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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  C01B
審判 一部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
管理番号 1379841
異議申立番号 異議2021-700073  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-22 
確定日 2021-10-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6726219号発明「窒化ホウ素凝集体粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6726219号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?18〕について訂正することを認める。 特許第6726219号の請求項1?4、6?11、17、18に係る特許を維持する。 特許第6726219号の請求項5、12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6726219号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?18に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)6月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年6月17日(FR)フランス)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月30日にその特許権の設定登録がされ、同年7月22日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 3年 1月22日 :特許異議申立人 安藤 宏(以下「申立人
」という。)による請求項1?12、17
、18に係る特許に対する特許異議の申立

同年 3月23日付け:取消理由通知
同年 6月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提

同年 8月13日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和3年6月29日提出の訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1?13からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、
「(c)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率。」
との記載を、
「(c)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率、
ここで、前記粉末が、下記(i)?(iii)のうちの少なくとも1つの条件を満たす:
(i)前記粉末が、30μmよりも大きくかつ500μm未満のメジアン径を示す、
(ii)前記粉末が、20μmよりも大きいD_(10)パーセンタイルを示す、
(iii)前記他の元素が、好ましくは0.5%以上かつ4%未満の量の、前記窒化ホウ素の焼結用助剤を含んでいる、という化学組成を示す。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?4、6?11、17、18も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4について、
「B,N及びCa以外の元素の重量での含有率が、4%未満であり、好ましくは2%未満であり、かつ、酸素含有率が、重量で5000ppm未満であり、好ましくは重量で2000ppm未満であるという化学組成を示す、請求項1?3のいずれか一項に記載の粉末。」
との記載を、
「前記(i)又は(ii)の条件を満たし、
B,N及びCa以外の元素の重量での含有率が、4%未満であり、好ましくは2%未満であり、かつ、酸素含有率が、重量で5000ppm未満であり、好ましくは重量で2000ppm未満であるという化学組成を示す、
請求項1?3のいずれか一項に記載の粉末。」
に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7?11、17、18も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6について、
「前記窒化ホウ素の前記焼結用助剤が、LaB_(6);希土類金属の酸化物、元素周期表の3及び4族の元素の酸化物、並びにそれらの混合物の酸化物;元素周期表4族の元素の窒化物;並びにそれらの混合物から選ばれる、請求項5に記載の粉末。」
との記載を、
「前記(iii)の条件を満たし、
前記窒化ホウ素の前記焼結用助剤が、LaB_(6);希土類金属の酸化物、元素周期表の3及び4族の元素の酸化物、並びにそれらの混合物の酸化物;元素周期表4族の元素の窒化物;並びにそれらの混合物から選ばれる、
請求項1?3のいずれか一項に記載の粉末。」
に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7?11、17、18も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7について、「請求項1?6のいずれか一項に記載の粉末。」との記載を、「請求項1?4及び6のいずれか一項に記載の粉末。」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?11、17、18も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8について、「請求項1?7のいずれか一項に記載の粉末。」との記載を、「請求項1?4、6及び7のいずれか一項に記載の粉末。」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9?11、17、18も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9について、「請求項1?8のいずれか一項に記載の粉末。」との記載を、「請求項1?4及び6?8のいずれか一項に記載の粉末。」に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10、11、17、18も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10について、「請求項1?9のいずれか一項に記載の粉末。」との記載を、「請求項1?4及び6?9のいずれか一項に記載の粉末。」に訂正する(請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11、17、18も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11について、「請求項1?10のいずれか一項に記載の粉末。」との記載を、「請求項1?4及び6?10のいずれか一項に記載の粉末。」に訂正する(請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項17、18も同様に訂正する。)。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13について、
「以下の工程を含む、請求項1?12のいずれか一項に記載の粉末を製造するための方法:」
との記載を、
「粉末を製造するための、下記である、方法:
前記粉末が、窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成され、下記を示し:
(α)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率、
・総計で5%未満の他の元素、
(β)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(γ)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率、
前記方法が、以下の工程を含む:」
に訂正する(請求項13の記載を直接的又は間接的に引用する請求項15、16も同様に訂正する。)。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項14について、
「以下の工程を含む、請求項1?12のいずれか一項に記載の粉末を製造するための方法:」
との記載を、
「粉末を製造するための、下記である、方法:
前記粉末が、窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成され、下記を示し:
(α)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率、
・総計で5%未満の他の元素、
(β)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(γ)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率、
前記方法が、以下の工程を含む:」
に訂正する(請求項14の記載を直接的又は間接的に引用する請求項15、16も同様に訂正する。)。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項17について、「請求項1?12のいずれか一項に記載の粉末が分散した重合体を含有している、微粒子充填重合体。」との記載を、「請求項1?4及び6?11のいずれか一項に記載の粉末が分散した重合体を含有している、微粒子充填重合体。」に訂正する(請求項17の記載を引用する請求項18も同様に訂正する。)。

(14)一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を請求項2?18が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?18は一群の請求項であるところ、本件訂正事項1?13に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項〔1?18〕を訂正の単位として請求されたものである。

2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において
「ここで、前記粉末が、下記(i)?(iii)のうちの少なくとも1つの条件を満たす:
(i)前記粉末が、30μmよりも大きくかつ500μm未満のメジアン径を示す、
(ii)前記粉末が、20μmよりも大きいD10パーセンタイルを示す、
(iii)前記他の元素が、好ましくは0.5%以上かつ4%未満の量の、前記窒化ホウ素の焼結用助剤を含んでいる、という化学組成を示す。」
なる事項を追加して、「粉末」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記の追加された事項は本件特許に係る明細書の段落【0014】、【0025】及び本件訂正前の請求項5、12に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、「前記(i)又は(ii)の条件を満たし、」なる事項を追加して、「粉末」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記の追加された事項は本件特許に係る明細書の段落【0025】及び本件訂正前の請求項12に記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項2は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3、10について
訂正事項3、10は、本件訂正前の請求項5、12を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項6が請求項5を引用するものであり、本件訂正前の請求項5が請求項1?3のいずれか一項を引用するものであったところ、請求項5が削除されたことで、請求項6において、請求項5を直接引用することができなくなったことに伴い、請求項1?3のいずれか一項を引用する形式に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5?9、13について
訂正事項5?9、13は、それぞれ、本件訂正前の請求項7?11、17における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項11、12について
訂正事項11、12は、本件訂正前の請求項13、14における選択的引用請求項を請求項1のみとした上で、請求項1を引用する部分をそれぞれ独立した形に書き下して引用関係を解消するものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)独立特許要件について
ア 訂正事項1?10、13
特許異議申立ては、本件訂正前の請求項1?12、17、18についてされているので、訂正事項1?10、13に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

