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審決分類 審判 全部無効 1項1号公知 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B66C
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B66C
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B66C
管理番号 1035234
審判番号 審判1999-35741  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-04-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-12-13 
確定日 2001-04-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第2809579号発明「コンクリート製品の吊下げ用係止具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2809579号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第2809579号の出願は、平成5年11月18日(優先権主張、平成5年7月27日)に出願されたものであって、その特許請求の範囲の請求項1〜3に係る発明に対して、平成10年7月31日に特許権の設定がなされたものである。
そして、この請求項1〜3に係る特許に対して、武蔵野機工株式会社から特許の無効の審判がなされ、その後、本件特許権者から答弁書提出時の平成12年4月10日に訂正請求がなされ、この訂正請求の訂正に対して訂正拒絶理由がなされたものである。

【2】訂正に対する当事者の主張
(1)被請求人の主張
被請求人は、訂正拒絶理由に対して、『訂正前の請求項2…………では、更に装着部が弾性部材に装着されていないものも含むと解釈することも十分に可能であります。つまり、キャップ部材が装着されるのは装着部ではあるものの「とともに、」の記載のように「とともに」の文言の後に句読点「、」があるような場合にはそれぞれの文節は独立しており、文理解釈において「とともに」の前後の文言が必ず同じ言葉に係ると断定する根拠はありません。従って、弾性部材が装着されるのは装着部でもよく、また他の部分、つまり装着部以外でもよいといえます。』(平成12年12月19日付け意見書第2頁第7〜16行)と主張し、「訂正請求による明細書の訂正は何ら実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない」旨主張している。
(2)請求人の主張
一方、請求人は、訂正に対して、『訂正後の請求項1を見ると、「とともに、」の後に冗長な文章が挿入された結果、「とともに、」が意味のなさない語となってしまっている。これは、請求人が、請求項1の発明の技術的範囲に、弾性部材が装着部に装着されていないものまでも含ませようと意図するものであると言わざるを得ない。だとすれば、訂正前は、弾性部材は装着部に装着されるものであったのが、訂正後にはそれ以外の部分に装着されるものまで含むこととなり、特許請求の範囲の変更、又は拡張に相当することが明らかである。』(平成12年7月17日付け弁駁書第4頁第26〜32行)と主張している。
(3)争いのない事項
第1回口頭審理調書を参照すれば、請求人は「訂正後の請求項1は、弾性部材が装着部6に装着しないものも含むようになった。」と主張し、被請求人は「訂正請求項1に係る発明は、‥‥弾性部材が装着部に装着されないものも含む。」と主張する。
してみれば、訂正後の請求項1に記載された事項の「弾性部材が装着されるのは装着部でもよく、また装着部以外でもよい」という解釈については、上記(1)、(2)の各主張、及び第1回口頭審理調書の上記各主張からみて、当事者間に争いはないものと認められる。

