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審決分類 |
審判 一部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 G02B 審判 一部無効 特許請求の範囲の実質的変更 G02B 審判 一部無効 判示事項別分類コード:857 G02B 審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 G02B 審判 一部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 G02B 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G02B 審判 一部無効 2項進歩性 G02B |
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管理番号 | 1409444 |
総通号数 | 29 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-05-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2020-02-13 |
確定日 | 2024-02-07 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4466883号「印刷された再帰反射シート」の特許無効審判事件についてされた令和 3年 6月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和03年(行ケ)第10085号、令和 4年10月31日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4466883号の明細書及び特許請求の範囲を、令和3年2月5日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3、4〕、2について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特許第4466883号の請求項1~請求項4に係る特許についての出願は、平成12年4月10日にした特願2000-108636号の一部を平成19年10月31日に新たな特許出願(特願2007-283059号)としたものであって、平成22年3月5日に特許権の設定の登録がされたものである。 請求人スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー及びスリーエム ジャパン株式会社は、令和2年2月13日に、上記特許のうち請求項1及び請求項2に係る特許を無効とすることについて、無効審判(無効2020-800013号)を請求した。 その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和2年 2月13日 :審判請求書の提出 (甲1~甲9を添付。) 令和2年 7月 6日 :審判事件答弁書の提出 (乙1~乙29を添付。) 令和2年 9月 7日 :名称変更届の提出 (請求人「スリーエム ジャパン株式会社」の名称が「スリーエム ジャパン イノベーション株式会社」に変更された。) 令和2年 9月25日付け:審理事項通知書(請求人) 令和2年 9月25日付け:審理事項通知書(被請求人) 令和2年10月26日 :口頭審理陳述要領書の提出(請求人) (甲10~甲22を添付。) 令和2年10月27日 :口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) (乙30~乙40を添付。) 令和2年11月10日 :口頭審理 令和2年11月27日付け:審決の予告 令和3年 2月 5日 :訂正請求書の提出 令和3年 2月 5日 :上申書の提出(被請求人) (乙41及び乙42を添付。) 令和3年 4月 2日 :審判事件弁駁書の提出(請求人) (甲23~甲26を添付。) 令和3年 4月19日 :上申書の提出(被請求人) (乙43及び乙44を添付。) 令和3年 6月16日付け:審決(送達日:同月24日)(以下「一次審決」という。) (結論の概要:訂正後の請求項1~4について訂正することを認める。請求項1~2に対する審判請求は成り立たない。) 令和3年 7月21日 :一次審決に対する審決取消訴訟の提起(知財高裁令和3年(行ケ)第10085号) 令和4年10月31日 :判決言渡(判決主文の概要:一次審決を取り消す。訴訟費用は、被告らの負担とする。) 令和4年12月13日 :上告受理申立て(令和5年(行ヒ)105号) 令和5年 6月 8日 :上告受理申立不受理の決定 上記決定により、令和4年10月31日言渡の判決が確定した。以下、この判決を「確定判決」という。 第2 用語について 本審決では、以下、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」及び「特許無効審判請求人」のことを、それぞれ「当業者」及び「請求人」という場合がある。また、本件特許の請求項1に係る発明を「本件特許発明1」、請求項2に係る発明を「本件特許発明2」といい、総称して「本件特許発明」という場合がある。さらに、本件特許の明細書を「本件特許明細書」という場合がある。 第3 本件訂正請求について 1 請求の趣旨 令和3年2月5日付け訂正請求書に係る訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第4466883号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~請求項4について訂正することを求める、というものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子の反射側面上、または保持体層と表面保護層の間に印刷層が設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層は、白色の有機顔料、白色または黄色の無機顔料、蛍光染料、および蛍光増白剤のうちの一以上の着色剤を含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。」 と記載されているのを、 「少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層は、白色の無機顔料として酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。」 に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、 「上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である請求項1記載の印刷された再帰反射シート。」 と記載されているのを、 「少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなり、上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層の厚みは、0.5~10μmであり、該印刷層は、白色の酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。」 に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5) 訂正事項5 明細書の【0016】に、 「かくして本発明によれば、少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子の反射側面上、または保持体層と表面保護層の間、または表面保護層上に印刷層が設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層は、白色の有機顔料、白色または黄色の無機顔料、蛍光染料、および蛍光増白剤のうちの一以上の着色剤を含有することを特徴とする印刷された再帰反射シートが提供される。」 と記載されているのを、 「かくして本発明によれば、少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層は、白色の無機顔料として酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シートが提供される。」 に訂正する。 (6) 一群の請求項について 本件訂正請求は、訂正前の一群の請求項である請求項1~請求項4に対してされたものである。 3 訂正の適否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1についてしたものであり、以下の事項からなる。 [1A]「反射素子層」を、「ポリカーボネート樹脂を用い」たものに限定する。 [1B]「表面保護層」を、「(メタ)アクリル樹脂を用い」たものに限定する。 [1C]「反射素子の反射側面上、または保持体層と表面保護層の間に」「設置され」た「印刷層」を、「保持体層と表面保護層の間に」「保持体層と表面保護層に接して設置され」たものに限定する。 [1D]「白色の有機顔料、白色または黄色の無機顔料、蛍光染料、および蛍光増白剤のうちの一以上の着色剤を含有する」「印刷層」を、「白色の無機顔料として酸化チタンを含有する」ものに限定する。 これら訂正の内容からみて、訂正事項1に係る訂正は、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。 次に、上記[1A]の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0025】の「反射素子層(4)に使用しうる材料の例としては、ポリカーボネート樹脂」「を例示できる。」という記載に基づくものである。また、上記[1B]の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0026】の「表面保護層(1)には」「(メタ)アクリル樹脂が好ましい。」という記載に基づくものである。さらに、前記[1C]の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0012】の「印刷層は、反射素子とも表面保護層とも密着性がやや劣り」という記載及び【0022】の「印刷層(2)は、通常、表面保護層(1)と保持体層(3)の間」「に設置することができ」という記載から、当業者が導き出すことができる事項に基づくものである。そして、前記[1D]の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0036】の「着色剤は」「白色や黄色の無機顔料が好ましい。」という記載及び【0038】の「無機顔料としては、例えば、白色として酸化チタン」「を挙げることができ」という記載に基づくものである。 以上勘案すると、訂正事項1に係る訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 そうしてみると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 最後に、訂正事項1に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項2についてしたものであり、以下の事項からなる。 [2A]請求項1の記載を引用する請求項2の記載を請求項1の記載を引用しないものに書き改める。 [2B]「反射素子層」を、「ポリカーボネート樹脂を用い」たものに限定する。 [2C]「表面保護層」を、「(メタ)アクリル樹脂を用い」たものに限定する。 [2D]「反射素子の反射側面上、または保持体層と表面保護層の間に」「設置され」た「印刷層」を、「保持体層と表面保護層の間に」「保持体層と表面保護層に接して設置され」たものに限定する。 [2E]「白色の有機顔料、白色または黄色の無機顔料、蛍光染料、および蛍光増白剤のうちの一以上の着色剤を含有する」「印刷層」を、「厚みは、0.5~10μmであり」、「白色の酸化チタンを含有する」ものに限定する。 これら訂正のうち、上記[2A]の訂正は、特許法134条の2第1項ただし書4号に掲げる事項(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。以下「請求項間の引用関係の解消」という。)を目的とするものに該当する。また、上記[2B]~[2E]の訂正は、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。 次に、上記[2A]の訂正は、請求項2の記載形式を改めたにとどまり、発明の要旨を変更しないものである。また、上記[2B]の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0025】の「反射素子層(4)に使用しうる材料の例としては、ポリカーボネート樹脂」「を例示できる。」という記載に基づくものである。さらに、上記[2C]の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0026】の「表面保護層(1)には」「(メタ)アクリル樹脂が好ましい。」という記載に基づくものである。加えて、前記[2D]の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0012】の「印刷層は、反射素子とも表面保護層とも密着性がやや劣り」という記載及び【0022】の「印刷層(2)は、通常、表面保護層(1)と保持体層(3)の間」「に設置することができ」という記載から、当業者が導き出すことができる事項に基づくものである。そして、前記[2E]の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0031】の「印刷層(2)の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5~10μm」「である。」という記載並びに【0036】の「着色剤は」「白色や黄色の無機顔料が好ましい。」という記載及び【0038】の「無機顔料としては、例えば、白色として酸化チタン」「を挙げることができ」という記載に基づくものである。 以上勘案すると、訂正事項2に係る訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 そうしてみると、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 最後に、訂正事項2に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (3) 別の訂正単位とする求めについて 訂正事項2に係る訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とした訂正を含むものである。また、特許権者は、訂正後の請求項2についての訂正が認められる場合には、訂正前の請求項2が引用する請求項1が属する訂正後の請求単位とは、別途訂正することを求めている。 (4) 訂正事項3について 訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正であるから、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。また、この訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であることは明らかである。さらに、この訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しないことも明らかである。 (5) 訂正事項4について 訂正事項4に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項4を削除する訂正であるから、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。また、この訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であることは明らかである。さらに、この訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しないことも明らかである。 (6) 訂正事項5について 訂正事項5に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に合わせて明細書の【0016】の記載を書き改めることにより、両者の記載が整合しなくなることを回避する訂正である。 そうしてみると、訂正事項5に係る訂正は、特許法134条の2第1項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とするものに該当する。 次に、訂正事項1の場合と同様の理由により、訂正事項5に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。また、訂正事項5に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しないことは、明らかである。 (7) 明細書の訂正と一群の請求項との関係について 訂正事項5に係る訂正は、願書に添付した明細書の訂正をする場合であって、一群の請求項ごとに特許法134条の2第9項において準用する126条1項の規定による請求をしようとするときに該当する。そして、訂正事項5に係る訂正は、訂正事項5に係る明細書の訂正に係る一群の請求項の全てである、訂正後の請求項1、請求項3及び請求項4について行ったものである。 4 まとめ 本件訂正請求による訂正は、特許法134条の2第1項ただし書、同条9項において準用する同条126条5項及び6項の規定に適合する。 よって、特許第4466883号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3、4〕、2について訂正することを認める。 第4 訂正後の本件特許発明 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったので、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項によって特定されたとおりの、以下のものである。 「【請求項1】 少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層は、白色の無機顔料として酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。 【請求項2】 少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなり、上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層の厚みは、0.5~10μmであり、該印刷層は、白色の酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。」 第5 請求人及び被請求人の主張並びに証拠方法 1 請求人が主張する無効理由の概要 審判請求人は、「特許第4466883号の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めて、以下の無効理由を主張する。 (1) 無効理由1(甲1を主引用例とした場合の進歩性欠如) 本件特許発明1及び本件特許発明2は、特許出願前に当業者が、特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。 甲3~甲26は技術常識ないし周知技術を裏付けるものであり、また、甲3は副引用例でもある。 (2) 無効理由2(甲2を主引用例とした場合の進歩性欠如) 本件特許発明1及び本件特許発明2は、特許出願前に当業者が、特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。 甲3~甲26は技術常識ないし周知技術を裏付けるものである。 (3) 無効理由3(サポート要件違反) 本件特許発明1及び本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということができないから、請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。 2 被請求人の主張の概要 被請求人は、「請求人 スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニーによる本件審判の請求を却下する、請求人 スリーエム ジャパン イノベーション株式会社による本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人らの負担とする」との審決を求めて、以下の主張をする。 (1) 請求人 スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニーは、適法に設立され存続する法人であるか不明である。 (2) 請求人 スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニーが、利害関係人であることの主張立証がなされていない。 (3) 請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものに該当しない。 (4) 請求項1及び請求項2に係る特許は、同法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものに該当しない。 3 証拠方法 (1) 請求人が提出した証拠 甲1:英国特許出願公開第2171335号明細書 甲2:西独国特許出願第2118822号明細書 甲3:特開平11-305018号公報 甲4:社団法人ドイツ工業規格の色規格委員会,「Aufsichtfarben fur Verkehrszeichen Farben und Farbgrenzen bei Beleuchtung mit Tageslicht」,DIN 6171 パート1,独国,1989年3月,1~8葉 (当合議体注:タイトルの「fur」の「u」には、ウムラウトが付されている。また、タイトルを翻訳すると、「交通標識の表面色 昼光による照明下の色、及び色の境界」となる。) 