イ 訂正事項11、12
特許異議申立ては、本件訂正前の請求項13?16についてされておらず、訂正事項11、12は特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むことから、特許異議の申立てがされていない本件訂正前の請求項13?16に係る訂正事項11、12に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件が課されることになる。
そこで、この点について検討すると、本件訂正前の請求項13?16に係る発明は、拒絶理由を発見しないとして特許されたものであり、また、本件訂正後の請求項13?16に係る発明は、訂正前の請求項13?16に係る発明において、引用する請求項1?12のいずれかの特定事項を請求項1の特定事項のみに限定するものであり、新たな拒絶理由が生じるものではないから、訂正後の請求項13?16に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。

3 小括
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項から第7項までの規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?18〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件訂正請求により訂正された請求項1?4、6?11、13?18に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4、6?11、13?18に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線部は訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成される粉末であって、下記を示す粉末:
(a)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率、
・総計で5%未満の他の元素、
(b)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(c)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率、
ここで、前記粉末が、下記(i)?(iii)のうちの少なくとも1つの条件を満たす:
(i)前記粉末が、30μmよりも大きくかつ500μm未満のメジアン径を示す、
(ii)前記粉末が、20μmよりも大きいD_(10)パーセンタイルを示す、
(iii)前記他の元素が、好ましくは0.5%以上かつ4%未満の量の、前記窒化ホウ素の焼結用助剤を含んでいる、という化学組成を示す。
【請求項2】
0.3μm以下のメジアン細孔径を示す、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
以下の全体的な化学組成を示す、請求項1又は2に記載の粉末:
- 41%以上かつ44%以下のホウ素含有率、
- 54%以上かつ56%以下の窒素含有率、
- 重量で300ppm未満の、好ましくは重量で200ppm未満のカルシウム含有率。
【請求項4】
前記(i)又は(ii)の条件を満たし、
B,N及びCa以外の元素の重量での含有率が、4%未満であり、好ましくは2%未満であり、かつ、酸素含有率が、重量で5000ppm未満であり、好ましくは重量で2000ppm未満であるという化学組成を示す、
請求項1?3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記(iii)の条件を満たし、
前記窒化ホウ素の前記焼結用助剤が、LaB_(6);希土類金属の酸化物、元素周期表の3及び4族の元素の酸化物、並びにそれらの混合物の酸化物;元素周期表4族の元素の窒化物;並びにそれらの混合物から選ばれる、
請求項1?3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項7】
前記構造組成が、重量パーセントで、かつ、前記粉末に存在する結晶相を合わせたものを基準として、95%よりも多くの、好ましくは98%よりも多くの、窒化ホウ素を含有している、請求項1?4及び6のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項8】
重量パーセントで、かつ、前記粉末に存在する結晶窒化ホウ素を基準として、60%よりも多くの前記窒化ホウ素が、六方晶構造として存在しているという構造組成を示す、請求項1?4、6及び7のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項9】
0.92以上の平均真円度を示す、請求項1?4及び6?8のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項10】
0.25μm以下で、かつ好ましくは0.05μmよりも大きいメジアン細孔径を示す、請求項1?4及び6?9のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項11】
50%未満の、好ましくは49%未満の見かけの空隙率を示す、請求項1?4及び6?10のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項12】(削除)
【請求項13】
粉末を製造するための、下記である、方法:
前記粉末が、窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成され、下記を示し:
(α)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率、
・総計で5%未満の他の元素、
(β)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(γ)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率、
前記方法が、以下の工程を含む:
(a)出発供給原料を調製すること:工程(g)の完了時に前記粉末が得られるように、出発供給原料の組成が適合され、前記出発供給原料が、窒化ホウ素の粒を含んでおり、窒化ホウ素の粒から形成される粉末が、10重量%以下の酸素含有率及び重量で400ppm未満のカルシウム含有率を示す、
(b)場合によって、前記出発供給原料を粉砕すること、
(c)前記出発供給原料を成型して、60%以上の相対密度を示すブロックの形状にすること、
(d)前記ブロックを粉砕して、集塊を得ること、
(e)工程(d)の最後に得られる前記集塊を研磨して、それによって、前記集塊が、0.90以上の真円度を示すようにすること、
(f)場合によって、前記集塊の粒径を選択すること、
(g)不活性雰囲気又は弱還元性雰囲気において、1600℃よりも高くかつ2100℃未満の焼結温度で、前記集塊を焼結すること、
(h)場合によって、凝集体の粒径を選択すること。
【請求項14】
粉末を製造するための、下記である、方法:
前記粉末が、窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成され、下記を示し:
(α)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率、
・総計で5%未満の他の元素、
(β)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(γ)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率、
前記方法が、以下の工程を含む:
(a’)出発供給原料を調製すること:工程(f’)の完了時に前記粉末が得られるように、出発供給原料の組成が適合され、前記出発供給原料が、窒化ホウ素の粒を含んでおり、窒化ホウ素の粒から形成される粉末が、10重量%以下の酸素含有率、及び重量で400ppm未満のカルシウム含有率を示す、
(b’)場合によって、前記出発供給原料を粉砕すること、
(c’)前記出発供給原料を成型して、60%以上の相対密度を示すブロックの形状にすること、
(d’)不活性雰囲気又は弱還元性雰囲気において、1600℃よりも高くかつ2100℃未満の焼結温度で、前記ブロックを焼結すること、
(e’)前記ブロックを粉砕して、凝集体を得ること、
(f’)工程(e’)の最後に得られる前記凝集体を研磨して、凝集体が0.90以上の真円度を示すようにすること、
(g’)場合によって、前記凝集体の粒径を選択すること。
【請求項15】
工程(a)又は(a’)において、カルシウム含有率の合計が、重量で300ppm未満であり、かつ/若しくは、酸素含有率の合計が、前記出発供給原料を基準とした重量パーセントで、5%未満であり、好ましくは2%未満である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
工程(c)又は(c’)において、前記出発供給原料をブロックの形状に成型して、前記ブロックの相対密度が、65%よりも大きく、好ましくは70%よりも大きくなるようにする、請求項13?15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1?4及び6?11のいずれか一項に記載の粉末が分散した重合体を含有している、微粒子充填重合体。
【請求項18】
前記重合体は、エポキシ樹脂、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタラート、ナイロン、ポリカーボネート、及びエラストマーから選ばれる、請求項17に記載の微粒子充填重合体。」

2 取消理由の概要
令和3年3月23日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(拡大先願)
本件訂正前の請求項1?4、7?11、17及び18に係る発明は、本件特許に係る優先日前の特許出願であって、その優先日後に特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により出願公開がされたものとみなされる下記の特許出願(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る発明者がその優先日前の先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許に係る優先日当時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないので、請求項1?4、7?11、17及び18に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