【3】訂正の適否についての判断
(1)訂正の要旨
平成12年4月10日付けの訂正請求における訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的として、訂正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】 ほぼ筒状をなす係止具本体の基端に一端が閉塞された筒状部材が設けられており、該筒状部材は、その閉塞端面が係止具本体側へ移動可能であるとともに、前記閉塞端面が押圧されて係止具本体側へ移動したときにその押圧に抗する弾性力を有していることを特徴とするコンクリート製品の吊下げ用係止具。
【請求項2】 ほぼ筒状をなす係止具本体(2)の基端に装着部(6)を設け、該装着部(6)に、一端が閉塞された筒状のキャップ部材(4)をその閉塞端面(12)が係止具本体(2)側へ移動するように装着するとともに、前記閉塞端面(12)が押圧されて係止具本体(2)側へ移動したときにその押圧に抗する弾性力を有する弾性部材(3)を装着したことを特徴とするコンクリート製品の吊下げ用係止具。
【請求項3】 前記キャップ部材(4)及び前記弾性部材(3)は一体に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のコンクリート製品の吊下げ用係止具。」について、
請求項1を削除すると共に、請求項2、3を請求項1、2に繰り上げ、特許請求の範囲を、
「【請求項1】 ほぼ筒状をなす係止具本体(2)の基端に装着部(6)を設け、該装着部(6)に、一端が閉塞された筒状のキャップ部材(4)をその閉塞端面(12)が係止具本体(2)側へ移動するように装着するとともに、前記装着部(6)の端部外周面には係止突部(14)を全周に亘って突設する一方、キャップ部材(4)において前記装着部(6)に外嵌される外嵌部(9)の開口部側内周面には係止突部(15)を全周に亘って突設し、前記両係止突部(14,15)は装着部(6)に外嵌部(9)を嵌装する際に、互いに摺接しながら越えることができる高さに形成され、さらに前記閉塞端面(12)が押圧されて係止具本体(2)側へ移動したときにその押圧に抗する弾性力を有する弾性部材(3)を装着したことを特徴とするコンクリート製品の吊下げ用係止具。
【請求項2】 前記キャップ部材(4)及び前記弾性部材(3)は一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート製品の吊下げ用係止具。」、
と訂正する訂正事項を含むものである。
(2)拡張・変更の存否
[訂正前の請求項2の記載事項]
そこで、訂正前の特許請求の範囲の請求項2の記載について検討すると、この請求項2の記載は、「‥‥‥該装着部(6)に、‥‥‥キャップ部材(4)を‥‥‥装着するとともに、‥‥‥弾性部材(3)を装着した‥‥‥」というものであり、「キャップ部材(4)を装着する」ことと「弾性部材(3)を装着した」ことが、「該装着部(6)に、」に対して並列の関係に記載されている。
そして、訂正前の特許請求の範囲の請求項2の記載の文脈を並列の関係と解することは、文理解釈上きわめて常識的なものであって、このように一義的に解することが文脈上いかなる齟齬も引き起こすものではない。
しかも、本件明細書に用いられる「装着」という用語は、例えば、「小径部6に装着され」(特許公報第5欄第39、50行、第8欄第35〜36行、第9欄第19行参照)、「小径部6に‥‥装着され」(特許公報第5欄第44行、第6欄第16〜17行参照)と記載されるように、小径部6(「装着部」に相当)と対の関係で用いられている。
そして、該「装着」という用語が、装着部以外に装着されることを意図して用いられている箇所は、本件明細書のどこにもない。
したがって、「‥‥‥該装着部(6)に、‥‥‥キャップ部材(4)を‥‥‥装着するとともに、‥‥‥弾性部材(3)を装着した‥‥‥」という訂正前の請求項2の記載は、この点からも、弾性部材(3)を装着部(6)に装着すると解するのが妥当である。
また、訂正前の請求項2に記載された事項を引用する請求項3の記載が、「前記キャップ部材(4)及び前記弾性部材(3)は一体に形成されている」であることを鑑みれば、キャップ部材(4)が装着部(6)に装着されるならば、キャップ部材(4)と一体に形成される弾性部材(3)は、必然的に装着部(6)に装着されることは明らかである。
以上の理由により、訂正前の請求項2に記載される弾性部材(3)は、キャップ部材(4)と同様、装着部(6)に装着されると解するのが相当である。
してみれば、訂正前の特許請求の範囲の請求項2に記載される弾性部材(3)は、装着部(6)に装着されるものであるといえる。
[訂正後の請求項1の記載事項]
ところが、訂正請求により訂正前の特許請求の範囲の請求項2を減縮したとされる訂正後の請求項1の記載によれば、「該装着部(6)に、一端が閉塞された筒状のキャップ部材(4)をその閉塞端面(12)が係止具本体(2)側へ移動するように装着するとともに、」の後に、「前記装着部(6)の端部外周面には係止突部(14)を全周に亘って突設する一方、キャップ部材(4)において前記装着部(6)に外嵌される外嵌部(9)の開口部側内周面には係止突部(15)を全周に亘って突設し、前記両係止突部(14,15)は装着部(6)に外嵌部(9)を嵌装する際に、互いに摺接しながら越えることができる高さに形成され、」という、「該装着部に、」と文脈上結びつくことのない記載が挿入され、その結果、「該装着部(6)に、‥‥‥キャップ部材(4)を‥‥‥装着するとともに、」「前記装着部(6)の端部外周面には‥‥‥互いに摺接しながら越えることができる高さに形成され、」「さらに‥‥‥弾性部材(3)を装着した」という3つの構文が、文脈上相互に関連することなく、それぞれが独立して並記されるだけのものとなった。
そして、このような3つの構文が、文脈上独立して並記されていることになれば、文理解釈上、弾性部材(3)は装着部(6)に装着されるかどうか、が明らかではない文章構造となったものと解される。
したがって、訂正後の請求項1に記載された発明は、装着部(6)以外に弾性部材(3)を装着することも含むようになったものと云わざるを得ない。
[判断・結論]
以上のとおりであるから、訂正前の特許請求の範囲の記載によれば、弾性部材(3)は装着部(6)に装着されるものであったが、訂正請求後には、弾性部材(3)は装着部(6)以外に装着されることも含むものとなったのであるから、本件訂正請求による明細書の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに相当する。
(3)むすび
よって、当該訂正は、特許法第134条第5項の規定により準用される同法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