甲5:特開平10-337739号公報 甲6:特開平5-124166号公報 甲7:特開平11-263373号公報 甲8:特開平5-116260号公報 甲9:米国特許第3973342号明細書 甲10:(財)日本規格協会,「JIS工業用語大辞典」,第4版,1995年11月20日,358頁 甲11:新村出,「広辞苑」,第七版,株式会社岩波書店,2018年1月12日,1712頁 甲12の1:特開平6-273608号公報 甲12の2:国際公開第98/18028号 甲12の3:特開平11-15415号公報 甲12の4:特開平11-149006号公報 甲12の5:特開平11-305017号公報 甲13:相良 守峯,「木村・相良独和辞典新訂」,株式会社博友社,昭和59年2月1日,185頁 甲14:相良 守峯,「木村・相良独和辞典新訂」,株式会社博友社,昭和59年2月1日,290頁 甲15:「Collins German Dictionary」,HarperCollins Publishers,2007年,1373頁 甲16:特表平10-503133号公報 甲17:特開平11-149006号公報 甲18:特開平6-242305号公報 甲19:特開平6-91800号公報 甲20:特開平9-127891号公報 甲21:J-Plat Pat「検索結果一覧(国内文献)」,[onnline],J-Plat Pat,[令和2年(2020年)9月9日作成],インターネット<URL:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0115> (当合議体注:再帰反射シートに関する、請求人「スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー」の特許権の一覧である。なお、上記アドレスを入力しただけでは、J-Plat Patの空白の検索結果ページが表示される。) 甲22:社団法人ドイツ工業規格の色規格委員会,「Retroreflektierende Materialien zur Verkehrssicherung Teil 4: Lichttechnische Mindestanforderungen an Reflexstoffe mikroprismatischer Materialien」,DIN 67520-4,独国,1999年10月,1~4葉 (当合議体注:タイトルを翻訳すると、「交通安全用再帰性反射材 第4部:マイクロプリズム再帰性反射材に関する光学的最低要求事項」となる。) 甲23:大木道則 外3名,「化学大辞典」,株式会社 東京化学同人,第1版,1989年10月20日,874及び875頁 甲24:長倉三郎 外5名,「岩波 理化学事典 第5版」,株式会社 岩波書店,第5版,1998年2月20日,074頁 甲25:実用プラスチック成形加工事典編集委員会,「実用プラスチック成形加工事典」,株式会社産業調査会 事典出版センター,1997年3月24日,47頁 甲26:特開平11-183715号公報 (2) 被請求人が提出した証拠 乙1:別件侵害訴訟(平成30年(ワ)第1130号)第10回弁論準備手続調書 乙2:同証拠説明書(2)(2018年11月7日付け) 乙3:米国特許第3973342号明細書 乙4:同証拠説明書(3)(2019年3月27日付け) 乙5:同被告第8準備書面(無効論)(2019年9月5日付け) 乙6:同時機に後れた攻撃防御方法却下の申立て(令和元年9月2日付け) 乙7:同被告第8準備書面(無効論)(2019年9月12日付け) 乙8:甲1の修正抄訳 乙9:松田 徳一郎,「リーダーズ英和辞典」,第2版,株式会社研究社,1999年5月,73頁 乙10:「反射」,1~2頁,[online],一般社団法人日本標識工業界,[令和2年(2020年)7月3日印刷],インターネット<URL:http://signs-nsa.jp/pdf/top/hansya_all.pdf> 乙11:「ドイツ規格 DIN6171(交通標識)」の訳文 乙12:特表平10-503133号公報 乙13:特開平11-305018号公報 乙14:甲2の修正抄訳 乙15:小西 友七・南出 康世,「ジーニアス英和辞典」,第4版,株式会社大修館書店,2007年3月1日,996頁 乙16:藤岡 啓介,「工業英語語群辞典」,株式会社工業調査会,2005年5月13日,291頁 乙17:光明 誠一,「テクニカルライター英和辞典」,株式会社三省堂,2008年9月1日,317頁 乙18:早川 東三,「デイリーコンサイス独和・和独辞典」,第2版,株式会社三省堂,2009年5月20日,520頁 乙19:「Worterbuch fur Schule und Studium Collins Teil 2 Deutsch-Englisch」,Ernst Klett Verleg,1998年改訂,950頁 (当合議体注:タイトルの「Worterbuch」の「o」及び「fur」の「u」には、ウムラウトが付されている。) 乙20:松田 徳一郎,「リーダーズ英和辞典」,第2版,株式会社研究社,1999年5月,1090頁 乙21:松村 明,「大辞林」,第二版,株式会社三省堂,1995年11月3日,844頁 乙22:Victoria Neufeld 外,「WEBSSTER'S NEW WORLD COLLEGE DICTIONARY」,THIRD EDITION, Macmillan General Reference,1996年,593頁 乙23:前田 敬作,「フロイデ独和辞典」,株式会社白水社,2003年3月25日,1140頁 乙24:町村 直義,「科学技術独和英大辞典」,技報堂出版株式会社,2016年9月20日,227頁 乙25:早川 東三,「新コンサイス独和辞典」,株式会社三省堂,1998年4月15日,939頁 乙26:DAVID BLATNER 外,「REAL WORLD SCANNING AND HALFTONES」,Peachpit Press,1993年,10頁,12頁,17頁 乙27:社団法人ドイツ工業規格の色規格委員会,「Retroreflektierende Materialien zur Verkehrssicherung Lichttechnische Mindestanforderungen an reflexstoffe fur Verkehrszeichen」,DIN 67520 パート2,独国,1989年6月,1~3葉 (当合議体注:タイトルの「fur」の「u」には、ウムラウトが付されている。) 乙28:特開昭62-37186号公報 乙29:特開平4-235086号公報 乙30:甲1の修正抄訳 乙31:実願昭47-13746号(実開昭48-88367号)のマイクロフィルム 乙32:実願昭49-118298号(実開昭51-46274号)のマイクロフィルム 乙33:特開平6-160615号公報 乙34:訴訟記録番号X ZR 19/13 判決文,ドイツ連邦特許裁判所,2015年4月21日 乙35:「高品質スクリーン印刷用 2014 技術情報 No.0001 スクリーン印刷の原理原則と標準技術」,1~4葉,[online],平成26年(2014年),アサダメッシュ株式会社,アサダメッシュ株式会社ウェッブページ,インターネット<URL:https://asada-mesh.co.jp/techinfo/01_0001.html> 乙36:甲2の修正抄訳 乙37:「デザ印刷-(用語集)」,1葉,[online],デザ印刷,デザ印刷ウェッブページ,インターネット<URL:http://www.designsatsu.com/yougo/2010/10/post-49.html> 乙38:「出力・看板用語集」,1葉,[online],出力屋さんウェッブページ,株式会社アドサービス,インターネット<URL:https://www.shutsuryokuyasan.com/glossary/?p=2456> 乙39:「印刷用語集」,1葉,[online],一般社団法人日本印刷産業連合会,一般社団法人日本印刷産業連合会ウェッブページ,インターネット<URL:https://www.jfpi.or.jp/webyogo/index.php?term=1208> 乙40:徳野 辰夫 外,「自動車登録番号標の塗膜品質試験の内容についての報告」,Vague 日塗検ニュース,2008年8月,財団法人日本塗料検査協会,123号,6~10頁 乙41:特開平11-344608号 乙42:実願平1-15246号(実開平2-106011号公報)のマイクロフィルム 乙43:欧州特許第1193511号についてのドイツ連邦司法裁判所による審理の記録及び判決言い渡し(2021年3月23日付け) 乙44:欧州特許第1746444号についてのドイツ連邦司法裁判所による審理の記録及び判決言い渡し(2021年3月23日付け) 第6 本件審判請求の適法性について 1 法人格について 請求人 スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー(以下「請求人3Mプロパティズ社」という。)は、その名称にて、多数の特許権を保有していること(甲21)、適法に出願し、拒絶査定不服審判を請求し、特許すべきものとする審決を受け、特許権を設定登録していること(例:甲21のNo.5の特許6694812号)、審決取消訴訟の原告となり、判決を受けていること(平成29年(行ケ)第10146号)等からみて、適法に設立され存続する法人であることは明らかである。 これに対して、被請求人からは、これを疑わせるに足りる証拠は、提出されていない。 したがって、被請求人の主張は認められない。 2 利害関係人について (1) 特許権を多数有していること 請求人3Mプロパティズ社は、再帰反射シートに関する特許権を多数有しており(甲21)、これら特許を有する請求人3Mプロパティズ社は、本件特許において被請求人と競合関係にあると考えられ、本件特許権の侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている者といえる。 また、本件特許権は、令和2年4月10日に特許権の存続期間が満了したものであるが、特許権の存続期間中にされた行為について、請求人3Mプロパティズ社に対し、損害賠償又は不当利得返還等の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存するということもできない。 そうしてみると、請求人3Mプロパティズ社は、本件特許を無効にすることについて私的な利害関係を有し、特許無効審判請求を行う利益を有することは明らかである。 (2) 利害関係人と緊密な関係にあること 請求人 スリーエム ジャパン イノベーション株式会社(以下「請求人3Mジャパン社」という。)は、利害関係人である(本件特許に基づく特許権侵害差し止め等請求訴訟(平成30年(ワ)第1130号)の当事者である。)。そして、請求人3Mプロパティズ社と同3Mジャパン社が関連会社である可能性、3Mプロパティズ社が保有する特許(甲21)を3Mジャパン社が実施している可能性、3Mプロパティズ社が保有する特許(甲21)に関連する商品を3Mジャパン社が製造販売している可能性等からみて、請求人3Mプロパティズ社は、利害関係人である請求人3Mジャパン社と緊密な関係にある者と認められる。 そうしてみると、請求人3Mプロパティズ社は、本件特許を無効にすることについて私的な利害関係を有し、特許無効審判請求を行う利益を有することは明らかである。 (3) 小括 以上勘案すると、請求人3Mプロパティズ社は、特許法123条2項の請求人適格が認められる者ということができる。 したがって、本件審判請求は適法なものであって却下すべきものとはいえない。 被請求人の主張は認められない。 第7 当合議体の判断 1 無効理由1(甲1を主引用例とした場合の進歩性欠如)について (1) 甲1の記載 甲1は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、訳文における下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断に活用した箇所を示す。以下同様である。 ア 1頁3~8行 「Retro-reflective material This invention relates to retro-reflective material and more particularly, but not exclusively, retro-reflective material for traffic hazard indicators such as cones and bollards and for road signs and the like.」 (翻訳) 「再帰反射材 本発明は、再帰反射材及び、より特定して、しかし他を排斥するのではなく、コーンや車止めポールのような交通危険標識や、道路標識やその類のための再帰反射材に関するものである。」 イ 1頁9~31行 「 It is general practice to impart retro-reflective properties to traffic hazard indicators such as road cones and bollards by placing an appropriate shaped retro-reflective sleeve over the cone or bollard. To meet present requirements the sleeve must at night reflect incident light, for example from the headlights of vehicles, and in daylight the sleeve must appear white. To achieve this the usual construction of sleeve material comprises a backing, for example of plastics which is coated with a reflective material. Such as aluminium paint.(当合議体注:「~with a reflective material. Such as aluminium paint.」は,文意としては、「~with a reflective material such as aluminium paint.」と認められる。) A layer of adhesive containing a white pigment is applied over the reflective coating and glass microspheres or beads are partially embedded in the adhesive. Recently it has been proposed that the retro-reflectivity of such sleeves should be increased. It is the case that the white pigment in the adhesive in the above described assembly reduces the retro-reflectivity. Retro-reflectivity can be improved if the amount of white pigment in the adhesive is reduced but the consequence of that modification is that the material no longer has a sufficiently white appearance in daylight.」 (翻訳) 「 一般的な慣行として、道路コーンや車止めポールを覆う適切な形状の再帰反射スリーブを装着することで、道路コーンや車止めポールなどの交通危険標識に再帰反射特性が与えられている。現在の必要条件に適合するためには、スリーブは、夜間には例えば自動車のヘッドライトからの入射光を反射しなければならず、日光の下ではスリーブが白く見えなければならない。これを実現するために、スリーブ材の通常の構造は、例えば、アルミニウム塗料のような反射性材料でコーティングされたプラスチックの裏材を有している。白色顔料を含む接着剤層は、反射コーティングの上に塗布され、ガラスの微小球又は球は、接着剤に部分的に埋め込まれている。最近では、そのようなスリーブの再帰反射性を増加させるべきことが提案されている。上記の組立体の接着剤中の白色顔料が、再帰反射性を低下させることは事実である。もし、接着剤中の白色顔料の量が減らされると、再帰反射性を向上させることができるが、その変更の結果、その材料は、日光の下で十分に白い外観を持たなくなる。」 ウ 1頁34~47行 「 According to the invention there is provided a retro-reflective material comprising a backing, a retro-reflective coating on said backing, glass microspheres attached to said retro-reflective coating, wherein said coating is or appears incomplete and white colour being provided in the part or parts where the coating is or appears to be absent. With the invention, therefore, white pigmented material is not applied uniformly over the retro-reflective coating but is provided over parts only of the coating. These parts may be discrete or interconnected areas such as spots or lines or other shapes and they may be regularly or irregularly distributed over the assembly.」 (翻訳) 「 本発明により、裏材、前記裏材上の再帰反射コーティング、前記再帰反射コーティングに取り付けられたガラス微小球を有する再帰反射材が提供され、ここで、前記コーティングは不完全であるか、又は不完全であるように見えてもよく、コーティングが欠けているか、又は欠けているように見える部分あるいは複数の部分には白色が付与されている。 したがって、本発明では、白色に着色された材料は、再帰反射コーティングの上に均一に塗布されるのではなく、コーティングの複数の部分の上にのみに付与される。これらの複数の部分は、複数の点、複数の線、あるいはその他の形状のような分離した複数の領域又は相互に連結した複数の領域であってもよく、それらは、組立品の上に規則的に又は不規則的に分布してよい。」 エ 1頁48~53行 「 There are various ways in which the white colour can be incorporated in the material of the invention. For example the white colour can be printed on one or both sides of a transparent or translucent cover sheet which extends over the retro-reflective coating.」 (翻訳) 「 本発明の材料に白色を組み込むことができる様々な方法がある。例えば、白色は、再帰反射コーティングを覆う透明又は半透明のカバーシートの片面又は両面に印刷され得る。」 オ 1頁60~66行 「 The glass microspheres should be attached to the retro-reflective coating so that they do not penetrate completely therethrough. To ensure that that does not happen the retro-reflective coating can be formed in two layers, the second layer being applied after the first layer has dried and the microspheres being attached to the second layer.」 (翻訳) 「 ガラス微小球は、再帰反射コーティングを完全に貫通することがないように、再帰反射コーティングに取り付けられなければならない。そのようなことが起こらないようにするため、再帰反射コーティングが2層で形成され、第1の層が乾燥した後に第2の層が塗布され、ガラス微小球が第2の層に取り付けられる。」 カ 1頁74~83行 「 Referring to the drawing the retro-reflective material comprises a backing 10 which may be flexible or rigid and is preferably of plastics such as polyvinyl chloride. A layer 12 of retro-reflective material is applied to one side of the backing. The coating may be formed from any suitable retro-reflective material such as aluminium paint which can be sprayed, coated or otherwise applied onto the backing. A second layer 14 of retro-reflective material is applied over the first layer 12.」 (翻訳) 「 図面を参照すると、再帰反射材は、柔軟性又は剛性があり、好ましくはポリ塩化ビニルなどのプラスチック製の裏材10を有する。裏材の片面には、再帰反射材料の層12が塗布されている。コーティングは、裏材にスプレー、コーティング、又はその他の方法で塗布することができるアルミニウム塗料など、任意の適切な再帰反射材料から形成してもよい。第1の層12の上には、再帰反射材料の第2の層14が塗布されている。」 キ 1頁88~94行 「 Glass microspheres 16 of the kind commonly used in retro-reflective assemblies are attached to the second layer 14. Preferably the second layer is formed from a liquid, and while the layer is still liquid the glass microspheres are partially embedded therein. When the second layer dries the glass microspheres are firmly secured to the second layer.」 (翻訳) 「 再帰反射組立体で一般的に使用される種類の複数のガラス微小球16が、第2の層14に取り付けられる。好ましくは、第2の層は液体から形成され、この層がまだ液体であるうちに、ガラス微小球がその中に部分的に埋め込まれる。第2の層が乾燥すると、ガラス微小球は第2の層にしっかりと固定される。」 ク 1頁95~98行 「 A two layer construction of retro-reflective coating is not essential. A single layer can be used provided that the microspheres do not penetrate through the layer.」 (翻訳) 「再帰反射コーテングの2層構造は必須ではない。微小球に層を貫通させないことを条件として,単一層を使用することができる。」 ケ 1頁99~114行 「 A transparent or translucent cover layer 18 is disposed over the second layer 16. (当合議体注:「the second layer 16」は,「the second layer 14」の誤記である。)Preferably the cover layer 18 is not attached or secured to the rest of the assembly except adjacent the edges of the piece of material. Part of the cover layer is coloured white. The white colouration can be provided on one or both sides of the cover layer. Alternatively the white colour can be applied directly onto the retro-reflective coating 14 before the microspheres are attached thereto or the retro-reflective coating can be discontinuous to expose the backing. The backing can itself be coloured white or white colour can be applied to the exposed parts of the backing. The white coloured part can be in a random or uniform pattern, for example in the form of dots, lines or other regular or irregular shapes.」 (翻訳) 「 透明又は半透明のカバー層18が、第2の層14の上に設けられている。好ましくは、カバー層18は、材料片の端部に隣接する部分を除いて、組立体の残りの部分に取り付けられず、又は固定されていない。カバー層の一部は白色に着色されている。白色の着色は、カバー層の片面又は両面に付与することができる。代わりに、微小球をそこに取り付ける前に、再帰反射コーティング14の上に白色が直接塗布されてもよく、又は、再帰反射コーティングが、裏材を露出するように、不連続とされてもよい。裏材自体が白色に着色されてもよく、又は、白色が裏材の露出部分に塗布されてもよい。白色に着色された部分は、例えば、複数の点、複数の線、又は他の規則的又は不規則な形状による、ランダム又は均一なパターンであり得る。」 コ 1頁115~123行 「 In order that assembly should have the requisite reflectivity the white colour must not obscure or attenuate more than a limited amount of the retro-reflectivity of the retro-reflective coating. However, sufficient white colour must be present such that the material appears white in daylight. Generally satisfactory assemblies are obtained with from 10 to 20%, preferably from 12 to 17%, of the area of the material coloured white.」 (翻訳) 「 組立体に必要な反射性を持たせるためには、白色が再帰反射コーティングの再帰反射性を一定限度以上に不明瞭にしたり、減衰させたりしてはならない。しかしながら、材料が日光の下で白色に見えるように、十分な白色が存在しなければならない。一般に、満足な組立体は、材料の面積の10~20%、好ましくは12~17%が白色に着色されたもので得られる。」 サ 1頁128行~2頁5行 「CLAIMS 1. A retro-reflective material comprising a backing a retro-reflective coating on said backing, glass microspheres attached to the said retro-reflective coating, wherein said coating is or appears incomplete there being white colour provided in the part or parts where the coating is or appears to be absent.」 (翻訳) 「特許請求の範囲 1.裏材、前記裏材上の再帰反射コーティング、前記再帰反射コーティングに取り付けられたガラス微小球を含む再帰反射材であって、前記コーティングが不完全であるか、又は不完全であるように見え、前記コーティングが欠けているか又は、欠けているように見える、部分又は複数の部分に白色が付与されている、再帰反射材。」 シ 図 「 」 (2) 甲1発明 ア 甲1の図及びその説明(前記(1)エ、カ~キ及びケ)からみて、甲1には、「プラスチック製の裏材10を有し、裏材10の片面には、再帰反射材料の第1の層12が塗布され、第1の層12の上には、再帰反射材料の第2の層14が塗布され、複数のガラス微小球16が、第2の層14に取り付けられ、第2の層14は液体から形成され、この層がまだ液体であるうちに、ガラス微小球16がその中に部分的に埋め込まれ、第2の層14が乾燥すると、ガラス微小球16は第2の層14にしっかりと固定され、カバー層18が、第2の層14の上に設けられ、カバー層18は、材料片の端部に隣接する部分を除いて、組立体の残りの部分に取り付けられず、カバー層18の一部は白色に着色され、白色の着色は、カバー層18の片面又は両面に印刷された再帰反射材」が記載されている。 イ また、上記「白色に着色された部分」について、甲1の1頁111~114行(上記(1)ケ)に記載された選択肢に接した当業者ならば、「白色に着色された部分は、複数の点による均一なパターンであ」る態様を理解できる。 ウ そうすると、甲1には、「再帰反射材」の発明として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「 プラスチック製の裏材10を有し、裏材10の片面には、再帰反射材料の第1の層12が塗布され、第1の層12の上には、再帰反射材料の第2の層14が塗布され、複数のガラス微小球16が、第2の層14に取り付けられ、第2の層14は液体から形成され、この層がまだ液体であるうちに、ガラス微小球16がその中に部分的に埋め込まれ、第2の層14が乾燥すると、ガラス微小球16は第2の層14にしっかりと固定され、カバー層18が、第2の層14の上に設けられ、カバー層18は、材料片の端部に隣接する部分を除いて、組立体の残りの部分に取り付けられず、カバー層18の一部は白色に着色され、白色の着色は、カバー層18の片面又は両面に印刷された再帰反射材であって、 白色に着色された部分は、複数の点による均一なパターンである、 再帰反射材。」 (当合議体注:「裏材」を「裏材10」に統一して記載した。「層12」を、「第1の層12」に統一して記載した。「カバー層」を「カバー層18」に統一して記載した。) (3) 甲3の記載 甲3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 共通する一底面(X-X')上に突出した三角錐型キューブコーナー再帰反射素子が、互いに該底面(X-X')上の一つの底辺を共有して、相対峙して該底面上に最密充填状に配置されており、該底面(X-X')は該三角錐型反射素子が共有する多数の該底辺(x、x、....)を包含する共通の一平面であり、相対峙する二つの該三角錐型反射素子は該底面(X-X')上の共有する底辺(x、x、....)を含む該底面に垂直な平面(Y-Y'、Y-Y'、....)に対してそれぞれ実質的に対称となるように向き合った実質的に同一形状の素子対をなしており、該三角錐型反射素子は該共有する底辺(x、x、....)を一辺とする実質的に同一の五角形状又は三角形状の傾斜面(c1面、c2面)と、該三角錐型反射素子の頂点(H1、H2)を起点とする前記c1面又はc2面の上部の二辺をそれぞれ一辺とし、該三角錐型反射素子の一つの稜線を共有して、これを一辺とする該c1面又はc2面と実質的に直角に交差する実質的に同一の四角形状の傾斜面(a1面、b1面;a2面、b2面)から成り、該三角錐型反射素子の頂点(H1、H2)から、該三角錐型反射素子の五角形状又は三角形状の傾斜面(c1面、c2面)の底辺(x、x、....)を含む該底面(X-X')までの高さを(h)とし、該三角錐型反射素子の頂点(H1、H2)から、該三角錐型反射素子の他の傾斜面(a1面、b1面;a2面、b2面)の底辺(z、w)を包含する実質的に水平の面(Z-Z')までの高さを(h0)とし、該三角錐型反射素子の頂点(H1、H2)から該底面(X-X')に対する垂線と底面(X-X')との交点をPとし、かつ該頂点(H1、H2)を通る光学軸と該底面(X-X')との交点をQとし、さらに上記の交点(P)及び交点(Q)から、該三角錐型反射素子の共有する底辺(x、x、....)含む該底面(X-X')に垂直な平面(Y-Y'、Y-Y'、・・・・)までの距離をそれぞれp及びqで表し、該光学軸と該垂直な平面(Y-Y')とのなす角を(θ)とした場合に、hとh0は実質的に同一でなく、かつ下記式(1)を満足する 【数1】 (但し、Rは下記式で定義したとおりの数値である。) 【数2】 (但し、上記(q-p)の値がマイナス(-)の時、θはマイナス(-)の値を取るものとする。)ことを特徴とする三角錐型キューブコーナー再帰反射シート。」 イ 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は新規な構造の三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに関する。より詳しくは、本発明は新規な構造の三角錐型反射素子が最密充填状に配置された三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに関する。 【0002】詳しくは、本発明は、道路標識、工事標識等の標識類、自動車、オードバイ等の車両のナンバープレート類、衣料、救命具等の安全資材類、看板等のマーキング、可視光、レーザー光あるいは赤外光反射型センサー類の反射板等において有用な三角錐型キューブコーナー再帰反射素子(以下、三角錐型反射素子又は単に素子ともいう)によって構成される三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに関する。」 ウ 「【0006】 【従来の技術】従来、入射した光を光源に向かって反射する再帰反射シートはよく知られており、その再帰反射性を利用した該シートは上記のごとき利用分野で広く利用されている。中でも三角錐型反射素子などのキューブコーナー型再帰反射素子の再帰反射原理を利用した再帰反射シートは、従来のマイクロ硝子球を用いた再帰反射シートに比べ光の再帰反射効率が格段に優れており、その優れた再帰反射性能により年々用途が拡大しつつある。 …省略… 【0012】…省略…再帰反射光のこの狭い発散角度は実用面においては、たとえば自動車のヘッドランプから発せられた光が交通標識で再帰反射したとき、その光軸から離れた位置にいる者、例えば運転者の目には達しにくいという不都合が生じ易い。 …省略… 【0024】 【発明が解決すべき課題】一般に三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに望まれる基本的な光学特性として、高輝度性、即ち、該シート正面から入射した光の反射輝度に代表される反射輝度の高さ(大きさ)のみならず、広角性が要求され、さらに広角性に関しては、観測角特性、入射角特性、回転角特性の三性能が要求される。 【0025】前述したとおり、従来公知の三角錐型キューブコーナー再帰反射素子から構成された再帰反射シートは、いずれも、入射角特性が劣りかつ概して観測角特性も満足すべきものではなかったのに対して、本発明者らは、光追跡シュミレーションにより、互いに対称の位置に設けられている該三角錐型反射素子が共有する多数の底辺(x、x、・・・・)を含む平面(X-X')から該素子の頂点(H1、H2)までの高さ(h')を、該三角錐型反射素子の前記の共有する一底辺を一辺として有するc面と実質的に直角に交差する2面(a面、b面)の底辺(z、w)を包含する面(Z-Z')から該反射素子の頂点までの高さ(h)より実質的に大とすることにより、かような三角錐型反射素子から構成された再帰反射シートの入射角特性を改善することができることを発見し、特許出願を行った。(特願平8-295907号)」 (当合議体注:「光追跡シュミレーション」は、「光追跡シミュレーション」の誤記である。) エ 「【0136】次に本発明の三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの好適な構造の一態様であるマイナス傾斜の三角錐型キューブコーナー再帰反射シートについて、その断面図である図14を参照しながら説明する(当合議体注:「図14」は「図13」の誤記である。)。 【0137】図13において、(1)は本発明の三角錐型反射素子(R1、R2)が最密充填状に配置された反射素子層、(2)は反射素子を保持する保持体層であり、(10)は光の入射方向である。反射素子層(1)及び保持体層(2)は一体であるのが普通であるが、別々の層を積層しても構わない。本発明における再帰反射シートの使用目的、使用環境に応じて表面保護層(4)、観測者に情報を伝達したりシートの着色のための印刷層(5)、反射素子層の裏面に水分が侵入するのを防止するための封入密封構造を達成するための結合材層(6)、反射素子層(1)と結合材層(6)に囲まれて、反射素子の界面での再帰反射を保証するための空気層(3)、結合材層(6)を支持する支持体層(7)、及び、該再帰反射シートを他の構造体に貼付するために用いる接着剤層(8)と剥離材層(9)とを設けることができる。 【0138】表面保護層(4)には再帰反射素子層(1)に用いたのと同じ樹脂を用いることが出来るが耐候性を向上する目的で紫外線吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤などをそれぞれ単独あるいは組み合わせて用いることが出来る。さらに、着色剤としての各種の有機顔料、無機顔料及び染料などを含有させることが出来る。 【0139】印刷層(5)は通常、表面保護層(4)と保持体層(2)の間、あるいは、表面保護層(4)の上や反射素子(1)の反射面上に設置することが出来、通常グラビア印刷、スクリーン印刷及びインクジェット印刷などの手段により設置可能である。 【0140】上記反射素子層(1)及び保持体層(2)を構成する材料としては本発明の一つの目的である柔軟性を満足するものであれば特に限定されるものではないが、光学的透明性、均一性のあるものが好ましい。本発明において使用し得る材料の例としては、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのオレフィン樹脂、セルロース系樹脂及びウレタン樹脂などを例示できる。 【0141】本発明における反射素子層(1)は内部全反射条件を満足する臨界角度を大きくする目的でキューブコーナー再帰反射素子背面に空気層(3)を設置するのが一般的である。使用条件下において水分の侵入による臨界角の低下及び金属層の腐食などの不具合を防止するために反射素子層(1)と支持体層(7)とは結合剤層(6)によって密封封入されるのが好ましい。 …省略… 【0142】本発明に用いる結合剤層(6)は支持体層(7)の全面にわたって塗布しうるし、再帰反射素子層との接合部分に印刷法などの方法により選択的に設置することも可能である。 【0143】支持体層(7)を構成する材料の例としては再帰反射素子層を構成する樹脂や一般のフィルム成形可能な樹脂、繊維、布、ステンレスやアルミニウムなどの金属箔又は板をそれぞれ単独又は複合して用いることが出来る。」 オ 「【0146】<実施例1> …省略… 【0150】この真鍮製母型を用いて電鋳法により、材質がニッケルであって、形状が反転された凹形状のキューブコーナー成形用金型を作成した。この成形用金型を用いて、厚さ230μmのポリカーボネート樹脂シート(三菱エンジニアリングプラスティックス株式会社製「ユーピロン E2000」)を成形温度200℃、成形圧力50kg/cm2の条件で圧縮成形下後に、加圧下で30℃まで冷却してから樹脂シートを取り出して、表面に支持体層の厚さが約150μmで、h0=80μm、h=92μm、且つ三角錐を構成する三面のプリズム面角に角度偏差を与えていないプラス傾斜の三角錐型再帰反射素子を最密充填状に配置したポリカーボネート樹脂製の三角錐型キューブコーナー再帰反射シートを作成した。」 カ 「【0160】これにより本発明の再帰反射シートは、一般に三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに望まれる基本的な光学特性である、高輝度性、即ち、該シート正面から入射した光の反射輝度に代表される反射輝度の高さ(大きさ)のみならず、観測角特性、入射角特性、回転角特性等の広角性の改善を可能とする。」 キ 「【図13】 」 (4) 甲3に記載された技術事項 上記(3)の記載(特に上記(3)エ【0137】)によれば、甲3には、以下の技術事項(以下「甲3記載技術」という。)が記載されていると認められる。 「光の入射方向(10)から順に、表面保護層(4)、観測者に情報を伝達したりシートの着色のための印刷層(5)、反射素子を保持する保持体層(2)、三角錐型反射素子(R1、R2)が最密充填状に配置された反射素子層(1)、反射素子の界面での再帰反射を保証するための空気層(3)、反射素子層の裏面に水分が侵入するのを防止するための封入密封構造を達成するための結合材層(6)、結合材層(6)を支持する支持体層(7)、再帰反射シートを他の構造体に貼付するために用いる接着剤層(8)及び剥離材層(9)を設けてなる、三角錐型キューブコーナー再帰反射シート。」 (5) 甲4の記載 甲4は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。 ア 第1葉 標題 「Aufsichtfarben fur Verkehrszeichen Farben und Farbgrenzen bei Beleuchtung mit Tageslicht」 (翻訳) 「交通標識の表面色 昼光による照明下の色、及び色の境界」 イ 第1葉左欄 項目1 1~5行 「Die Farben und Farbgrenzen nach dieser Norm gelten vorzugsweise fur Aufsichtfarben von mehrfarbigen Verkehrszeichen in allen Verkehrszweigen, z. B. fur Gefahr-,Vorschrift- oder Richtzeichen sowie fur Markierungen auf Fahrbahnen und Flugplatzen.」 (当合議体注:「fur」(3箇所)の「u」及び「Flugplatzen」の「a」には、ウムラウトが付されている。) (翻訳) 「この規格に基づく色及び色境界は、好ましくは、例えば危険標識、指示標識又は案内標識並びに車道及び飛行場のマーキングなど、全ての交通手段における多色交通標識の表面色に適用される。」 ウ 第3葉 表1 「 」 (翻訳) 表1. 使用条件のための色範囲と輝度係数 」 (当合議体注:「Sechseckraster」における用語「raster」については、括弧を付してそのまま記載する。以下のエにおいても同じ。) エ 第4葉 図1 「 」 (翻訳) 「…省略… 図1. DIN 67520第2部タイプ1及びタイプ2に準拠した表面色/灰色・再帰反射を生成するためのカバレッジ60%の六角形「raster」」 (6) 本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比すると、以下のとおりである。 (ア)反射素子層 甲1発明の「再帰反射材」は、「プラスチック製の裏材10を有し、裏材10の片面には、再帰反射材料の第1の層12が塗布され、第1の層12の上には、再帰反射材料の第2の層14が塗布され、複数のガラス微小球16が、第2の層14に取り付けられ」、「カバー層18が、第2の層14の上に設けられ」たものである。また、「カバー層18は、材料片の端部に隣接する部分を除いて、組立体の残りの部分に取り付けられ」ない。 上記の構成からみて、甲1発明の「再帰反射材」は、「裏材10」、「第1の層12」、「第2の層14」、「ガラス微小球16」、空隙及び「カバー層18」の順で層をなすものである。また、甲1発明の「再帰反射材」のうち、「第1の層12」及び「第2の層14」は、いずれも「再帰反射材料」からなる。そして、「ガラス微小球16」は、技術常識を考慮すると、空隙から入射した光を屈折させて「第1の層12」及び「第2の層14」に向け、「第1の層12」及び「第2の層14」で反射された光を入射方向に戻す機能を果たす光学素子である。 