先願:特願2014-247865号(国際公開第2016/092952号)(甲第1号証)

3 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、上記2の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
(1)申立理由1(拡大先願)
本件訂正前の請求項5、6及び12に係る発明は、本件特許に係る優先日前の特許出願であって、その優先日後に特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により出願公開がされたものとみなされる甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許に係る優先日当時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項5、6及び12に係る特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書第25頁第1行?第30頁第13行)。

(2)申立理由2(新規性)
本件訂正前の請求項1?12、17及び18に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?12、17及び18に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書第30頁第14行?第35頁第14行)。

(3)申立理由3(進歩性)
本件訂正前の請求項1?12、17及び18に係る発明は、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?12、17及び18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書第30頁第14行?第35頁第14行)。

<甲号証一覧>
甲第1号証:特願2014-247865号(国際公開第2016/092952号)(取消理由通知で引用した「先願」と同じ。)
甲第2号証:特開2010-157563号公報
甲第3号証:特開2007-191339号公報
甲第4号証:国際公開第2014/136959号

4 先願明細書及び甲号証の記載内容について
(1)先願明細書の記載内容及び引用発明
ア 先願明細書の記載内容
先願明細書には、以下の記載がある(当審注:下線は当審による。「…」は当審による省略を意味する。以下も同様。)。
なお、摘記箇所は国際公開第2016/092952号による。

(ア)「[請求項1] 六方晶窒化ホウ素の一次粒子の凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末であって、
目開き45μm篩下の粉末含有率が80質量%以上であり、一次粒子径が5μm以下、BET比表面積が15?25m^(2)/g、50%体積累積粒径D_(50)が10?15μmである、六方晶窒化ホウ素粉末。」

(イ)「[0005] …
また、凝集体の強度を高めるために、一次粒子同士を結合させるための添加物(結合剤)を用いることもある。しかしながら、この添加物(結合剤)も、熱伝導性や電気絶縁性を悪化させる要因となり得るため好ましくない。特に、電子部品の軽薄化に伴い、熱伝導性シートの薄膜化が進行しているため、電気絶縁性を悪化させる添加物の存在は好ましくない。…」

(ウ)「[0016] 本発明のhBN粉末の50%体積累積粒径(以下、「D_(50)」ともいう。)は、凝集体の圧縮破壊強度の向上、樹脂組成物及び樹脂シート内における充填性の向上の観点から、10?15μmであり、好ましくは10.5?14.8μm、より好ましくは11?14.6μm、更に好ましくは11.5?14.4μmである。
また、本発明のhBN粉末の90%体積累積粒径(以下、「D_(90)」ともいう。)は、凝集体の圧縮破壊強度の向上、樹脂組成物及び樹脂シート内における充填性の向上の観点から、好ましくは40?50μm、より好ましくは40.5?48μm、更に好ましくは41?46μmである。
なお、hBN粉末のD_(50)及びD_(90)は、実施例に記載の方法により測定したものである。」

(エ)「[0019] 本発明のhBN粉末の平均細孔直径は、凝集体の圧縮破壊強度の向上の観点から、好ましくは80?400nm、より好ましくは90?300nm、更に好ましくは100?200nm、より更に好ましくは110?150nmである。
平均細孔直径は、全ての細孔をひとつの円筒形細孔と仮定したときの当該円筒形細孔の直径(D)であり、下記式で表される当該円筒形細孔の体積(V)及び側面積(A)から算出したものである。
V=πD^(2)H/4 〔1〕
A=πDH 〔2〕
(上記式〔1〕及び〔2〕において、Dは平均細孔直径、Hは上記円筒形細孔の高さを示す。)
[0020] 体積(V)及び側面積(A)は、実施例に記載の水銀圧入法により得られる全細孔容積及び全細孔表面積として測定され、上記式〔1〕及び〔2〕より、平均細孔直径(D=4V/A)を求める。
平均細孔直径は、hBN凝集体の内部構造の違いを示す指標となる。
平均細孔直径が小さい場合には、hBN凝集体内に小さな空隙が多数点在しており、微小なhBN一次粒子同士が相互干渉し、崩壊しにくい構造を形成し、平均細孔直径が大きい場合は、少数の大きな空隙が点在しており、hBN一次粒子同士の干渉が不十分であるために崩壊しやすい構造となっているものと考えられる。」

(オ)「[0060][実施例1]
(1)粗製hBN粉末の作製
ホウ酸4g、メラミン2g及び水1gを加えたものを撹拌混合し、金型内に入れて加圧し、密度0.7g/cm^(3)の成形体を得た。この成形体を乾燥機中にて300℃で100分間乾燥させたものをNH_(3)ガス雰囲気下1100℃で120分間仮焼きした。この得られた仮焼物(粗製hBN)を粉砕して粗製hBN粉末(酸化ホウ素の含有量35質量%)を得た。
[0061](2)hBN粉末の作製
上記粗製hBN粉末100質量部に対して、炭素源として昭和電工(株)製の人造黒鉛微粉「UF-G30」を炭素換算で12質量部及びPVA水溶液(濃度2.5質量%)を10質量部加えることにより、hBN粉末100質量部に対する炭素源の炭素換算含有量が12質量部である混合物を得、この混合物をミキサーで撹拌混合した後、金型内に入れて、加圧し、密度1.2g/cm^(3)の成形体を得た。この成形体を乾燥機中にて300℃で6時間乾燥させて乾燥物を得た。この乾燥物を、高周波炉において、窒素ガス雰囲気下、1750℃?2200℃で合計6時間焼成することでhBN焼成物を得た。得られたhBN焼成物をジョークラッシャー及びピンミルを用いて粉砕後、乾式振動篩装置[晃栄産業(株)製、商品名「佐藤式振動ふるい機」]を用いて、篩分時間60分の条件にて目開き45μm篩を用いて分級した。当該分級後における篩下のhBN粉末を実施例1に係るhBN粉末とした。
なお、上記のように分級して得られた実施例1に係るhBN粉末を、さらに後述する減圧吸引型篩分け機(エアージェットシーブ[アルパイン社製、機種名「A200LS」])を用いて、目開き45μm篩上下に分級したところ、hBN粉末の目開き45μm篩上の粉末含有率は11質量%であり、目開き45μ篩下の粉末含有率は89質量%であった。
このhBN粉末をSEMで観察したところ、図2に示されるように一次粒子がランダムな方向を向いた緻密なhBN凝集体を含むことが確認された。なお、図1は、図2中に存在するhBN凝集体の模式図である。」