【4】本件発明
本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 ほぼ筒状をなす係止具本体の基端に一端が閉塞された筒状部材が設けられており、該筒状部材は、その閉塞端面が係止具本体側へ移動可能であるとともに、前記閉塞端面が押圧されて係止具本体側へ移動したときにその押圧に抗する弾性力を有していることを特徴とするコンクリート製品の吊下げ用係止具。
【請求項2】 ほぼ筒状をなす係止具本体(2)の基端に装着部(6)を設け、該装着部(6)に、一端が閉塞された筒状のキャップ部材(4)をその閉塞端面(12)が係止具本体(2)側へ移動するように装着するとともに、前記閉塞端面(12)が押圧されて係止具本体(2)側へ移動したときにその押圧に抗する弾性力を有する弾性部材(3)を装着したことを特徴とするコンクリート製品の吊下げ用係止具。
【請求項3】 前記キャップ部材(4)及び前記弾性部材(3)は一体に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のコンクリート製品の吊下げ用係止具。」

【5】請求人の特許無効の主張、および提出した証拠方法
(1)請求人の特許無効の主張
請求人は、「特許第2809579号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、「本件特許の請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜4号証の本件優先日前に公然知られた発明、及び、本件の優先日前に頒布された甲第5号証に記載された発明と同一、ないしは、少なくともこれらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第1、3号、または、同法第29条第2項の規定に該当し、よって、請求項1〜3に係る発明の特許は特許法第123条第1項第2号により無効とすべきである。」旨主張している。
(2)請求人の提出した証拠方法
請求人は上記主張を立証するために、以下の証拠方法を提出している。
・甲第1号証;意匠登録第917494号公報
・甲第2号証;意匠登録第917494号の出願書類写し
・甲第3号証;武蔵野機工株式会社のインサート総合カタログ抄本
・甲第4号証の1;有徳コンクリート工業有限会社の証明書、及び武蔵野機工株式会社の有徳コンクリート工業有限会社向け売掛先元帳の写し2通
・甲第4号証の2;枕崎コンクリート工業株式会社の証明書、及び武蔵野機工株式会社の枕崎コンクリート工業株式会社向け売掛先元帳の写し2通
・甲第5号証;ネグロス電工株式会社のネグロス総合カタログ抄本
・甲第6号証;特開平1-255733号公報
・甲第7号証;実願昭59-60572号(実開昭60-173594号)のマイクロフィルム
・甲第8号証;実公昭50-32258号公報
・甲第9号証;実願平3-28885号(実開平4-124410号)のマイクロフィルム
・甲第10号証;特開昭63-8191号公報