そうしてみると、甲1発明の「再帰反射材」のうち、「第1の層12」、「第2の層14」、「ガラス微小球16」及び空隙を併せたものは、光を再帰反射する素子の層と理解される(以下、この項では「光再帰反射素子層」と総称する。)。また、甲1発明の「カバー層18」は、その用語から理解される機能及び位置関係からみて、「再帰反射材」の表面に位置してこれを保護する層と理解される。加えて、上記の構成及び用途からみて、甲1発明の「再帰反射材」は、少なくとも「光再帰反射素子層」及び「光再帰反射素子層」の上層に設置された「カバー層18」からなる、再帰反射性能を具備するシート状のものであることは自明である。 したがって、甲1発明の「光再帰反射素子層」、「カバー層18」及び「再帰反射材」は、それぞれ本件特許発明1の「反射素子層」、「表面保護層」及び「再帰反射シート」に相当する。また、甲1発明の「再帰反射材」と本件特許発明1の「再帰反射シート」は、「少なくとも」「反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる」点で共通する。 (イ)印刷層 甲1発明の「再帰反射材」は、上記(ア)で述べた構成に加えて、「カバー層18の一部は白色に着色され、白色の着色は、カバー層18の片面又は両面に印刷され」及び「白色に着色された部分は、複数の点による均一なパターンである」という構成を具備する。 ここで、甲1発明の「白色の着色」は、「カバー層18の片面又は両面に印刷され」たものであるから、「カバー層18」に接して設置された、層状のものである。また、甲1発明の「白色に着色された部分」は、「複数の点」(dots)であるから、互いに独立した小さな円形の領域をなし、連続層を形成せず、そして「均一なパターンである」から、一定間隔の繰り返しパターンで設置されたものである。 (当合議体注:「点」とは、「物の面に現れている小さな円形のかたち。」(広辞苑5版)を意味し、英語の「dot」の字義も同様である。) そうしてみると、甲1発明の「白色の着色」及び「点」は、それぞれ本件特許発明1の「印刷層」及び「独立した領域」に相当する。また、甲1発明の「再帰反射材」と本件特許発明1の「再帰反射シート」とは、「印刷層が」「表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず」及び「印刷された」という点で共通する。 イ 一致点及び相違点 (ア)一致点 本件特許発明1と甲1発明は、次の構成で一致する。 「 少なくとも反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、印刷層が表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、印刷された再帰反射シート。」 (イ)相違点 本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。 (相違点1-1) 「再帰反射シート」が、本件特許発明1は、「少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる」とともに、「保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置され」たものであるのに対し、甲1発明は、上記下線を付した位置関係ないし部材の組み合わせを具備しない点。 (相違点1-2) 「反射素子層」が、本件特許発明1は、「ポリカーボネート樹脂を用い」たものであるのに対して、甲1発明は、材料が特定されていない点。 (相違点1-3) 「表面保護層」が、本件特許発明1は、「(メタ)アクリル樹脂を用い」たものであるのに対して、甲1発明は、材料が特定されていない点。 (相違点1-4) 「再帰反射シート」が、本件特許発明1は、「該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり」と特定されたものであるのに対して、甲1発明は、「点」の面積が特定されていない点。 (相違点1-5) 「印刷層」の材料が、本件特許発明1は、「白色の無機顔料として酸化チタンを含有する」と特定されているのに対して、甲1発明は、材料が特定されていない点。 ウ 判断 (ア)一次審決の概要 一次審決は、(相違点1-1)及び(相違点1-4)について、概略、以下のとおり判断した。 a 相違点1-1について 本件出願前の当業者であれば、甲1発明が前提とする「ガラス微小球16」を用いるタイプのものより優れた再帰反射性能を有する「再帰反射材」として、三角錐型反射素子等のキューブコーナー型再帰反射素子の再帰反射原理を利用した再帰反射シートを心得ている。そして、甲1発明は、交通危険標識や道路標識において、夜間の再帰反射性と日光の下での白色性の両立を図ることを希求するものである。 そして、上記「より優れた再帰反射性能を有する再帰反射材」を心得た当業者であれば、甲1発明の「再帰反射」においても、甲3に記載された「道路標識、工事標識等の標識類において有用な、三角錐型反射素子などのキューブコーナー型再帰反射素子の再帰反射原理を利用した再帰反射シート(甲3の【0002】及び【0006】)の構成の採用を試みると考えられるところ、甲1発明及び甲3記載技術の両者を見比べた当業者ならば、甲1発明における第1の層12、第2の層14及び空隙からなる再帰反射のための構成を、同じく再帰反射のための構成である甲3記載技術における保持体層(2)、反射素子層(1)、空気層(3)及び結合材層(6)からなる構成に層の順番を逆にして置き換えることは容易に想到し得ることである。 b 相違点1-4について 甲1発明の「複数の点」を印刷するに際しては、夜間における再帰反射性及び日光の下における白色性を両立させる必要がある。そうしてみると、当業者は、光の再帰反射が妨げられない程度の隙間を設け、かつ、「再帰反射材」が全体として白く見えるような大きさの「複数の点による均一なパターン」をデザインし、印刷することとなるから、相違点1-4に係る本件特許発明1の「該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり」という構成に至る。さらに、面積に係る前記数値範囲については、当業者ならば、甲4の記載(約1.95mm2の「複数の点」)及び離れた位置にいる観察者に所定の色を見せることができるパターンに係る技術常識(甲18~甲20)を参考にすると考えられる。 (イ)確定判決の判示事項 上記(ア)に対して、確定判決は、甲1発明の認定、甲1発明と本件特許発明との一致点及び相違点の認定について誤りはないと判断した。(判決書85頁1~3行) その上で、当該相違点を前提とした本件特許発明1及び2の容易想到性の判断の誤り、とりわけ、相違点1-1及び相違点1-4について、概略、以下のa及びbに示すとおり説示して、「本件特許発明1及び2は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない」と、判断した一次審決は誤りである旨判示した。 a 相違点1-1と相違点1-4とは個別に検討すべきでないこと 本件明細書の開示事項からすると、本件発明は、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シート等で色相を改善するために印刷層を設けた場合における耐候性や耐水性に劣るという従来技術の問題点を解決するために、[1]・・・、[2]保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、[3]この印刷層と印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、[4]・・・再帰反射シートとすることに技術的意義があり、本件明細書で開示されている実施例と比較例の構成の相違とその試験結果(【0079】)も踏まえると、[2]と[3]は、課題解決のための不可欠の構成であるといえる。そうすると、[2]と[3]に関する相違点1-1と1-4のそれぞれについて容易想到性を検討するのではなく、一体の構成として検討されるべきである。(判決書85頁4~21行) b 甲3記載技術を甲1発明に適用する動機付けはないこと (a)再帰反射シートにおいては、再帰反射材料である第1の層、第2の層とその上に取り付けられた微小球、白色に一部が印刷されたカバー層が1つの技術思想として、甲1発明の目的である、夜間に自動車のヘッドライトからの入射光を反射し、日光の下では白色に見える再帰反射材となるものと理解することができる。 甲1発明は、カバー層18及びその片面又は両面に複数の点で均一なパターンで白色に着色された印刷層と、微小球16の間には空隙があり、カバー層18は材料片の端部に隣接する部分を除いて組立体に取り付けられていない構成であって、空隙部は再帰反射の光路を形成するために設けられたものであるから、甲1発明に接した当業者は、印刷部と第2の層14の間の空隙部に水等が侵入することで印刷層にふくれ等が生じ再帰反射性が低下することによる課題を認識することができず、甲1発明において、こうした課題を前提として甲3記載技術を適用する動機付けはない。(同87頁21行~88頁12行) (b)また、再帰反射材において再帰反射効率を高めることは周知の課題であり、キューブコーナー型再帰反射素子がマイクロ硝子球を用いたものよりも再帰反射効率が高いことが知られていたとしても、甲1発明におけるカバー層18とカバー層18の片面又は両面に複数の均一なパターンで白色に着色された印刷層は、ガラス微小球を用いた構成を前提として、夜間の再帰反射性を一定限度以上に不明瞭にしたり減衰させることなく、日光の下では白色に見えるように十分な白色を存在するように構成されたものであるから、こうしたカバー層18と白色に着色された印刷層の構成をそのままとした上で、これと裏材10の間に存在する層構成のみを取り出し、甲3記載技術の三角錐型キューブコーナー再帰反射材、空気層及び結合材層からなる層構成に置き換える動機付けはない。(同頁13~24行) (c)また、仮に、甲1発明の構成のうち「空隙部、ガラス微小球、第2の層14、第1 の層12」を、甲3記載技術の構成のうち「結合材層(6)、空気層(3)、三角錐型反射素子層(1)、保持体層(2)」の構成を適用する動機付けがあるとしても、カバー層18が保持体層に接して構成することが可能な部材であるかにつき、それが可能であることを認めるに足りる証拠はない。(同頁25行~89頁3行) (ウ)当審の判断 行政事件訴訟法33条1項の規定により、特許無効審判事件の審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、当該確定判決は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって当審を拘束する。 したがって、当審は、以下のとおり判断する。 上記(イ)b(a)及び(b)によれば、甲1発明における、カバー層18、印刷層、及びガラス微小球16を用いた構成(積層構造)は、甲1発明の前提構成であって、1つの技術思想としてまとまりのある構成である。そうであるにもかかわらず、相違点1-1に係る本件特許発明1に係る構成に相当する、甲3記載技術における「保持体層(2)」、「反射素子層(1)」、「空気層(3)」及び「結合材層(6)」からなる構成を、甲1発明の上記前提構成のうちの、カバー層18を含まない「第1の層12、第2の層14、ガラス微小球16及び空隙」からなる部分のみに着目して、これと置換することは、これを正当化するに足りる十分な動機付けが必要といえる。 ここで、甲3記載技術における、「保持体層(2)」、「反射素子層(1)」、「空気層(3)」及び「結合材層(6)」からなる構成は、甲3の「本発明における反射素子層(1)は内部全反射条件を満足する臨界角度を大きくする目的でキューブコーナー再帰反射素子背面に空気層(3)を設置するのが一般的である。使用条件下において水分の侵入による臨界角の低下及び金属層の腐食などの不具合を防止するために反射素子層(1)と支持体層(7)とは結合剤層(6)によって密封封入されるのが好ましい。」(甲3の【0141】)との記載によれば、「反射素子層(1)」と「結合剤層(6)」との間の「空気層(3)」への水分の侵入を抑制するための構造と理解することができるところ、このような水分の侵入を抑制するとの課題は、甲1発明においては想定されていない(上記(イ)b(a))。 そうすると、甲1発明において、当業者が甲3記載技術を適用するのに十分な動機付けはないというべきである。 また、仮に、甲3記載技術を適用したとしても、甲1発明が、相違点1-1に係る本件特許発明1の構成における「保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して配置され」及び「カバー層18が保持体層に接」するという構成に至ると直ちにいうことはできない。 (エ)小括 以上によれば、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1に記載された技術事項及び技術常識等に基づいて、当業者が容易に発明をことができたということはできない。 (7) 本件特許発明2について ア 相違点 本件特許発明1の場合と同様にして、本件特許発明2と甲1発明を対比すると、両者は、上記(6)イで述べた(相違点1-2)~(相違点1-4)及び以下の点で相違する。 (相違点1-1’) 「再帰反射シート」が、本件特許発明2は、「少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなり、上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である」とともに、「保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置され」たものであるのに対し、甲1発明は、上記下線を付した位置関係ないし部材の組み合わせを具備しない点。 (相違点1-5’) 「印刷層」の材料が、本件特許発明2は、「白色の酸化チタンを含有する」と特定され、また、厚みが「0.5~10μm」と特定されているのに対して、甲1発明は、材料及び厚みが特定されていない点。 イ 判断 確定判決は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって、当審を拘束する(行政事件訴訟法33条1項)ところ、相違点1-1’に係る構成は、上記(6)イで述べた相違点1-1に係る構成を全て含み、かつ、「上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である」という構成を含むことから、上記(6)に示したように、相違点1-1に係る本件特許発明1の構成に当業者が容易に想到し得たとはいえない以上、同様の理由により、相違点1-1’に係る本件特許発明1の構成に当業者が容易に想到し得たということはできない。 ウ 小括 以上によれば、本件特許発明2は、甲1発明並びに甲3に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 (8) まとめ 上記(6)~(7)によれば、本件特許発明1及び2は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 2 無効理由2(甲2を主引用例とした場合の進歩性欠如)について (1) 甲2の記載 甲2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。 ア 1頁4~9行 「 」 (翻訳) 「光線反射板及びその製造方法 本発明は、再帰反射板及びその製造方法に関する。 夜間交通の安全性を高めるため、反射膜でコーティングされた金属シートからなる反射交通標識が知られている。」 イ 1頁13行~2頁7行 「 」 (翻訳) 「好ましくは、車両にも反射プレートを備えることによって、夜間交通でも遠くから車両を確認することができる。特に好ましくは、車両ナンバープレートを反射させることによって、夜間に車両が照射されると、ナンバープレートで車両を識別することができる。今まで公知とされているナンバープレートはラッカー塗装された非反射アルミニウムシートである。このプレートの場合、記号、文字及び/または数字が凸状にエンボス加工され、その後、この凸面が別の色、通常は黒色でラッカー塗装される。」 ウ 2頁8~12行 「 」 (翻訳) 「本発明の課題は、夜間交通における安全性を高め、交通路及び交通制御装置の視認性、さらには車両の視認性を向上させための再帰反射面及びプレートを提供することである。」 エ 2頁12~14行 「 」 (翻訳) 「さらに、本発明の課題は、そのような反射面及びプレートを製造する方法を提供することである。」 オ 2頁15行~3頁3行 「 」 (翻訳) 「本発明による再帰反射面及びプレートは、反射板からなり、該反射板は、プラスチック板を備え、その視認面が滑らかであり、その裏面が三角プリズム又は同等の、光学的精度によって形成された反射要素を有し、かつ、例えば銀、アルミニウム、銅、クロム、ニッケルなどからなり、反射コーティングが施された反射層で覆われ、さらに、反射板の視認面には文字及び/又は数字などの記号が、刻印されるか、エンボス加工されているか、あるいは取り付けられていることを特徴とする。 三角プリズムは逆さにした三角錐の形状を有する。 しかしながら、他のプリズムシステムも光線反射に使用することができる。」 カ 3頁4~7行 「 」 (翻訳) 「本発明の概念を特に発展させた結果、本発明による反射板は車両ナンバープレートとして使用される。この場合、記号は、記号を含まない反射面の色とは異なる色になる。」 キ 3頁8~21行 「 」 (翻訳) 「本発明の本質的な特徴によれば、記号は、反射板の視認面に凸状にエンボス加工される。この方法で製造された反射ナンバープレートの場合、本発明による反射板は公知のアルミニウム板と同じ方法でエンボス加工され、エンボス加工された記号は反射体の表面から浮き出し、その後、通常は黒色のラッカーで塗装されることから、今まで公知されているナンバープレートの製造業者は新しいエンボス加工装置を必要とせず、また、ナンバープレートのエンボス加工や後処理の方法を変更する必要もない。本発明による反射板の場合で、かつ、記号を例えばラッカー塗装または接着する必要がある場合は、プレート製造業者には新しい作業工程が必要となる。」 ク 3頁22行~4頁5行 「 」 (翻訳) 「本発明による反射板をエンボス加工する場合、凸状の記号の背後に配置されている三角プリズムが押し潰されるため、凸状の記号はもはや反射しない。ナンバープレートの場合、いずれにしても表面の凸状の記号はラッカーで着色・塗装されることから、これについては反射率の観点から問題にはならない。」 ケ 4頁6~24行 「 」 (翻訳) 「ナンバープレートの場合、本発明による反射板に記号をエンボス加工する際に三角プリズムが押し潰されるが、これは従来のナンバープレートにはない大きな利点である。従来のナンバープレートの場合、ラッカー塗装されたアルミニウムシートの浮き出た部分は適切な打出しまたは押出しによって戻され、明確な痕跡を残すことはない。一方で、これは本発明による反射体には当てはまらない。というのは、浮き出た部分が押し戻されても、記号の背後にある押し潰された三角プリズムは押し潰されたままであるためである。本発明による反射板は、ナンバープレートとして形成される場合、明確な痕跡を残すことなく、エンボス加工された記号に変更を加えることができない。すなわち、偽造の恐れが全くないのである。エンボス加工された記号が再び平坦に押し戻されたとしても、この箇所はプリズムを反射しないことから、これによって記号の位置と輪郭を常に確認することができる。同じ箇所に別の記号がエンボス加工された場合、この別の記号が前の記号と完全に一致することはないため、ナンバープレートの偽造を識別することができるのである。」 コ 5頁1~5行 「 」 (翻訳) 「本発明による反射板の記号のエンボス加工は、記号の背後に配置されたプリズムを押し潰すのではなく、反射板のこれ以外のプリズムを押し潰すように行うこともできる。この場合、記号のみが反射する。」 サ 5頁6~16行 「 」 (翻訳) 「本発明によれば、記号を反射板の可視面に凹状に刻印することも可能であり、それによって、記号の周囲の可視面が浮き出される。本発明の別の特徴によれば、記号の輪郭のみを可視面にエンボス加工もしくは刻印加工することも可能である。この解決法の場合、エンボス加工では記号の輪郭領域に位置するプリズムのみが押し潰されるため、記号の輪郭は反射しないが、記号自体の背後に位置するプリズムの大部分がそのまま保持されるため、記号は反射する。」 シ 7頁1~22行 「 」 (翻訳) 「車両ナンバープレートの例では、エンボス加工されていない視認面を、日中、白く不透明に見せるため、反射板の視認面には、「Raster」の多数の白い点を印刷することができる。「Raster」は、反射光が所定の割合で透過するように作成される。「Raster」が不透明で光不透過の色で作成される場合、反射光は「Raster」の間隙を透過するため、「Raster」の色を吸収しない。反射板の着色及び「Raster」の色は、日中は視認面の色が「Raster」と一致するように、すなわち一致しているように見えるようにし、これに対して、夜間は反射面の色がプラスチックの着色に一致するよう見えるように選択することができる。例えば、反射面は、日中は黒色に、夜間は白色に見えるように製造することができる。 本発明の別の特徴によれば、記号とこれを含まない反射板の視認面とを色的に区別するために、反射光が相応する色となる透明なラッカーでこれらの表面の一方をコーティングすることができる。」 (当合議体注:用語「Raster」については、括弧を付してそのまま記載する。) ス 9頁1~11行 「 」 (翻訳) 「反射板の全表面は、着色ラッカー層を有することができる。この反射板をエンボス加工する場合、エンボス加工された凸状の記号は簡易の方法で研磨することができるため、凸状の記号の着色層は取り除かれ、一方で、凸状ではない反射面の着色層はそのまま保持される。この着色層は、ラッカー、箔、プラスチックなどの様々な材料からなり、この層は射出成形方法で塗着されたり、プラスチック板として反射体の射出成形型に挿入することもできる。」 セ 9頁12~27行 「 」 (翻訳) 「エンボス加工された反射面とそうでない反射面との間に色彩コントラストを作り上げるために、着色シート又は記号を、射出成形方法によって同じ又は類似のプラスチック(透明又は不透明)から製造するか、もしくは、平板(箔など)に打ち抜いて射出成形型に挿入するか、さらには、その後に、反射体に接着することもできる。プラスチックが注入される着色記号の成形型に反射体を挿入するようにして製造することも可能である。