組成物を成形した成形体を作製した。BN―A凝集粒子を作製するためには、原料として、粉末X線回折測定によりえられる(002)面ピークの半値幅が2θ=0.67°、酸素濃度が7.5質量%であるh-BN(以下原料h-BN粉末と記載)を用いた。 ・・・ [0097] [BN粒子含有樹脂組成物の製造] 上記で得られたBN凝集粒子をフィラーとして用い、フィラーとエポキシ樹脂とからなるBN粒子含有樹脂組成物を調製した。 樹脂組成物としては、以下の樹脂を用いた。 エポキシ樹脂は、いずれも三菱化学社製のエポキシ樹脂を用いた。主剤としては多官能エポキシ樹脂157S70を用い、BPA液状エポキシ樹脂828US、及び4275を、157S70 : 828US : 4275= 4 : 1 : 1の重量比で混合した。更に、エポキシ樹脂混合物と溶媒メチルエチルケトン(MEK)とを66:34重量比で撹拌・混合して所望のエポキシ樹脂液を得た。 [0098] (放熱シートの調製及び評価) [BN粒子含有スラリーの調製] 上記エポキシ樹脂液1.4gを50cc軟膏瓶にとり、上記で製造されたBN凝集粒子7.3gと液粘度調整のための溶媒としてシクロヘキサノン(CHN)6.3gとを混合して、それぞれ手撹拌した後、自公転攪拌機「泡取り錬太郎」AR-250を用いて二分間攪拌を行った。 [0099] 更に、硬化剤として、四国化成製イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤《キュアゾール》C11Z- CN(1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール)0.06g、及び分散剤として、ビッグケミー・ジャパン社のBYK-2155 0.4gとを加えて手攪拌した後、自公転攪拌機「泡取り錬太郎」AR-250を用いて二分間攪拌を行い塗布用塗布スラリーとした。 [0100] [スラリーの塗布によるシート成形] 次に、ドクターブレードを用いて、ギャップ400μmで福田金属箔粉製Cu箔(厚み105μm、表面処理あり)上に塗布後、一昼夜風乾しシートを得た。風乾後、4cm角にカットし、チャック付ビニール袋内にて二日間保管し塗布乾燥物を得た。そして、この塗布三日後の塗布乾燥物について、塗布乾燥物中の有機化合物量を測定した。結果、CHNは1200ppm、MEKは18ppmであった。 [0101] 次に、シートのボイドを低減化するために、金型と全圧10tonの小型プレス機を用いてホットプレスを行った。プレス前に金型をプレス温度(120℃)よりも10℃高い温度で予熱しておき、プレスの直前に金型内部(4cm角)に剥離PETフィルムで挟んだサンプルシートを入れて上蓋をセットした後、素早く所定温度のプレス機にセットして500kg/cm2で3分間プレス処理を行った。 [0102] [熱硬化処理] 熱硬化処理は、プレス処理後のシートを約1cm厚みの剥離性ガラス板に挟んだ状態で熱風乾燥機内に投入し、150度,2hr熱硬化させた。 次いで、この硬化物サンプルについて、厚み方向の熱伝導度を測定した。得られた放熱シートの熱伝導度は18.2W/mKであった。)」 イ 甲5に記載された事項 甲5には以下の事項が記載されている。 (5-1)「[請求項1] エポキシ樹脂と硬化剤と無機フィラーからなるエポキシ樹脂組成物であって、無機フィラーが窒化ホウ素凝集粉であり、前記窒化ホウ素凝集粉が、平均粒子径20~100μm、空隙率50~70体積%、圧壊強度1.0~4.0MPaであり、かつ、前記窒化ホウ素凝集粉の含有量が35~65体積%であるエポキシ樹脂組成物。 ・・・ [請求項4] 金属板上に絶縁層を介して回路材が積層された金属ベース回路基板であって、前記絶縁層が請求項2または3記載のエポキシ樹脂シートであることを特徴とする金属ベース回路基板。」 (5-2)「[0011] 本発明に使用する無機フィラーは、窒化ホウ素粉が凝集した凝集粉であり、その凝集粉の空隙率が50~70体積%で、窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度は1.0~4.0MPaの範囲である。窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0MPa未満の場合、樹脂との混練プロセス中に凝集粉が崩れ、配向制御が難しい。圧壊強度が4.0MPaを超える場合はプレス成形時に加圧を行ってもフィラーの変形がおきず、窒化ホウ素粉同士の接触が取りにくいため、熱伝導率が上昇しにくい。 [0012] 本発明に使用する窒化ホウ素凝集粉の空隙率は、50~70体積%である。50体積%未満の場合、プロセスによってはプレス成形した際のフィラーの変形が十分に起こらず、窒化ホウ素粉同士の接触が得られにくく、熱伝導率が上昇しにくい。空隙率が70体積%を超える場合、窒化ホウ素粉の内部の空隙に多くの樹脂が入り込むため、塗工液の粘度が上昇しやすく、ボイド等の欠陥が生じやすい。」 ウ 甲6に記載された事項 甲6には以下の事項が記載されている。 (6-1)「[請求項5] エポキシ樹脂と、硬化剤と、六方晶窒化ホウ素を含む樹脂組成物を押出成形して得られたシートを半硬化させることによって形成され且つ六方晶窒化ホウ素が横方向に配向した横配向シートを積層して積層体を形成し、 この積層体に対して等方圧プロセスによって20MPa以上の圧力を加え、 その後、前記積層体を積層方向に切断して縦配向シートを形成する工程を備え、 前記エポキシ樹脂及び前記硬化剤の少なくとも一方が多環芳香族構造を有し、 前記六方晶窒化ホウ素は、前記縦配向シートにおける前記六方晶窒化ホウ素の含有量が50~85体積%となるように配合される、熱伝導性絶縁シートの製造方法。 ・・・ [請求項8] 請求項5~7の何れか1つに記載の方法によって熱伝導性絶縁シートを製造し、 金属ベース材上に前記熱伝導性絶縁シート及び導体層をこの順で積層し、 その状態で前記熱伝導性絶縁シートを硬化させる工程を備える、金属ベース基板の製造方法。 [請求項9] 請求項8に記載の方法によって金属ベース基板を製造し、 前記導体層を加工して導体回路を形成する工程を備える、金属ベース回路基板の製造方法。」 エ 甲7に記載された事項 甲7には以下の事項が記載されている。 (7-1)「[0001] 本発明は、窒化ホウ素粉末及びこれを含有する樹脂組成物に関する。詳しくは、本発明は、パワーデバイスなどの発熱性電子部品の熱を、放熱部材に伝達するための樹脂組成物として好適に用いられる。特に、本発明は、プリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材の樹脂組成物に充填される、高熱伝導率を発現する窒化ホウ素粉末及びこれを含有する樹脂組成物に関する。」 (7-2)「[0022]<空隙率> 本発明の窒化ホウ素粉末においては、空隙率が50~80%である。空隙率が50%より小さいと、窒化ホウ素粒子の弾性率が高くなるため、窒化ホウ素粒子同士の面接触が不十分になり、樹脂組成物の熱伝導率が低下する。空隙率が80%を超えると、窒化ホウ素粒子の粒子強度が低下するため、樹脂への混練時に受ける剪断応力や窒化ホウ素粒子同士の面接触時の圧縮応力により球状構造が破壊され、一次粒子の六方晶窒化ホウ素粒子が同一方向に配向する。」 オ 甲8に記載された事項 甲8には以下の事項が記載されている。 (8-1)「[技術分野] [0001] 本発明は、窒化ホウ素粉末及びその用途に関する。詳しくは、パワーデバイスなどの発熱性電子部品の放熱部材として好適に用いられる。特に、プリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材の樹脂組成物に充填される、熱伝導率及び比誘電率に優れた窒化ホウ素粉末に関する。」 (8-2)「[0017] <空隙率> 本発明の窒化ホウ素粉末においては、空隙率が50~80%である。空隙率が50%より小さいと言うことは、比誘電率が小さい空気の占める体積が小さく、本発明の特徴である低比誘電率を発現することが出来ない。空隙率が80%を超えると、窒化ホウ素粒子の粒子強度が低下するため、樹脂への混練時に受ける剪断応力により球状構造が破壊され、一次粒子の六方晶窒化ホウ素粒子が同一方向に配向する。」 (2)甲4に記載された発明 甲4の請求項1及び2(摘記4-1)には、「窒化ホウ素粒子(以下「BN粒子」と称す。)を含む窒化ホウ素シートの製造方法であって、沸点が150℃以上である有機化合物溶媒を用いてBN粒子含有スラリーを調製する工程、該スラリーを基材に塗布して乾燥させる工程、該塗布乾燥物を加圧して成形する工程、及び該成形物を熱硬化させる工程とを有し、該塗布乾燥物中の150℃以上を有する有機化合物量が0ppm超1800ppm以下であることを特徴とする窒化ホウ素シートの製造方法。」及び「BN粒子が、窒化ホウ素粒子が凝集したものである請求項1に記載の窒化ホウ素シートの製造方法。」が記載されており、[0009](摘記4-2)には、「熱伝導性と耐電圧の高い窒化ホウ素シートを作製可能」であることが記載されている。また、[0047]~[0049](摘記4-4)には、「本発明の窒化ホウ素シートを製造する際に少なくともBN粒子と樹脂とを含有したBN粒子含有樹脂組成物を製造することでより高い熱伝導率を持つ放熱シートを製造することが可能」であり、樹脂としては「エポキシ樹脂がより好ましい」こと、及び「エポキシ樹脂は、必要に応じて、エポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤と共に用いられる」ことが記載されている。 