【6】引用発明
甲第1号証(意匠第917494号公報)に係る出願(意願平5-12360号)は、平成5年4月26日に出願されたものであって、意匠法第4条第2項の規定による新規性喪失の例外を適用した出願であり、当該意匠出願の願書に添付された意匠法第4条第3項の規定による証明書(甲第2号証参照)により、意匠第917494号公報の意匠図面に示されるコンクリート製品吊り上げ用インサートは、平成4年11月5日に、神奈川県海老名市河原口2564番地の株式会社岡部建材店厚木工場にて公然知られたものであると認められる。
そして、意匠第917494号公報の図面のA-A線断面図の記載等からみて、意匠第917494号公報には、
ほぼ筒状をなすねじ孔を有する本体部材の基端に装着部を設け、閉塞部、蛇腹部及び取付部からなる(一端が閉塞された)筒状部材の取付部を、該装着部にその閉塞端面がねじ孔を有する本体部材側へ移動するように装着したコンクリート製品吊り上げ用インサート、
が記載されているものと認められる。
蛇腹部は、その閉塞端面が押圧されて移動したときにその押圧に抗する弾性力を有するものであることは、当業者にとって技術常識であり、また、蛇腹部は取付部により本体部材の装着部に装着されるものと云えるから、結局、上記公然と知られたコンクリート製品吊り上げ用インサートに係る発明は、
ほぼ筒状をなすねじ孔を有する本体部材の基端に一端が閉塞された筒状部材が設けられており、該筒状部材はその閉塞端面が本体部材側へ移動可能であるとともに、前記閉塞端面が押圧されて本体部材側へ移動したときにその押圧に抗する弾性力を有しているコンクリート製品の吊り上げ用インサート(以下、「公知発明A」という。)であり、
ほぼ筒状をなすねじ孔を有する本体部材の基端に装着部を設け、該装着部に一端が閉塞された筒状部材をその閉塞端面が本体部材側へ移動するように装着するとともに、前記装着部に前記閉塞端面が押圧されて本体部材側へ移動したときにその押圧に抗する弾性力を有する蛇腹部を取付部により装着したコンクリート製品の吊り上げ用インサート(以下、「公知発明B」という。)でもあり、
さらに、該公知発明Bにおいて、筒状部材と蛇腹部は一体に形成されているもの(以下、「公知発明C」という。)でもあると認められる。

【7】対比・判断
そこで、本件発明1と「公知発明A」とを対比すると、後者の「ねじ孔を有する本体部材」、「吊り上げ用インサート」は、それぞれ、前者の「係止具本体」、「吊下げ用係止具」に相当するから、両者は、
ほぼ筒状をなす係止具本体の基端に一端が閉塞された筒状部材が設けられており、該筒状部材は、その閉塞端面が係止具本体側へ移動可能であるとともに、前記閉塞端面が押圧されて係止具本体側へ移動したときにその押圧に抗する弾性力を有しているコンクリート製品の吊下げ用係止具、
で一致し、なんらの相違点も存在しない。
したがって、本件発明1は、「公知発明A」である。
つぎに、本件発明2と「公知発明B」とを対比すると、後者の「ねじ孔を有する本体部材」、「筒状部材」、「蛇腹部」、「吊り上げ用インサート」は、それぞれ、前者の「係止具本体(2)」、「キャップ部材(4)」、「弾性部材(3)」、「吊下げ用係止具」に相当し、また、後者の蛇腹部は取付部を介して本体部材の装着部に装着されるので、該蛇腹部は装着部に装着されるものであると云えるから、両者は、
ほぼ筒状をなす係止具本体の基端に装着部を設け、該装着部に、一端が閉塞された筒状のキャップ部材をその閉塞端面が係止具本体側へ移動するように装着するとともに、前記閉塞端面が押圧されて係止具本体側へ移動したときにその押圧に抗する弾性力を有する弾性部材を装着したコンクリート製品の吊下げ用係止具、
で一致し、なんらの相違点も存在しない。
したがって、本件発明2は、「公知発明B」である。
また、本件発明3と「公知発明C」とを対比すると、「公知発明C」も本件発明3と同様に筒状部材と蛇腹部は一体に形成されているから、両者になんらの相違点も存在しない。
したがって、本件発明3は、「公知発明C」である。

【8】結論
以上のとおりであるから、本件発明1〜3は、全て、本件特許出願前に日本国内において公然知られた発明である。
したがって、本件請求項1〜3に係る発明(本件発明1〜3)の特許は、特許法第29条第1項第1号の規定に違反して特許されたものであり、同法第123項第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-01-17 
結審通知日 2001-01-30 
審決日 2001-02-13 
出願番号 特願平5-289577
審決分類 P 1 112・ 854- ZB (B66C)
P 1 112・ 111- ZB (B66C)
P 1 112・ 855- ZB (B66C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 久雄  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 清田 栄章
藤田 豊比古
登録日 1998-07-31 
登録番号 特許第2809579号(P2809579)
発明の名称 コンクリート製品の吊下げ用係止具  
代理人 神戸 真  
代理人 神戸 清  
代理人 恩田 博宣  

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