記載されているすべての、反射板の視認面上の透明又は不透明な着色ラッカー塗装は、印刷された透明な箔に置き換えることもでき、該箔は、反射体の視認面に接着、又は、例えば反射体の射出成形の際に、成形型に挿入することによって、反射体表面のプラスチック材料と結合する。」 ソ 11頁6~8行 「 」 (翻訳) 「図12 図11の反射板であり、反射体の視認面のエンボス加工後のさらなる処理の図」 タ 12頁1~10行 「 」 (翻訳) 「図1は、車両用プラスチック製ナンバープレート10を示している。プレート10の材料は光透過性である。プレート10の裏面には、光学的精度によって形成された三角プリズムを備え、金属層でコーティングされている。プレート10の視認面11が夜間に照射されると光を反射するため、プレート10を装備した車両を夜間交通路でも遠方から確認することができる。文字や数字などの記号は、プレート10の視認面11から凸状に浮き出ている。」 チ 14頁16行~15頁2行 「 」 (翻訳) 「図11によれば、反射板の視認面34全体に、鋳造又は射出成形プロセス中、もしくはその後に、ラッカー、膜、プラスチックからなる着色層35が装着された。このコーティング処理された板は、例えば図3及び4の反射板14のようにエンボス加工される。その後、層35のエンボス加工された記号36の前額面が回転ディスク37によって研磨され、これに合わせて、コーティング処理された反射板34を矢印38の方向に移動させることができる。このようにして、凸状の記号36の着色層は削り取られ、一方、凸状でない面の着色層は保持される。」 ツ 17頁1行~19頁18行 「 …省略… 」 (翻訳) 「請求項の範囲 【請求項1】プラスチック板(14)を備え、その可視面(15)が滑らかであり、その裏面が三角プリズム(16)などの光学精度によって形成された反射要素を有し、例えば銀、アルミニウム、銅、クロム、ニッケルなどからなり、反射コーティングが施された反射層で覆われ、さらに、反射板の可視面(15)には文字および/または数字などの記号がデボス加工またはエンボス加工されていることを特徴とする、反射板。 …省略… 【請求項10】反射要素を備えたプラスチック板が乳白色に着色されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の反射板。 【請求項11】反射板の可視面には網目スクリーンの白い点を多数印刷することができることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の反射板。 【請求項12】記号とこれを含まない反射板の可視面とを色的に区別するために、反射光が相応する色となる透明なラッカーでこれらの表面の一方をコーティングすることを特徴とする、請求項1から5および7から10に記載の反射板。 【請求項13】反射板の可視面には印刷された透明な膜が塗着されることを特徴とする、請求項1から10に記載の反射板。」 テ FIG.1 「 」 ト FIG.3 「 」 ナ FIG.4 「 」 ニ FIG.11及びFIG.12 「 」 (2) 甲2に記載された発明 ア 甲2発明A 甲2の7頁1~22行(前記(1)シ)には、エンボス加工されていない視認面に多数の白い点を印刷することが記載されているところ、この「エンボス加工されていない視認面」とは、甲2の3頁4~7行(同カ)に記載の「記号を含まない反射面」のことと理解される。 そうしてみると、前記(1)オ、カ及びシの記載からみて、甲2には、「車両ナンバープレートとして使用される反射板」の発明として、次の発明(以下「甲2発明A」という。)が記載されている。なお、用語「Raster」については、適切と思われる訳語が存在しないことから、引き続き、括弧を付してそのまま記載する。 「 車両ナンバープレートとして使用される反射板であって、 反射板は、プラスチック板を備え、その視認面が滑らかであり、その裏面が三角プリズムを有し、かつ、反射コーティングが施された反射層で覆われ、さらに、反射板の視認面には文字及び/又は数字などの記号が刻印されるかエンボス加工されるか取り付けられ、三角プリズムは逆さにした三角錐の形状を有し、 記号は、記号を含まない反射面の色とは異なる色になり、 記号を含まない反射面を、日中、白く不透明に見せるため、反射板の視認面には、「Raster」の多数の白い点が印刷され、「Raster」は、反射光が所定の割合で透過するように作成される、 反射板。」 なお、「Raster」の翻訳については当事者間に争いがあり、口頭審理においても合意に達しなかったが、何らかの模様を表現したものであること、そして模様が網目模様であることまでは争いがなく、争いの本質は、白い部分がどこかである(請求人は網の目の部分が白であると主張し、被請求人は格子の部分が白であると主張している。)。 イ 甲2発明B 甲2の14頁16行~15頁2行(前記(1)チ)には、FIG.11とともに、「反射板14」が記載されているところ、この「反射板14」は、甲1発明Aと同様に、「車両ナンバープレートとして使用される反射板であって」、「反射板は、プラスチック板を備え、その視認面が滑らかであり、その裏面が三角プリズムを有し」、「三角プリズムは逆さにした三角錐の形状を有し」ていると認められる。また、甲2の9頁20~27行(前記(1)セ)には、「記載されているすべての、反射板の視認面上の透明又は不透明な着色ラッカー塗装は、印刷された透明な箔に置き換えることもでき、該箔は、反射体の視認面に接着、又は、例えば反射体の射出成形の際に、成形型に挿入することによって、反射体表面のプラスチック材料と結合する。」と記載されている。 そうしてみると、甲2には、次の発明が記載されている(以下「甲2発明B」という。)。 「 車両ナンバープレートとして使用される反射板であって、 反射板は、プラスチック板を備え、その視認面が滑らかであり、その裏面が三角プリズムを有し、三角プリズムは逆さにした三角錐の形状を有し、 反射板の視認面全体に、鋳造又は射出成形プロセス中、もしくはその後に、印刷された透明な箔である着色層をプラスチック板のプラスチック材料と結合させ、 反射板は、エンボス加工され、その後、着色層のエンボス加工された記号の前額面が回転ディスクによって研磨され、 このようにして、凸状の記号の着色層は削り取られ、一方、凸状でない面の着色層は保持される、 反射板。」 (3) 甲4の記載 甲4の記載は、上記1(5)に記載のとおりである。 (4) 本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲2発明Aを対比すると、以下のとおりである。 (ア)再帰反射シート 甲2発明Aの「車両ナンバープレートとして使用される反射板」は、「プラスチック板を備え、その視認面が滑らかであり、その裏面が三角プリズムを有し」ている。また、甲2発明Aの「三角プリズム」は、「逆さにした三角錐の形状を有し」ている。 上記構成からみて、甲2発明Aの「三角プリズム」は、再帰反射性の反射素子であり、これが「プラスチック板」に多数設けられていることは技術常識である。 また、「プラスチック板」のうち「三角プリズム」を保持する部分を「保持体層」と称しても、物としての構成は変わらない。そして、甲2発明Aの「反射板」は、その用途からみて、板としては薄いといえるから、シートである。そして、この点は、甲2の9頁16行に、「Platten (Folien und so weiter)」(平板(箔など))と記載され、甲2でいう「板」とは、「箔」のように薄いものと理解されることとも整合する。 そうしてみると、甲2発明Aの「三角プリズム」、「プラスチック板」のうち「三角プリズム」を保持する部分及び「反射板」は、それぞれ、本件特許発明1の「反射素子」、「保持体層」及び「再帰反射シート」に相当する。 また、甲2発明Aの「反射板」と本件特許発明1の「再帰反射シート」は、「少なくとも多数の反射素子と保持体層」「からなる再帰反射シート」である点で共通する。 (イ)印刷層 甲2発明Aの「反射板」の「視認面には、「Raster」の多数の白い点が印刷され」ている。 上記構成からみて、甲2発明Aの「反射板」と本件特許発明1の「再帰反射シート」は、「印刷層が」「設置されており」及び「印刷された」という構成を有する点において共通する。 イ 一致点及び相違点 (ア)一致点 本件特許発明1と甲2発明Aは、次の構成で一致する。 「 少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる再帰反射シートにおいて、印刷層が設置されている、印刷された再帰反射シート。」 (イ)相違点 本件特許発明1と甲2発明Aは、以下の点で相違する。 (相違点2A-1) 「再帰反射シート」が、本件特許発明1は、「少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる」とともに、「表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置され」たものであるのに対し、甲2発明Aは、「(メタ)アクリル樹脂を用い」た「表面保護層」及び上記下線部の位置関係を具備していない点。 (相違点2A-2) 「反射素子層」が、本件特許発明1は、「ポリカーボネート樹脂を用い」たものであるのに対して、甲2発明Aは、材料が特定されていない点。 (相違点2A-3) 「印刷層」が、本件特許発明1は、「印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であ」るのに対して、甲2発明Aは、「記号を含まない反射面を、日中、白く不透明に見せるため、反射板の視認面には、「Raster」の多数の白い点が印刷され、「Raster」は、反射光が所定の割合で透過するように作成され」ている点。 (相違点2A-4) 「印刷層」の材料が、本件特許発明1は、「白色の無機顔料として酸化チタンを含有する」という構成を具備するのに対して、甲2発明Aは、材料が特定されていない点。 ウ 判断 (ア)一次審決の概要 一次審決は、(相違点2A-1)及び(相違点2A-3)について、概略、以下のとおり判断した。 a 相違点2A-1について 甲2発明Aは、「車両ナンバープレートとして使用される反射板」であるところ、その「視認面」に「印刷され」た「多数の白い点」が保護されるべきことは自明であるから、耐候性、透明性や光沢等に優れた(メタ)アクリル樹脂を用いた保護層によって、その表面が保護されることが適当である。具体的には、当業者ならば、(メタ)アクリル樹脂を用いた透明フィルムや、(メタ)アクリル樹脂を用いたハードコート層により、「多数の白い点が印刷」された「視認面」の上層に、その表面を保護する保護層が設置された態様を採用することができる。 そして、このようにしてなるものは、相違点2A-1に係る本件特許発明1の構成を具備したものとなる。 b 相違点2A-3について 甲2発明Aの「多数の白い点」は、「記号を含まない反射面を、日中、白く不透明に見せ」かつ「反射光が所定の割合で透過するように」されたものであり、また、「多数の白い点」と表現されるものであるから、網の目形状に印刷されたものであると理解される。 そうしてみると、相違点2A-3のうち、「印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず」という構成については、相違点ではないか、仮にそうでないとしても、当業者における一選択肢にすぎない。 また、「多数の白い点」の各「点」(網の目)の大きさ(面積)についての判断は、相違点1-4についての判断(上記1(6)ウ(ア)b)と同様である。 (イ)確定判決の判示事項 上記(ア)に対して、確定判決は、甲2発明Aの認定、甲2発明Aと本件特許発明との一致点及び相違点の認定について誤りはないと判断した。(判決書95頁18~20行) その上で、当該相違点を前提とした本件特許発明1及び2の容易想到性の判断の誤り、とりわけ、甲2発明Aとの相違点のうち相違点2A-1及び相違点2A-3について、概略、以下aに示すとおり説示して、「本件特許発明1及び2は、甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない」と、判断した一次審決は誤りである旨判示した。 (当合議体注:確定判決の判決書95頁23行、96頁3行等の「2A-4」は「2A-3」の誤記である。) a 上記1(6)ウ(イ)と同様の理由により、相違点2A-1と2A-3は1つの相違点として検討されるべきである。(判決書95頁21行~96頁4行) そして、甲2発明Aは、屋外で利用することが想定される車両ナンバープレートであり、その構成は、逆さにした三角錐の形状を有した三角プリズム、反射板14、反射板14の視認面上の記号18、反射板14の視認面上に「Raster」の多数の白い点が印刷された構成から成るものであり、この「Raster」の白い点の上層に表面保護層を設けることについて、甲2には記載も示唆もない。 そうすると、甲2発明Aの「Raster」は、表面保護層がない状態で屋外使用したとしても、耐候性を備えることがその前提となっているといえるから、甲2発明Aの「Raster」の白い点が印刷された部分にさらに表面保護層を備える構成とする動機付けがあるとはいえず、甲2発明Aに接した当業者は、「保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置され」た、相違点2A-1の構成に想到し得ない。(判決書96頁5~15行) (ウ)当審の判断 行政事件訴訟法33条1項の規定により、特許無効審判事件の審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、当該確定判決は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって当審を拘束する。 そこで、まず、甲2発明Aを主引用発明とした場合の判断を示す。 (当合議体注:甲2発明Bを主引用発明とした場合の判断は、後記(6)に示す。) 甲2発明Aの前提構成(上記(イ)の下線部参照。)に照らせば、甲2発明Aにおいて、あえて「Raster」の白い点が印刷された部分にさらに表面保護層を備える構成、すなわち、相違点2A-1における「表面保護層」を設けるような構成を当業者が採用する動機付けは見出せない。 したがって、甲2発明Aにおいて、当業者が相違点2A-1に係る本件特許発明1の構成全体に容易に想到し得たということはできない。 (エ)小括 以上によれば、本件特許発明1は、甲2発明Aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 (5) 本件特許発明2について ア 相違点 本件特許発明1の場合と同様にして、本件特許発明2と甲2発明Aを対比すると、両者は、前記2(4)イ(イ)に示した(相違点2A-1)~(相違点2A-3)及び次の点で相違する。 (相違点2A-4’) 「印刷層」の材料が、本件特許発明2は、「白色の酸化チタンを含有する」と特定され、また、厚みが「0.5~10μm」と特定されているのに対して、甲2発明Aは、材料及び厚みが特定されていない点。 イ 判断 確定判決は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって、当審を拘束する(行政事件訴訟法33条1項)ところ、上記(4)に示したように、相違点2A-1に係る構成に当業者が容易に想到し得たとはいえない以上、同様の理由により、本件特許発明2は、甲2発明Aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 (6) 甲2発明Bを主引用発明とした場合の判断 ア 相違点 甲2発明Aの場合と同様にして、本件特許発明1と甲2発明Bを対比すると、甲2発明Bの「プラスチック板」、「透明な箔」、「印刷」及び「反射板」は、それぞれ本件特許発明1の「反射素子層」、「表面保護層」、「印刷層」及び「再帰反射シート」に相当する。 そうしてみると、両者は、以下の点において相違する。 (相違点2B-1) 「表面保護層」が、本件特許発明1は、「(メタ)アクリル樹脂を用い」たものであるのに対して、甲2発明Bは、材料が特定されていない点。 また、「再帰反射シート」が、本件特許発明1は、「保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置され」たものであるのに対し、甲2発明Bは、上記下線を付した位置関係が、一応、明らかではない点。 (相違点2B-2) 「反射素子層」が、本件特許発明1は、「ポリカーボネート樹脂を用い」たものであるのに対して、甲2発明Bは、材料が特定されていない点。 (相違点2B-3) 「印刷層の印刷領域」が、本件特許発明1は、「独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であ」るのに対して、甲2発明Bは、このような構成になっているか、明らかではない点。 (相違点2B-4) 「印刷層」の材料が、本件特許発明1は、「白色の無機顔料として酸化チタンを含有する」という構成を具備するのに対して、甲2発明Bは、材料が特定されていない点。 イ 判断 (ア)一次審決の概要 一次審決は、(相違点2B-3)について、概略、以下のとおり判断した。 「印刷された透明な箔」を具体化する当業者ならば、甲2の7頁1~4行に記載された「多数の白い点」を参考にすると考えられる。 そして、「多数の白い点」の模様及び各「点」(網の目)の大きさ(面積)についての判断は、相違点1-4についての判断(前記1(6)ウ(ア)b)と同様である。 (イ)確定判決の判示事項 上記(ア)に対して、確定判決は、甲2発明Bの認定、甲2発明Bと本件特許発明との一致点及び相違点の認定について誤りはないと判断した。(判決書101頁12~14行) その上で、当該相違点を前提とした本件特許発明1及び2の容易想到性の判断の誤り、とりわけ、甲2発明Bとの相違点のうち相違点2B-3について、概略、以下aに示すとおり説示して、「本件特許発明1及び2は、甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない」と判断した、一次審決は誤りである旨判示した。 a 甲2発明Bの「印刷された透明な箔である着色層」は、反射板の視認面上の着色ラッカー塗装と置き換えられたものである。そして、甲2発明Bの着色層35は、「・・・該箔は、反射体の視認面に接着、又は、例えば反射体の射出成形の際に、成形型に挿入することによって、反射体表面のプラスチック材料と結合する。」が、こうした印刷された透明な箔について、甲2には、「Raster」の多数の白い点とすることは記載も示唆もない。 したがって、甲2に接した当業者は、甲2発明Bの「印刷された箔」を「Raster」の多数の白い点とすることを動機付けられるとはいえない。また、この場合、当業者は、甲2発明Bを独立した印刷領域を有する構成にすることを想到し得ないから、さらに独立した印刷領域の面積について検討することを動機付けられることもない。(判決書101頁18行~102頁3行) (ウ)当審の判断 行政事件訴訟法33条1項の規定により、特許無効審判事件の審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、当該確定判決は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって当審を拘束するところ、上記(イ)に示した判示事項に鑑み、以下では、相違点2B-3について検討する。 甲2発明Bに対応する甲2の記載は、上記(1)セ及びチであって、これらの箇所には、確定判決が指摘するように、甲2発明Bの「印刷された透明な箔」における「印刷」を「Raster」の多数の白い点とすることは記載も示唆もされていない。 加えて、「Raster」の多数の白い点が印刷され」との構成は、甲2発明Aが備える構成であって、甲2発明Bが備える構成ではないところ、これら2つの発明が、甲2においては別発明と位置づけられていることは、甲2の「請求項の範囲」(上記(1)ツ)において、請求項13に係る発明(甲2発明Aに対応)が請求項11に係る発明(甲2発明Bに対応)とが引用関係にないことからみても明らかといえる。 以上を踏まえれば、甲2に特段の記載ないし示唆がない限り、甲2発明Bの「印刷された透明な箔」における「印刷」を、多数の白い点、すなわち、独立した印刷領域を有する構成にすることに当業者が思い至ることはないし、いわんや当該印刷領域の面積を調整しようと動機付けられることもない。 したがって、甲2発明Bにおいて、当業者が相違点2B-3に係る本件特許発明1の構成に想到することが容易であるということはできない。 (エ)本件特許発明2について a 相違点 本件特許発明1の場合と同様にして、本件特許発明2と甲2発明Bを対比すると、両者は、前記アで述べた(相違点2B-1)~(相違点2B-3)及び次の点で相違する。 (相違点2B-4’) 「印刷層」の材料が、本件特許発明2は、「白色の酸化チタンを含有する」と特定され、また、厚みが「0.5~10μm」と特定されているのに対して、甲2発明Bは、材料及び厚みが特定されていない点。 b 判断 本件特許発明2と甲2発明Bとは、少なくとも相違点2B-3で相違するから、判断は本件特許発明1と同様となる。 (オ)小括 以上によれば、本件特許発明1及び2は、甲2発明Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 (7) まとめ 上記(4)~(6)によれば、本件特許発明1及び2は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 3 無効理由3(サポート要件違反)について (1) 本件特許明細書の記載 本件特許明細書には、図面とともに、以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層は、白色の無機顔料として酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。 【請求項2】 少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなり、上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層の厚みは、0.5~10μmであり、該印刷層は、白色の酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は新規な構造の三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートに関する。より詳しくは、該三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートの一部に色調改善用の印刷層を設けたことを特徴とする三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートに関する。 