さらに、[0070](摘記4-5)には、「本発明の窒化ホウ素シートの製造方法は、・・・BN粒子含有スラリーを調製する工程の他、後述する該スラリーを基材に塗布して(塗布工程)、乾燥させる工程(乾燥工程)、該塗布乾燥物を加圧して成形する工程(シート化工程)、及び該成形物を熱硬化させる工程(熱硬化工程)を少なくとも有する」ことが記載され、[0082](摘記4-7)には、「特に熱硬化工程を経るシート化工程においては、上記の範囲の加重をかけて、加圧、硬化を行うことが好ましい」こと及び「熱硬化工程では、銅基板に塗布、乾燥した組成物膜を通常80℃以上、好ましくは100℃以上、例えば100~140℃の温度で1~5分程度所定の加重をかけて加圧することにより、塗布・乾燥膜中の樹脂の溶融粘度を低下させると同時に、ある程度硬化反応を進めて、銅基板への接着を促進する加圧工程と、その後、樹脂膜を完全に硬化させるために、所望の硬化温度、例えば150℃以上で2~4時間程度、オーブンなどで加熱することにより硬化反応を行わせてシートを作製する硬化工程とが行われる」ことが記載されている。 加えて、[0094]~[0102](摘記4-10)には実施例1が記載されており、[0097]~[0099]には、いずれも三菱化学社製の多官能エポキシ樹脂157S70、BPA液状エポキシ樹脂828US及び4275を4:1:1の重量比で混合し、エポキシ樹脂混合物と溶媒メチルエチルケトン(MEK)とを66:34重量比で撹拌・混合してエポキシ樹脂液とし、エポキシ樹脂液1.4gとBN凝集粒子7.3gと溶媒シクロヘキサノン(CHN)6.3gとを混合、撹拌し、硬化剤として四国化成製イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤≪キュアゾール≫C11Z-CN(1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール)0.06g及び分散剤としてビッグケミー・ジャパン社のBYK-2155 0.4gとを加えて攪拌を行い、塗布用塗布スラリーとしたことが記載され、[0100]には、「ドクターブレードを用いて、ギャップ400μmで福田金属箔粉製Cu箔(厚み105μm、表面処理あり)上に塗布後、一昼夜風乾しシートを得た。風乾後、4cm角にカットし、チャック付ビニール袋内にて二日間保管し塗布乾燥物を得た」ことが記載され、[0101]には、「シートのボイドを低減化するために、金型と全圧10tonの小型プレス機を用いてホットプレスを行った。プレス前に金型をプレス温度(120℃)よりも10℃高い温度で予熱しておき、プレスの直前に金型内部(4cm角)に剥離PETフィルムで挟んだサンプルシートを入れて上蓋をセットした後、素早く所定温度のプレス機にセットして500kg/cm2で3分間プレス処理を行った」ことが記載され、[0102]には、「熱硬化処理は、プレス処理後のシートを約1cm厚みの剥離性ガラス板に挟んだ状態で熱風乾燥機内に投入し、150度、2hr熱硬化させた」ことが記載されている。 そうすると、甲4には、実施例1に基づく以下の発明が記載されている。 「エポキシ樹脂(三菱化学社製の多官能エポキシ樹脂157S70、BPA液状エポキシ樹脂828US及び4275を4:1:1の重量比で混合)を1.4×0.66gと、硬化剤(四国化成製イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤≪キュアゾール≫C11Z-CN(1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール))0.06gと、窒化ホウ素粒子が凝集したBN粒子7.3gと、溶媒メチルエチルケトン1.4×0.34gと、溶媒シクロヘキサノン6.3gと、分散剤(ビッグケミー・ジャパン社製BYK-2155)0.4gと、を含む塗布用塗布スラリーを、福田金属箔粉製Cu箔(厚み105μm、表面処理あり)上にドクターブレードを用いてギャップ400μmで塗布する工程(塗布工程)、塗布乾燥物を得る工程(乾燥工程)、金型と全圧10tonの小型プレス機を用いて120℃で500kg/cm2で3分間ホットプレスを行う工程(加重をかけて加圧することにより、塗布・乾燥膜中の樹脂の溶融粘度を低下させると同時に、ある程度硬化反応を進めて、銅基板への接着を促進する加圧工程)、及びプレス処理後のシートを約1cm厚みの剥離性ガラス板に挟んだ状態で熱風乾燥機内に投入し、150度、2hr熱硬化させる工程(樹脂膜を完全に硬化させる硬化工程)を備える、耐電圧の高い窒化ホウ素シートの製造方法。」(以下、「甲4発明」という。) (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲4発明との対比 