(カ)「[0073](hBN粉末の50%体積累積粒径及び90%体積累積粒径(D_(50)及びD_(90)))
粒度分布計[日機装(株)製、機種名「マイクロトラックMT3300EXII」]を用いてhBN粉末の体積規準のレーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(50%体積累積粒径、D_(50))と累積90%粒子径(90%体積累積粒径、D_(90))を測定した。粒度分布測定は実施例及び比較例で得られたhBN粉末0.06gを純水50gに3分間超音波処理することで調製した分散液を用いて行った。超音波処理は出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で超音波処理装置[(株)日本精機製作所製、機種名「超音波ホモジナイザーUS-150V」]を用いて行った。」

(キ)「[0077](気孔率、平均細孔直径)
実施例1?3及び比較例1?3のhBN焼成物を粉砕後、目開き106μm及び目開き45μmの篩を2段重ねで用いて前記乾式振動篩装置(篩分時間60分)にて分級した45μm?106μmの粒径を有するhBN凝集体を用意し、水銀圧入法により全細孔容積及び全細孔表面積を測定することにより、気孔率並びに前記式〔1〕及び〔2〕から算出される平均細孔直径を求めた。全細孔容積及び全細孔表面積は、「オートポアIV 9500」(マイクロメリテックス社製)を用いて測定した。
気孔率及び平均細孔直径は、hBN凝集体の粒径に対しては変化しないものとみなし、上記の45?106μmの粒径を有するhBN凝集体の測定値を、実施例及び比較例に係るhBN粉末の気孔率及び平均細孔直径とした。また、気孔径0.5?4000nmに範囲を限定し算出した。」

(ク)「[0084]
[表2]



(ケ)「[図1]

[図2]



イ 先願明細書に記載された発明
上記ア(オ)の段落[0061]によれば、実施例1において作製されたhBN粉末は、一次粒子がランダムな方向を向いた緻密なhBN凝集体であるといえる。
そうすると、上記ア(オ)及び(ク)の記載事項を実施例1の「hBN粉末」に注目して整理すると、先願明細書には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

先願発明
「D_(50)が14.1μm、気孔率が27%、平均細孔直径が100nm、B_(2)O_(3)含有量が0.02質量%、CaO含有量が0.02質量%、炭素含有量が0.02質量%、純度が99.9質量%である、一次粒子がランダムな方向を向いた緻密なhBN凝集体の粉末。」

(2)甲第2号証の記載内容及び引用発明
ア 甲第2号証の記載内容
引用文献2には、以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】
鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が等方的に凝集した二次凝集粒子を熱硬化性樹脂中に分散してなる熱伝導性シートであって、
前記二次凝集粒子が、50%以下の気孔率及び0.05μm以上3μm以下の平均気孔径を有することを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】
前記二次凝集粒子が、20μm以上180μm以下の平均粒径を有することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シート。」

(イ)「【0006】
しかしながら、従来の方法では、窒化ホウ素の二次凝集粒子の形状を熱伝導性シート中で保持するための二次凝集粒子の強度設計がなされていないため、窒化ホウ素の二次凝集粒子を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いて熱伝導性シートを作製すると、窒化ホウ素の二次凝集粒子が崩れてしまう。…
従って、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、熱伝導性及び絶縁性に優れた熱伝導性シートを提供することを目的とする。

【0007】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく、熱伝導性シートにおける窒化ホウ素の二次凝集粒子に着目して鋭意研究した結果、二次凝集粒子の気孔率及び平均気孔径が、二次凝集粒子の強度(すなわち、凝集力)と密接に関連し、熱伝導性及び絶縁性に多大な影響を与えることを見出した。
すなわち、本発明は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が等方的に凝集した二次凝集粒子を熱硬化性樹脂中に分散してなる熱伝導性シートであって、前記二次凝集粒子が、50%以下の気孔率及び0.05μm以上3μm以下の平均気孔径を有することを特徴とする熱伝導性シートである。…」

(ウ)「【0011】
従って、二次凝集粒子3の強度を確保する観点から、二次凝集粒子3の気孔率は50%以下とする必要がある。二次凝集粒子3の気孔率が50%を超えると、密度が低すぎてしまい、所望の強度が得られない。
また、二次凝集粒子3の強度を確保する観点から、二次凝集粒子3の平均気孔径は3μm以下とする必要がある。二次凝集粒子3の平均気孔径が3μmを超えると、気孔径が大きい部分が存在することになり、その部分の強度が極端に低下する。一方、二次凝集粒子3の平均気孔径の下限は、二次凝集粒子3の強度を確保する観点からは特に限定されないが、二次凝集粒子3の平均気孔径が小さすぎると、二次凝集粒子3の気孔に熱硬化性樹脂2が入り込み難くなる。その結果、熱伝導性シート1中にボイドが残存してしまい、熱伝導性シート1の絶縁性及び耐湿性が低下してしまう。そのため、二次凝集粒子の平均気孔径は0.05μm以上とする必要がある。
【0012】
なお、本明細書において、二次凝集粒子3の気孔率及び平均気孔径とは、熱硬化性樹脂2中に二次凝集粒子3が分散された熱伝導性シート1を、電気炉を用いて500℃?800℃の温度で空気雰囲気中にて5?10時間程度熱処理して灰化した後、灰化によって得られた二次凝集粒子3の気孔率及び平均気孔径を水銀圧入式のポロシメータで測定することによって得られた値を意味する。
【0013】
また、二次凝集粒子3の形状は、特に限定されないが、球状であることが好ましい。球状の二次凝集粒子3であれば、熱伝導性シート1を製造する際に、熱硬化性樹脂組成物の流動性を確保しつつ、充填量を多くすることができる。この二次凝集粒子3の平均粒径は、好ましくは20μm以上180μm以下、より好ましくは40μm以上130μm以下である。二次凝集粒子3の平均粒径が20μm未満であると、所望の熱伝導率を有する熱伝導性シート1が得られないことがある。一方、二次凝集粒子3の平均粒径が180μmを超えると、二次凝集粒子3を熱硬化性樹脂2中に混合分散させることが困難となり、作業性や成形性に支障を生じることがある。…」

(エ)「【0026】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(二次凝集粒子の調製)
純度93%で結晶性が比較的低い鱗片状窒化ホウ素を窒素雰囲気中、1800℃で1時間仮焼きし、ライカイ機を用いて3時間粉砕処理を行った。次に、窒化ホウ素100質量部に対して5質量部のポリビニルアルコール(バインダー)を加えてスラリーを調製し、このスラリーをスプレードライして顆粒にした。次に、この顆粒を窒素雰囲気中、2000度で2時間焼成することによって、二次凝集粒子No.Aを調製した。
二次凝集粒子No.B?Jは、仮焼温度及び粉砕時間を表1のものに変更したこと以外は二次凝集粒子No.Aの調製方法と同様にして調製した。
また、上記の調製方法により得られた二次凝集粒子の特徴を表1に示す。
【0027】
【表1】