【0002】 詳しくは、本発明は、道路標識、工事標識等の標識類、自動車やオートバイ等の車両のナンバープレート類、衣料、救命具等の安全資材類、看板等のマーキング、可視光、レーザー光あるいは赤外光反射型センサー類の反射板等において有用な三角錐型キューブコーナー再帰反射素子(以下単に、三角錐型反射素子ともいう)によって構成されるキューブコーナー型再帰反射シートに関する。 【背景技術】 【0003】 従来より、入射した光を光源に向かって反射する再帰反射シートはよく知られており、その再帰反射性を利用した該シートは上記のごとき利用分野で広く利用されている。中でも三角錐型反射素子などのキューブコーナー型再帰反射素子の再帰反射原理を利用したキューブコーナー型再帰反射シートや上記反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている三角錐型キューブコーナー再帰反射シート(以下、蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートという)は、従来のマイクロ硝子球を用いた再帰反射シートに比べ光の再帰反射効率が格段に優れており、その優れた再帰反射性能により年々用途が拡大しつつある。 【0004】 しかしながら、蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートは、その再帰反射素子の性質から金属の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有している。 …省略… 【0007】 該三角錐型キューブコーナー再帰反射素子が、共通する一底面(Sx-Sx′)上に突出し、互いに該底面(Sx-Sx′)上の一つの底辺を共有して、相対峙して該底面上に最密充填状に配置されており、該底面(Sx-Sx′)は該三角錐型反射素子が共有する多数の該底辺(x、x、・・・)を包含する共通の一平面であり、相対峙する二つの該三角錐型反射素子は該底面(Sx-Sx′)上の共有する底辺(x、x、・・・)を含む該底面に垂直な平面(Y-Y′、Y-Y′、・・・)に対してそれぞれ実質的に対称となるように向き合った実質的に同一形状の素子対をなしており、該三角錐型反射素子は該共有する底辺(x、x、・・・)を一辺とする実質的に同一の五角形状の傾斜面(c1面、c2面)と、該三角錐型反射素子の頂点(H1、H2)を起点とする前記c1面又はc2面の上部の2辺をそれぞれ一辺とし、該三角錐型反射素子の一つの稜線を共有して、これを一辺とする該c1面又はc2面と実質的に直角に交差する実質的に同一の四角形状の傾斜面(a1面、b1面;a2面、b2面)から成り、該三角錐型反射素子の五角形状の傾斜面(c1面、c2面)の底辺(x、x、・・・)を含む該底面(Sx-Sx′)までの高さ(h′)が該三角錐型反射素子の頂点(H1、H2)から該三角錐型反射素子の他の傾斜面(a1面、b1面;a2面、b2面)の底辺(z、w)を包含する実質的に水平の面(仮想面S-S′)までの高さ(h)よりも実質的に大であることを特徴とする三角錐型キューブコーナー再帰反射シートについては、国際公開WO98/18028号に記載されており、ここでは、この文献の引用をもって、この具体的記述に代える。 【0008】 これら、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや金属蒸着三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの色相を改善するために該再帰反射シートの一部に連続した印刷層を設ける試みもされている。 【0009】 また、再帰反射シートの種類としては、上述の三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの他に封入型再帰反射シートやカプセルレンズ型再帰反射シート等が有り、これらでは、本願と同様の印刷層を設ける試みもされている。 【0010】 ここで、封入型再帰反射シートとは、光透過性支持体層、該透過性支持体層の光入射側と反対側の面に実質的に一層に並ぶようにそのほぼ半球部分を埋設支持されている多数のマイクロガラス球の層、該マイクロガラス球の埋設されていない側のほぼ半球部分の表面に沿って形成されている層であり、且つそのマイクロガラス球と接していない側の表面に該マイクロガラス球の実質的な焦点がくるような厚さを有するように設けられた光透過性の焦点層、並びに該焦点層のマイクロガラス球と接していない側の表面に形成されている光反射性金属膜よりなるものをいい、必要に応じて支持体層の光入射側の表面上に、さらに光透過性の表面保護層を積層したものをいう。 【0011】 また、カプセルレンズ型再帰反射シートは、光透過性被覆層、支持体層、該支持体層の該光透過性被覆層に面する側の表面に設けられた、多数のマイクロガラス球が実質的に一層に並ぶようにそのほぼ半球面を埋設支持されており、且つその埋設されている半球面が光反射性金属膜で覆われているレンズ型再帰反射要素の層、並びに、光透過性被覆層と該レンズ型再帰反射要素の間の空気層よりなり、該空気層は該光透過性被覆層と該支持体層の間に間隙を残すようにしてこれら両層を結合部により部分的に連結することにより形成されており、そして該結合部によって多数の密封小区画空室に分割されているものをいう。 【0012】 しかしながら、印刷層は、反射素子とも表面保護層とも密着性がやや劣り、また、その層自体の耐候性が劣り耐候性試験においてフクレを生じたり、また、吸水しやすいという欠点を有しており、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに連続した印刷層を設置した場合、該印刷層の周辺の密着性が劣り、耐候性や耐水性が劣るという欠点を有していた。 【0013】 また、該封入型再帰反射シートや該カプセルレンズ型再帰反射シートは、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに比べ元々の再帰反射性能が低く、該印刷層を設置した場合、再帰反射性能を満足できないという欠点を有していた。」 ウ 「【発明が解決しようとする課題】 【0014】 本発明は、これら従来技術の欠点に鑑み、非常に簡単、かつ安価な方法により、色相の改善された再帰反射シートを提供するものである。 【0015】 本発明者等は、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや金属蒸着三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの種々色相について検討した結果、該再帰反射シートの反射素子層または表面保護層に印刷層を設置することで、耐候性、耐水性に優れ、色相の改善された、再帰反射シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0016】 かくして本発明によれば、少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層は、白色の無機顔料として酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シートが提供される。」 エ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0017】 …省略… 【0018】 本発明に用いられる再帰反射シートは、少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートが好ましい。該再帰反射シートであれば、再帰反射性能が特に優れ、印刷層を設置したものも十分な再帰反射性能が得られるのである。 【0019】 本発明に用いられる反射素子と保持体層からなる反射素子層は、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの反射素子層として公知のものを利用することができる。 【0020】 本発明の三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの一例を断面図を参照しながら説明する。 【0021】 (4)は本発明の三角錐型反射素子が最密充填状に配置された反射素子層であり、(3)は該反射素子を保持する保持体層であり、(11)は光の入射方向である。反射素子層(4)および保持体層(3)は一体(5)であるのが普通であるが、別々の層を積層しても良い。本発明における再帰反射シートの使用目的、使用環境に応じて表面保護層(1)、色相を調節する着色のための印刷層(2)、反射素子層(4)の裏面に水分が侵入するのを防止するための封入密封構造を達成するための結合剤層(7)、結合剤層(7)を支持するための支持体層(8)および、該再帰反射シートを他の構造体に貼りつけするために用いる接着剤層(9)と剥離基材層(10)を設けることができる。 【0022】 印刷層(2)は、通常、表面保護層(1)と保持体層(3)の間、あるいは、表面保護層(1)の上や反射素子層(4)の反射面上、または表面保護層上に設置することができ、表面保護層(1)が2層以上の場合には、表面保護層間に設置することもできる。 【0023】 印刷層(2)は通常、グラビア印刷、スクリーン印刷およびインクジェット印刷などの手段により設置することができる。 【0024】 上記反射素子層(4)および保持体層(3)を構成する材料としては、本発明の一つの目的である柔軟性を満足するものであれば特に限定されるものではないが、光学的透明性、均一性のあるものが好ましい。 【0025】 本発明において反射素子層(4)に使用しうる材料の例としては、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのオレフィン樹脂、セルロース系樹脂及びウレタン樹脂などを例示できる。また、耐候性を向上する目的で紫外線吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤などをそれぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。さらに着色剤として各種の有機顔料、無機顔料、蛍光顔料、染料および蛍光染料などを含有させることができる。 【0026】 表面保護層(1)には反射素子層(4)に用いたのと同じ樹脂を用いることができるが、特に耐候性、耐溶剤性、印刷性等に優れた塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂が好ましい。 【0027】 表面保護層(1)にも、耐候性を向上する目的で紫外線吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤などをそれぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。さらに着色剤として各種の有機顔料、無機顔料、蛍光顔料、染料および蛍光染料などを含有させることができる。 【0028】 表面保護層(1)に印刷する場合、印刷特性を良好にするため、表面張力が32ダイン/cm以上となるように調整するのが好ましい。 【0029】 本発明の独立した印刷層(2)の印刷領域は、独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、好ましくは0.2mm2~25mm2であり、さらに好ましくは0.4mm2~15mm2である。 【0030】 該独立印刷領域の面積が0.15mm2以上であれば、成形性に優れ、且つ色相の調整が容易であるので好ましく、30mm2以下であれば、印刷周囲における印刷層(2)を挟む2層の層間密着強度を低下させることがないので好ましい。 【0031】 該印刷層(2)の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5~10μm、さらに好ましくは1~5μm、さらにより好ましくは、2~4μmである。 【0032】 該印刷層(2)の厚みが0.5μm以上であれば、成形性に優れ、且つ色相の調整が容易であるので好ましく、10μm以下であれば、印刷周囲における印刷層(2)を挟む2層の層間密着強度を低下させることがないので好ましい。 【0033】 該印刷層(2)用インキは、樹脂成分及び着色剤の他に、必要に応じて、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、架橋剤等の各種添加剤を配合しても良く、粘度調整等のために溶剤を配合しても良い。 【0034】 該インキに用いられる樹脂成分としては、特に限定されるものではないが、着色剤の分散性とその安定性、溶剤に対する溶解性、耐候性、印刷適性、フィルムとの密着性等の優れるメラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂などが好ましく、これらを単独または、2種以上組み合わせて共重合したものを使用できる。 【0035】 本発明の好ましい態様である、表面保護層(1)が塩化ビニル樹脂又は、(メタ)アクリル樹脂の場合、該インキに用いられる樹脂成分は、上述の中でも、アクリル樹脂、ビニル樹脂を単独又は共重合したものが好ましい。 【0036】 本発明に用いられる着色剤は、特に限定されるものではないが、色相を明るくすることができ、且つ、隠蔽性が得られるものが良く、シートの色相に合わせた明色系の色が好ましく、例えば、白色の有機顔料や白色や黄色の無機顔料、並びに蛍光染料や蛍光増白剤を挙げることができ、中でも、隠蔽性がより優れる白色や黄色の無機顔料が好ましい。 …省略… 【0038】 本発明に用いられる上記の無機顔料としては、例えば、白色として酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛等を挙げることができ、黄色としては、チタンイエロー、黄色酸化鉄等を挙げることができ、これらを単独又は併用して用いることができ、前述の有機顔料とも併用することができる。 【0039】 反射素子層(4)は内部全反射条件を満足する臨界角度を大きくする目的で三角錐型キューブコーナー再帰反射素子背面に空気層(6)を設置するのが一般的である。使用条件下において水分の侵入による臨界角の低下などの不具合を防止するために反射素子層(4)と支持体層(8)とは結合剤層(7)によって密封封入されるのが好ましい。」 オ 「【実施例】 【0050】 以下、実施例により、本発明の詳細を更に具体的に説明するが、本発明は実施例にのみに限定されるものではないことはいうまでもない。 【0051】 実施例をはじめ本明細書及び特許請求の範囲に記載の数値は以下で述べる方法で測定されたものである。 【0052】 (1)再帰反射性能 再帰反射性能測定器として、アドバンスト・レトロ・テクノロジー社製「モデル920」を用い100mm*100mmの再帰反射シートの再帰反射性能をJISZ-9117に準じて、観測角0.2度、入射角5度により適宜の5点について測定し、その平均値をもって再帰反射シートの再帰反射性能とした。 【0053】 (2)色相(明るさ) 色相測定器として、日本電色(株)製「SE-2000」を用い直径50mmの円の再帰反射シートの色相をJIS Z-9117に準じて適宜の5点について測定し、XYZ表色系で表し、Y値の平均値をもって再帰反射シートの色相(明るさ)とした。 【0054】 (3)W-O-M耐候性 耐候性試験機として、アトラスエレクトリックデバイスCXW-B-812501500を用いて、暴露時間を3000時間とした以外は、JIS Z-9117に準じて、耐候性試験を行った。 【0055】 以上の結果は、まとめて表1に示した。 【0056】 実施例1 …省略… 【0060】 〈印刷用インキの作成〉 下記のインキ配合をビーズミル中で5時間攪拌混合して、固形分19%の白色インキを作成した。この時に使用したバインダーは、ブチルアクリレートアクリル酸、および酢酸ビニルをそれぞれ99重量部、99重量部、99重量部配合し、溶剤をトルエン及び酢酸エチル1:1の混合溶剤とし、開始剤としてベンゾイルパーオキサイドを用いて数平均分子量が99万、固形分が50重量%となるように重合されたものを用いた。 (当合議体注:「ブチルアクリレートアクリル酸」は、「ブチルアクリレート、アクリル酸」の誤記である。) 【0061】 インキバインダー 100 重量部 エポキシ化大豆油 0.5 重量部 酸化チタン 1.5 重量部 沈降性硫酸バリウム 1 重量部 消泡剤 0.1 重量部 メチルエチルケトン 80 重量部 トルエン 50 重量部 酢酸エチル 45 重量部 【0062】 〈印刷フイルムの作成〉 厚さ70μmのアクリル樹脂フィルム(三菱レーヨン株式会社製「サンデュレンLHB」)に前記印刷インキを用いて、直径2mmの円形状の印刷パターンでピッチが4mmの図4に示すような千鳥状にグラビア印刷を行った。この際の印刷厚みは約2μmであった。 【0063】 さらに、この印刷アクリルフィルムを印刷面を内側に向けるようにして、厚さ200μmのポリカーボネート樹脂シート(三菱エンジニアリングプラスティックス株式会社製「ユーピロンシート H3000」)に一対のラミネートロールを用いて温度条件200℃、加圧力30Kg/mの条件で熱圧着して印刷積層シートを得た。 【0064】 〈印刷反射シートの作成〉 前記の成型用金型を用いて、上記の印刷積層シートを成形温度200℃、成形圧力50Kg/mの条件で圧縮成型した後に、加圧下で30℃まで冷却してから樹脂シートを取り出して、表面に支持体層の厚さが約170μmのキューブコーナーを最密充填状に配置した印刷された三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートの中間製品(以下、単に中間製品という、図示しない)を作成した。 【0065】 さらに、該中間製品を、50μmの白色ポリエチレンテレフタレートフィルム上に38μmの厚さで積層された熱可塑性ポリエステル樹脂シートを用いて、凸型状のハニカム形状をした密封封入用金型を用いて、密封封入構造に形成した。 【0066】 さらに、厚さ60μmのアクリル感圧型粘着剤(日本カーバイド工業株式会社製 ニッセツKP1818)と厚さ100μmのポリプロピレン製剥離シート(大倉工業社製)を積層して図1に示されるような印刷された三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートを作成した。 【0067】 実施例2 【0068】 実施例1で作成した中間製品を真空度が9*10-4mmHgに維持できる真空容器中に設置された黒鉛坩堝中で電熱ヒーターでアルミニウムを溶融させることが可能な加熱装置よりなる真空蒸着装置に設置した。黒鉛坩堝中には純度が99.99%以上の純アルミニウムペレットと粒状の金属チタンが重量比100:1の割合になるように投入され、交流電圧3500V、電流が115~120A、バッチ処理時間が5分の条件で真空蒸着処理され、蒸気化されたアルミニウム原子がキューブコーナー型反射素子の三つの傾斜面を鏡面反射層として蒸着処理した。この時のアルミニウム蒸着膜の厚さは1100オングストロームであった。 【0069】 この蒸着処理プリズム原反シートの蒸着面に、実施例1と同様に粘着剤層と剥離シートを積層して印刷された蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートを作成した。 …省略… 【0075】 比較例1 【0076】 印刷の図柄を図6に示されるような模様にした以外は全て実施例1と同様にして印刷された三角錐型キューブコーナー再帰反射シートを作成した。 【0077】 比較例2 【0078】 印刷の図柄を図6に示されるような模様にした以外は全て実施例2と同様にして印刷された三角錐型キューブコーナー再帰反射シートを作成した。 【0079】 【表1】 【図面の簡単な説明】 【0080】 …省略… 【図4】本発明に用いられる印刷層の印刷模様の一例の平面図である。 【図5】本発明に用いられる印刷層の印刷模様の一例の平面図である。 【図6】従来よりある印刷層の印刷模様の一例の平面図である。」 カ 図4 「 」 キ 図5 「 」 ク 図6 「 」 (2) 本件特許発明の課題 前記(1)によれば、[A]蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートは、その再帰反射素子の性質から金属の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有していること(【0004】)、[B]三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや金属蒸着三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの色相を改善するために該再帰反射シートの一部に連続した印刷層を設ける試みもされていること(【0008】)、[C]しかしながら、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに連続した印刷層を設置した場合、該印刷層の周辺の密着性が劣り、耐候性や耐水性が劣るという欠点を有していたこと(【0012】)から、[D]本発明は、これら従来技術の欠点に鑑み、非常に簡単、かつ安価な方法により、色相の改善された再帰反射シートを提供するものであり(【0014】)、[E]三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや金属蒸着三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの種々色相について検討した結果、該再帰反射シートの反射素子層または表面保護層に印刷層を設置することで、耐候性、耐水性に優れ、色相の改善された、再帰反射シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至ったこと(【0015】)が理解される。 以上勘案すると、本件特許発明の課題は、「色相を改善するために印刷層を設けた場合における耐候性及び耐水性に劣るという従来技術における欠点を非常に簡単で安価な方法で解決し、色相の改善された再帰反射シートを提供すること」にあると理解される。 (3) 判断 ア 一次審決について 一次審決は、無効理由3(サポート要件)について、概略、以下のとおり判断した。 本件特許明細書の記載(特に【0004】、【0008】、【0012】、【0014】及び【0015】)によれば、本件特許発明の課題は、「耐侯性及び耐水性に優れ、かつ、色相の改善された再帰反射シートを得ること」にあると理解される。 