本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明における「エポキシ樹脂(三菱化学社製の多官能エポキシ樹脂157S70、BPA液状エポキシ樹脂828US及び4275を4:1:1の重量比で混合)」、「硬化剤(四国化成製イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤≪キュアゾール≫C11Z-CN(1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール))」、「窒化ホウ素粒子が凝集したBN粒子」、「溶媒メチルエチルケトン」及び「溶媒シクロヘキサノン」、「を含む塗布用塗布スラリー」、「福田金属箔粉製Cu箔(厚み105μm、表面処理あり)上にドクターブレードを用いてギャップ400μmで塗布する工程(塗布工程)」、「塗布乾燥物を得る工程(乾燥工程)」、「金型と全圧10tonの小型プレス機を用いて120℃で500kg/cm2で3分間ホットプレスを行う工程(加重をかけて加圧することにより、塗布・乾燥膜中の樹脂の溶融粘度を低下させると同時に、ある程度硬化反応を進めて、銅基板への接着を促進する加圧工程)、及びプレス処理後のシートを約1cm厚みの剥離性ガラス板に挟んだ状態で熱風乾燥機内に投入し、150度、2hr熱硬化させる工程(樹脂膜を完全に硬化させる硬化工程)」並びに「を備える、耐電圧の高い窒化ホウ素シートの製造方法。」は、それぞれ本件発明1における「エポキシ樹脂」、「硬化剤」、「窒化ホウ素凝集粉」、「溶剤」、「を含む塗布液」、「シート状に塗工」、「加熱して、・・・樹脂シートを得る第一の工程」、「前記樹脂シートを加熱プレスしてして絶縁シートを得る第二の工程」及び「を備える、絶縁シートの製造方法。」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲4発明とは、 「エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、樹脂シートを得る第一の工程と、 前記樹脂シートを加熱プレスして絶縁シートを得る第二の工程と、 を備える、絶縁シートの製造方法。」 の点で一致し、 相違点1:本件発明1は樹脂シートが「15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下」であることが特定されているのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点 相違点2:本件発明1は「窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである」ことが特定されているのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点 で相違する。 そこで、上記相違点1について検討する。 イ 相違点1について 甲4の[0072]及び[0075](摘記4-6)には、乾燥工程に関し、「乾燥の加熱温度が高過ぎたり、加熱時間が長過ぎたりすると、樹脂の硬化が進行し、良好な乾燥膜とすることができない」こと、及び「樹脂の硬化が進行しない範囲で、段階的な昇温による加熱処理を行っても良い」ことが記載されている。また、[0100](摘記4-10)には、実施例における乾燥工程が「チャック付ビニール袋内にて二日間保管し塗布乾燥物を得た」というものであったことが記載されている。これらの記載からみて、甲4発明における加熱プレス前の樹脂シートは、樹脂の硬化が進行していないものであることが明らかであり、当該樹脂シートを相違点1に係る「反応率が30%以上60%以下」まで硬化が進行したものに変更することに対しては、「良好な乾燥膜とすることができない」という阻害要因も明記されている。 そうすると、甲4発明において相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 ウ 本件発明1についてのまとめ よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明3~6、8について 本件発明3~6及び8は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。 そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明3~6及び8は、いずれも甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件発明7について ア 本件発明7と甲4発明との対比 上記(3)アに記載した本件発明1と甲4発明との対比を踏まえて本件発明7と甲4発明とを対比すると、両者は 「エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、樹脂シートを得る第一の工程と、 前記樹脂シートを加熱して絶縁シートを得る第二の工程と、 を備える、絶縁シートの製造方法。」 