イ 甲第2号証に記載された発明
上記アの記載事項を二次凝集粒子No.Dに注目して整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

甲2発明
「純度93%の鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が等方的に凝集した球状である二次凝集粒子であって、前記二次凝集粒子が、63μmの平均粒径、23%の気孔率、0.31μmの平均気孔径を有する二次凝集粒子。」

(3)甲第3号証、甲第4号証の記載内容
ア 甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、以下の記載がある。

「【0002】
h-BNは、融点が3300?3400℃(高圧窒素下)と化学的に非常に安定であるために、h-BN粉体間での結合を形成することが難しく、純h-BNを原料粉体として用いた場合において、2000℃以下での高密度焼結体の製造は困難である。そのため一般的にh-BNの焼結体(以下、「h-BN焼結体」という)は、h-BN粉体の粒子同士の結合させるための酸化ホウ素、イットリア、アルミナ等の焼結助剤を添加し、ホットプレス装置を用いた加圧焼結法で製造されている。しかし、焼結助剤を添加しても実用的に十分な力学的強度を有するh-BN焼結体の作製は難しく、さらに、焼結助剤の過剰な添加は、h-BNN焼結体が本来備える耐酸化性や高温安定性が損なわれてしまう場合があるという問題があった。」

イ 甲第4号証の記載内容
甲第4号証には、以下の記載がある。

(ア)「[請求項1] 六方晶窒化ホウ素の一次粒子が結合した窒化ホウ素粒子を含有し、前記窒化ホウ素粒子の集合体である窒化ホウ素粉末が、0.70以上の平均球形度、20?100μmの平均粒径、50?80%の空隙率、0.10?2.0μmの平均細孔径、10μm以下の最大細孔径、及び500?5000ppmのカルシウム含有率であることを特徴とする窒化ホウ素粉末。」

(イ)「[0021]<カルシウムの含有率及びその評価方法>
本発明の窒化ホウ素粉末において特に重要なことは、カルシウムの含有率を500?5000ppmとしたことである。カルシウムの含有率が500ppmより小さいと、一次粒子同士の焼結による結合が不十分となり、樹脂へ充填する際の混練の剪断応力と窒化ホウ素粒子同士の面接触時の圧縮応力(特に加熱加圧成形時)に耐えうる粒子強度を得ることができない。カルシウムの含有率が5000ppmより大きいと、窒化ホウ素粒子の弾性率が高くなるため、窒化ホウ素粒子同士の面接触が不十分になり、樹脂組成物の熱伝導率が低下する。カルシウムの含有率の好ましい範囲は、1000?3000ppmである。…」

(ウ)「[0046] 以下、本発明を実施例、比較例を挙げてさらに具体的に説明する。
<実施例1?14、比較例1?11>
酸素含有量が2.4%、BN純度が96.3%、カルシウム含有量が67ppmであるアモルファス窒化ホウ素粉末(表1ではアモルファスBN)、酸素含有量が0.1%、BN純度が98.8%、カルシウム含有量が8ppmである六方晶窒化ホウ素粉末(表1では六方晶BN)、焼結助剤の炭酸カルシウム(「PC-700」白石工業社製)及び水を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、ボールミルで粉砕し、水スラリーを得た。…表1に示すように、原料配合、ボールミル粉砕条件(粉砕時間(hr))、噴霧乾燥条件(アトマイザー回転数(rpm))、焼成条件(焼成温度(℃))を調整して、表2(実施例)及び表3(比較例)に示す25種類の粉末A?Yを製造した。得られた粉末A?Yの一次粒子の結合状態を、前記した[発明を実施するための形態]で説明したように、走査型電子顕微鏡で測定した結果、いずれの窒化ホウ素粉末についても一次粒子が結合していることが確認された。

[0048]
[表2]

[0049]
[表3]



(4)申立人が令和3年8月13日に意見書と共に提出した甲第5号証(特表2004-537489号公報)、甲第6号証(特表2007-502770号公報)の記載内容
ア 甲第5号証の記載内容
甲第5号証には、以下の記載がある。

(ア)「【請求項21】
窒化ホウ素小板の球状集塊を含む球状窒化ホウ素粉末。
【請求項22】
窒化ホウ素小板の球状集塊が、約10ミクロン?約500ミクロンの平均集塊直径を有する、請求項21に記載の球状窒化ホウ素粉末。
【請求項23】
窒化ホウ素集塊のより多量の部分が、約30ミクロン?約150ミクロンの平均直径を有する、請求項22に記載の球状窒化ホウ素粉末。」

(イ)「【0029】
本発明のhBNスラリーは、バインダーおよび焼結用添加剤のような、添加剤を含み得る。適当なバインダーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセロールおよびラテックスを包含する。本発明のhBNスラリーがhBN粉末を生成させるために用いられる場合、該スラリーは焼結用添加剤を含有し得、しかして該焼結用添加剤はイットリア、CaO、MgO、CeB_(6)およびホウ素をを包含するが、しかしそれらに制限されない。」

イ 甲第6号証の記載内容
甲第6号証には、以下の記載がある。

「【請求項1】
タップ密度に対する凝集体破壊強さの比が約11 MPa・cc/g以上であることを特徴とする窒化ホウ素凝集粉末。

【請求項6】
該粉末の平均凝集体サイズが約40?500 μmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の粉末。

【請求項10】
該粉末の80重量%以上が約40?150 μmの粒子分布範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の粉末。」

5 当審の判断
(1)取消理由1及び申立理由1について
ア 本件発明1について
本件発明1と先願発明とを対比する。
本件特許に係る明細書の段落【0012】に記載される「本質的に構成される」の意味を考慮すると、先願発明1における「hBN凝集体の粉末」は、本件発明1における「窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成される粉末」に相当するといえる。
また、先願発明における「hBN凝集体の粉末」は、六方晶窒化ホウ素からなる一次粒子の凝集体であり、また、その純度は99.9質量%であるから、本件発明1における「(a)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:」「・総計で5%未満の他の元素」及び「(b)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成」に包含されるものといえる。
さらに、先願発明における「気孔率が27%」は、水銀圧入法により全細孔容積及び全細孔表面積を測定することにより算出(上記4(1)ア(キ)参照。)したものであり、本件発明1における「(c)以下の物理的特徴:」「55%以下の見かけの空隙率」に包含されるものといえる。
そうすると、両者は、
「窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成される粉末、下記を示す粉末:
(a)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・総計で5%未満の他の元素
(b)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(c)以下の物理的特徴:
・55%以下の見かけの空隙率。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、
「(a)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率」
なる発明特定事項を備えているのに対し、先願発明は、B_(2)O_(3)含有量が0.02質量%、CaO含有量が0.02質量%、炭素含有量が0.02質量%、純度が99.9質量%である点。