しかるところ、本件特許発明の「特許請求の範囲」には、「保持体層」、「表面保護層」及び「印刷層」の積層構造について、「保持体層と表面保護層との間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており」とのみ記載され、「保持体層」と「表面保護層」とが接しているか否かを特定する記載はないから、本件特許発明の「再帰反射シート」は、「保持体層」と「表面保護層」が接着しており、かつ、接着の幅(一つ一つの印刷領域の間隔)が層間密着強度が低下しない程度であるという構成を欠いた態様を含むのであって、このような「再帰反射シート」が、本件特許明細書の【0054】に記載された耐候性試験において「異常なし」という評価結果が得られる(本件特許発明の上記課題が解決できる)ことを、本件特許明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識から当業者が認識することはできない。 したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさない、と判断した。 上記判断にあたり、一次審決は、本件特許明細書における、「独立印刷領域の面積」及び「印刷層(2)の厚み」と、印刷層(2)を挟む2層(「保持体層」及び「表面保護層」)の層間密着強度との関係に関する記載(【0030】~【0032】)や、耐候性及び耐水性の評価結果が良好であることが確認された実施例1及び2に関する記載(【0063】、【0072】~【0074】、【0079】【表1】)によれば、上記実施例においては、一つ一つの印刷領域が、領域として独立しているのみならず、2mm以上離れているから、水密が保たれていると理解できるものの、特許請求の範囲の記載からみて、本件特許発明は上記下線部の態様を含むことから、上記判断に至ったものである。 イ 確定判決の判示事項 上記アに対して、確定判決は、無効理由3(サポート要件)について、概略、次のとおり説示して、一次審決は誤りである旨判示した。 (ア)本件特許発明は、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シート等で色相を改善するために印刷層を設けた場合における耐侯性や耐水性に劣るという従来技術における欠点を非常に簡単で安価な方法で解決し、色相の改善された再帰反射シートを提供する(本件特許発明の課題)ものであると認められる。(判決書105頁15~19行) (イ)そこで、[A]本件特許発明が、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、[B]発明の詳細な説明の記載又は本件出願時の技術常識に照らして、当業者が本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえるかについて、検討する。 a [A]についての検討(判決書105~107頁、「(3)ア」) 本件特許明細書の【0018】~【0019】、【0021】~【0022】、【0025】~【0026】、【0029】~【0032】及び【0036】の記載によれば、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 b [B]についての検討(判決書107~109頁、「(3)イ」) 本件特許明細書には、本件発明の実施例として、実施例1(直径2mmの円形状でピッチが4mmの印刷)、実施例2(実施例1を蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シート)、実施例3(直径1mmの円形状の印刷パターンでピッチが3mmに示されたような千鳥状にグラビア印刷をポリカーボネート面に行い、実施例1と同じ条件で圧縮成形し、密封封入構造と粘着剤層を設置した蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シート(印刷厚みは約2μm)。【0070】ないし【0074】)と、比較例1(印刷の図柄を図6・・・の模様とした以外は実施例1に同じ。)、比較例2(印刷の図柄を図6の模様とした以外は実施例2に同じ。)とを対比した実験結果が開示されている(表1(後掲))。 【図1】 【図4】 【図6】 【表1】 実施例1ないし3は、図1で示される積層構造も踏まえると、「反射素子と保持体層からなる反射素子層」と、「反射素子層の上層に設置された表面保護層から」なり、保持体層と表面保護層の間に印刷層が設置されており」、また、図4は(図6と異なり)千鳥状に印刷領域が配置されているから、「印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されて」、「連続層は形成」しないものであり、独立印刷領域の面積が実施例1、2は1mm2、実施例3は0.25mm2であり、印刷層は、酸化チタン等の顔料で印刷(【0061】)された、厚さ2μmの再帰反射シートであるところ、これらは再帰反射性及び耐候性試験後の外観に異常はなかったのに対し、比較例(独立した印刷領域を設けない図6の模様)では印刷部のフクレが生じたことが開示されている。 上記(イ)aで示した本件特許明細書の各段落の記載と上記比較実験の結果を踏まえると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明の発明特定事項を備える再帰反射シートは、上記(ア)の課題を解決することができるものと認識できる範囲のものであるといえる。 (ウ)上記(イ)のとおり本件特許発明は、屋外での使用が当然想定されているといえ、また、再帰反射シートにおいて一定の耐侯性が要求されること自体は技術常識であるといえる。そして、本件明細書では、従来技術の再帰反射シートは、色相を改善するために再帰反射シートの一部に連続した印刷層を設ける試みもされているが、印刷層は、表面保護層と密着性がやや劣り、耐侯性試験においてフクレが生じたり、吸水しやすいという欠点があった(【0008】、【0009】、【0012】)と記載されている。このような事情に照らせば、本件特許発明の「特許請求の範囲」につき、保持体層と表面保護層とが接しているか否かを特定する記載がないから、保持体層と表面保護層が密着性が保たれている幅で接着している構成を欠くものと解するのは不当であり、むしろ、密着性があることは当然の前提とされているものと解すべきである。 したがって、本件特許発明がサポート要件を満たさない旨の一次審決の判断は、判断の前提を誤解するものであり、誤りである。(判決書109頁19行~111頁5行、「(3)ウ」) ウ 当審の判断 行政事件訴訟法33条1項の規定により、確定判決は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって当審を拘束するところ、当該事実認定及び法律判断は、前記イに示したとおりである。 したがって、当審は、本件特許の請求項1~2に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであると、判断する。 (4) まとめ 上記(3)によれば、本件特許の請求項1~2に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。 第8 令和2年11月27日付け審決の予告において採用しなかった無効理由について 1 無効理由2(甲2を主引用例とした場合の進歩性)について 特許無効審判請求人は、無効審判請求書(20頁9~12行)において、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているとし、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張しているので、以下、検討する。 (甲2発明) 「視認面は平滑であり、裏面には、光学的精度で成形されたコーナーキューブ等の後方反射要素を有した反射板と、反射板の視認面を覆う層からなる車両用ナンバープレートであって、視認面を昼間に白色不透明に見せるために、反射板の視認面に多数の白色のラスター状に印刷された、プラスチック製の車両用ナンバープレート。」 当審は、以下のとおり、甲2には、甲2発明が記載されているとは認められないと判断する。 (1) 甲2の記載に基づいた判断 審判請求書の記載(18頁24~35行、20頁2~8行、22頁1~10行)によれば、請求人は、甲2における「車両用ナンバープレートの例では、その打ち出されていない視認面を昼間に白色不透明に見せるために、反射板の視認面に多数の白色点をラスター状に印刷することができる・・・本発明の別の特徴によれば、シンボルを反射板の残りの視認面から色的に区別できるようにするために、面の1つに、反射光に相応の色を付与する透明な塗料を被覆することができる。」(7頁1~22行、請求人が主張する日本語訳を摘記した。)との記載によれば、甲2には、反射板の視認面に白色点が印刷された構成に、さらに別の特徴(透明な塗料を被覆する構成)を付加したものも記載されている、と主張する。 しかしながら、上記「透明な塗料を被覆する」という構成を有する態様は、上記「反射板の視認面に多数の白色点をラスター状に印刷することができる」という構成を有する態様との関係においては、「本発明の別の特徴」として開示された態様であって、前者の態様の上記構成に加えて、さらに後者の態様の上記構成を備えたものが記載されていると直ちに理解することはできない。そして、このような理解は、甲2において、上記2つの態様が別の発明として開示されていること、すなわち、甲2の請求項の範囲(上記「第7 2(1)ツ」参照。)において、請求項13に係る発明(「印刷された透明な膜が塗着される」という構成を有する発明)が、請求項1~10に係る発明を引用する発明ではあっても、請求項11に係る発明(「編目スクリーンの白い点を多数印刷する」という構成を有する発明)を引用する発明ではないことからみても相当である。 (2) 確定判決の拘束力に基づいた判断 上記(1)の判断は、確定判決の拘束力の観点からも正当化される。 すなわち、甲2発明Aは、「反射板の視認面には、「Raster」の多数の白い点が印刷され」た発明であるところ、確定判決は、「甲2発明Aは、屋外で利用することが想定される車両ナンバープレートであり、その構成は、逆さにした三角錐の形状を有した三角プリズム、反射板14、反射板14の視認面上の記号18、反射板14の視認面上に「Raster」の多数の白い点が印刷された構成から成るものであり、この「Raster」の白い点の上層に表面保護層を設けることについて、甲2には記載も示唆もない。」(上記「第7 2(4)ウ(イ)」)と判断したのであるから、当審が、甲2に基づいて、視認面上に「Raster」の多数の白い点が印刷された発明であって、さらに当該視認面上に「印刷された透明な膜が塗着される」発明を認定することは、確定判決の拘束力に反することになるから許されない。 (3) まとめ 上記(1)~(2)によれば、請求人の上記主張を採用することはできない。 2 無効理由3(サポート要件違反)について 請求人は、審判請求書において、概略、次の点を主張する。 (1) 主張1 「わずか一点の実施例とこれとはかけ離れた比較例の対比のみをもって、どのような形状の独立印刷領域であってもその面積が所定の範囲でありさえすれば、(当合議体注:実施例1及び2と)同様に耐候性試験後の外観に異常が見られないなどと一般化することは、当業者にとってきわめて困難というほかはない。」(審判請求書28頁12~15行、下線は当合議体にて付与した。以下同じ。) (2) 主張2 「本件発明の印刷層には、円形状以外にも様々な形状の独立印刷領域の繰り返しパターンが包含されるところ、発明の詳細な説明及び技術常識に基づけば、本件発明の課題2(当合議体注:連続した印刷層を設置した場合の耐候性及び耐水性が劣るという欠点を解決すること)を解決するためには、面積が所定の範囲である独立印刷領域があるだけでは足りず、独立印刷領域の形状及び間隔も特定される必要があると、当業者は認識する。」(同28頁31行~29頁2行)(当合議体注:上記「課題2」の「2」は、審判請求書においては丸付数字の「2」である。) (3) 主張1及び2についての判断 確定判決は、本件特許明細書の各段落の記載(印刷層の面積、形状及び厚さについての記載を含む。)と、実施例及び比較例による比較実験の結果を十分に踏まえた上で、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明の発明特定事項を備える再帰反射シートは、本件特許発明の課題を解決することができるものと認識できる範囲のものである、と判断した。(上記「第7 3(3)イ 確定判決の判示事項」) ここで、行政事件訴訟法33条1項の規定により、確定判決は、判決主文が導き出されるのに必要な上記判断にわたって当審を拘束するから、請求人の上記主張を採用することはできない。 第9 むすび 以上のとおりであるから、無効理由1~3はいずれも理由がないものであり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1~2についての特許は、無効理由1~3によって無効とすることはできない。 そして、訂正後の本件特許発明1~2は、一次審決における無効理由及び特許無効審判請求人が主張する無効理由によっては、無効とすることはできない。 また、他に本件特許発明1~2に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 審判長 杉山 輝和 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】印刷された再帰反射シート 【技術分野】 【0001】 本発明は新規な構造の三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートに関する。より詳しくは、該三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートの一部に色調改善用の印刷層を設けたことを特徴とする三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートに関する。 【0002】 詳しくは、本発明は、道路標識、工事標識等の標識類、自動車やオートバイ等の車両のナンバープレート類、衣料、救命具等の安全資材類、看板等のマーキング、可視光、レーザー光あるいは赤外光反射型センサー類の反射板等において有用な三角錐型キューブコーナー再帰反射素子(以下単に、三角錐型反射素子ともいう)によって構成されるキューブコーナー型再帰反射シートに関する。 【背景技術】 【0003】 従来より、入射した光を光源に向かって反射する再帰反射シートはよく知られており、その再帰反射性を利用した該シートは上記のごとき利用分野で広く利用されている。中でも三角錐型反射素子などのキューブコーナー型再帰反射素子の再帰反射原理を利用したキューブコーナー型再帰反射シートや上記反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている三角錐型キューブコーナー再帰反射シート(以下、蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートという)は、従来のマイクロ硝子球を用いた再帰反射シートに比べ光の再帰反射効率が格段に優れており、その優れた再帰反射性能により年々用途が拡大しつつある。 【0004】 しかしながら、蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートは、その再帰反射素子の性質から金属の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有している。 【0005】 このような再帰反射シート及びその製造方法は、例えば、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートは、特許文献1等に、例えば蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートは、特許文献2等に記載されており、ここではこれらの文献の引用をもってそれらの具体的記述に代える。 【0006】 該三角錐型キューブコーナー再帰反射素子が、断面が実質的に対称型のV字状の溝が互いに交叉することにより、3つの略直角に交叉する側面(a1面、b1面、c1面;a2面、b2面、c2面;・・・)によって区切られた一対の再帰反射素子であって、共通する一底面(Sx-Sx´)上に突出するように最密充填状に配置されており、該一対の三角錐型再帰反射素子は、互いに向かい合った側面(c1面、c2面)が一つの底辺(x)を共有して対をなしており、該底面(Sx-Sx´)は、該一対の三角錐型再帰反射素子の一方の側面(a1面、a2面)の底辺(z、z)および他方の側面(b1面、b2面)の側面(y、y)を共に包含する共通の一平面であって、該底辺(x)を共有する該一対の三角錐型再帰反射素子は、互いに向かい合った側面(c1面、c2面)が異なる形状を有し、かつ、該底面(Sx-Sx´)からの頂点までの高さが互いに異なることを特徴とする三角錐型キューブコーナー再帰反射シートについては、特願2000-72279号に記載されており、ここでは、この文献の引用をもって、この具体的記述に代える。 【0007】 該三角錐型キューブコーナー再帰反射素子が、共通する一底面(Sx-Sx´)上に突出し、互いに該底面(Sx-Sx´)上の一つの底辺を共有して、相対峙して該底面上に最密充填状に配置されており、該底面(Sx-Sx´)は該三角錐型反射素子が共有する多数の該底辺(x、x、・・・)を包含する共通の一平面であり、相対峙する二つの該三角錐型反射素子は該底面(Sx-Sx´)上の共有する底辺(x、x、・・・)を含む該底面に垂直な平面(Y-Y´、Y-Y´、・・・)に対してそれぞれ実質的に対称となるように向き合った実質的に同一形状の素子対をなしており、該三角錐型反射素子は該共有する底辺(x、x、・・・)を一辺とする実質的に同一の五角形状の傾斜面(c1面、c2面)と、該三角錐型反射素子の頂点(H1、H2)を起点とする前記c1面又はc2面の上部の2辺をそれぞれ一辺とし、該三角錐型反射素子の一つの稜線を共有して、これを一辺とする該c1面又はc2面と実質的に直角に交差する実質的に同一の四角形状の傾斜面(a1面、b1面;a2面、b2面)から成り、該三角錐型反射素子の五角形状の傾斜面(c1面、c2面)の底辺(x、x、・・・)を含む該底面(Sx-Sx´)までの高さ(h´)が該三角錐型反射素子の頂点(H1、H2)から該三角錐型反射素子の他の傾斜面(a1面、b1面;a2面、b2面)の底辺(z、w)を包含する実質的に水平の面(仮想面S-S´)までの高さ(h)よりも実質的に大であることを特徴とする三角錐型キューブコーナー再帰反射シートについては、国際公開WO98/18028号に記載されており、ここでは、この文献の引用をもって、この具体的記述に代える。 【0008】 これら、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや金属蒸着三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの色相を改善するために該再帰反射シートの一部に連続した印刷層を設ける試みもされている。 【0009】 また、再帰反射シートの種類としては、上述の三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの他に封入型再帰反射シートやカプセルレンズ型再帰反射シート等が有り、これらでは、本願と同様の印刷層を設ける試みもされている。 【0010】 ここで、封入型再帰反射シートとは、光透過性支持体層、該透過性支持体層の光入射側と反対側の面に実質的に一層に並ぶようにそのほぼ半球部分を埋設支持されている多数のマイクロガラス球の層、該マイクロガラス球の埋設されていない側のほぼ半球部分の表面に沿って形成されている層であり、且つそのマイクロガラス球と接していない側の表面に該マイクロガラス球の実質的な焦点がくるような厚さを有するように設けられた光透過性の焦点層、並びに該焦点層のマイクロガラス球と接していない側の表面に形成されている光反射性金属膜よりなるものをいい、必要に応じて支持体層の光入射側の表面上に、さらに光透過性の表面保護層を積層したものをいう。 【0011】 また、カプセルレンズ型再帰反射シートは、光透過性被覆層、支持体層、該支持体層の該光透過性被覆層に面する側の表面に設けられた、多数のマイクロガラス球が実質的に一層に並ぶようにそのほぼ半球面を埋設支持されており、且つその埋設されている半球面が光反射性金属膜で覆われているレンズ型再帰反射要素の層、並びに、光透過性被覆層と該レンズ型再帰反射要素の間の空気層よりなり、該空気層は該光透過性被覆層と該支持体層の間に間隙を残すようにしてこれら両層を結合部により部分的に連結することにより形成されており、そして該結合部によって多数の密封小区画空室に分割されているものをいう。 【0012】 しかしながら、印刷層は、反射素子とも表面保護層とも密着性がやや劣り、また、その層自体の耐候性が劣り耐候性試験においてフクレを生じたり、また、吸水しやすいという欠点を有しており、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに連続した印刷層を設置した場合、該印刷層の周辺の密着性が劣り、耐候性や耐水性が劣るという欠点を有していた。 【0013】 また、該封入型再帰反射シートや該カプセルレンズ型再帰反射シートは、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに比べ元々の再帰反射性能が低く、該印刷層を設置した場合、再帰反射性能を満足できないという欠点を有していた。 【特許文献1】米国特許第3,417,959号明細書 【特許文献2】特開昭49-106839号公報(米国特許第3,712,706号明細書) 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0014】 本発明は、これら従来技術の欠点に鑑み、非常に簡単、かつ安価な方法により、色相の改善された再帰反射シートを提供するものである。 【0015】 本発明者等は、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや金属蒸着三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの種々色相について検討した結果、該再帰反射シートの反射素子層または表面保護層に印刷層を設置することで、耐候性、耐水性に優れ、色相の改善された、再帰反射シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。 【課題を解決するための手段】 【0016】 かくして本発明によれば、少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層は、白色の無機顔料として酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シートが提供される。 