の点で一致し、 相違点3:本件発明7は「第一の金属板と、絶縁シートと、第二の金属板と、をこの順に備え、第一の金属板及び第二の金属板のうちの少なくとも一方が電気回路を形成している金属ベース回路基板の製造方法」と特定するのに対し、甲4発明はCu箔を備えた耐電圧の高い窒化ホウ素シートの製造方法である点 相違点4:本件発明7は樹脂シートが「15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下」であることが特定されているのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点 相違点5:本件発明7は「前記樹脂シートを第一の金属板及び第二の金属板で挟んで得られた積層体」と特定するのに対し、甲4発明はCu箔上に塗布用塗布スラリーの乾燥物を有する点 相違点6:本件発明7は「前記金属基板における前記第一の金属板及び前記第二の金属板の少なくとも一方に電気回路を形成する第三の工程」を備えることを特定するのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点 相違点7:本件発明7は「窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである」ことが特定されているのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点 で相違する。 そこで、事案に鑑み、上記相違点4について検討する。 イ 相違点4について 相違点4は、相違点1と同じ内容の相違点であるから、上記(3)イと同じ理由により、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 ウ 本件発明7についてのまとめ よって、相違点3及び5~8について検討するまでもなく、本件発明7は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)取消理由4(甲4~甲8に基づく進歩性欠如)のまとめ 以上まとめると、本件発明1及び3~8は、甲4発明及び甲4~甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、取消理由4(甲4~甲8に基づく進歩性欠如)により本件発明1及び3~8についての特許を取り消すことはできない。 5.取消理由通知に記載した取消理由についてのまとめ 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由1(実施可能要件違反)、取消理由2(サポート要件違反)、取消理由3(甲1に基づく拡大先願)及び取消理由4(甲4~甲8に基づく進歩性欠如)のいずれの取消理由によっても、本件発明1及び3~8についての特許を取り消すことはできない。 第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断 当審は、特許異議申立理由はいずれも理由がないものと判断する。理由は以下のとおり。 1.取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要 取消理由通知で採用しなかった申立理由は、上記第4の1.(3)に記載した申立理由3(甲1に基づく拡大先願)のうち、本件発明5~8についての特許を対象とする申立てである。以下、検討する。 2.申立理由3(甲1に基づく拡大先願)について(本件発明5~8) (1)甲1発明 甲1出願の当初明細書等に記載された事項及び甲1発明については、上記第6 3.(1)~(3)に記載したとおりである。 (2)本件発明5、6及び8について 本件発明5、6及び8は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。 そうすると、上記第6 3.(4)に記載した本件発明1についての理由と同様の理由により、本件発明5、6及び8は、いずれも甲1発明と同一ではない。 (3)本件発明7について ア 本件発明7と甲1発明との対比 上記第6 3.(4)アに記載した本件発明1と甲1発明との対比を踏まえて本件発明7と甲1発明とを対比すると、両者は 「エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、樹脂シートを得る第一の工程と、 前記樹脂シートを加熱して絶縁シートを得る第二の工程と、 を備える、絶縁シートの製造方法。」 の点で一致し、 相違点3:本件発明7は「第一の金属板と、絶縁シートと、第二の金属板と、をこの順に備え、第一の金属板及び第二の金属板のうちの少なくとも一方が電気回路を形成している金属ベース回路基板の製造方法」と特定するのに対し、甲1発明は絶縁性熱伝導性シートの製造方法である点 相違点4:本件発明7は樹脂シートが「15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下」であることが特定されているのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点 相違点5:本件発明7は「前記樹脂シートを第一の金属板及び第二の金属板で挟んで得られた積層体」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点 相違点6:本件発明7は「前記金属基板における前記第一の金属板及び前記第二の金属板の少なくとも一方に電気回路を形成する第三の工程」を備えることを特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点 相違点7:本件発明7は「窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである」ことが特定されているのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点 で相違する。 