(相違点2)
本件発明1は、「・0.90以上の平均真円度」なる発明特定事項を備えているのに対し、先願発明は、平均真円度についての発明特定事項を備えていない点。

(相違点3)
本件発明1は、「・1.5μm以下のメジアン細孔径」なる発明特定事項を備えているのに対し、先願発明は、平均細孔直径が100nmである点。

(相違点4)
本件発明1は、
「ここで、前記粉末が、下記(i)?(iii)のうちの少なくとも1つの条件を満たす:
(i)前記粉末が、30μmよりも大きくかつ500μm未満のメジアン径を示す、
(ii)前記粉末が、20μmよりも大きいD_(10)パーセンタイルを示す、
(iii)前記他の元素が、好ましくは0.5%以上かつ4%未満の量の、前記窒化ホウ素の焼結用助剤を含んでいる、という化学組成を示す。」
なる発明特定事項を備えているのに対し、先願発明は、D_(50)が14.1μmであり、D_(10)や焼結用助剤についての発明特定事項を備えていない点。

事案に鑑み、相違点4について検討する。
まず、D_(10)はD_(50)以下であることが本件特許の優先日当時における技術常識であるところ、D_(50)が14.1μmであるためD_(10)は14.1μm以下であることは明らかであり、また、hBN凝集体を製造する際に必ず焼結用助剤を添加するといった本件特許の優先日当時における技術常識もないことから、本件発明1は、上記(i)?(iii)のいずれも満たしているとはいえないから、相違点4は実質的なものである。
次に、相違点4が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるかを検討する。
先願明細書の上記4(1)ア(ウ)(段落[0016])の記載からすれば、D_(50)は、凝集体の圧縮破壊強度等の特性に影響するものであるから、これを変更すれば、このような特性において変化が生じるため、新たな効果を奏するものといえる。そして、D_(10)もD_(50)と同様に凝集体の特性に影響するものと推認されるから、これを変更すれば新たな効果を奏するものといえる。
また、先願明細書の上記4(1)ア(イ)(段落[0005])の記載からすれば、焼結用助剤の添加の有無は、凝集体の熱伝導性や電気絶縁性等の特性に影響するものであるから、添加の有無を変更すれば、このような特性において変化が生じるため、新たな効果を奏するものといえる。
したがって、仮に、甲第2号証(4(2)ア)、甲第3号証(4(3)ア)、甲第4号証(4(3)イ)等の記載から、上記(i)?(iii)の発明特定事項が、周知技術、慣用技術であるといえるとしても、相違点4が課題解決のための具体化手段における微差であるとすることはできない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとはいえない。

イ 本件発明2?4、6?11、17、18について
請求項2?4、6?11、17、18は請求項1を引用するものであるから、本件発明2?4、6?11、17、18は本件発明1と事情は同じである。
よって、本件発明2?4、6?11、17、18は、先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとはいえない。

ウ 小活
以上のとおりであるから、取消理由1及び申立理由1に理由はない。

(2)申立理由2及び申立理由3について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明を対比する。
本件特許に係る明細書の段落【0012】に記載される「本質的に構成される」の意味を考慮すると、甲2発明の「二次凝集粒子」は、本件発明1の「窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成される粉末」に相当するといえる。
また、甲2発明の「純度93%の鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が等方的に凝集した」ものであることは、「(b)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成」に相当する。
さらに、本件特許に係る明細書の段落【0024】には「見かけの空隙率」を「水銀ポロシメーター法」で評価されることが記載されており、甲第2号証には、上記4(2)ア(ウ)(段落【0012】)に記載されるように「気孔率」を「水銀圧入式のポロシメータ」で測定することが記載されていることに鑑みると、甲2発明の「23%の気孔率」は、本件発明1の「55%以下の見かけの空隙率」に相当する。
そうすると、両者は、
「窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成される粉末であって、下記を示す粉末:
(b)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(c)以下の物理的特徴:
・55%以下の見かけの空隙率」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本件発明1は、
「(a)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率
・総計で5%未満の他の元素」
なる発明特定事項を備えているのに対し、甲2発明は、純度93%の鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が等方的に凝集したものである点。

(相違点2)本件発明1は、
「・0.90以上の平均真円度
・1.5μm以下のメジアン細孔径」
なる発明特定事項を備えているのに対し、甲2発明は、球状であり、0.31μmの平均気孔径を有する点。

(相違点3)本件発明1は、
「ここで、前記粉末が、下記(i)?(iii)のうちの少なくとも1つの条件を満たす:
(i)前記粉末が、30μmよりも大きくかつ500μm未満のメジアン径を示す、
(ii)前記粉末が、20μmよりも大きいD_(10)パーセンタイルを示す、
(iii)前記他の元素が、好ましくは0.5%以上かつ4%未満の量の、前記窒化ホウ素の焼結用助剤を含んでいる、という化学組成を示す。」
なる発明特定事項を備えているのに対し、甲2発明は、63μmの平均粒径である点。

事案に鑑み、相違点1について検討する。
まず、甲2発明は、純度93%の鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が等方的に凝集したものであるから、鱗片状窒化ホウ素以外に窒素が含まれないとすれば、窒素の含有量は52.5%(=93%×14/(10.8+14))となり、「53%と57%の間の窒素」を必ずしも満たすとはいえず、カルシウム含有率も不明であり、「他の元素」が「総計で5%未満」であるともいえない。
また、甲第4号証の上記4(3)イ(ウ)(段落[0046])には、「BN純度が98.8%、カルシウム含有量が8ppmである六方晶窒化ホウ素粉末」が記載されているが、これは、直ちに、甲2発明の純度93%の鱗片状窒化ホウ素の一次粒子や二次凝集粒子のカルシウム含有率が400ppm未満であることを示す証拠にならない。
そうすると、相違点1は実質的なものである。
次に、相違点1に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲第2号証(上記4(2)ア)、甲第3号証(上記4(3)ア)、甲第4号証(上記4(3)イ)には、カルシウム含有率を400ppm未満にする動機付けとなるような記載はなく、また、これによって摩擦による摩耗が低度である凝集体が得られることを示唆する記載もないから、当業者といえども、甲2発明において、カルシウム含有率を400ppm未満にして、摩擦による摩耗が低度である凝集体が得ようとすることは容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?4、6?11、17、18について
請求項2?4、6?11、17、18は請求項1を引用するものであるから、本件発明2?4、6?11、17、18は本件発明1と事情は同じである。
よって、本件発明2?4、6?11、17、18は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小活
以上のとおりであるから、申立理由2及び申立理由3に理由はない。