【発明を実施するための最良の形態】 【0017】 以下、本発明の印刷された再帰反射シートについて図を参照しつつさらに詳細に説明する。 【0018】 本発明に用いられる再帰反射シートは、少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートが好ましい。該再帰反射シートであれば、再帰反射性能が特に優れ、印刷層を設置したものも十分な再帰反射性能が得られるのである。 【0019】 本発明に用いられる反射素子と保持体層からなる反射素子層は、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの反射素子層として公知のものを利用することができる。 【0020】 本発明の三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの一例を断面図を参照しながら説明する。 【0021】 (4)は本発明の三角錐型反射素子が最密充填状に配置された反射素子層であり、(3)は該反射素子を保持する保持体層であり、(11)は光の入射方向である。反射素子層(4)および保持体層(3)は一体(5)であるのが普通であるが、別々の層を積層しても良い。本発明における再帰反射シートの使用目的、使用環境に応じて表面保護層(1)、色相を調節する着色のための印刷層(2)、反射素子層(4)の裏面に水分が侵入するのを防止するための封入密封構造を達成するための結合剤層(7)、結合剤層(7)を支持するための支持体層(8)および、該再帰反射シートを他の構造体に貼りつけするために用いる接着剤層(9)と剥離基材層(10)を設けることができる。 【0022】 印刷層(2)は、通常、表面保護層(1)と保持体層(3)の間、あるいは、表面保護層(1)の上や反射素子層(4)の反射面上、または表面保護層上に設置することができ、表面保護層(1)が2層以上の場合には、表面保護層間に設置することもできる。 【0023】 印刷層(2)は通常、グラビア印刷、スクリーン印刷およびインクジェット印刷などの手段により設置することができる。 【0024】 上記反射素子層(4)および保持体層(3)を構成する材料としては、本発明の一つの目的である柔軟性を満足するものであれば特に限定されるものではないが、光学的透明性、均一性のあるものが好ましい。 【0025】 本発明において反射素子層(4)に使用しうる材料の例としては、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのオレフィン樹脂、セルロース系樹脂及びウレタン樹脂などを例示できる。また、耐候性を向上する目的で紫外線吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤などをそれぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。さらに着色剤として各種の有機顔料、無機顔料、蛍光顔料、染料および蛍光染料などを含有させることができる。 【0026】 表面保護層(1)には反射素子層(4)に用いたのと同じ樹脂を用いることができるが、特に耐候性、耐溶剤性、印刷性等に優れた塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂が好ましい。 【0027】 表面保護層(1)にも、耐候性を向上する目的で紫外線吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤などをそれぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。さらに着色剤として各種の有機顔料、無機顔料、蛍光顔料、染料および蛍光染料などを含有させることができる。 【0028】 表面保護層(1)に印刷する場合、印刷特性を良好にするため、表面張力が32ダイン/cm以上となるように調整するのが好ましい。 【0029】 本発明の独立した印刷層(2)の印刷領域は、独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、好ましくは0.2mm2~25mm2であり、さらに好ましくは0.4mm2~15mm2である。 【0030】 該独立印刷領域の面積が0.15mm2以上であれば、成形性に優れ、且つ色相の調整が容易であるので好ましく、30mm2以下であれば、印刷周囲における印刷層(2)を挟む2層の層間密着強度を低下させることがないので好ましい。 【0031】 該印刷層(2)の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5~10μm、さらに好ましくは1~5μm、さらにより好ましくは、2~4μmである。 【0032】 該印刷層(2)の厚みが0.5μm以上であれば、成形性に優れ、且つ色相の調整が容易であるので好ましく、10μm以下であれば、印刷周囲における印刷層(2)を挟む2層の層間密着強度を低下させることがないので好ましい。 【0033】 該印刷層(2)用インキは、樹脂成分及び着色剤の他に、必要に応じて、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、架橋剤等の各種添加剤を配合しても良く、粘度調整等のために溶剤を配合しても良い。 【0034】 該インキに用いられる樹脂成分としては、特に限定されるものではないが、着色剤の分散性とその安定性、溶剤に対する溶解性、耐候性、印刷適性、フィルムとの密着性等の優れるメラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂などが好ましく、これらを単独または、2種以上組み合わせて共重合したものを使用できる。 【0035】 本発明の好ましい態様である、表面保護層(1)が塩化ビニル樹脂又は、(メタ)アクリル樹脂の場合、該インキに用いられる樹脂成分は、上述の中でも、アクリル樹脂、ビニル樹脂を単独又は共重合したものが好ましい。 【0036】 本発明に用いられる着色剤は、特に限定されるものではないが、色相を明るくすることができ、且つ、隠蔽性が得られるものが良く、シートの色相に合わせた明色系の色が好ましく、例えば、白色の有機顔料や白色や黄色の無機顔料、並びに蛍光染料や蛍光増白剤を挙げることができ、中でも、隠蔽性がより優れる白色や黄色の無機顔料が好ましい。 【0037】 本発明に用いられる上記の有機顔料としては、例えば、ファストエロー、ジスアゾエロー、パーマネントエロー、リオノールエロー、クロモフタリエロー、イルガジンエロー等を挙げることができ、これらを単独又は併用して用いることができる。 【0038】 本発明に用いられる上記の無機顔料としては、例えば、白色として酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛等を挙げることができ、黄色としては、チタンイエロー、黄色酸化鉄等を挙げることができ、これらを単独又は併用して用いることができ、前述の有機顔料とも併用することができる。 【0039】 反射素子層(4)は内部全反射条件を満足する臨界角度を大きくする目的で三角錐型キューブコーナー再帰反射素子背面に空気層(6)を設置するのが一般的である。使用条件下において水分の侵入による臨界角の低下などの不具合を防止するために反射素子層(4)と支持体層(8)とは結合剤層(7)によって密封封入されるのが好ましい。 【0040】 この密封封入の方法としては、米国特許第3,190,178号、第4,025,159号、実開昭50-28669号公報等に示されている方法が採用できる。 【0041】 結合層(7)に用いる樹脂としては(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂などがあげられ、接合の方法としては公知の熱融着性樹脂接合法、熱硬化性樹脂接合法、紫外線硬化性樹脂接合法、電子線硬化性樹脂接合法などが適宜採用可能である。 【0042】 本発明に用いる結合剤層(7)は支持体層(8)の全面にわたって塗布しうるし、再帰反射素子層(4)との接合部分に印刷法などの方法により選択的に設置することも可能である。 【0043】 支持体層(8)を構成する材料の例としては再帰反射素子層(4)を構成する樹脂や一般のフィルム成形可能な樹脂、繊維、布、ステンレスやアルミニウムなどの金属箔または板をそれぞれ単独又は複合して用いることができる。 【0044】 本発明の再帰反射シートを金属板、木板、ガラス板、プラスチック板、などに貼付するために用いる接着剤層(9)および該接着剤層(9)のための剥離基材層(10)は、適宜、公知のものを選択することができる。接着剤としては、感圧型接着剤、感熱型接着剤、架橋型接着剤などを適宜選択できる。感圧接着剤としてはブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ノニルアクリレートなどアクリル酸エステルをアクリル酸、酢酸ビニルなどと共重合して得られるポリアクリル酸エステル粘着剤やシリコン樹脂系粘着剤、ゴム系粘着剤などを用いることができる。感熱型接着剤としてはアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系樹脂などを用いることができる。 【0045】 次に、本発明の蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの一例を断面図を参照しながら説明する。 【0046】 蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの表面保護層(1)、印刷層(2)、保持体層(3)、反射素子層(4)、(3)と(4)を一体にしたもの(5)、接着剤層(9)および剥離基材層(10)には、前述の三角錐型キューブコーナー再帰反射シートと同じものを用いることができる。 【0047】 蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの反射素子層(4)の素子の表面には金属の鏡面反射層(12)が設置されており、さらに接着剤層(9)が鏡面反射層(12)に直接接触されて積層されている。この態様における蒸着型三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートは鏡面反射原理で再帰反射するために空気層を必要とせず、したがって、結合剤層と支持体層を必要としない。 【0048】 本発明の三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートは、反射素子層(4)の表面上に、真空蒸着、化学メッキ、スパッタリングなどの手段を用いて、アルミニウム、銅、銀、ニッケルなどの金属からなる鏡面反射層(12)を設けることができる。鏡面反射層(12)を設ける方法の内、アルミニウムを用いた真空蒸着法が、蒸着温度を低くすることができるため、蒸着工程における再帰反射素子(4)の熱変形を最小に抑えることができ、また、得られる鏡面反射層(12)の色調も明るくなるので好ましい。 【0049】 上記アルミニウム鏡面反射層(12)連続蒸着処理装置は、真空度が7~9*10-4mmHg程度に維持できる真空容器、その中に設置された基体シート及びその光入射側表面上に積層された表面保護層からなるプリズム原反シートを繰り出す巻き出し装置、蒸着処理されたプリズム原反シートを巻き取る巻き取り装置、並びにそれらの間にあって、黒鉛坩堝中で電熱ヒーターでアルミニウムを溶融させることが可能な加熱装置よりなっている。黒鉛坩堝中には純度が99.99重量%以上の純アルミニウムペレットが投入され、例えば、交流電圧350~360V、電流が115~120A、処理速度が30~70m/分の条件で、溶融され蒸気化されたアルミニウム原子によって再帰反射素子の表面に鏡面反射層(12)を例えば800~2000オングストロームの厚さで蒸着処理することができる。 【実施例】 【0050】 以下、実施例により、本発明の詳細を更に具体的に説明するが、本発明は実施例にのみに限定されるものではないことはいうまでもない。 【0051】 実施例をはじめ本明細書及び特許請求の範囲に記載の数値は以下で述べる方法で測定されたものである。 【0052】 (1)再帰反射性能 再帰反射性能測定器として、アドバンスト・レトロ・テクノロジー社製「モデル920」を用い100mm*100mmの再帰反射シートの再帰反射性能をJIS Z-9117に準じて、観測角0.2度、入射角5度により適宜の5点について測定し、その平均値をもって再帰反射シートの再帰反射性能とした。 【0053】 (2)色相(明るさ) 色相測定器として、日本電色(株)製「SE-2000」を用い直径50mmの円の再帰反射シートの色相をJIS Z-9117に準じて適宜の5点について測定し、XYZ表色系で表し、Y値の平均値をもって再帰反射シートの色相(明るさ)とした。 【0054】 (3)W-O-M耐候性 耐候性試験機として、アトラスエレクトリックデバイスCXW-B-812501500を用いて、暴露時間を3000時間とした以外は、JIS Z-9117に準じて、耐候性試験を行った。 【0055】 以上の結果は、まとめて表1に示した。 【0056】 実施例1 【0057】 〈金型の作成〉 表面を平坦に研削した100mm角の真鍮板の上に、第1方向と第2方向を、先端角度が68.53度のダイヤモンドバイトを用いて、第1方向及び第2方向の繰り返しピッチが210.88μm、溝の深さが100μmであって、第1方向と第2方向との交差角度が58.76度となるように断面形状がV字の平行溝を繰り返しのパターンでフライカッティング法によって切削した。 【0058】 しかる後に、第3方向を、先端角度が71.52度のダイヤモンドバイトを用いて、繰り返しピッチが214.92μm、溝の深さが100μm、第1方向及び第2方向と第3方向との交差角度が60.62度となるようにV字平行溝を切削して、真鍮板上に高さが100μmの凸型状の多数の三角錐型キューブコーナーが最密充填状に配置された母型を形成した。この三角錐型反射素子の光学軸傾斜角は+1度であり、三角錐を構成する三面のプリズム面角はいずれも90度であった。 【0059】 この真鍮製母型を用いて電鋳法により、材質がニッケルであって厚さが1.0mmの形状が反転された凹型状のキューブコーナー成型用金型を作成した。 【0060】 〈印刷用インキの作成〉 下記のインキ配合をビーズミル中で5時間攪拌混合して、固形分19%の白色インキを作成した。この時に使用したバインダーは、ブチルアクリレートアクリル酸、および酢酸ビニルをそれぞれ99重量部、99重量部、99重量部配合し、溶剤をトルエン及び酢酸エチル1:1の混合溶剤とし、開始剤としてベンゾイルパーオキサイドを用いて数平均分子量が99万、固形分が50重量%となるように重合されたものを用いた。 【0061】 インキバインダー 100 重量部 エポキシ化大豆油 0.5 重量部 酸化チタン 1.5 重量部 沈降性硫酸バリウム 1 重量部 消泡剤 0.1 重量部 メチルエチルケトン 80 重量部 トルエン 50 重量部 酢酸エチル 45 重量部 【0062】 〈印刷フイルムの作成〉 厚さ70μmのアクリル樹脂フィルム(三菱レーヨン株式会社製「サンデュレンLHB」)に前記印刷インキを用いて、直径2mmの円形状の印刷パターンでピッチが4mmの図4に示すような千鳥状にグラビア印刷を行った。この際の印刷厚みは約2μmであった。 【0063】 さらに、この印刷アクリルフィルムを印刷面を内側に向けるようにして、厚さ200μmのポリカーボネート樹脂シート(三菱エンジニアリングプラスティックス株式会社製「ユーピロンシート H3000」)に一対のラミネートロールを用いて温度条件200℃、加圧力30Kg/mの条件で熱圧着して印刷積層シートを得た。 【0064】 〈印刷反射シートの作成〉 前記の成型用金型を用いて、上記の印刷積層シートを成形温度200℃、成形圧力50Kg/mの条件で圧縮成型した後に、加圧下で30℃まで冷却してから樹脂シートを取り出して、表面に支持体層の厚さが約170μmのキューブコーナーを最密充填状に配置した印刷された三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートの中間製品(以下、単に中間製品という、図示しない)を作成した。 【0065】 さらに、該中間製品を、50μmの白色ポリエチレンテレフタレートフィルム上に38μmの厚さで積層された熱可塑性ポリエステル樹脂シートを用いて、凸型状のハニカム形状をした密封封入用金型を用いて、密封封入構造に形成した。 【0066】 さらに、厚さ60μmのアクリル感圧型粘着剤(日本カーバイド工業株式会社製 ニッセツKP1818)と厚さ100μmのポリプロピレン製剥離シート(大倉工業社製)を積層して図1に示されるような印刷された三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートを作成した。 【0067】 実施例2 【0068】 実施例1で作成した中間製品を真空度が9*10-4mmHgに維持できる真空容器中に設置された黒鉛坩堝中で電熱ヒーターでアルミニウムを溶融させることが可能な加熱装置よりなる真空蒸着装置に設置した。黒鉛坩堝中には純度が99.99%以上の純アルミニウムペレットと粒状の金属チタンが重量比100:1の割合になるように投入され、交流電圧3500V、電流が115~120A、バッチ処理時間が5分の条件で真空蒸着処理され、蒸気化されたアルミニウム原子がキューブコーナー型反射素子の三つの傾斜面を鏡面反射層として蒸着処理した。この時のアルミニウム蒸着膜の厚さは1100オングストロームであった。 【0069】 この蒸着処理プリズム原反シートの蒸着面に、実施例1と同様に粘着剤層と剥離シートを積層して印刷された蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートを作成した。 【0070】 実施例3 【0071】 厚さ70μmのアクリル樹脂フィルム(三菱レーヨン株式会社製「サンデュレンLHB」)に厚さ200μmのポリカーボネート樹脂シート(三菱エンジニアリングプラスティックス株式会社製「ユーピロンシート H3000」)に一対のラミネートロールを用いて温度条件200℃、加圧力30Kg/mの条件で熱圧着して積層シートを得た。 【0072】 実施例1で作成した前記印刷インキを用いて、直径1mmの円形状の印刷パターンでピッチが3mmの図4に示されたような千鳥状にグラビア印刷をポリカーボネート面に行った。この際の印刷厚みは約2μmであった。 【0073】 この印刷積層シートを印刷面を金型に接するようにして、実施例1と同じ条件で圧縮成形した。 【0074】 さらに実施例1と同じ方法で密封封入構造と粘着剤層を設置してプリズム反射面の一部に白色印刷された蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シートを作成した。 【0075】 比較例1 【0076】 印刷の図柄を図6に示されるような模様にした以外は全て実施例1と同様にして印刷された三角錐型キューブコーナー再帰反射シートを作成した。 【0077】 比較例2 【0078】 印刷の図柄を図6に示されるような模様にした以外は全て実施例2と同様にして印刷された三角錐型キューブコーナー再帰反射シートを作成した。 【0079】 【表1】 【図面の簡単な説明】 【0080】 【図1】本発明の表面保護層に印刷した、印刷された三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートの一例の断面図である。 【図2】本発明の表面保護層に印刷した、印刷された蒸着型三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートの一例の断面図である。 【図3】本発明の反射素子層に印刷した、印刷された蒸着型三角錐型キューブコーナー型再帰反射シートの一例の断面図である。 【図4】本発明に用いられる印刷層の印刷模様の一例の平面図である。 【図5】本発明に用いられる印刷層の印刷模様の一例の平面図である。 【図6】従来よりある印刷層の印刷模様の一例の平面図である。 【図7】本発明で用いられる再帰反射素子の一例の平面図である。 【図8】本発明で用いられる再帰反射素子の一例の側面図である。 【図9】本発明で用いられる再帰反射素子の別の一例の平面図である。 【図10】本発明で用いられる再帰反射素子の別の一例の側面図である。 【符号の説明】 【0081】 1・・・・・表面保護層 2・・・・・印刷層 3・・・・・保持体層 4・・・・・反射素子層 5・・・・・保持体層+反射素子層 6・・・・・空気層 7・・・・・結合材層 8・・・・・支持体層 9・・・・・粘着剤層 10・・・・剥離材層 11・・・・光の入射方向 12・・・・鏡面反射層 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層は、白色の無機顔料として酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。 【請求項2】 少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなり、上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm2~30mm2であり、該印刷層の厚みは、0.5~10μmであり、該印刷層は、白色の酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2023-08-28 |
結審通知日 | 2023-08-31 |
審決日 | 2023-09-29 |
出願番号 | P2007-283059 |
審決分類 |
P
1
123・
537-
YAA
(G02B)
P 1 123・ 855- YAA (G02B) P 1 123・ 854- YAA (G02B) P 1 123・ 853- YAA (G02B) P 1 123・ 121- YAA (G02B) P 1 123・ 851- YAA (G02B) P 1 123・ 857- YAA (G02B) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
杉山 輝和 |
特許庁審判官 |
里村 利光 大▲瀬▼ 裕久 |
登録日 | 2010-03-05 |
登録番号 | 4466883 |
発明の名称 | 印刷された再帰反射シート |
代理人 | 吉村 誠 |
代理人 | 今村 玲英子 |
代理人 | 設樂 隆一 |
代理人 | 松本 孝 |
代理人 | 黒田 健二 |
代理人 | 黒田 健二 |
代理人 | 松本 孝 |
代理人 | 設樂 隆一 |
代理人 | 吉村 誠 |
代理人 | 今村 玲英子 |