そこで、事案に鑑み、上記相違点7について検討する。 イ 相違点7について 相違点7は、上記第6 3.(4)に記載した相違点2と同じ内容の相違点であるから、上記第6 3.(4)イ「相違点2について」に記載した理由と同様の理由により、実質的な相違点である。 ウ 本件発明7についてのまとめ よって、相違点3~6について検討するまでもなく、本件発明7と甲1発明とは同一ではない。 (4)申立理由3(甲1に基づく拡大先願)について(本件発明5~8)のまとめ 以上まとめると、本件発明5~8は、いずれも甲1出願の当初明細書等に記載された発明ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由3(甲1に基づく拡大先願)により本件発明5~8についての特許を取り消すことはできない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1及び3~8についての特許を取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項2は本件訂正により削除され、これにより、本件発明2についての特許に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下の樹脂シートを得る第一の工程と、 前記樹脂シートを加熱プレスして絶縁シートを得る第二の工程と、 を備え、 前記窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである、絶縁シートの製造方法。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記塗布液における前記溶剤の含有量が、前記塗布液における固形分100質量部に対して30~100質量部である、請求項1に記載の製造方法。 【請求項4】 前記樹脂シートにおける前記空隙率が、20~50%である、請求項1又は3に記載の製造方法。 【請求項5】 前記加熱プレスの温度が130~200℃であり、プレス圧力が3~20MPaである、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項6】 前記加熱プレスが、前記樹脂シートを第一の金属板及び第二の金属板で挟んで得られた積層体を加熱プレスするものである、請求項1及び3~5のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項7】 第一の金属板と、絶縁シートと、第二の金属板と、をこの順に備え、第一の金属板及び第二の金属板のうちの少なくとも一方が電気回路を形成している金属ベース回路基板の製造方法であって、 エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒化ホウ素凝集粉と、溶剤と、を含む塗布液を、シート状に塗工後、加熱して、15%以上の空隙率を有し、反応率が30%以上60%以下の樹脂シートを得る第一の工程と、 前記樹脂シートを第一の金属板及び第二の金属板で挟んで得られた積層体を、加熱プレスして、第一の金属板と、絶縁シートと、第二の金属板と、をこの順に備える金属基板を得る第二の工程と、 前記金属基板における前記第一の金属板及び前記第二の金属板の少なくとも一方に電気回路を形成する第三の工程と、 を備え、 前記窒化ホウ素凝集粉の圧壊強度が1.0~15MPaである、金属ベース回路基板の製造方法。 【請求項8】 前記窒化ホウ素凝集粉が、空隙率が50%を超え、90%以下である窒化ホウ素凝集粉を含む、請求項1及び3~6のいずれか一項に記載の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2024-09-26 |
出願番号 | P2019-023424 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 161- YAA (C08J) P 1 651・ 121- YAA (C08J) P 1 651・ 536- YAA (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
柴田 昌弘 天野 宏樹 |
登録日 | 2023-06-28 |
登録番号 | 7304167 |
権利者 | デンカ株式会社 |
発明の名称 | 絶縁シートの製造方法、金属ベース回路基板の製造方法、及び絶縁シート |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 中塚 岳 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 中塚 岳 |