(3)申立人の主張について
令和3年8月13日提出の意見書における申立人の主張は、以下のとおり、いずれも採用できない。

ア 本件発明1の「(i)前記粉末が、30μmよりも大きくかつ500μm未満のメジアン径を示す」という発明特定事項について
申立人は、甲第2号証(上記4(2)ア)及び甲第4号証(上記4(3)イ)、並びに、新たに提出された甲第5号証(上記4(4)ア)及び甲第6号証(上記4(4)イ)の記載に基づき、窒化ホウ素粉末のメジアン径を30μmよりも大きくかつ500μm未満の範囲にすることは周知技術、慣用技術であり、メジアン径をこの範囲とすることの技術的意義は本件特許に係る明細書に記載されておらず、この範囲にすることによって新たな効果が生ずるとはいえないから、本件発明が先願発明と(i)の点で相違するとしても、その相違点は課題解決のための具体化手段における微差である旨を主張する。
しかしながら、この主張については、上記(1)アにおいて相違点4の判断として記載したとおりであるから、新たに提出された甲第5号証及び甲第6号証の記載を考慮しても、この相違点は課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。

イ 本件発明1の「(ii)前記粉末が、20μmよりも大きいD_(10)パーセンタイルを示す」という発明特定事項について
申立人は、甲第2号証(上記4(2)ア)及び甲第4号証(上記4(3)イ)、並びに、新たに提出された甲第5号証(上記4(4)ア)及び甲第6号証(上記4(4)イ)の記載に基づき、窒化ホウ素粉末のD_(10)パーセンタイルを20μmよりも大きい範囲にすることは周知技術、慣用技術であり、D_(10)パーセンタイルをこの範囲とすることの技術的意義は本件特許に係る明細書に記載されておらず、この範囲にすることによって新たな効果が生ずるとはいえないから、本件発明が先願発明と(ii)の点で相違するとしても、その相違点は課題解決のための具体化手段における微差である旨を主張する。
しかしながら、この主張については、上記(1)アにおいて相違点4の判断として記載したとおりであるから、新たに提出された甲第5号証及び甲第6号証の記載を考慮しても、この相違点は課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。

ウ 本件発明1の「(iii)前記他の元素が、好ましくは0.5%以上かつ4%未満の量の、前記窒化ホウ素の焼結用助剤を含んでいる、という化学組成を示す」という発明特定事項について
(ア)明確性について
a 申立人は、本件発明1の「(iii)前記他の元素が、好ましくは0.5%以上かつ4%未満の量の、前記窒化ホウ素の焼結用助剤を含んでいる、という化学組成を示す」なる特定について、焼結用助剤は元素とはいえず、焼結用助剤は焼結の際に分解・反応等の化学変化を受けるものであるから、窒化ホウ素が焼結用助剤をそのまま含むことはないため、技術的に何を意味するのか不明確である旨を主張する。
しかしながら、本件特許に係る明細書の段落【0016】には、「焼結用助剤」という用語の定義が記載されており、段落【0014】には、その例も記載されているから、焼結用助剤が元素でないとしても、何ら技術的に不明確であるところはない。
また、焼結用助剤は焼結の際に分解・反応等の化学変化を受けるものであるとしても、その結果、焼結用助剤に由来する元素は、窒化ホウ素に残留するのは明らかである。そして、「他の元素が、…焼結用助剤を含んでいる」というのは、他の元素として焼結用助剤に由来する元素を含んでいると解するのが相当であるから、焼結用助剤が焼結の際に分解・反応等の化学変化を受けるものであるとしても、上記(iii)の特定が技術的に何を意味するのか不明確であることにはならない。

b さらに、申立人は、本件発明1の上記(iii)の特定について、「好ましくは」という表現により、これに続く「0.5%以上かつ4%未満の量」が必須の発明特定事項であるか否かが不明確である旨を主張する。
しかしながら、「好ましくは」という表現により、「0.5%以上かつ4%未満の量」は任意の発明特定事項になることは明らかである。

(イ)拡大先願について
a 申立人は、甲第3号証(上記4(3)ア)及び甲第4号証(上記4(3)イ)、並びに、新たに提出された甲第5号証(上記4(4)ア)の記載に基づき、窒化ホウ素の製造に際し、焼結工程において焼結用助剤を使用することは周知技術、慣用技術であり、焼結用助剤については周知技術、慣用技術の範疇での使用が想定されており、新たな効果を生じさせるものではないことは明らかであるから、本件発明が先願発明と(iii)の点で相違するとしても、その相違点は課題解決のための具体化手段における微差である旨を主張する。
しかしながら、この主張については、上記(1)アにおいて相違点4の判断として記載したとおりであるから、新たに提出された甲第5号証の記載を考慮しても、この相違点は課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。

b また、申立人は、上記(iii)の特定が窒化ホウ素に焼結用助剤に由来する元素を含むことを意味するのであるとすれば、窒化ホウ素に含まれる元素が何に由来するかによって、物としての違いが生じるわけではないため、何の特定にもなっていないことになる、例えば、Siは、本件特許に係る明細書の段落【0014】において、不純物としても、焼結用助剤を構成し得る元素としても挙げられているが、どちらであっても、Siが含まれることには変わりがない旨を主張する。
しかしながら、上記(ア)aのとおり、上記(iii)の特定は窒化ホウ素に焼結用助剤に由来する元素を含むことを意味するのは明らかであるから、これを前提として、まず、拡大先願の判断としては、先願明細書には、hBN凝集体の製造に際して焼結用助剤を用いることは記載されていないし、例として言及されるSiがhBN凝集体に含まれることも記載されていない。したがって、上記(1)アでの判断のとおり、本件発明1と先願発明は相違点4を有し、この相違点4は課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。
次に、明確性の判断としては、一般的に、化学物質に不純物として含まれる元素であるか、所定の目的を持って添加した元素であるかは、本件特許の優先日当時における技術常識に照らし、その含有量や存在形態等によって区別できるものであるから、窒化ホウ素に含まれる元素が不純物であるか否かは明確に区別できるものである。そして、窒化ホウ素に不純物ではないと解され、かつ、焼結用助剤を構成し得る元素が含まれていれば、窒化ホウ素に焼結用助剤に由来する元素を含むと解すればよいのであって、その点において何ら不明確なところはない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1?4、6?11、17、18に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?4、6?11、17、18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項5、12は削除されたため、請求項5、12に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象となる特許が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、その申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成される粉末であって、下記を示す粉末:
(a)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率、
・総計で5%未満の他の元素、
(b)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(c)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率、
ここで、前記粉末が、下記(i)?(iii)のうちの少なくとも1つの条件を満たす:
(i)前記粉末が、30μmよりも大きくかつ500μm未満のメジアン径を示す、
(ii)前記粉末が、20μmよりも大きいD_(10)パーセンタイルを示す、
(iii)前記他の元素が、好ましくは0.5%以上かつ4%未満の量の、前記窒化ホウ素の焼結用助剤を含んでいる、という化学組成を示す。
【請求項2】
0.3μm以下のメジアン細孔径を示す、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
以下の全体的な化学組成を示す、請求項1又は2に記載の粉末:
- 41%以上かつ44%以下のホウ素含有率、
- 54%以上かつ56%以下の窒素含有率、
- 重量で300ppm未満の、好ましくは重量で200ppm未満のカルシウム含有率。
【請求項4】
前記(i)又は(ii)の条件を満たし、
B,N及びCa以外の元素の重量での含有率が、4%未満であり、好ましくは2%未満であり、かつ、酸素含有率が、重量で5000ppm未満であり、好ましくは重量で2000ppm未満であるという化学組成を示す、
請求項1?3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記(iii)の条件を満たし、
前記窒化ホウ素の前記焼結用助剤が、LaB_(6);希土類金属の酸化物、元素周期表の3及び4族の元素の酸化物、並びにそれらの混合物の酸化物;元素周期表4族の元素の窒化物;並びにそれらの混合物から選ばれる、
請求項1?3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項7】
前記構造組成が、重量パーセントで、かつ、前記粉末に存在する結晶相を合わせたものを基準として、95%よりも多くの、好ましくは98%よりも多くの、窒化ホウ素を含有している、請求項1?4及び6のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項8】
重量パーセントで、かつ、前記粉末に存在する結晶窒化ホウ素を基準として、60%よりも多くの前記窒化ホウ素が、六方晶構造として存在しているという構造組成を示す、請求項1?4、6及び7のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項9】
0.92以上の平均真円度を示す、請求項1?4及び6?8のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項10】
0.25μm以下で、かつ好ましくは0.05μmよりも大きいメジアン細孔径を示す、請求項1?4及び6?9のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項11】
50%未満の、好ましくは49%未満の見かけの空隙率を示す、請求項1?4及び6?10のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項12】(削除)
【請求項13】
粉末を製造するための、下記である、方法:
前記粉末が、窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成され、下記を示し:
(α)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率、
・総計で5%未満の他の元素、
(β)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(γ)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率、
前記方法が、以下の工程を含む:
(a)出発供給原料を調製すること:工程(g)の完了時に前記粉末が得られるように、出発供給原料の組成が適合され、前記出発供給原料が、窒化ホウ素の粒を含んでおり、窒化ホウ素の粒から形成される粉末が、10重量%以下の酸素含有率及び重量で400ppm未満のカルシウム含有率を示す、
(b)場合によって、前記出発供給原料を粉砕すること、
(c)前記出発供給原料を成型して、60%以上の相対密度を示すブロックの形状にすること、
(d)前記ブロックを粉砕して、集塊を得ること、
(e)工程(d)の最後に得られる前記集塊を研磨して、それによって、前記集塊が、0.90以上の真円度を示すようにすること、
(f)場合によって、前記集塊の粒径を選択すること、
(g)不活性雰囲気又は弱還元性雰囲気において、1600℃よりも高くかつ2100℃未満の焼結温度で、前記集塊を焼結すること、
(h)場合によって、凝集体の粒径を選択すること。
【請求項14】
粉末を製造するための、下記である、方法:
前記粉末が、窒化ホウ素に基づく凝集体から本質的に構成され、下記を示し:
(α)重量パーセントで、以下の全体的な化学組成:
・上限値及び下限値を含んで40%と45%の間のホウ素、
・上限値及び下限値を含んで53%と57%の間の窒素、
・重量で400ppm未満のカルシウム含有率、
・総計で5%未満の他の元素、
(β)重量パーセントで、かつ前記粉末中に存在する結晶相を合わせたものを基準として、下限値を含んで90%よりも多い窒化ホウ素を含有している、構造組成、
(γ)以下の物理的特徴:
・0.90以上の平均真円度、
・1.5μm以下のメジアン細孔径、
・55%以下の見かけの空隙率、
前記方法が、以下の工程を含む:
(a’)出発供給原料を調製すること:工程(f’)の完了時に前記粉末が得られるように、出発供給原料の組成が適合され、前記出発供給原料が、窒化ホウ素の粒を含んでおり、窒化ホウ素の粒から形成される粉末が、10重量%以下の酸素含有率、及び重量で400ppm未満のカルシウム含有率を示す、
(b’)場合によって、前記出発供給原料を粉砕すること、
(c’)前記出発供給原料を成型して、60%以上の相対密度を示すブロックの形状にすること、
(d’)不活性雰囲気又は弱還元性雰囲気において、1600℃よりも高くかつ2100℃未満の焼結温度で、前記ブロックを焼結すること、
(e’)前記ブロックを粉砕して、凝集体を得ること、
(f’)工程(e’)の最後に得られる前記凝集体を研磨して、凝集体が0.90以上の真円度を示すようにすること、
(g’)場合によって、前記凝集体の粒径を選択すること。
【請求項15】
工程(a)又は(a’)において、カルシウム含有率の合計が、重量で300ppm未満であり、かつ/若しくは、酸素含有率の合計が、前記出発供給原料を基準とした重量パーセントで、5%未満であり、好ましくは2%未満である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
工程(c)又は(c’)において、前記出発供給原料をブロックの形状に成型して、前記ブロックの相対密度が、65%よりも大きく、好ましくは70%よりも大きくなるようにする、請求項13?15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1?4及び6?11のいずれか一項に記載の粉末が分散した重合体を含有している、微粒子充填重合体。
【請求項18】
前記重合体は、エポキシ樹脂、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタラート、ナイロン、ポリカーボネート、及びエラストマーから選ばれる、請求項17に記載の微粒子充填重合体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-05 
出願番号 特願2017-565225(P2017-565225)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (C01B)
P 1 652・ 161- YAA (C01B)
P 1 652・ 113- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野 久子  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 後藤 政博
伊藤 真明
登録日 2020-06-30 
登録番号 特許第6726219号(P6726219)
権利者 サン-ゴバン サントル ドゥ ルシェルシェ エ デトゥードゥ ユーロペン
発明の名称 窒化ホウ素凝集体粉末  
代理人 胡田 尚則  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 鶴田 準一  
代理人 胡田 尚則  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 鶴田 準一  
代理人 南山 知広  
代理人 関根 宣夫  
代理人 三橋 真二  
代理人 南山 知広  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 関根 宣夫  

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